全国各地にある発電所、その数はなんと5000カ所以上。一口に発電所といっても、実は一つ一つ違った個性があるんです。いつもはそんな発電所の見学レポートをお届けしていますが、今回は“発電所の中身”を作る「三菱パワー 日立工場」を見学しました。90年以上にわたり、火力、水力、原子力とさまざまな発電所の重要設備が作られてきたこの場所。普段は一般公開されていない工場の中を覗いてみませんか?
オーダーメイドの超大型機械! 三菱パワー 日立工場をレポート
茨城県の北東部に位置する日立市。
春になれば桜並木が迎えてくれるJR常磐線日立駅からは、一直線に水平線が伸びる太平洋が臨めます。
JR日立駅のすぐ裏手には、目の前に太平洋が広がっている
そんな日立駅からほど近いところにあるのが、今回訪れた「三菱パワー 日立工場」です。
この場所に工場ができたのは、約90年も前の1930年のこと。
前身となる日立製作所の工場から始まり、統合、社名変更などを経て、現在の三菱パワー 日立工場になりました。
2020年に社名を変更し、現在の三菱パワー 日立工場に
電力関連の設備を作る三菱パワーが、国内に持つ主な製造拠点は4つあります。
大型ボイラーなどを製造する長崎工場、大型ガスタービンなどを作る高砂工場、環境プラントなどを製造する呉工場。その中で日立工場は蒸気タービンと中小型のガスタービン、発電機を製造しています。
長く伸びる工場の建屋群。43万4000平米の敷地内に20棟ほど並んでいる
そんな日立工場で、まず見学したのが「タービンの翼(ブレード)」を作る工場です。
発電所で使われる発電機は、主に回転するタービン(回転式の原動機)と、電気を生み出す発電機、それをつなぐシャフト(車軸)でできています。
蒸気を動力にする蒸気タービンの場合、ボイラーから出てくる高圧高温の蒸気をタービンの翼が受けると回転エネルギーが生まれ、くるくると高速で回ります。同時にタービンとシャフトでつながっている発電機も回り、電気が作り出される仕組みになっています。
つまり、発電のキーパーツとなるのが、ここで製造されている翼なんです。
タービンの組み立て風景。周囲に取り付けられている一枚一枚が翼(写真:三菱パワー 日立工場)
一口に翼といっても種類はいろいろ。基本的な役割は同じですが、長さや形が違うことで、生み出す回転エネルギーに差が出てきます。
また、サイズの違いで作り方も変わります。大きなものは鍛造翼(たんぞうよく)といって、最初からほぼ完成に近い形に成形されますが、小さいものは削り出し翼といって四角い金属の棒を機械に入れるだけで、ほぼ完成するという作り方。
機械の中にある回転する刃物で、まるでリンゴの皮むきのように、シュルシュルっと金属の棒を削っていきます。
高速タービンブレード加工ラインで翼を削り出す。1枚作るのに2時間程度かかる(写真:三菱パワー 日立工場)
タービンを組み上げるために必要な部品は、工程ごとにそれぞれ専用の機械があるため、工場内のあらゆるスペースに大型機械が並んでいます。
機械はたくさん並んでいるものの、人はまばら。昔はもっと細かい工程に分かれていて人手が必要だったそうですが、今では機械1台で大半の作業ができるようになり、人もスペースもだいぶコンパクトになったとか。
翼作りの最後は、研磨機や人の手で磨き上げる作業です。細かい部分などまで丁寧に削り、ピカピカに仕上げていきます。
翼の次は、タービンの組み立て工場に。
建屋の中では、大型クレーンで吊り上げられたタービンが、人の手でどんどんとパーツが組み上げられ、その姿をあらわにしていました。
あまりに大型だと、組み立てたとしてもそのまま出荷できないため、いったん調整をした後、もう一度バラバラにして発送するそう。
1基を組み立てるのにかかる期間はだいたい2カ月。損傷の原因となってしまうため、ごみ一つ、異物一つ入らないよう神経を使います。
さらに、タービン外側の固定された部分と、中にある回転する部分の隙間を測り、調整する作業にものすごく時間がかかるのだとか。
最も狭いところで1ミリメートル以下の隙間というから、高い精度と粘り強い根気が必要となる、まさに職人の世界なんです。
効率の良いタービンを作るため、ギリギリの狭さに調整するのがタービンメーカーの技術の見せどころ(写真:三菱パワー 日立工場)
同じ建屋の中には、水力発電用の水車を組み立てるエリアもあります。発電の歴史からすると、水車が最も古く、次に火力タービン、その後に原子力タービンが登場しました。
「水車」と聞くと昔ながらのイメージがあるかもしれませんが、現在は“スクラップ・アンド・ビルト”が盛んで、水力発電所で使われている古い水車を新しいものに入れ替える施設が増えているため、今はけっこう忙しいそうです。
水力発電所で使われるポンプ水車ライナー(写真:三菱パワー 日立工場)
次は、大型の部品を加工する工場へ。
タービンの軸となる部分を作るスペースでは、10メートルほどある粗く形どられた巨大な金属の塊を、大型の旋盤で削っていました。
横溝など細かい部分も、専用機械で加工します。さまざまな工程を経て、次第に細かな溝やラインが入った巨大なパーツができていく光景は、圧巻の一言です。
大型タービンの軸となる部分を旋盤で削り、形を作っていく(写真:三菱パワー 日立工場)
ちなみに、冒頭で「一般公開されていない工場」とお伝えしましたが、実は工場の中を見学できるチャンスもあります。不定期ですが数年に一度、工場敷地内を開放する日があり、この日だけは普段見ることのできない工場内の見学もあるとか。
そして、最後に訪れたのは、発電機を組み立てる工場です。
高さは約30メートル、長さは約240メートルもある大きな建屋で、先ほどのタービンとセットになる火力発電用、水力発電用、原子力発電用の「発電機」を作っています。
発電機を組み立てていく様子(写真:三菱パワー 日立工場)
発電機の原理を簡単にいうと、筒状に巻いたコイルの内側で磁石を回転させ電気を発生させています。
筒状に巻いたコイルを「固定子」、磁石(電磁石)を「回転子」といい、回転子は発電機にとって非常に重要な部品です。
回転子の製作現場で行われる大事な工程が、ローターシャフトという回転する部分にコイルを組み込んでいく作業です。1台につきおよそ1カ月かかり、異物が入り込まないよう、クリーンルームの中で行われます。
それぞれの部品が完成したら組み立て、発電機が問題なく動くか性能試験で確認。合格できれば現地へと発送されていきます。
この発電機、総重量450トンを超えるものもあり、組み立てた完成品をそのまま発送する場合もありますが、多くは一度各部品に解体されて、現地に送られていきます。
輸送の玄関口となる日立港までの距離は約12キロメートル。この道のりを、タービンや発電機は大型トレーラーに乗せられて深夜に運ばれます。超大型機械が一般道を通るため、道の途中にある歩道橋が“せり上がる”という日立市ならではの珍しい光景を見ることも。
現地で実際に組み立てられ、完成した火力発電用の発電機(写真:三菱パワー 日立工場)
こうした“発電プラント”を製造し続けてきた三菱パワーですが、「カーボンニュートラル」や「脱炭素化」という世の中の流れから、近年、新しい動きも見せています。
他工場で、世界最高レベルの高い効率を誇る大型ガスタービンをはじめ、バイオマス用のボイラー、大型の燃料電池などを開発。さらには、火力発電所を低炭素化できるようにする改造工事を推進したり、二酸化炭素を排出しない水素ガスタービンを用いた発電技術を開発するなど、さまざま方向から“次世代の発電プラント”を形にし始めました。
現在アメリカで進められている、水素を貯蔵し、大型ガスタービンで発電するというプロジェクトにも参画している
今後、“メインの電源”となることが期待される太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、どうしても気候の変化に影響されます。電力の安定供給のため、それをバックアップする調整力として、火力発電をはじめとした従来の電源はまだまだ重要な役割を担っていくことでしょう。同時に、カーボンニュートラルの実現に向けて、新たな発電方法にも期待がかかります。
三菱パワーが製造してきた火力発電用、水力発電用、原子力発電用のタービンや発電機などは、日本国内だけでなく、世界数十カ国で今現在、活躍しています。それは人々の生活はもちろん、世界中の産業を支える電力の安定供給に欠かせない存在です。
下支えとなるこうした発電所や次世代のエネルギー源開発を、さらに裏側から支えるのが、三菱パワー 日立工場をはじめとした発電設備の製造現場が担っていること。
安定して電気を作り、使う。その前提を生み出してくれている製造工場のこれからに注目です!
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