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備え・防災アドバイザーの高荷智也さんに聞く!今すぐ備えておくべき<避難シーン別>防災アイテム

2025.03.21

新生活を始める人が多い春。新しい住まいに引越しをした場合などに、早めに確認しておきたいのが、慣れない環境下で大きな災害が発生した場合のリスクや身の守り方です。そこで今回は、備え・防災アドバイザーで「ソナエルワークス」代表の高荷智也さんに、防災の観点から自宅で確認すべきポイントをはじめ、避難シーン別の防災アイテムについてお話を聞きました。

 

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備え・防災アドバイザーの高荷智也さん

 

災害への備えが大事。各地で頻発する災害を「自分事」として捉えよう

――はじめに、高荷さんの普段の活動内容について教えてください。

「備え・防災アドバイザー」として、主にテレビ、ラジオ、SNS等で防災に関するお話や災害時の解説などを行っています。講演会やイベントに出演したり、メーカーさんと一緒に防災グッズの企画開発をしたり、防災に関して様々な活動をしています。

 

――2024年は能登半島地震が発生したこともあり、ここ最近は防災意識が高まっているように感じます。

もともと防災に対する意識が高い方は、防災グッズの最新情報などを積極的に取り入れ、より強固な対策を行うようになっていると感じます。一方で、防災に関心を持っていない方々の意識は、大きくは変わっていないのかもしれません。

2024年は、8月に気象庁から「南海トラフ地震臨時情報」が発表されたことも記憶に新しいと思います。私が運営しているYouTubeやVoicy(音声配信サービス)のチャンネルでは、大きな被害があった能登半島地震の直後よりも、南海トラフ地震臨時情報が発表された直後の方がものすごくアクセス数が増えました。南海トラフ地震臨時情報は、対象が西日本のほぼ全域だったため、自分事として危機感を感じた方が多かったのでしょう。防災の専門家として、「自分が被災するかもしれない…という状況にならなければ、人はなかなか動けない」ということを改めて実感し、より啓発に力を入れなければならないと感じました。

 

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高荷さんは講演会やイベントで防災の大切さを伝える(提供:ソナエルワークス)

 

住まいの耐震性とハザードマップは必ず確認

――春は新生活を始める方も多いシーズンです。防災の観点から、住まいで確認すべきことを教えてください。

確認すべき点は、大きく2つあります。1つ目は、地震の揺れに対する耐性を示す「耐震基準」です。1981年6月1日より前に建築認可を受けた建物は、耐震リフォームをしていない限り「旧耐震基準」に該当し、大地震で倒壊する危険性があるため要注意です。発災時にすぐ外に逃げられる準備を必ずしておきましょう。1981年6月1日以降に建築された建物であれば、「新耐震基準」に該当するため、1回目の揺れで即座に倒壊する可能性は低いと言えます。

2つ目は、地震による津波、大雨による洪水や土砂災害など自然災害が起こった場合の影響予測を示す「ハザードマップ」です。自宅がある場所にはどんなリスクがあるのかをはじめ、災害が起きた時にどの道で逃げ、どこへ向かうべきなのか、避難経路と避難場所の確認をしておきましょう。

 

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自宅の耐震基準とハザードマップを確認しよう(Lukas / PIXTA)

 

自宅が新耐震基準、かつハザードマップ上でも危険地域ではない場合は、在宅避難に備えて、備蓄品の準備や停電・断水時の対策を万全にしておきましょう。特にマンションなどの集合住宅の場合は、ポンプで水を各家庭に供給しているため、停電すると水が出なくなってしまいます。水だけでなく、非常用トイレや調理不要の食料などの備えが必要です。

 

避難所に移動する場合の防災アイテム

――災害時に避難所に行くことを想定した場合、どんな防災アイテムを備えるべきでしょうか?

身に危険が迫った場合にすばやく持ち出せる「防災リュック」、避難所で3日間過ごすことを想定した「避難所生活用バッグ」の2つを準備しておくと良いでしょう。

 

【1】防災リュック
防災リュックには必要最低限の防災グッズや生活用品を入れて、玄関などすぐに持ち出せる場所に置いておきましょう。避難場所まですばやく安全に移動するためにも、楽に背負える重さにしておくことがポイントです。

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いざという時にすばやく持ち出すための防災リュック(提供:ソナエルワークス)

 

<防災リュックの中身>
・メガネや持病の薬など体の機能を補うもの
真っ先に準備しておくのは、メガネ、補聴器、サポーター、杖、薬といった、体の機能を補うものです。命に関わることもあるので、予備を用意しておくか、普段使っているものをすぐに持ち出せるように準備しておきましょう。

・雨具・ヘッドライト・グローブなど身につける道具
災害時は危険を避けるためにも、できるだけ両手を空けて移動するのが基本です。雨具は傘よりもカッパ、ライトは手に持つ懐中電灯よりもヘッドライトやネックライトを選んでください。

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両手が空くヘッドライトやネックライトが便利(提供:ソナエルワークス)

・体温を維持するための防寒具、タオルや着替え
季節を問わず重要なのが、防寒対策です。雨などで水に濡れた状態の衣類を乾かすことができなければ、体温はすぐに奪われてしまいます。体を乾かすためのタオル、最低限の下着の替え、着替えるためのポンチョといった体温を維持するための道具は優先順位が高いと言えます。

・応急手当用品
怪我をした時に応急処置ができる程度の救急用品を用意しておきましょう。

・スマホ充電器や携帯ラジオ
情報収集や安否確認にはスマホや携帯ラジオが有効ですが、それらを使用するためには、電源の確保が必須です。防災用にモバイル充電器や携帯ラジオを用意する場合は、長期保管しておける乾電池タイプがおすすめです。乾電池によっては、10年間保存が可能なものもあります。また、乾電池は災害時の支援物資としても入手しやすいというメリットもあります。

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乾電池タイプのスマホ充電器(提供:ソナエルワークス)

・季節用品
夏場はうちわや扇子、冬場は使い捨てカイロ等があると良いでしょう。

・重くならない範囲で水と食料、その他生活用品
最後に水と食料を入れます。水や食料は重さがあるため、詰め込みすぎるのは禁物です。避難が遅れてしまっては本末転倒なので、楽に背負える重さで収まるように調整してください。

 

【2】避難所生活用バッグ
寝具をはじめ、避難所で3日間生活するための道具を入れたバッグ。避難所で生活をするための道具は、防災リュックとは別のカバンに準備しておきましょう。旅行用のスーツケースでもOKです。

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避難所で家族が3日間過ごすことを想定した避難所生活用バッグ(提供:ソナエルワークス)

 

<避難所生活用バッグの中身>
・寝具(寝袋や毛布、空気で膨らませるタイプのマットレス)
・水と食料
・着替え
・生活用品
・衛生用品

少し意外かもしれませんが、避難所生活用バッグには寝具を入れておくことをおすすめします。なぜなら、避難所で最も寒さがこたえるのは就寝時。冬はもちろん春・秋も夜間は冷えますので、寝袋や毛布等の寝具のほか、空気で膨らませるタイプのマットレスがあると床の冷たさを解消できるのでおすすめです。

避難が差し迫っている状況であれば、最低限必要なものを詰めた防災リュックだけを持ち出し、余裕がある場合は、防災リュックと避難所生活用バッグの両方を持ち出してください。「荷物の分割」までしておくと、より実用的な準備になります。
 

在宅避難をする場合の防災アイテム

――被災後も自宅で生活を続ける「在宅避難」を行う場合は、どんな防災アイテムを備えるべきでしょうか?

避難所に行くのは自宅に住めなくなった場合の最後の手段であり、自宅の安全が確認できれば「在宅避難」をすることになります。水や食料など日用品の備えはもちろん大切ですが、全ての家庭で必須なのが、ライフラインが停止した場合の備えです。特に用意しておいて欲しいのが非常用トイレ。家でトイレが使えなければ、1日たりとも生活の維持ができません。50回〜100回分入りの箱を、1人1箱は用意しておきましょう。

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非常用トイレは必ず備えよう(提供:ソナエルワークス)

 

また停電対策として、あると便利なのがカセットコンロとガス缶です。災害時にカセットコンロが使えると、温かい食べ物や飲み物を用意することができ、非常時における生活水準が大きく変わります。また余裕があれば、ポータブル電源と電気の自給自足ができるソーラーパネルを準備しておくと良いでしょう。

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ポータブル電源やソーラーパネルがあればより安心(提供:ソナエルワークス)

 

防災アイテムは時折見直しすることが大切

――防災リュック、避難所生活用バッグ、そして在宅避難の備えまで準備しておけば、万全ですね。

準備が万全であっても、折に触れて防災アイテムを見直すことが大切です。タイミングとしては、「季節品の入れ替え」「消費期限の確認」「ライフステージの変化」の3つの観点から行ってみてください。

 

・季節品の入れ替え(目安:年2回)
夏と冬では、「命を守るためのアイテム」が変わります。夏場は熱中症対策として、日数分より多めの水、経口補水液、スポーツドリンクの粉末、塩飴などがあると便利です。クーラーが使えない中で暑さを乗り切るために、防災リュックにうちわや扇子を入れておくのもいいでしょう。

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夏場は熱中症対策を意識した防災アイテムを追加(提供:ソナエルワークス)

 

冬場は厳しい寒さへの備えが欠かせません。使い捨てカイロなどの暖を取れるものを多めに準備してください。自宅用にガスボンベで暖を取れるストーブもあると、より安心です。

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冬場はあらゆるアイテムで寒さ対策を(提供:ソナエルワークス)

 

・消費期限の確認(目安:年2回)
食料や乾電池などの消費期限、使用期限を定期的に確認して、期限切れになる前に入れ替えましょう。タイミングとしては、東日本大震災が発生した3月11日と防災の日である9月1日あたりがおすすめです。毎年この時期は防災に関する情報がたくさん発信されていますし、スーパーやホームセンターで防災グッズコーナーが設置されることも多いので、防災グッズ選びもスムーズにできるでしょう。

 

・ライフステージの変化(目安:家族構成が変わった時)
家族構成が変わると、いるもの、いらないものが大きく変化します。子供が産まれる、独立する、ペットを飼ったなど、変化があれば、その都度防災アイテムを見直してみてください。車椅子生活になった、介護が必要になったといった場合も同様です。

 

――最後に、Concent読者にメッセージをお願いします。

「防災」の本番は、発災時ではなく平時の今です。災害が起きてからできることはほとんどありません。特に予知ができない地震に関しては、事前対策の有無が生死に関わることもあります。大きな災害や災害を予測するニュースが飛び込んでくると、水や保存可能な食品、非常用トイレなどが軒並み売り切れになり、必要なものが手に入らなくなってしまいます。しかし、平時の今なら何でも購入することができます。防災グッズなどの準備は、ぜひ今のうちに進めていただきたいです。

 

【編集後記】
今回は、災害が発生する前に準備しておくべきものを防災のプロに聞きしましたが、参考になりましたでしょうか。日本は災害が多い国なので、地震が起きると地域一帯が断水することも珍しくありません。避難生活において、“水”は電気と同じくらい大事です。エコキュートという電気給湯器があれば、地震や大寒波により断水が発生しても、貯湯タンクユニットに溜めてあるお湯を生活用水として使用できるので、災害時の備えの一つになります。新築をご検討される方や給湯器を買い替える方は、ぜひこの機会にご検討ください。
 

高荷智也(たかに ともや)

ソナエルワークス代表。備え・防災アドバイザー。BCP策定アドバイザー。「備え・防災は日本のライフスタイル」をテーマに、「自分と家族が死なないための防災対策」のポイントを理論で解説するフリーの専門家。大地震や感染症など自然災害への備えなど、防災に関連する情報を分かりやすく伝える活動に定評がある。主な著書に『今日から始める家庭の防災計画』(徳間書店)、『今日から始める本気の食料備蓄』(徳間書店)。

公式サイト「備える.jp」:https://sonaeru.jp

YouTube「死なない防災!そなえるTV」:https://youtube.com/@sonaerutv

Voicy「死なない防災!そなえるらじお」:https://voicy.jp/channel/1387

 

企画・編集=Concent 編集委員会


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