【今月の密着人】東北電力株式会社 発電カンパニー燃料部(LNG) 佐藤卓(36歳)
いつでも当たり前に使える電気。その裏側には、電力の安定供給のために日夜尽力する、たくさんの人々がいます。今回焦点を当てるのは、電気をつくるための燃料を調達するお仕事。電力ひっ迫や世界情勢の変化に大きく関わる火力発電所の燃料「液化天然ガス(以下、LNG)」の調達に奮闘する東北電力 佐藤卓さんの熱い想いをご紹介します。
「電気はあって当然」を根本で支えるお仕事
日本の電力は現在、約8割が化石燃料による火力発電で賄われています。その大半を占める燃料がLNG。日本の電力を安定して供給するために、とても重要なポジションを担っています。
しかし、日本で使用するLNGは海外からの輸入頼み。さらに、LNGは石油や石炭と違って長期間の保管に向かないことから、タイムリーに調整する必要もあります。
東北電力 燃料部の佐藤卓さんが主に担当するのは、発電計画や電力の需給バランス、LNGの在庫量などに応じて、海外からLNGを運ぶ船の受け入れスケジュールを管理する「配船業務」。
ものすごくわかりやすく言えば、LNGの「仕入れ」と「在庫管理」です。
佐藤さん「東北電力では年間で約400万トン、船の数にすると60隻程度のLNGを毎年購入しています。LNGは長期保存ができないので、いつ、どれだけ在庫を確保しておくかというスケジューリングが欠かせません。価格も変動するため、なるべく安いタイミングで購入するのが理想です。さまざまなことを勘案しながら、在庫が極端に少ない谷のような状況をいかになくしていくか。それが私の仕事です」
LNGがなぜ発電において重要なポジションを担っているのか。それは、燃料ごとに火力発電所の役割には違いがあるからです。
佐藤さん「例えば、低コストで安定して発電できる石炭を使った火力発電はベースロード電源といって、比較的、電力の需要に左右されず常に一定量の発電を行います。つまり、“支える”のが役目です。対してLNGの火力発電は、需要の波に合わせて発電量を細かく調節し、バランスを取るのが役目。電気の需要は毎日細かく変化するので、LNGがないと上手く電気を届けられなくなってしまうんです」
寒波で大ピンチ! 人知れず危機を救ったヒーロー!?
そんな配船業務の大変さは、天候不良をはじめとした自然相手のトラブルが多いことだそうです。
佐藤さん「台風が船の針路に重なって到着予定が大きくずれ込んだり、船が港の目の前まで来ても波や風が強くて接岸できなかったり。また、そもそもLNGの産出国側で天然ガスがなぜか出ない、なんていうこともあるんです。1隻が運ぶLNGの量は6〜7万トン。1回の影響は甚大です。何かトラブルがあると職場はかなりピリッとしますね」
昨年(2020年)の冬、配船業務担当になってまだ2カ月程度だった佐藤さんに、いきなりその大変さを思い知らされる出来事が起こります。
今年同様に日本が記録的な大寒波に見舞われたことで、需要側と供給側でさまざまな要素が重なり、全国的にLNGが想定以上に使われました。
このままいけば、日本全体で電気が足りなくなる可能性が出てきたんです。
佐藤さん「全国的にLNGが、想定を大きく超える在庫不足になったんです。私たち東北電力も当時はかなり大変でした。というのも、LNGはなくなったからといってすぐに調達できるものではありません。通常はスポット的に調達をする場合でも、契約交渉から始めて実際にLNGが受入基地に届くまでには1カ月半~2カ月程度はかかるのが当たり前。ところが、その時は1カ月を切るスピードで調達しなければならなくなったんです」
何とか船の手配はできたものの、そんなときに限って天気予報は大荒れ。一進一退の状況に、佐藤さんは歯がゆさや焦りを感じていたと言います。
佐藤さん「万が一この船に何かあれば、東北の電気が止まってしまうかもしれない。そうなれば最悪、人命にも関わることだってあると思ったんです。私も東北が地元ですから、冬の厳しさは身にしみています。このタイミングで電気が使えなくなってしまうことは、絶対にあってはならないんです」
佐藤さんを突き動かしたのは、とにかく1日でも早くLNGを日本に届けなければならないという使命感でした。
佐藤さん「商社などのサプライヤー各社、LNGの受入基地などとの調整を重ねた結果、本当に皆さんの協力があって、なんとか危機を乗り切ることができました。船が無事に入港して、タンクにLNGが流れ始めたと連絡を受けたときには、心から安心しましたね」
お客様の一番遠くて、一番近い存在に。
佐藤さんをはじめ、電力に関わる多くの人が力を合わせ、なんとか乗り越えられた昨年の冬。急な寒波到来による電力需要の急増が原因の一つで、実はこれ、とても身近な問題なんです。
佐藤さん「誰でも家でエアコンを使っていると思います。季節の始まりにピッとリモコンを押して一度使い始めると、翌日以降も気温に関係なくなんとなく使い始めますよね。実は『エアコンのスイッチをいつ押すか』というのが、電力需要の波を左右する大きな要素の一つなんです」
これは極端に言えば、自宅にあるエアコン一つでLNGを消費するスピードが早まるということ。佐藤さんの仕事は電気を使う家庭や職場と一番遠いところにあるように思えますが、実はとても密接に関わっているんです。
佐藤さん「もちろん、LNGの調達はほかにも天候や海外情勢、発電現場の状況など、さまざまな要因が複雑に絡んできます。例えば、日本は約1割のLNGをロシア産に依存していることから、昨今のロシアとウクライナの問題は決して遠い国の話ではありません。エネルギーは日本の安全保障そのもの。その重責を担う担当者としてもっと視野を広く持ち、常に最新の情報をキャッチできるように尽力していきたいと思っています」
そして何より佐藤さんが忘れてはならないというのが、お客様目線です。
佐藤さん「私の仕事は、お客様との距離がどうしても遠くなります。だからこそ、今取り組んでいる仕事が本当に地域のために、お客様のためになっているのだろうかということを、常に意識しなければなりません。例えば、お客様に電気をより経済的にお使いいただくために、1円でも安くLNGを調達することなど、出来ることはたくさんあるはず。電力の安定供給を支えることはもちろん、さらに一歩、二歩とお客様に歩み寄れる仕事をしていきたいですね」
米国キャメロンLNGプロジェクトからの天然ガス調達船『Diamond Gas Sakura』
■東北電力-火力発電所
https://www.tohoku-epco.co.jp/power_plant/thermal.html