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昆虫料理研究家の内山昭一さんに聞く!昆虫食の歴史とこれから

2023.06.28

2022年11月に世界の総人口が80億人を突破したことが、国連「世界人口推計2022年版」で明らかになりました。そればかりか、今後15年ほどで90億人を超えるだろうとも言われており、食料問題に関しては地球規模で真剣に考えていかなければなりません。食料自給率が約4割しかない日本にとっても、重要な検討課題になっていくのではないでしょうか。

現在、各方面から“次世代のたんぱく源”として注目を浴びている昆虫食。皆さんの中には、虫に対する苦手意識がある方もいたり、もしくは郷土料理で●●は食べたことがあるから想像はできるな……と思う方がいたりするかもしれません。そこで昆虫食について、TVやイベントなどでも活躍する昆虫料理研究家の内山昭一さんに「昆虫食っていつから始まったの? 食べても大丈夫なの?」という素朴な疑問から、「人類の未来の救世主になるって本当?」「実際食べるとしたら、どんなふうに?」といった先々の展望まで、詳しく解説していただきます!

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1.人類は700万年前から昆虫を食べ続けてきた

ヒトがサルの祖先と分かれたのが700万年前といわれています。道具を持たない「裸のサル」にとって、量が多くて採りやすい昆虫は格好の食料でした。悠久の昔から食べ継がれてきた昆虫だからこそ、人間の体に優しい食べ物といえるでしょう。

世界を見渡すと20億人が2000種の昆虫を食べています。日本でも大正8年の全国的な調査によると、55種類の昆虫が食べられていました。いまでもイナゴやハチノコなどは佃煮として長野など一部地域で食べられています。イナゴは高タンパク低脂肪なのでダイエット食材としても適しています。味覚センサーで計るとハチノコはウナギに、セミ幼虫はアーモンドに味がよく似ています(図表1)。

 

図表1:ハチノコとセミ幼虫を味覚センサーで計る
図表1:ハチノコとセミ幼虫を味覚センサーで計る(出典:内山昭一『昆虫食入門』平凡社、2012年、139頁)

 

私たちが開催する試食会でも、ウナギのかわりにハチノコを巻いた「う巻き風ハチ巻き卵」(写真1)や、セミ幼虫をチリソースで炒めた「セミチリ」(写真2)は美味しいと好評です。昆虫はヘルシーで美味しい食材として見直されてきています。

 

ウナギのかわりにハチノコを巻いた「う巻き風ハチ巻き卵」
写真1:ウナギのかわりにハチノコを巻いた「う巻き風ハチ巻き卵」

写真2:セミ幼虫をチリソースで炒めた「セミチリ」
写真2:セミ幼虫をチリソースで炒めた「セミチリ」

 

2.昆虫食新時代を招いたFAO報告

地球規模の人口増加や温暖化による異常気象のため食料不足が危惧されるなか、コロナウイルスの世界的な広がりや、ロシアによるウクライナ侵攻が追い打ちをかけています。また、日本の食料自給率は38%ととても低く、食料安全保障は大きな課題となっています。

国連食糧農業機関(FAO)が2013年に出した報告書があります。題して『食用昆虫―食料と飼料の安全保障に向けたこれからの展望』です。報告書から家畜と昆虫のエネルギー効率を比較してみました。コオロギなどの昆虫は、牛に比べてエネルギー効率がはるかに良いことが分かります(図表2)。

 

図表2:昆虫がエネルギー効率のいい食材である理由
図表2:昆虫がエネルギー効率のいい食材である理由

 

報告書が出てから昆虫食ビジネスが世界的な広がりを見せています。なかでもEUは環境負荷の少ない昆虫食品への関心が高いようです。ただ、これまで昆虫を食べたことのないほとんどの日本人にとって、たとえばコオロギは食べて本当に安全なのか不安に思う人が多いでしょう。そこで参考になるのは、EU域内の食品の安全性を検証する専門機関である欧州食品安全機関(EFSA)が2022年、「コオロギは甲殻類(エビ・カニ等)に近い成分を含みアレルギー反応を誘発する可能性以外、ヒトの消費に対して安全である」と結論づけたこと。

それを受けて欧州委員会はコオロギを「新規食品」として正式に認可し、EU内で自由に取引できるようになりました。もちろん、それは食品としての可能性の定義の話であり、「昆虫を食べるか食べないかは消費者の自由な選択に任されており、昆虫は新たなたんぱく源ではなく、昔から世界各地でふつうに食べられてきた食べ物」というのが欧州食品安全機関の基本的な考え方です。「コオロギ生産ガイドライン」もでき、農薬や汚染物質、衛生面でリスクの低い生産が可能になっている側面もあります。ただし、重ねての注意点として、エビやカニでアレルギーを発症する人は食べないほうがいいでしょう。

栄養面を見てみると、昆虫にはタンパク質が家畜とほぼ同等の平均60%(乾燥重量)と多く含まれています。特に昔から食べられているイナゴはタンパク質が76.8%、脂肪が5.5%と、高タンパク・低脂肪の代表選手といえるでしょう(図表3)。必須アミノ酸が基準値100以上だと優れた食品とされていますが、たとえばハチノコで知られるクロスズメバチ幼虫のアミノ酸スコアは100とする報告もあります。イナゴやハチノコも『食品成分表』に載っているれっきとした食品なのです。

 

図表3:家畜と食用昆虫のタンパク質、脂肪などの栄養価
図表3:家畜と食用昆虫のタンパク質、脂肪などの栄養価

 

食用昆虫の脂質にも注目です。必須脂肪酸として何かと話題のオメガ3とオメガ6。オメガ3とオメガ6の摂取比率は1:4がよいとされていますが、現代の肉類の多い食生活ではオメガ6が多くなりやすく、意識的にオメガ3を多く取ることが大事です。ここでイナゴとカイコの出番です。いずれもオメガ3の「α-リノレン酸」を多く含み、魚油に多く含まれる「DHA」と「EPA」も体内で合成されます。また、ビタミンB群を多く含み、ミネラルも豊富です。
※オメガ3は必須脂肪酸の「DHA」と「EPA」、「α-リノレン酸」の総称で、血液サラサラ効果があり、動脈硬化の予防、中性脂肪値の低下、肥満・メタボ予防が期待されます。
※オメガ6も必須脂肪酸の「リノール酸」「アラキドン酸」の総称です。オメガ3の効果とは反対の血液凝固作用があります。

しかも、昆虫には腸内環境を整える機能のあることが知られています。ビフィズス菌が増えることで、がんなど炎症性腸疾患に関連するタンパク質を減らす効果があります。昆虫の外骨格であるキチン質は食物繊維的な働きがあり便秘解消にも役立ちます。

 

3.女性ならではの昆虫料理

私たちは「昆虫料理を食べる会」を定期的に開いていますが、「コオロギパウダーを練り込んだものを食べたので今度は形のあるものを食べてみたい」といって参加する女性がたくさんいらっしゃいます。パウダーの次は食感や味を知りたくなるのだそうです。参加される女性の多くは「昆虫が生きて動いていると触れないけど食材としてなら平気」と言います。確かに生きた魚をさばける人は少ないでしょう。このように食事会に集まる女性にとっては“昆虫食”ではなく“昆虫料理”なのです。ミツバチベビーを入れて焼いたオムレツ(写真3)や、ゾウムシの赤ちゃんが可愛く顔をのぞかせるパン(写真4)など、アイデアあふれる作品が毎回登場します。グルメな彼女たちにとって昆虫は「“体”の栄養+“心”の栄養」なのかもしれません。

 

(写真3)ミツバチの子入りオムレツ
写真3:ミツバチの子入りオムレツ

(写真4)ゾウムシパン
写真4:ゾウムシパン

 

参加者から時々差し入れがあるのですが、先日もイナゴクッキーをいただきました。お父さんが長野から買ってきたイナゴの佃煮を細かく刻んで入れたそうです。千葉にお住まいなので地元産の落花生も刻んで混ぜた郷土愛あふれるサクサク美味しい一品でした。

料理は前頭前野を活性化し脳年齢を若返らせるといいます。昆虫を使った料理はレシピ作りにかなりの想像力が求められ、前頭前野をいっそう鍛えるに違いありません。加えて未知の食べ物を食べる刺激はさらに脳年齢を若返らせることでしょう。

ここまでお読みになっていかがでしたか。私たちが開催する「昆虫を食べる会」にお気軽にご参加ください。「未知のおいしさが詰まった宝石箱」に出会えるかもしれません。

 


内山昭一さん

内山昭一(うちやま しょういち)

1950年長野市生まれ。昆虫料理研究家、NPO法人昆虫食普及ネットワーク理事長、NPO法人食用昆虫科学研究会理事。幼少より昆虫食に親しむ。著書に『新装版 楽しい昆虫料理』(ビジネス社)、『昆虫食入門』(平凡社新書)、『人生が変わる!特選昆虫料理50』[共著:木谷美咲](山と渓谷社)、『昆虫は美味い!』(新潮新書)、『食の常識革命! 昆虫を食べてわかったこと』(サイゾー)。監修に『食べられる虫ハンドブック』(自由国民社)、『世界をすくう虫のすべて』(文研出版)、『めちゃうま!?昆虫食事典』(大泉書店)。好きな(美味しい)昆虫はカミキリムシ、スズメバチ、セミ、モンクロシャチホコ、タイワンタガメ、トノサマバッタ、ほか多数。テレビ、ラジオ、雑誌、新聞、インターネットなどあらゆるメディアで昆虫食の普及・啓蒙に努めている。東京都日野市在住。

主な書著
「昆虫食入門」(平凡社)、「人生が変わる!特選 昆虫料理50」(山と溪谷社)、「昆虫を食べてわかったこと」(サイゾー)、「昆虫は美味い!」(新潮社)、「食べられる虫ハンドブック」(自由国民社)、「ホントに食べる?世界をすくう虫のすべて」(文研出版)、「新装版 楽しい昆虫料理」(ビジネス社)、「めちゃうま!? 昆虫食事典」(大泉書店)

公式HP:公式HP:昆虫食を楽しもう! 内山昭一 Official Website | 昆虫食彩館(http://insectcuisine.jp/)

Twitter:@insectcuisine