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「発電所にドローンを飛ばす! 地元のお役に立てるシステムを生み出したい」東北電力・石田竜也さん

2020.02.21

【今月の密着人】東北電力株式会社 発電・販売カンパニー 火力部(火力建設) 石田竜也(いしだたつや)さん(32歳)

自動車や食品など多くの製造工場の現場では、ロボットやAI(人工知能)技術を活用して、完全自動化に向けた動きが盛んだ。そんな時代に、発電所内の点検を自動化できないかと試行錯誤する男がいる。東北電力の石田竜也さんは、「きっと地元の発展にもつながる。実現に向けて、日々考え続けたい」と語る。未来のために「今を変える仕事」、その思いに迫った。


火力発電所に新しい技術を搭載する仕事

東北エリアを中心に、電気やエネルギーの供給を担う東北電力。同社の火力発電所を管轄する部署には、「デジタルイノベーション」を進めるメンバーがいる。今回の主役は、その一人である石田竜也さんだ。

発電所にデジタルイノベーション――そのメンバーは、発電所などの設備内に、ロボットやAIといった新しいテクノロジーを取り入れ、より安全性を高めたり、発電の安定性を高めたりして、火力発電所をより良くするためのプロジェクトを進めている。

その中で石田さんが担っているのが、火力発電所で行われる設備点検の「自動化」だ。


新潟県出身の石田さんは、地元の高等専門学校を卒業して、東北電力に入社。「電気は、生活になくてはならないもの。当時その最前線で働きたいと思い、地元の新潟に電気を送っている東北電力を志望しました」

石田「火力をはじめとした発電所では、毎日、所員が設備の状態を巡視点検して、機器に異常がないかチェックしています。検査機器を使い、時には耳などの人間の感覚も頼りにしながら、アクシデントが起こらないように、随所を見て回る必要があるのです」

しかし、発電所内に設置されているのは、膨大な数のさまざまな機器。一つ一つ細かくチェックするには、多くの時間と労力がかかる。

石田「メーターやバルブなど、発電所内のあらゆる箇所を見て回るため、最低でも2時間ほどかかります。これを一日に2~3回行っています。もちろん、安全と安定した発電のために不可欠な作業ですが、もっと効率化できないかと考え、ドローンによる巡視点検の自動化を目指しているのです」


東北電力の秋田火力発電所。2019年9月に運転を終えた3号機で、石田さんはドローンの実証試験を行っている

 

発電所でドローンを飛ばす! 難題だけどやりがいはある

石田さんが目指す「設備点検の自動化」とは、簡単に言えば“発電所内に自動で動くドローンを飛ばし、各種機器を点検させてデータを集める”というもの。

言葉にすると簡単だが、実現するにはかなり繊細で多彩な技術を組み合わせる必要がある。

石田「ドローンを発電所内に飛ばすだけでは、機器の点検はできません。自動的に決められたコースを飛行することに加えて、異常を検出できる機能を搭載する必要があるんです。その中核を担う技術がAI。飛行コースや機器の正常な状態を覚えさせることにより、異常が発生したときに検出して知らせてくれるというシステムです」


点検の自動化を目指し、協力する会社と実証試験・改善を進めているドローン

発電所内を“巡視点検”するためには、人がやっていたことと同じことができなければならない。視覚、聴覚、触覚、嗅覚といった人間の感覚に変わるカメラやセンサーなどをドローンに搭載し、さらにそこから得られるデータを判断する能力が必要となるのだ。

石田「視覚の役割は、ドローンに搭載するカメラやサーモグラフィカメラなどの画像をAIに解析させることで実現します。そのように、ドローン1機に人間並みの機能を載せていくのです。嗅覚についても既に有効性は確認していますが、センサーで臭いを数値化する検証を進めているところです」


実証試験を始める前に、協力会社のメンバーと工程や飛行場所などを入念に打ち合わせる。停止しているとはいえ、実証試験場所は実際の火力発電所内。最善の準備をして取り組んでいる

2019年12月に実証試験を行ったのは、実際の発電所の中。

石田「これまで、弊社の火力技術訓練センターや解体前の新潟火力発電所4号機といった施設内でも実証試験をしましたが、実現の可能性は感じています。そして今回、2019年9月に運転を終えた秋田火力発電所3号機の建物の内部で本格的な実証試験を始めました」


秋田火力発電所内は、さまざまな機械や配管が入り組んでいる。ただでさえ飛ばすのが難しいドローンを、この建物の中で自動運転させるのは難題だ

停止しているとはいえ、実際の火力発電所内で検証するのは簡単なことではない。実現できたのは、職場のバックアップのおかげだと石田さんは言う。

石田「以前、仙台火力発電所4号機のガスタービンに新しい回路を導入するという、メーカーでもやったことがない新しい試みに取り組んだことがあります。結果的には、発電機の出力と熱効率を最適化できて燃料費も削減、社内で「社長表彰 秀賞」も受賞しました。このときも、前例がないアイデアでしたが、上司の賛同と協力で実現できたんです。今回の秋田火力発電所での本格的な実証試験も、上司の協力があってのこと。私は上司に恵まれています。やりたいと思ったことに同意してくれて、協力してくれる。本当にありがたいです」


発電所内を歩き回り、ドローンを飛行させるルートを綿密に検討する

実証試験を進める中で、いい結果は出てきた。とはいえ、実用化にはもうしばらく時間がかかるという。

石田「動き始めてから3年。今は、自動点検を確立し、2023年6月に運転開始を予定している上越火力発電所の1号機に導入することが目標です。これがうまくいったら、東北電力の全ての火力発電所での採用を目指したいと思っています」


現時点でのドローンの自動運転は、一度、人がコントローラーで操作して飛行経路を作成し、ドローン単独で同様のフライトができるようにセットアップしていく

 

地域社会と共に。地元に役立てるシステムにしたい

新しいテクノロジーによってイノベーションを起こすチームに所属する石田さんだが、もともとは新潟に新たにできる上越火力発電所1号機の設計にかかわる業務を担当していた。

石田「当初は今の仕事と設計業務を掛け持ちでやっていて。こちらがサブの仕事になっていたのが正直なところです(笑)。ですが今は専任となり、とてもやりがいを感じています。それは、点検の自動化システムが実現できれば、火力発電所だけでなく、工場などさまざまな場所にも利用できる可能性があると思っているからです」


当時、本心では、上越火力発電所の業務に最後まで携わりたいと思っていたそう。今は数年後に完成するその場所に、ドローンを飛ばすことが目標だという

そう考えたのは、東北電力独自の部門編成によるところが大きい。東北電力は2018年4月から、電気を作る「発電」部門と、利用者の窓口となる「販売」部門が一つになった。

石田「この2部門が一緒になっていると、1つ、とても大きなメリットがあることに気が付きました。販売部門は、実際に電気を利用される方と会うことができます。統合をきっかけに、電気を利用される地元の事業者の方々と面会して、どんなニーズがあるのかをヒアリングする機会ができたんです」

電気を使う事業者の多くは、自家発電機を持っているくらい電気に詳しいプロが多い。一方で、そこに対面する販売部門は、ある程度の知識はあるものの技術者ではない。石田さんが気付いたのは、これまで汲み取れていなかった技術的なニーズがあったということだ。

石田「私たち発電部門の人間も電気のプロ。なので、お会いすると、かなりマニアックな話でとても盛り上がるんですよ。これまで事業者の方々に対面することがなかったので気付きませんでしたが、具体的な要望がたくさん出てきたんです。運転や保守点検、運用技術といった、弊社がこれまで培った高い技術力をうまく利用すれば、そういった要望にも応えられる。東北電力には、『東北の繁栄なくして当社の発展なし』という基本的な考え方があります。電力の技術を担う私たちが、直接電気を利用される方々とつながれば、地元をもっと盛り上げることができるのではないかと感じました」


「地元に貢献できるよう、5年後には汎用性の高いシステムの構築を目指しています」と石田さん

さまざまな場所で活用できるシステムを作り上げるまでには、さらに別のテクノロジーも組み込んでいかなければならない。石田さんは実証試験を進める以外にも、新しいテクノロジーが発表される展示会に足しげく通っている。

石田「工業製品などに限らず、全く違う業界の技術も見に行きます。例えば医療分野。センサーやカメラなどは高性能のものが多いので、うまく使えば発電所でも使えるのではないかと。同じ業界の技術だとだいたい想像がつきますし、多くは既に使っているものの改善版。それでは、発見はありません。新しいテクノロジーに対して常にアンテナを高くし、情報収集に努めていきたいと思っています」


好きな言葉は、「ひらめきは考え続ける者だけにやってくる」(レオナルド・ダ・ヴィンチ)。「目標の実現に向けて日々、考え続けたいと思います」

搭載する全ての技術が決まったわけではないが、「いつかは地元のメーカーだけでまとめられたら」と、郷土愛も強い石田さん。地元の事業者と会話した中では、自分が勤める東北電力に対する信頼と期待を強く感じたという。

石田「これまで60年以上にわたり、弊社の火力発電所は東北の発展のお役に立ててきたのではないかと思います。そして、私たちの持つ技術力は、別の形にすることで、今後も地元のお役に立つことができるはずです。そのためにも、ドローンの取り組みは必ず実現させたい。個人的には、今度は最上位の『社長表彰 社長賞』を目指します!」