日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第4回は、茨城県東海村にある原子力科学館へ。「原子力」と聞いて思い浮かぶのは「放射線」。でも、そもそも放射線って何なのかよく分からない…その正体をConちゃんが調べてきました!
Conちゃん、「放射線」が日常にあふれていた事実に驚く!
編集部員Conちゃんが降り立ったのは、JR常磐線の東海駅。
茨城県北部にある東海村唯一の駅で、まさに村の玄関口。
東海村は、原子力発電所や量子ビームの研究センター、原子力施設の展示館である東海テラパークといった原子力関係の施設がたくさんある場所だ。
その中で、今回取材に訪れたのが、ここ。
原子力や放射線の基礎を伝えるべく、1966(昭和41)年に原子力展示館として東海村に開館。窓に描かれた「Ibaraki Museum of Nuclear Science」という文字が映えるアカデミックな建物だ。
ということで、Conちゃんはまずは近くの入口から建物の中へ。
パネルには、放射線を利用したものが置かれているとの解説が。
ケースの中を見ると、身の回りにある、ありとあらゆるものがあった。
宝石やガラスは、放射線を当てることで色が付けられるそう。しかも表面だけでなく、内部までというから不思議なものだ。
ちなみに、トパーズという宝石は、その多くが放射線加工で美しく彩られているらしい。
さらに…
コンビニで売られているマスクや絆創膏はもちろん、病院で使われる医療器具のほとんどは、出荷前に放射線が照射されている。
なぜかといえば、「パッケージのままで滅菌できる」から。
薬品などを使って消毒することもできるものの、パッケージのままでは消毒できないし、中身を空けてしまえば意味がない。
その点で放射線は、何ならダンボールに詰め込んだままでも、外側から照射することで中身を滅菌できるのだそう。
医療器具の他に、マーガリンなど食品の容器にも同じことが行われている。
また、ゴムやプラスチックの強度を高めることもできるので、パソコンやスマホなどのケーブル、自動車のタイヤ、テニスラケットのガットや三味線の弦まで。
身の回りの様々な物に、何かしらで利用されている。
早速、放射線が日常にあふれていたことに驚いたConちゃん。
一通り見終わってしまい、「この科学館、何だか狭いな~」と思っていたところ、どうやら別館に入っていた模様。
本館に入ると、放射線の歴史に欠かせない科学者の一人、アインシュタインが出迎えてくれた。
Conちゃん、「放射線」の正体を知る!
ようやく原子力科学館・本館の中に入ったConちゃん。
2フロアに分かれた館内を歩き回ってみると…
原子力や放射線の基礎を遊びながら理解できるような展示物はたくさんあるものの、やはり難解なものもそこそこある。
しょぼくれていたConちゃんに…
助け舟を出してくれたのが、原子力科学館の古川伸一さん。やはり難しい内容だけに、普段から科学館の人たちは訪れる人に声を掛けているそうだ。
古川「何か分からないことがあったら、質問してね」
古川「一般の方々が言っている放射線というのは、『電離放射線』のこと。電離放射線というのは、物質を電離させられる能力を持っていて、例えば、電磁波のガンマ線、X線、粒子線の中性子線、アルファ線、ベータ線。同じように思える紫外線や赤外線は放射線の仲間ではあるけれど、電離させる能力を持っていないから、別の種類なんだ…」
古川「……。すごく簡単に言うと、例えば焚火をしたときに感じる『熱や光』のようなものかな」
古川「熱や光を出す焚火が『放射性物質』、焚火から出る熱や光が『放射線』、熱や光を出す能力が『放射能』。火に当たると、温まったり火傷したりするでしょう。放射線にさらされると被ばくするというのも、似たようなことだね」
古川「ちなみに、ベクレル(Bq)とシーベルト(Sv)って単位を聞いたことがないかな? 両方、放射線に関係する単位なんだけど、意味は全く違うんだ。ベクレルは、ある物の放射能の強さを表した単位。シーベルトは、放射線がどれくらい人体に影響するかを表した単位。覚えておいた方がいいのはシーベルトで…」
古川「……。とても簡単に言うと、例えばボクシングで、ある選手が打ったパンチの回数がベクレル、相手選手が受けたダメージがシーベルト。パンチを打つ回数は選手によって違うし、頭や脇、ガード越しみたいにパンチを受ける場所によって、同じ力のパンチでもダメージは変わってくるよね。もし審判だったら何を判定基準にする?」
古川「正解。パンチを出した回数じゃなくて、与えたダメージで評価するよね。同じように放射線による被ばくも、ベクレルよりシーベルトの方が重要とされているんだ」
古川「放射線にさらされた状態のことだよ。人の細胞のDNAを傷つける可能性があるんだ。これが放射線による健康影響と言われているもの。これは、さっき言ったアルファ線とかベータ線といったいろいろな放射線によって、その影響度合は変わるんだけど、例えば、アルファ線なら皮膚の表面で止まるし、ベータ線なら薄い金属の板で遮ることができる。でも、中には通り抜ける力が強いものもあって、厚い鉄板じゃないと防げないものもあるんだ。一番身近なのは、自然から出るガンマ線かな」
古川「放射線は目に見えないから普段は気にならないけれど、空気中にもあるし、大地や宇宙からも出てる。だから、いつどこにいたって、目の前にあるんだよ。この『自然放射線』と呼ばれるもの、日本なら平均で年間2.1ミリシーベルト(シーベルトの1000分の1)の被ばくをしているんだ。世界の平均は2.4ミリシーベルトと少し高い。これは、木造建築が多い日本と違って、外国には石壁が多いから。例えば、花崗岩(かこうがん)はウランを含んでいるため、花崗岩が多いトンネルの中を電車で通ると、他の場所より放射線量は高くなる。地質によって変わるんだよ」
古川「だから、墓地や神社、なかなかレアだけど石畳なんかがある大きな家は少し線量が高いかもしれないね。それと、もう一つ日本には大きな特徴があって、自然放射線の被ばく線量は空気や大地からがおよそ半分で、残り半分は食品からのものなんだ」
Conちゃん、食べ物に放射性物質が含まれていることに驚く!
ちょっと難しい話を聞き過ぎて疲れたConちゃんは、ランチ休憩。
「もしかしてジャガイモにも放射性物質が入ってるの?」と思ったConちゃん。聞いてみた。
古川「もちろん。ただし、食べ物には食品中の放射性セシウム濃度の基準値というものが設けられていて、この数値を上回ったものは出荷できないルールになっているんだ。だから、スーパーなどで販売されているものは、きちんと検査された基準値以下のものなんだよ」
古川「日本では、食品からの被ばく線量が、年間1ミリシーベルトを超えないように設定されているんだ。『1キログラム当たり、一般食品は100ベクレル、牛乳は50ベクレル』のようにそれぞれ決められていて、これは乳幼児をはじめ全ての世代に配慮した値。しかも、世界と比較すると、日本は前提条件が厳しい値になっているんだよ」
◆食品基準値の考え方
【日本】被ばく線量が年間1ミリシーベルト以内になるように設定。一般食品は50%、飲料水と牛乳、乳児用食品は100%が汚染されていると仮定して算出。
【米国】被ばく線量が年間5ミリシーベルト以内になるように設定。食品中の30%が汚染されていると仮定して算出。
【EU】被ばく線量が年間1ミリシーベルト以内になるように設定。食品中の10%が汚染されていると仮定して算出。
※基準値は、食品や飲料水から受ける線量を一定レベル以下にするためのものであり、安全と危険の境目ではありません。また、各国で食品の摂取量や放射性物質を含む食品の割合の仮定値等の影響を考慮してあり、数値だけを比べることはできません。
出典)一般財団法人 日本原子力文化財団「原子力総合パンフレット Web版」より引用 ※厚生労働省「食品中の放射性物質の新たな基準値について」などより作成
古川「ちなみに、何でセシウムという元素を基準にしているかと言うと、他の放射性物質に比べて最も大きな数値を出す物質だから。セシウムの値を測れば、全体が分かると言ってもいいんだ。安全を確保するための検査だから、引っ掛かるものでいち早く探すために基準にしているんだよ」
古川「野生のキノコは気を付けた方がいいと言われているけれど、食品によって含まれる量は違うものの、その差は微々たるもの。そういった違いを気にするよりも、野菜をたくさん食べて、単純に健康を目指す方が絶対にいい。放性物質を含まない食品はないから、それを意識したら、何も食べられなくなっちゃうでしょ」
Conちゃん、科学者たちが本気で頑張っていたことに感謝する!
普段の生活の中で、思っていた以上に放射線が身近だったことを知ったConちゃん。
館内を古川さんと巡っていると、ある展示物に心が奪われた。
そう、放射線の中の一つ、X線を利用した空港の保安検査場にある手荷物検査の機械だ。
古川「これに入る人はまずいないけれど、X線など放射線を利用した医療用検査機器はたくさんあるよね。放射線を受ける量は、胸部のX線検診1回で0.06ミリシーベルトとされているよ。X線で病気を発見できることもあるんだ」
古川「実は、ある装置を使えば、通り道は見ることができるんだよ。それがこの『霧箱』」
古川「よく見てごらん。中に白い線が見えるでしょう。これが放射線の……」
古川「正しくは、“放射線が通った跡”。これは『飛跡』と呼ばれていて、放射線自体ではなく、放射線が通った部分が飛行機雲と同じ原理で白いスジ状になって見えているんだ。つまり、この場所の空気中にも放射線が飛んでいることが分かるよね」
古川「最初に寄っていた別館で見たと思うけど、医療では診断や治療に、工業では滅菌や装飾、強化、農業なら品種改良や保存、害虫駆除など、現代の生活を支えている身の回りの様々なものに放射線は使われているんだよ」
古川「それに、人類が生まれる前から放射線は地球上にあって、人間はその前提で生きてきたんだ。何かを検査しても、基本的に自然の中に放射線はあるから、その数値がゼロを示すことはあり得ない。だから、ある場所や特定の食品に対して、『放射線が出てるんでしょ?』と問われれば、『出てます』という答えになる。そう言うとそれに固執する人も少なくないけれど、“あり、なし”だけでなく、その数値も見てほしいんだ」
古川「なので、あらゆる場所に放射線があることをまず理解して、気にするべきところは気にして、まるっきり関係のないところは気にしない。気にしすぎて、別の意味で体を壊してしまっては困るでしょ。目に見えないものは、やっぱり理解するのがなかなか難しいよね」
原子力科学館を後にして、持参した最後のジャガイモを一口。「日本で唯一、食品に直接放射線を当てているのがジャガイモ。芽が出るのを防ぐために利用されている」と古川さんが教えてくれたことを思い出した。
大好物がかなり深い関係にあったことに衝撃を受けつつも、放射線のことをもっと知りたくなったConちゃんでした。
取材協力:原子力科学館
住所:茨城県那珂郡東海村村松225-2
電話:029-282-3111
http://www.ibagen.or.jp/index.php
★さらに日本の食品基準値について知りたい方はこちら!
「風評に立ち向かう」(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)