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人気お天気キャスターの蓬莱大介さんが伝えたい気候変動とエネルギーの未来

2024.02.26

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気象予報士・防災士 蓬莱大介さん

数々の情報番組で気象キャスターを務める、気象予報士・防災士の蓬莱大介さん。気象予報のわかりやすさはもちろん、親しみやすい語り口と番組司会者との掛け合いで幅広い世代の人気を集めています。気象と常に接し、“伝え方”を追求し続けている蓬莱さんに、これまでの歩みや温暖化による気候変動、日本のエネルギーについてお話を聞きました。

 

コンセプトは「とりあえずやってみる」

――――――まずは気象予報士を志したきっかけを教えてください。

昔から「人前に出て何かを伝える仕事がしたい」と思っていたのですが、10代の頃は自分に何ができるのかもわからず模索していました。高校ではバンドを組み、大学では自ら劇団に応募して俳優にも挑戦しました。興味があることを「とりあえずやってみる」、これが僕の人生のコンセプトなんです。

大学卒業後も就職はせず俳優業を続けていましたが、成功するのは一握りという厳しい世界でうまくはいきませんでした。父親と「30歳までに一人前の仕事に就く」という約束をしていたこともあり、20代半ばを過ぎた頃に他の道を探すことにしました。

そこで僕が出向いたのは本屋。本屋はたくさんの言葉が溢れている場所なので、何かしらのヒントがあると考えたんです。3日間通いつめた結果、資格コーナーの書棚で目に付いたのが「気象予報士」でした。見つけた時、小さい頃は自然や生き物にすごく興味があったことを思い出しました。そして、学校の先生に「蓬莱くんは勉強は苦手だけど、生き物のことをみんなに伝えることは上手だね」と褒められた記憶がよみがえったんです。「もしかしたら自分に向いているかもしれない」と一念発起。そこから2年間猛勉強しました。そして2009年の27歳の時に、念願が叶い気象予報士試験に合格しました。勉強をする中で、天気予報をすることは人の命に関わる仕事だと強く感じ、気象予報士とほぼ同時に防災士の資格も取得しました。

 

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天気を「解説」するのではなく「話す」

――――――気象予報士・気象キャスターのお仕事内容とその魅力を教えてください。

気象予報士は皆、気象庁が発表する天気図や観測データをもとに気象を予測します。「それなら、天気予報はどれも同じじゃない?」と思わるかもしれませんが、気象予報士によって詳細な予報や話す内容は微妙に異なります。例えば、同じ材料を使ったとしても、料理人が変われば味も変わってきますよね?予報が伝わりやすいか伝わりにくいか、料理で言うと食べやすいか食べにくいか。“味付け”の部分が気象予報士によって変わってきます。そこは僕自身も面白いと感じますし、テレビの前の皆さんにも注目してほしいポイントですね。

 

――――――天気予報を伝えるうえで大切にされていることは何でしょうか?

天気を「解説する」よりも、天気を「話す」ことを意識しています。単に「明日は寒いでしょう」「今日は晴れます」と伝えるのではなく、「明日の朝は冷えるので、受験生の方はカイロを持っていったほうがいいですよ」、「明日は晴れるので、洗濯物は安心して外干ししてください。明後日は雨が降りそうなので、明日のうちに片付けておきましょう」というように。見てくれている方々を意識し、生活や行動に結びつけて天気を話す――。これは読売テレビで気象キャスターの仕事を始めた2011年から、今も追求し続けています。

 

――――――蓬莱さんといえばイラストで天気を伝える「スケッチ予報」も人気です。始めたきっかけを教えてください。

僕が子どもの頃、天気予報をちゃんと見たことがありませんでした。しかし、昔に比べて気候はどんどん変わり、夏の暑さは酷く、雨の降り方も激しくなっています。子どもたちが安全に過ごすためにも、天気予報に興味を持ってほしいと考えて始めたのが「スケッチ予報」です。目指しているのは、「おじいちゃん、明日は大雨だから田んぼの用水路を見に行ったら危ないらしいよ」と、子どもから大人に伝えられるくらいのわかりやすさ。子どもの興味を引きそうな小ネタを散りばめるなど、イラストも試行錯誤しています。

天気予報を伝える僕のありたい姿は、大人にとっても子どもにとっても「身近で信頼できる人」。しっかりと信頼関係が築けていれば、災害が予測される “いざ”という時、危機を伝える僕の声は皆さんに届きやすくなるはずです。そのためにも、日頃の天気予報を通じてコミュニケーションを取ることはとても大切だと考えています。

 

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『かんさい情報ネットten.』の本番前に、クレヨンでスケッチ予報のイラストを描く蓬莱さん

 

気候変動に人々の対応が追い付いていない

――――――集中豪雨や台風の襲来など、最近は気象災害による危険が高まっていると感じます。今、地球では何が起こっているのでしょうか。

豪雨や強い台風の発生は昔からありましたが、昨今はその確率が高まっています。原因のひとつとされるのは、地球の温暖化です。近代気象観測において、地球全体の気温は産業革命前よりも明らかに上昇しています。これが意味する所は、人類の活動が気候に影響を及ぼしているということです。

18世紀後半の産業革命以降、石油、石炭、天然ガスを利用した化石燃料を使うことで、私たちの生活はとても便利になりました。一方で、化石燃料を燃やす際に発生する温室効果ガスが大気中に一気に増加しました。この温室効果ガスが地球を覆い、地球の熱を閉じ込めてしまうため、気温がぐんぐん上がり温暖化となっているのです。

今問題なのは、産業革命から現在に至る約170年という短い期間の中で、急激に気温が上がり気候変動が起こっていることです。その結果、海面上昇によってもともと人が住んでいた島が消滅してしまったり、雨の降り方が変わって川の氾濫が起きやすくなったり、猛暑が続き熱中症で亡くなる方も増えています。自然の変化に対する我々人間の対応が追い付いていません。生き物が大量に絶滅するなど、生態系への影響も危惧されています。

 

日本のエネルギー事情を理解することが大切

――――――2023年に第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)が開催されましたが、どんな点に注目されていましたか?

僕がまず注目したのは、COP28で初めて実施された、パリ協定で定めた目標に対する進捗を報告・評価する「グローバル・ストックテイク(GST)」です。これにより、各国の地球温暖化への向き合い方が透明化されるようになりました。今回の評価を受けて、日本を含め各国が今後どう対策を強化していくのか、これからの動きにもとても関心があります。

また、COPの開催にあわせて発信される、温室効果ガスの排出を減らす最新技術についてのニュースにも注目していました。例えば、日本発のペロブスカイト太陽電池。薄くて曲げることもできるため、建物の屋根だけではなく外壁などにも貼り付けて発電できるそうです。その他、電気自動車を数分で充電できる技術、工場から出た温室効果ガスを回収して地中に貯蔵するCCSなど、こうした技術が広まれば社会は変わっていきそうですよね。ペロブスカイト太陽電池をはじめ、“日本の技術力”という面でも非常に期待しています。地球の環境を守りながら、同時に文明を発展させていく時代に入ったのだと、僕は感じています。

 

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――――――日本は2050年にカーボンニュートラルの実現を目指しています。そのためには、今後どのような取り組みが重要になってきますか?

まずは温室効果ガスの排出量が多い、発電、産業、運輸といった業界が今以上に対策を講じることが必要でしょう。加えて、私たちの家庭から排出される温室効果ガスを減らす取り組みも欠かせません。電気をこまめに消すことはエネルギーの無駄を防ぐことにつながりますし、ゴミを減らすことはゴミの焼却炉の稼働を減らすことにつながります。環境に配慮した商品やサービスを選んで購入することでも良いでしょう。日々の生活の中でできることはたくさんあります。「やらなくちゃいけない」ではなく、「やりたいからやっている」というポジティブな感覚が大切だと思います。

一人の行動による影響はたかが知れていると考える人もいるでしょう。しかし、一人の行動は周りの人や次の世代にも必ず伝わっていきます。小さな波が何十年後かの大きな波となって、将来的に社会に大きな影響を及ぼすかもしれません。今はちょうどその過渡期ではないでしょうか。

 

――――――COP28では、化石燃料の取扱いや再生可能エネルギー、原子力発電などのテーマも、盛んに議論されました。日本のエネルギーについては、どのようにお考えですか?

2021年のデータでは、日本が自国でつくったり確保したりできるエネルギーは13.3%しかなく、8割以上を海外から輸入する石炭や石油、天然ガスに頼っているという状況です。そのため、外国で戦争などが起きた際に石油の価格が上がると、ダイレクトに影響を受けてしまう。エネルギー自給率を上げるうえでも、地球環境を考慮するうえでも、温室効果ガスを排出しないエネルギーを増やしていくことは必須だと考えています。

 

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太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーに対する期待が高まる(ikedaphotos / PIXTA)

 

しかし、雨や雪、強風などの天候の状況によっては、たちまちエネルギーがつくれなくなってしまうため、すべてを再生可能エネルギーに頼ることはできません。また原子力については、事故時のリスクもしっかりと考慮しながら、何よりも安全性の確保が大前提だと考えています。

火力、再生可能エネルギー、原子力には、それぞれメリット・デメリットがあるため、国としては、エネルギー源ごとのメリットが最大限に発揮され、デメリットが補完されるよう、「エネルギーミックス」を進めています。電力の安定供給と脱炭素を両立させていくには、この「エネルギーミックス」がとても有効だと思います。

 

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エネルギーの安定供給と脱炭素の両立にむけ、バランスの良い電源構成を目指す(出典:経済産業省資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」の2021年確報値、2030 年度におけるエネルギー需給の見通しを踏まえた電源構成は、資源エネルギー庁のHPより)

 

僕は講演会で各地に伺い皆さんとお話することも多いのですが、日本のエネルギーに関する情報はあまり浸透していない印象を受けています。まずは日本が置かれている状況やエネルギーミックスという考え方を知り、エネルギーのあり方をみんなで考えていくべきではないでしょうか。

 

「サイエンスコミュニケーター」として情報を伝えていく

――――――最後に、蓬莱さんの今後の展望について教えてください。

2023年は、世界そして日本の平均気温が、観測史上最高を記録しました。昔に比べて気候は明らかに変わり、豪雨や夏の猛暑によって命を落とす方も増えています。先ほどお話した通り、気候変動はこれまで人々が温室効果ガスを排出してきたことに起因していて、急に収まることはありません。そしてこの先の数十年は、さらに気候の変化が激しくなると想定されています。自然災害によって身近に迫る危機を、皆さんにどのように伝え、備えを促すことができるか、それが気象予報士の僕に課された役割だと思っています。また防災士としての観点から、危機が迫ってからではなく、平時の備えの大切さもしっかり伝えていきたいです。

これからも気象と防災に精通する「サイエンスコミュニケーター」として、その時の状況に応じてテレビの前の皆さんにわかりやすく情報をお届けしていきます。ぜひ興味を持って見ていただけるとうれしいです。
 


蓬莱 大介

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ほうらい だいすけ。兵庫県明石市出身。早稲田大学政治経済学部卒業。2009年第32回気象予報士試験に合格。2010年より当時読売テレビで気象キャスターをしていた小谷純久氏に師事し、2011年より読売テレビ気象キャスターに就任。担当番組は「情報ライブ ミヤネ屋」「かんさい情報ネットten.」「ウェークアップ!」「そこまで言って委員会」など。全国の講演活動も積極的に行う。著書「空がおしえてくれること」(幻冬舎)、「そらのどうぶつえん」(コミニケ出版)、読売新聞コラム「空を見上げて」など。

オフィシャルサイト: http://hourais-office.co.jp/


企画・編集=Concent 編集委員会


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