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原子力発電所の燃料って使い終わったらどうするの?専門家の若杉圭一郎さんに聞いてみた(前編)

2025.01.27

Conちゃん最終処分

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第37回は、原子力発電所で発電するために燃料を使った、その後のことがテーマ。資源の少ない日本では、エネルギーの安定供給や地球温暖化対策の面で強みを持つ原子力発電を、安全を最優先に活用する方針が掲げられている。だからこそ、使い終わった燃料(使用済燃料)のこともきちんと考えなければならない。「使い終わった燃料はどうするんだろう?」と疑問に思ったConちゃんが専門家に聞いてきました!

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Conちゃん、原子力発電の使用済燃料と高レベル放射性廃棄物のことを知る!

資源の少ない日本では、エネルギーセキュリティの確保のため、火力、再生可能エネルギー、原子力といったさまざまな発電方法を上手に組み合わせて電力を供給する、エネルギーミックスが大切。中でも原子力は、発電時にCO2を排出せず、さらには準国産エネルギーとして日本のエネルギー自給率を高めるのにも有効な発電方法だ。その活用と同時に考えなければならないのが、使用済燃料を再処理する際に作られる「高レベル放射性廃棄物」の処分だという。

「原子力発電所で使い終えた燃料ってどうするんだろう?」「高レベル放射性廃棄物って言葉を聞いたことがあるけど、それって何のこと?」と思ったConちゃん。ということで、専門家に話を聞きに行きました。

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若杉先生は原子力工学の専門家で、東海大学で放射性廃棄物の処分の研究を進めるこの分野のエキスパートだ。

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若杉「原子力発電所では、原子炉の中でウラン燃料に核分裂を起こして、発生する熱エネルギーを利用して発電を行っているよね。使い終わった燃料のことを『使用済燃料』と呼ぶんだけど、この中には、核分裂していないウランやプルトニウム、つまり発電に再利用できる部分がたくさん残ってるんだよ」

Con「再利用できる部分が残ってるんだ!」

若杉「取り出して加工すれば、原子力発電の燃料として再利用できるよ。日本はエネルギー資源に乏しい国だよね。資源の有効利用のため、原子力発電によって出た使用済燃料から、発電に使える物質を取り出して再利用する『再処理』を行うことにしているんだよ。再処理を行うことで新しく燃料として使うことができて、使用済燃料の約95%を再利用することができるんだ。一連の流れは『原子燃料サイクル』と呼ばれ、これを推進していくことが日本では基本方針になっているんだよ」

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若杉「使える部分を取り出すために、使用済燃料を化学的に処理する過程で、再利用できない部分が出てくるんだ。放射能レベルの高い廃液(高レベル放射性廃液)なんだけど、液体のままだと扱いが難しいから、物理的・化学的に安定させるために、融かしたガラスに混ぜて固化するんだよ。こうして作った『ガラス固化体』と呼ばれるものは、『高レベル放射性廃棄物』として、適切に処分を行う必要があるんだ。外国では、再処理を行わずに、使用済燃料を高レベル放射性廃棄物として直接処分することにしている国もあるけど、いずれにしても、高レベル放射性廃棄物の処分は原子力を活用しているすべての国に共通する課題だと言えるね」

Con「使用済燃料ってどれくらい日本にあるの?」

若杉「50年以上前に国内で原子力発電所が初めて稼働して以来、これまでに使用済燃料は約1万9000トン(※)が保管されてきたんだ。ガラス固化体に換算すると、すでに再処理が行われて貯蔵管理されているものと合わせて約2万7000本(※)に相当するよ。これらの廃棄物は、環境や人々の健康に悪影響を与えないように、安全に処分しなければならないんだ。これは長年検討されてきていて、将来の世代に負担をかけないためにも、原子力エネルギーの恩恵を受けた世代が解決する必要があるんだよ」(※2024年3月末時点)

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Conちゃん、高レベル放射性廃棄物の処分方法が気になる!

Conちゃん最終処分

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若杉「高レベル放射性廃棄物は30~50年間冷却した後、地下300メートル以上深くの安定した岩盤の中に埋設することになっていて、これを『地層処分』というんだ。地層処分について考える時の大事なキーワードは、『閉じ込め』と『隔離』の2つだよ」

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若杉「1つ目のキーワードは『閉じ込め』だよ。高レベル放射性廃棄物は、『人工バリア』と『天然バリア』を組み合わせた多重のバリアで『閉じ込め』るんだ。人工バリアの1つ目は、高レベル放射性廃液を固める『ガラス』だよ。ガラスを使った固化についてはさっきも話したけど、ガラスは物を閉じ込める能力が高くて、水に強い性質があるから、長期にわたって放射性物質を閉じ込めるのにも適しているんだ。2つ目は、厚さ約20センチメートルの金属製の容器である『オーバーパック』。これにガラス固化体を納めることで、ガラス固化体が地下水に触れないようにするとともに、地中の圧力から保護して、放射性物質が外に漏れ出ることを防げるよ。3つ目は、オーバーパックを包む、厚さ約70センチメートルの『緩衝材』。この緩衝材には、ベントナイトという粘土鉱物を使うんだ。ベントナイトには、水を吸収すると膨らんで水を通しにくくする性質や、物質を吸着する性質があるから、高レベル放射性廃棄物に触れる地下水の量を抑えたり、万が一放射性物質が地下水に溶け出しても、それを吸着してその動きを抑えたりする役割を果たすんだよ」

Con「安全に処分するための方法が考えられているんだね」

若杉「高レベル放射性廃棄物を埋設する深い地下の岩盤は、酸素が少ないから物質が変化しにくいし、地下水の流れが遅いから、ものの動きがとても遅くなるんだ。この岩盤が、放射性物質を閉じ込める、いわば『天然バリア』になるんだよ」

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出典: NUMO「高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する対話型全国説明会 説明資料」

若杉「もう一つのキーワードは、『隔離』だよ。日本における地層処分では、地下300メートル以上深くの安定した岩盤の中に高レベル放射性廃棄物を埋設して、人間の生活圏に影響を与えないように隔離することが法律で定められているんだ。人間が簡単には近づけない深さだよね。多重バリアによる『閉じ込め』と、地下深くに埋設する『隔離』によって、長期にわたって放射性物質を地下にとどめておくことで、安全性を確保する方法が『地層処分』なんだ」

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若杉「過去の地震の観測結果から、地下深部は揺れが小さいことが分かっているんだ。地下の揺れは、地上に比べて1/3~1/5程度の規模なんだよ。頭の中でイメージしてみてほしいんだけど、棒の片方の端を手で持って軽く揺らすと、手で持っている方の揺れは小さくて、持っていない方が大きく揺れるよね。手で持っている方が地下の震源、持っていない方が地表だとイメージすると、地上より地下の方が、揺れが小さいことがわかるんじゃないかな」

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出典:NUMOホームページ「素材集」より、一部加工

若杉「実際に建設する処分場では、トンネルはすべて埋め戻すため、大きな揺れが発生しても処分場全体が周囲の岩盤と一体となって揺れるから、影響がほとんどないというシミュレーション結果もあるよ。地震によって処分場が壊れるということは考えにくいんだ」

 

Conちゃん、地層処分以外の方法も考える!

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若杉「もちろん、高レベル放射性廃棄物の処分方法として地層処分が選択される前には、他のさまざまな方法が検討されたんだ。ロケットに搭載して宇宙に打ち上げる『宇宙処分』、深い海底に捨てる『海洋投棄』、南極の氷の下に処分する『氷床処分』…。だけど、それぞれできない理由があるんだよね」

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若杉「宇宙処分だと、ロケットの発射のときに事故が起きたら広範囲に大きな影響が出てしまうよね。海洋投棄と氷床処分は、それぞれ国際条約で禁じられているんだ」

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若杉「地上だと、大雨や洪水、台風や津波といった自然災害があるし、政情が不安定になるような時には武力攻撃を受ける可能性がある。こういったリスクを考えると、地上よりも地下の方が影響を受けにくいよね。それに、高レベル放射性廃棄物の放射能が自然のウラン鉱石と同程度のレベルになるまでには、数万年以上もの歳月がかかるから、長期間にわたる維持・管理の課題があるし、その負担を未来の世代に押し付けていいのかといった倫理的な課題もあるんだ」

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若杉「海外の国々でも、高レベル放射性廃棄物の地層処分が行われることになっているよ。さまざまな国で、地層処分の動きが進んでいるんだ。スウェーデンとフィンランドは最も進んでいて、地層処分を行う場所が決定されているんだよ。これ以外に、フランス、スイス、カナダでも地層処分を行う地域が選定されているんだ。中国、英国、ドイツは調査中の段階だね。ガラス固化体でなく、使用済燃料を直接処分することにしている国もあるけれど、ポイントは、原子力を利用している国は例外なく地層処分を選択しているってこと。地下が持つ、モノを閉じ込める力を利用した地層処分が現時点で最も安全で、最も実現性が高いんだ」

Con「それぞれの国で準備を進めているんだね。日本はどこで地層処分を行うのかな?」

若杉「処分場の建設地はまだ決まっていないよ。慎重に、段階を踏んで検討されることになっているんだ」

 

原子力発電の使用済燃料の再処理により発生する高レベル放射性廃棄物。これをきちんと処分しなくてはならないこと、そしてその処分方法を知ったConちゃん。はたして、日本はどこで処分するのだろうか? 次回、後編でリポートしていきます!

>後編に続く


取材協力:若杉圭一郎

東海大学工学部応用化学科教授。研究分野は、エネルギー、原子力工学、放射性廃棄物処分。1996年に動力炉・核燃料開発事業団(現 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)に入社し、高レベル放射性廃棄物地層処分に関する研究に従事。原子力発電環境整備機構、経済協力開発機構原子力局(OECD/NEA)を経て2018年より現職。2019年より世界各地で開催されているIAEA原子力安全国際スクールにファシリテーターとして参画し、人材育成にも取り組んでいる。

★さらに「地層処分」について知りたい方はこちら!
高レベル放射性廃棄物の地層処分って? | 電気事業連合会
NUMO - ニューモ - 原子力発電環境整備機構