全国各地にある発電所、その数はなんと5000カ所以上。一口に発電所といっても、実は一つ一つ違った個性があるんです。今回は、2020年3月に開所した「福島水素エネルギー研究フィールド」へ。と言っても、ここは電気をつくる発電所ではなく、電気をつくるために使う水素を生みだすところ。他にも新しくできた道の駅など、浪江町(なみえまち)の新たな名物&名所を巡る旅をお届けします!
浪江町の新名物! 次世代のエネルギー「水素」の研究所
海、山、川に囲まれ、豊かな自然に恵まれた福島県・浪江町。
“浜通り”と呼ばれる県東部の沿岸に位置し、町内にはなんとも懐かしくなるのどかな景色が広がっています。
広い空と地平線まで伸びる田園風景を見ることができる浪江町
浪江町は2011年の東日本大震災で大きな被害を受けた地域の一つです。
2017年に一部エリアで避難指示が解除され、およそ2万1500人だった人口のうち、現在1500人ほどが町に戻ってきています。まだまだ県内外で避難生活を続けている人は多いものの、少しずつ帰郷が進んでいるところです。
あれから約10年。一歩ずつ活気を取り戻してきた浪江町は今、復興に向けて大きく前進しました。
2020年3月に浪江駅から富岡駅間で運転を見合わせていたJR常磐線が全線で運転を再開。7月にはビジネスホテル「ホテル双葉の杜」が、続く8月には復興のシンボルとして「道の駅なみえ」がそれぞれオープンし、町は大きな喜びに包まれました。
ホテル双葉の杜は、野菜や鮮魚など地場産品を使った料理で観光客やビジネス客をもてなしてくれる
地元の農業や漁業を発信する道の駅なみえ。ここでしか食べられない魅力的なグルメが盛りだくさん(写真:道の駅なみえ)
中でも大きな話題となったのが道の駅なみえ。
産地直売所やレストランがあり、ご当地グルメとしても全国的に知られる「なみえ焼そば」をはじめ、9年ぶりにセリが再開された請戸漁港(うけどぎょこう)直送の海産物など、さまざまな地元グルメが集結しています。
浪江産のタマネギ「浜の輝(はまのかがやき)」をはじめ、地元産の野菜などがそろう産地直売所(写真:道の駅なみえ)
ももを使ったスイーツや、タマネギで作ったスムージーなど、地元の特産品をすぐに味わうことも(写真:道の駅なみえ)
レストランでは請戸漁港で水揚げされた新鮮な海の幸が味わえる(写真:道の駅なみえ)
レストランで食べられるご当地グルメ「なみえ焼そば」は外せない(写真:道の駅なみえ)
この2つの施設は、町の中心を走る国道114号と国道6号の交差点にできました。この通りを中心に、今後新たな賑わいが生まれることでしょう。
道の駅とホテルを抜けて沿岸に向かって進むと、広大な田園風景が見えてきます。
田園のさらに先にあるのが、今回の目的地「福島水素エネルギー研究フィールド」、通称「FH2R(Fukushima Hydrogen Energy Research Field)」です。
FH2Rの広さは約22ヘクタール。太平洋を望む、浪江町の東部沿岸に建っている
開所したのは今年の3月。その名の通り「水素」の研究施設です。
地球温暖化の原因になるとされるCO2(二酸化炭素)。世界中でCO2の排出を減らしていこうという動きがありますが、水素はエネルギーとして使う際に、このCO2を排出しないクリーンなエネルギーとして期待されています。
最近よく聞く燃料電池自動車(FCV)の燃料がまさにこの水素。水素と酸素を化学反応させて電気を発生させる装置がいわゆる“燃料電池”で、排出されるのはほとんど水だけです。
さらに、この施設では水素を製造する途中でもCO2をはじめとした地球温暖化につながる物質が発生しません。つまり、作るときもCO2フリー。地球にとても優しい研究所なんです。
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)、東芝エネルギーシステムズ、東北電力、岩谷産業が共同で研究している
さてこの水素、どうやって作っているのでしょうか。
それは「水」を電気で分解して作っているんです。
小・中学生のころ、学校で水に電気を流して水素と酸素に分ける化学の実験をやったことがあると思いますが、まさにそれの超大型版。
水素を製造する「水電解装置」。この中に溶液が入っており、電気分解している(写真:旭化成株式会社)
この施設の水素を製造する装置は、1日に、一般家庭約150世帯が1カ月に使う電気を供給できるほど能力があり、その大きさは“世界最大”とされています。
装置のタンクの中には、電気分解をしやすくするためにアルカリ溶液を入れているものの、そのほとんどが水。機械を使ってきれいにしますが、この水は元をたどれば浪江町の一般家庭でも使われている水道水です。つまり、地元の材料を使った“福島産の水素”なんです。
そして、水素作りのもう一つの要が「電気」です。材料となる電気もクリーンなものにしようと、FH2RではCO2を出さない電気である「太陽光発電」を使っています。
敷地全体の約8割に敷き詰められた太陽光発電のパネル
そもそも太陽光発電などの再生可能エネルギーは、天候に左右されるため発電量のコントロールが難しく、作った電気が100%利用されないケースもあります。
製造装置でできた水素は不純物が取り除かれ、配管を通ってタンクへ
でも、せっかく電気を作ったのなら、できるだけ使おうとなるのは当然。そこで、蓄電池にためること以外に考えられたのが、長期間保存ができて長距離輸送もできる水素に作り変えて、ためるという方法です。
つまり、FH2Rが目指しているのは、水素を効率よく作ることはもちろんですが、その先に再生可能エネルギーをもっとたくさん、無駄なく使えるようにできる仕組みを生み出すことなんです。
水素を貯蔵しておく巨大なガスホルダー。1つの大きさは山手線の1車両ほどになる
そんなたくさんの期待を背負っている“福島産の水素”。実はあの東京五輪で使われることが決まっています。
聖火台やトーチ、大会関係者向けの燃料電池自動車に積まれて晴れの舞台に立つ予定でしたが、開催が延期されたため、現在は2021年に向けて、再度準備を進めています。
運搬用のタンク。複数の細長いタンク(写真の丸い部分)にそれぞれ水素が充塡される
東京五輪はもう少し先になりましたが、既に福島産の水素を使っている場所はあります。それは、地元である福島市の「あづま総合運動公園」と楢葉町・広野町の「ナショナルトレーニングセンター Jヴィレッジ」です。
トレーラーなどで水素を運び、それぞれに設置された燃料電池に注入。そうして電気と熱を生み出しているのです。
Jヴィレッジに運ばれている水素タンクの小型ユニット。これ一つで、一般家庭約20日分の電力に
さらに、先ほどの道の駅なみえにも燃料電池が設置されていて、今年の秋頃から水素を届ける計画も。
「『ゼロカーボンシティ』(二酸化炭素などの排出量を実質ゼロにした街)と『水素社会』の実現を目指して、道の駅なみえをきっかけに町内で幅広く活用していきたいです。浪江町産の低炭素水素には期待しています」と、道の駅なみえの広報担当者さん。
浪江町は今後、燃料電池自動車を町の公用車として導入したり、一般家庭に水素を配送する実証事業を行ったりと、水素のさまざまな利用方法を考えています。
水素の“地産地消”がもっともっと広がっていけば、町を盛り上げる後押しになりそうです。
タンクを積んだトレーラーがあづま総合運動公園へ水素を運んで行く
タンクのデザインは地元の子どもたちが描いたもの
定期的な一般見学を実施していなかったFH2Rですが、2020年秋のスタートを目指して準備中。広大な太陽光発電のパネルや巨大ガスホルダーを目にできる日は、もうすぐです。
ここで生まれた水素が身近なところで使われる日がきっと訪れる(写真:NEDO)
これからの時代に注目される水素を作る浪江町。新たな施設や名物も生まれて活気にあふれる町へ、近い未来に訪れる“水素で暮らすライフスタイル”を見に行ってみませんか?
■スポットDATA
福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)
住所:福島県双葉郡浪江町大字棚塩字大原
https://www.town.namie.fukushima.jp/uploaded/attachment/9142.pdf
■取材協力
やすらぎの宿 ホテル双葉の杜
住所:福島県双葉郡浪江町幾世橋田中前8
電話:0240-23-7099
https://hotelfutabanomori.com/
道の駅なみえ
住所:福島県双葉郡浪江町大字幾世橋字知命寺60
電話:0240-23-7121
時間:10:00~19:00(※各店舗により異なる)
休み:水曜
https://michinoeki-namie.jp/