SNSで電線への愛を発信し、電線愛好家として注目を集める俳優・石山蓮華さん。小学生のころからテレビや雑誌での仕事をスタートし、現在は俳優業、文筆家として活躍するほか、2022年には日本電線工業会公認・電線アンバサダーに就任。彼女独自の目線で見つめる電線の魅力、そしてそこから見える社会への思いを聞きました。
好きなものに真っすぐ
――――――幼少期からお仕事をされていますが、どのようなきっかけで芸能界へ?
少女漫画雑誌のモデルオーディションに応募をしたのがきっかけです。好きな漫画家さんに会えたらいいなとか、華やかだなという気持ちで。その後、事務所に所属して、俳優業やテレビレポーターなどをしていました。自分の興味のあることに突き進んでいくところがあるので、当時は学校の集団生活に少し馴染めないなと感じていたのですが、仕事が自分にとっては助けになっていましたね。人と感覚が違うことが、仕事では逆におもしろいと思ってもらえて、現場の方たちに受け入れてもらえていました。当時は、学校はつまらない、仕事は楽しい、というおおまかな理解でしたが、今振り返ると、同じ人間でも環境によって心もちは変わるんだなと思います。
――――――そこから俳優業に進まれたんですね。
事務所に入った時に、歌、ダンス、演技のレッスンがあったのですが、歌もダンスも本当にダメで。でもお芝居は、学校の教室ではできないような大胆なことを舞台の上でやると“おもしろい”になったりします。失敗も成功もあるんですけど、演技はすごくのびのびと楽しくて。それで俳優を始めさせてもらいました。
――――――なかでも舞台がお好きだそうですね。舞台のどんなところに魅力を感じていますか。
もともと観劇が好きなんです。舞台は、コミュニケーションの芸術だと思います。例えば、ご飯を食べながらお話しするという普段の行動も、生身の体で舞台上で再現されると、これまで何度も見てきた行為なはずなのに全然違ったように見えるんですよね。始まってから終わるまで、舞台の上だけのキュッとした世界に、時間も温度も空気も世界も感情も、わぁっと広がっているけれど、幕が閉じたらセットをばらして何も残らない。観客も演者も架空の世界に夢中になるのがおもしろいです。人の声や体を通してテキストが再生されることに、魔力があるんじゃないかなと思います。
――――――俳優業と並行して電線愛好家としても活動されていますが、電線も幼少期から好きだったとか。
小学校3年生のころ、東京・赤羽(商店街や飲み屋街があり、昭和の雰囲気を残す町)にあった自営業の父の会社へよく遊びに行っていたんです。昔からレトロな景色が好きで、周辺の住宅街もよく散歩していました。路地に立つ電柱を見ると体感的な近さも感覚的な近さもビビッドに出ていて。昼の電線ってなんとなく生き物っぽくて、すごくエネルギッシュだなぁと感じたんです。当時からうねうねしたものが好きで、血管とか、根っことか、蔦とかにつながるイメージもあって、そこからなんとなく好きになりました。
――――――電線愛好家として活動するまでは、どのように電線愛を深めていったのでしょう。
大学卒業から数年後、当時のマネージャーさんに「なぜ電線が好きなの?」と聞かれたんですが、きちんと言語化して伝えられなかったんです。でも説明すれば伝わるはずだと思って、自分の中でしっくりくる言葉を探しました。そもそも電線の構造も知らなかったので本を買ったり取り寄せたりして書き写して勉強したり、電気設備の展示会で「趣味で電線が好きなんです」と言って、「何だこの人は」思われながらも自作の名刺を渡したり(笑)。そこで出会った方が工場見学をさせてくださったことも。その時々にできることもあれば、わからないこともあったり、伝わらなくて泣いたり…そうやって勉強していくのも楽しかったですし、その過程で少しだけ知識が広がってきたのかなと思います。
――――――「好き」の力ってすごいですね。
確かにそうだなと思います。好きなことを好きなようにやっていたんですけど、そこから本を出したり、インタビューを受ける機会をいただいたりしています。勉強というと大変そうですが、好きだから楽しくできたんですよね。毎日無料で見放題なのに、なんでみんな見ないんだろうって思います(笑)
電線のための電線になる
――――――電線のどこに魅力を感じていますか。
電線は地中化も進んでいますが、まだまだ電柱でつながったものを見ることができます。電線がどの家につながっているのかをたどったり、配線の途中でまとめられた電線もカオスに見えて実は丁寧にまとめられているとか、見ていると飽きません。全国どこに行っても見られますが、電力会社によって少しずつ工法が違うようで、地域ごとの特色にも気づいたりします。散歩に出て気になる電線があったら写真に撮ってみてください。角度を変えるとまた違った表情が楽しめますよ。
石山さんがInstagramにて発信している写真のひとつ
仕事場の劇場の電線もパシャリ。「#いい電線」で発信中
――――――ご自宅に触る用の電線もあるそうですね。
曲げたり、すべすべした被覆を触ったりするのも楽しいですし、切って剥いて、輝く導体を見るのも楽しい(笑)。硬さ、色、材質、銅の純度、配線の様、どれをとっても理由がないものがないんですよ。
――――――工場見学もされていますが、印象に残っていることはありますか。
高所作業車に乗せていただいた時、電柱の上で感じた風の強さが印象的でした。私はアマチュア目線で「わぁ、すごいですね!」って言うけれど、操縦してくださった電気工事士の方にとっては仕事であり、特別なことではないんですよね。技って身体に宿ると思うんです。私にとっては初めてで特別なことも、電線にかかわるお仕事をされる方は、当たり前になるまで突き詰めて、自分自身も作っているんだなということに気付いて。電線を作る人、扱う人、広める人、いろいろな人が仕事を通じて自らを電線とともにつくりあげ、つながっているのがこの社会なんだと実感しました。
――――――そうした石山さんが感じたことを、電線アンバサダーとしても発信されていますね。
電線にかかわるお仕事をされている方々が意識されていない魅力を、よりよく伝えられるようにと思って活動しています。電気関係のお仕事の方からSNSにコメントをいただいたり、トークショーに来ていただいたり、私の活動を楽しんでくださっている方がいることにとてもやりがいを感じます。
最近、“電線にとっての電線になりたい”と思っているんです。私自身が電線のおかげでたくさんの経験をし、世界の見方が変わっていきました。これは電線が“つなぐ”ものだから、次は私が電線アンバサダーというひとつのメディアになって、“電線の魅力を伝える電線”のような存在になっていけたらいいなと思っています。私が発信した言葉や写真で面白さに気づいてくださる方もいる。興味をもってくれた人が増えれば増えるほど、返って来る情報も増えます。私は電線を真下から見るのが好きなんですけど、全く違う目線で電柱の魅力を見つけてくれる方がいると思うので、楽しみです。
――――――著書『電線の恋人』の中で、東日本大震災のあと電線を好きだと公言してよいのか葛藤した時期があると書かれていました。私たちはエネルギー問題とどのように向き合っていくべきだと思いますか?
東日本大震災以降、エネルギーや発電所の問題について活発に議論されるようになりました。被災して地元に帰れない方、懸命に電力会社で働く方などいろいろな立場の方がいます。それぞれ大切な生活があって、 “良く生きたい”という切実な思いがある。では何を変えていけるだろう、何を注視していくべきだろうと考えます。今、一定のルールのなかで原発再稼働が進んでいますが、そのルールはどうして決まったのか、このまま運用されるのかなど、流される情報をそのまま受け取るだけでなく、時に立ち止まって調べてみたり、関心を持ち続けることから逃げないというのが、私自身にまず出来ることなのかなと思っています。
――――――私たちは電気を当たり前のように享受していますが、そこにかかわるいろいろな立場や問題を一人ひとり考える必要があるということですね。
すごく難しい問題ですよね。気になったら周りの人と話すのもいいのかなと思います。最近、友人たちとの会話がアイドルの推しの話から気になる社会問題、生活の話、生活には政治もかかわるよねと話が広がって、さまざまなことがシームレスにつながっているんだなと感じるようになりました。口に出して俎上に載せることで、お互いの違いや共通点に気付けることがあるのかなと思います。
――――――最後に、電線の恋人である石山さんにとって、電気とはなんでしょう?
お世話になっているもの。今日もここに来るまでに電車に乗ったり、スマホで地図を検索したり。今日が普通に過ごせていることがありがたいです。日常生活に溶け込んだインフラには、普段気づかないところで助けられているんだなと感じています。
石山蓮華
いしやま・れんげ。俳優、文筆家、電線愛好家、日本電線工業会電線アンバサダー。舞台、映画、CMなどで活躍するほか、4月よりTBSラジオ「こねくと」パーソナリティーに。電線愛好家としては、テレビなどメディアに登場するほか、プロデュース・出演するオリジナルDVD『石山蓮華の電線礼讃』を発表、著書に『電線の恋人』(平凡社)、『犬もどき読書日記』(晶文社)。
Twitter @rengege
Instagram @renge_ge
CONCENTでも石山さんが電線案内!
「街中の頭上はこんなに面白い!電線愛好家・石山蓮華の“レア電線探し”」
https://www.concent-f.jp/energy/column_12
インタビュー:Concent編集部