「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の役に立つため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしているのをご存じでしょうか。今回取り上げるのは、東北電力が地元の中学生を対象に行っている「東北電力 中学生作文コンクール」。なんと46年間も続いているコンクールです。長く続けてきた裏には、地域の未来を想う気持ちがありました。
1975年から続く東北随一の作文コンクール
子どものころ、誰もが書いたことがあるであろう「作文」。単純に書く能力や伝える能力を高めるだけでなく、自らの考えを深める機会にもなるため、広く教育に役立てられています。
そんな作文といえば読書感想文が定番ですが、学校が生徒に出題するもののほかにも、さまざまな企業や団体が主催する作文コンクールというものがあります。
東北電力が東北6県と新潟県の中学生を対象に開催する「東北電力 中学生作文コンクール」(以下、中学生作文コンクール)もその一つで、第1回が行われたのは1975年。それから毎年欠かさず開催され続け、今や東北の中学校では恒例のコンクールとなっています。
募集対象は東北6県と新潟県の中学校。各校から寄せられた作品は、各審査を経て最優秀賞1編、優秀賞6編、秀賞14編、佳作56編が選ばれる
数年ごとにテーマは変わりますが、第46回となる2020年度の募集テーマは「私の挑戦」・「私の成長」。審査員泣かせの力作ぞろいだったという2020年度の中学生作文コンクールですが、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、一時は中止も考えられました。
それでも開催に踏み切ったのは、「ぜひ今年もやってほしい」という学校関係者からの声が多かったことが大きな理由です。
主催する東北電力も、「自分自身を見つめ直し、将来に向き合うための良い機会としてほしい」という想いがあり、何とか開催できるよう調整を重ねました。
ただでさえ2020年は文化祭や部活動の大会などが軒並み中止や延期になっています。こうした学びの機会は、中学生たちにとって貴重なもの。結果、約400校から計1万6903編もの作品が集まりました。
2020年度に応募された実際の原稿。その筆跡や書き直し跡から生徒たちのエネルギーが伝わってくる
“学校賞”で東北の先生たちをバックアップ
コロナ禍という厳しい状況下、現場の教職員も対応に追われている中で、それでも開催が望まれた中学生作文コンクール。それほどまでに求められているのは、なぜなのでしょうか。同コンクールの運営を担当する東北電力 ソーシャルコミュニケーション部門の武蔵博子さんに尋ねました。
「東北・新潟に根差したコンクールという部分が大きいようです。全国規模の作文コンクールはたくさんありますが、そこで入賞するのは大変です。対して、東北6県と新潟県を対象にした中学生作文コンクールは、ある程度の規模がありながら、頑張れば入賞のチャンスが誰にでもあり、中学生の皆さんにとっても先生方にとっても非常にモチベーションになっていると聞いています」(武蔵さん)
過去の作品は東北電力のホームページから読むことができる
学校が熱心に取り組む理由がもう一つ。中学生作文コンクールの特徴でもある「学校賞」です。これは、次世代教育を支援する一環として、入賞者を出した中学校に対して教育備品を贈呈するというもの。
「学校側の希望に沿った教育備品を贈呈しています。これまでにはプロジェクターなどの情報機器や学校図書、珍しいところでは電子ピアノや和太鼓など、さまざまなものをお贈りしてきました。それを教育の現場で生かしていただくことで、東北電力として少しでも地域のお役に立てればと思っています」(武蔵さん)
入賞者だけでなく、学校にも賞を設けることで先生のモチベーションも上がり、同時に学校とのつながりも一層深くなる。地域の教育をバックアップすることを第一に考えた取り組みだからこそ、中学生作文コンクールは東北・新潟に浸透しているのです。
「数年前、表彰式で受賞された生徒さんのお母様が、自分も中学生のときにこのコンクールで賞をいただいたと話してくれたことがありました。『このコンクール、今も続いていたんですね』と感慨深いご様子で、こちらもうれしくなりましたね。これもひとえに、46年間途切れずに続けてきたからこそ。あらためて地域との結びつきの大切さを実感した出来事でした」(武蔵さん)
入賞者が初めて顔を合わせる表彰式(写真は2019年度)。2020年度は、感染拡大の防止に努めながら学校訪問による表彰式が行われた
東北の未来のために。震災直後も開催した想い
「作文を通じて自分の将来や地域の未来について考えていただくことで、未来を見つめる新鮮な目と感動する心を失わず、心豊かに成長していただきたい」
これが、第1回から変わらない中学生作文コンクールのコンセプトです。もっとシンプルにいうなら、「自分や地域の未来についてもっと考えてもらいたい」ということ。
なぜなら、その未来を担えるのは、その時々の中学生たちだからです。主催する東北電力は地域のインフラを支える企業として、そこに並々ならぬ想いを持っています。
記念すべき第1回目の作品集。この時のテーマは「わたしのまちの未来」。応募総数は6273編だった
だからこそ、東日本大震災が起こった2011年度も、中学生作文コンクールは開催されました。もちろん、議論がなかったわけではありません。それでも、「こういうときこそ想いを言葉に記す機会を失くしてはならない」と考えたのです。
長年審査員を務める作家の高橋克彦さんは、当時の総評にこうつづっています。
「結果を眺め、いまさらながらにこのコンクールの凄さを実感した。激動の中にあって子供たちは決して自己を失わず、目線を据えて前に進もうとしている。(中略)今だからこそ子供たちの輝いている心が際立つ。荒野に咲く美しい花々だ。こういう子供たちがいる限り東北は再生する」(原文ママ)。
中学生作文コンクールは、コロナ禍においても、その役割を果たしました。2020年度の最優秀賞・文部科学大臣賞に輝いたのは、山形県南陽市立赤湯中学校3年の佐藤充朗さんの作文『命と向き合う』でした。
大人たちとの害鳥駆除の体験を通じて感じた葛藤や動物との共存について、中学生のリアルな視点でつづられています。表彰式で、佐藤さんは今の気持ちをこう話します。
「このような素晴らしい賞をいただいて驚いています。今回の作文を書くにあたり、自分の経験や思いがきちんと伝わるか不安でしたが、多くの人に自分の考えを受け入れていただけたことを、とてもうれしく思います。作文にも書いたように、これからはもっと人間と動物の共存について考えを深めていきたいです」
リアリティあふれる文章で、自身の思いを真っ直ぐに表現した佐藤充朗さん(写真右から3番目)
東北電力では中学生作文コンクールをきっかけに、次世代支援プロジェクト「放課後ひろば」を約20年前にスタートしました。「東北電力旗 東北ミニバスケットボール大会」や「東北電力スクールコンサート」など、さまざまな文化・スポーツへの支援活動を広げています。
もちろん東北電力は電力会社ですから、これらが直接利益につながることはありません。そこにあるのは、社是に「東北の繁栄なくして当社の発展なし」と記されているとおり、地域の発展を願い、未来の子どもたちを支援したいという純粋な想い。
それを40年以上も前から形にし続けてきたのが中学生作文コンクールというわけなのです。
過去の受賞作品は東北電力のホームページで公開されているので、一度のぞいてみてください。東北・新潟の中学生たちが今何を考え、どう行動しようとしているのか、そのリアルな想いに触れれば、東北・新潟の明るい未来を垣間見ることができますよ。
■DATA
東北電力 中学生作文コンクール
問い合わせ:東北電力株式会社
電話:022-799-6061
URL:https://sakukon.tohoku-epco.co.jp/
■電気事業連合会ホームページ「地域共生への取り組み」
URL:https://www.fepc.or.jp/sp/social/