12月といえばイルミネーション! 壮大な夜景はもちろんのこと、光が生み出す美しい光景は、実は家の近場にも広がっているのです。夜景評論家の丸々もとおさんに、身近で楽しむ夜の光の鑑賞ポイントや美しい夜景の見つけ方、そしてワクワクしてしまうような最新夜景事情についてお話を聞きました。
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「江ノ島 湘南の宝石」
美しさに魅せられ、自転車で夜景を探し求めた少年時代
原始の夜景と言えば「月」や「焚き火の炎」「星空」ですが、現代の夜景と言えば、それら自然の夜景と共に、照明による人工的な夜景と言えるでしょう。人が生活したり、行動したり、働いたりする場合に電気を使いますが、それが外側に零れて見える光景と言えるかもしれません。かくいう私は、小学校六年生の時、ボーイスカウト活動で訪れた山梨の大菩薩峠から甲府盆地の大パノラマを見て興奮。埼玉県在住だった私の夜景と言えば、見上げる家々の灯や街灯ばかりでしたから、光の大海原を見下ろす壮大な大パノラマはとても信じられないものでした。
山梨の甲府盆地を見下ろす「牛奥みはらしの丘」
その後、母親に自転車を買ってもらい、美しい夜景を求めて走り回るようになりました。それも、1週間に3回ほど。夜の10時から明け方まで夜景を探し回ったものでした。
しかし、自転車で行ける場所は2000メートル級の山上であるはずもなく、荒川土手から眺めるような河川敷の景色が多かった。なんとも地味なものばかりでしたが、今でも思い出せるくらい心に残っています。なぜ地味な夜景にも関わらず、深い記憶に残ったのでしょうか?その答えはそれから25年後のこと。読売新聞の連載「東海道夜景五十三次」で東海道の宿場を踏破した時。なるほど、光量の多い夜景ばかりが夜景ではなく、深い闇が主役になるような夜景もあると気づいたのです。
東海道夜景五十三次の夜景「関宿」
ひとつひとつの光の意味に気付いて見えてきたもの
10代、20代の時はパワフルで艶やかな夜景ばかりを求めていましたから、闇深い宿場の中に灯る小さな光や深い闇に底知れぬ情緒性を感じたのは驚きでした。情緒という言葉で片付けるには曖昧ですが、光の裏側にある闇と対峙することで、どんどん自分の過去に引きずり込まれたり、まだ見ぬ未来へと誘われたり。それはもう、イマジネーション豊かな不思議な体験の連続。畑や水田の中のたった一灯や道路に数灯の明かりにも関わらず、力強く、心に何かを訴えかけてくる感じ。ひとつひとつの光の意味に気付くことで、ひとつひとつの光が個性的な生き物のように私に迫り、私の心を鷲掴みにしたのです。
そして、今では光量の多い少ないではなく、侘び寂びを感じるような夜景と向き合って楽しんでいます。例えば、新潟の弥彦山スカイラインから眺める漁り火(いさりび)。数えるほどの光の中で漁師さんたちが大海原で戦う生命力溢れる夜景など、沢山あります。光量から解き放たれて、少しずつ達人の領域に向かっているような気がします(笑)。
「新潟の弥彦山スカイライン」
LEDと日本独自に発展を遂げたイルミネーション文化
一方、2000年以降はLEDが安価に、それも大量に入手可能になったことで、日本ではイルミネーション文化が独自に華開いていきます。私も「東京ドイツ村」(千葉)、「ハウステンボス」(長崎)等、全国の様々なイルミネーションを手がけていますが、色彩も自由自在、演出も自由自在、かつ環境にも優しいLEDを絵の具のように使用して、様々なLEDの絵を描きました。その中でギネス世界記録を取ったのが「アパリゾート上越妙高」(新潟)のイルミネーション。世界最大の光の地上絵は物凄い迫力で、エンタテインメントの領域でLEDの可能性を極めた作品になりました。もちろん、「あしかがフラワーパーク」(栃木)「なばなの里」(三重)「江ノ島 湘南の宝石」(神奈川)、昨今では「伊豆ぐらんぱる公園 グランイルミ」(伊豆)など国内のイルミネーションも見事で、各施設はその演出力を競い合うような戦国時代へ突入。これらエンタテインメントの光を通して、私たちの審美眼もどんどん肥えていくようになりました。
「あしかがフラワーパーク」
「伊豆ぐらんぱる公園」
光の魅力と「魔法の力」
しかし、イルミネーションの魅力とは一体何なのでしょうか? この質問には様々な答えがあると思いますが、私なら「笑顔になる明かり」と即答するでしょう。華やかなイルミネーションを見て怒っている人は皆無です。むしろその逆で、「きれい!」とか「美しい!」とか叫んだりつぶやいたりしながら写真を撮影する人がほとんどです。その皆さんの笑顔、なんと素晴らしいことでしょう。イルミネーションの光が瞳に入ることで瞳孔が開き、人の顔が最も魅力的になると言われていますが、口角も上がり笑顔もいつもよりも自然です。まさに“素敵な笑顔”の典型で、そんな他人の笑顔を見ているだけで、周囲もどんどん笑顔に包まれていくのです。そんな姿を見ていると、私もイルミネーションの仕事をして良かったと、どんな苦労も忘れてしまうのです。
「ハウステンボス」
癒やしや生命力、時空を超える力、イマジネーション、人々を笑顔にする力…。光には数え切れないほどの魅力があります。そう考えていくと、電気は姿や形を変えながら、私たちを魅了してやまない「魔法の力」を持っていると言えるでしょう。そしてこの先、電気はどのような光に形を変え、どのような魅惑的な魔法を見せてくれるのか楽しみでなりません。
そして最後にひとつ。日本新三大夜景のひとつである、長崎・稲佐山からの夜景にはハートマークや星座が浮かび上がるようになりました。ハートは平和や希望の象徴と言えますが、今や夜景そのものが具体的なメッセージを発信するようになったのですから驚きです。これもまた、電気が生み出す、最新の魔法と言えるでしょう。
長崎の「星物語」
丸々もとお
夜景評論家/夜景プロデューサー/イルミネーションプロデューサー/(一社)夜景観光コンベンション・ビューロー代表理事
1965年生まれ。立教大学社会学部観光学科卒。1992年『東京夜景』上梓。日本でも唯一無比の夜景評論家として本格的活動を始める。「夜景」の美しさを景観学、色彩心理学などをベースに評論する等、夜景の本質を浮き彫りにする独自の「夜景学」の構築に取り組んでいる。夜景に関する著書は50冊以上。地方自治体など各地で夜景観光アドバイザーを歴任。イルミネーションのプロデュースに「ジオイルミネーション」(福井)、「TOKYO MEGA ILLUMINATION」(東京・大井競馬場)、「ハウステンボス」(長崎)、等、年間数十カ所を手掛ける。ライトアップに「出島」「国宝・大浦天主堂」、中町教会、北九州アイアンツリー等多数。
【丸々もとおのスーパー夜景サイト】http://www.superyakei.com
【一般社団法人 夜景観光コンベンション・ビューロー】http://www.yakei-cvb.or.jp/