全国各地にある発電所、その数はなんと4000カ所以上。一口に発電所といっても、実は一つ一つ違った個性があるんです。今回は、宮城県仙台市にある「日本の水力発電発祥の地」へ。なんと明治時代から今なお現役で動いている発電所の“中身”まで見れちゃう場所なんです。杜の都・仙台で「電気100年の歴史」に触れてみませんか?
杜を潤わせるのは水。100年休まずに動く「三居沢発電所」
明治時代――今から約130年前となる1888年7月。現在の宮城県仙台市にある三居沢(さんきょざわ)という地域で電気による明かりがともった。
ある紡績会社が、工場内に引いていた水を利用して、出力5キロワットの発電機を回し、工場内に50灯、隣接する山に1灯のアーク灯(照明の一種)を点灯させたのだ。
「日本の水力発電発祥の地」とされるこの場所に建つのが、今回訪れた「三居沢発電所」。なんと、その初点灯の瞬間から今に至るまで、現役で電気をつくり続けている。
現在も運転を続ける三居沢発電所。施設としては3代目となる発電所で、補強・修繕をしながら約110年もの間動いている
三居沢はJR仙台駅から少し西に位置し、「るーぷる仙台」というバスに乗れば、市内を周遊しながら40分ほどで訪れることができる。
るーぷる仙台とは、JR仙台駅前から「瑞鳳殿」や「仙台城跡」といった市内の主要観光スポットを巡ることができる観光バス。市民や観光客からの人気が高まり、2010年から国宝「大崎八幡宮」などとともに「三居沢発電所」も周遊ルートに加えられた。利用者数は右肩上がりで、仙台市によると年間58万人以上(平成30年度)が利用しているという。
三居沢発電所は現役の発電所ではあるものの、施設内で青葉山や広瀬川といった市内の自然についても学べる上、遊歩道を歩く広瀬川散策コースのスタート地点にもなっている。仙台の自然を味わうにもうってつけな、市内中心部の貴重な観光スポットの一つとなっている。
市内をぐるりと周回する「るーぷる仙台」は観光に最適。料金は1回乗車260円(大人)、るーぷる仙台一日乗車券630円(大人)ほか
「仙台城跡」は、伊達政宗公騎馬像や市内を一望できる観光のマストスポット(写真:仙台観光国際協会)
杜の都・仙台の総鎮守として名高い「大崎八幡宮」。社殿は国宝に指定されている(写真:仙台観光国際協会)
るーぷる仙台に乗って「交通公園・三居沢水力発電所前」というバス停で降り、少し歩くと建物の姿が見えてくる。ただ、発電所といってもパッと頭に浮かぶような巨大施設ではなく、レトロモダンなかわいい建物が目に入る。
それもそのはず。現存するこの建物自体がものすごく古く、建てられたのは今から100年以上前の1910年。発電所建屋は1999年に国登録有形文化財、内部にある発電所関係機器などは2008年に機械遺産(日本機械学会)、2009年に近代化産業遺産(経済産業省)にそれぞれ認定された歴史的価値が高いものなのだ。
壁の色などは修復しているものの、扉や外壁、内部の梁などは全て当時のものが維持されている
紡績会社で1888年に初めて電気が使われて以降、仙台市の“明かり”は次第に電気へと代わっていった。レトロモダンな建物が建てられたときに出力1000キロワットの発電機に入れ替わり、これが今も動いている。もちろん設備の修繕などは行っているが、今年で110年も働き続けているということになる。
そして、ここに来れば、この“100年越えの発電機”を、実際に見ることができる。その見学場所は、隣接する「三居沢電気百年館」(以下、百年館)。
東北に電気が誕生してから100年という節目、1988年に建てられた記念館。電気の歴史に関する資料がずらり
三居沢発電所の建物内にある発電機は、百年館からガラス越しで見学できる
発電機を回す水車は、この中に(写真奥)。メンテナンスを施されながら、100年以上動いている
発電機の他にも、百年館には電気の歴史を学ぶことができるさまざまな展示物がずらり。
東北に電気の明かりをともした最初の発電機(レプリカ)、100年間の電気の歴史年表、家電など電気器具の歩み、三居沢発電所の上棟式に使われた棟札などが所狭しと並ぶ。
普段から学生が多く訪れるというほど、学びの場としての価値も高い。
発電機のレプリカ(写真手前)は、当時、製造に協力していた東京大学に残っていた資料を基に復元。実機は国内初の完全な“メイド・イン・ジャパン発電機”とされている
三居沢発電所の上棟式で当時使われた棟札。こういった実物が数多く残されているため歴史的価値が高い
また、百年館の2階には「水と森のアトリエ」という子ども向けスペースも。電気や環境のことを遊びながら学べるのだが、大人に見てほしいのは階段の途中にある壁面。
1937年にパリ万国博覧会の光の館(電気館)で展示された大壁画のリトグラフ(石版画)で、世界で限定350部制作された内の1点。日本で常設展示されているのは、早稲田大学理工学部と金沢21世紀美術館と百年館の3カ所だけなのだそう。
電気をテーマにしたアートを鑑賞できるのも、三居沢発電所ならではの魅力だろう。
フランスの画家ラウル・デュフィ作「La Fée Eléctricité(電気の精)」のリトグラフ。原画は横60×縦10メートルもの巨大壁画で、パリ市立近代美術館に展示されている
百年館に入るとすぐに目にする三居沢発電所のリトグラフ。1900年代後半に活躍した画家ベルナール・ビュッフェが描いた
100年もの歴史を誇るこの発電所が今も動き続けられるのは、仙台を東西に流れる広瀬川の豊かな水量によるところが大きい。
三居沢発電所が水を引く場所から上流へいくと、広瀬川には2つの流域がある。一方はNHK連続ドラマ小説『マッサン』で話題となったニッカウヰ(イ)スキーの仙台工場宮城峡蒸溜所で利用され、もう一方は縁結びの聖地としても知られる「定義さん」(極楽山 西方寺)近くの貯水池で農業用などに使われている。
発電、酒造、農業と、広瀬川の水は100年以上前から、東北、さらには全国に、その恵みを与えてくれているのだ。
2階のテラスからは三居沢発電所が一望できる。目の前に見えるのは上にある水槽(貯水設備)から発電所内に水を流す水圧鉄管。この鉄管も1969年10月製と相当に古いが、いまだ現役
東北自動車道・仙台宮城ICの下に流れる広瀬川の水を、青葉山を貫通させた導水路を通して引いている。使われた水は、この放水路から再び広瀬川へと流れていく(2016年4月撮影)
三居沢発電所の発電する能力は、最大で1000キロワット。家庭で使われる電力のおよそ300軒分で、発電所の目の前にあるマンションのいくつかを支えられる程度だ。
現在は、隣接する変電設備にその他の火力発電所などから大量の電気が送られてきているため、三居沢発電所で生まれた電気もその一部となって町へと送られている。
1世紀にわたって杜の都を支えてきた発電所は、今では確かに街の発展を飛躍させるほどの能力はないかもしれない。それでも、この土地の文化の礎になってきたことは間違いない。100年休まずに仙台と一緒に動いてきた三居沢発電所を訪れて、その歴史に触れてみてはいかがだろうか。
※2020年2月29日から、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため三居沢電気百年館は臨時休館しています。再開時期は公式サイトなどで発表される予定です
■スポットDATA
三居沢発電所・三居沢電気百年館
住所:宮城県仙台市青葉区荒巻字三居沢16
電話:022-261-5935
時間:10:00~16:00
休み:月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始
料金:入館無料
https://www.tohoku-epco.co.jp/pr/miyagi/sankyozawa.html
取材協力:仙台市観光シティループバス「るーぷる仙台」