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離れて暮らす親に介護が必要になったら?介護作家の工藤広伸さんに聞く、いざというときのために知っておきたいIoT機器を活用する「遠距離介護」

2024.01.30

人口の高齢化や核家族化が進んでいます。いつか訪れるかもしれない家族の「介護」について漠然と不安を持っている方も多いでしょう。今は両親が元気でも、突然の病気や事故で介護が必要となるケースもあります。そんななか、新たなスタイルとして注目を集めているのがIoT機器を活用した「遠距離介護」です。介護作家でブロガーの工藤広伸さんは、東京と実家のある岩手県を行き来しながら介護を行っています。IoT機器を活用することで可能になる遠距離介護について、工藤さんご自身の体験に基づくお話を聞きました。

 

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介護作家でブロガーの工藤広伸さん

 

30代で、まさか親の介護をすることになるなんて!

まだ先のことと思っていても、急に介護が必要となる可能性はあります。私の場合、父親の介護が始まったのは私が34歳のときで、まさに青天の霹靂でした。

当時65歳の父が脳梗塞で倒れた場所は岩手県で、私は東京の会社で働いていました。岩手にUターンするか、このまま東京で仕事を続けるのか、いきなり人生の岐路に立たされてしまったのです。

もしも介護が始まったら、どんな壁にぶつかるのか?また、離れて暮らす親の介護は可能なのかについて、私の実体験を交えてご紹介していきます。

 

若くても他人事ではない親の介護

脳梗塞の後遺症でろれつが回らず、手の震えで字が書けなくなった父を見て、一生近くで介護をしなければならないと思いました。34歳の若さで社会のレールから外れるのはあまりに早すぎる、そんな思いでした。

今なら介護と仕事の両立はできると判断できますが、当時は介護の知識なんてゼロ。同世代の会社の同僚や友人で、介護をしている人はいませんでした。結局、誰にも相談できずに会社を辞めてしまいました。

私の知り合いの女性は、30代のときに祖母の介護に疲弊した母親を助けるために会社を辞めました。このように祖父母の介護をしている親が倒れて、孫である自分に介護が回ってくるケースもあるのです。

20~40代は結婚や出産、キャリアアップなど、重要なライフイベントを経験することが多い世代です。介護はまだ先の話と思うかもしれませんが、少しずつでも介護の知識を習得しておくことをおすすめします。もし家族の介護が必要になったとき、自分の人生を守る備えになると思います。

父は、発症から一年後に回復。私は一年半のブランクを経て、次の会社へ転職できました。

 

Uターンや呼び寄せではなく遠距離介護を選んだ理由

父の回復から5年が経った40歳のとき、今度は岩手で暮らす89歳の祖母が子宮頸がんで倒れ、同時に祖母の介護をしていた69歳の母が認知症と診断されました。さすがに二人の介護をしながら仕事は続けられないと思い、二度目の介護離職をしました。

二人同時に介護するとなったら、多くの人は地元へのUターンを選択すると思います。しかし、私は岩手に帰りたくなかったし、Uターンをすれば妻の仕事にも影響します。さらに母は住み慣れた自宅で生活したいと言い、がんで入院していた祖母を呼び寄せることも不可能でした。介護施設への入所という選択肢もありますが、膨大なお金がかかってしまいます。

家族全員の希望を叶えるためには、私が東京から岩手へ通う遠距離介護をするしかありませんでした。こうして2012年から遠距離介護がスタート。IoT機器やホームヘルパーさんたちの力を借りながら、母は今も自宅で一人暮らしを続けています。

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東京から岩手までは東北新幹線を利用。実家に出向くのは年間で12回ほど

 

24時間の見守りを可能にするネットワークカメラ

遠距離介護で最も活用しているIoT機器は、ネットワークカメラ(見守りカメラ)です。認知症の進行とともに台数が増えていき、今では5台のカメラが稼働。岩手の実家で暮らす母を24時間見守っています。

きちんとご飯を食べているか、お薬を飲んでいるかなど、日常生活の見守りはもちろん、緊急時には特に重宝しています。

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実家の居間に設置している見守りカメラ

 

2022年3月16日の深夜、福島県沖で震度6強の地震が発生し、東北新幹線の高架橋や電柱などが損傷しました。岩手の母の安否が気になりましたが、ご近所や親族に母の様子を見に行ってほしいと頼める時間帯ではありませんでした。

東京に居た私は、すぐに見守りカメラの映像で岩手の実家の状況を確認。寝室の家具や置物が倒れた形跡もなく、母は布団の中でスヤスヤ眠っていて無事でした。

最近の見守りカメラには、暗い場所も撮影できる暗視撮影や、カメラを使った声掛け、不審者に対してアラームを鳴らすなどの機能がついています。画質も鮮明になり、離れていても母の行動は手に取るようにわかります。

 

多くの家電を遠隔で操作できるスマートリモコン

見守りカメラの次に活用しているIoT機器は、スマートリモコンです。家電を操作する赤外線リモコンの機能をスマートリモコンに集約すると、スマートフォンのアプリ上で家電を操作できるようになります。

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実家の居間に設置しているスマートリモコン。スマホから指示を受けたスマートリモコンがエアコンやテレビに赤外線を飛ばして作動させる

 

例えば、東京にいてもスマホを操作して、岩手の実家にあるエアコンの電源を入れたり、テレビのチャンネルを変えたりすることができます。新しい家電だけでなく、古い家電でもスマートリモコンで遠隔操作をすることができます。

特に夏場の熱中症の予防においては、このスマートリモコンが大活躍しました。認知症で季節感がなく、エアコンを操作できない母のために、エアコンを遠隔で操作して、快適な室温や湿度を保つようにしています。

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認知症でエアコンの操作ができない母のために、「自動運転中」の貼り紙をして遠隔操作

 

東京にいながら、岩手の実家の室温をリアルタイムで把握できますし、例えば、冬場においては、室温が18度以下になったら暖房をつける、22度以上になったらエアコンの電源を切るなどの設定をしておけば、手動での遠隔操作は不要になり、節電にもつながります。

スマートリモコンと見守りカメラの併用が役立ったこともあります。以前、母が居間のテレビをつけっぱなしにしたまま寝てしまい、見守りカメラの映像からテレビの音がしていたことがありました。そこで東京にいる私が遠隔操作でテレビの電源を切り、電気の無駄遣いを防ぐことができました。

 

離れて暮らす親の介護を可能にするIoT機器の進化

私は全国の自治体や企業から依頼を受けて講演していますが、首都圏を中心に遠距離介護に関する講演依頼が増えています。核家族世帯が増え、かつ介護が必要な高齢者の数も増加しているので、離れて暮らす親の介護について知りたいニーズが高まっているのでしょう。

親の介護が始まったら、介護施設に預けるしかないと考えている方も少なくありません。しかし、これまでご紹介したIoT機器を活用すれば、住み慣れた自宅で暮らしたいと願う親の気持ちを尊重してあげられるかもしれません。

私の遠距離介護は12年目に入りましたが、この間にIoT機器の種類は大幅に増え、機能はめざましい進化を遂げ、価格も出始めの頃に比べて下がっています。社会的なニーズの拡大からも、介護に活用できるIoT機器はさらに増えていくでしょう。

この先、介護職の人材不足も予想されています。ホームヘルパーなど、介護のプロに頼りたくても頼れない場面が出てくるかもしれません。そんなときは今回ご紹介したIoT機器を使いつつ、頼れるところは人の手も借りながら介護をしていければといいと思います。

これまで介護で活用してきたIoT機器のすべてを、『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』(翔泳社)という本にもまとめています。ぜひこちらも参考にしてみてください。

 

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最近では、電力の消費データを分析して、離れて暮らすご家族の生活を見守るサービスも提供されています。高齢化の加速や労働力不足が懸念されるなか、介護ビジネスのますますの成長が期待されますね。一方、遠隔でのリモコンやカメラ操作には電力が必要ですので、今後もしっかりと電力を安定してお届けしていくことの重要性を再確認しました。 

 


工藤広伸(くどう ひろのぶ)

介護作家・ブロガー。岩手県盛岡市出身、東京都在住。二度の介護離職を経験し、介護作家・ブロガーに転身。2012年から岩手に住む家族の遠距離在宅介護を行う。新聞やWeb連載のほかテレビ・ラジオなどの各メディアに多数出演し、無理のない認知症介護を提唱。『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』(翔泳社)ほか、著書多数。

公式HP:https://40kaigo.net/

 

企画・編集=Concent 編集委員会


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