今、日本のエネルギー事情がどうなっているのか、最前線で活躍する先生が分かりやすくレクチャーする「エネスタ!」。第2回も前回に続き、日本エネルギー経済研究所の小川順子先生と、理系女子大生の大野南香さん、読者モデルの高橋晴香さん、働く女子の多田恵さんがディスカッション。話は日本を超えて、地球全体の問題へと広がります。地球温暖化をきっかけに、エネルギーについて一緒に勉強しましょう!
※【第1回】の記事はこちら
先生「前回は日本のエネルギー問題の観点から、エネルギーのベストミックスの必要性についてお話ししました。今回のテーマは『地球温暖化』です」
高橋「それなら分かります! 二酸化炭素が増えて、地球の気温が上がっている問題ですよね」
大野「でも、冬にすごく寒い日があると、本当に温暖化してるの?って思うこともあります」
先生「昔から叫ばれていますが、どこか実感しにくいところがありますよね。それもそのはず。実はこれ、将来の地球に関する問題だからなんです」
多田「今の問題じゃないんですか!?」
先生「もちろん、すでに影響は各地で起きています。二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスは、熱を吸収しやすい性質を持っていて、濃度が地球全体で高まると、地球が温まりやすい状態になります。地球温暖化は、この温室効果ガスの排出が原因である可能性が極めて高いとされています。地球が今よりも暖かくなると、さらにさまざまな不都合が起こり始めるんですね。そして、温室効果ガス排出増加分のほとんどは人間の活動が原因とされているので、つまり私たちのエネルギー問題と言えるんです」
多田「人間の活動って、どういうことですか?」
先生「私たちは産業革命以降、化石燃料を燃やしてエネルギーを作り、繁栄してきたと同時に、二酸化炭素を多く排出してきました。長い歴史の中で見ると、産業革命以降から現在までの200年ほどで、二酸化炭素の量が急上昇していることも明らかになっています」
大野「人類の急激な発展が原因ですか……」
多田「実際、温暖化はどのような影響があるんでしょうか?」
先生「北極やグリーンランドなど各地の氷河が減少しています。また海水の温度が上昇して膨張し、海水面が上昇。小さな島国では海岸侵食の被害を受け、移住するケースもあります」
大野「ツバルの話を聞いたことがあります。国全体の海抜が低く、海面が上昇してしまうと、国が丸ごと海に沈んでしまう可能性があるって」
高橋「日本ではどんな影響があるんだろう?」
先生「身近なところでは、春先の気温の変化にともない、桜の咲く時期が早まったりしていますよ」
多田「桜にも影響が?」
先生「私が東京で学生だったころは、4月の入学式のころに開花していましたが、今は早い場合だと3月の卒業式の時期ですよね」
多田「確かに、昔に比べてだんだん開花宣言が早くなってる気がする!」
先生「これも温暖化による気温の上昇が原因だと考えられています」
大野「でも、きっとこれ以上温暖化しないよう対策も取られているんですよね?」
先生「日本は資源が限られているので、それをいかに効率的に使うかが重要視されています。そのため、徹底した省エネルギー(以下、省エネ)が推進されているんです。省エネによってCO2の排出が抑制され、地球温暖化問題の解決にもつながっていきます。日本はこれまでも省エネに取り組み、世界でもトップクラスを達成してきましたが、今後も、さらなる省エネを進めることが必要です」
大野「省エネって、やはり重要なんですね」
先生「また、再生可能エネルギー(以下、再エネ)や原子力発電の活用も推進されています」
高橋「なんで再エネや原子力が必要になるのですか」
先生「実は日本では、東日本大震災以降、温室効果ガスの排出量が増加しています。このうち、電力分野における2016年度の排出量(エネルギー起源CO2)は、原子力発電の長期停止などによって、2010年度と比較すると5,400万トンも増加しました」
●日本の温室効果ガス排出量の推移
出典:経済産業省資源エネルギー庁「2018―日本が抱えているエネルギー問題」より
先生「次のグラフを見ると分かるように、再エネや原子力発電は発電時にCO2を排出しないことから、CO2削減のためにも、今後いかに活用するかがとても重要になってきます」
●日本の電源種別ライフサイクルCO2の比較
出典:電気事業連合会「エネルギーと環境2017」より
大野「本当だ。省エネも、再エネも、原子力も、地球の温暖化対策とつながっているんですね」
先生「その通り!でも、日本だけが頑張ったところで……という問題もあります」
3人「???」
先生「このグラフを見てください」
●各国別の温室効果ガス排出量割合
出典:経済産業省資源エネルギー庁「今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」より
先生「世界の二酸化炭素排出量を見ると、中国、アメリカ、EU、インド、ロシアで約6割。日本はたったの約3%。日本だけが削減しても、その影響は限られます」
多田「では、どうしたらいいんですか?」
先生「だからこそ、世界全体で対策することが必要なんです」
高橋「対策というと?」
先生「2015年に開かれた国際会議(COP※21)では、途上国を含む全ての参加国に排出削減の努力を求める『パリ協定』が採択されました。パリ協定では、世界の平均気温の上昇を2℃より十分に下回る水準に抑制、また、1.5℃以内に抑えるよう努力することが掲げられています」(※国連気候変動枠組条約における締約国会議)
多田「日本も参加しているんですか?」
先生「はい。日本は中期目標として、2030年度の温室効果ガスの排出を、2013年度の水準から26%削減することを目標として定めています。実は、温暖化は自然への影響にとどまらず、やがては人命に対する脅威にもなるんですよ」
大野「異常気象で田畑が被害にあって、食料不足が起きるとか?」
先生「その先が続きます。例えば、シリアでは異常気象による大干ばつで150万人が職を失い難民化しました。彼らが都市に流入したことで政情が不安定になり、内戦が発生。その間にテロ組織が台頭していき、国はさらに混乱していったんです」
多田「巡り巡ってテロ組織にまでつながるなんて……」
先生「特に日本だと、普段は便利で快適だし、気付くことは難しいですよね」
大野「けれど、対策しなければ、悪化するばかりですもんね。人口と経済を縮小させずに、どうやって温暖化を止めるのか……うーん」
先生「本当に難しい問題に直面しているんです。その中でも、日本は頑張っている方だと思います。ちなみに今、国内総生産(GDP)の世界ランキングで日本は何番目か知っていますか?」
大野「上からアメリカ、中国、ロシア、で、日本ですか?」
先生「正解は、次回にお話ししましょう」
⇒後編に続く
<profile>
小川順子(おがわ・じゅんこ)
財団法人日本エネルギー経済研究所・地球環境ユニット地球温暖化政策グループ研究主幹。専門は地球温暖化政策分析や省エネルギー政策分析。1997年に入所以来、国際エネルギー経済学会やエネルギー資源学会、セミナーなどを通じてエネルギー問題の理解促進に尽力する。
大野南香(おおの・みなか)
1999年3月生まれ、愛知県出身。東京大学教養学部理科二類2年。東京大学2017年準ミスグランプリ。趣味は弾丸旅行や料理。今回は理系女子の視点からエネルギー問題に斬り込む。
高橋晴香(たかはし・はるか)
1989年1月生まれ、東京都出身。読者モデル、インスタグラマーとして活動。特技は卓球やジャズダンス。電気料金や節約術などエネルギーのあれこれを今どきの女子目線で問う。
多田恵(ただ・めぐみ)
1986年生まれ、千葉県出身。雑誌編集者。趣味は旅行や最新グルメ巡り。今回は働く女子代表として参加し、気になっていたエネルギー関連のニュースなどへの疑問をぶつける。
2025年4月に開幕する、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)。9月には電気事業連合会のパビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』の展示&体験内容も発表され、ますます盛り上がりを見せている。半年後に迫った大阪・関西万博の情報を振り返って、来年の開幕を楽しみに待とう!
【2025大阪・関西万博】エネルギーの可能性に“タマゴ”が反応して光る!?電気事業連合会のパビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』の体験内容が初公開!
【2025年大阪・関西万博】電気事業連合会のパビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』のキャラクターが決定!~キャラクター&ロゴ発表会レポート~
エネルギーの最新技術が満載!環境や人権にも配慮した「大阪・関西万博」で未来社会が見える!?
2025年大阪・関西万博が待ち遠しい!電気事業連合会のパビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』とは?
電気事業連合会のパビリオン名は『電力館 可能性のタマゴたち』に決定!~2025年大阪・関西万博 民間パビリオン構想発表会レポート~
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)に出展する、電気事業連合会のパビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』の展示&体験内容がついに明らかに!2024年9月3日に大阪市内で行われた記者発表会では、パビリオン内で使用する「タマゴ型デバイス」がお披露目されました。展示内容や来館者の体験に応じて光ったりふるえたりするという不思議な“タマゴ”とは一体…!?多くの報道陣が詰めかけた記者発表会の模様を、Concent取材班が詳しくレポートします!
タマゴ型デバイスを使って楽しく学べる体験型展示
発表会の開会とともに会場の照明が落とされ、2023年11月のパビリオン着工から現在に至るまでの建設記録映像が上映。まだ工事は続いていますが、すでに万博会場内に大きなタマゴ型のパビリオンがお目見えしているようです!
『電力館 可能性のタマゴたち』の建設状況。様々な形の平面で構成されるボロノイ構造を採用したタマゴ型の外観が特徴(提供:電気事業連合会)
『電力館 可能性のタマゴたち』は、シルバーの外郭が目を引くタマゴ型のパビリオン。電力業界ならではの視点で描かれた、様々なエネルギーの可能性について楽しく学ぶことができるそうです。
会場の期待が高まる中、電気事業連合会 副会長の佐々木敏春さんによる「電気事業連合会が目指す、2050年カーボンニュートラルに挑戦する姿を見せたい」という力強い挨拶がありました。そして、お待ちかねの『電力館 可能性のタマゴたち』の体験内容の発表!プレゼンテーションをするのは、大阪・関西万博推進室の室長であり、『電力館 可能性のタマゴたち』の館長を務める岡田康伸さんです。
電気事業連合会 大阪・関西万博推進室 室長・『電力館 可能性のタマゴたち』館長 岡田康伸さん
ステージ上の岡田館長の首元には、何やらタマゴ型の物体が。これはパビリオンで使用する「タマゴ型デバイス」というものだそう。「このタマゴ型デバイスはエネルギーの可能性に対して様々な反応を見せるんです。電力館に来られたみなさんには、一人一つ首から掛けて館内を巡りながら、様々なエネルギーの可能性を探し、集める体験をしていただきます」。
パビリオンでは、様々な色に光る「タマゴ型デバイス」の中から好きなデバイスを一つ選び、首から掛けて館内を巡る
パビリオンの内部は、「プレショー」「メインショー」「ポストショー」の3部構成。プレショーでは、「エネルギーの可能性」を探す体験について、映像とタマゴ型デバイスを連動させながら紹介します。メインショーでは、未来を切り開く可能性を持つ約30のエネルギーを展示する「可能性エリア」と、大空間の中で無数のLEDと光、タマゴ型デバイスが連動する没入型の展示「輝きエリア」の2つのエリアを巡ります。最後のポストショーでは、百科事典をコンセプトとした空間で実物・パネル展示を見ながら、メインショーの体験を振り返ることができます。
パビリオン内部の館内イメージ。「プレショー」「メインショー」「ポストショー」の3部で構成される(提供:電気事業連合会)
展示の中でも一番の見所は、エネルギーの可能性を探し、集める体験ができるメインショーの可能性エリア。例えば、核融合の展示では、卓上に投影される原子核に見立てた光る球をタマゴ型デバイスにくっつける(融合させる)体験を予定しているそう。反発し合う2つの原子核をうまく融合できた時に、膨大なエネルギーが生まれる核融合の原理をゲーム感覚で体感できるとのこと。大人も子どもも楽しみながらエネルギーへの興味や関心を高められそうです!
核融合の体験イメージ(提供:電気事業連合会)
「現在、ほとんどの電気製品は有線ケーブルからの給電を必要としていますが、未来ではケーブルがなくてもスマートフォンが充電できる、あるいは電気自動車が走行しながら充電されるようになるかもしれません。こうした無線給電の技術を体感してもらえるよう、電気を無線で送るような体験も考えています」と岡田館長。
無線給電の体験イメージ(提供:電気事業連合会)
この他にも、風力発電や水素発電、潮の満ち引きをエネルギーに換える潮流発電、薄くて、軽く、柔軟な次世代太陽電池(ペロブスカイト太陽電池)を使った発電など、すでに研究が始まっているものから実証実験が進んでいるものまで、様々な展示を予定しているそう。太陽光や風力だけでなく、水素や潮の満ち引きもエネルギーにできる可能性があるとは驚きです!『電力館 可能性のタマゴたち』では、新たな発見がたくさんありそうですね。
タマゴ型デバイスのふるまいに驚いた表情を見せる子どもたち
「大事なことはエネルギーの可能性を探し、集め、育てていくこと。電気事業連合会は多くの方に電力館にお越しいただき、楽しんでいただけるよう準備を進めています。ぜひ、電力館でこのタマゴ型デバイスと一緒にエネルギーの可能性を集める体験をしていただければと思っています」という言葉をもって、岡田館長による体験概要の発表は終了しました。
ユニフォームはパビリオンの外観との親和性を重視
ボロノイ構造をデザインに取り入れた『電力館 可能性のタマゴたち』のスタッフユニフォーム
記者発表会では『電力館 可能性のタマゴたち』のスタッフユニフォームも発表されました。様々な形の平面を組み合わせたボロノイ構造を採用したパビリオンの外観に合わせ、グレーを主体としたモノトーンカラーで統一されています。
デザイナーの成清良太さん。成清さんは2005年日本国際博覧会(愛・地球博)の会場サービスアテンダントのユニフォームデザインも担当
デザインを担当したデザイナーの成清良太さんも登壇し、「ボロノイ柄、ボロノイのパーツをデザインに取り入れることで、パビリオン外観との親和性を高めました。ボロノイ柄のシャツは、生地の裁断位置によって一枚一枚表情が異なっています」と、デザインのポイントを解説してくれました。パビリオンのテーマである“可能性”を表現しながら、生地に再生ポリエステルなどを使うことで、持続可能な開発目標(SDGs)にも配慮しているそうです。パビリオンではスタッフユニフォームにも注目ですね!
質疑応答では、報道陣からパビリオンの体験内容を中心にたくさんの質問が飛び交い、未来のエネルギーを体感できるパビリオンへの関心の高さが伺えました。今後は、2025年の2月末までにすべての工事を終え、2025年4月13日の開幕に向けて展示内容をブラッシュアップしていくとのことです。いよいよカウントダウンが始まった開幕に期待が高まります!
ドキドキ感・ワクワク感が詰まったエンタメ感のあるパビリオンに!
Concent取材班は記者発表会終了後の岡田館長を直撃取材。発表会の感想や今後の意気込みについてお伺いしました。
「子どもはもちろん大人にも楽しんでもらえるパビリオンにしたい」と話す岡田館長
――――――「タマゴ型デバイス」を使った体験内容を聞いて、とてもワクワクしました!
岡田館長:ありがとうございます。私もモックアップ(試作品)で実際に体験してみたのですが、めちゃくちゃ面白いんですよ!子どもたちがメインターゲットではありますが、上手くできたら大人でも楽しいと感じると思いますし、エネルギーの可能性をより身近に感じてもらえることを確信しています。
――――――体験内容の構想には、どのくらいの期間をかけられましたか。
岡田館長:3年半以上ですね。「未来を担う子どもたちに、どのようにエネルギーの未来を伝えていくか」というテーマで検討をスタートし、まずは新しいエネルギー技術の探索、そしてエネルギー関係のスタートアップの方とディスカッションなどを行いました。その頃は楽しかったのですが、パビリオンとして面白さやワクワク感を演出する「体験」を考える段階に入ると、思った以上に苦戦しました。ここは本当に悩みながら、万博推進室のメンバーとも議論を交わしながら進めていきました。
メインショーの「可能性エリア」だけでも約30の展示があるのですが、核融合はどのように体験してもらえば理解できるのか、水素発電はどのように伝えていくべきなのか、それぞれの展示の落とし込み方についても、かなりの時間をかけています。小学校の先生方に展示の内容案を伝えて、子どもたちに楽しんでもらえそうかどうかという観点で、ご意見を伺うこともありました。
――――――どのような想いで構想を進めていったのでしょうか。
岡田館長:来館者の方にタマゴ型デバイスを通していろいろな体験をしてもらうことで、「電力館に来て良かった」「ドキドキ、ワクワクした!」と感じてほしい、これに尽きます。今日、体験内容を発表しましたが、これはあくまで概要で、まだ検討を重ねている所もあります。楽しくて学びのあるパビリオンを目指して、これからさらにブラッシュアップしていく予定です。
――――――今日発表されたスタッフユニフォームもスタイリッシュで素敵でした!
岡田館長:パビリオンのボロノイ構造とリンクしたデザインになっているんです。ボロノイの種類は60種類ほどあるので、よーく見れば違いがわかるかもしれません(笑)。当初、既製品を採用することも案としてはあったのですが、パビリオンの世界観を演出するためには、オリジナルのユニフォームが必要だと考えて制作しました。来館者の満足度を少しでも上げることができたらうれしいですね!
――――――発表会に先行して、マスメディア向けのパビリオンを間近でかつ内部まで撮影できる「現地(夢洲)取材会」が開催されました。
岡田館長:想定よりも多くの報道陣の皆さまにお越しいただき、大変うれしく思っています。参加された報道陣の方からは、「パビリオンの中まで公開してくれるんですか?」という声も挙がり、大盛況でした。2025年の2月末には竣工する予定なので、ぜひ楽しみにしてほしいです。
「現地(夢洲)取材会」で撮影した『電力館 可能性のタマゴたち』。入り口も特徴的!
パビリオン内部のメインショーのエリアが報道陣に公開された
――――――2025年4月の開幕に向けて、意気込みをお聞かせください。
岡田館長:いよいよ開幕までのカウントダウンがはじまり、しびれる状況になって来ました(笑)。万博推進室の16名のメンバー全員が一丸となって、会場の中でも注目を集めるパビリオンにしようと頑張っています。電力館の敷地内に設ける屋外イベントスペースでは、様々なパートナーの方々とコラボレーションしてイベントを開催したいと考えており、今はその検討も大詰めです。開幕に向けて盛り上げて行こうと思っていますので、ぜひご期待ください!
「いのち輝く未来社会のデザイン」がテーマの大阪・関西万博で、電気事業連合会のパビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』ではどんな「未来」が体感できるのでしょうか。開幕がより待ち遠しくなりますね!
企画・編集=Concent 編集委員会
★節電情報について知りたい方はこちら!
夏から秋は、特に台風や豪雨などの災害が起こりやすくなる季節。さらに、昨今は大型の地震への警戒も高まっている。防災月間でもある9月、防災関連の記事を改めてチェックして、災害への備えを考えてみよう。
2019年9月、千葉県に台風15号が上陸。その際、8万2000棟を超える住宅に被害が生じ、64万戸余りが停電しました。長期停電によって不便な生活を強いられる被災者の姿を通じて、「備蓄」に注目が集まりましたが、あれから数年経った今、備えることの大切さを忘れてしまっている人も多いのでは?
そこで今回は、管理栄養士・防災士・災害食専門員の今泉マユ子さんに在宅避難の備えについてお話を聞きました。
管理栄養士・防災士・災害食専門員の今泉マユ子さん
避難所は満員の可能性も!?「在宅避難」のための備えが必要
――はじめに、今泉さんは普段どのような活動をされているのでしょうか。
管理栄養士・防災士・災害食専門員の資格を持っていて、管理栄養士歴は30年以上になります。東日本大震災をきっかけに防災食の研究を始め、現在では防災食アドバイザーとして全国で講演活動を行っています。メディアでは「レトルトの女王」「缶詰の達人」「保存食の達人」とも紹介され、SDGsや食育にも力を注いでいます。
――災害が起こったらどこに避難すればいいのか判断に迷いそうです。どのように避難先を決めるべきでしょうか。
今、多くの自治体では「在宅避難」を勧めています。もともと避難所の数が足りていなかったところ、新型コロナウイルスの影響で1人当たりのスペース基準が見直され、避難所の収容可能人数が大幅に減少しているためです。避難所は地域住民全員が入れるわけではないということを、まずは知っておいてほしいですね。
プライバシーが確保できて避難所に比べるとストレスの少ない在宅避難ですが、災害時に在宅し続けるには、3つのポイントをクリアにしておく必要があります。
1.自宅の周辺に危険がないか
自宅の周辺に、氾濫しそうな川や土砂崩れしそうな山など差し迫った危険がないか。災害が起こる前にハザードマップで確認しておきましょう。
2.家の中が安全か
家の耐震補強、家具などの転倒・落下・移動防止対策ができているか。どんなに道具や食料の備えが万全でも、家の中をまず安全な場所にしなければ命は守れません。在宅避難することを想定して、災害が起こる前に家具の転倒防止など対策しておきましょう。
食器棚、冷蔵庫、本棚などは、いざという時に備えて転倒防止対策を(sanae / PIXTA)
3.備えがあるか
水・カセットコンロ・食料・懐中電灯・衛生用品・携帯トイレ・ラジオなどの備えがあるか。ただし、懐中電灯があっても電池がなければ使えません。パスタがあってもカセットコンロとボンベがなければ調理はできません。大抵は「使うもの」に対して「使うために必要なもの」があります。自分にとって必要なものを書き出して、実際に使ってみるといいでしょう。電気、ガス、水道がストップしても、備えがあれば在宅避難することは可能です。
非常時に「使うもの」と「使うために必要なもの」を考えてみよう(にしやひさ / PIXTA)
以上の3つのポイントのどれか1つでも欠けていれば、在宅避難はできません。その場合は、避難所や親戚・友人の家、ホテルなどに避難することになります。在宅避難するためにも、災害が起きてからではなく、今できることをやっておくことが大切です。
防災食は「普段から食べ慣れたもの」を用意。栄養バランスも考慮して
――平時から自宅にとどまる準備をしておくことが大切なのですね。では、防災食は何を準備すべきでしょうか。
絶対に備えておいて欲しいのが水です。水は1日1人あたり3リットル×最低3日分が必要で、1週間分あるとより安心です。家族が多いとかなりの量になりますが、子ども部屋や寝室など各部屋に置いておくことをおすすめします。飲料水は棚やベッド下、押し入れに、生活用水は空いたペットボトルに水道水をふちいっぱいまで入れて、トイレや物置きなどに分散して場所を確保しましょう。
保管場所の工夫をしながら水を分散備蓄
食べ物に関しては「これを備蓄しておけばOK」というような全員に共通するものはありません。なぜなら、食べたいものは一人ひとり違うからです。例えば、私は毎朝プルーンを食べているので、災害時にも同じものを食べられるよう、普段から多めに備えています。コーヒーが好きな方はコーヒーでも良いでしょう。災害時は、非日常が続くことがストレスになりますが、いつもと同じものを口にすることでホッとするんです。逆に、普段食べ慣れないものを災害時に「仕方なく」食べることは、ストレスにつながりそうですよね。長期保存ができる防災食にしても、まずは一度食べてみて、好きなものを見つけてほしいですね。
――普段食べているものを多めにストックしておくだけでも災害用の備蓄になるんですね!あとは、避難中の栄養バランスも気になります。
健康を維持するためにはもちろん栄養バランスも大事です。防災食を「エネルギーとなる糖質や脂質」・「血や肉になるタンパク質」・「体の調子を整えるビタミン、ミネラル、食物繊維」の3つのカテゴリーに分け、それぞれまんべんなくストックしておくといいでしょう。
・エネルギーとなる糖質や脂質
アルファ化米、パックご飯、餅、パンの缶詰、レトルトおかゆ、麺類など
・血や肉になるタンパク質
さば缶、ツナ、さきいか、コンビーフ、焼き鳥缶など
・体の調子を整えるビタミン、ミネラル、食物繊維
野菜ジュース、ミックスビーンズ、乾燥野菜、ドライフルーツ、フルーツ缶詰、海藻類など
おすすめは、ドライパックの缶詰やパウチです。ドライパックは開けてすぐにそのまま食べられて、災害時に不足しがちな野菜類も補えます。大豆、ひじき、ミックスビーンズ、コーン、ごぼう、キノコなどの種類があり、我が家では普段から活用しています。
また、長期常温保存できる豆腐もおすすめです。豆腐は水分補給にもなりますし、紙パックを切ってそのままスプーンで食べられます。
フェーズフリーで「日常=防災」に。ローリングストックを実践しよう
――防災食として買ったものを棚の奥にしまい込んだまま忘れてしまい、賞味期限切れになってしまうことがよくあります。
「防災食」や「非常食」と呼ばれるせいか、災害が起こった非常時に食べるものと思い込んでいる人は多いですよね。そこで大事なのが「フェーズフリー」という考え方です。フェーズフリーとは、「日常」と「非常時」という2つのフェーズ(局面)をフリーにするという意味。普段使っているもの、食べているものを、非常時にそのまま活用するんです。
そのためにもぜひやってほしいのが「ローリングストック」です。ローリングストックとは、普段食べているものを多めに買っておき、食べたら買い足すのを繰り返す方法です。ローリングストックをうまく回すには、食料品を非常用持ち出し袋にしまい込むのではなく、日常的に食べて消費することが大事です。
ローリングストックで備えることで、非常時も食べ慣れているものを口にできる(にしやひさ / PIXTA)
――「日常的に食べるもの」と「備蓄品」を分けて考えない方がいいんですね!
そうなんです。スーパーで冷蔵冷凍コーナー以外を見ると、そこにあるのは全部常温保存できるもの。シリアルも、ゼリー飲料も、乾物も、「こんなにたくさん種類があるんだ!」ということに気づくと、選べる食品ってすごく増えると思いませんか?普段からそれらを食事に取り入れて、好きなものは多めに買って置いておくことを繰り返すと、ローリングストックが習慣化していきますよ。
ローリングストックの習慣化には食品の「見える化」が大事
――ローリングストックで食品を上手に管理する方法を教えてください。
賞味期限を切らさないこと、そして、普段の食事で食べたいものが選べるように、「見える化」することが大事です。そこで、我が家で実践している管理法をいくつかご紹介します。
・賞味期限をマジックで書く
缶詰の賞味期限は、黒マジックで大きく書いています。戸棚に黒マジックを常時置いておくと、缶詰をしまう時にパッと書くだけなので簡単です。
賞味期限の「見える化」を意識
・レトルト食品は本棚に並べて保管
レトルト食品の箱は本棚に並べています。左側に賞味期限の近いものを置き、なるべく左から取ることを家族でルール化しています。本棚に並べるとスライドしやすく、取ったところが歯抜けになるので、ないことがすぐにわかります。ポイントはいろいろな種類を置いておくこと。非常時でも、その時の気分によって食べものを選ぶことが安心感につながります。
「選べるワクワク感があるようで、子どもたちにも好評です」と今泉さん
・賞味期限ごとにかご分けする
食品の種類別に分けると賞味期限を管理するのが難しくなるので、賞味期限ごとにかご分けしています。いろいろな食材が混じっていても、「サラダにツナを使おうと思ったけど、アサリの賞味期限が切れそうだから今日はこっちにしよう」と、その中から工夫して使うようになります。
・食べる日を決めて防災食を活用する
毎週水曜日、毎月1日など、日にちを決めて防災食を活用することをおすすめします。防災食の量や味、食べ方を知ることができますし、好きな防災食を見つけて備蓄のレパートリーを増やすきっかけにもなります。
もしもの時に備えて、普段からシミュレーションをしておこう
――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
普段やってないことは災害時に急にはできません。普段から「もしも」を想定したシミュレーションをしておきましょう。我が家は子どもが2人いるのですが、“防災訓練”となると身構えてしまうので、家族で楽しみながらできる「防災ごっこ」をよく行っています。私がおすすめしているのは、「もしもしごっこ」、「停電ごっこ」、「断水ごっこ」の3つです。
「もしもしごっこ」では、毎月1日、15日に体験利用ができる「災害用伝言ダイヤル(171)」を使ってみましょう。171番に電話をかけるとメッセージを登録・確認でき、自分の状況を知らせることや家族や親戚の安否を知ることができます。災害時は電話がつながりにくくなるので、いざという時に重宝するかもしれません。30秒で伝言を入れなくてはいけないので、初めてだと結構焦ると思いますよ。
毎月1日と15日は「災害用伝言ダイヤル(171)」の体験利用ができる(にしやひさ / PIXTA)
「停電ごっこ」では、夜真っ暗にして懐中電灯でご飯を食べてみてください。意外と暗いと感じて「懐中電灯やランタンを増やしておこう」と思うかもしれません。「断水ごっこ」では、備蓄している水だけで調理してみると、「水ってこんなに必要なの!?」と気づくことになるでしょう。
災害対策には色々なやり方があるので、普段から試してみることで自分に合う方法を見つけてみて下さいね。
いつ起こるかわからない自然災害。日頃から意識的にローリングストックしておくことは、いざという時の助けになるだけでなく、普段の食生活も豊かにしてくれそうですね!
2019年9月、千葉県に上陸した台風15号の影響により最大64万戸あまりで停電が発生し、完全復旧までに約2週間かかりました。この時は、強風の影響で鉄塔や電柱などの設備に被害が出て停電が長期化しましたが、実は、日本の停電発生頻度および停電時間は極めて少なく、世界トップ水準なんです。電気事業連合会の調べによると、2022年度のお客さま1軒当たりの年間停電回数は、0.04回、停電時間は、6分です。この実績が、「電気はいつでも当たり前に使えるもの」と思われている所以でしょうか。ただ油断は禁物ですので、もしもの時のために停電への備えはしっかりとしておきましょうね。
今泉 マユ子(いまいずみ まゆこ)
管理栄養士として大手企業の社員食堂、病院、保育園に長年勤務。食育、災害食、SDGsに力を注ぎ、2014年に起業。管理栄養士の他、調理師、食育指導士、防災士、日本災害食学会災害食専門員など多数の資格を有し、各ジャンルの知識を踏まえた災害時の備えについて、全国で400以上の講演を行う。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌など多方面で活躍。主な著書に『かんたん時短、「即食」レシピ もしもごはん 』(清流出版)、『親子で学ぶ防災教室 災害食がわかる本』(理論社)。
『かんたん時短、「即食」レシピ もしもごはん 』(清流出版)
企画・編集=Concent 編集委員会
★節電情報について知りたい方はこちら!
私たちの生活の中で、何気なく使っている“電気”。身近にありすぎて、なかなかその大切さを実感しづらいが、もし本当に電気が使えなくなったら…?この「電気なし生活」では、人気の漫画家が実際に電気を使わない生活にチャレンジ。私たちの暮らしになくてはならない電気について、改めて考えてみよう!
2024年3月16日、日本大学文理学部次世代社会研究センター「RINGS」と日本大学櫻丘高等学校の共同企画「探究学習成果発表会」が開催されました。発表会は、高校生、大学生、社会人が1つのグループとなってテーマごとに探究を進めるRINGSの「高大連携事業」が企画したもので、電気事業連合会もプロボノ(職務上の専門知識・技術を生かして行うボランティア)として参加しています。そこで今回は、探究学習成果発表会に潜入取材!発表会のレポートとRINGSの「高大連携事業」について詳しくお届けします。
RINGSの「高大連携事業」とは?
RINGSは、2020 年12 月に日本大学文理学部に設立された研究センターです。日本大学の学生や教員に限らず、他大学、自治体、企業、団体等、多種多様な立場の人々が参画し、コミュニティーベースで社会課題解決に向けた基盤の整備を目指しています。
RINGSは「名目だけの産官学連携」からの脱却を目指し、社会課題を解決していくためのコミュニティーベースの研究センター
そのRINGSで2021 年11月から実施しているのが、「高大連携事業」です。「高校生に素敵な学びを届け、かけがえのない思い出を作ってもらう」、「様々な人と出会い、自分の可能性を広げ深める」という理念のもと、高校生、大学生、プロボノとして参加する社会人、を交えたグループをつくり、探究学習を行っています。
今年度は2023年11月から、3グループが各グループのテーマに沿って探究を進めました。その学習の締めくくりの場となるのが、日本大学文理学部センターホールで開催された「探究学習成果発表会」です。
探究学習発表のテーマは「高校生が伝えるカーボンニュートラル」
「高校生が伝えるカーボンニュートラル」をテーマに、壇上で探究の成果を発表する高校生たち
「高校生が伝えるカーボンニュートラル」をテーマとするグループには、電気事業連合会がプロボノとして参加しており、高校生6名、大学生メンターの佐藤大悟さん、古賀日南乃さん、プロボノの電気事業連合会の佐竹智也さんというメンバー構成です。高校生たちは、大学生メンターから研究の進め方についてアドバイスをもらいながら、佐竹さんから適宜レクチャーを受け、カーボンニュートラルについての見識を深めていったそうです。
檀上では、学校で実施したカーボンニュートラルについてのアンケート結果や、日本における部門別のCO2排出量のグラフ、企業による様々なカーボンニュートラルへの取り組みをスライドで表示しながら、カーボンニュートラルに関する調査結果を発表。今回のプレゼンテーションのテーマである「カーボンニュートラル」を目指す重要性を訴えました。
そして、自分たちが今すぐに実践できる行動として、高校生の1日のスケジュールに沿って、「朝起きたらカーテンを開けて、電気ではなく自然光を使うことで節電する」「昼食は使い捨て容器ではなく、洗って使えるお弁当を使うことでゴミの排出を抑える」など、二酸化炭素の排出削減につながる行動の具体例を提案しました。
投影するスライドも高校生たちが手掛けたもの。アンケートやグラフを効果的に用いて、カーボンニュートラルを目指す重要性を説明した
地球温暖化の現状、そしてなぜカーボンニュートラルを目指すべきなのかが再確認できた今回の発表。他グループの高校生たちも熱心に聞き入り、カーボンニュートラルについて考えるきっかけとなったようです。
発表を終えた高校生たちの感想を聞いてみた!
発表会終了後、参加した高校生の皆さんに感想を伺うと、「他人ごとのように感じていたカーボンニュートラルが身近なことに感じられました」「普段接する機会のない社会人や大学生の方と一緒に取り組めて楽しかったです」と、充実感と達成感にあふれた表情で話してくれました。
初めはカーボンニュートラルというテーマに難しさを感じていた高校生たちでしたが、探究を進めるうちに楽しさややりがいを感じていったそう
メンターとして関わった大学生の佐藤さんにも話を伺うと、「発表に使うスライドの構成やデザインは、高校生たちにほぼ任せていたのですが、僕たちも使ったことがないアプリを駆使して、見事なスライドをつくり上げていました。彼らのポテンシャルの高さを感じました!」と驚きの様子。同じくメンターの古賀さんは、「高校生のみんながどうしたらやりやすいかを1番に考えて進めていきました。研究の進捗とともにみんなの仲が深まっていったことが、今日のすばらしい発表につながったのだと思います」と高校生のメンバーたちをねぎらっていました。
発表会の最後には高校生全員に修了証を授与。右から、プロボノとして参加した電気事業連合会の佐竹智也さん、大学生メンターの佐藤大悟さん、古賀日南乃さん、発表を行った高校生メンバーたち
RINGS「高大連携事業」のキーマンにインタビュー
普段の生活では接点を持つことの少ない高校生、大学生、社会人が関わり、探究を深めるRINGSの「高大連携事業」。さまざまな世代・立場の人がともに社会課題を考えるきっかけとなる、画期的な本プロジェクトについて、日本大学文理学部 情報科学科准教授/RINGSセンター長の大澤正彦先生と日本大学文学研究科教育学専攻博士前期課程2年/RINGS生・高大連携事業プロジェクトリーダーの谷本晃輝さんにお話を伺いました。
日本大学文理学部 情報科学科准教授/RINGSセンター長の大澤正彦先生(右)、日本大学文学研究科教育学専攻博士前期課程2年/RINGS生・高大連携事業プロジェクトリーダーの谷本晃輝さん(左)
――初めに、日本大学文理学部次世代社会研究センター「RINGS」を立ち上げたきっかけについて教えてください。
大澤先生:学校は、先生に言われた通りのことを上手にできる生徒が評価される傾向にあります。そうした現状は、学生を偏差値という指標で括って、一人ひとりの良さを理解することをおざなりにしている気がしたんです。産官学の壁を超えてさまざまな立場の人が連携するRINGSのような組織ができれば、学生が研究したいことや実現したいことをフォローアップし、新たな価値を創出できると考えました。
ちなみに、僕の夢はドラえもんをつくることですが、一人ひとりの良さを理解しようとしない世界では荒唐無稽に思われるでしょう。僕の場合はたまたま仲間に恵まれ、夢を認めてもらい、研究として夢を追いかけることができていますが、学生のみんなも言われたことをするだけではなく、自分がやりたいことを追いかけて生きていけるようになってほしいんです。誰かが決めた価値軸に従うのではなく、自分の価値軸を見つけ、それを応援してもらえるようなプラットフォームになればと、2020年12月にRINGSを立ち上げました。
――現在、RINGSには何名のメンバーが参加されていますか?
大澤先生:今は学生が約60名、外部のメンバーも含めると300名くらいです。RINGS立ち上げの際、大学側とかけあって内規を変更し、外部の人も参加できるようにしました。最初の時点で間口を広げたことが功を奏し、学生のみならず、自治体の方や研究者・技術者、企業に勤める方など、いろいろな方が入ってくれるようになったんです。結果として産官学の広い連携が実現し、オープンイノベーションが促進されています。学生でいえば、卒業後もRINGSのメンバーとして関わり続けてくれる人たちも多く、その輪は年々広がっています。
「僕はRINGSを立ち上げるために日大に来たようなもの」と話す大澤先生
1人の大学生の発案から始まった「高大連携事業」
――高大連携事業はどのようにスタートしたのでしょう。
谷本さん:高大連携は自分の提案から始まりました。自分自身、高校生のときに大人と一緒になってイベントを開催した経験があって、それによって視野が広がったことを実感したんです。その経験から、高校生が学校の外にも目を向ける機会を提供したいと考えていました。RINGSに加わってすぐの頃、大澤先生に自分の想いを話すと「じゃあ高大連携プロジェクトをやろう!」とその場で決定し、プロジェクトがスタートしました。
大澤先生:谷本くんと出会ったとき、彼の第一声は、「僕の夢は日本一の高校教師になることです」でした。1つのテーマを掘り下げる探究教育に情熱を注いでいることや、高校生のときの体験を熱く語ってもらう中で、彼の想いが叶う場所ができたらRINGSをつくった価値があると思いましたね。高大連携事業は谷本くんにリーダーを務めてもらい、今年で3年目に突入しています。僕自身も、谷本くんに探究について教わりながら学びを深めている所です。
――お話を伺っていると、先生と生徒の立場が逆転しているようですね。
大澤先生:冗談ではなく、僕の探究の師匠は谷本くんですから。当初、RINGSの構想に探究教育が入ってくることは全く想像していませんでした。彼から「探究」という言葉を教わって、これこそが自分が求めていたものだと気づくことができたんです。
RINGSは上も下もない、無重力型の組織です。誰が上、誰が下と固定する必要はなく、1つの目的に向かって進むときに、リーダーシップを取るのは誰か、リーダーを支えるのは誰か、ということが自然と決まっていけば良い。高大連携を例に挙げれば、僕よりも探究教育に熱量のある谷本くんがリーダーシップを取った方が取り組みは充実するはずですし、実際にそうなっています。立場や上下関係にとらわれていたら、良いものはできない。RINGSのメンバーとそんな関係性を築けていることが、僕はうれしいですね。
――高大連携事業に関わる高校生たちには、どういったことを期待していますか?
谷本さん:自分が理想とする探究活動は、たくさんの人やモノと関わり、夢や人生をつくっていくこと。学校という括りがあると、生徒にとっての身近な大人は先生くらいで、どうしてもコミュニティが内々になってしまいます。もちろん先生から学ぶこともたくさんありますが、「もっと外を見てみよう」と伝えたいんです。外に目を向ければ刺激をくれる人がいるし、人生を変えるきっかけを持っている人だっているかもしれません。そういった人たちに出会うきっかけを、高校生たちに届けるような活動でありたいです。もちろん高校生だけでなく、大学生も社会人の方も、高大連携を通していろんな人がたくさんの学びや思い出をつくっていけると良いですね。
「自分がたくさんの人と関わることのすばらしさを知ったからこそ、高校生たちに高大連携事業で探究に取り組んでほしい」と、谷本さんは熱い想いを語っていた
――「探究学習成果発表会」の講評では、高校生たちの発表内容のレベルが年々上がっているという話もありました。
谷本さん:僕自身も講評を聞いてうれしくなりました。高大連携に毎年参加している大学生もいますし、電気事業連合会さんをはじめ3年間ずっと関わってくださっているプロボノの方々もいらっしゃるので、経験から年々ブラッシュアップされているのだと思います。
大澤先生:先輩たちの経験が伝播することで、発表内容に厚みも出ていますよね。僕たちは「ノウハウ(know-how)」を貯めているのではなく、「ノウフー(know-who)」を行う組織なんです。困ったときには、ネットワーク上で誰に聞けば良いのか分かる。それがチームとしてのRINGSの強みにもつながっています。
――高大連携事業の今後の展望を教えてください。
谷本さん:「探究活動といったら高大連携だよね」と、学内外で言われるようなプロジェクトに成長させたいです。日大は付属高校が複数あることも特徴なので、そのスケールメリットを生かした探究活動を展開していきたいです。自分も付属高校出身なのですが、付属高校がこんなにたくさんあるのに、交流は部活くらいしかなかったんですよ。学校によって特色も異なるので、ミックスさせていけば何か面白いことが起きるかもしれない。高大の縦のつながりだけでなく、高校同士の横のつながりも広げて、いずれ大きなチームをつくりたいですね。
――大澤先生は今後RINGSをどのように展開していきたいですか?
大澤先生:僕が目指したいことをみんなで目指すことになると、結局、僕が引っ張っていく従来型の組織体制になってしまいます。僕の役目は、学生のみんなが思いっきり活動できる枠組みを広げること、そして崩れないように固めること。活動のキャパシティをいかに広げられるかが、僕の個人ワークだと思っています。まずは日大文理学部から、日大全体に広げるための足掛かりを探っています。ある程度満足するところまでRINGSが成長したら、僕は身を引いてドラえもんをつくることに集中します(笑)。
探究学習成果発表会では、発表する高校生たちがいきいきとした表情をしており、「高大連携事業」に懸ける谷本さんの想いがしっかり形になっている様子が伺えました。日本大学文理学部を起点に、自由な発想で活動の輪を広げるRINGSの活動にこれからも目が離せません。
記事中に出てくる「学校で実施したカーボンニュートラルについてのアンケート」。その調査結果によると、カーボンニュートラルという言葉を知っている人は多いものの、説明できるのは、高校生の1割程度で、教職員でも4割程度。メディアなどでは日ごろから、当たり前のようにカーボンニュートラルという言葉が使われていますが、思ったよりも世の中には伝わっていないことがわかり、ハッとさせられました。
企画・編集=Concent 編集委員会
★節電情報について知りたい方はこちら!
厳しい暑さが予想されている2024年の夏。電気料金の値上がりもあり、家計への影響を心配する人も多いはず。プロが教える省エネ・節電術をチェックして、賢く・快適に猛暑の夏を乗り切りましょう。
2024年3月14日、東京都内で「2025年大阪・関西万博パビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』キャラクターおよびロゴ発表会」が開催されました。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)に出展する電気事業連合会のパビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』のキャラクターが初お目見えということで、Concent取材班が潜入取材!当日は、大阪・関西万博の公式キャラクター・ミャクミャクも登場し、会場は大いに盛り上がりました。その様子をレポートでお届けします。
タマゴをモチーフにしたパビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』とは?
電気事業連合会 大阪・関西万博推進室 岡田康伸室長
この日登壇したのは、電気事業連合会 大阪・関西万博推進室の岡田康伸室長です。まずは『電力館 可能性のタマゴたち』のパビリオンについてプレゼンテーションがありました。
「電力業界は今、2050年カーボンニュートラルの実現とその先の未来に向けて、エネルギーの様々な可能性の追求に全力で取り組んでいます。大阪・関西万博に出展する電力館では、カーボンニュートラルのさらにその先を見据えた未来社会を、電力業界ならではの視点で描きます。エネルギーに関するたくさんの『可能性のタマゴ』を実際に体験していただき、エネルギーの可能性で未来を切り開くというメッセージをお伝えしたいと考えています」と、力強く説明される姿が印象的でした。
電気事業連合会のパビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』(完成予想図)
こちらが『電力館 可能性のタマゴたち』の完成予想図です。このタマゴ型の建物は、ツルッとした曲面ではなく、様々な形の平面が組み合わさってできているボロノイ構造になっています。外郭はシルバーの膜で覆われていて、時間帯や天候、周囲の光の状況によって見え方が変化するそう。キランと光を反射する姿が “未来感”を醸し出していますね!
パビリオンの中では、タマゴ型のデバイスを手に持って歩き回り、様々な体験を通じて「エネルギーの可能性」を感じるコンテンツが用意される予定です。詳しい内容については現在準備中とのことで、今後の情報公開が楽しみですね!
パビリオンのキャラクター『可能性のタマゴ』が登場!
ここでいよいよ『電力館 可能性のタマゴたち』のキャラクター発表です。ざわつく会場に入ってきたのは、銀色に光り輝く大きなタマゴ!
報道陣の視線とカメラが向けられる中、足元を確かめながらゆっくりと歩みを進める『可能性のタマゴ』
キャラクターの名称は、ズバリ『可能性のタマゴ』です。電力館のコンセプトをストレートに表現したもので、実は一体だけでなく、様々な形、そして個性豊かなタマゴたちが数えきれないほど存在するんです!
様々な形のタマゴ1つひとつが『可能性のタマゴ』という名前を持っている
パビリオンの特徴である、「タマゴ型の外観」と「ボロノイ構造」との親和性を持たせてデザインされたのだそう。
どれもインパクトのある見た目ではありますが、ピョコピョコ動く手に少し尖った頭頂部・・・見れば見るほど愛着が湧いてくるキャラクターですよね。
応援に駆けつけてくれた、大阪・関西万博の公式キャラクター・ミャクミャクとの2ショット。カメラマンからの「決めポーズお願いします!」の声に一生懸命応えていた
目、鼻、口が無いように見えますが、実はタマゴの中には、「未来を切り開く可能性」が存在していて、殻の内側に目、鼻、口があるそうです。様々な形をした個性豊かなタマゴたちの殻が割れたときには、いったいどんなものが飛び出してくるのか…想像するだけでも面白いですね!
パビリオンのロゴには様々な形をしたタマゴが!
この日はキャラクターと同時に、『電力館 可能性のタマゴたち』のロゴも発表されました。様々な形のタマゴに、パビリオンの名称をあしらったデザインになっています。
『電力館 可能性のタマゴたち」のロゴ
これは、未来を切り開く可能性のタマゴは世の中に数多く存在していること、そして姿・形も様々で、それぞれに個性があるということを表現しているのだそう。
キャラクター誕生の裏話を岡田室長に聞いてみた!
発表会を終えて、ほっと一息つく岡田室長をConcent取材班が直撃。発表会では語りきれなかった、パビリオンのキャラクター『可能性のタマゴ』が誕生した経緯や想いをお聞きました!
「発表会は緊張しましたが、たくさんのメディアの方々にお越しいただけてうれしかったです!」と話す岡田室長
――――――ついにパビリオンのキャラクターが発表されましたね。
岡田室長:パビリオンの準備を進めている電気事業連合会の大阪・関西万博推進室のメンバーと悩みに悩んで、デザイナーさんや社外の方の力もお借りしながら、ようやく誕生したのがこの『可能性のタマゴ』です。ネットで検索するとわかるのですが、タマゴをモチーフにしたキャラクターはすでに星の数ほど存在しています。そこで我々は「絶対に既視感のないものにしよう」と、今回のデザインにたどり着きました。
――――――あまりに斬新なビジュアルで、登場した瞬間は会場の報道陣もザワついていました。
岡田室長:世の中では親しみやすさを全面に出したゆるキャラが流行っていますが、「可能性を感じてもらう」キャラクターとして、ちょっと尖らせて面白みを出していこうと。そして万博終了までの期間限定のキャラクターですので、インパクトで勝負しようという狙いもあります。
「みんなに愛されるキャラクターになっていこうね」という言葉が聞こえてきそうな岡田室長の柔和な表情
――――――『可能性のタマゴ』を初めて目にしたとき、率直にどう思われましたか?
岡田室長:もともとインパクトを出したいと思っていたのですが、想像以上のインパクトでした(笑)。びっくりしたのと同時に「これはいけるぞ」と期待値が高まりましたね。ぜひこれからいろいろなイベントに登場させていきたいです。
――――――『可能性のタマゴ』の手がピョコピョコと動くところが、とってもかわいらしいなと思いました。
岡田室長:手はこだわったポイントの1つです。どんな手の形にしたらいいのか、手の位置を前にするのか真横にするのか、上のほうか下のほうか…。何度も議論を重ね、最終的には一番動かしやすい場所にしようという結論に至りました。子どもが手を伸ばしたときに手をつなぐことができる、ギリギリの高さに設計しています。ぜひ見かけたら、『可能性のタマゴ』と握手してあげてください。
左右の手がピョコピョコ動く姿は、「楽しい」という感情を表現しているよう!
『電力館 可能性のタマゴたち』の斬新かつユニークなキャラクター『可能性のタマゴ』。これからどんなシーンで活躍するのか、ますます目が離せませんね!
企画・編集=Concent 編集委員会
★節電情報について知りたい方はこちら!
いつ起こるかわからない自然災害。ひとたび大地震が起これば、家の倒壊や停電、断水で、普段どおりの暮らしができなくなることも。そんなときに気になるのが、災害時のトイレ事情です。自宅のトイレは流していいの?事前に備えておくべきものは?今回はそんな災害時のトイレに関する疑問について、日本トイレ研究所代表理事の加藤篤さんにお伺いしました。
NPO法人 日本トイレ研究所代表理事の加藤 篤さん(提供:日本トイレ研究所)
「トイレ」を通してより良い社会づくりを
――はじめに、加藤さんが代表理事を務める日本トイレ研究所は、普段、どのような活動をされているのでしょうか。
日本トイレ研究所は「トイレを切り口に社会を良くしていく」ことをコンセプトに活動しています。ここ数年は特に、「災害時のトイレ対策の推進」、「子どもやお年寄りが健康的に排泄するための環境づくり」、「街中のトイレのバリアフリー」の3つに力を入れており、トイレにまつわる情報をホームページやYouTubeなどで発信しています。
排泄における健康問題、し尿処理の改善といった課題は、多岐に亘る分野の人々がつながり話し合う必要があります。そのために、フォーラムやシンポジウムの開催、講演活動のほか、子どもたちにトイレにまつわる出前授業などを行っています。また、被災地まで避難所のトイレ利用や衛生状況に関する調査に行くこともあります。
加藤さんは排泄やトイレの大切さについて、全国各地で講演活動を行う(提供:日本トイレ研究所)
災害直後はトイレの水を流せない?災害時のトイレ事情
――地震などの災害直後、トイレの水は流さないほうが良いと聞きますが、それは本当でしょうか?
地震が起きた直後は、排水管や下水道等がどうなっているのかがわからない状態です。そんなときにいつものように排泄をしてしまうと、水が流せずに便器の中に汚物が残ったままになってしまう恐れがあります。また、水が流れたとしても、その先の排水管がどうなっているのかまではわかりません。
排水管は、戸建住宅だと1階と2階、集合住宅だと自分の住戸と上下階がつながっています。もしどこかで配管が壊れている場合、汚水が漏れてしまったり、トイレから溢れてしまったりと、何らかのトラブルが起きることが考えられます。
自分の家のトイレを守るため、そして排水管がつながっている先の人に迷惑をかけないためにも、大きな災害直後はすぐに水洗トイレを使わないことが基本です。まずは、携帯トイレなどの災害用トイレを使用するのが良いでしょう。
4つのタイプに分類される災害用トイレ
――災害用トイレにはどんな種類があるのでしょうか?
ひと口に災害用トイレといってもさまざまで、自宅や避難所などの屋内で使うものと、工事現場やイベント会場などの屋外で使うものがあります。今回は、4タイプの災害用トイレをご紹介します。
【屋内トイレ】
・携帯トイレ
元からある便器にかぶせて使う袋式のトイレ。凝固剤または吸収シートタイプがある。
携帯トイレ(提供:日本トイレ研究所)
・簡易トイレ
簡易的な便座・便器がセットになっているトイレ。携帯トイレを取りつけるものや貯留するものがある。袋を自動でパッキングするものもある。車椅子の人がトイレまでアクセスできない場合など、新たな場所にトイレを作る必要があるときに役立つ。
簡易トイレ(提供:日本トイレ研究所)
【屋外トイレ】
・仮設トイレ
工事現場や野外イベント会場などでもよく使われている移動式トイレ。給排水の工事が不要でどこにでも設置できるが、水の補給や汲み取りが必要。
仮設トイレ(提供:日本トイレ研究所)
・マンホールトイレ
避難所などで専用のマンホールの蓋を開け、その上に便器や仕切りを設置して使うトイレ。排泄物は下水道へ直接流れていくので衛生的。便槽に貯留するものもある。
マンホールトイレ(提供:日本トイレ研究所)
4タイプの災害用トイレを紹介しましたが、どれか1つがあればOKというわけではありません。携帯トイレだけを使い続けることになると、保管するゴミの量が増えてしまいます。仮設トイレやマンホールトイレが設置されていたら、日中はそれらを使用し、夜間や悪天候時は外には出ずに携帯トイレを使用する、という使い方も考えられるでしょう。利用する場所や人のニーズを考えながら、複数の災害用トイレを組み合わせて使用するのがベターです。
ただ、自宅で最低限備えておいてほしいのは「携帯トイレ」です。これさえあれば、いつも使っているトイレで用を足すことができます。私は、トイレには「安心」が一番大事だと考えています。災害の状況下にあったとしても、できるだけ日常に近い状態で排泄ができれば、多少なりとも安心につながるはずです。
携帯トイレの使い方と廃棄の仕方
――携帯トイレの使い方を教えてください。
ここでは、排泄物を凝固剤で固めるタイプの携帯トイレの使い方についてご説明します。
1. ポリ袋を便器にかぶせる
まずは45Lくらいのポリ袋を用意します。蓋と便座を上げて、便器にポリ袋をすっぽりかぶせてください。もともと便器内にある水は、臭いや害虫予防のためそのままで構いません。いきなり携帯トイレを取り付けると、便器に溜まった水で袋が濡れてしまい交換するときに面倒です。ポリ袋をセットしておけば、使用後は携帯トイレだけを交換すればOKです。
2. 携帯トイレの袋を取り付ける
便座を下げて、その上から携帯トイレを取り付けます。排泄物が漏れないように、便器の中にしっかり空間を作るのがポイントです。ここに用を足し、使用したトイレットペーパーも携帯トイレの中へ一緒に捨ててしまって構いません。
3. 排泄物の上に凝固剤を振りかける
排泄物の上に凝固剤を振りかけます。一回の排泄ごとに携帯トイレをはずし、しっかり空気を抜いて口を結びます。
今お話ししたのは、あくまで一般的な使い方です。携帯トイレには吸収シートを使うタイプもありますので、携帯トイレをお持ちの方は、その商品の取り扱い説明書に目を通しておきましょう。
また携帯トイレの使い方は、日本トイレ研究所のYouTubeチャンネル内【災害備蓄の必需品 携帯トイレについて】でも紹介しています。動画で確認したい方はぜひこちらもご覧になってください。
――使用済みの携帯トイレはどのように保管・廃棄するのが良いでしょうか?
ゴミの回収が来るまでは、臭いが漏れないように蓋のついた入れ物に入れて保管しておきましょう。し尿ゴミは燃えるゴミに分類されることが多いですが、お住まいの市区町村でのゴミの捨て方を必ず確認してください。
し尿ゴミを液体のまま出してしまうと、袋が破れて中身が飛散してしまうことも。非常に不衛生ですし、健康被害にもつながりかねません。排せつ物がしっかり固まった状態で捨てることが大切です。さらに、「大小便が入っているゴミ」ということがわかるようにして、普通の燃えるゴミとは袋を分けて出せるといいですね。
携帯トイレの選び方と用意する個数
――携帯トイレの選び方を教えてください。
携帯トイレを選ぶポイントは以下の3つです。
・住んでいる市区町村で回収できるもの
・吸収量が十分で、しっかり吸収・凝固するもの
・消臭・防臭対策が備わっているもの
最近は、携帯トイレの性能が向上し、特徴的な製品も多く出てきています。立ったまま使用できるものなど、バリエーションも豊富です。ただ、何よりも重要なのは使いやすさです。災害時でも安心して使えるものかどうか、試しに一度使ってみるのもおすすめです。
――携帯トイレはどれくらいの数を用意しておけばいいでしょうか?目安を教えてください。
政府の防災基本計画やガイドラインに基づくと、備えておくべき携帯トイレの目安は「5回×日数」「最低3日分、推奨7日分」です。ですから、1人あたり最低でも5回×3日分で15個は必要ですね。
ただ、人によってトイレに行く回数は異なるので、1日にトイレに行く回数を踏まえたうえで適量を備えておくと良いでしょう。
――最低でも1人15個となると、家族単位で考えると結構な量が必要ですね。
災害時に水や食料はすぐに配給されても、トイレの配備・整備には時間がかかるケースが多いです。トイレに行くのを控えようと水を十分に飲まず、体調を崩してしまう事例も過去に繰り返し起きています。そのうえ、携帯トイレは人からもらったり借りたりしづらいものです。ご自身やご家族の健康のためにも、絶対に備えておきましょう。
家族が安心できるトイレについて話し合ってみよう
――最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
自宅にしても避難所にしても、非常時は頭を悩ませることがたくさん出てきます。水や食事などの目下の問題から、場合によっては生活の再建についての不安もあるでしょう。そんなときに、少なくとも排泄については悩まなくて済むよう、平時のうちに災害用トイレを準備しましょう。
そして、携帯トイレの使い方や使い勝手、トイレに行く回数について、ぜひ家族で話し合ってください。そういった時間が、いざというときの備えと安心につながるはずです。
誰もが使うものなのに、見落としがちな災害時のトイレ対策。携帯トイレの備えが足りてないかも!と焦った人も多いのでは?いざというときのためにも安心できるトイレ環境をしっかり備えておきたいですね。
加藤 篤(かとう あつし)
NPO法人日本トイレ研究所 代表理事。トイレを通してより良い社会づくりを目指し、全国各地での講演のほか、小学校のトイレ空間改善や研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業などを展開。また、災害時にも安心できるトイレ環境づくりに取り組む。主な著書に『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)、『うんちはすごい』(イースト・プレス)。
SNS(X):https://twitter.com/pooprince/
公式HP:https://www.toilet.or.jp/
『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)
日本トイレ研究所では、多くの人に排泄に意識を向けてほしいという思いから「うんちweek」を毎年11月10日(いいトイレの日)~19日(世界トイレの日)に開催
企画・編集=Concent 編集委員会
★節電情報について知りたい方はこちら!
愛媛県・伊方町(いかたちょう)で、四国電力グループの一つ「伊方サービス」が始めたのは、ミカンの栽培。さらに、収穫したミカンを使ってジュースやパウダーなどの加工品も製造販売し、地域を支えるために活動しています。さらなる新商品の開発も進める中で育んでいる“地域愛”の形とは?
ミカン栽培のきっかけは高齢化?
四国最西端に位置する愛媛県・伊方町は、北は瀬戸内海、南は宇和海の2つの海に囲まれた、日本で一番細長い半島にあります。
アジやサバ、タイ、サザエ、アワビ、伊勢エビなどさまざまな海の幸が水揚げされる地域であるとともに、愛媛県の特産品であるミカンの生産も盛ん。温州みかんや伊予柑、清見タンゴールといった柑橘類の産地として有名です。
佐田岬にある佐田岬半島ミュージアムから望む瀬戸内海
そんな自然豊かな伊方町の農業に、ある危機が訪れています。それは「高齢化」。伊方町の人口は約8,400人(2020年)。農業従事者は1,350人で、うち約800人が65歳以上となっているのが現状です。
ミカンは、山の斜面の段々畑で栽培されているため、畑への往復や重たいコンテナの運搬など、栽培はかなりの重労働。伊方町では高齢化によって、そうした作業ができなくなり、離農する農家が増えています。
このままでは伊方町の特産品が危ない――。そこで立ち上がったのが、四国電力グループの「伊方サービス」です。町内で生産されるおいしいミカンを守りたいと、離農する農家から畑を借り受け、ミカン栽培を始めたのです。
伊方サービスが栽培した温州みかんは「媛(ひめ)の輝き」というブランドで販売されている
伊方サービスは1995年に、地域振興への貢献と、放射線測定や水質検査、伊方ビジターズハウスの運営など、伊方発電所の業務支援を目的に、四国電力グループと地元団体によって共同で設立されました。広大な土地を必要とする発電所は地域あってのもの。地元を支え、盛り上げることも仕事の一つです。ミカン栽培も、そうした地域を守っていきたいという想いから始められました。
栽培をスタートしたのは2020年。初年度は0.9ヘクタールだった畑も、2023年には3.5ヘクタールへと拡大。しかし、ミカン栽培を始めたものの、痛感したのはミカン栽培の難しさでした。ミカン栽培を担当する伊方サービス 地域事業部の細谷真也さんは話します。
「勤務時間内で作業を行うことは、ものすごく難しいとわかりました。元々手掛けていた農家さんに教えてもらわないと、わからないことも多かったです。当初はデータ分析などをして科学的にも効率的にもおいしいミカンを作ろうと考えていましたが、ミカン栽培は理屈ではない、まずは『農家さんのおいしいミカンに近付けよう』というところから始めました」(細谷さん)
ミカン栽培を担当する細谷さん
四国電力グループならではの技術も取り入れています。四国総合研究所が開発した「iRフレッシュ」という近赤外線照射装置を用いることで、鮮度とおいしさを保てるように。また今後は、水分や日照時間などを測れるセンサーを畑に設置し、栽培に関するデータを集めてよりおいしいミカンを追求していくことも目指しています。
2023年は豊作の年で、これまで約50トンが収穫されました。夏場に雨が降らなかったため小ぶりの玉が多かったのですが、逆に味が凝縮され、甘味が際立ったミカンに育っているそうです。
伊方サービスが栽培したミカン。2023年は豊作だった
特産品で伊方町の魅力を全国に発信
伊方サービスが地域のために手掛けているのは、ミカンの栽培だけではありません。ジュースやパウダー(調味料)など、ミカンを使った伊方町の特産品も生み出しています。
「木なり「熟」みかん(720ml/2本)」(3,000円)。パッケージには佐田岬をデザイン
「みかんパウダー」(756円)。サラダやヨーグルトに振りかけても
最初の一歩は、地域にあるものを新たに商品化して情報発信していくことでした。まず始めたのは「お酒」です。八幡浜市にある川亀酒造と協力し、日本酒「八西(はっせい)」が誕生。ブランド化を進めました。
日本酒「八西(はっせい)」(1,760円~)
新たな日本酒の誕生と共に、商品を販売するためのサイト「四国のしっぽ」もスタートさせました。サイトには伊方サービスが開発したものだけでなく、地域で作られている柑橘ゼリーや鯛めしといった約50もの商品をラインアップ。ここから地域のおいしい逸品を全国に届けています。
「四国のしっぽ」で販売されている地域の特産品。ゼリーから日本酒までバラエティ豊か
また、「四国のしっぽ」では高校生が携わった商品も販売しています。伊方町唯一の高校である三崎高校から「生徒が発案・開発した、校庭のだいだいを活用したマーマレードを商品化したい」と相談を受けたことがきっかけで、試作をはじめ、商品名の考案、ラベル作り、販売ルートの検討などをお手伝い。「みさこぅ!のさぁいこー!なマーマレード」と名付けられた商品は、だいだいのほのかな渋みとレモンの酸味がアクセントになる、人気商品の一つです。
「みさこう!のさぁいこー!なマーマレード」(1,296円)
三崎高校の生徒が作った「みさこぅ!のさぁいこー!なマーマレード」はマーマレードの品評会での金賞受賞をきっかけに商品化
「四国のしっぽ」には、マーマレードの購入者からこんな心温まるメッセージも。
<主人が愛媛県出身で私も愛媛愛が強く、すぐに飛びつきました。甘さもちょうど良くておいしいです。高校生の発案で商品化されたと知り、“希望に満ちたマーマレード”だなと感じて、胸が熱くなりました>
商品づくりに携わった伊方サービス 地域事業部の井上晃子さんは、「本当にうれしいコメントでした。このマーマレードの商品化にはとても長い時間が掛かりましたが、世に出すことができてよかったです。開発に関わったすべての人たちで喜びを分かち合いました」と振り返ります。
マーマレードの商品開発を担当した井上さん(左)。「四国のしっぽ」で販売できる地域の特産品を常に探しているそう
そして今、進めているのが、認知機能の一つである記憶力の改善効果が期待できる成分「オーラプテン」が含まれる、河内晩柑という柑橘を使った飲料の商品化。機能性表示食品として開発中です。
商品開発を担当する伊方サービス 地域事業部の門田歩さんは、「2023年度内にも発売を目指しています。楽しみにしていてください!」と、力を込めます。
新商品の開発を担当する門田さん。ミカンの栽培も担う
地域の農業を守る地元愛
伊方サービスがミカン栽培や特産品開発をする一番の理由、それは地域を支えるためにほかなりません。
商品開発などのほか、地域の農業を守るために、2022年からスタートした伊方町主催の「伊方町柑橘サミット」に協力。愛媛県立農業大学校の学生を受け入れ、収穫体験の場などを提供しています。若い就農希望者が町を訪れるきっかけを作ることで、将来的に伊方町で農家を営む人を増やしていきたいという想いが込められています。
また、伊方サービスを含めた10軒の農家で雇用促進のための協議会も作りました。各地で行われる新規就農フェアなどに共同出展し、伊方町の名前を全国に広めています。
「伊方サービスの従業員は、大半がこの地域で生まれた人間です。ですので、最後まで伊方町を守れるよう、困りごとがあれば解決したい。そうした思いは強いです。この地域は2060年になると、人口が2,000~3,000人になり、社会インフラが崩壊してしまう恐れがあります。そうした人口減少からも地域を守っていけるような企業でありたいですね」(細谷さん)
伊方町の町おこしを盛り上げるためにも、ミカンがおいしいこの時期に、「四国のしっぽ」で愛媛の特産品を購入してみるのはいかがでしょうか。
■DATA
伊方サービス
http://www.ikata-s.co.jp/
四国のしっぽ
https://shikokunoshippo.com/
人口の高齢化や核家族化が進んでいます。いつか訪れるかもしれない家族の「介護」について漠然と不安を持っている方も多いでしょう。今は両親が元気でも、突然の病気や事故で介護が必要となるケースもあります。そんななか、新たなスタイルとして注目を集めているのがIoT機器を活用した「遠距離介護」です。介護作家でブロガーの工藤広伸さんは、東京と実家のある岩手県を行き来しながら介護を行っています。IoT機器を活用することで可能になる遠距離介護について、工藤さんご自身の体験に基づくお話を聞きました。
******
介護作家でブロガーの工藤広伸さん
30代で、まさか親の介護をすることになるなんて!
まだ先のことと思っていても、急に介護が必要となる可能性はあります。私の場合、父親の介護が始まったのは私が34歳のときで、まさに青天の霹靂でした。
当時65歳の父が脳梗塞で倒れた場所は岩手県で、私は東京の会社で働いていました。岩手にUターンするか、このまま東京で仕事を続けるのか、いきなり人生の岐路に立たされてしまったのです。
もしも介護が始まったら、どんな壁にぶつかるのか?また、離れて暮らす親の介護は可能なのかについて、私の実体験を交えてご紹介していきます。
若くても他人事ではない親の介護
脳梗塞の後遺症でろれつが回らず、手の震えで字が書けなくなった父を見て、一生近くで介護をしなければならないと思いました。34歳の若さで社会のレールから外れるのはあまりに早すぎる、そんな思いでした。
今なら介護と仕事の両立はできると判断できますが、当時は介護の知識なんてゼロ。同世代の会社の同僚や友人で、介護をしている人はいませんでした。結局、誰にも相談できずに会社を辞めてしまいました。
私の知り合いの女性は、30代のときに祖母の介護に疲弊した母親を助けるために会社を辞めました。このように祖父母の介護をしている親が倒れて、孫である自分に介護が回ってくるケースもあるのです。
20~40代は結婚や出産、キャリアアップなど、重要なライフイベントを経験することが多い世代です。介護はまだ先の話と思うかもしれませんが、少しずつでも介護の知識を習得しておくことをおすすめします。もし家族の介護が必要になったとき、自分の人生を守る備えになると思います。
父は、発症から一年後に回復。私は一年半のブランクを経て、次の会社へ転職できました。
Uターンや呼び寄せではなく遠距離介護を選んだ理由
父の回復から5年が経った40歳のとき、今度は岩手で暮らす89歳の祖母が子宮頸がんで倒れ、同時に祖母の介護をしていた69歳の母が認知症と診断されました。さすがに二人の介護をしながら仕事は続けられないと思い、二度目の介護離職をしました。
二人同時に介護するとなったら、多くの人は地元へのUターンを選択すると思います。しかし、私は岩手に帰りたくなかったし、Uターンをすれば妻の仕事にも影響します。さらに母は住み慣れた自宅で生活したいと言い、がんで入院していた祖母を呼び寄せることも不可能でした。介護施設への入所という選択肢もありますが、膨大なお金がかかってしまいます。
家族全員の希望を叶えるためには、私が東京から岩手へ通う遠距離介護をするしかありませんでした。こうして2012年から遠距離介護がスタート。IoT機器やホームヘルパーさんたちの力を借りながら、母は今も自宅で一人暮らしを続けています。
東京から岩手までは東北新幹線を利用。実家に出向くのは年間で12回ほど
24時間の見守りを可能にするネットワークカメラ
遠距離介護で最も活用しているIoT機器は、ネットワークカメラ(見守りカメラ)です。認知症の進行とともに台数が増えていき、今では5台のカメラが稼働。岩手の実家で暮らす母を24時間見守っています。
きちんとご飯を食べているか、お薬を飲んでいるかなど、日常生活の見守りはもちろん、緊急時には特に重宝しています。
実家の居間に設置している見守りカメラ
2022年3月16日の深夜、福島県沖で震度6強の地震が発生し、東北新幹線の高架橋や電柱などが損傷しました。岩手の母の安否が気になりましたが、ご近所や親族に母の様子を見に行ってほしいと頼める時間帯ではありませんでした。
東京に居た私は、すぐに見守りカメラの映像で岩手の実家の状況を確認。寝室の家具や置物が倒れた形跡もなく、母は布団の中でスヤスヤ眠っていて無事でした。
最近の見守りカメラには、暗い場所も撮影できる暗視撮影や、カメラを使った声掛け、不審者に対してアラームを鳴らすなどの機能がついています。画質も鮮明になり、離れていても母の行動は手に取るようにわかります。
多くの家電を遠隔で操作できるスマートリモコン
見守りカメラの次に活用しているIoT機器は、スマートリモコンです。家電を操作する赤外線リモコンの機能をスマートリモコンに集約すると、スマートフォンのアプリ上で家電を操作できるようになります。
実家の居間に設置しているスマートリモコン。スマホから指示を受けたスマートリモコンがエアコンやテレビに赤外線を飛ばして作動させる
例えば、東京にいてもスマホを操作して、岩手の実家にあるエアコンの電源を入れたり、テレビのチャンネルを変えたりすることができます。新しい家電だけでなく、古い家電でもスマートリモコンで遠隔操作をすることができます。
特に夏場の熱中症の予防においては、このスマートリモコンが大活躍しました。認知症で季節感がなく、エアコンを操作できない母のために、エアコンを遠隔で操作して、快適な室温や湿度を保つようにしています。
認知症でエアコンの操作ができない母のために、「自動運転中」の貼り紙をして遠隔操作
東京にいながら、岩手の実家の室温をリアルタイムで把握できますし、例えば、冬場においては、室温が18度以下になったら暖房をつける、22度以上になったらエアコンの電源を切るなどの設定をしておけば、手動での遠隔操作は不要になり、節電にもつながります。
スマートリモコンと見守りカメラの併用が役立ったこともあります。以前、母が居間のテレビをつけっぱなしにしたまま寝てしまい、見守りカメラの映像からテレビの音がしていたことがありました。そこで東京にいる私が遠隔操作でテレビの電源を切り、電気の無駄遣いを防ぐことができました。
離れて暮らす親の介護を可能にするIoT機器の進化
私は全国の自治体や企業から依頼を受けて講演していますが、首都圏を中心に遠距離介護に関する講演依頼が増えています。核家族世帯が増え、かつ介護が必要な高齢者の数も増加しているので、離れて暮らす親の介護について知りたいニーズが高まっているのでしょう。
親の介護が始まったら、介護施設に預けるしかないと考えている方も少なくありません。しかし、これまでご紹介したIoT機器を活用すれば、住み慣れた自宅で暮らしたいと願う親の気持ちを尊重してあげられるかもしれません。
私の遠距離介護は12年目に入りましたが、この間にIoT機器の種類は大幅に増え、機能はめざましい進化を遂げ、価格も出始めの頃に比べて下がっています。社会的なニーズの拡大からも、介護に活用できるIoT機器はさらに増えていくでしょう。
この先、介護職の人材不足も予想されています。ホームヘルパーなど、介護のプロに頼りたくても頼れない場面が出てくるかもしれません。そんなときは今回ご紹介したIoT機器を使いつつ、頼れるところは人の手も借りながら介護をしていければといいと思います。
これまで介護で活用してきたIoT機器のすべてを、『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』(翔泳社)という本にもまとめています。ぜひこちらも参考にしてみてください。
******
最近では、電力の消費データを分析して、離れて暮らすご家族の生活を見守るサービスも提供されています。高齢化の加速や労働力不足が懸念されるなか、介護ビジネスのますますの成長が期待されますね。一方、遠隔でのリモコンやカメラ操作には電力が必要ですので、今後もしっかりと電力を安定してお届けしていくことの重要性を再確認しました。
工藤広伸(くどう ひろのぶ)
介護作家・ブロガー。岩手県盛岡市出身、東京都在住。二度の介護離職を経験し、介護作家・ブロガーに転身。2012年から岩手に住む家族の遠距離在宅介護を行う。新聞やWeb連載のほかテレビ・ラジオなどの各メディアに多数出演し、無理のない認知症介護を提唱。『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』(翔泳社)ほか、著書多数。
公式HP:https://40kaigo.net/
企画・編集=Concent 編集委員会
★節電情報について知りたい方はこちら!
エアコンや洗濯乾燥機などの家電を購入する際によく聞く言葉「ヒートポンプ」。なんだか省エネらしいけど、いったいどんな技術なのか、いまいち、よくわからないという人も多いのでは?そこで今回は、家電ライターの田中真紀子さんに、ヒートポンプと省エネ家電についてお話を聞きました。
白物・美容家電ライターの田中真紀子さん
育児に追われる日々の中、電気圧力なべの魔法感に心を奪われて……
――まずは家電ライターの活動について教えてください。
家電についての記事の執筆や監修をするのが主な仕事内容です。実際に製品をお借りして自宅で日常的に使用してみて、その使い勝手をレビューすることもありますね。
仕事の中で特に大事にしているのは、新製品の発表会に行くことです。多い日は1日に3件の新製品発表会を渡り歩くことも。発表会では近年のトレンドなど最新情報を得られるだけでなく、メーカーさんがどんな思いで商品をつくり上げたのか、開発の背景から詳細に教えてくれることも多いんです。ですから、新製品発表会に行くと、ユーザーの皆さんが今、何に困っていて何に関心があるのか、すごくよくわかりますよ。
――最新家電を真っ先に試せるのは羨ましいです!田中さんはどうして家電ライターになろうと思ったのですか?
もともとは生活情報系のライターで、最初に家電の記事を書いたのは子供が1〜2歳の頃でした。毎日子育てに追われて疲れ切っていた時に、便利な家電の「魔法感」に心を奪われたんです。
例えば電気圧力なべ。材料を入れてスイッチを押したら、あとはほったらかしで煮込み料理が完成しちゃうんですよ。しかもちゃんとおいしい。 家電をうまく活用することによって家事の効率がこんなにも上がるんだ!と、救いの手を差し伸べられたような思いでした。その時の気持ちをたくさんの人に伝えたくて、家電についての記事をメインに書くようになりました。
電気代は家電選びの重要ポイント。省エネ性能が強く求められる時代に
――普段からさまざまな家電に接している田中さんから見て、家電の省エネ性能は上がってきていると思いますか?
そうですね。物価高などの社会情勢やエコに関するユーザー側の意識が高まる中で、省エネであることがより一層重視される時代になってきています。今や省エネは家電選びの一つの基準になっているので、メーカーも省エネ性能の高さをアピールした家電を多く打ち出してきています。
――洗濯機を購入する際に、「ヒーター式よりヒートポンプ式の方が省エネですよ」と勧められたことがあります。なぜヒートポンプは省エネなのでしょうか?
ヒートポンプが採用されている家電には、エアコン、冷蔵庫、洗濯乾燥機、給湯器、除湿機などがあります。
ヒートポンプとは、簡単に言うと空気中の熱を汲み上げて、必要な場所に移動させる技術です。気体は圧縮させると温度が上がり、膨張させると温度が下がる性質を持っています。熱の移動と気体の性質を利用して、暖房や給湯、あるいは冷房を行うわけです。
空気中の熱を汲み上げて、必要な場所に移動させるのがヒートポンプの役割(提供:一般財団法人 ヒートポンプ・蓄熱センター)
電気ストーブや石油ファンヒーターなどの燃焼系暖房だと、1のエネルギーから1もしくはそれ以下の熱エネルギーしか生み出せないところ、最新のヒートポンプエアコンだと、1のエネルギーで7の熱エネルギーを生み出すことができるんですよ。熱を生み出す効率が良いため、省エネにつながるというわけです。また、太陽が生み出した空気中の熱、つまり再生可能エネルギーを利用することになるので環境にも優しいと言えるでしょう。
――ヒートポンプはエコにもつながっているんですね!最近はめっきり寒くなり暖房をフル稼働するシーズンに入りましたが、省エネの観点からすると暖房器具はエアコンが良いのでしょうか?
熱効率の良さを考えると、やはりエアコン暖房がおすすめです。ただ、ある家電メーカーの調査では、エアコン保有者のうち、暖房機能を使っている人は約4割ということがわかったんです。降雪が多い寒冷地では、ガスや灯油などを必要とする燃焼系暖房の方が暖かいというイメージがあり、多く使われていることがその一因でしょう。
エアコンにはヒートポンプが採用されていて、省エネ性能が高い(yslab / PIXTA)
ただ、最近では寒冷地用エアコンもすごくパワフルになってきています。エアコン暖房は灯油を補給する手間もありませんし、火を使わないので火災の心配がないというメリットも。直接燃料を燃やすことがないため、CO2の排出も削減できます。
また、ガスや灯油を使った暖房器具が主流のヨーロッパでも、エネルギーの安定調達やカーボンニュートラル実現の観点からヒートポンプを取り入れていこうという動きがあります。日本は早くからヒートポンプの技術をリードし、多くの日系企業がグローバルに活躍しているので、今後もより一層注目されていくと思います。
高まる省エネへのニーズに応え、ヒーター式からヒートポンプ式への切り替えも
――これからますますヒートポンプ搭載の家電は増えるのでしょうか?
省エネ意識の高まりもあって、ヒートポンプを導入した家電はすでにたくさんありますが、今後ますます増えてくるのではないでしょうか。
例えば、洗濯機の乾燥方式には、ヒートポンプ式とヒーター式の2種類があります。ヒーター式は乾燥力が高い反面、ドライヤーの温風を長時間当て続けるようなものなので、どうしても電気代が高くなってしまうのが難点でした。そこで、これまでヒーター式を採用していたあるメーカーは、その乾燥性能を維持したまま、ヒーター式からヒートポンプ式への変更を実現し、大きな話題になりました。
洗濯乾燥機のヒートポンプ搭載機種も増えている。画像はイメージ(shimi / PIXTA)
また、空気中から熱を取り込む際になるべく温度を下げないようにするなど、ヒートポンプ自体の性能もアップしています。大型家電の買い替えの際は価格に目が行きがちですが、星マークが並ぶ「省エネ性能ラベル」などもチェックしてみてください。同時に、省エネ性能が高い家電を選ぶことは、地球温暖化対策につながるということも意識したいですね。
田中真紀子(たなか まきこ)
白物・美容家電ライター。家事をラクにしてくれる白物家電や、エステに行けなくても自宅美容できる美容家電などの情報を生活者目線で発信。製品の紹介記事やレビュー記事を雑誌、ウェブにて執筆するほか、専門家として記事監修、企業コンサルタント、アドバイザー業務、テレビ・ラジオ出演なども行っている。
公式HP:https://makiko-beautifullife.com/
企画・編集=Concent 編集委員会
★節電情報について知りたい方はこちら!
(提供:2025年日本国際博覧会協会)
「いのち輝く未来社会のデザイン」がテーマの2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のコンセプトは、「People’s Living Lab(未来社会の実験場)」。持続可能な開発目標(SDGs)の達成など、世界共通の課題解決に向けて、アイデアを創造&発信する場になることを目指しています。新しいエネルギー、新しい移動手段、新しいリサイクルの取り組み…。大阪・関西万博には、未来を見据えた新しいチャレンジがいっぱい!今回は万博運営のキーマンである、2025年日本国際博覧会協会 持続可能性部長の永見 靖さんに、大阪・関西万博における持続可能性に関する取り組みや最新のエネルギー技術、そして万博を通じて伝えたい未来社会などについてお話を伺いました。
公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会 企画局上席審議役兼持続可能性部長を務める永見 靖さん
持続可能性に配慮した大阪・関西万博を目指して
永見さん「大阪・関西万博では持続可能な運営を目指し、環境と人権の問題にセットで取り組んでいます。持続可能性というと、2020年ぐらいまでは主に環境への配慮をイメージすることが多かったと思いますが、最近では人権も含む概念になっています。一つ例を挙げると、大阪・関西万博で来場者の方が何か“もの”を新しく買って使う時。その“もの”の原材料はどこから来たのか、開発途上国などで過酷な労働を強いてつくられたものではないか、つくる過程で環境を破壊していないか、使い終わった後はどこにどんな風に廃棄されるのか、廃棄される場所の近くに住む人に影響はないか…など、環境と人権の両面への配慮を欠かさないようにしています。私が所属する持続可能性部が中心となり、博覧会協会内で準備にあたる他部署への働きかけはもちろん、民間パビリオンも含めた大阪・関西万博に関わるあらゆる方々に“持続可能性”の視点の重要性を伝え、取り組みを推進しています」
具体的な取り組みとして、例えば万博の会場では、使い捨ての容器やプラスチック製品はなるべく使わないことなどを各レストランやパビリオンにも協力を要請する予定だそう。また、海外からの来場者や障がいのある人たちも安心して楽しめるよう、自動翻訳やユニバーサルデザインなどの導入も積極的に進められているようです。
国籍や障がいの有無にかかわらず、来場者全員が楽しめる万博を目指す(提供:2025年日本国際博覧会協会)
会場では電化を推進。電気で動くバスも運行予定!
国を挙げて2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指す今、大阪・関西万博でも脱炭素の先進的な取り組みに挑戦しようとしています。
永見さんは「大阪・関西万博では電化をはじめ、あらゆる側面から脱炭素化に取り組む」と力強く話す
永見さん「大阪・関西万博は、SDGs達成を目指すだけではなく、その先の『SDGs+beyond(エスディージーズ プラス ビヨンド)』への飛躍の機会と捉えています。SDGsは2030年までの達成が目標とされていますが、2030年以降の未来をどのように見せていくのか、足元でどのような対策をしていくのかを示すため、2023年に『EXPO 2025 グリーンビジョン』を策定しました。まず足元の対策でベースとなるのが、エネルギーの脱炭素化。そこに大きく貢献するのが電化(暮らしや経済活動に必要なエネルギー源を、CO2を排出する化石燃料から電気に置き換えること)です。大阪・関西万博の会場内ではできるだけ電気を使うことにして、その発電にはCO2を排出しない再生可能エネルギーなどの非化石電源を利用します。万博の会場内では『EVバス(電気バス)』も導入する予定です。それと並行して、省エネの取り組みも進めていきます」
大阪・関西万博会場内で運行予定の「EVバス」(提供:関西電力・Osaka Metro)
永見さん「また、使用済み天ぷら油などの廃食用油を再利用してつくるバイオディーゼル燃料や、太陽光発電などからつくる合成燃料の利用も促進します。例えば、バイオディーゼル燃料は5%ぐらいであれば軽油に混ぜて使うことができるので、電化が難しいトラックなどの物流に生かせると考えています。こうした脱炭素の取り組みを利用して、大阪・関西万博におけるカーボンニュートラルの達成を目指していきたいと思っています」
来場者や地域の方々と一緒に脱炭素に貢献する
大阪・関西万博では、開催期間中や会場内だけでなく、開催前後や会場外の温室効果ガス排出量などにも意識を向けています。
過去の万博や東京2020オリンピック・パラリンピック等で公表されてきた数値をもとにして試算すると、大阪・関西万博開催期間中の会場内における温室効果ガス排出量が合計3万トン程度であるのに対し、来場者の移動や宿泊、飲食料品などの製造から廃棄といった開催前後や会場外における排出量は315.2万トン(※)となり、今回の大阪・関西万博を運営する中で突出した排出源になると推定されています。こうなると、運営側の努力だけで大幅な排出量削減をするのは難しいのでは…?
※「持続可能な大阪・関西万博開催にむけた行動計画 第1版概要版」温室効果ガスの排出量推計と目標設定Scope3 相当(会期前後や会場外の排出)」より
開催期間中の想定来場者数は約2,820 万人。来場者の移動や宿泊などで排出される温室効果ガスの削減についても働きかけを行う(提供:2025年日本国際博覧会協会)
永見さん「大阪・関西万博の開催前後や、開催期間中の会場外の温室効果ガスの排出削減に関しては、みなさんのご協力が不可欠だと思っています。そこで予定しているのが、『EXPOグリーンチャレンジ』という取り組みです。具体的な内容は構想段階ですが、『マイボトルを使いました』『使用済み天ぷら油の回収に協力しました』など、温室効果ガスの排出削減につながる行動を起こしていただいた時に、専用アプリを通してポイントを付与。ポイントが貯まったらプレゼントの抽選に応募できるなど、みなさんが楽しんで取り組むことができる仕組みづくりを進めています」
マイボトルの利用も温室効果ガスの排出削減につながる(shimi / PIXTA)
永見さん「現在、レストランなどで使われた業務用の廃食用油回収は進んでいますが、家庭からの回収はこれからという段階。万博をきっかけに使用済み天ぷら油の回収といった行動が日常的なものとなれば、それ自体が閉会後も大阪・関西万博の『レガシー』として残ります」
一人ひとりの行動が変われば、未来社会に踏み出す大きな一歩となりそうです!
新たなエネルギーの技術を通して明るい未来を提示
永見さん「2050年カーボンニュートラル達成に向けた具体像として、エネルギーに関する新たな技術もお見せしていきたいと考えています。例えば、従来型の太陽光パネルよりもはるかに薄くて軽いペロブスカイト太陽電池は、これまでは重さがネックとなって設置できなかった建物の壁面や屋根、さらに曲面の部分にも貼り付けることができます。万博の会場では、バスシェルターの屋根に設置し、蓄電池に貯めた電力を夜間のLED照明などに活用しようと考えています」
ペロブスカイト太陽電池は、その特長を生かし、将来的には街中のさまざまな場所で幅広く活用される可能性が高いとか。また、製鉄の副産物として発生した、あるいは再生可能エネルギーでつくった水素の運搬・発電の技術や、二酸化炭素を大気中から直接回収したり、貯めたり、活用したりする技術などを、企業や団体、公式参加者とも協⼒しながら⾒せていきたいとのこと。大阪湾に囲まれた夢洲(ゆめしま)が、未来のエネルギーを体感できる場所になりそうです!
会場の西ゲート交通ターミナルのバスシェルター。屋根にフィルム型のペロブスカイト太陽電池を設置する(提供:積水化学工業)
永見さん「今回の万博は将来的に実用化が期待される新たなエネルギーを含めた環境、そして人権について、『初めて知りました!』という体験がたくさんできる場にしていきたいと考えています。取り組みの一つとして、代替肉を使った料理の提供も今後検討していきます。動物愛護の視点だけではなく、代替肉は温室効果ガスを排出する家畜を育てずに効率よくカロリーを摂取できる食べ物です。ヴィーガンの⽅も安⼼して⾷べられます。万博をきっかけに『大豆ミートって意外とおいしいかも!』と感じることも一つの気づきです。大阪・関西万博で感じたことや新たな発見が行動の変化につながり、明るい未来、いのち輝く未来へと、さらにつながっていくとうれしいですね」
大阪・関西万博の会場「夢洲」
永見 靖
ながみ やすし。公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 企画局上席審議役兼持続可能性部長。1996年上智大学法学部卒業後、環境庁(現 環境省)に入庁。2016年に環境教育推進室長(兼民間活動支援室長)に就任、2018年に四国経済産業局総務企画部長に出向後、2022年1月より現職。
企画・編集=Concent 編集委員会
★節電情報について知りたい方はこちら!
電気事業連合会 大阪・関西万博推進室 重光郁徳さん
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)に出展する電気事業連合会のパビリオン名称は『電力館 可能性のタマゴたち』。2023年10月に開催された「民間パビリオン構想発表会」では、名前の通り“タマゴ”のような最新ビジュアルも公開されました。長い時間をかけて練られたというパビリオンの構想。電気事業連合会の中では、どのようにパビリオンの準備が進められているのでしょうか。そして電気とタマゴを結び付けるユニークな発想の由来は…?電気事業連合会 大阪・関西万博推進室(以下、万博推進室)の重光郁徳さんにお話を伺いました。
カーボンニュートラルに取り組む研究や最新技術をわかりやすく伝えたい
電気事業連合会の万博推進室は2021年に発足。電気事業連合会に加盟する各電力会社から選抜されたメンバーで構成されており、中国電力から出向中の重光さんもその一人です。パビリオンの企画から設計・建築や運営、広報に催事、バーチャル万博(リアルでの大阪・関西万博と同時にオンライン空間で開催される万博)といったITに関連する業務などを、8人で対応しているそう。
重光さん「8人それぞれが個性豊かで明るい職場です。幅広い世代の方に楽しんでいただけるパビリオンを目指し、学校の先生や学生さんなどの意見も伺いながら準備を進めています」
万博推進室での業務が始まって以来、「忙しいけど楽しんでますよ(笑)」と話す重光さん。「中国電力を代表して万博に携わっている」というプライドを胸に、日々準備に奮闘している
『電力館 可能性のタマゴたち』は、メンバー全員で幾度も議論を重ね、周囲の協力も得ながら徐々に形に。電気事業連合会が大阪・関西万博への出展を通して伝えたいこととは?
重光さん「現在、我が国では2050年までに温室効果ガスの排出量を減らし、どうしても出さざるを得ない部分に関しては森林などに吸収してもらい、実質的に排出量をゼロにする『カーボンニュートラル』を目指しています。日本全体でのCO2排出量のうち、約4割が電力部門からの排出と言われており、我々としても、そこは大きな課題だと考えています。電気事業連合会に加盟する各電力会社は、CO2削減に向けてすでに実施している安全を最優先とした原子力発電の活用や、再エネの最大限の導入、蓄電池の活用、水素やアンモニアの混焼といった取り組みに加え、日々さまざまな研究や技術開発を行っています。そんな我々の取り組みを見ていただきたいというのが、パビリオンを出展する目的の一つですね」
未知なるエネルギー「可能性のタマゴたち」で未来を描く
『電力館 可能性のタマゴたち』のテーマは、「エネルギーの可能性で未来を切り開く」。カーボンニュートラルにつながる取り組みだけでなく、電力業界ならではの視点でさまざまな未来への可能性が提示される予定です。
重光さん「2050年にカーボンニュートラルが達成できればOK、ではありません。51年、52年…と、その先もずっと社会は続いていきます。カーボンニュートラルのその先へ向かっていく、我々は今まさにその転換点にいると考えています。エネルギーの使用を我慢するのではなく、技術の発展によってうまく使っていく。効率よく使っていければ、5年しか使えなかったものが、10年、15年と使えるようになるかもしれませんよね?また、今まで目をつけていなかった“何か”からエネルギーを取り出すことができるかもしれません。例えばですが、海からエネルギーを取り出せるんじゃないか、遠い宇宙からもエネルギーを取り出せるんじゃないかとか……そういった未来の可能性を体感できるパビリオンを目指しています」
「妄想に近いかもしれませんが」と微笑みながら、未来のエネルギーの可能性について話す重光さん
重光さん「実は、パビリオンの名称にある『可能性のタマゴたち』の“たち”がすごく重要なんです。例えば火力発電でCO2が排出されるのであれば、なるべく出ないようにしたり、回収したりする。そして、回収したCO2を野菜や果物に与えたら成長が早くなるかもしれない。この例だけでなく、その他にもエネルギーには“いろいろな可能性”があるということを来館者の方々に知ってほしい、その思いが可能性のタマゴたちの“たち”に込められています。このパビリオンがカーボンニュートラルの先の未来をみんなで考えるきっかけになってほしいですね」
“タマゴ”が未来社会のカギに!?
2025年の会場で実際にどんな可能性のタマゴたちが見られるかは、「絶賛検討中です(笑)」とのこと。タマゴ型のデバイスを持ってパビリオン内を巡るなど、大人も子どももエネルギーの可能性にたくさん触れて、楽しみながら学び、もっと探し集めたくなるような仕掛けを考えているそう。
重光さん「パビリオンの名称にちなんで、外観もタマゴ型なんです。ツルッとしたタマゴではなく、いろいろな形の平面が組み合わさった『ボロノイ構造』を採用しています。色はシルバーで、天候や時間帯によって見え方が変わります。日中は少し白っぽく見えたり、夕方の西日に照らされるとオレンジっぽく見えたり。可能性のタマゴは変化しないものではなく、どんどん成長していくものですから、それを表現するとともに、会場の雰囲気や環境、自然などと調和する造りになっています。また、役目を終えた太陽光パネルのガラスを骨材に使用している舗装ブロックを採用し、SDGsにも取り組みます。さらに、パビリオンの外に屋外ステージを併設し、いろいろな団体、企業、学生のみなさん等とのコラボレーションを通じて、さまざまなメッセージを発信する予定です」
“パビリオンの表面にはいろいろな形の平面が組み合わさった「ボロノイ構造」を採用。舗装ブロックに使用済み太陽光パネルのガラスを使用するなどSDGsにも配慮する(完成予想図)
屋外ステージではさまざまなイベントを開催する予定(完成予想図)
電力のDNAを受け継ぎ、エネルギーの可能性とワクワク感を創出
電気事業連合会は、1970年の大阪万博、1985年のつくば科学博、1990年の花の万博、2005年の愛知万博(愛・地球博)にも出展しています。例えば、大阪万博では「人類とエネルギー」をテーマに、新しいエネルギーとして注目されていた原子力発電にまつわる映像や、電気などを使ったイリュージョンショーを展開。また、愛・地球博では「Powerful Imagination ~想像力は豊かな未来を創る活力~」をテーマに、宇宙や自然界、人々のエネルギーが詰まった地域のお祭りなどの展示を電車型ライドで巡りました。大阪万博では500万人、愛・地球博では370万人を超える電力館への来場者数を記録したそうです。
1970年の大阪万博で出典したパビリオン「電力館」は高さ約40m、4本柱のつり構造の本館、別館の水上劇場の2つの建物で構成
愛・地球博のパビリオン「ワンダーサーカス電力館」。外壁には国内外の子供たちが描いた30枚の絵を飾り、賑やかに演出した
重光さん「電気を通じて暮らしを支えるという、脈々と受け継がれてきた電力のDNAを私たちもしっかりと受け継いで未来につないでいきたいです。今回の万博では電力業界が目指す未来である、カーボンニュートラルの世界観を感じてほしいと思っています。電気やエネルギーって小難しいと思うので、エンタメ性を持たせながら、来ていただく人にワクワクするような体験を提供し、エネルギーの可能性や先端技術を伝えていきたいですね。『エネルギーって実はおもしろいじゃん』って楽しんでもらえるような展示を考えていますので、ぜひご来館をお待ちしています。絶賛検討中なのに、気が早いですかね(笑)」
「つくる側が楽しくなければ、みなさんにも楽しんでいただけない」。そう断言する重光さんの横顔からは、ワクワク感と「絶対に良いパビリオンをつくってみせる」という自信が感じられました。受け継がれてきた電力のDNAとその未来を表現する『電力館 可能性のタマゴたち』は、エネルギーの可能性にあふれたパビリオンになりそうですね。“絶賛検討中”の展示内容に期待が高まります!
企画・編集=Concent 編集委員会
★節電情報について知りたい方はこちら!
朝晩はめっきり寒くなり、だんだん冬が近づいてきている感じがします。寒くなると、お家にこもってぬくぬくと過ごしたくなりますよね。だけど電気代が気になるので、できるだけ暖房費は抑えたいのが正直なところ。そこで、部屋づくりのプロフェッショナルであるインテリアコーディネーターのMAKOさんに、節電につながるインテリアコーディネートのアイデアをうかがいました。
インテリアコーディネーターのMAKOさん
お部屋マニアだった子ども時代。不動産会社勤務を経てインテリアコーディネーターへ
――まずはインテリアコーディネーターのお仕事について教えてください。
インテリアコーディネーターとは、主に新築やリフォームの際に床や壁などの内装材についてアドバイスしたり、家具や照明などを選んだりする仕事です。私の場合は他にも、テレビや雑誌といったメディアでのスタイリング、コラムの執筆、セミナー講師なども行っています。最近ではYouTubeでインテリアコーディネートのコツや空間の使い方に関する情報も積極的に発信しています。
――MAKOさんがインテリアコーディネーターになったきっかけを教えてください。
幼い頃から自分の部屋の模様替えをするのが好きで、素敵な部屋の実例がたくさん載っているインテリア雑誌が愛読書でした。小学6年生の頃には、お年玉を貯めてソファーベッドを買ったこともあるくらい(笑)。
不動産会社で働いていたとき、物件をご紹介する際に「もっと収納があればいいのに」とか「壁紙の色が好きじゃないな」といったお客様の声をよく聞いていました。そこで、自分にもう少し専門的な知識があれば、お客様にとってより心地良い空間がつくれるのでは…と考え、インテリアコーディネーターの資格を取得しました。その後、独立して現在に至ります。
――MAKOさんはどんな雰囲気のコーディネートを得意とされているのでしょうか?
シンプル&ナチュラルなスタイルが得意ですね。高級感が漂うクラシック、ヴィンテージ感のあるインダストリアルなど、お客様の好みのスタイルにあわせてコーディネートする際にも、常にシンプル&ナチュラルがベースにあります。
シンプル&ナチュラルをベースにしたMAKOさんのコーディネート
――コーディネートする上で大切にしていることは?
お客様と向き合ってヒアリングを重ねる中で、どんなスタイルを望んでいるのか、しっかり汲み取っていくことが大切だと思っています。「センスがないからお任せで」とオーダーされるお客様も多いのですが、実は誰しもが好きな世界観を持っています。人の頭の中は見ることができませんから、その方の好みは発する言葉や着ている服、持ち物などから判断するしかありません。雑談の中からお客様の人柄や、ご要望が見えてくることも多いので、フランクな雰囲気になることを心がけてお話させていただいています。
お部屋がガラリと変わる“ビフォー/アフター”の瞬間がたまらない!
――インテリアコーディネーターとして活動するなかで、どんなことにやりがいを感じますか?
最もやりがいを感じるのは、家具などを一気に搬入してガラッと変貌した部屋を見たお客様が「ワーッ!!」って声をあげて感激してくださる瞬間です。「部屋が狭いのにインテリアだけ変えても…」と話すお客様の部屋に、圧迫感の少ない家具を選定・配置して空間を仕上げたところ、その変化にものすごく驚かれたこともありました。そうした瞬間に立ち会えるのがこの仕事の醍醐味ですね。
――私たちがインテリアを選ぶ際にどんなことを意識したらいいでしょう?
見落としがちなのが“金額の優先順位”をつけることです。数年後に引越しをするかもしれない、家族が増えるかもしれない、といったことが予想されるのであれば、少し先のライフスタイルを考慮して“今お金をかけるべき家具はどれなのか”を決めていきましょう。なんとなく部屋のイメージを変えたいからとお店に行って、デザインに一目ぼれして衝動買いをしてしまうのは絶対にNGです。
また、意外と多いのはソファにはこだわるのに、照明やカーテンには予算をあまりかけないケース。部屋のコーディネートにおいて、わかりやすく違いが感じられるアイテムこそが、実は照明やカーテンなんです。取り外しできるタイプの照明器具や移動が可能なフロアスタンドなら、部屋が変わっても使いやすいでしょう。カーテンは窓の大きさに合わせて購入するケースが多いと思いますが、アジャスターのついたカーテンフックやカーテンクリップを使えば、多少のサイズ違いは自分で調節できます。また、丈の長いカーテンを短くするのであれば、お直し屋さんでサイズ変更をすることも可能です。引っ越しても使い続けることができれば経済的ですよね。せっかくなら本当に自分が素敵だと思えるものを選んで、長く付き合っていきたいですね。
お洒落なフロアスタンドは部屋のアクセントにもぴったり
寒い季節におすすめ!節電につながるインテリアコーディネートアイデア5選
――これから暖房器具が活躍する時期になりますが、節電につながるインテリアコーディネートのアイデアがあれば教えてください。
インテリアをうまく活用することで、暖房の設定温度を上げず暖かさアップにつなげることができるアイデアを5つご紹介します。
1:暖色アイテムを取り入れて体感温度を約3℃アップ
暖色と寒色では体感温度に約3℃の違いがあると言われています。そこで冬は積極的に赤、オレンジ、ベージュ、ブラウンなどの暖色をお部屋に取り入れてみてください。家具はそのままでも、ラグやクッション、カーテン、タペストリーなどを暖色系に変えることであたたかみのあるお部屋をつくることができます。
暖色系のアイテムはあたたかさを感じるだけでなく、食欲を増進させる効果もあるので、家族が集まるダイニングやリビングにもぴったりです。
ダイニングに暖色系のアイテムを取り入れたコーディネート例
2:ロールスクリーンや暖簾を活用して部屋の間仕切りをする
リビングに階段があるような間取りの場合、空気が階段から通り抜けてしまうため暖房の効きが悪くなります。そんなときはロールスクリーンで間仕切りをして、空気の流れを遮断するといいでしょう。突っ張り棒を使えば簡単に設置できますし、暖簾などでもOKです。1枚仕切りがあるだけで体感温度がかなり変わってきます。
3:冬向けのカーテンに衣替えする
夏と冬でカーテンを使い分けてみましょう。冬は、窓から入ってくる冷気をなるべく防ぐため、厚地のドレープカーテンがおすすめです。厚地のカーテンは、見た目からもあたたかみが感じられます。衣替えするように、季節に合わせて部屋の雰囲気をガラッと変えてみるのも楽しいですよ。
4:暖かさを演出するインテリアアイテムを活用する
暖かさを感じるインテリアアイテムをお部屋に取り入れてみましょう。例えば、ふわふわのファーラグ。リビングに大きめのファーラグを敷けば、フローリングの寒さ対策になります。小さめのものをダイニングチェアの背もたれにかけたり、ソファの上に敷いたりするのもいいでしょう。お部屋のおしゃれを楽しみながら防寒もできるアイテムは、これからの時期の必需品。見た目の雰囲気が変わるだけでも、ぐっと温もりを感じるはずです。
小さめのファーラグをふわっと椅子にかけておくだけ。暖かさを演出しつつ防寒対策にも
5:窓から離れたお部屋の一角に“あったかゾーン”をつくる
外気は、窓やドアといった開口部分から家の中に入ってきます。窓の近くにヒーターなどの暖房機器を設置してしまうと、なかなか部屋全体が温まらず、その分、たくさん電気を使ってしまいます。
そこで、できるだけ窓から離れたお部屋の奥のスペースに、“あったかゾーン”をつくってみましょう。1ヶ所に熱を集めるようなイメージで、クッションやラグ、暖房器具などを設置して、ゆったりくつろげる場をつくるのがおすすめです。
また、冬場はエアコンの温度を控えめにして、ひざかけや湯たんぽなどを活用することも多いと思います。小物が出しっぱなしになっていると、散らかったようにも見えてしまいますが、そんな時はおしゃれなバスケットを1つ置いておくのも一手。使いたい時にすぐ取り出せますし、使わない時はバスケットに戻しておけば、お部屋もスッキリ見えるでしょう。
節電は「やらなきゃいけないもの」として捉えると、「あっちもこっちもスイッチを切らなくちゃ」となんだか心が寂しくなってしまいます。私の自宅では調光機能のある照明を使っています。寝る数時間前から照度をだんだん落として、自分の体が眠りに入りやすい状態にしていきます。気分が安らぎますし、無駄な電気も減らせて一石二鳥です。心は豊かなまま、自然と節電につながるのが理想ですね。
今回ご紹介したアイデアを参考にしながら、この冬は体も心も温まるインテリアコーディネートを楽しんでもらえるとうれしいです。
MAKO(まこ)
株式会社Laugh style代表取締役、インテリアスタイリング協会理事。インテリアコーディネーターとして、新築時や引っ越し時の家具のレイアウトや選定、店舗・病院・エステサロン等のインテリアデザインなどをトータルプロデュースする。平成28年度 インテリアコーディネーションコンテスト スタイリング部門 優秀賞を受賞。セミナー講師、新聞・雑誌等のコラム執筆、メディア出演などで幅広く活動する。
公式HP:https://www.laugh-style.jp
企画・編集=Concent 編集委員会
★節電情報について知りたい方はこちら!
2023年10月4日、東京都内で「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)民間パビリオン構想発表会(第1弾)」が開催されました。大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。民間パビリオン出展者13者のうち7者が、万博のテーマと各出展者のオリジナリティを掛け合わせたパビリオンの構想を発表しました。(第2弾は10月18日に6者で開催されました)
この日は、出展を決めている電気事業連合会も登壇し、パビリオンの正式名称を公表するとともに、建物の外観などを披露しました。そんな構想発表会にConcent取材班が潜入!当日の様子をレポートでお届けします。
電気事業連合会のパビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』(完成予想図)
“エネルギーの可能性”を探究するパビリオン構想
電気事業連合会 大阪・関西万博推進室 岡田康伸室長
万博開幕500日前を間近に控え、万博への機運を高めつつ、民間パビリオンの構想をアピールする場である今回の発表会。電気事業連合会からは、大阪・関西万博推進室の岡田康伸室長が登壇し、出展への想いやパビリオンの内容について、来場者にプレゼンテーションしました。
「今、私たちは、カーボンニュートラルを実現し、その先の未来へと進む大きな転換点に立っています。進むべき道は、エネルギーの使用を我慢するのではなく、技術の発展によってエネルギーをうまく使う道です。世界中の隅々まで目を凝らすと、実は“エネルギーの可能性”にあふれています。まだ、適切な取り出し方を知らないだけのエネルギーの可能性、使い方を工夫するだけで得られるエネルギーの可能性、増えすぎてしまったCO2を減らす技術の可能性。
重要なのは、様々なエネルギーの可能性を探し集め、丁寧に育て、柔軟に選択していくことです。そんなエネルギーの可能性のタマゴをたくさん体験して楽しく理解し、もっと探し集めたくなるようなパビリオンを目指しています。とにかく、たくさんの可能性のタマゴに出会ってほしい。そんな思いを込めて、パビリオンの名称は、『電力館 可能性のタマゴたち』としました」
パビリオンのテーマは「エネルギーの可能性で未来を切り開く」
『電力館 可能性のタマゴたち』では、建物内を「タマゴ型デバイス」を手に持って巡り、様々な体験を通じて、未来のエネルギーや先進技術を楽しく理解できるパビリオンになる予定。詳細は検討中とのことなので、続報が楽しみです!
『電力館 可能性のタマゴたち』の外観を初公開!
『電力館 可能性のタマゴたち』の模型。発表会当日は多数のメディアが撮影していました
こちらが当日、会場で展示されていた電気事業連合会のパビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』の模型です。ぜひ注目してほしいのは、その斬新なデザイン。
万博会場の東側ゲートから来場者が入ると、まずはこの大きなタマゴ型のパビリオンが目に入ります。「万博」という特別感や非日常感が味わえそうですね!
特徴的なタマゴ型の外観。表面には様々な形の平面が組み合わさった「ボロノイ構造」を採用(完成予想図)
よく見るとツルッとした曲線ではなく、多角形の平面がいくつも組み合わさってできた「ボロノイ構造」でつくられています。このタマゴ型のデザインについて、岡田室長は、「可能性のタマゴは変化しないものではなく、どんどん成長していくものなので、その成長へ向かう変化を表現している」と紹介していました。
外郭はシルバーの幕で覆われており、時間帯や天候、周囲の光の状況に応じて見た目が変化します。これによって、自然や周囲の環境と調和していくそう。
夕刻はパビリオンが西日に照らされ、オレンジ色に輝く(完成予想図)
トークセッションで明かされたタマゴ型の理由とは?
トークセッションでパビリオンの魅力をアピール(素材提供:2025年日本国際博覧会協会)
発表会の後半では、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサーの落合陽一氏をファシリテーターに迎え、出展者とのトークセッションが行われました。
落合氏:電気事業連合会は日本を代表するインフラ企業の集まりだと認識しています。そこから出てきた構想が「タマゴ」とは驚いたのですが、一体どうしてタマゴなのか、タマゴの中に何が詰まっているのか。そして、電気事業連合会が万博に出展することにどんな意味があるのでしょうか?
ファシリテーターを務めた落合陽一氏
岡田室長:インフラ企業のイメージにタマゴって全く出てこないですよね。そういった意外性を打ち出したいというのもメッセージの一つとして込められています。電力館のパビリオンというと、「ちょっと堅いんじゃない?」「真面目で面白くないんじゃない?」というイメージを持たれている人も多いのかなと思います。そこで、エンターテインメント性を追求しつつ、未来を切り開いていくエネルギーの可能性を感じてもらうパビリオンにしていきたいということで、「可能性のタマゴ」としています。
万博では、電気事業者として、2050年にカーボンニュートラルを実現する世界観を描くことに意味があると思っています。(電気事業者がカーボンニュートラルに向けて)真剣に全力で取り組んでいる姿を世界中に届けたいです。ぜひ、パビリオンにお越しいただければと思います。
******
発表を終えた岡田室長は、「今回の発表会で、他のパビリオンの内容も徐々に見えてきました。どこも斬新な構想を発表されていて、開幕がより待ち遠しくなりました。『いのち輝く未来社会のデザイン』がテーマの大阪・関西万博では、どんな世界観が広がるのか今から楽しみです」と期待を寄せていました。
2025年の万博開催まであと500日ほど。電気事業連合会のパビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』は今年11月に着工しました!その姿を目にするのが今から待ち遠しいですね。
2023年10月26日に会場となる大阪・夢洲(大阪市臨海部)にて起工式を実施。電気事業連合会の池辺会長による刈初の儀の様子
企画・編集=Concent 編集委員会
★節電情報について知りたい方はこちら!
昨今、配膳サービスロボットの導入など、ロボットの存在を身近に感じることが増えてきたと感じる方も多いのではないでしょうか。高齢化の進展や出生率の低下などによる働き手不足が懸念されている中、今後の日本では、ロボットはさらに存在感を増し、未来の労働力を担う存在になっていくと想像できます。完全自走式の配送ロボットなど、屋外の物流分野で活躍するロボットの開発を行うLOMBY(ロンビー)株式会社に話をうかがいました。
自動配送ロボットLOMBY「LM-R1」
ロボット配送サービスの登場は、2023年からが本番!?
――“自動配送ロボット”とは、一般的にどういうものを指すのでしょうか?
自動配送ロボットとは、運転や操作が不要で、自動的に目的地まで走行できる機能を持っている小型の配送ロボットを指すことが一般的です。最近、レストラン内で配膳をするロボットが普及し始めましたが、これらは屋内で走行する自動配送ロボットです。
一方、弊社で開発中のロボットは屋外を主に走行するロボットです。物流拠点から届け先である個人宅までの区間など、利用者が宅配物を手にするまでの最後の配送区間はラストワンマイルと呼ばれており、今は人が配送していますが、それを無人で行うことを目標としています。
――すでにロボットでの配送サービスが導入されている事例はあるのでしょうか?
2023年10月末時点で、国内で大規模に商業利用されている屋外の自動配送ロボットはありません。2023年4月に改正道路交通法が施行され、「遠隔操作型小型車」という新しい区分ができ、自動配送ロボットが公道の歩道部分を走行できるようになりました。今後、自動配送ロボットがさらに普及していくことが期待されています。
今後、様々なエリアで自動配送ロボットがさらに普及することを期待
ロボット導入のメリット
――ロボットでの無人配送が可能になる大きなメリットは何でしょうか?
日本は世界でもっとも高齢化が進んだ超高齢社会であり、将来的に国内の労働人口は減少していくと予測されています。一方、コロナ禍で通販やフードデリバリーを初めて使われた方も多いと思いますが、自宅へのデリバリーはここ数年で日常生活の一部として定着しました。今後、こうしたデリバリー慣れした消費者の高齢化に伴って、配送需要も増加していくと考えています。
ロボットは、こうした将来的な配送需要に対して、人手に頼らず対応できます。また、人件費のように社会環境の変化に伴って急激に変動したり、採用等の管理コストがかかったりせず、労働コストを安価で安定したものにすることが可能です。
建物内での配達のイメージ
自動配送ロボット「LOMBY」について
――貴社は自動配送ロボット「LOMBY」の実証実験を行っていますが、そもそも、どのようなことができるのでしょうか?
LOMBYは、屋外を無人で走行して飲食店の店舗や配送会社の拠点から個人宅へ配送することが可能です。道路交通法上で最高時速は6km/hと人の小走り程度に速度制限されていますが、拠点から2km圏内を遅くとも30分程度で配送することが可能です。
LiDAR(ライダー)と呼ばれる車の自動運転にも用いられているレーザー光を照射して、自分の位置を特定したり、障害物を検知したりできます。それによって、昼夜問わず自動で走ることができるんです。
現在は、都内の天王洲アイルエリアや広島市内で実証実験を行っています。都内では、国内外からの遠隔操作の試験やセンサー類の調整等のため、歩道での走行試験を実施しています。すれ違う方々には「かわいい!」と言っていただけますが、お散歩中の犬にはとても警戒され、怯えられてしまいます…笑。また、広島市内では地元の大学に協力いただき、高層階への配送試験も実施しています。
今後、実際に使っていただき「便利!」と言ってもらえるようなサービスにしていきたいと思っています。
――開発のきっかけは?また、いつごろから開発が始まったのでしょうか?
LOMBYの開発は、物流におけるラストワンマイルの再配達をなくすことを目指して、置き配バッグOKIPPA(オキッパ)という簡易宅配ボックスを製造している、Yper(イーパー)株式会社の新規事業として2021年の4月に開始しました。
OKIPPAも累計販売数20万個を突破して、多くの方に利用いただいている商品ですが、今後、国内の労働人口が減少する中で玄関前まで届ける人が不足する方がより社会的に大きな課題になるのではないかと感じ、人に頼らない労働力の提供方法について検討に入りました。その後、本格的に量産化を進めるため、1年後の2022年4月にLOMBY株式会社を新設し、開発を始めました。
――開発で苦労している点などはありますか?また、こだわりのポイントはどんなところでしょうか。
現在、世界でも屋外の公道で本格的に商業展開しているロボットを用いた配送事業者はいないため、ハードからソフトまで自分たちで開発する必要があり、手探りでの開発は苦労の連続です。
エレベーターとのシステム連携試験を行なっている様子
現在、世の中に存在する配送ロボットは、人が荷物をロボットに預け入れ、配送先で人が荷物を取り出すようなオペレーションになっていますが、それだといつまでも現場に人が必要です。そこで、LOMBYでは、ロボットに自動で荷物を積み込むことができる宅配ロッカーも開発しています。それが実現すると24時間無人でモノを移動させることが可能になり、ロボットの利用価値も高まると思っています。
また、LOMBYは屋外から建物内まで入って走行できるように開発しており、エレベーターとシステム連携をして建物内の各フロアまで荷物を届けることが可能です。
エレベーターとのシステム連携により建物内の各フロアまで荷物を届けることが可能に
――1回の充電でどのくらい動けるのですか?搭載できる重量などはどのくらいでしょうか。
1回の充電で5-6時間連続走行できる交換式のバッテリーを2台搭載できるようになっています。荷台には最大25kgの荷物を入れて運ぶことが可能で、人が登ると「大変だ」と感じる傾斜10度くらいまでの坂道も登ることができます。
これからの社会に向けて
――どのような場所での導入・活用を想定していますか?屋外公道での走行向けにスズキ株式会社さんと共同開発もされていくとのことで、その点もお伺いさせてください。
宅配便や飲食店、小売店の拠点から2km以内の近距離配送での活用を想定しています。また、ロボット配送であればコンビニエンスストアからの24時間無人配送や、配送依頼してからあまり待たずとも荷物が届くオンデマンド配送など、人では難しいサービスもできる可能性があります。
スズキ株式会社は高齢者向けのセニアカーや電動車椅子で国内トップシェアの企業です。今後の超高齢社会の中でそうしたモビリティの需要は高まると予測され、高齢者向けモビリティと配送ロボットの部品を共通化できれば、製造コストや整備コストを安く抑えることができます。そうなれば、安価なサービスを社会に提供できると考えており、共同開発を進めさせていただいています。
屋外公道での走行向けにスズキ株式会社さんと共同開発も行なっている
――最後に、読者にメッセージをお願いします。
まだまだロボットでのサービスは発展途上で、人と比較するとできないことは多いのですが、今後、ロボットだからこそできる付加価値サービスを考えていきたいと思います。ぜひ皆さんの生活圏内でLOMBYサービスが開始したら、お気軽に試していただき率直な感想を頂けると大変嬉しいです。
LOMBY株式会社
2022年4月創業のスタートアップ。国内の労働人口が減少する中で、屋外の物流分野にロボットでの労働力の提供を目指して、現在、自動配送ロボットを開発中。
公式HP:https://lomby.jp/
企画・編集=Concent 編集委員会
★節電情報について知りたい方はこちら!
電気製品の使い方を、うっかり間違えたりすることで発生してしまう電気火災。火災を引き起こす原因や、日頃からできる防災対策を、頭の中に入れておきたいところです。そこで、 “タイチョー”としてYouTubeの『RESCUE HOUSE』で防災情報を発信する、元レスキュー隊員の防災アドバイザー・兼平豪さんにインタビュー。多くの火災・災害現場での経験で培った、効果的な防火対策やいざという時の対処方法等についてうかがいました。
元レスキュー隊員の“タイチョー”こと兼平豪さん
身近で起きる恐れのある電気火災
――あまり聞き慣れない言葉ですが、電気火災とはどのような原因による火災なんでしょうか?
電気火災は年々増加傾向にあるので、この機会にみなさんに知っていただきたいと思います。
電気火災の原因で多いのが、たこ足配線です。それ以外でよくあるのは、トラッキングと呼ばれる現象です。トラッキング火災とも呼ばれ、コンセントにプラグを長時間差し込んでおくと、コンセントとプラグの間に溜まったホコリが空気中の湿気を吸収して徐々に電気を通しやすい状態になり、そこから放電して発火してしまうんですね。特に手が届きにくい、冷蔵庫やテレビの裏などは要注意です。
また、配線コードを冷蔵庫など重たいものに踏まれたままにしておくと、配線がショートし、火災につながる恐れがあります。
電気火災の原因で多いのが、たこ足配線。繋げ過ぎによる過負荷は要注意!
――”電源の周り”が多いということですね。
そうですね。例えば、たこ足配線により過電流が続いてしまうと、コンセントや電源タップが発熱し、火災になってしまうことがあるんですね。様々な火災現場を経験してきて、たこ足配線による過負荷(オーバーヒート)は、10代~20代の一人暮らしに多く、逆に60代~70代の家庭での電気火災は、トラッキング現象が原因になっていることが多いと感じます。特に、居住年数が長い方のケースでは、細部まで掃除できていないコンセント回りやエアコンから発火する場合があるんです。また、古い一軒家だと、分電盤が屋外に設置されていることもあり、経年劣化や雨に濡れたことによるショートが火災の原因になります。線状降水帯や大型台風による大規模な洪水など水害にも注意が必要ですね。
ちなみに、通電火災ってご存知ですか?実は、大地震による火災の半数以上は通電火災が原因なんです。例えば、揺れによって落下あるいは転倒などして壊れた家電に電気が流れて、破損箇所から出た火花が原因で火災になるようなケースもあるんです。このように災害時の電気による危険性を、皆さんにぜひ知っていただきたいと思います。
誰にでもできる、電気火災の防ぎ方や対処方法とは!?
――予防のために、どういった対策が必要でしょうか?
注意するのは、電源タップのたこ足配線ですね。接続する数を増やさないということです。よく消防庁が「使用する電気機器の電流値を確認して、容量オーバーにならないように」といった発信をしています。そして、100円ショップで買える『コンセントカバー』などを利用して、コンセントとプラグの間にホコリが溜まらないようにすることが有効だと思います。引越しやリフォームした際に、日頃手が届きにくい冷蔵庫やテレビ裏のコンセントに装着しましょう。たった100円で、電気火災のリスクをかなり減らすことができるのでおすすめです。
また、地震の際の通電火災のリスクを減らすために、大きな揺れを感じると電気を自動的に止める『感震ブレーカー』という器具を分電盤などに装着するのも1つの手です。これは、東日本大震災で実際に役立ったというデータも出ています。このような器具の利用も大切ですが、災害が起きたら、まずはブレーカーを落とすことを心掛けましょう。
大規模地震に備えるための、家庭での停電対策についてのチラシ(内閣府 防災情報のページより引用)
そして、レスキュー隊員として僕が感じたことですが、部屋を常に綺麗にしておくことですね。なぜかというと、整理整頓ができていない部屋は、ホコリも溜まっていたり、服が脱ぎ散らかしてあったり、雑誌などが床に散らばっていたりと、燃えやすい環境でもあるからです。
――電気製品の適切な使い方や、家庭で注意すべきポイントがあったら教えてください。
電子レンジの正しい使い方を知らない人って、意外と多いんですよ。そして、誤った使い方による火災事故も多いんです。「電子レンジが燃えています!」って119番通報が消防に入るんですけど、まず僕が言いたいのは、それは燃えているのではなく、燃やしたんです、ということ。でも、電子レンジの中に入れていいものと、ダメなものって、どこでも習わないですよね。恐らくみなさんも「なんだっけ?」って、考えると思います。
例えば、肉まんとイモ類って、チンしますよね?実はこの2つは爆発的に燃えるので、とても危険なんです。肉まんはパッケージに記載されている「温め〇〇分」という指示通りなら大丈夫なのですが、怖いのは自動で温める場合。おすすめモードでピッと押すのはやめましょう。肉まんをテイクアウトした海外の旅行客が電子レンジで過度に温めすぎて、火災を起こすケースが見受けられるほど、よくある火災なんです。
電子レンジも、使い方を間違えると大きな火災を起こす原因となる
また、電気製品の使用時に異常な熱量を感じるか?感じないか?という点も、注意すべきポイントです。僕の講演会で質問を投げかけてみると、「あれ?ドライヤーってこんなに熱かったっけ?」と思ったことがある人が7割くらいいました。買ったときと比べて熱くなるようであれば古くなった証拠です。異常な発熱を感じたら、使用するのを止めましょう。
それから、製品に『PSEマーク』があるかどうかも要チェックです。これは、この電圧なら日本での使用が安全と認証するマークで、電気製品を日本で製造・輸入する業者が、電気製品に表示しなければならない。つまりこのマークがないと国の定めた技術基準に適合していない恐れがあり、販売できないんですね。だから僕は、ECサイトの通信販売で海外から電気製品を購入する際、このPSEマークの有無を必ず確認しています。
――家庭での防災教育は、どのような方法が効果的ですか?
僕自身が仕事で家をよく空けているので、子供たちには、「パパがいない時に、どうやって命を守るのか?」って、教えていることがあります。それは、先ほども言った、「災害が発生したらブレーカーを落とす」ということです。逆に、それしか伝えていません。「窒息消火にはこういう方法があって、あとは消火器がここにあるからこれで消火する」って、細かく言っても覚えられないじゃないですか。素人が判断をして、「うん。安全になった」っていうのは、僕からすると、まだまだ危険が残っている恐れがあります。簡単に子供たちでもできる安全策となると、ブレーカーを落とすことが対処法として最適です。もちろん119番に電話することも忘れてはいけませんね。
災害が発生したら、まずはブレーカーを落とすことが最善の策
それから、子供たちには、みんなが手を出しにくいところを掃除するように、“ホコリ探しゲーム”として、日頃から掃除することも教えています。2ヶ月に1回くらい、おばあちゃんの家に遊びに行くのですが、そのときに「ホコリ探しゲームしよう」と一緒にやっています。ホコリだけでなく、たこ足配線まで見つけたり、子供と家で楽しく遊びながらやるっていう対策はしていますね。すべての防災対策において、楽しくて自分からやりたくなることが重要だと思っています。
――家庭で電気事故に直面した場合の対処法について、正しい知識を得るにはどうしたらいいでしょうか?
正しい知識を得るには、消防の防災イベントや救命講習に出るのがおすすめですね。あとは自治体が発信している動画を視聴するのも一つの手です。そして、『RESCUE HOUSE』のYouTubeで消防豆知識や防災豆知識などの動画を観てください。消防では、今でも地震があったら机の下に隠れようと言っています。でも学生たちは「もう知っている、面白くない」と、避難訓練も真剣には取り組みません。防災について伝えようとしても今までの方法では響かないので、『RESCUE HOUSE』では、興味を持って視聴いただけるように、みなさんが知らない非現実部分と防災を織り交ぜて配信するように心がけています。
消防・防災を中心にさまざまな情報を発信するYouTubeチャンネル『RESCUE HOUSE』
電気製品による火災って、水で火が消せないって知っていますか?このときの行動が生死をわける分岐点になるんです。もし、初期消火で水をかけたら、爆発してしまうかもしれません。正解はブレーカーを落としてコンセントからプラグを抜くことです。冷蔵庫の裏にコンセントがある場合は、ブレーカーだけでも落としてください。意外と知られていないので、これだけでも知っておくとパニックにならずに済みますよ。日本の防災教育って、江戸時代の火消しからアップデートされていないんです。習う場所がないというのが現状なんですね。そのため、みなさんどうしても勉強不足になってしまうのです。
企業での研修時の様子
一人でも多くの人と手を繋ぎ、未来を守る防災を
――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
いつ、どこで、誰が、災害に遭うかわからないんですよ、本当に。危険は常に隣り合わせなんです。防災について“知る”ということは、あなたと大切な人の“命を守る”ことにつながります。ですから、人の命は運任せにしてはいけないと僕は思います。よく映画やアニメで死んだ人が復活するシーンがありますが、災害で失った命はどれだけ悔やんでも、お金を積んでも、絶対に戻ってこないです。あなたと大切な人の未来を守るため、ほんの5分でもいいので防災について学ぶために時間を割いて欲しいなと思います。
――防災って、まさに未来を守ることですね。
そうです。命を失ってしまったら絶対に戻らないんですよ。僕は、火災をはじめ様々な災害防止のために普及・啓発の活動をしています。でもそれを素晴らしい活動だと思って欲しくないんです。僕は、「〜をしていたらよかった」をなくしたい。災害が起きた時に、「あれをやっておけばよかった」、「これができていたら助かったんじゃないか」って後悔するのは、レスキュー隊員だけでいいと思っています。この後悔をみなさんにして欲しくないというのが僕の願いです。後悔しないために、今この5分でできることがあるんです。それを1人でも多くの方に理解して実践いただきたいですね。
この仕事は、防災についてただ発信すればよいというわけではないと思っています。防災をして!これを持っていて!ではなく、「そういえばタイチョーこんなこと言っていたな。俺たちもこうしよう」と当たり前のように行動できるように、1人でも多くの方と手を繋いでいく。それが本当の意味での防災だと思っています。
タイチョー(兼平豪)
元大阪市消防局職員/防災アドバイザー。株式会社VITA代表取締役。元レスキュー隊員として「助かる命を助けるために」をテーマに、防災YouTubeチャンネル「RESCUE HOUSE」を運営。災害現場のリアルな声とともに、災害大国ニッポンならではの「気づき」を日々発信している。YouTube登録者27.8万人(2023年8月現在)。
公式HP:https://vita-rescue.com
著書『消防レスキュー隊員が教える だれでもできる防災事典』(KADOKAWA)
企画・編集=Concent 編集委員会
★節電情報について知りたい方はこちら!
夏は、冷房を使うなど、電気をたくさん使用するシーズン。昨今、電気代の値上げが話題になることも多いため、「我が家でも!」と節電に取り組まれているご家庭も多いのではないでしょうか。一方で、誤った知識で行なってしまうと逆効果になることも…。今回は、テレビや雑誌など多くのメディアで活躍されている節約アドバイザーの和田由貴さんに、「勘違いしやすい節電と、正しい節電方法」について教えていただきました。
節約アドバイザーの和田由貴さん
エアコン、冷蔵庫、照明器具の3つの家電が、家庭で消費する電力の半分以上!まずはここから節電を
節電する際に気をつけておくべきことは、消費電力※1の大きな家電を気にするより、使用頻度の高い家電をチェックして全体的な消費電力量※2を知ることです。エアコン、冷蔵庫、照明器具の3つ※3が、家庭で使用する電力の半分以上を占めています。
※1 消費電力=電化製品を1秒動かすのに必要な電力の大きさのこと。製品の性能を示すもので、W(ワット)と表記される。
※2 消費電力量=消費電力×使用時間で計算し、電気代の目安となるもの。Wh(ワットアワー)と表記される。
※3 資源エネルギー庁 省エネポータルサイトより https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/
STEP1
夏場は、冷房の電気代を特に気にされる方が多く、そのためエアコンの使用を我慢してしまうというケースがあります。でもエアコンの場合、設定温度を極端に下げたりしない限り、実は暖房より冷房の方が圧倒的に電気代が掛かりません。ですから、夏場は熱中症などの危険性もあるので、エアコンの使用を我慢してまで行う節電は避けましょう。
エアコンの設定温度を1℃変更するだけで、なんと約10%消費電力量が変わります。たった1℃の差が、電気代に大きく影響します。ただ風量は、ほとんど消費電力に影響がありません。つまり、風量は強くしても電気代は大きくは変わらない。人は同じ温度でも、強い風が体に当たると体感温度が下がるので、風量を強くしてあげることで涼めます。設定温度を下げるのではなく、風量で調整しましょう。
設定温度を控えめにするコツは、部屋の環境を整えることです。日本の住宅は断熱性が低く熱伝導率が高いところも多いため、遮光カーテンを使っても、窓に日が当たると部屋がすぐ暑くなります。直射日光がかなり当たる状態では、いくら冷房を入れても部屋の温度はなかなか下がりません。ですから、窓に日が当たらないように、外側で何かしらの対策をしてあげることが必要です。例えば、夏の場合は、外側に簾や葦簀(よしず)を設置して日陰を作ると効果的です。
また、もう一つ誤解されやすいところとして、環境省が「温度を28℃に」と推奨していますが、これは、設定温度ではなく目安となる部屋の温度ということに注意してください。エアコンの設定温度を28℃にしても、古いエアコンや部屋の環境によっては、いくら稼動させても室温が28℃にならない場合もあります。設定温度を28℃にこだわってしまうと、場合によっては熱中症になる危険性もあります。ですから、熱中症予防のためには室内に湿度も測れる温度計をおいて、室温の目安として28℃を保つように心がけるといいと思います。外気温が高くなり蒸し暑くなる夏場は、室内の湿度は40~60%が理想的とされています。
STEP 2:冷房と除湿の使い分け
エアコンには、冷房と除湿運転があります。除湿運転を、「なんか電気代が安そう」「なんかエコっぽい」と信じて使っていませんか?これはよく勘違いしがちなポイントなんです。実は、除湿運転も基本的な効果は冷房と変わりません。除湿の仕組みは室内の空気を冷やして結露を作り、その水滴をドレンホースから外に流し出しているので、一般的なエアコンの除湿運転は「弱冷房」であり、その名前の通り弱い冷房を使用しているのと同等の効果なのです。弱い分、冷房よりは電気代も安いですが、冷房より弱いため除湿できる量も少なくなります。本当は、冷房のほうが除湿量は多いです。
また、再熱除湿と呼ばれる除湿方式が搭載されているエアコンの場合、部屋はあまり冷えませんが、冷房運転よりも除湿量は少なく電気代は高くなります。除湿運転は、ちょっと肌寒い梅雨の時期や湿気が多いとき、部屋の温度を下げたくないけど湿気を取りたいときに活用しましょう。つまり、夏の暑いときに除湿したいと思ったら、冷房がベストな選択です。
STEP 3:室外機の設置と掃除
室外機も意外と重要な部分です。エアコンのフィルターはみなさんよく掃除されていますが、外にある室外機は見落としがちだと思います。泥ハネや蜘蛛の巣が張って汚れていたり、雑草がボーボーに生えて空気の排出がしづらい状態で室外機を設置していたりしませんか?熱交換を行う重要な装置なので、汚れていると運転効率が下がるだけでなく、放熱できずに余計な電気代がかかってしまいます。さらに、直射日光がガンガン当たる状態も良くないので、日陰を作り設置する環境を整えることも大切です。
室外機は、雨に濡れても基本的に大丈夫な構造になっているので、水洗いしても大丈夫です。ただし、掃除をする際に高圧洗浄機を使用するのは、絶対に避けましょう。アルミのフィンが折れ曲がったりするので、傷つけないように柔らかいスポンジで軽く洗うのがオススメです。
室外機の設置場所は、日なたよりも日陰のほうが好ましいです。ただ、すでに日なたに設置してある場合は、動かすことができません。室内機と繋がっている冷媒配管は、故意に折り曲げたりすると冷媒と呼ばれるガスが漏れる場合もあり、故障の原因となります。ですから、絶対に室外機は動かしてはいけません。そこで利用したいのが、アルミが貼られている日除けシートです。ホームセンターなどで売っているので試してみてください。
STEP 4:コンセント
コンセントからプラグを抜くことも、実は故障の原因になります。待機電力を気にされてこまめにプラグを抜く方がいますが、エアコンに関しては止まったように見えても、室外機が外で動いていたり、冷媒の循環が完全に止まっていなかったりすることが十分に考えられます。ですから、スイッチを止めたあと数時間はプラグを抜くのはやめましょう。抜くのはオフシーズンなど、長時間使用しない場合のみがいいと思います。
部屋の照明器具は、早めにLEDに変更を!
照明器具は、早急にLEDへチェンジしましょう。従来の照明器具と電気代を比較すると、蛍光灯で約1/2、白熱灯だと約1/10の消費電力量に抑えられます。それから、発熱量が少ないので、室温の上昇に影響を与えにくいです。白熱灯は点灯してすぐに熱くなり、夏の室温に大きな違いが出ます。冷房を利用しながら部屋を温めてしまっているので、電気代が非常に無駄です。こういう観点に鑑みてもLEDがオススメなのです。
照明器具は頻繁に点けたり消したりすると、点灯時に電力を消費して電気代がかかると思っている人がいるようですが、これは間違いです。白熱灯やLEDは、短い時間でも消灯するように心がけてください。消し忘れが多い方は、人感センサーが内蔵された電球もオススメです。ECサイトで某国内家電メーカーのモノが900円前後で販売されています。トイレや玄関に使うと大変便利に活用できます。ただし、蛍光灯の場合は1回の点灯で寿命が1時間短くなると言われているので、頻繁にオン・オフするのは避けたほうがいいかもしれません。
古い冷蔵庫は買い替えましょう。庫内の収納量も節電のキーポイントに!
次に冷蔵庫。省エネ性能が低い冷蔵庫を使っていると、節電をいくら頑張っても努力が水の泡になります。エアコンは10〜15年前の製品でも省エネ性能に優れていますが、冷蔵庫の場合は15年も前の製品の場合、年間の電気代に1万円近く差が出ることもあります。古い場合は、早めに買い替えも検討しましょう。
また、ファミリータイプの大型製品と、一人暮らしサイズの小型製品を比較した場合、大きい製品のほうが電気代が安い場合もあります。コロナ禍の影響で買い置きが増えたため2台目の冷蔵庫を購入するケースも増えたようですが、2台所有すると電気代が2倍かかってしまいます。今の冷蔵庫が手狭になったなら、大きな冷蔵庫に買い替えたほうが電気代は安いですし、以前のモデルと比べて同サイズでも容量は増えているので、省スペースで活用できてお得です。
使い方にも注意点があります。冷蔵室にモノを詰め込みすぎると、冷気の循環が悪くなって無駄な電力がかります。7割くらいを目安にして、冷気の吹き出し口を塞がないように工夫すると良いでしょう。逆に冷凍室には、たくさんモノが入っているほうが電気代が安くなります。隙間があるなら水を入れたペットボトルを凍らせておくと、停電対策にもなり一石二鳥です。
夏場はこれで万全!冬場の節電対策は、窓際の防寒・断熱対策をチェック!
冬は夏と違い、部屋の内側で熱を逃さない防寒対策をするのが基本です。カーテンの裾と床の間にできる隙間も、部屋が冷える原因の1つです。冷たい空気は重たく低いところに溜まるので、カーテンと床に隙間があると冷たい空気がどんどん入ってきます。簡単な対策としては、厚手のカーテンを使用して引きずるくらい長くする。もし隙間があるなら、タオルやクッションで塞ぐだけでも効果があると思います。
逆に、暖かい空気は上に溜まります。暖房を利用していると、どうしても天井の方ばかり温めてしまいます。生活空間は床に近いので、暖房効率が悪くなり電気代もムダになります。きちんと空気を攪拌(かくはん)して、暖かい空気を下の方まで回してあげると、床まで暖かくなり暖房効率も上がります。
そこで、冬場は暖房と同時に、サーキュレーターの使用をオススメします。扇風機とサーキュレーターは、風を出す電化製品ですが、それぞれ用途・目的が全く違います。扇風機は広く柔らかい風を出し、人に直接風を当てるための家電。一方のサーキュレーターは強く直進的な風を出し、空気を循環させるための家電です。
扇風機は首が上に向かないと思うので、冬にサーキュレーターの代用として使うなら、高い家具の上に置いたりして天井方向に向ける必要があります。ただし夏は、風が当たったほうが体感温度が下がるので、エアコンと併用するなら扇風機のほうがより快適に体感温度を下げられます。
最後に:家電の機能を有効活用したりスマート家電を採用したりして、無理のない節電を心がけましょう!
政府による電気・ガス料金の緩和措置による補助金も段階的に縮小、廃止する方針が示されております。7月現在、燃料費は多少落ち着いていますが、世界情勢の動きによってどうなるかわからないので、今後も節電は注目されるでしょう。
効率よく節電をするなら、まず消費電力量が大きな家電を中心に考えましょう。スマホの充電器を抜いている人もいますが、ほぼ待機電力ゼロですから頑張っても節電効果はあまり期待できません。そこを気にするなら、エアコンの設定温度を1℃変える方が有効です。人感センサー付きの照明を使ったり、テレビ画面の明るさもセンサー機能を活用したりすると消費電力は抑えられます。家電に備わっている機能を上手に駆使しながら節電を心がけるのも、賢く節電をするポイントになります。節電の効果が出やすいところは徹底し、そうでないところは気にしない。そんな感じで良いと思います。家の中には家電がたくさんあるので、全ての家電で節電を頑張ろうとすると疲れてしまいます。
あと、スマートリモコンやスマートプラグなど、スマート家電を有効に活用するのもオススメです。防犯目的で照明をつけっぱなしの人もいますが、スマート家電を利用すると、そういう場合もタイマーで点灯できるようになります。さらに、エアコンも外出先から操作して、帰宅する頃に部屋を快適にしておけます。そういった便利な知識も身につけておくと、効果的な節電が無意識にできるようになるでしょう。
和田由貴
わだゆき。節約アドバイザーとして、消費生活や家電製品、食生活など暮らしや家事の専門家として幅広く活動中。また、環境カウンセラーや省エネ・脱炭素エキスパートという顔も持ち、環境問題にも精通する。2007年に環境省の「容器包装廃棄物排出抑制推進員(3R 推進マイスター)」に選出。活動のモットーは「節約は、無理をしないで楽しく!」で、耐える節約ではなく快適と節約を両立したスマートで賢い節約生活を提唱している。
公式HP: http://wada-yuki.com/
企画・編集=Concent 編集委員会
★節電情報について知りたい方はこちら!
近年、地震や台風などの自然災害が日本を含む世界中で頻繁に発生しています。これらの災害は私たちの生活に大きな影響を与えるだけでなく、ペットにも危険が及ぶ可能性があります。私たちは大切な家族の一員であるペットの安全を守るためにどう備えるべきか、NPO法人ペット防災サポート協会理事長の三浦律子さんにお話をうかがいました。
******
NPO法人ペット防災サポート協会理事長の三浦律子さん
ペット防災はペットと飼い主を守るだけではない。地域社会全体での取り組みが大切
――ペット防災サポート協会立ち上げのきっかけについて教えてください。
私は現在ドッグトリミングサロンを経営しているのですが、お店をオープンした年に東日本大震災が起きました。知識も経験もない状態では災害時のボランティアはできないと感じ、お客様とペットのために自分ができることを考えました。当時は、ペット防災に関する情報や啓発活動もまだまだ不足していたので、ペット防災という考え方を伝える必要性を感じていました。この時からペット防災について学び、被災地でトリマーとして、ペットのケア方法やペット防災を伝えるボランティア活動に取り組み始めました。活動を通して、ペット防災はペットと飼い主さんを守るためだけのものではなく、地域社会全体で重要性を認識して取り組むことが大切だと感じるようになりました。そうした活動を継続していく中で、同じ思いの仲間が集まりペット防災サポート協会が立ち上がりました。
ペットと家族の避難計画と適切な備えを
――災害時の対応において最も重要なポイントは何ですか?
やはり備えをしている人と、していない人では大きく違いが出てきます。備えをしていないと、人もペットも命に関わります。「モノ」の準備だけではなく、ペット連れは避難場所をいくつか具体的に考えておくことが重要なポイントになるかと思います。具体的には、飼い主も一緒に避難する場合は知人宅や少し離れた親戚宅など。ペットだけで短期間の場合はペットホテルやサロン、長期の場合は動物団体に相談しましょう。特に大規模な災害の際には、ペットを受け入れる施設や場所が限られていることがあるので、ペットと家族の避難計画を事前に立て、適切な備えをすることが重要です。住んでいる地域の防災計画や自治体の広報誌、ウェブサイトなどで災害時の避難所の所在地や避難ルートを確認し、避難所にペットを連れて行く際の注意事項も、あらかじめ管轄の自治体に確認しておきましょう。
適切な温度管理には電力が必要不可欠。それぞれのペットに合った対策を
――災害時にペットの安全を守り、ストレスを軽減させるにはどのような対策が必要ですか?
ペットの種類や性格にもそれぞれ違いがあるので、その子に合わせた対策が必要ですが、全てのペットに共通することは適切な温度管理です。犬や猫はもちろん、エキゾチックアニマル(トカゲやヘビ、ハリネズミなど)を飼っている方は特に重要になってきますし、鳥などは他の鳥からの感染症にも注意しなければなりません。ペットの性格や年齢、体調なども考慮して、避難後の過ごし方まで考えておく必要があります。季節や天候に応じた準備が必要なので、エアコンを利用できることが望ましいですが、電力の供給が制限されることもあるため、ペットの温度管理に役立つ保温マットや冷却マットなどを用意するなど、ペットの体温調整を常に意識するようにしましょう。ポータブルバッテリーなどの予備電源を準備しておくと安心です。電力はペットの快適な生活環境を整える上でも必要不可欠です。
特に新しい環境や外部からの刺激が多い場合、ペットにストレスを与えることがあります。リラックスできるように、ペットが過ごすケージに目隠しになるタオルを被せたり、好きなおやつなどの嗜好品の準備をしたり、適度な運動ができる環境を整えることも必要です。ストレスから病気になるペットもいるので、普段からペットの性格や健康状態、生活スタイルなどを防災ノートに記しておきましょう。防災ノートを見れば、飼い主以外の方もお世話ができます。
ペット防災サポート協会が作成した「人とペットの防災ノート」
――ペットの避難時に必要な備品や物資について教えてください。
避難するときに、持ち出し品(すぐに持ち出すもの)と、備蓄品(家に置いておくもの)とを分けて考えておく必要があります。ペットの種類によっても必要なものにそれぞれ違いがあるので、実際にリュックなどに入れて持ってみることで、重すぎるものは備蓄品にしておくなど、必要なものがどれなのか事前に把握しておきましょう。
例)犬、猫の場合
〇持ち出し品(すぐに持ち出すもの)
療法食、薬、ごはん3日分くらい、キャリーバック、ケージ等、首輪やリード(伸びないもの、係留するのに便利なもの)、ペットシーツ、排泄物の処理用具、猫砂(猫の場合)、食器、暑さ・寒さ対策グッズ、目隠しになる大きなタオル等、除菌シートやスプレー等(避難先を汚した際に使用)、ゴミ袋、ワクチン証明(携帯電話や防災ノートに保存)
〇備蓄品(家に予備で置いておくもの)
ごはん、水、ペットシーツ、猫砂、ガムテープ、ペットの写真、おやつ、グルーミンググッズ、予備の首輪やリード(周りへの安全性を考えて伸びないものが良い)、充電済のポータブルバッテリー
持ち出し品の一例
「人とペットの防災ノート」のチェック項目
学ぶことは、自分を守ること
――ペット防災に関する教育や啓発活動について、現状どのような課題がありますか?
私がペット防災を学び始めた頃は、「まずは人の防災からでしょう?」と言われることが多くありました。時代は変わり、今は15歳未満の子供よりペットのほうが数が多いと言われています。少しずつ関心は高まってきているとは思いますが、まだまだペット防災はペットだけを守ることと思われている傾向があるように感じます。
ペットの存在が人とペットの綿密な避難計画を立てることにつながり、社会全体の防災にも大きく関わってくるので、全ての人にペット防災を学んでほしいと思います。人と動物の命の大切さがわかり、自分を守ることにもなると思います。
愛媛県立伊予農業高等学校で実施したペット防災教育の様子
――最後に読者の方へメッセージをいただけますでしょうか?
防災というと何だか堅い感じがして、「何とかなるでしょう?」とか、「特に何も用意していません」という声もまだまだ聞きます。ペット防災はペットを飼っている、飼っていないに関係なく皆さんに関わってきます。地域でのペットを含めた普段の生活が災害時にも関係してきます。
避難所でペットと一緒に生活するということは大変な部分もあり、過去の災害においてトラブルなどもありましたが、避難所でのペットの存在は悪いことばかりではなかったということも被災地で見聞きしてきました。人が抱えた災害時の不安やストレスを、ふれあった動物たちが癒やしてくれて、生きる希望を与える存在になったということもありました。このように、人と動物の共生がもたらす良い側面は多くあります。私共の団体は、ペットの存在が人々にもたらす良い影響や、ペット防災について様々な視点で学ぶことの重要性を伝えています。今後ペット防災についての取り組みが社会全体の備えとなり、日本の防災意識を変えることにつながるかもしれません。ぜひ、ペット防災に関心を持っていただければと思います。
三浦 律子(みうら りつこ)
愛媛県松山市出身 大阪府東大阪市在住。
NPO法人ペット防災サポート協会 理事長(大阪市住之江区防災パートナー登録)
特定非営利活動法人 全国動物避難所協会 理事
ペット防災の日 制定 (2021年9月7日)
静岡県避難所 HUG (使用許諾060号)
たすかるノート with PET 製作(宮崎県動物愛護管理センター・大阪府河内長野市等)
DogSalon OHANA オーナートリマー(大阪府アニマルパートナーシップ保管第3号)
★節電情報について知りたい方はこちら!
2022年11月に世界の総人口が80億人を突破したことが、国連「世界人口推計2022年版」で明らかになりました。そればかりか、今後15年ほどで90億人を超えるだろうとも言われており、食料問題に関しては地球規模で真剣に考えていかなければなりません。食料自給率が約4割しかない日本にとっても、重要な検討課題になっていくのではないでしょうか。
現在、各方面から“次世代のたんぱく源”として注目を浴びている昆虫食。皆さんの中には、虫に対する苦手意識がある方もいたり、もしくは郷土料理で●●は食べたことがあるから想像はできるな……と思う方がいたりするかもしれません。そこで昆虫食について、TVやイベントなどでも活躍する昆虫料理研究家の内山昭一さんに「昆虫食っていつから始まったの? 食べても大丈夫なの?」という素朴な疑問から、「人類の未来の救世主になるって本当?」「実際食べるとしたら、どんなふうに?」といった先々の展望まで、詳しく解説していただきます!
******
1.人類は700万年前から昆虫を食べ続けてきた
ヒトがサルの祖先と分かれたのが700万年前といわれています。道具を持たない「裸のサル」にとって、量が多くて採りやすい昆虫は格好の食料でした。悠久の昔から食べ継がれてきた昆虫だからこそ、人間の体に優しい食べ物といえるでしょう。
世界を見渡すと20億人が2000種の昆虫を食べています。日本でも大正8年の全国的な調査によると、55種類の昆虫が食べられていました。いまでもイナゴやハチノコなどは佃煮として長野など一部地域で食べられています。イナゴは高タンパク低脂肪なのでダイエット食材としても適しています。味覚センサーで計るとハチノコはウナギに、セミ幼虫はアーモンドに味がよく似ています(図表1)。
図表1:ハチノコとセミ幼虫を味覚センサーで計る(出典:内山昭一『昆虫食入門』平凡社、2012年、139頁)
私たちが開催する試食会でも、ウナギのかわりにハチノコを巻いた「う巻き風ハチ巻き卵」(写真1)や、セミ幼虫をチリソースで炒めた「セミチリ」(写真2)は美味しいと好評です。昆虫はヘルシーで美味しい食材として見直されてきています。
写真1:ウナギのかわりにハチノコを巻いた「う巻き風ハチ巻き卵」
写真2:セミ幼虫をチリソースで炒めた「セミチリ」
2.昆虫食新時代を招いたFAO報告
地球規模の人口増加や温暖化による異常気象のため食料不足が危惧されるなか、コロナウイルスの世界的な広がりや、ロシアによるウクライナ侵攻が追い打ちをかけています。また、日本の食料自給率は38%ととても低く、食料安全保障は大きな課題となっています。
国連食糧農業機関(FAO)が2013年に出した報告書があります。題して『食用昆虫―食料と飼料の安全保障に向けたこれからの展望』です。報告書から家畜と昆虫のエネルギー効率を比較してみました。コオロギなどの昆虫は、牛に比べてエネルギー効率がはるかに良いことが分かります(図表2)。
図表2:昆虫がエネルギー効率のいい食材である理由
報告書が出てから昆虫食ビジネスが世界的な広がりを見せています。なかでもEUは環境負荷の少ない昆虫食品への関心が高いようです。ただ、これまで昆虫を食べたことのないほとんどの日本人にとって、たとえばコオロギは食べて本当に安全なのか不安に思う人が多いでしょう。そこで参考になるのは、EU域内の食品の安全性を検証する専門機関である欧州食品安全機関(EFSA)が2022年、「コオロギは甲殻類(エビ・カニ等)に近い成分を含みアレルギー反応を誘発する可能性以外、ヒトの消費に対して安全である」と結論づけたこと。
それを受けて欧州委員会はコオロギを「新規食品」として正式に認可し、EU内で自由に取引できるようになりました。もちろん、それは食品としての可能性の定義の話であり、「昆虫を食べるか食べないかは消費者の自由な選択に任されており、昆虫は新たなたんぱく源ではなく、昔から世界各地でふつうに食べられてきた食べ物」というのが欧州食品安全機関の基本的な考え方です。「コオロギ生産ガイドライン」もでき、農薬や汚染物質、衛生面でリスクの低い生産が可能になっている側面もあります。ただし、重ねての注意点として、エビやカニでアレルギーを発症する人は食べないほうがいいでしょう。
栄養面を見てみると、昆虫にはタンパク質が家畜とほぼ同等の平均60%(乾燥重量)と多く含まれています。特に昔から食べられているイナゴはタンパク質が76.8%、脂肪が5.5%と、高タンパク・低脂肪の代表選手といえるでしょう(図表3)。必須アミノ酸が基準値100以上だと優れた食品とされていますが、たとえばハチノコで知られるクロスズメバチ幼虫のアミノ酸スコアは100とする報告もあります。イナゴやハチノコも『食品成分表』に載っているれっきとした食品なのです。
図表3:家畜と食用昆虫のタンパク質、脂肪などの栄養価
食用昆虫の脂質にも注目です。必須脂肪酸として何かと話題のオメガ3とオメガ6。オメガ3とオメガ6の摂取比率は1:4がよいとされていますが、現代の肉類の多い食生活ではオメガ6が多くなりやすく、意識的にオメガ3を多く取ることが大事です。ここでイナゴとカイコの出番です。いずれもオメガ3の「α-リノレン酸」を多く含み、魚油に多く含まれる「DHA」と「EPA」も体内で合成されます。また、ビタミンB群を多く含み、ミネラルも豊富です。
※オメガ3は必須脂肪酸の「DHA」と「EPA」、「α-リノレン酸」の総称で、血液サラサラ効果があり、動脈硬化の予防、中性脂肪値の低下、肥満・メタボ予防が期待されます。
※オメガ6も必須脂肪酸の「リノール酸」「アラキドン酸」の総称です。オメガ3の効果とは反対の血液凝固作用があります。
しかも、昆虫には腸内環境を整える機能のあることが知られています。ビフィズス菌が増えることで、がんなど炎症性腸疾患に関連するタンパク質を減らす効果があります。昆虫の外骨格であるキチン質は食物繊維的な働きがあり便秘解消にも役立ちます。
3.女性ならではの昆虫料理
私たちは「昆虫料理を食べる会」を定期的に開いていますが、「コオロギパウダーを練り込んだものを食べたので今度は形のあるものを食べてみたい」といって参加する女性がたくさんいらっしゃいます。パウダーの次は食感や味を知りたくなるのだそうです。参加される女性の多くは「昆虫が生きて動いていると触れないけど食材としてなら平気」と言います。確かに生きた魚をさばける人は少ないでしょう。このように食事会に集まる女性にとっては“昆虫食”ではなく“昆虫料理”なのです。ミツバチベビーを入れて焼いたオムレツ(写真3)や、ゾウムシの赤ちゃんが可愛く顔をのぞかせるパン(写真4)など、アイデアあふれる作品が毎回登場します。グルメな彼女たちにとって昆虫は「“体”の栄養+“心”の栄養」なのかもしれません。
写真3:ミツバチの子入りオムレツ
写真4:ゾウムシパン
参加者から時々差し入れがあるのですが、先日もイナゴクッキーをいただきました。お父さんが長野から買ってきたイナゴの佃煮を細かく刻んで入れたそうです。千葉にお住まいなので地元産の落花生も刻んで混ぜた郷土愛あふれるサクサク美味しい一品でした。
料理は前頭前野を活性化し脳年齢を若返らせるといいます。昆虫を使った料理はレシピ作りにかなりの想像力が求められ、前頭前野をいっそう鍛えるに違いありません。加えて未知の食べ物を食べる刺激はさらに脳年齢を若返らせることでしょう。
ここまでお読みになっていかがでしたか。私たちが開催する「昆虫を食べる会」にお気軽にご参加ください。「未知のおいしさが詰まった宝石箱」に出会えるかもしれません。
内山昭一(うちやま しょういち)
1950年長野市生まれ。昆虫料理研究家、NPO法人昆虫食普及ネットワーク理事長、NPO法人食用昆虫科学研究会理事。幼少より昆虫食に親しむ。著書に『新装版 楽しい昆虫料理』(ビジネス社)、『昆虫食入門』(平凡社新書)、『人生が変わる!特選昆虫料理50』[共著:木谷美咲](山と渓谷社)、『昆虫は美味い!』(新潮新書)、『食の常識革命! 昆虫を食べてわかったこと』(サイゾー)。監修に『食べられる虫ハンドブック』(自由国民社)、『世界をすくう虫のすべて』(文研出版)、『めちゃうま!?昆虫食事典』(大泉書店)。好きな(美味しい)昆虫はカミキリムシ、スズメバチ、セミ、モンクロシャチホコ、タイワンタガメ、トノサマバッタ、ほか多数。テレビ、ラジオ、雑誌、新聞、インターネットなどあらゆるメディアで昆虫食の普及・啓蒙に努めている。東京都日野市在住。
主な書著
「昆虫食入門」(平凡社)、「人生が変わる!特選 昆虫料理50」(山と溪谷社)、「昆虫を食べてわかったこと」(サイゾー)、「昆虫は美味い!」(新潮社)、「食べられる虫ハンドブック」(自由国民社)、「ホントに食べる?世界をすくう虫のすべて」(文研出版)、「新装版 楽しい昆虫料理」(ビジネス社)、「めちゃうま!? 昆虫食事典」(大泉書店)
公式HP:公式HP:昆虫食を楽しもう! 内山昭一 Official Website | 昆虫食彩館(http://insectcuisine.jp/)
Twitter:@insectcuisine
保存が利くうえに調理の手間がかからないなどの魅力が年々支持され、市場規模も拡大している冷凍食品。その保存に欠かせないものが冷凍庫ですが、できるだけ節電したいところ。そこで、“冷凍王子”として活躍する西川剛史さんにインタビュー。節電や食品ロス削減に効果的な冷凍のコツをはじめ、おすすめのアレンジレシピや注目の冷凍食品トピックスなどをうかがいました。
******
“冷凍王子”として活躍する西川剛史さん ※画像:いますぐ食べたい!冷凍食品の本(自由国民社)より
時短で栄養も摂れる冷凍食品で多忙な現代人の力に!
――西川さんが冷凍食品の専門家になったきっかけから教えてください。
もともと食べることも料理することも好きで、中学生の頃には家族のお手伝い感覚で料理するほどでした。母が買ってくる食品への関心も高く、高校生の時に食べた「あんかけ五目焼きそば」という冷凍食品のおいしさに感動したのが原点です。
基本的に、料理は手間と時間をかけたほうがおいしいですよね。でも冷凍食品は簡単かつスピーディーながら絶品。「どうやったら、こんなに本格的で作りたてのようなおいしさの商品にできるんだろう?」と、非常に興味が湧いたんです。
その後大学で栄養学などを勉強していた時に、忙しい人ほど不健康な食生活を送りがちであることに気づきました。しかし簡単便利で栄養も摂れる冷凍食品であれば、その課題を解決できると考え、冷凍食品の道を究めたいと思ったんです。
その後は冷凍食品の大手企業に採用いただき、働きながらブログを書いていました。それが有名TV番組のディレクターさんの目に留まって出演したことが、私が広く知られるようになった一大転機です。2012年のことですね。
冷凍庫の開放時間を短くして隙間をなくそう!
――冷凍庫を節電するコツを教えてください。
保冷効果を高めることが大切ですね。お店から買って帰る際も、なるべくとけていないほうが節電できます。そのためには1パックよりもまとめ買いするよう心掛け、冷凍食品同士を密着させるように袋詰めしましょう。
※画像:いますぐ食べたい!冷凍食品の本(自由国民社)より
保冷バッグの中も、できるだけ隙間ができないようにするのがコツ。また、冷気は上から下に降りるので、保冷剤やその代用にする冷凍食品は最上に置くことがポイントです。
※画像:いますぐ食べたい!冷凍食品の本(自由国民社)より
冷凍庫の使い方としては、大前提として庫内の整理整頓とカテゴリーごとの定位置化、食品の見える化を心がけましょう。これは、見つけやすくして開けている時間を短くするためです。食品探しに時間がかかるとその間に庫内の温度が上がり、冷気を出す冷凍庫の電気代もかかってしまいますから。
加えて、冷凍庫は隙間があると温度が上がりやすいので、できるだけ冷凍食品や凍った食材でいっぱいになっているほうが電気代はかかりません。もしスペースが空いている場合は、保冷剤やペットボトルに水を入れて凍らせたものを入れておくのも手です。
――食品ロスを削減するためには、どんなテクニックがありますか?
余った食材や料理を冷凍すること自体が食品ロスの削減となりますが、長期の冷凍保存は霜の原因になるなど味の劣化につながりますので早めに消費しましょう。ポイントは、庫内を整頓したうえで、使いかけの食品やこまごましたもののスペースを作ること。それらを一度に使う日を決め、カレーやスープ、鍋類など食材の汎用性が高い料理に用いるのがおすすめです。
このように冷凍庫内を整理整頓することがポイント ※画像:いますぐ食べたい!冷凍食品の本(自由国民社)より
なお、作った料理を冷凍する際は完全に冷めてから冷凍してください。熱を持っていると庫内の温度が上がって、その分電気代もかかってしまいます。
餃子の炊き込みご飯やパスタのオムレツをお試しあれ
――おすすめの冷凍食品アレンジレシピを教えてください。
いくつかあるのですが、冷凍食品の中でも人気の高い、餃子を使った炊き込みご飯を紹介しましょう。炊飯器で炊く際、水に醤油、鶏ガラスープの素、ニンニクを混ぜてお米を浸します。その上に凍ったままの餃子を並べて通常モードで炊き、完了したらゴマ油をひとかけ。ざっくり混ぜ、お椀に盛ったら刻んだ青ネギや生姜を乗せて完成です。
炊飯器に冷凍餃子と調味料を入れて炊き上げるだけ ※画像:いますぐ食べたい!冷凍食品の本(自由国民社)より
餃子の炊き込みご飯 ※画像:いますぐ食べたい!冷凍食品の本(自由国民社)より
冷凍餃子をそのまま炊飯器に入れるレシピなので、フライパンが必要ありませんし、ご飯とおかずが同時に作れます。味わいも、お肉のうまみや皮のツルンとした食感をご飯と一緒に楽しめるのでおいしいですよ。
もう一品は、冷凍パスタを使ったオムレツをご紹介しましょう。パスタのオススメはミートソース系です。まずはパッケージの記載通りに、冷凍パスタを電子レンジで調理。その間にボウルに卵とチーズを入れてしっかり混ぜ、レンチンしたパスタも加えてさらによく混ぜます。
次にフライパンでオリーブオイルを温めたらボウルの中身を流し入れ、両面を3分ずつ焼いて完成です。オムレツを裏返す際は、お皿を使うと反転させやすいですよ。パスタの本場イタリアでもこの料理はおなじみなので、ぜひ試していただけたら。
調理の下準備 ※画像:いますぐ食べたい!冷凍食品の本(自由国民社)より
冷凍パスタを使ったオムレツ ※画像:いますぐ食べたい!冷凍食品の本(自由国民社)より
注目は「餃子」「ラーメン」「高級冷食」「プラントベース」
――冷凍食品は進化も著しいですが、注目のジャンルはありますか?
おかず系であれば冷凍餃子ですね。二大ブランドである、味の素冷凍食品の「ギョーザ」とイートアンドフーズの「大阪王将 羽根つき餃子」がけん引しており、前者は油と水なしで、後者はさらにフタも不要でパリパリの羽根つき餃子が焼けます。
主食系で特に注目しているのは冷凍ラーメン。メーカーではキンレイの「お水がいらない」シリーズが画期的で、スープ、麺、具材と3層構造でまるっと冷凍にすることにより、その名の通り水要らずで調理できます。
冷凍ラーメンは、有名店がお取り寄せや自動販売機で発売するケースが増えていたり、調理までしてくれる自販機「ヨーカイエクスプレス」が登場したりと盛り上がっていますが、価格は800円とか1000円とか、それなりにするんですね。
その点キンレイは人気店とのコラボにも積極的でお店の味を再現しつつ、300円台程度とお手頃価格なのも魅力です。とはいえ800円や1000円の冷凍ラーメンが高いというわけではなく、普通はそれだけ原材料や手間がかかるんですね。それをスケールメリットや技術でコストカットできるのが、長年のノウハウを持つキンレイの強みといえるでしょう。
――スタートアップで注目のメーカーはありますか?
高級冷凍食品を手掛ける「ブレジュ」ですね。フレンチの三ツ星シェフ、ダニエル・マルタン氏の監修というのが最大の特徴。さすがに高価ですが相応のハイクオリティな味わいで、冷凍食品は便利なだけでなくごちそう級のおいしさも楽しめることを世に知らしめたブランドです。
――中長期的に気になるトピックスは?
ひとつは、植物由来の原材料を使ったプラントベースの冷凍食品です。植物性原材料は環境負荷や倫理的な側面などでSDGs的にも礼賛されており、世界的にニーズが高まっています。
そんな中、冷凍食品でもプラントベースが注目されつつあり、メーカーでは「Grino(グリノ)」というブランドが注目されています。たとえばカルボナーラに関しては、ベーコン、卵、生クリーム、チーズといった本来は動物性の食材を、植物性食材に置き換えて商品化しています。
ほかには、イオングループが手掛ける「アットフローズン」、京阪百貨店の「ゴエフ」、液体凍結技術の企業「テクニカン」による「TŌMIN FROZEN」など、冷凍食品専門店が徐々に増えている点も注目ですね。冷凍食品自体の進化とともに市場は拡大しており、販売手法やお店も多様化していくはずです。同時に家庭用の冷凍庫も、より省エネできるモデルへと進化していくでしょう。
今回お話しした内容は、私の最新著書「いますぐ食べたい!冷凍食品の本[レシピつき]」に詳しく載っています。節電のコツについてもイラスト付きで解説していますので、ぜひご一読いただき、上手に電気を使っていただけたらうれしいです。
西川 剛史(にしかわ たかし)
冷凍生活アドバイザー、冷凍食品開発コンサルタント。高校生のころから冷凍食品に興味を持ち、冷凍食品会社に就職。冷凍食品の商品開発などの経験を生かし、現在は冷凍専門家として活動中。冷凍王子としてテレビ番組「マツコの知らない世界」「ヒルナンデス!」「王様のブランチ」「NHKごごナマ」など、その他テレビ、雑誌などに多数出演。
著書『いますぐ食べたい! 冷凍食品の本[レシピ付き]』(自由国民社)
★節電情報について知りたい方はこちら!
世界的なエネルギー需給ひっ迫のなか、いまや家計的にも環境的にも、節電・節約を意識する人が増えているのではないでしょうか。節電・エネルギー節約のために冷蔵庫の貯蔵量をおさえる、家電や調理の稼働時間を減らす、といった努力はまず手始めにできることとして挙がります。とはいえ、その中でも健康的にたっぷりと野菜を調理してしっかり食べ、買い置きをしつつ冷蔵庫の中身を少量化したい! そんな、「健康を意識しつつ節電・節約と両立できる日常の中の工夫」について、テレビや雑誌で活躍する家事アドバイザー・節約アドバイザーの矢野きくのさんにお話をうかがいました。
******
家事アドバイザー・節約アドバイザーの矢野きくのさん
1.食事と節電 普段の生活の中でも実践できる節電・節約
エネルギー価格の高騰を起因とする光熱費はもちろん、食費やその他のあらゆる生活費までが値上がりし、家計を圧迫しています。「節約をしなくては」と感じている人も多くいることでしょう。
筆者の講演のときに来場者へアンケートを取ると、節約したい費目のいちばんめに来るのが残念ながら食費です。しかし、食費や光熱費を節約するがあまり健康を損なってしまっては本末転倒。また「節約しなくては」という気持ちが強すぎて、精神的に苦しくなると、日々の生活が楽しくなくなり、節約を続けることもできなくなってしまいます。 大切なのは、しっかりとした情報を得るように心がけ、無理なく日頃の生活の中で続けられる節約方法をとることです。
例えば、節電というと口にする人が多い「待機電力のカット」。使っていない家電のコンセントを抜いてまわるというものですが、実は労力ほどの節電効果はありません。筆者がこの仕事をはじめた20年ほど前は待機電力が多い家電もありましたが、その後、技術が進化し、今は全消費電力のうちの6%ほど。テレビなどはほとんど待機電力もかかっていないのです。
時間と手間をかけてコンセントを抜いてまわるのであれば、生活を維持しながら効果のある節電方法を見極めるべきではないでしょうか。
2.野菜選びが節電につながる?
健康な食生活を送る中で欠かせないのが野菜です。野菜は常温、冷蔵、冷凍、乾物、缶詰など種類があり、何を選ぶかによっても食費の節約にも、節電にもつながります。家庭で野菜を保存する際に電力を必要としないのは、常温保存できる野菜と乾物、缶詰です。野菜というと冷蔵、冷凍を思い浮かべがちですが、このような保存に電力を必要としない野菜を意識して摂るようにすることも大切です。
常温保存ができる野菜の代表は、玉ねぎ、じゃがいも。かぼちゃ類もカットする前は常温で保存できます。乾物の野菜の代表は切り干し大根、干し椎茸が挙げられますが、近年技術が進歩してそれ以外の乾物野菜も登場しています。また、自家製で干し野菜を作る人も増えてきました。趣味をかねて干し野菜に挑戦してみるのも良いでしょう。冷蔵や冷凍の野菜の割合を少なくしていくことで、野菜を摂取しながらも節電することはできるのです。
3.知っておけば役立つ! おすすめの「調理術」
また野菜の調理方法を変えることでも、節電することは可能です。
根菜類の下茹では電子レンジで
大根やじゃがいもなど特に根菜類は、鍋に水を入れて下茹でするよりも、電子レンジで加熱したほうがエネルギー消費を少なくすることが可能です。ただし、アクの元になるシュウ酸を多く含んでいるほうれん草は、茹でることによってシュウ酸を食材から落とすことができるので、ほうれん草に関しては電子レンジ加熱ではなく茹でることをおすすめします。
余熱調理・保温調理を活用する
カレーやシチュー、その他の煮込み料理などは、余熱調理や保温調理を活用することで省エネにつながります。仮に20分煮込む必要があるとき、最初の10分で火を止め、残りは鍋にふたをして余熱を利用することで調理できるものもあります。余熱調理・保温調理の時間の割合は、使っている鍋の厚みや食材によって変わってくるので、ご家庭でメニューにあわせて調整してください。
野菜を細かく切る
野菜の切り方でも節電・節ガスにつながります。煮込み料理でも炒めものでも、野菜を薄く、細かく切っているほうが中まで熱が入りやすく、加熱時間を短縮することができるのは容易に想像できるでしょう。メニューによって野菜が細かくても良いものは、ぜひ試してみてください。
4.野菜✕節電 時短にもなるおすすめメニュー
野菜をたくさん食べたいけれど節電もしたい。そんなときにおすすめなのが“リメイクレシピ”です。
まずは大きな鍋で必要人数分以上の野菜スープを作ります。味付けはシンプルなコンソメがおすすめ。
初日に野菜スープをいただいたら、翌日はそこに缶詰のトマトと最後にチーズを足して濃厚なトマトスープにリメイク。さらに3日目は残っているトマトスープにカレールーを足してカレーの出来上がりです。
リメイクしていくことで加熱時間は少なくすみ、節電・節ガスにもつながります。
日頃の暮らしを維持しながらでもできる節電方法はまだまだいろいろあります。ぜひ楽しみながら取り組んでみてくださいね。
矢野きくの(やのきくの)
家事アドバイザー・節約アドバイザー。女性専門のキャリアコンサルタントを経て女性が働くためには家事からの改革が必要と考えて現職に。家事の効率化、家庭の省エネを中心にテレビ、雑誌、講演ほか企業サイトや新聞での連載。テレビクイズ問題の作成や便利グッズの開発にも携わる。
Twitter:https://twitter.com/yanojapan
Facebook:https://www.facebook.com/kikuno11
主な書著
「シンプルライフの節約リスト」(講談社)
★節電情報について知りたい方はこちら!
今年は世界的な情勢により、電力需給ひっ迫の懸念が高まり、夏期に続き冬期にも節電の要請が出ました。寒さが厳しくなるにつれ、暖房などによるさらなる電力需要の増大に合わせてひっ迫への懸念も高まってきています。そこで、節約アドバイザー・ファイナンシャルプランナー(AFP)・消費生活アドバイザーの丸山晴美さんに、この冬の電気のことや、今日からでも実践できる節電・節約方法についてお話をうかがいました。
******
丸山晴美さん
2022年冬電力需給がひっ迫するかも!? なんでこうなったの?
――この冬、電気料金アップのニュースを目にしました。夏期から続く電力需給のひっ迫の懸念も、冬期はいっそう気をつけたいところ。こういった状況は、なぜ起きているのでしょうか?
現状、日本の発電の多くは火力発電に頼っており、発電のために必要なLNG(天然ガス)や石炭の価格が高騰し、それに伴い発電コストが上昇しているため、電気料金も値上がりしています。
高騰している理由はいくつかありますが、最近ではロシア軍のウクライナ侵攻により、LNGや原油、石炭といったエネルギー輸出国であるロシアが輸出量を減らしていることで、燃料価格が高騰しており、さらに急激な円安も燃料価格の上昇に追い打ちをかけています。
――こういった状況でふと不安に思った時、どんなことに注目して日々のニュースなどを見ていればいいのでしょうか?
まずは資源価格(例えば、海外における原油先物価格の変動が電気料金に反映されるまで、4~9カ月程度のタイムラグが生じる※)やロシア、ウクライナ情勢、円安といった全体的なこと。そして、毎月のように値上がりしている電気代と年々上昇している「再エネ賦課金」のニュースに注目するとよいでしょう。
具体的に、どんな点に気をつけて節電をしたらいい?
――燃料価格の高騰や円安は一朝一夕には解決しない問題です。日常の中でまずできることとして、生活の中でどんな点に気をつけたらいいでしょうか? また、おすすめの節電方法などがあればおうかがいしたいです。
熱が出るもの、使用時間が長いものほど使用電力量が高くなる傾向があります。
資源エネルギー庁の省エネポータルサイトによると、夏、冬ともにエアコン、冷蔵庫、照明の順番に消費電力量が多くなります。待機電力を意識するのもよいですが、消費電力量が多い家電製品から節電する仕組みを作っていきましょう。
出典:家庭でできる省エネ(経済産業省 資源エネルギー庁)より
一番簡単な節電方法は、冷蔵庫やエアコン、テレビなどの設定にエコモードや省エネモードがあれば、それに切り替えるだけで、使いながら節電ができます。そのようなモードがない場合は、冬場は冷蔵室の設定を弱設定にしたり、テレビの音量や明るさを下げるだけでも大丈夫です。
他には照明をLED照明に交換したり、10年以上使っている冷蔵庫やエアコンを最新のものに買い替えると、使いながら節電ができます。
エアコンやヒーターの設定温度も20℃を目安に設定しつつ、リビングで家族みんなで過ごすウォームシェアや、肌寒いと感じたときに1枚羽織る、レッグウォーマーやネックウォーマーを使うといったウォームビズを意識しましょう。
――冷房に比べて、暖房の方が電力使用量が高くなる傾向あると聞いたことがあります。ほかに、冬の家の中で、節電・節約のために気を付けたいことはありますか?
上記のウォームシェアやウォームビズに加え、窓や保温も気を付けるとよいでしょう。
外の冷気は窓ガラスを通して入ってきて、暖めた部屋の暖気は窓ガラスを通して逃げて行ってしまいます。おしゃれなカーテンもよいですが、断熱性のある厚手のカーテンを引くと暖房効率が上がります。
寒い冬は、暖房便座や電気ポットなど温かい保温が恋しくなりますが、暖房便座は低温にしたり、使用後は便座のフタを下ろす、電気ポットは日中在宅していないのであれば、その間は切る。
1回あたりのお湯の使用量がカップ1杯程度など1リットル未満であれば、電気ケトルを使用するとよいでしょう。炊飯器も4時間以上保温をするなら、小分け冷凍や冷蔵をして食べる分だけレンジで温めなおした方が節電になります。
――節電や節約は、やろうやろうと思っても、日々の生活の中でなんとなく見過ごしてしまったり、面倒だなと感じてしまう人もいるかと思います。私もその一員で……。節約への心構えをうかがいたいです。
値上がりが続きますが、大変なときこそ今一度固定費などの家計を優先順位を考えながら見直しましょう。
節約=ケチやランクDOWNではなく、日ごろの無駄を省いて必要な時にお金が出せるようになることで、生活の質が上がりランクUPにつながります。
――ありがとうございました!
※https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2016html/data/361-5-4.pdf
丸山晴美
節約アドバイザー・ファイナンシャルプランナー(AFP)・消費生活アドバイザー。 22歳の時に節約に目覚め、1人暮らしをしながらも1年で200万円を貯めて26歳で住宅を購入した経験がメディアに取り上げられ、その後コンビニ店長などを経て2001年節約アドバイザーとして独立。食費や通信費など身の回りの節約術やライフプランを見据えたお金の管理運用のアドバイスなどを執筆、監修している。
ゆとりうむプロジェクト理事:https://yutorium.jp/
公式HP:http://www.maruyama-harumi.com
主な書著
「節約家計ノート2023」(東京新聞)
「シングルママのお金に困らない本」(徳間書店)
インタビュー:Concent編集部
★節電情報について知りたい方はこちら!
【今月の密着人】関西電力株式会社 経営企画室 イノベーションラボ 山崎美緒(やまざきみお)さん(27歳)
季節や天候に左右されず、海を汚さないことから、次世代型養殖のスタンダードと目されている陸上養殖。この技術を用いてブランドエビ「幸えび」(ゆきえび)を生産しているのが関西電力発のスタートアップ企業です。「食も大切なインフラの一つ。未来を担う幸えびを、もっと多くの方々に知ってもらいたいです」と、目を輝かせる関西電力の山崎美緒さん。経理から広報、営業まで、子会社の幅広い業務支援をパワフルにこなす彼女に密着しました。
燃料調達からエビの養殖へ。未経験の舞台に立候補
やってきたのは、静岡県西部の磐田市。広大な田園地帯の中にある、関西電力発のスタートアップ企業「海幸(かいこう)ゆきのや合同会社」(以下、ゆきのや)です。ここでは、水産業が抱える課題を解決し、社会に貢献するべく、エビの陸上養殖に取り組んでいます。
関西電力 経営企画室 イノベーションラボの山崎美緒さんは、そんな「ゆきのや」を支援するのが仕事。ここで生産されているブランドエビ「幸えび」を広めるために、関西電力の立場から、広報や営業、さらには経理業務の支援など、さまざまな仕事を担っています。
出迎えてくれた山崎さん。ゆきのやのロゴは、エビの形をイメージ
養殖場は東京ドーム1個分の広さ。年間80トンのエビが生産される
山崎さん「『幸えび』は、バナメイエビという種類です。食用として一般的なエビで、身が柔らかく、甘みが強いのが特徴ですが、幸えびは循環型のクリーンなプールで薬品などを使わずに育てているので安心安全。人工波によって運動を促していて、身が締まっていてプリプリの食感が楽しめますよ」
幸えびは用途によって使い分けられる6サイズ(SS〜3L)。身は雪を思わせるような透明感のある白さ
熱を入れると鮮やかな赤色に。大きさがそろっているのも養殖ならでは
詳しく幸えびの説明をしてくれる山崎さんですが、ゆきのやとの関わりはまだ半年ほど。その前は、関西電力で発電に必要な燃料を調達する仕事に従事していました。
山崎さん「なるべく安く燃料を仕入れることで、会社のコストダウンに貢献することが主なミッション。とてもやりがいのある仕事ですが、規模が大きいため、自分が本当に貢献できているかがあまり実感できない、というのが悩みでした。それで、もっとお客さまの身近で顔が見える仕事がしたいと思うようになったんです」
オンライン販売している冷凍の幸えび。他にもシェフ監修の加工品なども商品化されている
そこで思い出したのが、山崎さんが関西電力を志望するきっかけとなった、“事業領域の幅広さ”でした。関西電力はエネルギー事業以外でも社会に貢献していくため、社会の多様な課題に向き合う新規ビジネスに積極的に取り組んでいます。それらを担っているのが、山崎さんが現在所属するイノベーションラボです。
がん患者向けのカトラリー「猫舌堂」や、歩く速度で自走するモビリティ「iino」など、エビの養殖以外にも社外・社内ベンチャーを創出し、サポートしています。「ここなら、お客さまと近い距離で仕事ができる」——。そう考え、山崎さんはイノベーションラボに立候補したのです。
「事業領域の幅広さはインターンのときに知り、実はずっと興味があったんです」
山崎さん「いくつかのチームを兼任していますが、中でもメインで担当しているのが、ゆきのやの事業支援です。食の分野は未経験でしたから、担当が決まった当時は、ワクワクと不安が半分ずつありました。でも今は毎日がとても充実しています。ベンチャーだけあって物事が進むのがとてもスピーディーなんです」
社内システムも営業も、独学でパワフルにチャレンジ
山崎さんが着任したのは、約半年前。養殖場が完成し、本格的な稼働を数カ月後に控えたタイミングでした。「本格稼働の前後となるここからの半年間は“とにかく濃い日々”」。特に大変だったのが、業務環境を整えることだったと言います。
というのも、これまでは稟議を通すにも判子が必要で、オンラインサイトの売上を決算に反映するのもすべて手作業。こうしたアナログな部分を効率化していくことが、最初の取り組みでした。
水槽の水はろ過して循環しているため、海洋汚染を起こさずに養殖することができる
山崎さん「システムに詳しくはなかったので、先輩に聞いたり、他社の事例を調べたり、本を読んだり、社外のオンラインセミナーを聞いたりしながら進めました。必要なシステムの選定や、導入、ゆきのや社内メンバーへの周知と、今でも手探りの日々です」
エビが泳ぐプールは傾斜があり、食べ残したエサなどを取り除ける仕組みに
その甲斐もあって、山崎さんの現在の1日は、SNS運用のミーティングや、お客さまとのさまざまな調整など、社内外とのやり取りでスケジュールが埋まっています。しかし、営業支援では、悔しい経験もしてきました。
山崎さん「幸えびを取り扱っていただく小売店と契約を交わすシーンでのことでした。契約書の条件交渉で、これでは承諾できないと返されてしまったのです。燃料調達の仕事で契約書の作成には慣れていたつもりでしたが、そもそも燃料はこちらが買う側、エビは買ってもらう側。立場が逆であるにも関わらず、こちらの業界理解が足りていなかったんです。最終的には契約していただくことができましたが、もっと勉強しなければと実感した出来事でした」
緑色の人工海草がエビの住処となる
社内の働きやすさを改善することも、社外への営業活動も、すべて幸えびを広めるために必要なこと。だからこそ頑張れると山崎さんは言います。
山崎さん「今、世界的に天然の水産物が捕れないと言われている中で、養殖は今後も絶対に必要な技術です。ですが、いま主流の海面養殖では、エサや糞が海を汚してしまったり、マイクロプラスチックが魚に悪影響を与えたりするなどの課題もあるんです。その点、ゆきのやが取り組んでいる陸上養殖は、そういった問題をクリアした、次世代の養殖方法。そういう意味でも、幸えびを成功させることに意義があるし、だからこそ、もっともっと、たくさんの人に幸えびを届けたいんです」
1分間隔で人工的な波を起こし、エビの運動を促進することでプリプリの身になる
得意分野を伸ばして食のインフラに貢献したい
時にはつまずきながらも、これまでほとんど独学でやってきた山崎さん。これまでの努力が実を結び、ようやく自分の成長や仕事の成果を実感し始めています。
山崎さん「一番の成果だと感じているのは、業務のシステム化を進め、効率化できたことです。それによって自分の業務もやりやすくなりましたが、ゆきのやで働く方々に『楽になった、ありがとう』と言っていただけることが何よりうれしいです。それに、SNS運用でも順調にフォロワー数を増やすことができています。これまでの取り組みが間違っていなかったと思うとうれしいですね」
ゆきのやの社長を務める秋田亮さん(左)と。現場を知ることも大切にしている
そうした実感から、自信を持って仕事に取り組むことができるようにもなりました。
山崎さん「これまでは、まず先輩や上司に相談してから判断して、慎重に進めていました。最近では、自分で考えて“こうした方が良い”と思ったものは、責任を持ってまずはやってみよう、という進め方に変わりました。まだまだ未熟ですが、成果や反応がダイレクトに分かるので、やりがいにもつながっています」
関西電力は電力を支えるインフラ企業。あたりまえを守り、創る企業です。同じように、ゆきのやでは食のあたりまえを守り、創っていくことを目指しています。そこに向けて、まずは“知ってもらうこと”に力を入れていきたいと話します。
山崎さん「私事ですが、先日結婚式を挙げまして、披露宴の料理の中で幸えびを出してもらったんです。すると式場のシェフが『こんなエビがあったんだ!』と気に入ってくださって、縁起も良いしおいしいからと、取り扱ってくださることになったんです。そうやって知ってもらうことができれば、きっと気に入っていただけるはず。多くの方に幸えびを食べて幸せになってもらいたいです」
「エビは国内消費量の内約9割が輸入頼み。国産化していくことで、輸送にかかるコストやCO2の削減にもつながります」
最後に、山崎さんが思い描く、幸えびと山崎さん自身の未来について聞きました。
山崎さん「陸上養殖で国産の水産物を作っていくことは、日本の将来のためにも絶対に必要なもの。幸えびをきっかけにそのことも知ってもらい、いつか当たり前のように陸上養殖の水産物が家庭の食卓に並ぶような未来を作っていくことができたら。そして個人としては、幸えびを通じたさまざまな経験の中から、自分の得意分野を見つけ伸ばしていくことで、さらに貢献できたらうれしいです」
■海幸ゆきのや
https://kaikoyukinoya.jp/
■関西電力
https://www.kepco.co.jp/
昨今、台風や大雨による水害のニュースなどが増え、警戒が高まっています。地震に対しては非常用持ち出し袋の知識がある人も多いかもしれませんが、特に水害について考えたとき、どのような備えをしたらいいのでしょうか。特に、子どもがいる家庭での注意点とは――。防災士、福祉防災認定コーチ、防災教育推進協会講師、 防災住宅研究所 理事、東京都防災コーディネーターの奥村奈津美さんにお話をうかがいました。
******
防災士の奥村奈津美さん
家を選ぶ際からの防災意識 ~子どもがいる家庭で特に気をつけたいこと~
「防災、何から始めたらいいか、分からないんです」防災啓発活動をする中で、よく頂く質問です。防災で最初にやってほしいことは、敵を知ること! つまり、災害が起きたとき、地域や家にどんな被害が起こりうるのかを確認しておくことです。今は「ハザードマップ」という被害想定の地図が作られていて、例えば、水害では、豪雨などで浸水する恐れのあるエリア、土砂災害のリスクがあるエリアなどが想定されています。次に、家自体のリスクである耐震性について。1981年6月よりも前に建築確認された家は、旧耐震基準となり、大地震では倒壊する恐れがあります。1日の中で最も長く過ごしているのは自宅なので、まずは、自宅が安全か確認してください。
オススメは、家を選ぶ際に、なるべくリスクの少ない場所を選ぶ、そして、災害に強い家を建てる、もしくは購入することです。どうしても、金額や駅からの距離などの利便性、間取りなどを優先してしまうと思うのですが、危険な場所を選んでしまうと、常に、危険と隣り合わせの状況で過ごすことになります。豪雨の度に避難しなくてはいけないという場所は、オススメできません。
地球温暖化の影響もあり、雨の降り方が変わってしまいました。今後、温暖化が進み、水害はより激甚化、頻発化することが予測されています。また、国難級の災害とも言われる南海トラフ巨大地震は30年以内に70~80%、40年以内に90%程度と、高い発生確率になっています。たった数分で津波が到達すると予測されているエリアもあります。災害は必ず起きると思って自宅を備えて頂けたら幸いです。
特に、お子さんが小さい場合、避難所に避難するのも容易ではありません。抱っこ紐で抱っこし、非常持ち出し袋を持って、走って逃げることができるでしょうか? さらに二人目、三人目と家族が増えると、避難はより難しくなっていきます。だからこそ、避難しなくても自宅が最強の避難所となるような家が理想です。
あまり知られていませんが、阪神・淡路大震災以降、大地震でも窓ガラス一枚も割れることなく、土砂災害や津波にも耐えた、「壁式鉄筋コンクリートパネル組立造」という災害に最も強い建築工法もあります。沖縄ではほとんどがコンクリート住宅ですが、今後、温暖化の影響でスーパー台風が上陸するようになると、木造家屋では耐えられないような暴風になる恐れもあります。今年9月の台風14号も「スーパー台風」という表現が使われ、最大瞬間風速70メートルという予測もされていました。安心して在宅避難ができるようにするには、場所、そして頑丈な家を選ぶことが大切です。
生活の中で、どんなことに気をつけたらいい? ~停電への備えも~
過去の災害から「普段使っていないものは、災害時も使えない」という教訓があります。つまり、「フェーズフリー」の考え方で災害時にも使えるものを普段から使っておくことが大事になります。
最近は防災グッズもどんどん進化しています。停電対策と言えば、懐中電灯のイメージが強いかもしれませんが、今は、停電しない電球も販売されています。電球の中に蓄電できる機能が備わっていて、常にフル充電の状態をキープしてくれます。そして、停電すると、数秒後に自動点灯してくれ、電球を取り外すと懐中電灯としても使えるという優れものです。リビングや廊下、寝室など夜間使用する部屋の電球をこの電球に切り替えるだけで、停電後、真っ暗闇になり、けがをするリスクを軽減できます。また、子育て世帯に欠かせない電動自転車のバッテリーを、スマートフォンの充電機に変身させるアダプターも販売されています。ポータブル電源なども手に入りやすくなっていますが、維持管理のことを考えると、やはり普段使っている電動自転車のバッテリーを活用する方が簡単に継続できる備えとなるのではないでしょうか。
水の備蓄に関しても、水道管を太くしたような貯水タンクが販売されていて、それを設置することで水道水を常に数日分備蓄できるようになります。無意識でも備えられている状態、つまり防災は自動化の時代を迎えていると感じています。そのほか、非常食ではなく、普段食べている常温で長期保存できる食品をローリングストック(※)するなど、いかに日常の延長線上で備えられるかが大事になってきます。家選び同様、モノ選びも防災視点をプラスしてもらえたら幸いです。
※食べ物や日用品を少し多めに購入し、日常生活で消費しながら、新しいものに入れ替えていく備蓄方法
水害の状況キャッチ ~どんなアンテナをはっておいたらいい?~
水害は気象災害なので、事前に予測できることもあります。そこで重要になってくるのが、情報を受け取る力です。普段からアプリで雨雲レーダーなどを見るなど、使い方に慣れておくことをオススメします。私は、「NHKニュース・防災アプリ」「Yahoo!防災速報」というアプリを愛用しています。自宅や実家など3カ所の地域を設定することができ、豪雨の恐れなどがあるとプッシュ通知で教えてくれます。
そして、危険な場所に住んでいる場合は、避難が必要ですが、その避難のタイミングについて。普段の生活でも時間通りに行動することが難しい子育て世帯は、早めの避難が重要です。今は警戒レベルという5段階のレベルで避難情報などが発表されるようになりました。危険な場所に住んでいる方は、お子さんが小さい間は「レベル3で避難する」というのを心がけてください。そして、3メートル以上などの深い浸水想定のエリアは、垂直避難はオススメしません。いつ救助が来るか分からない中、子どもと籠城生活は考えただけでもリスキーです。
低層階に住んでいて、内水氾濫で床下浸水の恐れがある方は、玄関など水が入ってくる場所に土嚢を設置して、被害を軽減する方法もあります。ただ、大規模水害では役に立たないので、やはり自分の家がどのくらい浸水リスクがあるのかを知った上で、早めに避難することをオススメします。
子ども用非常持ち出し袋の備え方
子どもが一人で避難できるようになったら、子ども用の非常持ち出し袋は、一人一つずつ、用意しておきます。子どもが一人で自宅にいるときに災害が発生して避難が必要になったり、例え一緒にいても、避難途中に子どもとはぐれることもあります。避難所で時間を過ごすときに使うカードゲームや本、またお菓子など、好きなものを入れたり、子どもと防災を考えたりするきっかけ作りにもなるので、子どもと一緒に作ることをオススメします。
そして、入れるものの優先順位は、第一位は眼鏡や薬、補聴器などの体の一部になるもの、避難するときに必要なもの。余裕があったら、水や食料などを入れていきます。命よりも大切なものはないので、くれぐれも重くしすぎず、走って逃げられる重さにとどめてください。
奥村奈津美(おくむらなつみ)
NHK「おはよう日本」「あさイチ」などテレビ・ラジオをはじめ、雑誌・新聞な ど様々なメディアで「おうち防災」の専門家として出演。
東京都生まれ。広島、仙台で地方局アナウンサーとして活動。その後、東京に戻りフリアナウンサーに。 TBS『はなまるマーケット』で「はなまるアナ」(リポーター)を務めるほか、 NHK『ニュースウオッチ9』や『NHKジャーナル』など報道番組を長年担当。 東日本大震災を仙台のアナウンサーとして経験。以来10年以上、全国の被災地を訪れ、 取材や支援ボランティアに力を入れている。防災士、福祉防災認定コーチ、防災教育推進協会講師、 防災住宅研究所 理事、東京都防災コーディネーターとして防災啓発活動に携わるとともに、 環境省 森里川海プロジェクトアンバサダーとして「防災×気候変動」をテーマに取材、発信中。
「サステナブル防災」という言葉を作り、防災×SDGsの普及活動に力を入れる。3歳児の母。
【Instagram】https://www.instagram.com/natsumi19820521/
沖縄電力株式会社 離島カンパニー 離島事業部 離島技術グループ 副主任 平良 亮(34歳)
沖縄県には、島内で電気を作り、島民に電気を届けなければならない10の離島があります。その一つである波照間島(はてるまじま)で沖縄電力が沖縄県の実証事業で実現したのが、再生可能エネルギーで島内の電力を100%まかなうプロジェクト。このプロジェクトを担当した沖縄電力の平良 亮さんに、実現に至るまでの背景と離島の電力事業に掛ける想いを聞きました。
波照間島の電力が再エネ100%になった日
沖縄本島から約460キロメートル離れた日本最南端の有人離島・波照間島。人口500人ほどの島を舞台に2020年11月27日から12月7日にかけて、世界のエネルギー事情に変化をもたらす可能性を秘めたプロジェクトが成功しました。それは、風力発電設備由来の電気だけで、10日もの間、波照間島内で必要な電力を100%まかなったこと。
「社内は大喜びだった」と話すのは、このプロジェクトに携わった沖縄電力の平良さん。当時の波照間島での成功を、こう振り返ります。
平良さん「正直、島の方々からは、特に反響といった反響はなかったんです。風力発電設備自体はもう10年以上動いているので、もしかしたらずっと前から100%だと思っていたのかもしれません。でも、それくらい島の暮らしに影響が出ない、しっかりとした運用ができたのだと感じています」
このプロジェクトは、元々あった風力発電設備と蓄電池に、MG(Motor Generator)セットを設置したところからスタートしました。
MGセットとは、電気で動くモーターによって発電機を回す発電システムのこと。強い風が吹けば風力発電設備からの発電量は多くなります。しかし島の電力需要に対しその発電量が多くなり過ぎると、離島の電力供給の主となっているディーゼル発電機側の制約のために風車の出力を抑えなければならない場面もあるなど、もっと風力発電を活用する方法はないものかと考えたのが原点でした。
平良さん「やはり再生可能エネルギー(以下、再エネ)の電源は、他の発電設備に比べて天候によって左右されてしまう不安定なもの。従来は、その不足分をディーゼル発電機で補っていましたが、そこに風力発電でつくり過ぎた電気をためられる蓄電池と、その電気で発電できるMGセットを導入することで、再エネ由来100%の電気を形にできたんです」
プロジェクトは2017年から開始され、2018年に1時間47分、その後実証を繰り返して2020年に約10日間を記録。
平良さん「MGセットはディーゼル発電設備と違い出力を0キロワットにもできます。そのためディーゼル発電設備の運用をMGセットに置き替えることで、風が強ければ風力による発電量だけで電力の供給が行えます。また、MGセットから蓄電池に充電することも可能なため、風が弱くなって風力発電による発電量が十分に得られない時には、風が強過ぎて充電しておいた電気をMGセットから放電し、発電量を補います。そうすることで長い時間安定して再エネ由来100%での電力を島内に供給できるんです」
沖縄の離島で電力を安定供給する難しさ
海底ケーブルなどで沖縄本島と連系されていない波照間島を含む10離島は、そのすべての島で発電所を構えなければなりません。沖縄の離島で電力を安定供給するのは、殊のほか難しいと言います。
平良さん「各島の主要電源はディーゼル発電機になります。ただ、化石燃料の重油が燃料になるため、原油価格高騰の影響が大きく、さらに各島へ燃料を輸送する費用もかかり、結果的に燃料費も高くなる上、CO2(二酸化炭素)排出量の懸念もあります。そこで風力発電などの再エネの導入に力を入れてきました」
それから各島で風力発電設備は利用されてきましたが、台風によって羽が折れるなどの大きな設備被害が発生。そこで沖縄電力は、風に耐えるのではなく避ける方向にシフトしました。
平良さん「2009年に波照間島で国内初となる可倒式風車を導入しました。可倒式というのは、風車が立っている状態から90度近く倒せる風車のことで、現在では波照間島や南大東島など4つの島に計7機導入しています」
可倒式風車は、基本的に台風が接近したら、強風を避けるために倒されます。倒す時間は1時間もかからず、あの巨大な風車が地上へ近づいてくるさまは圧巻だそう。
平良さん「定期的なメンテナンスのためにも倒していて、地上で風車の目視点検ができるようになったのもメリットですね。とはいえ、台風による大きな被害がなくなったことが最も大きな変化です」
離島の生活を支える風力発電
10日間にわたる再エネ100%を実現した2基の風車には、2009年の設置当時に地元の小・中学生によって付けられたニックネームがあります。1号機が“波照間の力”を意味する『ベスマースィカラ』、2号機が地元の方言で“もったいない”を意味する『あったらさやー』。まさに波照間島の風を受け止める風車にぴったりな名前ではないでしょうか。
この2基とMGセットの仕組みに対して沖縄県庁からは、「多良間島(たらまじま)や粟国島(あぐにじま)など、波照間島と同じように再エネの出力が制限されているような小規模離島は他にもあります。知見を横展開できれば、そうした島々が抱える課題の解決が図れるはず」とコメントも。今後の進展に大きな期待を寄せています。
平良さん「今、波照間島でできたことを足掛かりとして、他の地域でもできるのか検討しているところです。さらに、当社のグループ会社では、沖縄で培った技術を海外展開していく動きもあります」
平良さんが所属する離島事業部は沖縄電力の中で唯一、カンパニー制を導入しています。発電から配電、電気使用などの受付や電気料金収納まで、離島の電気事業のすべてを一つの部署で担当するため、安定して電力を供給することはもちろん、赤字削減から温暖化対策まで幅広いことに取り組むチャレンジングな部署です。
平良さん「離島事業部は、離島の電力事業のすべてを担っており、とても面白い部署ですね。仕事にはやりがいを感じています。私たちの使命は電気を安定して供給すること。そして当社のコーポレートスローガンは『地域とともに、地域のために』です。まさに離島の電気事業はこの言葉通り。今後も、地域とともに、地域のために安定して電力を届けていく。それが私の役割です」
■沖縄電力
https://www.okiden.co.jp/
■沖縄電力「再生可能エネルギーによる100%電力供給への挑戦」
https://www.okiden.co.jp/company/recruit/adoption_detail/project06.html
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の発展のため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしていることをご存じでしょうか。今回は福井県・永平寺町を拠点にする北陸電力のハンドボールチーム「北陸電力ブルーサンダー」をご紹介。2024年9月に新設されるプロリーグへの参入も決まり、今注目が高まっています。
若さと勢いあふれる「北陸電力ブルーサンダー」
北陸電力には「北陸電力ブルーサンダー」という男子ハンドボールチームがあります。1990年に誕生し、1992年から国内最高峰リーグである日本ハンドボールリーグに所属しています。
創部から30年余りを積み重ねた歴史の中で、日本代表候補選手を複数輩出しており、日本ハンドボール界を牽引するチームの一つです。
日本リーグでのシュートシーン
ホームアリーナは、えちぜん鉄道・観音町駅から徒歩約5分にある「北陸電力福井体育館フレア」
22名のメンバーは、北陸電力グループの社員が半数、残り半数はその他の企業や自治体に勤める社員・職員です。平日は毎日朝から夕方まで各職場で働き、仕事を終えた夜に拠点である体育館に集結して練習をしています。シーズン中の週末であれば、試合日程に応じて全国各地への遠征も。
平均年齢は24.6歳と、日本ハンドボールリーグ内で最年少。そのため抜群のスタミナを誇り、“ブルーサンダー”のごとく電光石火の速攻(素早いカウンター攻撃)を武器としています。
18~30歳の選手で構成される若さあふれるチーム
昨年末、日本ハンドボールリーグは2024年にリーグをプロ化し、新リーグを創設すると発表しました。それに伴い、「北陸電力ブルーサンダー」は今シーズンいっぱいの2023年3月末で活動終了。4月からは同チームを母体とした新生クラブチーム「福井永平寺ブルーサンダー」として、新たな歴史を刻み始めます。
「プロに行くと分かってからは、やはりチームの空気が変わってきました」と話すのは、須坂佳祐選手兼監督。
「これまで以上に選手同士が厳しい言葉で意見しあったり、ライバル意識が強くなったり。プロになれるという期待感と、同時に緊張感が高まっているのがひしひしと伝わってきます。良い意味でピリッとしたムードで、次のステップへと上っているなという実感がありますね」
チーム最年長の30歳。今期よりチームの指揮官となった須坂選手兼監督
周囲からの注目も高まっているようで、「職場の同僚や上司から『新リーグにはどんな風に参加していくんや?』と声を掛けられることが多くなりました。そうやって話をしているうちに、ハンドボールのルールやポジション、選手のことにも興味を持って覚えてもらえたらうれしいですね。その分、プレッシャーも感じています」
ハンドボールの面白さ&ブルーサンダーの魅力とは
プロリーグ開幕に向け、これからますます盛り上がる日本ハンドボール界。そんなハンドボールの面白さについて藤坂知輝キャプテンは、「投げる・跳ぶ・走るという、スポーツにおけるダイナミックな動きの全てが入っているところ」と話します。
スピーディーなボールさばきからの強烈なシュートは圧巻
「選手同士が激しくぶつかり合う迫力もウリですね。とにかくスピード感がある試合展開で、次々とシュートが決まります。こんなに連続して得点が入るスポーツって、バスケットボールかハンドボールぐらいじゃないでしょうか。シュート&ゴールという、球技の試合において最も盛り上がるポイントが1度のゲーム中にたくさんあるのは魅力的だと思います」
さらに、「北陸電力ブルーサンダー」の魅力についてはこう話します。
「チームのコンセプトは、お互いを否定せず、相手をリスペクトすること。意見を言いやすい環境の中で、違う考えややり方が出たらまずは受け入れ、取り入れてから、さらに話し合うんです。チームの特色を定めてそれに全員で染まるのも一つの方法ですが、うちはそうではありません。みんなそれぞれ育んできたハンドボール感は違うわけですから、それを伝え合いながら尊重して、一人一人の個性や強みを生かすことを大切にしています」
小学3年生からハンドボール一筋。チームをまとめる藤坂キャプテン
こうしたチームづくりにより、「北陸電力ブルーサンダー」では全選手が生き生きと、楽しそうにプレーしている姿が見られます。
また、平均年齢が最も若いチームらしく、その伸びしろも注目ポイント。入部した時は無名だった選手が数年後に大きく化けて、リーグの得点ランキング上位に入る有名選手になることも珍しくないそうです。
選手の個性が光るプレーに注目
イベント出演やハンドボール教室などの地域貢献活動も活発に
「北陸電力ブルーサンダー」は地域に根差し、愛されるチームであることを大切に、地域貢献活動にも力を入れています。
例えば、地元のお祭りやイベントには積極的に参加し、地域の方々と交流。地元・永平寺町の「町民清掃の日」にはホームアリーナ周辺の道路を清掃するなど、町の一員としてボランティア活動に励んでいます。
また、2020年からは「永平寺町ふるさと大使」として、地域の魅力を発信する活動もスタート。試合で全国各地におもむいた際に、会場で永平寺町の観光PRを行っています。
永平寺町で除雪作業のボランティア活動を行う選手たち
福井県民応援チームとして、愛知県でのアウェイ戦で福井をPRする山崎選手
こうした多岐にわたる活動の中でも、特に力を入れているのがハンドボール教室です。地元小・中学校の体育の授業で生徒たちにハンドボールを教える、体力測定に向けてハンドボール投げを指導するといった取り組みを長年にわたり行ってきました。生徒たちからは「ハンドボールって面白い!」「ボール投げだけじゃなくて試合がしてみたい!」といった声が上がり、大盛況なのだとか。
ハンドボール教室の意義について須坂選手兼監督は、「まずはハンドボール人口を増やしたいというのがあります。実際、教室をきっかけに試合や練習を見に来てくれるようになった生徒や、ハンドボールを始めた生徒がいて、着実に次世代につながっていると感じています。また、参加した生徒たちから手紙をもらうことも多く、『頑張ってください』『応援しています』というメッセージがとてもうれしく、励みになっています」と話します。
子どもたちにとってハンドボールに興味を持つ大きなきっかけに
最後に、今後の目標について伺うと、「まずは日々、次の試合で思い切り戦えるよう準備を整えていくこと。そして一戦一戦、内容と勝利にこだわって戦っていくこと」と須坂選手兼監督。その先に見据えるのは、チームとして掲げる「日本一」の称号です。
さらに、チームから日本代表や、次の五輪出場選手を輩出することも大きな目標の一つ。年齢的にちょうどそのタイミングに当たる選手が多く在籍しているだけに目が離せません。
えちぜん鉄道観音町駅に設置されている、ふるさと大使「北陸電力ブルーサンダー」応援看板
また、プロリーグ新設に向けて、これまで以上にチームの露出や交流の機会を増やし、ファン獲得や地域との関係性を深めていきたい想いも。
「勝利はもちろんですが、さまざまな場面で皆さんに明るい話題をお届けしたいと思っています。子どもたちとその親世代の方々にもっと知っていただけるよう、例えば小学校の登下校の際に選手が通学路に立って見守りサポートができないかなと。密かな野望として、子どもたちの安全を守る活動を通し、北陸電力ブルーサンダーが“街のヒーロー”のような存在になれたら素敵だなと考えています」と須坂選手兼監督は意気込みます。
今までもこれからも、地域に根差し活躍を続ける「北陸電力ブルーサンダー」。2024年9月のプロリーグ新設を追い風に、さらに魅力的かつ身近なチームへと進化する様は見逃せません。お住まいの地域で試合が行われる際はぜひ会場へ足を運び、あふれる魅力を体感してみてください。
■DATA
北陸電力ブルーサンダー
住所:福井県吉田郡永平寺町松岡室21-5-3(北陸電力福井体育館フレア)
https://www.rikuden-bluethunder.com/
北陸電力
https://www.rikuden.co.jp/
<貢献する主なSDGsの目標>
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
東京電力エナジーパートナー株式会社 販売本部 法人営業部 都市事業ユニット 丸山佳宏(27歳)
2022年4月下旬、世界初のEVタンカー(電気推進タンカー)「あさひ」が運航を開始しました。自動車では一般的になってきたバッテリーを動力源とする“EV(Electric Vehicle)”ですが、巨大な船を電気で動かすとなると難易度は桁違い。その成功の鍵を握っていた東京電力エナジーパートナー 丸山佳宏さんは、環境に優しい港湾インフラを造るという使命感に燃えています。
完成! 世界初のEVタンカーに圧倒
1日当たり約500隻の船が行き交う東京湾は、世界屈指の海上交通過密海域。ここから外国へと旅立つ外航貨物船への給油を担うのが、2022年4月下旬に就航したEVタンカー「あさひ」です。
あさひは、エンジンの代わりに電気自動車約100台分に相当する大容量リチウムイオンバッテリーを搭載し、電力のみで航行する世界初のタンカー船。海運会社の旭タンカーが建造・所有する船で、船の電動化やDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業のe5ラボが企画・開発を行いました。
丸山佳宏さんが所属する東京電力エナジーパートナーの法人営業部都市事業ユニットでは、あさひの電力プランの検討をはじめ、電力を供給するための給電ステーションの設計や設置なども担当しています。
丸山さん「初めて完成したあさひを間近に見たのは、船のお披露目会でした。港に着いてすぐに目が行くほど、明らかに最新の船だとわかる未来的な外観で、船内もまるでホテルと思うようなキレイさ。ジョイスティックで操作する操縦席は飛行機のコックピットのようで、どこを見ても圧巻でした。詰めかけた報道陣も多く、改めて自分はすごいプロジェクトに関わっていたんだと実感させられましたね」
あさひは、電動化によって運航時に二酸化炭素、窒素、二酸化硫黄、ばい煙などを排出しません。それに加えて、充電の際には実質100%再生可能エネルギー由来の電気を使用しています。1年間稼働すると、400トンもの二酸化炭素の排出量が削減でき、これは一般家庭約300世帯が1年間電気を使用することで排出する二酸化炭素の量と同程度。それほど、環境に優しいタンカーということですね。
丸山さん「電動化によるメリットは、環境に優しいだけではありません。従来あった巨大なディーゼルエンジンがなくなることで、騒音や振動が圧倒的に少なくなり、船内の快適性がぐっと高まります。また、プロペラを360度どの方向にも向けられるような設計が可能なため、接岸する際に補助をする船も不要で、乗組員の労働環境や港湾周辺の環境改善にも効果が期待されているんです」
世界に1隻しかないEV船向けの電力プランを検討
「意義のあるプロジェクトに関わることができ、とても良い経験をさせてもらっています」と笑顔で語る丸山さんですが、お披露目の日に至るまでには、並々ならぬ苦労がありました。なにせ世界に1隻しかない船。普段は法人営業に従事している丸山さんにとっても、初めての連続でした。
丸山さん「法人営業は、お客さまの1年間の電気の使い方や使用量から最適なプランをご提案し、ご契約をいただくことが仕事です。今回は、あさひ向けの電力プランを考えるのが私のミッション。通常は前年度の電気使用量の実績などから必要な電力量をある程度想定できるのですが、今回は前例がないどころか船がまだ就航もしていないので、とても大変でした」
当然ながら、電力は動力だけに使われるのではありません。船内にどんな設備があり、電力をどれだけ消費するのか、プラン構築に必要な情報は多岐にわたります。
丸山さん「年間の航行スケジュールはもちろん、例えば停泊中にエアコンは使うのかといったことまで細かく協議を重ねていきました。一般家庭でもご契約いただくアンペア数によって基本料金が変わるように、電力プランはあさひの運行コストに直結しますから、責任は重大です」
港湾インフラの未来を担うEV船に貢献したい
さまざまな困難を乗り越え、無事に運用が始まったあさひ。カーボンニュートラルの実現を目指して電気自動車の普及が急速に進んでいるように、EVタンカーは未来の港湾インフラを左右する重要な役割を担っています。
丸山さん「タンカーに限らず、船の電動化を進めていくためには、乗り物と給電設備の双方がバランス良く普及していかなければなりません。そういう意味ではまだまだ道のりは長いですが、今後はタンカーだけでなく小型の船などにも電動化の波が広がっていけば、東京湾の景色は一変するはず。少しだけ、そんな未来が見えてきたのかなと思うと、今から楽しみです」
将来的には身近な船が電気で動くようになったり、無人航行ができたりなど、5年後、10年後には、船の在り方も大きく変わっているかもしれません。
丸山さん「あさひはそうした未来へ向けた第一歩。今回、携わることができ、とてもうれしいです。船舶業界における電動化の普及を進めていく上では給電コネクタの規格統一など、これから決めていかなければならないことはたくさんありますが、明るい社会を作っていくためには大切なこと。私自身もいろいろと学びながら、今後も貢献していきたいです」
EVタンカー「あさひ」
「あさひ」の内装
給電ステーション
■東京電力エナジーパートナー
https://www.tepco.co.jp/ep/
■EVタンカー「あさひ」について
https://www.tepco.co.jp/ep/notice/pressrelease/2022/pdf/220414j0102.pdf
<貢献する主なSDGsの目標>
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の発展のため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしているのをご存じでしょうか。今回は関西電力送配電が地域貢献活動の一環として行っている、ある清掃活動をご紹介。一般的なまちの清掃をイメージするとかなり違う? 電力会社ならではの装備で臨む、特別な清掃活動の様子をレポートします。舞台は奈良が誇る世界遺産・春日大社です。
春日大社に高所作業車が入る特別な日
古都・奈良を象徴する歴史ある神社の一つであり、全国から参拝者が訪れる春日大社。全国に約3000社ある春日神社の総本社です。
緑深い春日山原始林に包まれるように社殿が立ち並び、背後にそびえるのは古代から神域とされる神山・御蓋山(みかさやま)。これら一帯が境内とされ、総敷地面積は約30万坪にも上ります。
近鉄奈良駅から徒歩約25分。喧騒から離れ、うっそうとした林の中に神聖な空気が漂う
はじまりは飛鳥から平城京へと都が移された奈良時代。社伝には平城京の守護と国家繁栄祈願のため768年に創建されたとありますが、実際は奈良時代初期にさかのぼると考えられています。
1998年には春日大社社殿と御蓋山、春日山原始林などを含む全体が「古都奈良の文化財」として、世界遺産に登録されました。
春日大社では20年ごとに、御本殿の大修理や御調度品の調製などを行う「式年造替(しきねんぞうたい)」を実施しています。
これまで60回以上行われ、変わらぬ美しさが保たれてきました。ちなみに、60回を越えるのは春日大社と伊勢神宮のみなのだとか。
境内には鹿の姿も。神様のお供であり、神の使いとして大切にされている
毎年、環境省主唱の「環境月間」である6月に、関西エリアの各地で関西電力送配電による清掃活動が行われており、ここ春日大社でも、実に1998年から取り組まれています(※)。
清掃活動というと、ほうきで落ち葉を掃き集めたり、袋を片手にごみ拾いをしたりといった光景がイメージされがちですが、そこは関西電力送配電ならではの力の見せ所。一般的な掃除とはちょっと違います。
要となるのは、電力会社が所有する特殊車両の一種である高所作業車。この車両を使って、文字通り社殿の高所部分の清掃作業を行うんです。
※2020年4月、関西電力株式会社の送配電事業を関西電力送配電が継承。分社化以前の春日大社の清掃活動は、関西電力株式会社として実施。
社殿のすぐ側まで乗り入れる高所作業車
バケット部分に乗り込んだ作業員が社殿を清掃
高所作業車ならではの春日大社清掃活動
清掃当日、高所作業車に乗って現れたのは関西電力送配電の面々。日頃は電線の保守点検などでお馴染みの車両ですが、この日は電線の下を通過して、社殿が立ち並ぶエリアの中心部へとぐんぐん進入していきます。
作業現場に駐車すると、まずは全員で御本殿へ。本日の作業の無事を祈願します。
春日大社の方に案内され、まずは作法にのっとって参拝
清掃するのは、社務所と貴賓館の2カ所。それぞれ雨どいにたまった落ち葉などを取り除きます。
もしこれらをそのまま放置しておくと腐葉土となって堆積し、雨どいが機能しなくなってしまいます。とはいえ、簡単には手が届かない場所の清掃作業は、春日大社の職員だけでは対応できません。
そこで高所作業車と高所作業のプロフェッショナルを有する関西電力送配電に白羽の矢が立ち、23年前から清掃活動を行っています。
特に貴賓館はいわゆる迎賓館の役割を果たし、要人が訪れた際の接遇の場や、結婚式が執り行われる際の親族控室になる建物。大切なお客さまを迎えるのにふさわしい美しさを保つことが求められます。
日頃の電線の保守点検と同じ要領で作業準備や安全確認を進める
バケットに2人の作業員が乗り込むと、ブームがグンと伸びて建物の雨どいギリギリまで接近。手作業で少しずつ丁寧に、雨どいにたまった落ち葉を取り除きます。
地上では作業長が見守り、状況に応じて指示を出します。息の合った連携プレーはさすが。日常的に多種多様な現場対応を行っている精鋭たちの仕事です。
安全に配慮しながら慎重に作業が進められる
作業長ら地上のスタッフは作業の様子を注意深く見守る
関西電力送配電の中でこれからも長く続く取り組みに
清掃作業を担当するのは、関西電力送配電の奈良支社奈良配電営業所のメンバー。毎日県内のさまざまな場所にある送配電設備の保守点検作業を行っており、奈良県のすべてが彼らの仕事現場といえます。
そのような中で、年に一度この日だけは特別、聖域である春日大社での清掃作業が加わるのです。
信頼と実績の丁寧な手仕事が光る
「普段とは違う現場で、違う仕事をするのは新鮮ですね。春日大社ならではの厳かな空気も特別感があって、身が引き締まる思いです」と話すのは、係長の岩越吉彦さん。
今年の清掃活動を統括した岩越さん
作業長の下平駿さんは、「地域に電力を届けることが私たちの仕事ですが、普段仕事をしている上で『地域に貢献している』ということはなかなか表立って見えません。今日はそれが清掃という形で目に見えて実感でき、とても良い経験をさせていただいていると感じます」と話します。
下平さん(左)と春日大社 管理部 主事 藤井暢さん(右)
そして、作業を見守っていた春日大社の藤井さんからは最後に感謝の言葉が。
「高所作業は私たちではできないので本当に助かりました。貴重な文化財を守っていく使命を担う中、関西電力送配電の皆さんには23年変わらずサポートいただいていることに深く感謝しています。これからも末長いお付き合いをお願いしたいです」
なお、今回の清掃作業の動画を関西電力グループのFacebookで公開中。関西電力送配電と春日大社の特別な一日をまとめた見応えのある映像となっています。
さまざまな人の支援で、その美しい姿を保ち続けている春日大社。ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
■DATA
春日大社
住所:奈良県奈良市春日野町160
https://www.kasugataisha.or.jp/
関西電力送配電
https://www.kansai-td.co.jp/
<貢献する主なSDGsの目標>
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
電力会社の役割は、電気を作り、届けるだけではありません。地域の発展のため、環境を守るため、さまざまな活動を行っているんです。四国電力の子会社として発足した「Aitosa(アイトサ)株式会社」(以下、アイトサ)が取り組むのは、シシトウの養液栽培やAI・ITを活用したスマート農業の確立。私たちの食卓にも身近なプロジェクトの全貌をお伝えします。
高知県はシシトウの国内シェア日本一!
天ぷらや炒め物はもちろん、そのまま焼くだけでも美味しいシシトウ。β-カロテンやビタミンCが豊富で、老化防止や疲労回復、美肌などにも効果が期待される、健康にもいい夏野菜です。
甘さが引き立つ素焼きは、焼き鳥屋さんでも定番
輪切りを添えれば料理の彩りに
そんなシシトウですが、国産のほとんどが高知県で生産されているって知っていましたか?
四国4県の中で一番の面積を誇る高知県は、豊富な日射量と温暖な気候を生かした農業が盛んな地域。1ヘクタール当たりの園芸作物等の産出額、すなわち生産性が日本一なんです。 シシトウのほかにも、ショウガ、ナス、ミョウガ、ニラなど、多くの野菜で国内トップシェアの生産量を誇ります。
中でもシシトウは、国内シェア40%。その理由の一つが、ハウス栽培により一年を通じ安定して生産できることであり、飲食店などにも重宝されているからだそうです。なので、冬場のシェアにいたってはなんと90%! 普段あなたが食べているシシトウは、高知県産である可能性が高いのです。
収穫したばかりのシシトウ。発色が良く、つやつやと輝いている
Aitosaがあるのは、農業が盛んな高知県南国市
しかし、高齢化が進むにつれ農業の担い手が不足してきており、機械化できない部分が多く、人の手がかかる農作物の代表 ともいえるシシトウの生産量もだんだんと落ち込んできています。1992年には5100トン(約77億円)もの出荷量があった高知県産のシシトウですが、2018年には半分以下の2300トン(約34億円)まで減少しています。
シシトウは高知県 にとって大切な農作物 の一つです。これを守っていかなければ! と立ち上がったのが四国電力でした。
四国電力は、地元の基幹産業の活性化に貢献するべく、2018年から本格的に農業に参入し、香川県でイチゴの生産・販売を行う「あぐりぼん株式会社」を設立。高知県南国市でシシトウを作るアイトサは、それに続く第2弾として、2020年に立ち上げられました。
2021年7月に竣工したハウスは栽培面積約3000平方メートル 。1年目にして、基準となる面積当たりの収穫量は高知県下でトップクラスに
ハウスの中はハイテク設備が満載!
アイトサは、ただシシトウを栽培する会社ではありません。
(1)産地の維持・拡大
(2)AI・ITを駆使したスマート農業技術の研究開発
(3)養液栽培技術を用いた「最適栽培モデル」の確立
という3つの大きな目的による地域農業の活性化を実現するため、アイトサの栽培用ハウスは一般的なものとは一線を画しています。
まずは、見た目。大きく違う点として、養液栽培なので土がありません。シシトウの株は1本ごとにヤシ殻でできた培地に植えられており、そこに成長に必要な養液を与えることで育てています。
シシトウの株の根元。ヤシ殻の培地には根がびっしりと張っている
当初、ほかのシシトウ農家からは、農業未経験の新規就農、一般的なシシトウ農家の3倍以上の栽培面積かつ前例のない養液栽培では「無理!」「うまく育たないのでは?」と心配の声が多かったそう。
すべてが初めてのことばかりで、試行錯誤したものの、栽培開始当初は生育状態がかんばしくなく、収穫量は計画の1/4程度と本当に苦しい日々を過ごしました。シシトウは、意外と繊細で育てるのが難しい野菜なんです。
そこでカギとなったのが、「データ駆動型農業」です。アイトサでは、四国電力のグループ会社である四国総合研究所が開発した栽培環境をモニタリングできるシステムを入れており、ハウス内の環境を数値で見える化しました。
さらに、高知県が取り組む栽培環境の共有システムIoPクラウドと連携し、知見のある他の 農家さんの栽培環境データを確認。データの分析や対策にプラスすることで、比較と参考ができるようになり、栽培方法を確立していくことができたのです。
ハウスにある制御盤で、窓を開けたり、湿度を調整したりとさまざまな操作・設定ができ、ハウス内環境を自動でコントールしている
高知県のIoPクラウド「SAWACHI」によってスマートフォンからハウス内の環境や市場値動き、収穫量データなどをリアルタイムで確認・比較できる
加えて、周辺のシシトウ農家さんの協力の下、養液栽培に適した温度や湿度、CO2濃度に培養液の処方や潅水量などを細かく検証しました。
そのおかげで、1日1.6万個程度(約80キログラム)だった収穫量が、今では最大1日8万個超(約400キログラム)まで増加。アイトサの年間計画を大きく上回る結果となり、関係者一同驚きだったとか。
今後は栽培モデルをさらにブラッシュアップし、農業未経験者でも養液栽培を手軽に始められるモデルの確立を目指します。
電気で動くヒートポンプ空調設備。最適なハウスの環境を保つため、常に稼働している。環境にも配慮し、次世代型の農業には電力が欠かせない存在に
また、手間と人手が掛かる作業を自動化する仕組みも。現在、スマート農業技術の開発研究を行う会社と共同で研究を進めているのは、薬剤を自動散布する自走式のロボットです。
シシトウの安定的な生産には、病害虫予防として薬剤の散布が必要。現在は、温度と湿度が高いハウス内で保護用の服を着て作業を行う重労働ですが、このロボットが完成すれば大幅な負担軽減が見込めます。将来的には、収穫や選別作業、パック詰めなどの自動化も目指し、研究を進めていく考えです。
地域に寄り添い、共に未来をつくる
アイトサが目指しているのは、手間の掛かるシシトウ作りをAI・ITで省力化することで未経験でも参入しやすい土壌を作り、将来の就農人口を増やして、地域の活性化につなげていくこと。
この取り組みは、高知県の農業を背負っていく次世代の農家にも快く受け入れられている、と高知県農業振興部 IoP推進監の岡林俊宏さんは話します。
「アイトサさんは、地元の農家さんだけでは実現できない夢のある取り組みを進めてくださっています。情報発信も積極的にしていただいているおかげで、地元の若い農家さんや地区外の農家さんからも注目されています。アイトサさんの活動を通じて、高知県の施設園芸が若者にとってさらに魅力的な産業となっていくことを期待しています」
葉も身も緑色のシシトウは、AIロボットによる自動収穫の難易度が高い
本来、次世代型の生産スタイルは、地元農家からライバル視されてもおかしくないものです。それなのにアイトサと地域が良い関係を築けているのは、アイトサがあくまでも“一生産者”という立場を貫いているから。
農場長の菊池功一さんが、そこに地元高知への愛とプライドを持っていると熱く語ってくれました。
「アイトサで作られたシシトウは地元の農協を通じ、高知県産のシシトウとして、他の農家さんが作ったものと一緒に全国に向けて出荷されています。独自にブランディングして販路を作るのではなく、美味しいシシトウをたくさん作ることで、『高知のシシトウ』としてのブランド力を高める。私たちはそのために生産しています」
農場長の菊池功一さん(左)、代表取締役社長 武田博文さん(右)
一年中、いつでも欲しい量が手に入るからこそ、高知県産のシシトウは市場で安定した価値を保っています。その産地競争力を揺るぎないものにするべく、縁の下から地元を支えることがアイトサの取り組みなんです。
そうして地域に受け入れられたことで栽培方法のアドバイスなどの協力を得られ、未知数だった養液栽培によるシシトウ作りも早期に軌道に乗せることができました。
サイズの選別も現在は手作業。画像認識技術が進めば、作業はぐっと楽になる
「私自身、1年間農業担い手育成センターで勉強したとはいえ、元は電力会社の社員です。農業に取り組むのは初めてですから、家族にも負担をかけ、言葉では言い表せないほどの苦労もありました。でも、事業がいいスタートを切れたことをとてもうれしく思っています。今後は生産量をさらに増やしていくと同時に、生産者も増やしていく農業学校のような役割も担っていきたいですね。経営を含めて学び、地元で独立していただければ、地域全体がもっと明るくなっていくはず」と、菊池さんは意気込みます。
どこまでも地域のために、“愛”をもってスマート農業に取り組むアイトサ。全力で走り続ける彼らが作ったシシトウは、きっと皆さんがよく行くスーパーにも並んでいるはずです。未来の農業が生み出す味わいを体感してみてください。
■DATA
Aitosaスタッフ
Aitosa株式会社
住所:高知県南国市植田1825番地
https://www.aitosa.com/
個性的なシシトウやシシトウ料理も紹介されているAitosaのInstagramはこちら
https://www.instagram.com/aitosa_farm/
四国電力
https://www.yonden.co.jp/
<貢献する主なSDGsの目標>
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
テレビやネットの「電力のひっ迫」を知らせるニュースや、家の電気代の値上がりに直面して「節電したい」と思いつつも、実際には何から始めたらよいかわからないという人も多いのではないでしょうか。そんな方に向けて、家電製品アドバイザーの資格を持ち「家電女優」として活躍する奈津子さんに、いま家にある家電でできる節電術や、無理なく上手に節電・節約できるコツをうかがいました。
節電のポイントは、難しく考え過ぎないこと
――家庭で使う電気の量や電気代の現状について、奈津子さんはどう感じていますか?
コロナ禍で家庭の消費電力は増えていると言われています。テレワークや在宅時間が増えて家の電気代が目に見える形でアップしているのを、毎月の支払で実感している方も多いのではないでしょうか。2022年の現在では電気代の料金自体も値上がりしていますので、今まで省エネについて考えていなかった人も、節電を意識せざるを得ない状況になっています。私自身、家電女優として今回のように家電の使い方や節電テクニックをお話しする機会が増えていて、節電の情報が広く必要とされていると実感しています。
――家庭での節電を始めるときは、どんなことを意識すればよいでしょうか?
ポイントは、難しく考えすぎないこと。こまめに電気を消す、使っていないプラグを抜く、節電につながるアイテムを導入することなど、できることから始めれば、自然と結果が追いついてくると思いますよ。
エアコンは温度を調整するより「自動モード」に頼るのが正解
――家庭で多く電力を使う家電のひとつがエアコンですが、奈津子さんが実践されているエアコン節電術を教えてください。
消費電力が少なそうだからと微風モードを選ぶ方もいますが、微風モードは設定温度に到達するまでに時間がかかるため、消費電力が上がります。最近のエアコンはセンサー技術が向上していますし、冷房の設定温度を下げるよりも風量を上げるほうが電力使用が少ない傾向があるので、「自動」や「おまかせ」モードがベストです。また、上がった室温を急激に下げると電力を使うので、エアコンをこまめに切ったりつけたりするのは逆効果です。
もちろん冷房の設定温度を上げても節電になります。1度上げて風量を上げることで、年間約1,200円以上の節約ができると言われています。「遮熱にすぐれた厚手のカーテンを床から隙間なくつける」「室外機のまわりにものを置かない」「室外機に日除けカバーをつける」ことも節電に。フィルターのお手入れなどのお掃除も大切です。私はワンシーズンごとにプロにお掃除してもらい、自分でも月に1回掃除しています。理想は2週間に1回と言われていますが、無理なくできる範囲でトライしてみてください。
――気温の上下をできるだけ抑えることが節電につながるんですね。扇風機の節電術はありますか?
エアコンと上手に併用すると節電ができます。エアコンの設定温度を1度上げると電気代は約10%下がると言われていますので、扇風機を使いながらエアコンの設定温度を2度上げれば、月間約519円の節約ができます。また、昔の扇風機はAC(交流)モーターが主流で消費電力は平均35W程度でしたが、ここ数年で切り替わったDC(直流)モーターの消費電力は1.5~20Wと、とても省エネです。DCモーター型の扇風機なら1時間使っても電気代は約0.54円、1ヵ月使ってもわずか約86円です。かなり電気代が変わりますので、扇風機を買うときは型落ちの安いものではなく、DCモーター型を選ぶとよいでしょう。ちなみに、最近の人気モデルや有名メーカーの製品はほぼすべてDCモーター型になっています。
家で150台以上の家電を実際に使用している奈津子さん
キッチンでは家電を上手に使って節電・節水を!
――キッチンでできる節電についてもうかがいたいのですが、冷蔵庫の使い方のポイントは?
冷蔵庫は、放熱しにくくなることを防ぐため、上や周囲に物を置かない、直射日光のあたるところに置かないことが大切です。開閉回数をなるべく減らすのもポイント。食材の置き場所を決めておけば開ける時間を短縮できます。また、冷却運転を減らすため、調理後の料理は粗熱をとってから入れましょう。冷気の流れが悪くならないように、容量は7~8割までを意識する。冷凍庫は、凍ったものがお互いに冷やし合うので、ある程度ギュウギュウに入れてOK。ドアの開閉頻度や外出時間などをAIで予測して省エネ運転をする冷蔵庫もあるので、買い替えの際に検討してみてもよさそうです。
――炊飯器や食洗器を使う上で工夫できることはありますか?
炊飯器の保温機能を活用している方も多いと思いますが、炊飯器でご飯を保温する時間の目安は4時間。それを過ぎると、ご飯を電子レンジで温め直すほうが節電になります。7~8時間以上保温すると、もう一度炊く以上に電気代がかかりますので注意しましょう。1日に7時間保温してプラグをコンセントに差したままの場合と、保温せずにプラグを抜いた場合を比べると、年間で約1,240円の違いがあります。
最近は省エネよりもおいしさを追求するメーカーが増えており、強火力で一気にお米を炊き上げるので、どうしても電力を大量に消費してしまいます。一度の炊飯で多めに炊いて冷凍するのは一見節電になりそうですが、食べる直前に電子レンジで温める電気代がかかります。夕食をとる時間が異なる家族がいる場合は、炊飯から4時間以内であれば炊飯器の保温機能を使ったほうがいいでしょう。家族全員が同じ時間にごはんを食べるなら、1食ごとに食べきるぶんだけ炊くのもオススメ。炊飯器に関しては、メーカーや家族の人数などによって事情が変わるので、「保温の目安は4時間」ということだけ頭において、家族が食べる量によって炊く量を調整したらよいと私は思います。
食洗機はぜいたくな家電と思われがちですが、人間の手では耐えられない60℃以上の湯でしっかり洗浄してくれますし、手洗いするより節水になります。あるメーカーの食洗器は、手洗いと比べて、1回あたり2Lペットボトル約22本分、節水できます。いろいろなものが値上がりして家計を圧迫する中で、この節約は大きいですよね。また、食洗器の節電でぜひ意識してほしいのは、乾燥時間です。乾燥時間が長いほど電気代がかかるので、乾燥時間を短く設定するか、乾燥機能を使わないというのもひとつの手。洗浄が終わったらフタを開けて、自然乾燥させるとよいでしょう。
食洗機は、乾燥の工夫でより節電に
最新モデルのテレビはプラグを抜かないほうが経済的
――リビングで使うテレビや、照明の使い方・選び方のポイントはありますか?
テレビのプラグはこまめに抜くのがよいと思われていますが一概にそれがよいとは言えません。最近のテレビは省エネ化が進んでいて待機電力もごくわずか。待機中に放送波から番組表をダウンロードしたり予約録画したりしているため、主電源を入れ直すたびその通信に電力を使います。家電仲間の間では、長期間の留守でなければ、主電源はつけっぱなしにしておくのが経済的という意見が優勢ですね。
テレビの買い替えを検討しているのなら、節電効果的には、有機ELテレビよりも液晶テレビがオススメ。有機ELテレビはプラズマテレビと同じ自発光方式なので、画質はキレイですが消費電力が高く、液晶テレビは、LEDを使ったバックライト方式なので、消費電力は控えめです。
電球や蛍光灯を買い替えるときは、LED電球を選びましょう。1日5.5時間点灯した場合、白熱電球(60W相当)に比べて年間、約2,410円の節約になります。リモコン付きの照明器具はこまめにオンオフでき調光可能な機種が多くオススメ。最近では専用アプリで操作できる機種もあります。コロナ禍で不眠に悩む人も増えていますが、調光機能を使って寝る数時間前に部屋の明かりを少し暗くしておくだけでも、自律神経が切り替わり、睡眠に良い影響があります。
奈津子さんの家でも、LED電球が活躍中
洗濯は服を入れすぎないことが節電・エコに
――お洗濯やお風呂でできる、節電術はありますか?
洗濯機は、回数を減らすことよりも、洗う洗濯物の量を洗濯槽の7~8割にとどめることを意識しましょう。洗濯槽の上まで洗濯物を入れて洗うと、服どうしが擦れて傷む上に、洗剤も繊維に染み込まずに汚れが落ちません。結局、洗い直すことになり電気代も水道代もかかります。エアコンと同様に、洗濯槽やフィルターの掃除をこまめに行うのも、節電に効果的です。
お風呂の残り湯の活用も、節水できる上に、温かいお湯で洗浄力がアップするのでオススメです。今は残り湯洗い用のホース付きポンプも便利に進化しているので、以前より手間なく取り入れられます。また、マシン代の初期コストはかかってしまいますが、液体式の洗剤・柔軟剤をタンクに投入しておくだけで最適な洗剤を入れてくれる、自動投入機能が最近のトレンドです。手間が省けるだけでなく、惰性で投入していたぶんの洗剤を削減できてエコ。個人的に、近未来感があって好きな機能です(笑)。
シャワーヘッドの付け替えも、節水につながります。シャワーから流れる水の量は1分間で約10~12リットル。15分間流し続けたら浴槽1杯分になると言われています。今は60%以上節水できるモデルもあるので、手軽な節水方法として取り入れてほしいですね。シャワーヘッドを選ぶときには、自宅のシャワーと接続可能か必ずチェックしましょう。私も1回、失敗しました(笑)。
節水モデルのシャワーヘッドに取り替える際は、取り付け金具について確認を
家電の買い替えも節電術。「まだ使えるから」は電気代が上がる原因にも
――では節電から一歩進んで、家電を買い替えるときのポイントは?
今持っている家電と、買い替えを検討している家電の製品情報を打ち込むだけで年間の電気代を比較・表示してくれる環境省のサイト「しんきゅうさん」を活用するのがオススメです。無料で使えますし、パンフレットのスペックを比べてにらめっこしなくていいので、とても楽です。
今、家電の省エネ性能が格段に上がっています。10年前と比較すると、冷蔵庫は約40~50%、電球とLEDを比べると約80%、テレビも、約30~40%の節電ができます。エアコンや温水洗浄便座も同様で、古いモデルより、新しいモデルのほうが省エネ性に優れています。「使えるものをまだ使う」という考えはサスティナブルで大事ですが、実は古い家電が多く電気を消費していたり、環境面を考えても良くなかったりするので、家電を思い切って買い替えるのもひとつの手だと思いますね。
――今、奈津子さんは1歳のお子さんを育てていらっしゃいますが、子育てをする中で、何か強く意識するようになったことはありますか?
ありますね。私は仕事はしていますが主婦なので、値上がりで赤ちゃんの食事のための食材選びが難しいなと感じますし、育児をするようになって節約をより意識するようになりました。家電でいうと、子どもが生まれて変わったのがエアコンの選び方ですね。夫婦ふたりで暮らしていたときは、エアコンはある程度の性能があればいいと思っていましたが、子どもが生まれてからは、寝室用に、センサーの性能がよく、換気もできる優秀なエアコンを買いました。赤ちゃんの睡眠は繊細なので、子どもの睡眠の質を上げるための投資と考えて導入を決めましたね。
――この電力不足や値上げの夏を乗り切りたい読者に向けて、メッセージをお願いいたします。
節電、節電とストイックになったり、大きすぎる目標を定めたりしてしまうと、何から手を出してよいかわからないし、楽しくできないと思います。冷蔵庫のまわりのものをどかすとか、遮熱性のカーテンをかけるとか、簡単にできるテクニックもあるので、ゲームのように無駄なものをカットしていく感覚で、ご自身が楽しめる範囲で節電を始めるのがよいと思います。私自身、家の中で無駄な電気を探しては消して歩くようになって、最近はそれが楽しくなってきました(笑)。楽しんだ結果、出費が抑えられればクオリティオブライフも上げられますので、シビアになりすぎず、ぜひ実践してほしいです。続けているうちに、自身が快適に取り入れられるラインも見えてくると思いますね。
奈津子
女優・家電製品アドバイザー・スマートマスター。
ドラマ「野ブタを。プロデュース」で女優デビュー以降、連ドラにメインキャストで多く出演。小劇場から大劇場まで舞台も多数。秋元康氏プロデュースSDN48メンバーとしてアイドル・歌手活動も経験。在籍時、秋葉原に劇場があったことから電気街や量販店で家電にハマり、グループ卒業後、家電好きが高じてエンジニアや量販店の販売員などが所有する“家電アドバイザー”GOLD等級を独学で勉強して取得。
私生活では150台以上の家電に囲まれて暮らし、1歳の息子の育児中。連載は「たまひよONLINE」「共働きwith」等。
【Instagram】https://www.instagram.com/natsuko_kaden/
【Twitter】https://twitter.com/natsuko_twins
YouTubeチャンネル「奈津子の家電クリニック」https://www.youtube.com/channel/UCupjyzS5FlQypheKl95amUw
▼参考
https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20201007_01
https://www.jprime.jp/articles/-/24040?display=b
https://st.benesse.ne.jp/ikuji/content/?id=135419
https://seihinjyoho.go.jp/frontguide/pdf/catalog/2021/catalog2021.pdf
電力はなぜ足りなくなるの? 乾電池のように貯めて使うことはできないの? と、疑問に思ったことがある方も多いのではないでしょうか。このコラムでは「予備率」「電力需給ひっ迫警報」など、電気についてよく聞く言葉を解説します。
電気は貯められない? 品質を守るための「同時同量」とは
「同時同量」とは、使う電気の量と、発電する電気の量を常に同じにする原則のこと。電気は、乾電池やバッテリーなどに小さな量の電気を貯めることはできますが、複数世帯の生活を支えるような電気は、基本的に蓄えておくことができません。そのため、使う電気の量と発電量がいつも同じになるように調整する必要があります。
同時同量のバランスが崩れると、周波数が不安定になって電気の品質が落ちたり、大規模な停電発生につながったりすることもあります。季節や1日の間でも変わる電気の使用量に応じて、さまざまな発電方法を組み合わせて、発電量が調整されています。
東日本・西日本の周波数はなぜ違う?
「周波数」とは、電気製品で使われる「交流」の電気による波が、1分間に繰り返す回数のこと。ヘルツ(Hz)という単位で表されます。周波数は、新潟県の糸魚川と静岡県の富士川を結ぶ線を境に異なり、東日本では50Hz、西日本では60Hzの電気が使われています。
この違いは、明治時代、東京ではドイツから輸入した50Hzの発電機、大阪ではアメリカから輸入した60Hzの発電機を使って電気を作り始めたことに由来します。現在の電気製品の多くは50Hzでも60Hzでも使うことができますが、エリアと異なる周波数が設定されている電気製品を使うと、故障したり、機能性が変わったりすることがあるので注意しましょう。
気になるワード「予備率」ってどんな数字?
「電力が足りない」というニュースなどで使われる、「予備率」という言葉。それは、ピーク時の電力需要に対して、供給力の余裕がどれくらいあるかを表した数字です。
電気は基本的に、貯めておくことができません。そのため、気温の変化によって急に電力の需要が増えたり、発電トラブルで供給力が低下したりするケースに備えて、供給力に余裕を持たせておく必要があります。電力の需要は刻々と変動しますので、最低でも3%の予備率が必要です。また電力の安定供給のためには、8%以上の予備率が望ましいと言われています。
電力需給ひっ迫警報・注意報とは?
電力需給ひっ迫警報、電力需給ひっ迫注意報は、翌日に電気が足りなくなることが予想されたとき、資源エネルギー庁が前日16時をめどに発令します。電力需要に対する供給の余力が少なく、電力がひっ迫する可能性を早めに知らせることで、家庭や企業に節電の対策をしてもらうことが目的です。
需給ひっ迫注意報は、翌日の予備率が5%を下回る見通しのとき、需給ひっ迫警報は、翌日の予備率が3%を下回る見通しのとき、発令されます。この注意報や警報が出された際は、熱中症などの体調不良に注意しながら、無理のない範囲での節電を心がけましょう。
「でんき予報」もチェックしていざというときの電力不足を乗り切ろう!
各エリアの電力会社は、電力の使用状況を伝える「でんき予報」を公開しています。今日の需給状況が厳しくなりそうか、安定しそうかという見込みがわかるので、こまめにチェックして、効率的に電気を使ってみてはいかがでしょうか?
各エリアの電力会社が提供する「でんき予報」へアクセスできる一覧はこちら↓
電気事業連合会 節電情報ポータル
▼参考・出典
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の発展のため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしているのをご存じでしょうか。地元の海を守ろうと、沖縄県恩納村(おんなそん)で長年続く「チーム美(ちゅ)らサンゴ」というプロジェクトがあります。このプロジェクトに立ち上げ当初から携わっているのが沖縄電力。県内外の企業や漁協など地元関係者と共にサンゴの保全に取り組み続けています!
サンゴを植え付け、かつての水中景観を取り戻したい
沖縄県本島の西海岸。その中央部に位置するのが恩納村です。
青い海と空がどこまでも続く海岸沿いには、万座ビーチやナビービーチなど多くのビーチが点在。水平線にゆっくりと消えていくサンセットがのぞめるなど、昔からリゾートエリアとしてにぎわってきました。
名勝地・万座毛がある恩納村で「チーム美らサンゴ」は活動している
そんな恩納村の美しい海を活動エリアとし、2004年、「チーム美らサンゴ」が結成されました。
沖縄の海では近年、オニヒトデの食害や赤土の流出、海水温の上昇に伴う白化現象によりサンゴが激減しています。
「自分たちの手でサンゴを植え付け、かつての水中景観を取り戻したい」
この想いを一つに、沖縄電力を含めた県内外9社の企業が集い、恩納村漁業協同組合など地元関係者の協力のもと、サンゴ苗の植え付けプログラムや啓発イベントなどのサンゴ保全の取り組みを開始しました。
恩納村・沖縄県・環境省の後援も得て、現在では県内外17社が協力して運営し、美ら海を大切にする心を広めるよう活動を続けています。
プログラムの中でスノーケリングなどさまざまな体験ができる
これまで一年に5回ほど恩納村でサンゴ苗の植え付け体験イベントを開催し、2020年にはなんと累計1万5000本を達成しました。
さらに盛り上げていこうとした矢先に、新型コロナウイルス感染症が拡大し、一昨年、昨年はほとんどのイベントが中止に。
悔しい思いをした2年間でしたが、今年は無事、第1回イベントから開催できる状況になりました。
ボランティアダイバーがサンゴを植える海
「チーム美らサンゴ」は、チーム企業や地元の人たちだけが参加する取り組みではなく、広く全国から一般の参加者を募って、みんなで海を守ろうというプロジェクトです。なので、予約をすることで誰でも参加が可能です。
体験イベント当日、まずはサンゴのレクチャーから始まります。
「サンゴは動物か? 植物か?」「クラゲとウニ、どちらに近いか?」といったクイズ形式などで、サンゴの生態や役割、サンゴ礁の現状など、さまざまな視点からサンゴのことをわかりやすく教えてくれます。
イベントプログラムにおけるサンゴのレクチャー。ちなみに、前述クイズの答えは「動物」「クラゲ」
その後は、サンゴの養殖場見学、サンゴの観察ダイビング、サンゴ苗の植え付けダイビングと続き、朝から夕方までたっぷりサンゴに触れられる一日となります。
ただ、サンゴ苗を植え付ける場所は水深5メートルほどの岩礁エリア。参加資格として、ダイビングライセンスが必須になります。
ボランティアダイバーがサンゴ苗を植え付ける(提供:沖縄ダイビングサービスLagoon)
「ライセンスなんて持ってない!」と、諦めなくても大丈夫です。ノンダイバー用のプログラムもあります。
植え付け体験はできませんが、グラスボートで海中散歩したり、サンゴ苗を作ったり、スノーケリングでダイバーたちがサンゴ苗を植え付ける姿を見学したり。
グラスボートで海中探索
“環境保全活動”と重く受け止めずに、レジャーを満喫しながら、海を守ることにつながる素敵な一日が待っています。
作ったサンゴ苗は、数カ月間育ててから植え付けへ
ダイバーでもノンダイバーでも、とても楽しい体験が待っているのは間違いありませんが、海の環境を守るために、なぜサンゴ苗を植え付け始めたのでしょうか。
それはサンゴが「生物多様性」の宝庫だから。地球の70%を占める海の中で、サンゴがあるのは海洋面積全体の0.2%程度です。実はこの0.2%の中に、海の生き物の25%が暮らしていると言われています。
つまり、サンゴは4分の1もの海洋生物の命を支える基盤になっているんです。
ノンダイバーでもスノーケリングで観察可能
そんな海の生態系と密接な関係にあるサンゴの身に事件が起きました。
1998年、世界中で大規模なサンゴの「白化現象」が発生。海水温が高くなりすぎることなどが要因で起こる、サンゴが白くなり弱ってしまう現象です。
このとき、世界中のサンゴの90%が死んでしまったとされています。もちろん沖縄の海も例外ではありません。
恩納村漁協の創意工夫! 海の中にパイプを立て、その上でサンゴを養殖
海の生き物の25%が暮らすサンゴがなくなったらどうなるのか……。生物多様性の宝庫を守るため、また、海洋生物、その恵みを与える漁業、さらには沖縄の観光資源を守るために、サンゴをなくすわけにはいきません。
さらに、サンゴは自然の防波堤の役割もある上、二酸化炭素を吸収する、製薬の原料として医療の発展に貢献できる可能性があるなど、幅広く人の暮らしに関わっています。
サンゴ苗を植え付けることの価値は大きい
そんなサンゴの大切さを知っているからこそ、チーム美らサンゴでは、参画企業と恩納村漁業協同組合などの地元関係者と全国からの参加者が協力し、サンゴ保全活動に取り組み続けているのです。
ちなみに、チーム美らサンゴを後援する恩納村は、2018年に“世界一サンゴにやさしい村”を目指ざすとして「サンゴの村」を宣言しました。村では大切なサンゴを守る取り組みがさまざまな形で行われています。
チーム美らサンゴに込められた海人の想い
こうして20年近くの活動を続けてきた「チーム美らサンゴ」。その背景には、地元の海人(うみんちゅ)さんの強い想いがありました。
「子どもや孫の世代まで美しい海と地球を守るため、今の私たちができることを」
研究者や企業がリードするサンゴの保全活動は、沖縄県各地で同じように行われています。ただ、恩納村におけるサンゴ保全活動のように漁業者の想いからスタートしたものは、他に類を見ないそうです。
恩納村漁業協同組合の仲村英樹さんは、「サンゴの植え付けは、養殖したサンゴの断片を苗として育成し、海底に植え付けるもの。始めた当時は方法が確立されておらず冒険的な要素もありましたが、今では、養殖はサンゴ種苗施設を整備し、植え付けはチーム美らサンゴの活動によって現在の形となり、成功したものと考えています。沖縄電力さんもチーム発足当時から参画しており、これからも協力して進められれば、さらに魅力ある活動になると感じています」と、現在に至った経緯を振り返ります。
恩納村漁業協同組合の仲村さん
サンゴ種苗施設。チーム美らサンゴの活動に協力する海人さんがモズクの養殖場をサンゴのために改装した
「チーム美らサンゴ」結成当初から、その想いに共感して沖縄電力も参画し続けています。現在、チームの幹事社としてイベント開催をサポートするカーボンニュートラル推進本部 環境部の立野正美さんが、サンゴの再生にかける想いを教えてくれました。
「過去2年間は、新型コロナ感染症拡大の影響もあり、イベント中止の連絡ばかりでつらかったです。今年は、無事に第1回目のイベントが開催できて本当にうれしかったです。『地域とともに、地域のために』が当社のスローガン。『チーム美らサンゴ』は、それを実現できるプロジェクトです。将来的に、サンゴを植え付ける必要もなくなるような、地域の海が自然の状態に戻ることが理想です。これからも『美ら海を大切にする心』がもっと広まればと思いながらこの活動に取り組んでいきます」
「今年はすべてのイベントを開催したいです!」と笑顔の沖縄電力の立野さん
世界で同時に起きた白化現象から20年以上が経ち、現在では恩納村海域の天然のサンゴは回復傾向にあるそうです。
それでも、観光客が一カ所に集まりすぎてしまう「オーバーツーリズム」や天敵となる「オニヒトデの増加」、開発などに起因する「赤土の流出」、さらには近年世界中で社会課題とされている「海洋プラスチックごみ」など、サンゴの生態を脅かす問題はとめどなくあふれています。
気候変動やSDGsを機に、環境保全への意識はどんどん高まってきました。ただ、それを行動に移すことは簡単ではありません。
チーム美らサンゴ2022年秋の植え付けイベントの開催は、9月17日(土)、10月5日(水)、10月22日(土)、11月5日(土)の4回を予定(※)。
海のレジャーも満喫しながら、サンゴのこと、海のこと、地球の未来ことを考えられる恩納村に足を運んでみては。
※チーム美らサンゴの植え付けイベントは春と秋に行われ、参加予約は、春が3月頃、秋が7月頃に開始されます。詳しくはチーム美らサンゴHPをご覧ください。
■DATA
チーム美らサンゴ
https://www.tyurasango.com/
恩納村
https://www.vill.onna.okinawa.jp/
沖縄電力
https://www.okiden.co.jp/
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
テレビやネットのニュースなどで話題になる、電力需給の状況。家でも節電をしたいけれど、照明やテレビを消す以外にどんなことをしたらいいのか、わからない方も多いのではないでしょうか。そこでこのコラムでは、料理や掃除など、家事の中でできる節電術を紹介します。
家事に使う電気はどれくらい?
経済産業省の家庭向け資料「夏季の省エネ・節電メニュー」によると、太陽光発電の出力が減少し、電力需給が厳しくなる時間帯にもっとも電気を使うのはエアコンで、全体の38.3%。また、冷蔵庫は12%、炊事は7.8%、給湯は3.1%、洗濯機・乾燥機が1.8%と、家事でも、電気は多く使われています。また電気が特に使われる時間帯は、全体では13時~17時頃の日中ですが、家庭では18時頃から消費量が上がります。家では、日中の暑い時間帯だけでなく、夜の消費量にも注意が必要です。
冷蔵庫は詰め込み過ぎに注意!
では実際に、家事の中でどのように節電ができるのでしょうか。たとえば、毎日の料理に欠かせない冷蔵庫も、工夫次第で節電ができます。ポイントは、ものを詰め込み過ぎないこと。詰め込んだ冷蔵庫の食材を半分にすると年間で電気43.84kWhの省エネ、約1,180円分、節約できます。ビン詰めなど常温で保存できるものは外に出したり使わない食材を処分したりして、冷蔵庫を整理しましょう。
温かい食べ物は冷ましてから冷蔵庫へ。庫内の温度を「強」から「中」や「弱」にする、無駄な開閉をしないのも節電のポイントです。冷蔵庫を壁から離して設置するのも節電術のひとつ。上と両側が壁に接している場合と片側が壁に接している場合を比較すると、それだけで年間で電気45.08kWhの省エネ、約1,220円の節約ができます。
まだまだある!キッチンでの節電術
便利な食器洗い乾燥機も、賢く使って節電しましょう。食器の点数が少ないときは少量コースを使う、扉をあけて余熱で乾燥させるのも、節電のコツです。
ガスコンロやIHクッキングヒーターは、鍋にフタをして調理するとエネルギーのムダを抑えられます。食材を小さめに切ったり圧力鍋を使ったりすると、加熱時間を短縮できるのでおすすめです。
炊飯器を使うときは、長時間の保温に注意。3合炊いて1.5合を食べて残りを保存する場合、保温時間が4時間を超えると、電子レンジで温めなおしたほうが節電になります。電気ポットでお湯を沸かしておくときは、低めの温度で保温して必要なときに再沸騰させると節電に。長時間使用しないときはプラグを抜きましょう。
洗濯はまとめ洗いが正解!
洗濯機を使うときは、少量の洗濯物を毎日洗うよりも、まとめて洗ったほうが節電できます。容量の4割を入れて洗うより、8割入れて洗う回数を半分にするほうが、年間で5.88kWhの節電になり、水道代と合わせると年間で約4,510円、節約できます。乾燥機も同様に、まとめて乾燥して回数を半分に減らすことで、年間で41.98kWhの節電、約1,130円の節約が可能です。
乾燥機に頼りすぎず、自然乾燥も活用するとベターです。乾燥機のみで乾燥させるより、自然乾燥8時間後に未乾燥のものを補助乾燥するほうが、年間で約10,650円、節約できます(2日に1回使用)。
毎日の掃除でも、省エネが大切です。部屋を片付けてから掃除機をかけると、使用時間を短縮できます。ゴミが取れにくいじゅうたんは「強」、吸い込む強さを変えても取れるゴミの量がほぼ変わらないフローリングは「弱」にするなどして、モードを変えると経済的です。パックやダストカップにゴミが詰まった状態だと吸引力が落ちて消費電力量が増えるので、ゴミはこまめに捨てましょう。
省エネ家電への買い替えも選択肢に
省エネ家電に買い替えるのも、節電のひとつ。冷蔵庫は10年前と比べて約40〜47%の省エネを実現するなど、家電の効率性は大幅に向上しています。家電を買い替えるときに省エネタイプを選ぶのも、家でできる節電術です。環境だけでなくお財布にも優しい節電生活、今日から始めてみませんか?
▼参考・出典
夏は気温が高く、食品が傷みやすい時期。さらにエアコンや冷蔵庫など、“冷やす”には電気代が結構かかるなぁ……と生活の中で感じる方も多いのではないでしょうか。そこで、著書に『栄養素も鮮度も100%キープ! おいしい冷凍保存術』『いつでもおいしい 冷蔵・冷凍保存術』などをお持ちの料理研究家・食品ロス削減アドバイザー・防災士の島本美由紀さんに、冷蔵・冷凍での効率的な食品保存術を中心に、フードロス対策・料理へのおすすめ活用法についてお聞きしました。
******
料理研究家・食品ロス削減アドバイザー・防災士の島本美由紀さん
フードロスとは、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品のこと。家庭から出るフードロスは4人家族の平均で年間6万円分と言われています。家庭から出るフードロスを減らすためにも、食品が傷みやすい夏の時期は冷蔵庫の使い方を見直しましょう。フードロスを防ぎ、食品をおいしく長持ちさせる冷蔵・冷凍保存術をご紹介します。
①冷蔵庫をうまく使いこなせると、こんなことがプラスに!
「気づいたら冷蔵庫の奥で野菜が傷んでいた……」「冷凍室で霜がついた謎の食品を発見して捨てた……」など、せっかく購入した食材を最後まで使い切れずに捨ててしまったという経験はありませんか? 食事作りは冷蔵庫を中心にまわっているので、冷蔵庫の使い方をちょっぴり見直すだけで、食材を最後まで使い切れるようになり、節約につながることはもちろん、家事効率もアップ。捨てる罪悪感からも解放されるので気持ちも整います。
冷蔵室は7割以下の収納に
冷蔵庫がパンパンになりがちな夏ですが、大切なのは冷蔵庫の収納量。冷蔵室は7割以下、冷凍室は7割以上の収納にしましょう。
まず、冷蔵室がパンパンだと冷気が効率よくまわらず、食材が傷みやすくなります。また、取り出したいものを探すのに時間がかかるので冷気が逃げてしまう原因にも。冷蔵室の収納を7割以下にすることで消費電力も抑えることができ、年間約960円の電気代がお得(※)になります。
ちなみに冷蔵室内の設定温度は『中』で十分。冬は気温も低いので『弱』の設定でOKです。設定温度を見直すだけで年間約1,360円も電気代がお得(※)になります。
冷凍室は7割以上の収納に
冷凍室の収納量は冷蔵室とは逆。7割以上のスペースに食材が入っていた方が効率よく冷え、節電効果もアップします。開いている時間を短くするためにも、冷凍室は重ねず、立てて収納が鉄則です。
(※一般財団法人省エネルギーセンター「家庭の省エネ大辞典」より)
②フードロスを減らす冷蔵保存術
冷蔵室からフードロスを減らすには、「見える」「まとめる」「取り出しやすい」の収納方法を実践していきましょう。
「見える」ひと目で見渡せる収納を意識する
開けたらパッと全体が見渡せるように収納しましょう。例えば、透明の保存容器を使用するとひと目で残量まで確認できるので常備菜などの食べ忘れを防げます。容器の種類は増やし過ぎず、2~3種類に統一することで使っていない時の収納もコンパクトになります。
「見える」ひと目で見渡せる収納を意識する
「まとめる」 グルーピングを意識する
あちこちに食材が散らばっていると、ダブり買いの原因に。種類ごとや使う目的ごとに食材をまとめておくと管理がしやすくなります。半端に残った加工食品やちくわなどは冷蔵室で1番見えやすい下段に置くと使い忘れもなく、献立も立てやすくなります。
グルーピングを意識して「まとめる」、そしてトレーを使って「取り出しやすい」かたちにした例
「取り出しやすい」 トレーを使って奥まで有効活用
用途別にトレーやボックスにまとめるとすぐに取り出せ、冷蔵庫の奥まで有効活用できます。食材が迷子にならないので、探す手間も少なくなり、買い忘れやダブり買いの予防にもなります。ドアを開けている時間が短くてすむので節電効果もあります。
ちなみに家庭から出るフードロスを食材別で見てみると、1位が野菜です。せっかく購入した野菜をおいしく食べきるためにも、正しい保存方法を知ることが大切です。例えば、小松菜やホウレン草などの葉物野菜は育った状態で保存した方が長持ちするので、野菜室に立てて保存しましょう。かぼちゃやパプリカ、ゴーヤーなどのヘタとタネのある野菜は水分の多いタネ周辺から傷んでくるので、残ったらヘタとタネを取って保存しましょう。きのこ類は水分と乾燥に弱いので、キッチンペーパーで包んでからポリ袋に入れて保存しましょう。おいしく長持ちさせることで野菜のフードロスを減らせます。
かぼちゃやパプリカ、ゴーヤーなどのヘタとタネのある野菜は水分の多いタネ周辺から傷んでくるので、残ったらヘタとタネを取って保存します
③フードロスを減らす冷凍保存術
肉や魚、野菜など、まとめ買いをしたら新鮮なうちに冷凍保存しておくと長持ちします。
例えば、肉は100gずつに分け、ラップで包んでから冷凍用保存袋に入れましょう。魚は1切れずつ、ハムやソーセージは使いやすい量ごとに分けて冷凍しておくと使い勝手抜群です。
魚は1切れずつ、肉は100g程度を小分けにして、ラップで包んでから冷凍用保存袋に入れると長持ちします
肉や魚の冷凍は一般的ですが、野菜の冷凍保存もおすすめ。例えば、キャベツや小松菜などの葉物野菜は、食べやすく切って生のまま冷凍用保存袋に入れて冷凍しておけば、使いたい時に使いたい量だけ取り出せ、凍ったまま調理ができるのでラク。色鮮やかなミニトマトや乱切りにしたパプリカ、細切りにしたにんじんなどを冷凍しておけば、食卓に彩りを添えてくれます。比較的日持ちのしやすい根菜類もぜひ冷凍してみてください。にんじんや大根、ごぼうなど、食べやすい大きさに切って冷凍しておけば、凍ったまま煮物やスープに使え、冷凍することで火の通りも早くなるので時短につながります。肉や野菜の保存期間は1か月。期限内に調理で使いましょう。
切ってから冷凍すれば、使いたい時に使いたい分量だけササっと取り出せます
また、頻繁に使わない調味料の保存も冷凍がおすすめです。柚子胡椒や豆板醤、甜麺醤などは容器ごと冷凍保存すれば1年間ほど保存可能(瓶が割れないよう、内容量はパンパンの状態でないよう気をつけて)。風味を損なわずにおいしく冷凍ができます。また、味噌など塩分が多い調味料はカチコチに凍らないので、冷凍室から取り出した直後でもスプーンで必要な分だけ取れるので使いやすいですよ。
頻繁に使わない調味料は容器ごと冷凍保存がおすすめ
④時短クッキングにもなる! 便利な下味冷凍
日々の食事作りをラクにしてくれるのが下味冷凍。下味冷凍とは、肉や魚に味をつけて冷凍保存したもののことで、冷凍することで調味料がしっかりと染み込むので、パサつきを防いで食感もやわらか。解凍して炒めたり、焼いたりするだけなので時短調理にもつながります。また、調味料が肉や魚の表面をしっかりコーティングしてくれるので乾燥しにくく、保存期間は2か月。下味冷凍することで、おいしさを長くキープしてくれます。
作り方はとっても簡単。例えば、冷凍用保存袋にひと口大に切った豚バラ肉200gを入れ、市販の焼き肉のタレ大さじ3を加えて軽くもみ、下味をつけた状態で冷凍するだけ。食べる時は冷蔵室に移して解凍し、玉ねぎやピーマンの薄切りと一緒に炒めれば豚肉のスタミナ炒めに。フライパンで炒めた肉を市販のカット野菜と盛り付ければスタミナ満点の焼き肉のサラダになります。
下味をつけた豚肉を冷凍しておくと、時短クッキングに!
特売などで購入した肉や魚を利用して、好きな調味料で味をつけて2~3セットほどまとめて作っておくと便利ですよ。上手に冷凍貯金をしておくことで、献立に迷うこともないし、雨などで買い物に出たくない日や忙しい日のごはん作りがグッとラクに楽しくなります。
使い忘れを防ぐためにも、冷凍用保存袋には日付と中身の食材名を書いておきましょう。そして月に1度、冷凍室を見直して古いものから食べていくなど、上手にローリングしていくと、おいしく食べきることができます。
島本美由紀(しまもと みゆき)
料理研究家・食品ロス削減アドバイザー・防災士 身近な食材で誰もが簡単においしく作れるレシピを考案。家事がラクになるアイデアなどに定評があり、ラク家事アドバイザー、冷蔵庫収納&食品保存アドバイザー、防災士としても活動。NHK「あさイチ」や日本テレビ「ヒルナンデス!」など、テレビや雑誌を中心に活躍し、著書は70冊を超える。一般社団法人「食エコ研究所」の代表理事を務め、令和3年には消費者庁主催の食品ロス削減大賞で審査委員長賞を受賞。公式YouTube「島本美由紀のラク家事CH」では、家事がラクになるアイデアや食品保存のコツを紹介している。
著書に「ムダなく使い切れる!冷蔵庫収納術」(コスミック出版)、「栄養素も鮮度も100%キープ!おいしい冷凍保存術」(宝島社)、「野菜が長持ち&使い切るコツ、教えます!」(小学館)などがある。
【公式YouTube】「島本美由紀のラク家事CH https://www.youtube.com/channel/UCbIPZfpFO5ccvs8MtelVobg
【オフィシャルサイト】https://shimamotomiyuki.com/
★節電情報について知りたい方はこちら!
ふだんあたりまえに、何気なく使っている電気。でも生活上なくてはならない社会インフラです。現在はコロナ禍の影響でおうち時間が増えるなど、生活の中での電気・家電の存在感は以前より大きくなってきているのではないでしょうか。そこで、「家電ラボ」を開設し、電化製品を研究・レビューしている石井和美さんに、「生活を豊かにしてくれるおすすめ家電」と、家電を選ぶ際のアドバイスをお聞きしました!
******
フリーライター/家電プロレビュアーの石井和美さん
暮らしの中で欠かせない電気&家電。ふだんは何気なく使っていますが、家事の負担を軽減し、生活の質を上げてくれる便利な家電が数多く登場しています。現在はコロナ禍の影響で在宅時間が増え、生活の質を上げるために家電を買い足したり、買い換えたりする方も多く、注目が集まりました。最新の家電トレンドと、選び方をご紹介します。
➀便利家電、今のトレンドは?
現在、家電をとりまく状況は変化しつつあります。高度経済成長期には「子供の数は 2~3 人」が標準家族でしたので、家電もそういった世帯に合わせて販売されていました。しかし共働き世帯が増え、単身者やシニア世帯も急増しているため、家族形態やライフスタイルの多様化に合わせて、求められる家電も少しずつ変わってきています。
最近、人気なのは少人数用のコンパクトな家電です。一世帯あたりの人数が減っていることもありますが、キッチンのスペースに限りがある中で、家電の種類がどんどん増えて置き場所問題に悩む方が増えていることも理由のひとつ。新興メーカーから販売されている手頃な価格の家電も人気です。操作が簡単で、パッと使える小さな家電は、主に単身者や少人数の世帯で好まれています。
また、「省エネ」についても意識する方が増えています。特に冷蔵庫とエアコンは家庭内でも消費電力が大きい家電なので、気になる方も多いようです。家族形態の変化に合わせたコンパクト&便利化と、省エネな世界情勢に合わせたトレンドの2軸が、人気の傾向と言えるかもしれません。
冷蔵庫は、最新の上位モデルは省エネ性能が高くなっています。各社が力を入れているモデルは、モーターやコンプレッサーが最新で、断熱材も優秀です。よく「大きい冷蔵庫は電気代がかかる」と思い込んでいる方もいますが、中型冷蔵庫よりも消費電力が低いことも。
また、単に冷やすだけではなく、鮮度を保つことができます。食品が長持ちしたり、ラップなしでもサラダが潤っていたり、買い換えるメリットが高い家電です。
消費電力が大きい冷蔵庫は、サイズよりも性能面で選ぶのが◎
エアコンは、節電効果を上げるのであれば、サーキュレーターを同時に使うことをおすすめします。サーキュレーターで気流を作り、かくはんすることで部屋の温度が一定になります。夏場では体感温度も下がるので、エアコンの設定温度を上げることができます。節電につながるので、ぜひ試してみてください。なお、扇風機でも代用できますが、扇風機は人があたることを目的に作られているので、風が弱めでサーキュレーターほど気流を作り出すことができません。扇風機の中でもサーキュレーターとして使えるパワフルなタイプもありますので、一年中エアコンと併用して使うのでしたら、そちらのタイプを選ぶようにしましょう。
もうひとつ、注目していただきたいのは「照明」です。現在販売されている中で省エネなのはLED照明ですが、まだ蛍光灯の照明を使っている方も多く、家庭内では電力消費を占める割合が高いと言われています。廊下のダウンライトなど、細かいところも含めて全部の部屋をLED電球に変えていくことで、月々の電気代も抑えることができます。意外にも消費電力が大きいものなので、家の中の照明を改めて見直してみてくださいね。
②おすすめの「生活を豊かにしてくれる家電5選」
ここ数年で特に注目されている家電をご紹介します。同じように見えても、10年前より使い勝手や性能が上がっているものもあります。「家事の手間を減らしたい」「健康的な毎日を送りたい」など、目的は使う人によってさまざま。ユニークな家電もたくさんあるので、ぜひチェックしてください。
1、調理家電
コロナ禍以降、大人気の電気圧力鍋や電気調理鍋です。短時間で作ることができるのはもちろん、材料と調味料さえ入れれば「ほったらかし」でできることがメリット。料理で大切なのは加熱のさじ加減ですが、設定さえすれば自動でコントロールしてくれるので失敗がありません。むしろ、自分で作るよりも美味しくできることもあり、手放せないという声もよく聞きます。圧力料理だけでなく、低温調理、炊飯、発酵、炒め物まで幅広くできる調理家電もあります。コロナ禍により、運動不足で太ってしまった……という方からは、ヘルシーなサラダチキンなどができる低温調理機能も人気となっています。
電気圧力鍋や電気調理鍋が人気。調理家電は時間も電力も節約できるものも!
2、ちょい足し調理家電
コロナ禍以降、特に売れたのが生活に潤いを与える家電です。
15万円以上もするコーヒーメーカーが飛ぶように売れました。カフェに行けなくなったことで売れたコーヒーメーカーは、ミル付きの本格的なものから、カセット式で一杯ずつ淹れられる手軽なタイプまでいろいろ発売されています。以前よりも選択肢が増え、コーヒーを抽出する技術も上がったので、最新式のコーヒーメーカーは香りがよく、至福の一杯を楽しめます。
コロナ禍でおうち時間を楽しむコーヒーメーカーが人気に
コロナ禍になる前までは家庭の中で登場の頻度が少なくなってきていたホームベーカリーも再び注目されています。焼きたてのパンを食べることができるので、パン好きにはたまらない家電ですが、最新モデルは全粒粉パンやブランパンなどのヘルシーパンを作ることもできるので、「パンは好きだけれど、糖質などが気になる」という方も購入されています。
また、テーブルで楽しく家族で調理できるホットプレートも人気です。一人用のコンパクトなホットプレートは、そのままテーブルでお皿としても使えるので、洗い物を減らすことができます。
3、クリーン家電
在宅時間が増えてから、ゴミを見つけたときにパッとこまめに掃除する方が増えています。これまでは週末などにまとめて掃除をするので、ある程度重くても吸引力を重視する方が多かったのですが、ユーザーのニーズも変わってきました。今はサッと掃除できる、コードレスタイプの軽い掃除機が人気です。見つけたときにすぐに手にとることができ、置きっぱなしでも部屋のインテリアを邪魔しないスタイリッシュなデザインのクリーナーも続々登場しています。
空気清浄機も注目されています。空気清浄機の売上はずっと横ばいでしたが、コロナ禍以降は部屋の空気環境を整えるために、取り入れる方も増えています。適用畳数の表示がありますが、実際の部屋よりも大きいタイプ(2倍ほど)を購入するようにしましょう。スピーディに吸引できますので、ホコリや花粉などをしっかりキャッチできます。
4、最新の大容量冷蔵庫
冷蔵庫の性能がアップしていることは➀でも紹介しましたが、最新の大容量冷蔵庫は便利かつオトクです。資源エネルギー庁の資料によると、今どきの冷蔵庫は10年前と比べると約40〜47%の省エネに。10年以上前の古い冷蔵庫を使っている方は、最新モデルに買い換えれば消費電力を抑えることができます。また、断熱材が薄くなり、モーターなども小さくなっていますので、10年前と同じサイズでも内容量は大きくなっています。たくさんまとめ買いしてもたっぷり入るので安心です。
なかなか買い換えが難しい大型家電。久しぶりに買い換えたら、その進化に驚くかも…!?
5、大型テレビ
コロナ禍前まではスマートフォンなどで動画などを楽しむ方が多かったのですが、在宅時間が増えるようになり、せっかくなら大画面で楽しみたいという方が増え、テレビも売れています。
最近、特に人気なのはネット配信動画が見られるテレビです。ネット配信動画を補正する機能や、リモコンにネット配信用のボタンがあってすぐに切り替えられるタイプが人気となっています。
③自分に必要な家電を見極めるために
ここ数年で家電業界もサブスクリプションやレンタルサービスが急増していますので、そういったサービスの利用もおすすめです。せっかく欲しいものがあっても、特に高額な家電は躊躇することがありますよね。もし目的のものが借りられそうであれば、購入する前に、一度借りてみることをおすすめします。
******
さまざまな用途・種類の家電が販売される昨今。そのバリエーションと性能の進化はめざましく、自分の生活に取り入れたら、地球に優しく、かつ快適だったり楽しみが生まれたりする豊かな時間が過ごせるかも。もし試してみたい場合は石井さんおすすめの「おためし」で、一度借りてみると「せっかく買ったのに……」という失敗や無駄がなくなりそうです。かしこくスマートに、電気ライフを楽しみたいですね。
石井和美(いしい かずみ)
フリーライター/家電プロレビュアー。
白物家電や日用品などを中心に製品レビューをテレビ・ラジオ・雑誌・WEBなど各メディアで紹介・解説。レビュー歴15年以上。茨城県守谷市に家電をレビューするための一戸建てタイプ「家電ラボ」を開設し、冷蔵庫や洗濯機などの大型家電のテストを行っている。ライター、家電コメンテーター、家電コンサルタントなども。
【WEBページ】家電ラボhttps://kaden-blog.net/
【Twitter】https://twitter.com/kazumi123
★さらに節電情報について知りたい方はこちら!
瀬戸内の島々を自転車で巡る、しまなみ海道サイクリングの起点・終点として多くの人が訪れる広島県尾道市。実はかつてアサリの名産地だったこの街で今、石炭灰の力でアサリを復活させようという新たな試みが進んでいます。中国電力も協力するこの取り組みは、成功すれば再び美味しいアサリがたくさん採れるようになるのはもちろん、ひいては地球環境を守ることにもつながるのだとか。壮大なプロジェクトの中身と現状、未来への希望をご紹介します。
実は尾道名物だったアサリ
広島県東部に位置し、瀬戸内海に面して広がる温暖な港町・尾道。
風光明媚な街並みや数々の歴史ある寺社巡りが楽しめるほか、瀬戸内しまなみ海道の玄関口としても多くの観光客やサイクリストでにぎわう街です。
そんな尾道で今注目を集めているのが、アサリの産地復活を目指した実証試験です。
瀬戸内海に浮かぶ向島との間に尾道水道が流れる光景は、この地ならでは
尾道市東部の干潟で実証試験が行われている
尾道は昔アサリの一大産地であった歴史があり、住民にとってアサリはその時期になればいくらでも採れる、身近な海産物の一つでした。
農家でも仕事の合間、潮が引いたタイミングでサッとアサリを掘りに行っては日中砂抜きをし、そのまま夕飯のおかずにするというのが日常だったのだとか。
昔は尾道で身近な海産物だったアサリ(写真はイメージ)
そのため定番のアサリ汁に加えて、アサリ飯やから揚げにアレンジしたり、贅沢に巻きずしの具に使ったり。
豊富に採れるからこそさまざまな食べ方で楽しめる、豊かな食文化が育まれてきました。
アサリを贅沢に使ったアサリ飯、アサリ汁、アサリのから揚げ
特に尾道のアサリは、殻に厚みがあって身は白く大きく、旨みたっぷり。
初めて食べた人は、「アサリってこんなに美味しいものだったんだ!?」と衝撃を受けるといいます。
大きくプリプリの身の美味しさをダイレクトに楽しめるから揚げ
しかし、海の栄養素不足や、海水温上昇による天敵の増加など、近年の環境変化により尾道で採れるアサリの量は激減。1988年の漁獲量は約1750トンであったのに対し、2018年には約4トンまで落ち込んでいます。
気軽に手に入らなくなったことで、家庭の日常からアサリは姿を消すことに。今の子どもたちは地元産のアサリの美味しさを知らずに育っているという現実があります。
そこで2020年11月、再びアサリの街・尾道を取り戻そうという新たな取り組みがスタート。
地元漁協などで構成する松永湾水産振興協議会を主体に、尾道市、広島大学、中国電力の産官学連携で、アサリを中心とした生態系の回復へ向けた実証試験が始まったのです。
アサリ復活のカギは石炭灰!?
実証試験の舞台となるのは、東尾道に位置する松永湾の干潟。ここに「Hi(ハイ)ビーズ」という直径1~2センチメートルの粒を散布して、経過を観察しています。
Hiビーズを散布した際の様子
干潟にHiビーズを敷き詰める
Hiビーズは、中国電力の石炭火力発電所で発生する石炭灰に、少量のセメントと水を加えて固めたものです。
石炭灰に含まれるカルシウムやミネラルの作用によって、海や河川の悪臭の原因となる硫化水素を吸収する効果や、赤潮を引き起こす窒素、リンの発生を抑える特性があり、各地でヘドロの改良や水質改善に役立てられているほか、これまでの同社の実験を通じて、アサリの生育に良い影響を及ぼすこともすでに実証されていました。
しかも、同社から出る石炭灰は、その99%以上がHiビーズをはじめとした土木資源などにリサイクルされています。
石炭は植物の化石。それを燃やした後に生じる石炭灰は、自然にも安心して使える素材なんです。
石炭(左)を燃やして生じた石炭灰(フライアッシュ。右)を固めてできるのが「Hiビーズ」(中央)
今回のプロジェクトの調査・分析を担当した広島大学によると、Hiビーズにはこうした海の土壌改良に加え、石炭灰に含まれる栄養素やミネラルの供給によってアサリの餌となる細かな藻類を繁殖させる効果があることが改めて確認されました。
さらに、ある程度の厚さで敷設されたHiビーズは、チヌやナルトビエイといったアサリを餌とする天敵から物理的に身を守る、食害防止の効果も高いのだとか。
これらの効果によって、現地の環境は劇的に改善。アサリが全くいないゼロからのスタートだったにも関わらず、今では着実に成長した個体がいくつも確認されています。
試験場となっている松永湾の干潟。赤く囲まれている付近にHiビーズが散布されている
中国電力 電源事業本部 石炭灰有効活用グループの井上智子さんは、「これまでHiビーズは各地の海や川で成果を出してきましたが、その延長として今回アサリ復活のお手伝いをできることをうれしく思っています」と笑顔。
一方、尾道市 産業部 農林水産課の山田学さんは「これまで漁業者の皆さんがアサリの復活のために、干潟の耕運や保護用の網掛けなどを行ってきましたが、その成果を高めるためには、大変な労力が必要です。そのような中で今回、敷設するだけで食害防止や土壌改善の効果がある新しい技術を投入したとあって、地元の関心は非常に高いです」と話します。
プロジェクトに共同で取り組む尾道市の山田さん(左)と中国電力の井上さん(右)
「現状、2021年6月と12月に実施した調査では、アサリの個体数が増えたり、水質が改善するなどの効果が確認できており、2022年の調査結果にもさらに期待を寄せています。漁協の方々が主体のプロジェクトですが、市としても引き続き積極的にバックアップしていきたいです」(山田さん)
注目のブルーカーボン効果。アサリを守れば、人も地球も守れる
尾道産のアサリの復活。それは地元漁業関係者の悲願であり、市民にとっても美味しいアサリが食べられるようになることは非常に喜ばしいことです。
さらに十分な量が採れるようになれば、アサリを使った郷土料理の数々を名物グルメとして打ち出すことも可能になります。
アサリ料理という魅力が加われば、尾道の飲食業や観光業はさらに盛り上がることでしょう。
実証試験の結果、着実に個体数を増やしている松永湾のアサリ
サポートする市の代表、平谷祐宏(ひらたに・ゆうこう)市長もアサリへの想いはひとしおです。
「私が子どもの頃は、潮が引いたら海へ行ってアサリを採るのが日課でした。掘るというよりは拾うぐらいの感覚で、そこら中にアサリがいたんです。しかも、尾道のアサリは本当に美味しい。だから、皆さんと協力して絶対にアサリを復活させるぞ! という意気込みです。これはアサリ王国・尾道を実現する、アサリ大作戦なんですよ」
尾道の島で生まれ育ち、アサリ愛の深い平谷祐宏市長
また、アサリ復活の取り組みは、脱炭素社会実現の観点からも有益なアクションだといえます。
それは2009年10月、国連環境計画(UNEP)の報告書で、海藻などの生態系の作用によって海中に蓄積される炭素が「ブルーカーボン」と命名され、二酸化炭素(CO2)を吸収する新しい選択肢として提示されたことによります。
干潟にHiビーズを敷くと、その表面が海藻類で覆われます。そして光合成によって二酸化炭素を吸収することで海底に炭素が固定され、「ブルーカーボン効果」を発揮するのです。
「アサリの復活を目指す中でブルーカーボン効果が生まれ、脱炭素社会の実現につながるのは、尾道ならではのスタイル。また、豊かな海が戻ればアサリ以外の魚種も増えるでしょうし、そうすれば漁業も活気づいてさらに街が潤います。尾道に暮らす人にも、尾道を訪れる人にもうれしく、そして地球環境にも優しい。そんな明るい未来を目指して、地元漁協や中国電力さんをはじめ、ぜひ皆さんで力を合わせて一つの成功モデルを作っていきたいですね」(平谷市長)
「さまざまな人たちの力を結集しながらチームとして挑戦を続け、魅力ある尾道を作っていきましょう!」と団結
火力発電所で出た石炭灰を再利用し、アサリを復活させる。たくさん採れるようになったアサリが市民や観光客の楽しみを増やし、街が活性化する。さらに環境問題の解決にもつながるという壮大なプロジェクト。まさに幸せの循環であるこの輪が、今後ますます大きく広がっていくことに期待が高まります。
地元を想う人たちが手を取り合って、魅力あふれる街に進化し続ける尾道市に、皆さんも遊びに行ってみてはいかがでしょうか。
■DATA
東尾道地区におけるHiビーズ実証試験
尾道市
https://www.city.onomichi.hiroshima.jp/
中国電力 灰カラ三姉妹(石炭灰製品)特設サイト
https://www.energia.co.jp/business/sekitanbai/index.html
関連記事>>【インタビュー】「石炭灰を使った製品開発・用途拡大に貢献し、より高いレベルの業務に」中国電力・立花美咲さん
<貢献する主なSDGsの目標>
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
【今月の密着人】原子力発電環境整備機構(NUMO) 広報部 小沢愛恵(28歳)
原子力発電を利用することで発生する、いわゆる「核のごみ」と呼ばれる高レベル放射性廃棄物の最終処分事業を担う原子力発電環境整備機構(以下、NUMO)。そこで「高レベル放射性廃棄物とは何か?」「地層処分とは何か?」を子どもから大人まで広く知ってもらうため、ジオ・ラボ号という展示車両を活用し、全国各地をめぐる広報部の小沢愛恵さんに、誕生の背景や仕事への想いを聞きました。
地層処分をわかりやすく教えてくれるジオ・ラボ号誕生
高レベル放射性廃棄物の存在や、その処分方法を多くの人たちに伝えるため、2013年からジオ・ミライ号という地層処分模型展示車が全国を回っていました。しかし、老朽化に加え、手で触れる展示方法や見学時間の長さから、コロナ禍の影響を受けて引退。新たに2021年11月にデビューしたのが「ジオ・ラボ号」です。
地層処分とは高レベル放射性廃棄物を地下深くに埋めて処分する方法のこと。現在、北海道の寿都町(すっつちょう)・神恵内村(かもえないむら)で地層処分場の選定に向けた調査が進められています。この地層処分の事業を、日本で唯一担っているのがNUMOなのです。
つまりジオ・ラボ号は、日本唯一の地層処分を伝える展示車。広報部の小沢愛恵さんは4~5人のメンバーと一緒に、全国をめぐっています。
小沢さん「ジオ・ラボ号の中に入ると、大画面で見るアニメと壁面展示が見学できます。地表から地下300メートル以上深いところに建設する高レベル放射性廃棄物の処分場とはどんなものなのか、放射性物質を長期間閉じ込めておける地下の特性とは何かを、わかっていただけるようなつくりにしているんです」
ジオ・ラボ号の展示スペースはあえて薄暗く、壁面は地層のようなデザインにしています。室内に入ると没入感が生まれるようで、子どもたちから「おお~!」という歓声が上がることもあるとか。
ただ、新型コロナウイルスの感染対策で車内での滞在時間を短くしたため、デビュー当初は伝えたいことがしっかりと伝わるかどうか不安もあったそうです。
小沢さん「もともとジオ・ミライ号では見学に20分ほどかかっていましたが、情報量をギュッと圧縮しましたし、内容も難しいので本当に伝わるのか不安もありました。でも、あるご家族が壁面展示を熱心に読んでいる姿を見ていたら、これで大丈夫だと確信しましたね。ジオ・ミライ号は今のご時世に合わせて世代交代。10年近く働いてもらって本当に感謝しています」
子どもから大人まで。教えるたびに教えられる日々
NUMOの広報部はジオ・ラボ号と全国をめぐるほか、イベントやお祭り、ショッピングモールにブースを出展するなど、地層処分の説明を各地で行っています。さまざまなイベントに参加する中で、ものすごく詳しい子どもに会ったことがあるそうです。
小沢さん「正直ビックリしてしまって。家族で地層処分について会話すると聞いて、さらに驚きました。私は就職活動のときに初めてこの問題の存在を知ったくらいですし、そのときでも話題にしたかどうか。難しい話だからといって避けるのではなく、家族で話をする。本当にすごいなと思いました。私の方が知らなかったらどうしようって、ちょっと焦りもありましたね」
イベントに出展すると、「問題なのはわかるけれど、どうすればいいのかわからない」「必要だと思うけれど、地層処分場を家の近くに造ってほしくない」など、賛成でも反対でもない意見を多く聞くそうです。
小沢さん「あるときに、少し長くお話をさせていただいた方がいました。私の説明を聞きながら、その方も自分が思うことをたくさん話してくれて。最後に『少しずつでも地層処分のことを知っていただいて、多くの方からご意見をいただくことが大切なんですよね』とお話ししたら、『そういう考え方もあるよね』と。納得した感じではなかったのですが、その時に、互いに思ってることを話して、互いに聞くことは、ものすごく大切なことなんだなと実感しました」
まずは「地層処分」という言葉を覚えてもらいたい。頭の片隅にでも残してもらえたなら、インターネットやテレビ、新聞で見たときに少し気にしたり、自分から情報をキャッチしてみたりしてほしい。そうしたアクションを少しでもとってもらえたら、と小沢さんはイベントのときに考えているそうです。
小沢さん「自分から情報発信をするところまで進んでもらえたらなんて、なかなか難しいですよね。地層処分に関わることは、詳しい人だけで進めていい話ではないと思いますし、この問題については1人でも知っている人が増えることこそ重要なんです。私たちの活動を通じて、知るきっかけになれればうれしいですね」
地層処分を知らない人たちの橋渡しに
地層処分への理解を少しでも広げようと、日々活動を続けている小沢さんですが、学生時代からエネルギー業界を目指していたわけではありません。就職活動の時期に、両親から教えてもらったことが直接のきっかけだったそうです。
小沢さん「詳しく知らないまま就職説明会へ行き、『高レベル放射性廃棄物』や『地層処分』の話を聞いたとき、友達との会話で一回も出たことがないことに気が付いたんです。こんな大事な話なのに、私の周りには知ってる人がいないかも! この問題が世の中にまったく浸透していない!! と強く感じました」
自分自身がまったく知らなかったことを、同じように知らない人たちに伝えられる橋渡しになりたいと、進むべき道を決めました。もちろん今も当時抱いた想いは変わりません。ただ、説明会で抱いた危機感は、使命感に変わりました。
小沢さん「『日本で唯一、NUMOだけが担う事業』。就職活動時の説明会で聞いた言葉です。今、イベントなどでご意見を頂戴するたびに、その使命や責任の重さをひしひしと感じています」
時には美容メーカーなどが出展する女性向けのイベントに出展することもあるそうです。地層処分というテーマはその会場ではやや異色ではあったものの、参加者がアンケートでNUMOの出展内容について回答してくれたことがありました。
小沢さん「『説明を聞いたことが、地層処分に関するテレビ番組を見るきっかけになった』と回答してくれたんです。ああ、よかったと思いました。最近ではニュースで見聞きする機会もあり、言葉を知っている方は増えてきたのかなって印象があります。私たちにとって、それはすごく大きな一歩なんです。賛成や反対の意見を持つのはその先でもいい。まずは少しだけでも知っていただきたいんです」
地層処分は、「100年事業」とも呼ばれるほど時間のかかるもの。次の世代、その次の世代も必ず知っておかなければなりません。
小沢さん「より多くの世代の方に、より多く知ってもらうことが重要なんです。既にある問題であり、処分はどうしても必要なこと。この2つを必ずお伝えするよう気を付けています。地層処分の問題が遠い将来の話ではないことに、気が付いていただけるように。それが説明をする者として、重要な任務の1つなのかなと思っています」
■原子力発電環境整備機構(NUMO)
https://www.numo.or.jp/
【今月の密着人】中国電力株式会社 島根原子力発電所 保修部 岡田誠さん(33歳)
カーボンニュートラルを目指す時代に、発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しない発電方法の一つとして、原子力発電があります。今回スポットを当てるのは、そんな原子力発電所を安全に運営するために重要な役割を果たす「保修」のお仕事。設備の保守点検から耐震補強の工事まで幅広く担当する中国電力の岡田誠さんに、安全への強い意識とその背景にある願いを伺いました。
大きな地震にも耐えられる発電所に
島根県松江市にある島根原子力発電所に勤務する岡田さんは、発電所の安全運営に欠かせない施設保安などの仕事を担っています。再稼働に向けた準備を進める2号機に関わる設備の保守点検や耐震補強工事などについて、計画策定から現場管理までを行っています。
岡田さん「私が担当している設備の一つに、原子炉から発電用のタービンへと蒸気を送る配管があります。配管の外部から超音波でひびがないかを確かめたり、バルブ(弁)を取り外して数十個のパーツに分解したうえで劣化や損傷がないかを細かく確認したり。防護服を着て配管内部に入り、目視点検もします。定期的な点検だけでもたくさんあるので、地道な作業が多いですね」
点検する設備は巨大で大掛かりなものも多く、一人ではできません。
岡田さん「計画策定から点検完了まで数カ月を要することも。社内の関連部署や作業を担当する協力会社とスケジュールを緻密に調整しながら進めていかなくてはなりません。これがなかなか大変なんです」
特に2013年から行っている耐震補強工事は、発電所の安全性に大きく関わるプロジェクト。調査段階から慎重を期しました。
岡田さん「たとえ発電所直下で地震が起きたとしても、建物が損壊しないようにする必要があります。そのため、まずは発電所周辺の地震の形跡を12~13万年前までさかのぼるなど、時間をかけて調査が行われました。この地盤で起こりうると考えられる最大の地震にも耐えられるように補強を施しています」
万全な安全対策を積み重ねる
常に緊張感を保ちながら仕事に当たる岡田さんですが、その意識をさらに強くしたのが2016年の冬のことでした。
2号機の中央制御室につながる空調ダクトに穴が見つかったのです。この中央制御室は、24時間体制で発電所の状態を監視する重要な施設の一つで、徹底的な原因究明と対策が必要です。
岡田さん「穴の原因は、結露や塩害による腐食ではないかと推定しました。起こったことは真摯に受け止め、二度と同じことを発生させないためすぐに動きました。プラントメーカーの担当者と対策案を連日連夜話し合い、ダクトの形状や材質などを変更して取り替え。さらに、従来とは違う角度から目視点検ができるように新たな点検口を増設したうえで、点検回数を増やすなど二重三重の対策を徹底しました」
一連の対応には大きな苦労が伴いましたが、「地域の皆さんにご心配をおかけしないためにも、安全性を高めていかなくてはいけない」と、改めて強く決意したといいます。
岡田さん「あらゆるリスクを想定し続け、思い込みや先入観にとらわれない柔軟な姿勢で安全性を追求しつづけなければなりません。私が受け持つ仕事の一つ一つに地域の皆さんの暮らしがかかっているという責任の重さを忘れてはいけないと考えています」
友人、震災、東南アジアを通じて考え続けた原子力発電
エネルギー分野に興味を持ち始めたのは高校時代からと、若くして視座の高さが伺える岡田さん。とはいえその一歩目は、当時の友人の影響が大きいそうです。
岡田さん「酸性雨や地球温暖化などは教科書でも見るほど、当時も社会的に関心の高い問題でした。その中で、再生可能エネルギーや原子力発電がCO2を出さないクリーンなエネルギーとして注目されていて、興味を抱いたのが原点です。ただ、当時親しかった友達が地球環境問題への意識がものすごく高く、だいぶ影響されたのもあります(笑)」
その後、大学で原子力について学びました。東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故が発生したのはそのころです。
岡田さん「研究室の教授たちから、原子力発電所の徹底した安全対策について聞いていたぶん、衝撃を受けました。その後、国内で原子力が止まっていても停電は起きないし、当時は正直、このままなくしても大丈夫なんじゃないのかなと考えていました」
ところがその秋、ベトナムやカンボジア、タイなどを旅行した際に、その考えが一変することになります。
岡田さん「電力の供給がとにかく不安定だったんです。すぐに停電しますし、その影響で生活するのがとても不便。何よりも、当時は地球温暖化の影響から年々豪雨による洪水被害の規模が大きくなっていたころです。東南アジアの暮らしを目の当たりにして、生きること自体の存続が危ぶまれている場所があるという現実に、もう一度原子力発電の必要性を見つめなおしたんです」
岡田さんは中国電力に入社して以降、「発電所の安全性向上に貢献したい」という思いから、平日は3時間、休日は8時間ほどの猛勉強を続け、原子炉の運転に関して保安の監督を行う「原子炉主任技術者」などの難関資格を取得しました。
より安全な発電所運営に生かしていくため、引き続き、他の資格取得に向け、勉強に励んでいます。
岡田さん「地域の皆さんが安心できる島根原子力発電所であるよう、頑張りたいんです。それに、石油などの化石燃料に依存しすぎるシステムはよくありません。万一調達できなくなれば、エネルギーどころか、身の回りのものまで作れなくなってしまう。次世代のために、自分にできることを精一杯続けていきたいです」
増設した点検口
■中国電力-島根原子力発電所
https://www.energia.co.jp/atom_info/shimane/
■島根原子力発電所 特設サイト
https://www.energia.co.jp/atom/mukiau/index.html
阪神・淡路大震災で実家が全壊した経験がある辻直美さんは災害救助に目覚めて、さまざまな被災地へ向かうレスキューナースとして活動するようになりました。『レスキューナースが教えるプチプラ防災』(扶桑社)や『保存版 防災ハンドメイド 100均グッズで作れちゃう!』(KADOKAWA)といった防災の指南書籍も出されています。
今回は辻さんに、地震に対して、防災全般についてアツく語っていただきました。
******
国際災害レスキューナース、まぁるい抱っこマイスター、一般社団法人育母塾 代表理事の辻直美さん
災害に備える準備の最初のステップは「自分の欲を知ること」?
――本日はよろしくお願いいたします。まずお聞きしたいのが、災害に備えるために、最初は何から始めたらいいのでしょうか、ということ。いわゆる防災グッズを用意はしていますが……。
なるほど、防災グッズ、そろえたくなりますよね……。ここで知ってほしいのが「何のために防災をするのか?」なんです。実は防災は、“被災して生きのびた後、復興して元の生活に戻るためのもの”なんです。防災という言葉からは「災害を防ぐ」イメージが湧くかもしれません。確かにまず生きのびるための備えではあります。ただ自然災害、特に地震は防ぎようがない、防災=被災ゼロにはならないのです。そして生き残ることを考えると、災害にあったその瞬間を生き残ればいい、というわけではありません。被災してもなるべく早く日常生活に近づける、そして元の生活に戻していくことが大切です。
「心構え」に聞こえるかもしれません。“あなたが生活で何を重要に思っているのかを考える”ことは、被災後の生活において重要な要素になります。この心構えがあるのとないのでは、それから先の行動が変わります。やみくもにグッズを買いそろえなくなり、あなたのしたい生活を守るため、戻すために、何が必要かを判断できるようになります。ではまず、あなたにとって一番優先したいものは何でしょうか。大きく分けて「食欲」「睡眠欲」「清潔欲」という3つから選んでみてください。
被災すると一気に非日常になります。だからこそ自分の欲求をかなえないと、がんばって片づけや自分の生活を立て直せない。だから何に対しての欲求が強いのか、自分と向きあうことが大切です。
あなたが「食欲」を重視しているとしたら、毎日飽きないように別のものが食べたいのか、同じものを毎日食べていても大丈夫なのかなどを考えます。そこで初めてあなたが何を備蓄しておくべきかが分かります。同じものが無理な人はバラエティに富んだ食料の備蓄が必要です。これはぜいたくではないのです。私は訓練しているので、同じものを食べ続けてもどこで寝ても大丈夫。しかし、「自分から“人が体を洗っていない時の臭い”がする」のが耐えられないと自覚しています。そして、お風呂に入らなくても、脇下・胸、デリケートゾーン、足を拭いておけば臭いはしないため、拭き取りシートをたくさん常備しています。
拭き取りシートは、100円ショップやいろいろなメーカーの商品の中でノンアルコールや赤ちゃん用のものなど、普段から試して自分の肌が荒れないものを厳選しています。部位別でも違うので、私の防災リュックの中は、拭き取りシートの精鋭たちが入っている。私はこれで、不安なく生きていけると安心できるんです。
このように私と皆さんのリュックの中身は違っていて、家族の中でもパパとママのリュックの中身が違うことがあるでしょう。防災リュックは1人に1つが必須です。ぜひ皆さんの防災リュックの中身を見直してくださいね。
『レスキューナースが教える プチプラ防災』より、非常持ち出し袋の中身一例
防災グッズや備蓄食料の状態チェックを忘れないための方法
――なるほど、それでいくと私は「食」派かもしれません。自分が被災したらどうなるかを考えて、必要な防災グッズをセレクトし直してみなければいけませんね……。さらに必要なアイテムを集めてからやるべきことがあると聞きました。
はい。こうして防災リュックに詰めたグッズを、普段使いしてほしい。日常生活の中で防災リュックが特別にならないでほしいんです。防災グッズを集めるだけでは意味がない。自分が万が一の状況に陥った後、生きていくために絶対必要なものが入っているのが防災リュックです。それなのに何年ごとにしかチェックしない、使い方も分かっていない、自分の欲求にも合っていないとしたら……。
大抵は、備蓄食料は3年とか5年とか長期保存できるものがほとんどですね。ただ、長すぎて消費期限を忘れがちです。ライトやラジオの電池はどうでしょう? スイッチを入れて動作するでしょうか。漏電や放電しているかもしれません。モバイルバッテリーなどは小まめに充電しないと、突然必要になった時に使えない場合、本当に困ります。
私は日常生活で困ったら、防災リュックから出して使うようにしています。ちょっと指を切ったら、リュックの中から絆創膏を出す。食事をレトルトで済まそうという時には、リュックからカレーを出す。リュックの中の在庫の定数が減ったら補充します。防災リュックは私の“ファーストエイド”なんです。
毎日触って毎日使うと不足も分かるし、在庫を入れ替えるから常にフレッシュな状態を保っています。防災リュックは私を絶対助けてくれるっていう安心感そのもの。これがあるから生きていける、と言っても過言ではありません。使ったことがないグッズや、知らない味の食料が入っている防災セットが役に立つとは思えません。
私は災害用トイレとして、ペット用のシーツとコンビニ袋とゴミ袋を複数セットにして小さなポーチに入れ、マルチツールといっしょに、どこへ行くにも必ず携帯しています。外出時に被災して、電気や水道が止まれば外でトイレが必要になると想像できるからです。
実は最近役に立ったんですよ。このポーチをゴミ出しに行く時にも持ち歩いているんですが、ある日のゴミ出しの帰り、マンションのエレベーターに乗っていると突然停止してしまって……。小さい子どもとそのお母さんも一緒に閉じ込められ、そこからなんと3時間も出られなかったんです。出られない緊張でお子さんがトイレにいきたくなってしまって、「ママ、トイレ……!」と。そこで「使って」とこのセットをサッと渡しました。お母さんには驚かれつつ喜ばれましたね。災害時もきっと同じようなことがあるでしょう。尿意は恐怖による緊張で、普段よりもよおすと言われています。
家の防災強化で生活が爆上がりする理由
――実際私も備蓄食料を期限切れにした経験があり……。初めて使うもの入っていますし、できる限りやってみようと思いました。次に自宅の備えについてもお話しいただけますでしょうか。
防災アイテムを常に触ったり普段から使ったりすると生活、QOL(クオリティオブライフ)が爆上がりします。だからやってみてほしいですね。自宅の備えは、まず自分がどのように被災するのかを調べておく必要があります。
家で普段いる場所を、360度見回してください。上、目の高さ、下を3回見て周りの危険を確認します。地震の時、ものは4つの動きをします。「倒れる」「落ちる」「移動する」「飛ぶ」です。これらの動きをしそうなものは、必ずあなたを傷つけます。つっかえ棒やすべり止めシート、地震耐震板などを組み合わせてものが動かないように備える。全部しっかりしたものを買ってお金をかけるのが必要なわけではなく、100均などのプチプラのものなどを織り交ぜながら、備えていきます。
【YouTube】プチプラ防災LABOちゃんねる【災害レスキューナースのテク】震度6以上の地震が家の中は起きたらどうなるの?
自宅でどういう被災をするのか、被災後の生活を詳しく知るために、私が秀逸だと思うWebサイトをご紹介します。「地震10秒診断」は地震にあう確率はもちろん、ライフラインの復旧までにかかる時間の目安が分かります。もうひとつは「東京備蓄ナビ」。こちらは建物別と、自分の属性と、一緒に住んでいる家族の属性に合わせた最低限の食料などの備蓄を示してくれます。これらで分かるのは最低限の目安。これはあなたの好みに合わせた備蓄ではありません。このリストを元に、自分の欲求とともに、備蓄するアイテムの量を考えようということ。
危険を知る、被災時の動きを決める。その上でいわゆる家具の固定や、棚の中身が飛びださないための備えを考えます。ちなみに皆さん食器棚はどうなっていますか? 意外と上部に重たいものを置いていませんか? たまにしか使わないホットプレートや土鍋、引き出物でいただいた大皿、そして来客用のティーセットや、おそろいのきれいな食器などなど……。対策せずにそれらが棚の上部にあったら、いざというとき頭の上に降ってくることをイメージしてみてください。
レスキューナースが教える プチプラ防災』より、2018年、震度6弱を記録した大阪北部地震後のようす。上が対策なしの隣家のキッチン、下が対策していた辻さんの家のキッチン。
手が届きにくい上のほうに置くのは、使わないからです。コロナ禍で踏ん切りがついて、私は上に置くようなら捨てようとある時思いました。今のご時世で自宅に気がねなく呼べる人って、バラバラのマグカップでも楽しくお茶できる人じゃないかって。ティーセットを使うようなお客さまは、コロナ禍で一切来なくなりました。というか、よくよく考えるとその前もそんなに使うことはなかったかもしれないと。だからしまっておくお客さん用のいい食器をなくす……というか、普段使いすることにしました。
そうしたら、生活が爆上がりしました。普通の食事でも目玉焼きがお洒落に、映えるようになりました(笑)。まさに防災を取り入れたら、気分と日常の質が高まったんです。
防災を極めると味気ない生活になるなんてことはありません。まず日々の生活を楽しみましょう。いざという時にも、防災によって楽しかった日常にすぐ戻ろうとふんばれるんじゃないでしょうか。
もちろん電気は命綱、マルチなアイテムで備えは万全に
――各地で日々、地震が起きていて、場合によっては停電などもあります。電気にかかわる部分でのお話も伺えますか。
電気がなかったらどんな生活になるのか、実際に被災しないと分からないのが実情です。たとえばマンションは水を電気で組み上げています。つまり停電したら水を飲めないし料理ができないのは当然で、トイレもお風呂も無理なんです。エレベーターは動かなければ階段を使わざるをえない。買い物した荷物を持って上がってみないと大変さは分かりません。被災後の片づけも部屋の中で何かあれば、ゴミなどを抱えて階段を降りるわけです。危ないですよ。被災後に電気が止まるとこれだけの困難が降りかかります、しかし多くの人の頭の中で停電とイコールにはなってないのです。
また停電自体イメージが湧かないかもしれない。ということで、先日実験をやりました。そうしたら参加者さんは、真っ暗にしてから懐中電灯を探してスイッチを押すまでに10分かかったんです。まず見えない、転んで危ない、ぶつかってものが落ちて足元はグチャグチャになる。そして先ほど言ったように、触って使ったことがないから、懐中電灯のスイッチは押すのかスライドさせるかも分からない。
だから触って使っておく必要があります。もちろん電池の状態の確認も必要。停電になってから液漏れに気づくのでは遅い。いざ停電で明かりが使えないのは、それこそ命にかかわります。
私は普段からソーラーモバイルバッテリーを使ってスマートフォンを充電しています。バッテリーが満タンなら、何パーセント充電できるか、どのくらいの時間がかかるのか、知っておきたいからです。私の防災用のラジオはソーラー充電も可能で、モバイルバッテリーとしても使えるスグレモノ。これを朝から窓際に出して、充電しておくのが日課です。また懐中電灯もモバイルバッテリー機能が付いていて、ランタンとして置いても使えます。こういった1台3役のような、マルチに使えるアイテムは重要。防災リュックのスペースを減らしてくれますし、自宅でものを増やしすぎずに済むのもポイントです。
【YouTube】プチプラ防災LABOちゃんねる【災害レスキューナースのテク】【備蓄】ライフラインが切れた時ホントに欲しいモノは?
被災は自分事。その時は必ず決断を迫られると肝に命じておいて
――最後に読者の方へ、防災に関してメッセージをいただけますか。
まず誰でも被災者になりうるということ。私はレスキューナースとして、発災後48時間以内に現場へ行きますが、その時に皆さんが「準備しておけばよかった」「実感がないのに被災者認定されてびっくりした」と話すのをたくさん聞きました。そして被災後に必要とされるのは、決断する勇気です。行くのかとどまるのか。使うのか使わないのか。被災された方はこうも言います。「災害時ってこんなに決断を強いられるのか」と。次から次へ決めていかないと、前へ進まない。誰も決めてくれません。大変ななか、自分で決めないといけない。
じゃあ決める勇気を持つためにはどうしたらいいのか?それは、怖くなくなるまで準備をすることです。迷うのは怖いからで、恐怖を感じるのは準備が足りないということ。ただ、防災グッズを買ってきただけだと決断する勇気は持てないはず。だって使い方を知らないから、漠然とした不安感がある。だから実際に使ってほしい。
防災はわざわざしようとすると面倒かもしれない。ただ極めていくと日常生活が爆上がりします。日常生活を楽しくするために、防災も楽しくやってみてくださいね。
辻 直美(つじ・なおみ)
国際災害レスキューナース、まぁるい抱っこマイスター、一般社団法人育母塾 代表理事。
国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育をメインに行い、要請があれば被災地で活動を行っている。2022年(令和4年)4月で、看護師歴31年、災害レスキューナース歴27年。被災地派遣は国内29件、海外2件。
著書『どんなに泣いている子でも 3秒で泣き止み3分で寝る まぁるい抱っこ』(講談社)、『レスキューナースが教える プチプラ防災』(扶桑社)、『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』(扶桑社)、『防災クエスト』(著者:辻直美/絵:エイイチ/小学館)『保存版 防災ハンドメイド 100均グッズで作れちゃう!』(KADOKAWA)がある。
【WEBページ】https://ikubojuku.org/profile/
※辻直美の「辻」は「二点しんにょう」
取材・文=古林恭
★さらに災害の非常用電源としても役立つ電気自動車や災害時お役立ち情報について知りたい方はこちら!
『災害時には電動車が命綱に!?xEVの非常用電源としての活用法』(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)
「節電」「省エネ」に関心が高まる昨今。“地球環境のためにいいもの”“家計にも優しい”一方で、“個人でできることは限られていそう”なんてイメージを持っている人も多いかもしれません。とはいえ、現在の世界情勢からこの夏、エネルギー不足が懸念されているニュースを見て、少しドキッとした方もいるのではないでしょうか。先行きへの不安はどうしようもないけれど、せめて自分の足元では「節電」に心がけるなど、ちょっとだけでも地球の未来に貢献していきたい。そんな気持ちを具体的な一歩につなげるにはどうしたらいいでしょうか。そのヒントを求めて、『おいしい節電レシピ』(東洋経済新報社)の著書でもある日本料理界の重鎮・「分とく山」の野﨑洋光料理長に「節電レシピ、実践のコツ」をうかがいました。
*********************************
「分とく山」総料理長・野﨑洋光さん
スーパーは自宅の冷蔵庫!発想を転換して節約を楽しむ
――本日はどうぞ、よろしくお願いいたします。早速ですが、節電レシピについておうかがいできればと思います。『おいしい節電レシピ』は東日本大震災のあった2011年夏の出版でした。あの夏も節電が話題でしたね。
実は「節電レシピ」本の企画の話をもらったばかりのときは、ちょっとむっとしたんですよ。「こんな時期に商売なのか!?」って。そしたら編集者さんから「今年は夏に電気が使えなくなる可能性があるからやりたい」と説明されて、たしかにそれは大変だ、それじゃ、とやってみることにしたんです。とはいえなかなか発想がうかばなくてね。電気を使わないと考えると、夏場は食材を10%で塩蔵(10〜15%以上の濃度の塩で漬け、長期保存する貯蔵法)しなければならないし、缶詰を使うといってもなかなか……。そんな中であることに気がついたんです。「そうだ! スーパーがあるじゃないか」と。今は物流環境が整っていますから、スーパーを家の冷蔵庫代わりにして鮮度のいいものを買ってくればいいわけですよ。
サバの水煮缶を使った胡瓜と心太の酢の物
たとえばみなさんは、イワシやサバを煮る時に臭み抜きに生姜をいれますよね。でも今は冷蔵技術の向上や物流環境がよくなって、スーパーでは鮮度の悪い「臭いイワシ」なんて売っていません。それは50年前の話で、いってみればサバの味噌煮のレシピなんて100年前のものなわけですよ。そこまで仕事しなくても十分おいしい素材なのに、調理をしすぎてしまう。ホウレンソウだって茹でて粗熱とって生ぬるいうちに醤油をかければ絶品ですよ。お刺身だってそのまま出せるのに、鮮度のいい魚をワザワザつみれにするとか、どうも余計な仕事をしすぎているのかもしれない、と。今はそのままで美味しくいただけるすごい時代なんだと考えたら、実は節電はとても簡単です。
――まず「発想の転換」が大事なんですね。
そうです。もし省エネのためにあまり加熱時間を使いたくないと思うなら、たとえば調味料はみりんや酒はアルコールをとばさなきゃ美味しくないので、みりんの代わりに砂糖を使えばいい。あるいは煮込まなければいい。作ったものを冷蔵庫にいれずにその場で食べればいいし、そもそも食べられる分だけ買ってくればいいとか、いろいろ発想できるでしょう。だから考え方は普段の料理とあまり変わらないんです。
大事なのは「作るとき、楽しみながらやる」ことですね。“簡単に作ること”の美味しさを楽しむっていうのかな。たとえば卵かけご飯だって、全部入れると温度が下がって美味しくないから、黄身だけにしてみる。あつあつのご飯に黄身だけ入れたら半熟で火が通って美味しいですよ。僕は目玉焼きが好きなんですが、白身がしっとりして黄身が半分くらい固まる感じになったらご飯の上にのせて箸で刺します。そうすると黄身が広がって、そこに醤油たらしてネギやわさびを添えたらほんとに美味しくて、50円くらいで大満足です。ほかにも得意料理に「塩トマトご飯」がありますけど、トマトを切ってしょうがをみじんぎりにして塩だけまぶしてごはんの上にかけるだけで絶品ですよ。行儀悪いって言われるかもしれないけど、楽しめばいいんです。なにもプロのように、お店のようにしなくたっていい。作ってすぐ食べられる、試しながら食べられるとか、家庭には家庭の楽しみがあるんです。
機転をきかせて使い回す、素材のうまみを利用する
――たしかに手抜きやずぼらな感じを少し敬遠したり、「料理していない」と思われたくなくて、しっかりした「料理」と思うものをしていたり、わざわざ複雑にしていた、という面は心当たりがあるかもしれません。
じゃがいもだって塩胡椒だけでおいしいじゃないですか。ただ冷蔵庫に入れるとまずくなっちゃいます。ポテトサラダだって作りたてが一番おいしい。だったら冷蔵庫なんて使わないで、すぐに食べちゃえばいいんです。
あとはちょっと機転をきかせて使い回すことも大事です。缶詰の汁だって出汁にできるし、お湯だって使いまわせます。菜っ葉をゆでたり、肉を霜降りしたお湯でそのまま味噌汁を作ればいい。農薬のことで捨てたほうがいいときもありますが、基本は灰汁だけとれば旨味はそこに出ているので使えますよね。ただし青物を長く茹でてしまうと酸が出てしまいますから、ちょっと茹でたくらいにしておいてくださいね。食材のうまみを生かして省エネにすることが、今どきで進歩的なんじゃないかな。
牛肉の大和煮缶を使ったハヤシライス
――節電だけでなく、「もったいない」も減らせそうですね。
僕は煮魚は生のうちに塩で味をつけてから、醤油と水で冷たいうちから煮て沸騰したらもう加熱を止めてしまいます。煮汁はそのままそばつゆにもなります。魚から出汁がでるからそれでいいし、むしろ煮るとまずくなってしまうんです。ベーコンやソーセージからも出汁がでるし、素材自体がうまみを持ってるんだからそれを利用すればいい。おでんも煮ませんよ。練り製品は完成したものですし、大根や里芋は煮ますけど薄く切れば短時間ですみますよね。あと、トマトジュースも出汁になるって知ってましたか? ただし100%だと濃すぎるので、トマトジュース1杯に対して水を2杯いれてください。味は濃すぎるとうまみがでないって覚えておくと便利です。豆乳や牛乳も薄めると出汁になりますよ。味噌や醤油だって、ほとんどの人はただ塩気で味をつけるものだと思ってますが、大豆から作られているので、それ自体がうまみも含んでいるんです。だからごはんに直接醤油でもいいし、味噌のっけたってかまわない。シンプルなものでも、それこそがプロにはない家庭のおいしさだってことに気がついて、楽しんでほしいですね。
削るのではなく、代用することを考える。節電レシピは「生きる知恵」
――野﨑さんは節電レシピで、鍋でごはんを炊くことも推奨していらっしゃいますね。
いざというときのために、方法を覚えておくと、いろいろ応用が利きます。1回や2回失敗するかもしれませんが、慣れたら鍋で炊けるようになります。どんな鍋でもいいし、そんなに難しくないからやってみてほしいですね。鍋でごはんを炊くとおこげができますが、それはおじやにすればいいですし、フライパンだったらおこげ面が広くできますから、そのまま野菜とチーズ、ソースをかけたらピサだってできますよ。基本の「100度の温度で20分たたないとコメからごはんに変身できない」というのを覚えておけば、ビニール袋でだってお米は炊くことができます。ビニール袋で炊く方法は本でも紹介していますが、震災なんかのときは便利ですよね。皿がなくても一人分の分量にわけられるし、ポットの中に入れておいても炊けちゃいます。
とはいえ、実は僕、数年前に1万円しないくらいの安い炊飯器を買ったんですよ。なぜかというと、炊飯器の蓋に付いているカップみたいなものでご飯と一緒におかずを作れるからなんですが、これが便利で。さっきから節電、節電といってますが、同時調理もそうですよね。便利なものは使ったらいいんです。ただ、ジャーの中にごはんを入れたままにしておくと30分たったら風味が失われてしまうので、炊けたらすぐにあけるのは忘れないでくださいね。そして小分けにして冷凍、食べる時にチンする。これで十分、おいしいんです。
――電気も使い方次第なんですね。
そうです。瞬間的に作るならロスしないとか利点はたくさんありますよ。フードプロセッサーを使えば洗い物だって減りますし、便利なものは上手に利用すればいいんです。IHで揚げ物すると油が散らないからガスより片付けがラクですし、温度設定もできて失敗が少ないからロスも少なくて便利。しかもガスより火力が強くて、あっという間に沸騰しますしね。
――ストイックに考えすぎるより、柔軟に楽しむほうがよさそうですね。
「真剣に考える、だけどポジティブに楽しむ」のが節電だと思います。そうそう、昔の人はごはんを食べたらお茶碗にお茶を入れていたのを知ってますか? 水を使うと環境を汚すから、お茶でそそげば洗剤も使わないというすごい知恵で。だんだん、そんなみっともないことやめろってなりましたけど、今、世界がもう一度そういうのを見直し始めていますよね。今までは美味しさばかりに注目して自由にやってきたけれど、これからの世の中はもう一回考えていかなきゃいけない。昔は地味に生活することは美徳だったんですよ。今はそういうのを恥ずかしいと思ってる人がいるかもしれませんが、まさに「食足りて礼節を欠く」ですよね。
でもこれからは「節電」が大事になって変わっていくんじゃないかな。それは、単に我慢しなければいけないとか、貧しくあらねばいけないということではなく、豊かさへの入り口として。自分たちを戒めるというか、自分の足元を見直して、削るんじゃなくて代役することを考える。節電レシピというのは、そういう生きる知恵みたいなものなんだと思います。
野﨑 洋光(のざき ひろみつ)
分とく山 総料理長
1953年 福島県石川郡古殿町生まれ。
学校法人石川高等学校卒業後、武蔵野栄養専門学校卒業。東京グランドホテル、八芳園を経て「とく山」の料理長に。
1989年「分とく山」開店。総料理長となる。
日本料理界に新風を吹き込み、伝統的でありながら独創的な料理を提案し続ける。
取材・文=荒井理恵 撮影=奥西惇二
★さらに節電や省エネについて知りたい方はこちら!
【今月の密着人】九州電力株式会社 福岡支店 企画・総務部 通信ソリューショングループ 下川光志郎(34歳)
九州電力が2021年冬、地域の小学生に向けた「ドローン操縦プログラミング体験授業」を初めて開講しました。ドローンを使った授業で、子どもたちにどんなことを伝えたのでしょうか。同教室で“先生”を担当した九州電力 下川光志郞さんに、仕事への想いや授業で得た気づきを聞きました。
電力会社社員が小学校でドローン先生に?
遠隔操作で自由に空を飛び、動画撮影や荷物を運ぶなどさまざまなシーンで活躍するドローン。電力業界では、電線や鉄塔など高所にある設備を点検する際に、近年ではドローンが幅広く利用されています。
今回の主人公、下川光志郞さんの所属チームが運営する「九電ドローンサービス」は、そんなドローンを使って測量や空中撮影を行う九州電力の新規事業の一つです。
下川さん「電力設備の保守・点検のために利用してきたドローンのノウハウを、社外向けのソリューションサービスとして地域に還元する。それが九電ドローンサービス発足のきっかけです。施設などのPR用に空中から動画を撮影したり、広大な敷地を測量したり、さらには農薬の散布などドローンを使ったさまざまなことを手掛けています」
ある日、九電ドローンサービスにいつもとはちょっと違う依頼が舞い込んできました。依頼主は、福岡県朝倉市のあさくら観光協会。
下川さん「企業が持つノウハウやスキルを地域の学生に還元していく取り組みの中で、『小学生に向けた体験授業をやってほしい』というものでした。私たちが普段の仕事で培った技術が、地域の子どもたちのためになるのならとうれしくなりましたね。何をしようか考えた末、『ドローンの自動操縦』をする授業にしたんです」
「給食の時間までやりたい!」ドローン教室、大成功
「ドローン操縦プログラミング体験授業」が開催されたのは2021年12月14日。舞台となる朝倉市立秋月小学校の体育館に、6年生30名が集まりました。
授業の内容は、あらかじめ動きをプログラミングしたドローンを、スタート地点から空中に設置された2つのフープをくぐらせ、ゴール地点に着陸させるというもの。シンプルですが、これがけっこう難しいそうです。
下川さん「まずはコースをメジャーで計測してもらって、移動させたい長さや高さを決めたら、タブレット端末のドローン操縦アプリの中でプログラミングをしていくんです。『何メートル直進した後、右に何センチ移動する』といった具合にパズルを組み立てるようになっていて、計測とプログラミングが正しくできていないとドローンはまったく違う方向へ飛んでいってしまうんですよ」
残念ながら本番ではゴールまでたどり着いたチームはありませんでしたが、調整を繰り返して挑戦したチームのドローンがフープを1つくぐれた瞬間、体育館に歓声が響き渡りました。
下川さん「授業は本当に大好評で手応えを感じました。『給食の時間までやりたい!』と子どもたちが言ってくれて、予定時間を延長したほどです。計測やプログラミングなどの作業に集中しながら、『楽しいな』と一人でつぶやいていた子が、とても印象に残っています」
体験授業を依頼したあさくら観光協会の事務局長・里川径一(さとがわ・みちひと)さんは、「小学校のプログラミング授業では、シミュレーションはできても、実際にリアルな体験までさせるのはなかなか難しいようです。今回の取り組みは、たくさんの先生方から関心を集めています」と、ドローン教室の成功に大満足。今後の広がりにも期待を寄せています。
下川さん「ドローン教室も、私たちのノウハウを地域に還元する方法の一つだと思っています。子どもたちの将来に何か少しでも役に立ったらいいですね。今後も機会があれば、ぜひ続けていきたいです」
ドローン操縦&測量のノウハウで地域の人に喜んでほしい
ドローンを使った空中撮影から動画編集までを手掛ける下川さんは、2019年の九電ドローンサービス発足当初、自ら志願してこの仕事に携わることになりました。
下川さん「昔からカメラや音響機材などの機械が好きで、大人になってからは風景の写真や動画を趣味で撮影していました。その経験が生きると思いましたし、何より好きなことが仕事にできる。さらに、地域にも貢献できるなんて、とても素晴らしいと思ったんです」
ドローンは単に映像を撮影するだけでなく、地形などを精緻に測量することもできます。ある仕事では、その地域にとって重要な歴史をひも解くきっかけとなったことも。
下川さん「過去に私の上長が担当した測量で、福岡県最西端にある小呂島(おろのしま)で日本最古の前方後円墳の可能性がある古墳を見つけたことがあったんです。さらに、佐賀県の名護屋城で昔の武将が歩いていた道かもしれないくぼみを発見することも。すごいですよね。ドローンで測量すれば、新しい発見ができます。これもまた、地域の方々への還元になるはずです」
将来は測量の仕事にも携われるよう、測量士補という国家資格の取得を目指して猛勉強中。もともと機械好きなこともありますが、下川さんの大きなモチベーションとなっているのが作った映像を届ける相手の存在です。
下川さん「仕事をしていて一番うれしいこと、それは完成した動画を見たお客様が喜んでくれた瞬間です。ドローン教室は、プログラミングで実際に動くことを体験してもらい、子どもたちの学びや発見になればと考えましたが、本当に楽しそうな姿を見ていたら、なんだか私の方がもらったものが多かったかもしれません。今後は、ますますお客様に喜んでいただけるよう、撮影や動画編集、測量に至るまで、さらに自分のスキルを磨いていきます。そして、ドローンで解決できることもそうでないことも、地域の皆さんの困りごとなら、何でも解決できるようになりたいです」
■あさくら観光協会
https://amagiasakura.net/
■九電ドローンサービス
https://www.kyuden-drone.jp/
■九州電力
https://www.kyuden.co.jp/
<貢献する主なSDGsの目標>
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の発展のため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしているのをご存じでしょうか。2021年9月、岐阜・下呂温泉でIT化を進めるプロジェクトの発表がありました。これに協力しているのが中部電力ミライズです。温泉街をどうやってデジタル化するの? と思いますが、実はこれからの温泉旅行をもっと面白くしてくれそうなんです!
花火にスイーツ、ジビエまで。どんどん面白くなる下呂温泉
ひと浴びすれば、ツルツルに! お肌に優しく、恋にまで効く(?)といわれる日本三大名泉の一つ「下呂温泉」。
飛騨川のせせらぎを聞きながら温泉につかり、夜は飛騨牛をジュワーっと。温泉とおいしいごはんで、日頃の疲れはどこへやら。
旅行会社など旅のプロが選ぶ「にっぽんの温泉100選(2021年)」で2位に選ばれるなど、古くから愛されてきた人気スポットです。
街の玄関口となるのはJR下呂駅。駅から降りると、山里と温泉街が調和した情緒あふれる風景が広がる
この数年で、実は下呂温泉がいろいろと変わっているのをご存じでしょうか。
温泉街の各所にできた「食べ歩きスイーツ店」、冬場の毎週末に打ち上げられる「プチ花火大会」、町全体でスタンプラリーができる「ナビアプリ」など、とにかく訪れた観光客を楽しませようと、毎年毎年新しいことを始めてきました。
プリンやパフェなど、温泉街で19種類の食べ歩きスイーツが楽しめる 提供:一般社団法人 下呂温泉観光協会
秋から冬にかけて、毎週土曜に花火大会を開催(※画像はイメージ) 提供:一般社団法人 下呂温泉観光協会
さらに2020年には、下呂市をはじめとした近隣エリアから、観光資源になりそうな“宝物”をぜーんぶ集めて、面白くてエコな自然体験を発掘。
そうした体験スポットをまとめた観光サイトも、2022年3月にオープンしたばかりです。
下呂市と周辺の体験メニューを網羅した新しい観光サイト 提供:一般社団法人 下呂温泉観光協会
2022年からは、シカ肉やイノシシ肉といった「ジビエ」も取り入れていくのだとか。
高たんぱく&低脂質なジビエとお肌をツルツルにする温泉が一緒に楽しめるとなれば、さらに女性に優しい温泉地になりそうです。
ジビエを観光メニューにしていこうと計画中(※画像はイメージ)
そんな日本を代表する温泉地が今、なぜかめちゃくちゃ「デジタル化」に本気になっています。
温泉街がデジタル化すると面白いワケ
「デジタル化ってWEBサイトとかアプリのこと?」と思ったら大間違い。下呂温泉の本気度は、そんなものではありません。主役は、スマートフォンでよく聞くあの「5G」。
簡単にいうと、「5G」は通信規格の最新版で、大容量データでもスピーディにやり取りできるというもの。重たい映像でスマホが固まる、なんてことは起きなくなります。
今回のプロジェクトは、この5Gを街中に広げ、オンラインでいろいろとできるようにしようというものです。
5Gで山間部にある温泉街が高速通信でつながるように
まず、2022年にスタートを予定しているのが「VR観光体験」です。
VR(バーチャルリアリティー。仮想空間)の中に、下呂市内各地の風景を作り、四季折々の風情やお祭りが疑似体験できるように。
例えば春に旅行したら、普通は夏秋冬にしか見れないものは観光できないですよね?
でもVRの中なら、夏祭りや雪景色などを仮想空間の中で体験できるようになるんです。
VR観光体験ができるようになる観光交流センター「湯めぐり館」は2022年4月1日にオープンしたばかり 提供:一般社団法人 下呂温泉観光協会
下呂温泉に5Gが広がると、もっとすごいことも。
温泉旅館やホテルでよく見る「ゲームセンター」。子どもの頃に楽しみにしていた人も多いはずです。
今はスマートフォンでゲームもやる子どもが増え、人気に陰りが…とも言われていますが、ここに5Gを入れるとどうなるでしょうか。
例えば、「3D金魚すくい」みたいなゲームを作り、すべての旅館やホテルに設置すれば、リアルタイムでホテル対抗戦やランキングを出すなんてことができるようになります。
コロナ禍で全国的にお祭りを開催できない今、5Gと宿泊施設をうまく組み合わせると、温泉街を舞台にした「デジタル縁日」を生み出せるかもしれません。
まだアイデアレベルの話なので、実際に行われるかどうかはわかりませんが、最新技術を使っているのに、とっても昔ながらの温泉街っぽいですよね。
3カ所の温泉施設をめぐれる「湯名人 湯めぐり手形」(1300円)。これもデジタル手形になるかも?
街の各所にあるカエルのモチーフ。デジタル化したら、いろいろと活躍しそうです
最新テクノロジーが支える古きよき温泉街の魅力
下呂温泉をはじめ、市内・隣市町村まで一緒に盛り上げていこうとしているこのプロジェクト。当然、下呂温泉の力だけではできるものではありません。
2021年9月に下呂市と下呂温泉観光協会、NTTドコモ、そして中部電力の子会社である中部電力ミライズの4者で「下呂未来創造プロジェクト」の連携協定を結び、実現に向けて進めています。
新しい観光を生み出すことに加え、下呂市民の健康や安全を守るなど、観光客と住民の双方を見て、下呂市をサステナブルな地域にすることを目指しています。
コロナ禍の今、5G通信で自宅からオンライン旅行ができるようになるかも
中部電力ミライズの中川輝秋さんと竹志田憧太さんは、下呂未来創造プロジェクトにかける強い想いを教えてくれました。
「未来の下呂温泉を目指していますが、昔の下呂温泉のイメージがすごくあるんです。浴衣で歩いて、みんなで楽しんでいる姿。どんどん観光に求めることが変わりつつあっても、それでも温泉にはたくさんの人が集まってきます。観光客が笑顔になれば、地元の市民も笑顔になる。そんな下呂温泉を維持していきたいです」(中川さん)
中部電力ミライズの中川さん
「皆さまに電気を安定的にお届けすることをはじめ、こうした町づくりに参加できるのは、とてもうれしいです。中部電力は、ずっと地域と共に歩んできました。これからも下呂市の発展に役に立っていきたいです」(竹志田さん)
中部電力ミライズの竹志田さん
プロジェクトをリードする下呂温泉観光協会の会長・瀧 康洋さんは、「地域を盛り上げるために下呂温泉でずっと続けてきたこと。それをさらに広げ伸ばそうと、皆さんと力を合わせています。小さな商店が輝ける街に、そして街の個性を残していくために。地道にやっていきたいです」と、期待を込めています。
プロジェクト全体の中核を担う下呂温泉観光協会の瀧会長(中央)。先述の「にっぽんの温泉100選(2021年)」では、下呂温泉未来創造プロジェクトなどの取り組みが評価され「実行委員会特別賞」を受賞した
浴衣&下駄姿で食べ歩きをして、ちょっと疲れたら足湯でほっこり。旅行や観光の考え方が変わってきても、温泉街にある古きよき“映える”シーンは今も変わりません。
今の時代に合わせてそれをこれからも続けられるように、新しいテクノロジーで支えていく。観光地として盛り上がっていけば、将来的には住みたくなる人も出てくるかもしれません。
下呂温泉の魅力を通信と電力が支えると、これまでになかった旅行のカタチが生まれるかも
下呂温泉が目指しているのは、そんなサステナブルな温泉地です。
10年後、50年後も、今と変わらず私たちが“温泉さんぽ”を楽しめるように、下呂温泉のこれからに期待したいですね。
■DATA
下呂温泉観光協会
住所:岐阜県下呂市森922-6
TEL:0576-24-1000
休み:不定休(12月30日~1月2日は休み)
https://www.gero-spa.com/
中部電力ミライズ
https://miraiz.chuden.co.jp/
下呂未来創造プロジェクト
※2021年9月6日プレスリリース
https://miraiz.chuden.co.jp/info/press/1206836_1938.html
<貢献する主なSDGsの目標>
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
【今月の密着人】東北電力株式会社 発電カンパニー燃料部(LNG) 佐藤卓(36歳)
いつでも当たり前に使える電気。その裏側には、電力の安定供給のために日夜尽力する、たくさんの人々がいます。今回焦点を当てるのは、電気をつくるための燃料を調達するお仕事。電力ひっ迫や世界情勢の変化に大きく関わる火力発電所の燃料「液化天然ガス(以下、LNG)」の調達に奮闘する東北電力 佐藤卓さんの熱い想いをご紹介します。
「電気はあって当然」を根本で支えるお仕事
日本の電力は現在、約8割が化石燃料による火力発電で賄われています。その大半を占める燃料がLNG。日本の電力を安定して供給するために、とても重要なポジションを担っています。
しかし、日本で使用するLNGは海外からの輸入頼み。さらに、LNGは石油や石炭と違って長期間の保管に向かないことから、タイムリーに調整する必要もあります。
東北電力 燃料部の佐藤卓さんが主に担当するのは、発電計画や電力の需給バランス、LNGの在庫量などに応じて、海外からLNGを運ぶ船の受け入れスケジュールを管理する「配船業務」。
ものすごくわかりやすく言えば、LNGの「仕入れ」と「在庫管理」です。
佐藤さん「東北電力では年間で約400万トン、船の数にすると60隻程度のLNGを毎年購入しています。LNGは長期保存ができないので、いつ、どれだけ在庫を確保しておくかというスケジューリングが欠かせません。価格も変動するため、なるべく安いタイミングで購入するのが理想です。さまざまなことを勘案しながら、在庫が極端に少ない谷のような状況をいかになくしていくか。それが私の仕事です」
LNGがなぜ発電において重要なポジションを担っているのか。それは、燃料ごとに火力発電所の役割には違いがあるからです。
佐藤さん「例えば、低コストで安定して発電できる石炭を使った火力発電はベースロード電源といって、比較的、電力の需要に左右されず常に一定量の発電を行います。つまり、“支える”のが役目です。対してLNGの火力発電は、需要の波に合わせて発電量を細かく調節し、バランスを取るのが役目。電気の需要は毎日細かく変化するので、LNGがないと上手く電気を届けられなくなってしまうんです」
寒波で大ピンチ! 人知れず危機を救ったヒーロー!?
そんな配船業務の大変さは、天候不良をはじめとした自然相手のトラブルが多いことだそうです。
佐藤さん「台風が船の針路に重なって到着予定が大きくずれ込んだり、船が港の目の前まで来ても波や風が強くて接岸できなかったり。また、そもそもLNGの産出国側で天然ガスがなぜか出ない、なんていうこともあるんです。1隻が運ぶLNGの量は6〜7万トン。1回の影響は甚大です。何かトラブルがあると職場はかなりピリッとしますね」
昨年(2020年)の冬、配船業務担当になってまだ2カ月程度だった佐藤さんに、いきなりその大変さを思い知らされる出来事が起こります。
今年同様に日本が記録的な大寒波に見舞われたことで、需要側と供給側でさまざまな要素が重なり、全国的にLNGが想定以上に使われました。
このままいけば、日本全体で電気が足りなくなる可能性が出てきたんです。
佐藤さん「全国的にLNGが、想定を大きく超える在庫不足になったんです。私たち東北電力も当時はかなり大変でした。というのも、LNGはなくなったからといってすぐに調達できるものではありません。通常はスポット的に調達をする場合でも、契約交渉から始めて実際にLNGが受入基地に届くまでには1カ月半~2カ月程度はかかるのが当たり前。ところが、その時は1カ月を切るスピードで調達しなければならなくなったんです」
何とか船の手配はできたものの、そんなときに限って天気予報は大荒れ。一進一退の状況に、佐藤さんは歯がゆさや焦りを感じていたと言います。
佐藤さん「万が一この船に何かあれば、東北の電気が止まってしまうかもしれない。そうなれば最悪、人命にも関わることだってあると思ったんです。私も東北が地元ですから、冬の厳しさは身にしみています。このタイミングで電気が使えなくなってしまうことは、絶対にあってはならないんです」
佐藤さんを突き動かしたのは、とにかく1日でも早くLNGを日本に届けなければならないという使命感でした。
佐藤さん「商社などのサプライヤー各社、LNGの受入基地などとの調整を重ねた結果、本当に皆さんの協力があって、なんとか危機を乗り切ることができました。船が無事に入港して、タンクにLNGが流れ始めたと連絡を受けたときには、心から安心しましたね」
お客様の一番遠くて、一番近い存在に。
佐藤さんをはじめ、電力に関わる多くの人が力を合わせ、なんとか乗り越えられた昨年の冬。急な寒波到来による電力需要の急増が原因の一つで、実はこれ、とても身近な問題なんです。
佐藤さん「誰でも家でエアコンを使っていると思います。季節の始まりにピッとリモコンを押して一度使い始めると、翌日以降も気温に関係なくなんとなく使い始めますよね。実は『エアコンのスイッチをいつ押すか』というのが、電力需要の波を左右する大きな要素の一つなんです」
これは極端に言えば、自宅にあるエアコン一つでLNGを消費するスピードが早まるということ。佐藤さんの仕事は電気を使う家庭や職場と一番遠いところにあるように思えますが、実はとても密接に関わっているんです。
佐藤さん「もちろん、LNGの調達はほかにも天候や海外情勢、発電現場の状況など、さまざまな要因が複雑に絡んできます。例えば、日本は約1割のLNGをロシア産に依存していることから、昨今のロシアとウクライナの問題は決して遠い国の話ではありません。エネルギーは日本の安全保障そのもの。その重責を担う担当者としてもっと視野を広く持ち、常に最新の情報をキャッチできるように尽力していきたいと思っています」
そして何より佐藤さんが忘れてはならないというのが、お客様目線です。
佐藤さん「私の仕事は、お客様との距離がどうしても遠くなります。だからこそ、今取り組んでいる仕事が本当に地域のために、お客様のためになっているのだろうかということを、常に意識しなければなりません。例えば、お客様に電気をより経済的にお使いいただくために、1円でも安くLNGを調達することなど、出来ることはたくさんあるはず。電力の安定供給を支えることはもちろん、さらに一歩、二歩とお客様に歩み寄れる仕事をしていきたいですね」
米国キャメロンLNGプロジェクトからの天然ガス調達船『Diamond Gas Sakura』
■東北電力-火力発電所
https://www.tohoku-epco.co.jp/power_plant/thermal.html
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の発展や、コロナ禍など環境変化に柔軟に対応するため、ほかにもさまざまな活動をしているのをご存知でしょうか。2021年8月、福岡県・福岡市にオープンした「eスポーツ チャレンジャーズパーク」。大会も開けるスタジアムまで備えたこの施設をバックアップするのが九州電力です。なぜ電力会社がゲーム? 西日本最大級のeスポーツ総合施設の魅力と共に、その背景をお届けします。
eスポーツの魅力を世界に発信!
全世界の競技人口が1億人以上と言われ、五輪大会正式種目への採用が検討されるほど盛り上がっているeスポーツ。
日本でも急速に人気が高まっていて、「中学生男子が将来なりたい職業」(2021年7月 ソニー生命調べ)では、プロeスポーツプレーヤーがYouTuberに次ぐ2位にランクインしているほど。
そんな時代だからこそ、昔ながらの“ゲーセン”ではない、まったく新しいeスポーツ施設が生まれています。その一つが、九州最大の繁華街・天神にオープンした「eスポーツ チャレンジャーズパーク(以下、チャレパ)」です。
天神南駅から徒歩3分、天神駅からは徒歩10分の天神ロフトビル8Fにある
チャレパには、博多の街を見下ろす開放的なフロアに、スタジアムやカフェ、ショップなど7つのエリアがあります。
メインとなるのが、5対5のeスポーツ対戦ができる円形のスタジアム。200インチの大スクリーンを中心に最大20名の観客が収容でき、ここから全世界に生配信することもできます。
どの席に座っても観戦しやすい円形のスタジアム
大会やイベントも頻繁に開催され、日本国内プロeスポーツリーグのパブリックビューイングなども行われています。
さらに、チャレパはプロeスポーツチーム「Sengoku Gaming」のホームスタジアムでもあります。2021年にシンガポールで行われた賞金総額50万ドルの国際大会「Wild Rift Horizon Cup」では5位タイになったこともある日本屈指の実力派チームです。
練習などでプロ選手が実際に訪れるスポットなので、ファンはもちろんプロを目指す小中学生にも夢を与える大切な場にもなっているんですよ。
施設内のショップでは「Sengoku Gaming」公式グッズも
超高速Wi-Fi&スイーツで人気テレワークスポットにも
誰でも気軽にeスポーツを楽しめる「プレイエリア」は、フロアの最奥にあります。
清潔感のある空間に20台の高性能ゲーミングPC。そこで20以上のゲームを快適にプレイすることができます。
ヘッドホンやマウスももちろんゲーミング仕様
特筆すべきは、超高速なインターネット環境。
チャレパを運営する九州電力グループの通信事業会社「QTnet(キューティーネット)」の光回線が使われていて、最大10Gbps対応の専用回線が整備されています。
これ、実は金融機関やデータセンターで使われているものと同じ。つまり安定的で超高速な通信環境が、チャレパの大きな強みとなっています。
全席どこに座っても最高の環境でプレイできる
魅力はゲームだけではありません。
スタジアムの隣にあるカフェは、昼は大きな窓から気持ちのいい陽が差し込み、夜は天神の夜景を見下ろす絶好のロケーション。
カフェのカウンターは、まるで海外のホテルのよう
おいしいフード&スイーツと一緒に、世界的に人気の高いニュージーランド発のコーヒーロースター「コーヒースプリーム」のスペシャルティコーヒーを飲んで、ゆったり一息。
ちなみに、ゲームで使われる超高速通信回線に加えて、カフェスペースでもWi-Fi利用が可能です。知る人ぞ知るテレワークスポットとしても密かに人気なのだとか。
「コーヒーと栗のモンブラン」(490円)は女性に人気
一番人気の甘辛い牛肉を挟んだ「SENGOKU DOG」(660円)
さらに、動画配信機材を完備した「配信ブース」もあり、カップル向けの時間貸しサービスもスタートしました。
2人でゲームを楽しんだら、カフェでひと休み。そんなデートスポットとしても、福岡のゲーム好きカップルに好評とのことです。
照明やマイクなどがあり、ゲーム実況配信も手ぶらでOK
ゲームを楽しむ子どもからシニアまでを九州電力が全力サポート
eスポーツの魅力を発信するチャレパ。
そのストーリーは、2019年に「QTnet」が「Sengoku Gaming」をバックアップするところから始まり、現在では施設運営などの取り組みを九州電力が広くサポートしています。
そこに掛ける熱い想いを、施設運営に関わる3人のキーパーソンに伺いました。
左から株式会社QTnet 経営戦略本部 稲葉太郎さん、「Sengoku Gaming」を運営する株式会社戦国 代表取締役 西田 圭さん、九州電力株式会社 テクニカルソリューション統括本部 野田純一さん
「通信事業にとって、eスポーツはとても親和性が高いスポーツです。eスポーツをリアルスポーツへ近づけ、福岡から世界に通じる文化を発信していく。そのためには、選手とファンの距離を縮めるリアルな場所が必要だと考え、チャレパを作ることになりました」(QTnet 稲葉さん)
もともとはコアなeスポーツファンに向けた施設であったものの、実際にオープンしてみると予想外の客層にビックリ。
ホームスタジアムを持つ国内チームはほとんどなく、選手たちのモチベーション向上に大きく影響。関東や東北から移住した選手もいるとか
「4分の1のお客さまがファミリー層なんです。今のゲームのことはわからないけど、チャレパで一緒にプレイすることで『子どもへの理解が深まった』というお声をよくいただきます。これをきっかけに、親子体験会をはじめ、ゲーム依存を不安に思う保護者に向けたワークショップなど、教育面での試みもたくさん行っています」(戦国 西田さん)
ほかにも、認知症予防の研究を兼ねた「シニア体験会」や、ホテルニューオータニ博多とコラボした「ゲーミング客室」などを開催し、あらゆる面でeスポーツの可能性を探っています。
「九州はアジアの玄関口。天神がeスポーツの聖地になれば、観光面でも面白くなります!」と熱く語る3人
「eスポーツによって福岡をさらに魅力的な街にできたら、地域に根ざす九州電力としてこれほどうれしいことはありません。チャレパがあることで、地域の子どもたちが元気になる。そしていつか、ここから世界に羽ばたくトッププレーヤーが生まれたらなんて。本当にワクワクします。eスポーツを支えるのは電気や通信環境。電力会社として、こうした新しい時代の取り組みをグループ会社と連携しながら支えていければ」(九州電力 野田さん)
地域の会社が力を合わせ、新しい文化と共に子どもたちの夢も応援する。チャレパに訪れれば、eスポーツの印象はまったく変わります。福岡がゲームの聖地と呼ばれるのも、そう遠い日ではないかもしれませんね。
■DATA
esports CHALLENGER’S PARK
(eスポーツ チャレンジャーズパーク)
住所:福岡県福岡市中央区渡辺通4-9-25 天神ロフトビル8F
営業時間:11:00~22:00(最終入店21:00)
休み:不定休(12月30日~1月2日は休み)
https://challepa.jp/
QTnet
https://www.qtnet.co.jp/
九州電力
https://www.kyuden.co.jp/
電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
<貢献する主なSDGsの目標>
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の役に立つため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしているのをご存じでしょうか。
2020年7月に、アイヌ文化が体感できる「ウポポイ(民族共生象徴空間)」が北海道・白老町(しらおいちょう)にオープンしました。これを地域と共に盛り上げてきたのが北海道電力です。ウポポイではどんなことが楽しめるのか、さらにオープンまでの舞台裏にも迫りました。
北海道・白老町にできた「ウポポイ」って何?
地場産の「白老牛」や地域ブランドの「虎杖浜たらこ」(こじょうはまたらこ)をはじめ、毛ガニやホッキ貝、サケやニジマスなど、海・山・川からの恵みが魅力の白老町。
北海道南西部に位置し、太平洋に面した町までは札幌市から南へ車で1時間ほど。
遠くを望めばホロホロ山やオロフレ山などの尾根がつながり、地域のほとんどが国有林に覆われるほど自然豊かな場所です。
ポロト湖畔。市街地からほど近くにも美しい景色が広がる
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
新千歳空港からJR白老駅までは特急電車で約40分
ほかにも、雄大な自然の中にこんこんと湧く温泉があったり、アウトドアレジャーを楽しめたりと、観光にはうってつけ。
そんな旅行に行けば新発見がたくさんありそうな白老町に、アイヌ文化の発信拠点「ウポポイ(民族共生象徴空間)」はオープンしました。
白老町は、古くから暮らすアイヌ民族が歴史を築いてきた町の一つ。アイヌ文化の復興や創造、発展を目指すこの地にナショナルセンターが誕生したんです。
ウポポイはポロト湖畔の合計約1万5000平方メートルもの敷地に広がる文化発信拠点(※写真はイメージ)
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
ウポポイには、アイヌ文化を“体感”できるさまざまな施設が立ち並びます。
北海道初で日本最北端の国立博物館となる「国立アイヌ民族博物館」をはじめ、アイヌ文化に触れられる「体験学習館」や「工房」、生活空間を再現した「伝統的コタン(集落)」など盛りだくさん。
ちなみに、愛称のウポポイは「(おおぜいで)歌うこと」を意味するアイヌ語。
国立アイヌ民族博物館なら「アヌココロ アイヌ イコロマケンル」(アヌココロのロは小文字)のように、各施設にもアイヌ語の名前が付けられています。
ポロト湖を背景にした「伝統的コタン」では、ユネスコ無形文化遺産にも登録されているアイヌ古式舞踊が披露される
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
新グルメやグッズも! 体感したいアイヌの暮らし
ウポポイの最大の魅力、それはアイヌを世界に発信する場所である以上に、「アイヌ文化って面白い!」と感じられるスポットだということ。
まず見てほしいのが、国立アイヌ民族博物館に展示された「衣装」。芸術品とも称されるアイヌの衣装は、伝統的な文化の粋(すい)が詰まっているとも言われます。
「伝統的な文化」と重たく受け止めずに、素敵なアイヌ文様が施された衣装は眺めるだけで楽しめますよ。
アイヌの衣装などが展示されている国立アイヌ民族博物館
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
アイヌの必須道具「マキリ(小刀)」。館内では「ことば」「くらし」など6つのテーマで展示されている
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
頭の中にアイヌ文化をインプットしたら、次は体にインプットを。
体験学習館を訪れれば、アイヌの楽器「ムックリ(口琴)」などの制作ができたり、「ポロトキッチン」でアイヌ料理の調理と試食が楽しめたり、アイヌのカルチャーにどっぷり漬かれます。
チプ(丸木舟、プは小文字)の操船を見ながら伝統的なアイヌの暮らしについて教えてもらえる
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
体を動かしたら、そろそろおなかが…。もちろん、歴史や文化を勉強するだけの場所ではありません。
園内にあるレストランやカフェには、白老町が誇る山海の幸と北海道の自然の恵み、そこにアイヌの食文化に由来した創作料理などを織り交ぜたメニューがずらり。
エゾシカのジビエからスイーツまで、まさにここでしか味わえない料理の数々に驚くはずです。
「焚火ダイニング・カフェ ハルランナ」の名物メニュー「ユク(蝦夷鹿)の焚火ロースト」(2800円、クは小文字)
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
「ヒンナヒンナキッチン 炎」のアイヌ文化を代表する食材を盛り込んだ「行者にんにくザンギ定食」(880円)
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
アイヌ伝統料理オハウ(温かい汁物)をメインにした「カフェリムセ」(ムは小文字)の「チェプオハウセット」(1200円、プは小文字)
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
「Sweets café ななかまど イレンカ」の人気スイーツ「クンネチュプ」(150円、プは小文字)。白老産のたまごを使用した半熟カップチーズケーキ
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
国立博物館ならではのオリジナルグッズもバラエティーに富んでいます。
アイヌ文様をデザインしたバッグやマグカップなど、ここでしか手に入らないものばかり。
トートバッグ(1350円)など、ウポポイオリジナルのアイヌ文様グッズは「国立アイヌ民族博物館ミュージアムショップ」で
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
ぬいぐるみ(2300円、左)やボールチェーンマスコット(900円、右)など、ショップ「ニエプイ」にはPRキャラクター「トゥレッポん」グッズが充実
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
レストランやカフェから窓の外を眺めれば、雄大な山々と青く澄んだポロト湖。
ガマやエゾヤマザクラ、ハルニレなどアイヌ文化に関わりの深い40種類以上の植物が園内の至るところで景色をつくり、四季折々の姿で湖畔を彩ります。
アイヌの人たちが暮らしてきた美しい景色に身を包めば、日頃ためてきたストレスもスッキリするはずです。
湖畔に広がる美しい風景。一面が凍る冬季のポロト湖も見どころ
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
オール北海道で応援するウポポイ
伝統芸能に限定グルメ、オリジナルグッズに美しい景色と楽しさ満載のウポポイ。実は、“オール北海道”でバックアップされてきました。
その中心となるのが、2016年に北海道庁が旗を振り、北海道の企業や団体等と共に設立された「ウポポイ官民応援ネットワーク」です。
設立当初はウポポイができることを知る人も少なく、「どうすれば応援の輪が北海道全域に広がるものか…」と、応援ネットワークは大きな悩みを抱えていました。
そこに北海道電力が入ったのは、2018年のこと。
ウポポイを応援するため社員の名刺にPRシールを貼ったり、ポスターやチラシで告知したり。小さなことからコツコツとできることを進めたそうです。
北海道電力でオープン直後まで同プロジェクトを担当した家入由佳梨さんが振り返ってくれました。
「アイヌの方々や北海道のため、当社には何ができるのか。それをずっと考えてきました。全社的な協力を仰ぐために各事業所へ一つ一つ丁寧に説明をし、各エリアでチラシを配ったり、お客様と会話するタイミングでお知らせしたり、ウポポイのPRにつながることを地道に続けてきたんです」
プロジェクトを担当した北海道電力 総務部の家入さん
提供:北海道電力
「最初は『ウポポイって何?』を説明するところからスタートしたので、直接は電力事業と関係がないぶん、理解を得るのに苦労しましたが、結果的に当社一丸となってバックアップすることができたのは、本当によかったと感じています」
アイヌ文様入りの北海道日本ハムファイターズのユニフォームを着て仕事をする北海道電力本店の従業員。道内にある10事業所で実施し、ウポポイのPRにつなげた
提供:北海道電力
広大な北海道全域に事業所と社員を有する同社の取り組みなどを機に、応援ネットワークの輪は急激に広がりをみせます。
現在、関係行政機関や経済団体、様々な企業など222団体(2021年12月31日現在)で構成され、北海道内でのウポポイの認知度は驚異の97.6%。
オープン直前は、北海道全体が「ウポポイ! ウポポイ!」とお祭り騒ぎになったそうです。
応援ネットワークの事務局運営を担う、北海道 環境生活部 アイヌ政策推進局 アイヌ政策課では、「今後も、新型コロナ感染症の状況を注視しながら、ウポポイをはじめとしたアイヌ関連施設などに多くの方が訪れることを目指し、情報発信をしていきます。特に北海道全域にネットワークがある北海道電力さんには大きな期待を持っています」と、さらなるバックアップに力を込めます。
2020年7月のオープン以降、修学旅行や観光ツアーなどで数多く利用されている
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
オープンから1年間で、ウポポイには約26万人が訪れました。来場者からは、「とても勉強になった」「もっとアイヌの歴史やルーツが知りたくなった」などの感想が寄せられています。
とりわけ目立つのが、体験交流ホールでの伝統芸能を見た人たちのコメント。
「歌と踊りが素晴らしくて自然と涙が出てきた」「とても感動しました! ぜひ多くの人に見てほしい」といった絶賛の声が多数集まっています。
体験交流ホールの古式舞踏などアイヌの伝統的な歌や楽器の演奏は必見
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
先述の北海道電力・家入さんも初めて見たときに、「歌と踊りに込められた魂を感じて、シンプルに感動しました! ウポポイのおかげで、アイヌの新しい一面を知ることができました」と、そのときの興奮を思い出しながら話してくれました。
提供:国土交通省
何となく知っている「アイヌ」のこと。知れば知るほどに、「素晴らしい文化だなぁ~」という発見があります。
行ってみないとわからない。それがウポポイです。
1日ではきっと回り切れないので、季節の移ろいを楽しむためにも、2度3度訪れてみてはいかがでしょうか。
■DATA
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団(※写真はイメージ)
ウポポイ(民族共生象徴空間)
住所:北海道白老郡白老町若草町2-3
営業時間:9:00〜17:00、土日祝9:00〜17:00(最終入場各60分前)※季節により変動します
休み:月曜(※祝日または休日の場合は翌日以降の平日)、年末年始(12月29日〜1月3日)
料金:一般1200円、高校生600円、中学生以下無料ほか
アクセス:札幌市街地から車で約1時間、新千歳空港から特急電車で約40分のJR白老駅より徒歩約10分
https://ainu-upopoy.jp/
ウポポイ 国立アイヌ民族博物館オンラインショップ
https://ainu-upopoy-museum.shop/
北海道
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/
北海道電力
https://www.hepco.co.jp/
<貢献する主なSDGsの目標>
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
【今月の密着人】九州電力株式会社 エネルギーサービス事業統括本部 火力発電本部 地熱調査グループ 倉山侑也さん(32歳)
世界各国が脱炭素社会を実現させるために歩みを進める中、日本にとって大きなカギの一つとなるのが「地熱発電」です。実は、世界第3位の地熱資源量を誇る日本。そこで今回フォーカスしたのが、国内で最も地熱発電の発電量が多い九州電力に勤める倉山侑也さんです。発電所づくりのために倉山さんが奔走するのは、地元の自然と人を思う熱い想いがありました。
狙うのは地下3000mの熱水と蒸気!
火山地帯にある高温な地中の熱エネルギーをもとに、電気を作り出す地熱発電。世界有数の火山大国である日本では、大きなポテンシャルがある発電方法として知られています。
最近では、脱炭素社会を目指し、2030年までに地熱発電施設の数を倍増させる目標を政府が掲げるなど、注目が集まっています。
そんな地熱発電ですが、発電所を1つ作るのには、なんと10年以上もの歳月がかかります。その理由を九州電力の倉山侑也さんは、自身の仕事でもある「地熱資源の調査」にあると言います。
倉山さん「地熱発電では、マグマによって熱せられた高温の地下水と蒸気を利用します。その地下水がたまっている場所を『地熱貯留層』と呼ぶのですが、地中深くにあるため、簡単に見つかるものではありません。それを探し出し、資源として使えるのかどうかを評価していくんです」
発電所の候補地探しで重要となるのが、フィールドワーク。国が所有するデータから目星をつけ、現場の状況を実際に確かめに行きます。
倉山さん「温泉地で硫黄のにおいがするように、地熱資源がある場所も特有の徴候があります。そうした成分によって地面が変質していたり、特徴的な岩石があったり、現地に行くと細かなヒントが見つけられるんです。ただ、そこまで行くのは体力勝負。多くは山の奥地にあるので、登山スキルは欠かせません」
いくつもの候補地から適切な場所を絞っていき、ようやく1カ所見つかるかどうか。まるでトレジャーハンターのようです。
倉山さん「さらに難しいのが、実際に掘ってみないと本当に地熱資源があるかわからない点です。温泉なら数百メートルで出ることもありますが、地熱貯留層があるのは1000~3000メートル。資源が見つかっても、規模や自然環境への影響といった調査が必要になりますし、国や自治体、地域の方々などの理解を得ていかなければなりません。そうしたことを十数年かけてすべてクリアし、ようやく地熱発電所が建設できるんです」
自然のことを考えた地熱発電所を造りたい
学生時代にエネルギー関係の仕事に興味を持ち、熱工学を専門に学んでいたという倉山さん。生まれ育った九州の電力会社である九州電力に入社を決めたのは、東日本大震災がきっかけでした。
倉山さん「当時は九州にいましたが、その後の混乱の中で、普段何気なく使っている電気のありがたみがすごく身に染みたんです。入社後に発電所に勤務する機会があり、実際に電気をつくる立場になると、電気のある生活が当たり前ではないことをより実感しました。目立たない存在だけれど、ないと困る。そんな縁の下の力持ちとして地元に貢献できることにやりがいを感じています」
その後、現在の地熱調査グループに配属されると、地熱発電の魅力に引き込まれていきました。
倉山さん「私は鹿児島県出身で、ずっと桜島を見ながら育ったこともあり、火山が大好きです。火山は地熱エネルギーの根幹。そうした地球が持つ大きなエネルギーをうまく利用して発電ができるのは、地熱発電の魅力だと思っています」
また、地域とのつながりを強く意識するからこそ、その場所が育んできた自然や美しい景観を残すことを第一に考えています。
倉山さん「自然環境は、できる限り維持したいんです。開発ありきで進めていくのではなくて、地域の皆さまの理解や協力を得られるような環境でつくっていけるのが理想です。ただ、建設するのに有望なエリアは国立・国定の自然公園が多いのも事実。地熱発電は二酸化炭素の排出量削減やSDGs(持続可能な開発目標)の観点からもメリットは多いですが、地域の自然環境にしっかりと目を向けていかなければならないと思っています」
日本の地熱発電を世界へ!
再生可能エネルギー推進の気運が高まる中、今後、技術力や発電量、経験値で国内随一の地熱発電企業である九州電力が培ってきたノウハウは、世界から求められる可能性があります。
倉山さん「当社グループは日本最大規模となる八丁原発電所(大分県)を含む全8施設の地熱発電所を九州で運営し、長年安全かつ安定して電気を供給してきました。その実績と、これまでに開発してきた技術力が最大の強み。これを九州だけでなく、国内外に広げていきたいです」
実際、インドネシアにある世界最大規模のサルーラ地熱発電所では、九州電力の技術が生かされています。さらに、2020年10月には福島県柳津町の猿倉岳(さるくらだけ)地域で地熱調査に着手するなど、続々とプロジェクトが動き始めました。
倉山さん「地熱発電は天候に左右されませんし、昼夜を問わずに安定して発電できます。さらに、化石燃料を使わないので二酸化炭素の排出量が圧倒的に少ないなど、メリットの多い発電方法です。特に日本は地熱資源に恵まれているので、有効活用していくべきと賛同してくださる方々も増えたと感じています。今、とても注目を集めていますが、これからも焦らず、地道に続けていくことが大切だと思っています」
倉山さんがそう考えるのには、これまで九州電力の地熱発電の礎を築いてきた先輩たちの存在があります。
倉山さん「大分県の八丁原発電所と大岳発電所は50年以上の歴史があって、地元の方々からの信頼を得られているだけでなく、町のシンボルのような存在として親しんでいただいています。それは電気だけでなく、発電に使った高温の蒸気や熱水をハウス栽培や住民の方の暖房用に提供するなど、エネルギーを余すことなく地域のために利用できるように、当社の先輩方が長年続けてきた努力のたまものだと思うんです。私が関わる発電所も、そういう存在になってくれたらうれしい。そのために、これからも地域の自然と人を大切にすることを第一に考えていきたいです」
■電気事業連合会・SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
https://www.fepc.or.jp/sp/social/
■九州電力-地熱発電
http://www.kyuden.co.jp/effort_renewable-energy_geothermal.html
NPO法人 MAMA-PLUGは、子育ての当事者が直面する社会問題について、クリエイティブな視点から解決に向けた取り組みを行うNPO法人。楽しく学び、賢く備え、自分で考え行動できる防災「アクティブ防災」を提唱し、東京都作成の女性視点の防災ブック「東京くらし防災」の制作に関わり、『子連れ防災BOOK』なども出版されています。普段の生活の中で気を付けることは?どんな備えをしたらいいの?女性が災害対策をする上で知っておくべきことは?などのポイントについて、理事の冨川万美さんにうかがいました。
******
NPO法人 MAMA-PLUG アクティブ防災事業代表 冨川万美さん
日本は自然災害大国です。
現在、新型コロナウイルスの蔓延で窮屈な生活を未だ強いられている中でさえ、阪神・淡路大震災や東日本大震災のような地震災害、大型の台風や九州豪雨・西日本豪雨のような風水害など自然災害がいつ起きてもおかしくない状況で生活をしています。
最近では首都圏でも久しぶりに緊急地震速報が鳴り響き、ヒヤッとした方も多かったのではないでしょうか。
まずお伝えしたいのが、世代や、性別などに一切関係なく、一番大切なのは「命」だということです。ですが、せっかく助かっても、その後の「生活」に苦しんできた方々も実際少なくありません。自分の「命」と「生活」を守る防災を私たちは「オーダーメイド防災」と名付けています。
災害時でも生活していくのは自分です。
防災セットを丸ごと買って満足してしまいがちですが、今一度、「自分自身」または「自分の大切な家族」が必要なものは何かという視点で、是非「オーダーメイド防災」を考えてみてください。
今回のテーマは女性の防災です。災害時、特に女性が知っておくと良いことをお伝えします。
①女性視点の防災について
多様性の時代において、女性だけ特別視されるべきことは本来あるべきではないのですが、災害時においては、身体面で男女に大きな差があることは事実です。
例えば、女性特有の体調不良・月経・妊娠・授乳・性犯罪の被害など女性の視点で考えるべき点は多くあります。
私たちの団体では、災害被災者の方へのヒアリングなどを実施していますが、実際、被災された女性の体験談の中で非常に多い声としては
「冷えや不潔な環境による体調不良」(膀胱炎や膣炎・自律神経の乱れなど)
「月経に悩まされた」(清潔でないこと・ゴミの処理・ナプキン不足・生理痛など)
「娘が避難生活中に初潮になった」
「妊娠中だった」(健診にいけない・出産場所不足・冷えやストレスなどによる体調不良など)
「授乳場所に困った」(プライベートな空間確保の困難・周りへの気遣いなどによるストレス・清潔なミルクセットがないなど)
「報道されにくい性犯罪」(セキュリティの低さ、死角が生まれやすい環境などが原因)
が挙げられます。
MAMA-PLUG主催のセミナーでの風景
上記はほんの一部に過ぎません。近年は女性の視点を意識した避難所作りなどが盛んに行われ改善されてきていますが、実際に災害が起きてしまうと、避難所などは生活しにくい場所です。基本的には自宅で過ごすことを前提としているため、女性はいかに自分で自分を守ることが必要かが伺えます。
【身体面で気をつけたいこと】
過去の災害では、高齢の女性が逃げ遅れてしまった例が多く報告されています。もちろん女性に限ったことではありませんが、特にご高齢者の場合、体力に男女差が生まれやすいのも事実です。避難する際の助け合いや支え合いがとても大切です。
また、女性は筋肉量の比率から身体が冷えやすいため、ブランケットやカイロ、衣類などの防寒対策、温かい食事の備えなどを意識すると良いでしょう。また、漢方やハーブ・ストレッチ・マッサージなどで温活することもおすすめです。
【妊娠中・産後に気をつけたいこと】
妊娠中と一言で言っても、初期・中期・後期で気をつけるべきポイントは変わります。初期はつわりなどで苦しいにも関わらず、周囲からはわかりづらいので無理をしてしまった妊婦さんも多くいらっしゃいました。中期から後期にかけては、ゆっくりと身体を伸ばし、無理ない体勢で過ごすことも非常に大切です。エコノミークラス症候群や妊娠高血圧症候群に注意し、栄養面や、居場所の確保などを心がけましょう。
何よりも、お腹の赤ちゃんとご自身を守るために無理をせず、周囲にサポートを求めることもとても大事です。
新生児や生まれて間もない赤ちゃんがいる場合は、多くの人が集まる避難所などはとても過ごしづらいもの。被災地外への避難なども視野に入れ、プライベートが守られる場所を確保するよう心がけましょう。また、授乳中はリラックスできれば母乳は出続けます。水分補給を心がけ、授乳を安心して行えるよう、人目がある場合は授乳ケープや目隠しを準備しておきましょう。
ミルク育児や混合育児の場合は、清潔な哺乳瓶セットが必要です。煮沸消毒が難しい場合は使い捨てのものや液体ミルクなどを有効活用し、必要に応じてカップフィーディングなども実践できると心強いですね。
【子育て中に気をつけたいこと】
冒頭でもお伝えした通り、避難所自体、長期間の生活ができる場所ではありません。
在宅で避難生活をする場合、気をつけるべきポイントは
・子どもが食べたいものが備えられているか
・子どもの成長にあっているか
・日々の習慣になっていることを続けてあげられるか
になります。
食べ物に関しては、子どもに限らず自分が食べたいものを備えましょう。「乾パンやレトルト食品を食べてくれなかった」などという声も多くあります。
子どもが食べてくれない非常食でいっぱいにするよりは、そこまで栄養に拘らず、「美味しく食べてくれる」ことを重視してみてください。
我が家は息子の偏食が凄いので、お菓子などでもお腹がいっぱいになるよう備蓄していますよ。
また、子どもは成長のスピードが著しく、おむつや洋服のサイズはもちろん、食事スタイルも日々変化します。子どもの「今」と「少し先」の備えがあると安心です。
そして、習慣になっていることにも注意が必要です。
例えば、今の子どもたちはおそらくデジタルからは切っても切れない生活をしています。特に新型コロナウィルスの自粛生活で、動画配信やゲーム機などに助けられたご家庭も多いのではないでしょうか。
災害が起こると停電があり、デジタル生活が困難になりますが、なんの前置きも無しにいきなりデジタルを取り上げてしまうと子どもたちに大きなストレスがかかります。
復旧するまでの間ずっとというわけにはいきませんが、小型の発電機やバッテリーなどを利用して、
「今電気が使えなくなってしまったから、一緒に我慢しようね」
など説明する時間を確保するだけでも心に余裕ができます。
その他にも、できる範囲で身体を動かしたり、睡眠サイクルをなるべく守ってあげたりするなど、習慣をなるべく崩さないように生活できると良いですね。
【メンタル面で気をつけたいこと】
体調を崩さないための備えも大切ですが、それと同じくらい大切なのは「心」を守ること。大きなストレス下の生活は、心身ともに苦しみをもたらします。
災害時だからといって、自分を我慢させることはありません。
実際に過去の体験談では、
「音楽に救われた」
「本ばかり読んでいた。その時は気が楽だった」
「推しが居てよかった」
「甘いものが食べられた時嬉しくて涙が出た」
「お酒をみんなで飲んだら前向きな気持ちになれた」
「子どもの遊びスペースができたときとても嬉しかった」
など、それまでの生活で心の支えになってきた存在がいかに大切であるかが多く寄せられました。
災害時に自分の心の支えになるもの。今のうちから是非考えてみてください。
また、一人で抱え込まず、複数で行動することも重要なポイントです。
災害時は、パニックに陥り、冷静な判断や行動が困難になります。積極的に声を掛け合い、友人やご近所さんなど協力して過ごすと良いでしょう。
【犯罪面で気をつけたいこと】
あってはならないことですが、災害時に性犯罪が起こったのも事実です。停電により死角の増加、他者との生活スペースの共有によりセキュリティ面が低下してしまうためです。また、本当に残念なことに、そのような事実は、被害者を保護するため他の情報に比べて報道されることが少なく、犯罪者が野放しになってしまっているケースまであります。何も言えずに苦しんでいる方々(これは女性に限りません)がいらっしゃることを忘れてはならないのです。
これは決して許されるべきことではありません。
私たちにできることは、そのような犯罪に巻き込まれないよう自身の身を守ることと、そのような犯罪者を追求し続けるべきことだと思います。
気を付けるべきポイントとしては、
・なるべく一人で行動しないこと
・ユニセックスな服装で過ごすこと(普段は全く自由であるべきですが、特に寝る時間などは気を付けると良いでしょう)
・不審な人が万が一いた場合は、誰かに即知らせること
死角のない、安全な避難場所を積極的に作っていくことも防災の大切な視点です。
② 災害時に大切な電気について
前述もした通り、災害が起こると、ライフイン(電気・水道・ガス)が滞ってしまいます。
特に停電は、多くの被災体験で、
「真っ暗闇を初めて体験した」
「死角ばかりで日が落ちるのが怖かった」
「エアコンが止まって寒かった」
「スマホのバッテリーがなくて情報収集が困難だった」
などの声が寄せられています。
パニック状態に陥りやすい災害時、手元や空間を照らす明かりは真っ先に必要なもの。また、私たちの今の生活に必要なスマホの携帯用バッテリーも欠かせないアイテムです。
・懐中電灯(ヘッドライトタイプがおすすめ)
・ランタン(各部屋に準備しておくと安心)
・モバイルバッテリー(スマホの充電用)
・家庭用小型発電機
などが家にあると心強いでしょう。
また、気をつけなければならないのが「通電火災」です。
災害時に一気に停電になり、復旧した際にショートしてしまうことなどが原因で起こる火災のことです。東日本大震災の際も、通電火災が原因のものがありました。
自然災害で停電した際には、
・ブレーカーを落とす
・電源プラグを抜いておく
などの対策を図ってください。
いかがでしたか? 女性に限らず、様々な視点でみてみると、必要な防災が改めて見えてきます。 「命」と「生活」を守る防災、是非周りを巻き込んで防災力を上げていきましょう!
冨川 万美(とみかわ・まみ )
NPO法人 MAMA-PLUG アクティブ防災事業代表。 青山学院大学卒業後、大手旅行会社・PR会社勤務を経てフリーランスに転向。東日本大震災の母子支援を機に、子連れや家族のための防災を啓発するためにNPO法人MAMA-PLUG設立に携わる。被災体験を元にした「アクティブ防災」を提唱し、全国各地でのセミナー・自治体との連携・イベント・企業との協働・書籍の出版及び監修など様々な分野で活躍中。東京都「東京くらし防災検討・編集委員」、農林水産省「あってよかった家庭備蓄」委員、厚生労働省「非常時における児童館の活動に関する調査・研究」委員、東京都「帰宅困難者対策に関する検討会」委員などを務める。主な著者に、「子連れ防災BOOK」、監修本に「いまどき防災バイブル」。
【WEBページ】https://web-mamaplug.com/
★さらに災害時の対策・備えについて知りたい方はこちら!
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の役に立つため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしているのをご存じでしょうか。2021年9月、富山県の造り酒屋から新しい日本酒が発売されました。このお酒を造るために協力したのが北陸電力です。どうして電力会社が日本酒を? その裏側と思いに迫りました。
富山のダムで日本酒の熟成、はじめました。
寒ブリ、シロエビ、ホタルイカ、海からの恵みあふれる富山県。お酒が好きなら…ですが、肌寒くなるこの季節に北陸の幸と合わせて“くいっ”といきたいのは「日本酒」ではないでしょうか。
富山県の地酒は、古くからの造り酒屋が丹精込めて造る辛口系が多く、刺身ともよく合う“ザ・日本酒”的な味わいが魅力です。「ハズレがない」なんてこともいわれます。
そんな富山県の中心地・富山市の造り酒屋から、地元にあるダムで貯蔵された純米大吟醸「ありみね」と純米原酒「有峰」が発売されました。
2021年9月に発売開始した純米大吟醸「ありみね」(右:5500円/720ml)と純米原酒「有峰」(左:3300円/720ml)。それぞれ1年貯蔵酒
香り高い純米大吟醸「ありみね」とうま味の詰まった純米原酒「有峰」、それぞれ貯蔵期間が異なる2019年ものと2020年ものがあり、熟成が進むにつれてよりまろやかな味わいになっていくそうです。
この日本酒を手掛けたのが、富山で100年以上続く桝田酒造店。全国的に「満寿泉(ますいずみ)」という銘柄で知られる老舗の造り酒屋で、和菓子の「とらや」やスコッチ・ウイスキーの「シーバスリーガル」とコラボするなど、富山の地酒を盛り上げるため精力的に取り組んでいます。
そうした中で生まれたのが、「日本酒×ダム」のコラボでした。
「ありみね」と「有峰」が販売されている桝田酒造店 沙石(させき)。購入できるのはここだけ
富山湾近くの岩瀬大町に桝田酒造店 沙石はある
ダムに合う日本酒の造り方
さかのぼること2019年11月21日。2種類の日本酒が初めてダムに貯蔵されました。
桝田酒造店が酒造りで意識したのは「長期熟成」。1年や2年ではなく、10年、20年の貯蔵に耐えられるような味に仕立てられています。
「ここまで長期熟成を目指したものは初めて。本当に、どういう味になるのか楽しみです」と、日本で唯一このお酒を買える桝田酒造店 沙石の品川里美店長もワクワクを隠し切れません。
各450本がダムの点検用通路に貯蔵された
新しく造った日本酒は一般的に渋みや苦味があるもので、時間がたつにつれてそれがうま味へと変わっていきます。造り立てからおいしいものは、何十年後には甘味が強くなり過ぎてしまうのだとか。
今回は酸味を少し強めた味にしていて、熟成によってよりおいしくなるようにしたといいます。
コロナ禍の影響でしばらく時間がかかりましたが、貯蔵開始から1年9カ月後の2021年8月、待望の“初ダム出し”が実現。「1年貯蔵酒」(2年未満のため)として発売されました。
有峰ダムが日本酒をおいしくする理由
この日本酒が貯蔵されたのが、標高約1000メートルに位置する北陸電力の「有峰ダム」でした。富山湾まで続く常願寺川の水域に建つ水力発電所を動かすのが本来の役目です。
高さ140メートル、幅500メートルもの巨大なダムが広大な湖をたたえ、湖中ではイワナやニジマス、ワカサギが泳ぎ、湖畔ではブナやシラカバなどの樹々が季節に彩りを添えます。このため、地元ではダムと周辺エリアが一体となって景勝地として知られています。
雄大な自然に囲まれた有峰ダム。四季折々の景観が魅力だ
「ダムで貯蔵」と聞くと、この湖の中に沈めて保管していると考える人もいるそうですが、蔵となるのはダムの内部です。
ダムの一番上(堤頂)から約80メートル下の地下4階となる場所に、140メートルほどの長い点検用通路があり、そこで「ありみね」と「有峰」は寝かされています。
では、ダムで日本酒を貯蔵するのは、なぜでしょうか。決して奇をてらっているわけではなく、明確な理由があります。
それは、コントロールしなくても温度が一定だから。
日本酒の熟成には気温10℃程度が最適で、蔵や冷蔵庫で貯蔵されるのが一般的です。ただ、四季もあれば人の出入りもあるため、そうした設備で長期間温度を一定に保つのはなかなか難しい。
その点でダムは、年間を通じて9℃前後、ほとんど人が立ち入らず、外の空気にも触れない絶好の空間です。同じ温度で安定して長期熟成ができるのは、酒造りにとっての大きなメリットになります。
長い通路に、15本入りの1ケースを2~3段で積んで貯蔵する
これまで物の保管なんて当然したことのない有峰ダムが、こうして日本酒を受け入れられたのにも理由があります。有峰ダムを管理する北陸電力 常願寺水力センター課長の平野秀次さんが教えてくれました。
「実は、2020年度に有峰ダムが完成60周年、2021年度に北陸電力が創業70周年のアニバーサリーイヤーを控えていました。何か新しいことができないか、とちょうど考えていた時期だったんです」
そんなタイミングで「ダムで貯蔵ができないか?」と声を掛けたのが、桝田酒造店でした。有峰ダムは、北陸電力の中でも一番大きな水力発電用のダム。半世紀以上にわたって地域の電力を安定して供給し続けてきた施設です。地元のためになるのならと、トントン拍子に話が進んでいきました。
北陸電力の平野さん(左)と、桝田酒造店 沙石の品川さん(右)。協力して新しい日本酒造りに挑んでいる
「有峰ダムだから買いたい」地元住民が語る思い
発売以降、「評判も売行きも上々」と桝田酒造店 沙石の品川さんは顔をほころばせます。購入できるのは同店だけですが、同じ岩瀬地区にある懐石料理店「御料理 ふじ居」や鮨店「GEJO(げじょう)」などに訪れれば、富山のおいしい料理とのマリアージュを楽しむことも。
「『ダムで貯蔵!?』と、興味を抱くお客さまが多いと聞いています。造れる本数に限りがあるので、全国展開みたいなことは考えていません。あくまで地元で、地元の飲食店さんで飲んでいただきたい。それは大事にしていきたいです」と品川さん。
桝田酒造店 沙石なら、貯蔵酒と共に非売品の新酒(未熟成)も試飲可能。「30分唎酒」で2000円はお得
それに、この日本酒にはもう一つ大きな特徴があるとも。発売後にこんなことがありました。
「ある日、店の留守番電話に『ありみねが欲しい』と高齢だと思われる女性の方から伝言が残っていました。後日、代理の方が来店されたのですが、聞けばその方はダムができる前、今の有峰湖にあたる場所に住んでいたことから、発売するのを知って思い立ったと」(品川さん)
ほかにも、「過去に仕事で有峰ダムに関わったことがあるから」という購入者もいたそうです。
発売したばかりなのに、さまざまなエピソードがある日本酒。有峰ダムが長年にわたり地域と共に歩んできたからこそかもしれません。
ラベルやパッケージの写真は有峰ダム周辺の風景
地域を支えてきた水力発電用のダムが、地域の盛り上げにも役立っていく。町の反応を感じ、北陸電力の平野さんは長く続けていくことを目標に掲げます。
「質が良く、安い電気を安定して確実に届ける。それが私たちの使命です。カーボンニュートラルへのチャレンジをしているなかで、水力発電は二酸化炭素を排出しない重要なエネルギーの一つ。この日本酒をきっかけに、そもそものダムの役割などにも関心を抱いていただければ」と、日本酒の先にある思いも教えてくれました。
2020年6月と2021年10月に追加で貯蔵。ダムの中で静かに出荷の日を待つ
今後、2種類の日本酒は毎年、蔵入れを続けていく予定です。2021年は10月にそれぞれ240本が有峰ダムに貯蔵され、1年、2年、3年ものと、どんどんヴィンテージがラインアップされていきます。
数十年もの長期熟成をするとなれば、広さやその場所がなくならないことも重要になります。その点、ダムは広い上に、そう簡単になくなることはありません。
北陸で生まれた日本酒とダムのコラボレーションは、お酒好きにとって10年、20年と期待でほほが緩み続けるサステナブルな楽しみになりそうです。
■DATA
■桝田酒造店 沙石
住所:富山県富山市岩瀬大町93
TEL:080-2962-6683
営業時間:10:00~17:00(電話は11:00~16:00)
休み:火曜(祝日の場合は翌日)
純米大吟醸「ありみね」(720ml)
1年貯蔵酒:5500円、2年貯蔵酒:6600円
純米原酒「有峰」(720ml)
1年貯蔵酒:3300円、2年貯蔵酒:4400円
※すべて税込。価格は貯蔵年によって変わります
※2021年に蔵出しした420本は完売。次回は、2022年6月上旬に出荷予定です(2年貯蔵酒も同様)
■桝田酒造店
住所:富山県富山市東岩瀬町269
TEL:076-437-9916
http://www.masuizumi.co.jp/
■北陸電力
https://www.rikuden.co.jp/
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
<貢献する主なSDGsの目標>
【今月の密着人】北海道電力ネットワーク株式会社 札幌支店 配電部 配電工事グループ 永井晃輔さん(28歳)
電力会社の大切な使命は、いつでも確実に電気を届けること。電線に掛かりそうな木を伐採し、電気が通る道の安全を確保することも重要な仕事の一つです。そんな中、ごみとして処理していた大量の伐採木を使い、どういうわけか動物園のゾウを元気にしている電力会社の社員がいます。ゾウや動物園、さらには地域全体を喜びに包んだアイデアとは?
伐採した樹木をゾウのご飯に!
突然ですが、動物園の人気者ゾウが、1回に食べる食事の量はどれくらいだと思いますか?
正解は、野生のアジアゾウの場合は、1頭あたり200キログラム程度。一般的な動物園だと、干し草などを与えることが多く、食費は年間で約200万円もかかるそうです。
2020年11月、そんなゾウ4頭が暮らす北海道札幌市・円山動物園に、トラックいっぱいの樹木が運び込まれました。運んできたのは、北海道電力ネットワーク株式会社 札幌支店 配電部 配電工事グループの永井晃輔さん。なぜ電力会社が動物園に樹木を届けたのでしょうか。
永井さん「当社では停電などの事故を未然に防ぐため、電線に掛かりそうになっている樹木を切り落とす保守伐採を行っています。伐採した木は通常、ごみとして廃棄するのですが、一部をゾウのエサとして動物園に無償提供したんです」
札幌支店 配電部が一年間に根元から切る樹木は約6500本、切り落とす枝は約20万本分に上ります。
永井さん「干し草などのエサに比べれば、地元で切ってきた伐採木は新鮮そのもの。ゾウにとって、ものすごいごちそうなんですよ。実際、とてもおいしそうに食べていました」
ゾウへのプレゼントをひらめいた瞬間
電力会社として全国初の試みとなった、伐採木の無償提供プロジェクト。アイデアが生まれたきっかけは、「電線に掛かかりそうな木を切ってほしい」と永井さんが円山動物園に呼ばれた日にさかのぼります。
永井さん「普段は電柱の変圧器点検などの業務を担当していて、木の伐採作業もその中の一つです。伐採した樹木は通常持ち帰るのですが、樹木の所有者に引き取っていただくケースもあり、あの日も『切った木はその辺に置いておいて』と言われました。かなりの量があったので、なんとなく気になりお聞きしたら『ゾウのエサにする』と言うんです」
その瞬間、永井さんの脳裏にかつて円山動物園で見たゾウの姿がよぎりました。
永井さん「息子がとても好きで、年間パスポートを持っているほど家族でよく訪れていたんです。4年前に木を食べるゾウを初めて見て、とても驚きました。ゾウといえばリンゴなどの果物を食べるイメージがあったので、まさか木を食べるなんてと。それを思い出したんです」
伐採木の使い道を詳しく聞いてみると、種類によってサルやキリンなども食べることが判明。それなら他の場所の樹木も使えるかもしれないと、会社に戻ってすぐに企画書作りに取り掛かりました。
永井さん「実は、これが人生初の企画書でした。手探りでしたが、とにかく熱い思いをぶつけたんです。前例はないものの地域に貢献できると社内で認められ、進められることに。動物たちが好む樹木リストをまとめるところから、円山動物園を運営する札幌市と覚書を交わすまで、何もかも初めての経験ばかりでしたね」
動物だけじゃなく地域のために
2020年11月に初めて提供した伐採木は200キログラム。冬を越え、2021年4〜9月には8回に分けて合計3トンが運び込まれました。まとまった量を一度に運ぶのではなく、複数回に分けるのにも理由があります。
永井さん「せっかくなら、おいしく食べてもらいたい。だから鮮度にこだわりたいんです。特に私たちが切った木はその日の内に持っていくので、ゾウたちの食いつき方がまったく違うんですよ。『あっという間に食べてしまった』と、飼育員さんも驚いていました」
今年は年間で約10トンを提供する予定です。ゾウは新鮮なエサが食べられ、動物園は食費が節約できます。それ以上に、もっと大きな価値があることを円山動物園の動物専門員 野村友美さんが教えてくれました。
「枝葉を与えると、折る、樹皮をはぐ、葉をむしるといったゾウのさまざまな行動が引き出すことができ、そうした姿を来園された方々に観察してもらえます。また、食事に時間がかかることや、繊維質が多く栄養価が低いことから肥満予防にもつながるなど、メリットが多いんです。ゾウ4頭分の量を私たちだけで確保するのはとても難しいので、非常にありがたいですね」
さらに環境面にも良い取り組みだと、今後の継続と広がりに期待を寄せています。
永井さん「ちなみに、当社としてもメリットが多いんです。伐採木の保管や運搬、処理に掛かっていたコストを削減できますし、焼却処分をしないので二酸化炭素の排出量削減にも貢献できます。ごみとして処分するだけとは雲泥の差です」
ゾウ、動物園、電力会社、さらには地球にまで良いこと尽くしですが、永井さんが何よりうれしいのは地域とのつながりをより実感できることだと言います。
永井さん「伐採に行った先でこの話をすると、誰もが喜んでくれます。先日訪れた幼稚園でも『この木はゾウさんのご飯になるんだよ』と伝えたら、子どもたちの目がキラキラ輝いていました。地域と共にある電力会社の社員として、改めて実現できて良かったと感じます」
円山動物園での取り組みを機に、同社の旭川支店でも旭山動物園への提供がスタートしました。ちょっとした会話から生まれたアイデアは、今後大きく飛躍しそうです。
永井さん「私は、普段からお客様との会話を大切にしています。ニーズや業務改善のヒントは、ちょっとしたコミュニケーションの中に見つけられるからです。そう思って続けてきたことがついに実を結びました。まだ同じような可能性を秘めたヒントはあるはず。今後もお客様の声に耳を傾け、地域のためになることを実現していきたいです」
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
<貢献する主なSDGsの目標>
中国電力が送る、“電力業界初の試み”という、Nintendo Switch専用ソフト『あつまれ どうぶつの森』のゲーム内でキャラクターを通して行うカーボンニュートラルに向けた取り組み。このような取り組みでは、どのようなことができるの? どのように実現したの?そんな疑問を、中国電力 地域共創本部広報コミュニケーショングループの古谷 浩章さんに熱意たっぷりに語って頂きました。
電力会社が「あつまれ どうぶつの森」で情報発信??
『あつまれ どうぶつの森』ってどんなゲーム?
2020年3月20日に任天堂より発売された、Nintendo Switch専用ソフト『あつまれ どうぶつの森』。本作は様々な動物たちが暮らす無人島で、住人たちとコミュニケーションをとったり、釣りをしたり家具を集めたりなど、ほのぼのとした生活が楽しめるゲームです。部屋の内装などをカスタマイズできるアイテムは種類が豊富で、壁紙や服のデザインは自分で作ることも可能。また、自分の島には友達に来てもらうこともでき、誰かと一緒に遊ぶ楽しみも人気の理由のひとつ。
どんな風にスタートしたの?
電力業界初となる、「あつまれ どうぶつの森」と「カーボンニュートラル」のコラボレーション。ゲームが好きな方々にも楽しんで頂ける取り組みは、どのように実現したのかについてまずはお聞きしました。
古谷さん「今年の2月に今の部署へ異動してきてから少し経った頃、『Facebook10万人いいね!企画』を担当することになりました。会社に入ってから初めての企画だったのですが、地域の方やフォロワーの方に楽しんでいただくだけでなく、将来に向けて何か役立つことができないかと思っていました。また、当時、当社の『カーボンニュートラルに向けた取り組み』に関する認知度がとても低く、特に『女性や若年層』へ情報をお届けできていない、という課題があることを認識していました」
認知度の低さが課題となっていた「カーボンニュートラルに向けた取り組み」。そこで、古谷さんが目をつけたのが『あつまれ どうぶつの森』でした。
古谷さん「『あつまれ どうぶつの森』は、コロナ禍の中において、爆発的に普及しているゲームで、昨年頃からは食品メーカーやアパレルメーカーなど、多様な企業さんがこのゲームを活用した広報活動をされているのを目にしていました。ゲームユーザーではなかったにも関わらず、斬新な取り組みであり、親近感を抱いたことを覚えています。そして、Facebook 10万人いいね!企画を考えていた時期、同部署内で『あつまれ どうぶつの森』で何かできないか?を検討していた段階だったんです。私たちがやりたいことに、この企画がぴったりなのでは?と思い、その日に『あつまれ どうぶつの森』をプライベートで購入しました。自分でもやってみると、見事にハマってしまい……ゲームの自由度が高く、企業の広報でも十分で活用できることがわかりました」
他の部署の方からも意見を貰い、ついに広報活動がスタート!
古谷さん「以降は、先輩方や上司をはじめ、いろんな部署の方から意見をいただきながら、『あつまれ どうぶつの森』を活用した広報企画をスタートさせ、地域やフォロワーの皆さまに楽しんで頂けるよう、当社のマイデザインを制作・配布することになりました。そして2021年6月5日(土)に当社公式Facebook、Instagram、特設サイトにて公表したんです」
中年男性風のキャラクターは広報部長がモデル。古谷さんからの『出演オファー』に部長は快諾だったとか
古谷さんが解説!カーボンニュートラルとは?
取り組みの中心である「カーボンニュートラルを伝えること」。その「カーボンニュートラル」は、“温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする”“脱炭素を目指す”というイメージがあることを伝えると、「おっしゃる通りです」と古谷さん。カーボンニュートラルについて、わかりやすく説明頂きました。
古谷さん「ただ、耳にすることはあっても、なかなか分かりにくいですよね。直訳すると『炭素中立』。これもあまりピンと来づらいですね。意訳すると『CO2プラマイゼロ』といったところでしょうか。カーボンニュートラルは、ダイエットに置き換えると分かりやすい、と聞いたことがあります。ということで、地球=私に、CO2=カロリーに置き換えて考えてみましょう。最近、私(地球)はカロリーの高いものを食べすぎ(CO2を出しすぎ)て、太ってきました(大気中のCO2の割合が高い状態)。太りすぎは、健康によくないですよね(温暖化や異常気象)。自分でも耳が痛くなってきました。ただ、生きていくためには、食事をしないわけにはいきません(呼吸をするだけでもCO2が出ているように、CO2を全く出さない生活はできません)。だから、健康的な食事(CO2排出量をできるだけ低減すること)に加え、運動でカロリーを消費(植林などでCO2を吸収)して、バランスよく健康になろう(CO2プラマイゼロ)!という話なのです」
地球に優しくプラマイゼロを目指すけれど、「ちなみに、当社は多くのCO2を排出しています」と語る古谷さん。そこからどんな行動を心がけていくのでしょうか。
古谷さん「この現実に真正面から向き合い、2050年のカーボンニュートラル達成を目指して、現在、『発電時にCO2を減らすための取り組み』はもちろんのこと、燃料を燃やした後に出る『CO2を回収する技術』の実証研究、また『CO2を出さない発電方法』の開発に取り組んでいます」
ゲーム内でどんなことができるの?
「あつまれ どうぶつの森」内での取り組みは、現在第3弾までを展開中の中国電力。その内容とは?
「えねるぎあ島」では中国電力ならではのマイデザインを配布中
古谷さん「ゲーム内で活用できる『マイデザイン』をダウンロードしていただくことが可能です。第1弾として、当社の作業着やキャラクターを模した帽子、当社のロゴ、第2弾は、当社のスポーツチーム(陸上競技部、女子卓球部、ラグビー部)のユニフォーム、第3弾はカーボンニュートラルグッズとして、『トマトばたけ』『グリーンカーテン』を発表しました」
突然のトマトばたけ! 選ばれたその理由とは……?
古谷さん「マイデザイン第3弾で公開した『トマトばたけ』をご覧になって、『なぜトマトばたけ?』と思われた方もいらっしゃると思いますが、これは、現在検討中である『回収したCO2を作物に利用する』という手法を、『あつまれ どうぶつの森』の中で一足先に表現してみたものです」
部署を異動したての古谷さんが、初めて取り組んだ大きな本企画。そこで生まれた苦労は計り知れません。
古谷さん「個人的には、仕事として初めての企画であり、アイデアを形にしていくことの難しさを強く感じました。会社としても、今までに取り組んだことのないジャンルの企画だったので、ユーザー目線を大切にしつつ、社内でもいろんな方の意見を聞きながら、みんなで作り上げていくよう、意識しました」
取り組みで生まれるユーザーとの関わり
ゲーム内でのユーザーの関わりについて、古谷さんは「ゲーム内において、利用者とのコミュニケーション企画は、まだ行っていません。今後、利用者が楽しめる企画があれば、実現したいと考えています」と、これからに期待できる発言。では、SNSやニュースを見た方々から得られた反応とは?
古谷さん「みなさんからの反応として、総じて『かわいい』というコメントが多く、親近感を感じていただけた方も多かったようで、とても嬉しかったです。印象的だったのは、SNSでマイデザインを着用していただき『ダウンロードしました!』と画像を投稿されていた方を目にした時です。感動しました」
今回の「あつまれ どうぶつの森」内での取り組みに関しては、オンライン上での活動だけでなく、直接子どもたちに接する“出前授業”という場で、新しい企画として紹介も。
古谷さん「当社SNSでは、フォロワーさんからいいね!や肯定的なコメントをいただいています。社内からも、新しいことへのチャレンジとして頑張ってという激励や、いつかゲームでの広報が当たり前になれば、そんな仕事もしてみたい等の声もいただいています。先日は、出前授業で小学生の子供たちに紹介してみたところ、授業の雰囲気が一変するほど反応が良かったという声も伺いました。新しい企画なので、今後もさまざまな場面で活用していけるよう、アンテナを張っているところです」
斬新な視点から企画を進める古谷さんの、今後の展望にも注目です。
古谷さん「電力会社にとって、カーボンニュートラルに向けた取り組みの重要性は非常に高まっています。取り組みを進めるにあたっては、社内だけではなく、さまざまな方にご理解いただく必要があります。『あつまれ どうぶつの森』を通じて、幅広い方々にカーボンニュートラルについて知っていただくことが大切になると思います。そして、堅苦しいところだけではなく、みなさんに楽しんでいただきつつ、寄り添い、お役に立てるような企画を進めていければと考えています!」
ゲーム内にもある“電化”
「あつまれ どうぶつの森」での中国電力の取り組みを紹介しましたが、カーボンニュートラルを実現するためには、私たち電気を使う側の「電化」も重要な取り組みとされています。ゲームでは、その時々の世相を反映した内容も多いようですが、近年ではエネルギーが電気へ転換された「電化が進んだ世界」という舞台設定も見られることをご存じでしょうか?ここでは、2つのゲームをご紹介します。
最初に紹介するのは、フィンランドのゲームデベロッパー、コロッサル・オーダーが開発した都市開発シミュレーションゲーム「Cities: Skylines(シティーズ:スカイライン)」。PCだけでなく、 PlayStation 4やNintendo Switchなどでもプレイ可能です。
プレイヤーは都市計画のために、家やお店、学校などの施設の設置はもちろん、地下に水の通り道を作ったり、電気を通す作業もしなくてはいけません。作った都市は、その内容で人口や、そこに住む人の健康状態や学力などにも影響が出てきます。このゲーム内で見られる“電化”は、太陽光発電所や風力発電所など。生活基盤の整備に欠かせない要素として登場します。外国で見られる、水上型風力発電所も見逃せません! 拡張パックの「Green Cities」では、グリーンな脱炭素社会がテーマになっており、ソーラーパネルを設置して公共の電力消費を抑えられる環境に優しい建物や電気自動車なども登場するとか……!
続いて、コジマプロダクションによって制作されたPlayStation 4用ゲーム「DEATH STRANDING(デス・ストランディング)」。伝説の配達人と呼ばれている主人公・サムを操作して、荷物の配達ルートを開拓し、無事に目的地まで運ぶことが目的のゲームです。
本作に登場する“電化”は、風力発電所、電気で走る車やバイクなど。バイクはゲームのオープニングから主人公が乗っている姿を確認できます。ゲームを進めて、バッテリーの発電所を作成すれば、自由に乗ることも!
多くの人が毎日あたりまえに使っている電気ですが、生活になじみすぎて改めて向き合う機会は日常の中でそう多くありません。とはいえ、国際的に、環境的に、二酸化炭素やエネルギーの問題は、無視できない課題。そんな中で、中国電力が取り組む『あつまれ どうぶつの森』内での活動や、ゲームに登場する“電化”で年齢や属性を問わず日常の中で触れる機会があるというのは、これからの未来に対して、大事なことなのかもしれません。
文=永野鈴夏
★「カーボンニュートラル」についてもっと知りたい方に!
『「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?』
「カーボンニュートラル」って何ですか?(後編)~なぜ日本は実現を目指しているの?』
(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の役に立つため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしているのをご存じでしょうか。今回は、東京電力グループが手掛ける世界最大級の野菜工場にフォーカス。食料の大部分を輸入に頼る日本にとって、またSDGs(持続可能な開発目標)達成に向けて大きな期待が寄せられています。気になる味や安全性など、工場生まれの野菜の魅力に迫りました。
東京電力が静岡県藤枝市の工場で育てる野菜とは?
見るからにおいしそうな、青々とした立派なレタスたち。
左から時計回りに、グリーンリーフ、フリルレタス、サニーレタス
実はこれ、“工場生まれ”の野菜です。種まきから収穫まで一度も屋外に出さず、すべての作業が工場の中で行われています。
食べてみると、葉の一枚一枚が肉厚でみずみずしく、食感はパリッ! 何もつけずそのままでもおいしいだなんて、これならサラダもごちそうになりそうです。
作っているのは、静岡県藤枝市にある彩菜生活合同会社(以下、彩菜生活)の藤枝工場。2020年7月にスタートした世界最大級の生産能力を誇る「完全人工光型植物工場」が、このレタスたちの故郷です。
藤枝市の完全人工光型植物工場の内部。彩菜生活は、東京電力エナジーパートナー株式会社、芙蓉総合リース株式会社、株式会社ファームシップの3社による合同会社として設立された
完全人工光型の植物工場とは、LEDライトを利用し、人工の光だけで植物を育てる工場ということ。現在、毎日約2.5トンのレタスが収穫され、全国各地の食品加工工場へと出荷されています。
味は「おいしい!」と断言できるものの、気になるのが普通の畑で育てられた露地栽培の野菜との違い。実際のところ工場で作った野菜とは、どんなものなのでしょうか。
工場産の野菜だから無農薬でも長持ちする
露地栽培との決定的な違いは、天候や虫などの自然環境に左右されることなく、安定した栽培ができるところにあるそうです。
LEDライトの光の強さや当てる時間だけでなく、温度や湿度、二酸化炭素濃度、水の量、栄養素の配合など、あらゆる要素を調整できるため、野菜にとって快適な環境を人工的に作り出すことができます。
栽培時に理想的な環境を安定させると、野菜は同じような大きさに、早く、健康的に育ちます。だから…
・露地栽培よりも早く収穫できる
・無農薬でも虫食いや病気の心配が少ない
・形の違いなどによる廃棄ロスが少ない
などメリットが多いのです。
パレットの下には養液で満たされたプールがあり、野菜はそこから水分と栄養を取り込む
また、衛生的で長持ちすることも特筆すべき点。
ホコリや虫を入れない徹底した衛生管理のもと、雑菌の多い土を使わない水耕栽培(水と液体肥料による栽培方法)で育てられているため、野菜を腐らせる原因となる細菌の数を圧倒的に減らしているといいます。
どのくらい違うかといえば、1グラムあたりに付着している生菌数(細菌の数)が露地栽培の野菜はおよそ100万個なのに対して、藤枝工場の野菜は1000~1万分の1 (同社調べ)。それだけ工場生まれの野菜は傷みにくいというわけです。
しかも、ここで作られた野菜は、工場内で密閉されて出荷するのが原則です。出荷先の食品加工工場も衛生管理が行き届いた屋内で開封・加工するため、基本的には商品になるまで屋外にさらされることがありません。
「葉の裏に小さな虫が…」というような、葉物野菜を買うとたまに経験するアレがないに等しい、というのも大きなメリットでしょう。
野菜栽培に役立つ電力会社の省エネ技術
「実は世界的に見ても、日本は完全人工光型植物工場のシーンをリードする存在です」
そう教えてくれたのは、彩菜生活の立ち上げに深く関わる東京電力エナジーパートナー株式会社 法人営業部の井田健介さんです。
井田さんは彩菜生活のアイデアを立案した中心人物の一人。そこに込めた思いを熱く語ってくれた
彩菜生活を立ち上げるきっかけとなったのは、井田さんが仕事で訪れた食品関連会社からの相談でした。
「『最近、野菜が安定的に手に入らなくて困っている』というのです。気象状況の変化が原因で野菜が不作になることが増え、さらに入手できても質が悪く、価格が高いこともあると。それで調べてみたら、状況の深刻さに驚きました」
世界的な人口爆発による食料難や日本の農業が抱える人手不足など、気候変動の他にも問題は山積みだったといいます。
「社会問題の解決の役に立つことは、電力会社の使命だと考えています。そのためには電気を別の価値のあるものに変換し、提供してもいいはず。そう考えた結果が、野菜工場でした」
ウレタン製のパレットにレタスの種を撒いて数日立つと、少しずつ芽が出てくる
完全人工光型植物工場の場合、工場や機材などへの初期費用、空調設備やLEDライトの光熱費をはじめとした維持・管理費用がかかり、露地栽培に比べると多くのコストがかかります。当然、最終的な野菜の価格も少し高くなります。
ただ、それを上回るメリットは前述のとおり。仕入れを安定させながら衛生面も徹底しなければならない食品加工業者にとっては、喉から手が出るほどのもの。とはいえ高いとなると、なかなか使えません。
そこで重要となるのが、栽培のさまざまな場面で使われる電気の消費量です。工場生まれの野菜の価格を左右するといっても過言ではなく、このコントロールが業界全体の悩みとなっていました。
消費電力の抑え方が重要となれば、電気の使い方や省エネにノウハウを持つ電力会社の出番だ、と井田さんは感じたそうです。
「電力会社は電気の安定供給を使命とし、さまざまな企業に日々電気をお届けしていますが、オフィスや工場の省エネコンサルティングも重要な役割の一つです。そのノウハウを生かすことができれば、野菜工場による“食料の安定供給”を成功させることができると考えています」
一定の大きさに育つと、ゆとりのあるパレットへお引っ越し。上部のLEDライトがついたり消えたりすることで昼夜を再現する
さらに大きく育ったら、もっと間隔の広いパレットに移動。収穫まではもうすぐ
野菜工場を世界に求められる日本の産業に
立ち上げ前、井田さんが特に危機を感じたと語ってくれたのが、日本の食料自給率が30%台という事実でした。
今後、農業人口の高齢化や減少により、さらに低下してしまうであろうことが現実問題となっています。
収穫時の大きさは20センチメートルほど。栽培室は2階建てで、一日最大5トンを収穫できる生産能力がある
「いざというときのことがほとんど考えられていないのが、日本の現状です。電気と同じで、そこにあるのが当たり前だと考えていては、いざ供給がストップし、慌てて対応しても遅いでしょう。一刻も早く、食料を安定的に調達・供給できる仕組みを確立していかなければならないのです」
収穫されたレタスは袋に密閉、箱詰めされ冷蔵庫へ。そこからトラックで出荷される
同時に、食料自給率を上げることができれば、輸入にかかっているコストや、輸送時に排出される二酸化炭素量が軽減されるなど、別の効果が期待できることも忘れてはなりません。
野菜工場は、SDGsの目標として掲げられている「飢餓をゼロに」や「気候変動に具体的な対策を」などを達成に近づける実現可能な方法の一つと言えるのです。
野菜作りはSDGsの目標「飢餓をゼロに」、そして結果的に二酸化炭素排出量の削減につながれば 「気候変動に具体的な対策を」にも寄与する
彩菜生活からレタスを仕入れているコンビニに商品を卸す食品加工会社は、「安定した野菜の入手が難しくなってきている中で、私たちの仕事を持続させるためにも、将来的にできる限り多くの工場野菜を取り込んでいきたい」と、大きな期待を寄せています。
また、藤枝市にある食品加工会社からは「もっと地場産の食材を取り入れたいと考えていたので、地元に世界最大級の野菜工場ができてとてもうれしい」「新しい雇用が生まれ、地方創生にもつながる」といった声も。
野菜工場の誕生は、SDGsに掲げられる目標の「働きがいも経済成長も」や「産業と技術革新の基盤をつくろう」 にもつながりそうです。
地元に雇用を生み出すとともに、地域創生にもつながることから、SDGsの目標「働きがいも経済成長も」や「産業と技術革新の基盤をつくろう」にも貢献する
現在、彩菜生活のレタスは食品加工会社を通じて、サラダやサンドイッチへと姿を変え、全国のコンビニやスーパーの店頭などで手に取ることができます。
今後は、ニーズに応じて他の野菜や穀物を育てることも視野に入れているそうです。
「最終的には、世界へと輸出できる産業に成長させていきたいと考えています。SDGsの達成を目指すこれからの時代にとって、野菜工場が持つ価値をもっと広く知ってほしいです」
彩菜生活のレタスは、カット野菜やサラダなどの加工食品になってコンビニなどに並んでいる
味はもちろん、地球にも優しい工場生まれの野菜。日本の食料問題の解決やSDGsという世界の目標を形にするためにも、野菜工場のさらなる広がりに期待したいですね。
■DATA
東京電力パワーグリッドの中央給電指令所指令室(※写真はコロナ禍前のものです)。エリア全体の需給バランスの調整を実施
東京2020オリンピック・パラリンピックで熱戦が繰り広げられている今夏。同大会で、会場にある電力供給設備の安定的な運営や、電力供給設備不具合時の対応などを全面的にサポートしているのが、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(東京2020 組織委員会)と「東京2020 オフィシャルコントリビューター契約」を締結した東京電力ホールディングスだ。
そこで今回、東京電力ホールディングスと、首都圏の送配電サービスを担う東京電力パワーグリッドの広報担当者にインタビューを実施。東京2020オリンピック・パラリンピックの電力サポートについて、また、今夏の電力需給の見通しについて話を聞いた。
会場周辺の電力供給設備の点検をする東京電力パワーグリッドの野沢さんと佐藤さん(左から)
ゲリラ豪雨や台風などの自然災害に備えています
――「東京2020オフィシャルコントリビューター」としてオリパラの電力サポートを担っているとのことですが、どのような役割なのでしょうか?
【広報担当者】大会運営期間中の電力供給設備に関する連絡や復旧体制の強化、点検強化、また大会会場などへの電力供給設備不具合時の緊急対応、会場施設内の電気設備構築および運営支援などです。
東京五輪選手村が開村した7月13日に、「東京2020大会開催に伴う特別保安態勢」も立ち上がり、本社と24時間稼働の重要施設を管轄する東京総支社・銀座支社・上野支社・渋谷支社にて、“24時間体制”で特別保安態勢を構築しています。さらに、サイバーセキュリティについても、セキュリティ監視体制および防御システムを強化しています。
――大会の電力サポートについて、懸念されている点はありますか?
【広報担当者】近年は、ゲリラ豪雨の増加や自然災害の激甚化など、電力供給において懸念すべき点も増えていますが、当社といたしましても迅速に対応できるよう態勢を強化しています。また、大会会場などの主要施設については、IOCとも連携し、設備を冗長化するなど、電力供給の信頼度を向上させています。具体的には、主要施設の電力供給を2回線化(本線・予備線)しており、本線が停止しても予備線がバックアップしますし、それが停止しても、施設側の非常用発電機に切り替えられるので、競技(1日分)は中断することなく継続することが可能です。
会場周辺の電力供給設備の点検風景。声出し、指差しで確認
電力供給設備点検の際の装備
気になる今夏の電力事情は?「でんき予報」をチェックして“電気の効率的な使用”に協力
――今年は特に暑くなるようですが、今夏の電力需給の見通しはいかがでしょうか?
【広報担当者】電力の消費量が増加する夏と冬の電力需給の見通しについては、電力広域的運営推進機関(広域機関)などが中心となり策定しています。一般的に電力供給の余力を示す“供給予備率”は最低限3%必要とされていますが、今夏は、他電力も含めてその3%以上は確保できる見通しとなっています。
また、今夏については経済産業省より、発電事業者に対して保安管理の徹底・計画外停止の未然防止・燃料の十分な確保、小売事業者に対して市場安定化の対策・供給力確保の要請があり、加えて、需要家に対しては、無理のない範囲での電気の効率的な使用を呼びかけられています。
1日あたりの電力使用見通しが分かる「でんき予報」
インターネットで、日々の電力使用の見通しや、それに対する供給力の状況について、分かりやすくお伝えすることを目的にした「でんき予報」というものも見られるので、1日あたりの電力使用見通しが気になる方はそちらも見てみてください。
また、マスコットキャラクター・でんこちゃんが省エネに関するお話をお伝えしています。グループの東京電力エナジーパートナーのWEBサイトでは、『TVチャンピオン』(テレビ東京系)で優勝した“家電王”中村剛さんによる「今日より明日は、ちょっといい暮らし。」をコンセプトにした読み物を公開しているので、より効率的な電気の使い方も知ることができます。
中村剛さんが監修するコンテンツ、TEPCOの「くらしのラボ」は、14万人を超えるフォロワー数を誇っているんですよ。6月には、“梅雨時を少しでも快適に過ごせるように”、7月には“暑い夏を快適に過ごせるように”サポートしてくれる家電をご紹介しているので、ぜひ読んでみてくださいね。
WEBで東京電力のマスコットキャラクター・でんこちゃんが、“省エネ”に関する話を紹介
“家電王”中村剛氏監修のTEPCOの「くらしのラボ」も人気のコンテンツ
でんき予報
https://www.tepco.co.jp/forecast/
TEPCOの「くらしのラボ」
https://www.kurashi.tepco.co.jp/pf/ja/pc/pub/site/kurashinolab/index.page
出典:ウォーカープラス
夏から秋にかけては、特に台風や豪雨などの災害が起こりやすくなる季節。
これからに備えてぜひ知っておきたい、災害時の“電気”への心構えと対策について、備え・防災アドバイザーの高荷智也さんにお話を伺いました!
******
大地震、噴火、台風、豪雪……、日本は世界でも有数の自然災害大国ですが、毎年のように「想定外」「過去最大」などの言葉を含む災害報道がなされています。これらの災害でとりわけ問題となるのは人命が失われる事態ですが、人的被害が生じなくとも、建物やインフラに大きな影響をもたらすことがあります。
電気・ガス・水道といったライフラインに被害が生じると、物理的な被害が生じていなくとも生活に大きな影響がもたらされます。とりわけ「電気」が失われると、ガス器具や水道器具も使えなくなることがあり、大きな問題となります。このコラムでは、自然災害による停電への備えについて解説をいたします。
停電をもたらす災害について
災害で生じる停電はどのように生じるのでしょうか。火災や浸水の影響で自宅そのものが被害を受けた場合は、当然電気も使えなくなってしまいますが、自宅や地域が無事でも停電に巻きこまれることがあります。これは大きく分けると2つの原因があります。
■送配電網が被害を受ける場合
分かりやすいのは送配電網に対する被害です。例えば大地震の揺れや台風による暴風で、自宅周辺の電柱が転倒したり、飛来物により電線が切断されたりした場合は、周辺地域が停電することになります。大地震が発生した場合は被災地の送配電網が同時に破壊され、町の復旧とあわせて電力網の復旧を行うことになるため、いわば分かりやすい停電の原因と言えます。また、台風による暴風でも送配電網は大きな被害を受けますが、山間部の鉄塔などが被害を受けた場合は復旧に時間がかかるため停電が長期化することになります。
例えば2019年の令和元年房総半島台風(台風15号)では、千葉県を中心に大規模かつ長期間の停電が発生して問題となりましたが、これは暴風で送配電網に物理的な被害が多数生じたことが主要原因です。
■発電所が被害を受ける場合
一方、電柱や電線などの送配電網が無事だった場合や、被災地から離れた場所についても、災害による停電に巻きこまれることがあります。これは送配電網ではなく、電力を生み出す発電所が被害を受けたか、何かの原因で電力供給ができなくなった場合に生じる現象です。
例えば2018年の北海道胆振東部地震では、被災地から離れた地域を含む「全道停電」が発生しました。これは、大地震の影響で北海道最大の発電所である苫東厚真火力発電所および、周辺の発電所が立て続けに停止したことで、道内の電力需給バランスが崩れ、「ブラックアウト」と呼ばれる電力供給が停止する現象に発展したためです。結果、被災地以外の電力設備は無被害でしたが、発電所からの電力供給ができなくなり停電に至ってしまいました。
また2011年の東日本大震災でも、東京電力管内の原子力発電所および、東京湾にある大規模な火力発電所が停止したため電力不足となり、「計画停電」が実施される事態となりましたが、これも発電所由来の停電のひとつと言えます。被災地以外でも停電に巻きこまれる恐れがある、ということは知っておくべきことです。
停電の発生で問題になること
では、災害により停電が発生すると、具体的にはどのような問題が生じるのでしょうか。2つのシチュエーションについて紹介をいたします。
■安全行動と避難への影響
停電による最大の問題は、安全行動や緊急避難に支障が生じることです。2016年に発生した熊本地震など、夜間に大地震が発生して停電が生じた場合、室内に停電対応の明かりがないと、身動きが取れなくなってしまいます。暗闇の中では転倒する家具・落下する荷物・割れて飛散するガラスなどから身を守る安全行動が取りづらくなる他、津波や土砂災害などからの緊急避難にも時間がかかるため、命を落とす危険性が高まってしまいます。
大地震の揺れは、北海道から沖縄まで日本中いつでもどこにでも生じますので、夜間の大地震による停電対策はどの家庭でも必須です。また近い将来の発生が想定されている南海トラフ地震は、2011年の東日本大震災よりも震源が陸地に近くなる可能性があり、この場合地震発生から数分で津波の第一波が到達する地域が生じます。文字通り1分1秒を争った避難が必要になるため、停電時に素早い避難ができるようにする対策が重要となります。
■被災生活への影響
災害の直接的な影響から命を守った後は、生活を維持することが必要になります。しかし停電が発生した場合、自宅にある電化製品全般が利用できなくなる他、ガスが来ていても給湯器が動かせなくてお湯を使うことができなくなったり、水道が無事でもマンションの送水ポンプが停止することで特定建物だけ断水したりと、電気以外のライフラインに影響が生じることもあり得ます。
またタワーマンションなどの場合はエレベーターが停止することで身動きが取れなくなりますし、地域の信号などが止まることで流通に影響が生じたり、店舗が営業できなくなったりすることで、食品や日用品の買い物ができなくなることも考えられます。停電が生じると、家電が使えなくなるだけでなく、他のインフラ全般が止まってしまうため、防災備蓄品の事前準備などが必要になります。
停電への備え
こうした被害に備えて、どのような準備をしておくべきでしょうか。家庭で行っていただきたい停電への備えについて紹介をいたします。
■避難用の明かりを確保
まずは安全行動・避難行動を取るための明かりを確保することが重要です。玄関・廊下・脱衣所・リビングなど、無防備になりやすい場所や避難時の導線になる場所には、停電時自動点灯ライトなどを設置することをおすすめします。写真のライトは、日頃からコンセントに挿しっぱなしにしておくタイプで、常にフル充電されるため電池切れの心配がなく、停電すると勝手に点灯して周囲を照らします。
日頃からコンセントに挿しっぱなしにしておく上記のようなタイプのライトは、常にフル充電されるため停電時に電池切れの心配がなく便利
寝室の枕元には、ライト・ホイッスル・軍手・スリッパなどを入れたポーチを、大地震の揺れでも飛ばされない様に固定して置いておくことを推奨します。スマートフォンなどを充電しながら寝ている場合でも、大地震のゆれでどこかに飛ばされてしまうと見つけることは困難です。周囲を照らす明かり、手足を守る軍手とスリッパ、身動きが取れない場合に助けを呼ぶ笛を、枕元に固定しておくとよいでしょう。
ポーチの中身イメージ。ライト・ホイッスル・軍手・スリッパ・必需品の眼鏡などを入れたポーチを、大地震の揺れでも飛ばされない様に枕元周辺に固定しておく
■電力そのものを蓄電する
生活用の電力としては、まず電気そのものを貯めておくことを考えます。大容量のポータブル電源、スマートフォン用のモバイルバッテリー、乾電池などの準備がこれに該当します。在宅用の医療器具や、熱帯魚用のポンプなどを維持したい場合は、大容量のポータブル電源と、充電するためのソーラーパネルや発電機の準備が必須です。自動車がある場合、EV車やPHEV車などでコンセントが付いている自動車であれば延長コードを、なければシガーソケットから100Vの電力を得るインバーターなども準備しておきましょう。
大容量のポータブル電源、スマートフォン用のモバイルバッテリー、乾電池や各種ケーブルを生活や用途に合わせて準備しておきましょう
安価に済ませる場合は、モバイルバッテリーや乾電池などを準備しておきます。モバイルバッテリーは日頃から使っていれば流用できますが、防災専用に準備する場合は定期的な充電の手間やコストがかかるため、乾電池の備蓄を多めにして、乾電池スマートフォン充電器などを用意しておくと良いでしょう。また自宅で使う乾電池器具、LEDライト・携帯ラジオ・スマートフォン充電器などは、全て「単三電池」で動く器具に統一するなどすれば、使い回しができて便利です。
■電力の代替品を準備する
電力を貯めておくことは大変ですし、停電により他のライフラインが停止する場合もありますので、電気の代替手段を準備することも重要です。まず非常用トイレは重要な備蓄品ですので、必ず用意して下さい。1日5回×家族人数×最低7日分を目安に、袋と凝固剤がセットになっている「非常用トイレ」を用意します。停電時に水道が止まるマンションなどに住んでいる場合は特に重要です。断水対策として、飲料水のペットボトルや、ウェットティッシュなども用意しておくと良いでしょう。
またカセットコンロとガスも大変役立ちます。停電が生じるほどの災害では同時にガスも停止する可能性が高いためです。むろんIHなどを使っている場合も、停電時にはカセットコンロが必須となります。ボンベ1本で60分程度使えますので、家族1~2名につき1日1本×7日分程度あると安心です。また発災直後は調理などをする余裕がないこともありますので、そのまま食べられるものを中心とした非常食を3日分程度。カセットコンロ調理を前提とした備蓄食をさらに4日分程度、あわせて1週間分程度の備蓄品も用意しましょう。
災害時のスマートフォン活用について
前述のモバイルバッテリーの用意などがあれば、携帯基地局が生きている限りスマートフォンを使うことができます。スマートフォンはある意味では最も進化した防災グッズのひとつと言えますので、上手く活用ができるように事前準備などを行ってください。
■安否確認について
災害時は通信規制の影響をうけるため、電話やE-mailが利用できなくなることがあります。一方、スマートフォンによるインターネットは利用できる可能性が高いため、LINEや各種のSNSアプリなど、Web完結型の連絡手段を用意しておき、あらかじめ家族グループなどを作っておくと、安否確認がスムーズになります。停電直後は携帯基地局がバッテリーなどで稼働するため利用できる可能性が高いですが、停電が長引くとダウンして使えなくなりますので、安否情報だけは早めに確認しておくとよいでしょう。
■避難に関する情報収集
防災アプリでおすすめしたいものが、「Yahoo!防災アプリ」と「NHK ニュース・防災アプリ」です。Yahoo!防災アプリは、緊急地震速報や、各種の気象警報、自治体からの避難情報などをまとめて受け取ることができます。携帯キャリアの緊急地震速報はWi-Fiで使えないなどの問題がありますが、各種のアプリはこうした問題もなくおすすめです。また災害直後の広域情報は、NHKアプリで確実な情報だけを収集できます。この2つのアプリを最低限入れておくと、災害の不意打ち防止と直後の情報収集に大変役立ちます。
■停電情報に関する確認
停電に関する情報収集も、スマートフォンアプリが役立ちます。停電したのにスマートフォンで情報収集が可能なのかと疑問に思われるかもしれませんが、前述の通り停電時は携帯基地局がバッテリーなどで動作するため、停電直後でもスマートフォンによる情報収集がしやすい場合があります。
各電力会社が、停電情報を通知してくれるアプリなどを公開していますので、お住まいの地域の送配電会社の停電速報アプリインストールや、HPのお気に入り登録をしておくと良いでしょう。以下に、いくつかの例をご紹介します。
東京電力ホールディングス…TEPCO速報
https://www.tepco.co.jp/info/sp_app-j.html
中部電力パワーグリッド…停電情報お知らせサービス
https://powergrid.chuden.co.jp/takuso_service/ippan/safety/taishoho/tei_oshirase/
関西電力送配電…関西停電情報アプリ
https://www.kansai-td.co.jp/others/teiden-appli/
■災害後のスマートフォン活用
電子書籍などで防災ブックや応急手当ブックなどをダウンロードしておくとかさばらずに便利です。また自宅や家財が被害を受けた場合は、後日の罹災証明取得や保険請求時に写真があると役立ちますので、片付けを始める前にスマートフォンでたくさんの写真を撮っておくと良いでしょう。災害にもスマートフォンは役立ちますが、充電手段が必要ですので、前述のような蓄電の準備をぜひ行ってください。
高荷智也(ソナエルワークス代表|備え・防災アドバイザー)
「備え・防災は日本のライフスタイル」をテーマに、「自分と家族が死なないための防災対策」のポイントを理論で解説するフリーの専門家。大地震や感染症など自然災害への備えから、銃火器を使わないゾンビ対策まで、堅い防災を分かりやすく伝える活動に定評があり、講演・執筆・メディア出演の実績も多い。著書に『最善最強の防災ガイドブック』『ゾンビから身を守る方法』など。1982年、静岡県生まれ。
【公式サイト「備える.jp」】https://sonaeru.jp
★さらに停電の長期化を防ぐための電力インフラ・システムについて知りたい方はこちら!
『始まった、電力レジリエンスのための新制度~停電の長期化を防ぐために』(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の役に立つため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしているのをご存じでしょうか。今回注目したのは、四国電力が地域と協力して進めている「四国家(しこくけ)」のプロジェクト。四国4県が一つの家族となって、四国の魅力を全国に届けています。
四国の“おいしい”がワンセットに!
瀬戸内に浮かぶ島々が織りなす美しい海景、88カ所の霊場を巡るお遍路、スダチにうどん、ミカンにカツオと聞いて思いつくのはそう、四国。
徳島県、香川県、愛媛県、高知県それぞれに、雄大な自然と古くから大切にされてきた文化、海の幸と山の幸にあふれた、一度は行ってみたい場所でしょう。
そんなエリアで、「行きたくても、行けないっ!」というこのご時世に誕生したのが、四国4県のお土産をまとめた「四国家 故郷(さと)のものがたり」です。
「しこくたぬきのぽんちゃんが、四国遍路で見つけた良いものをおすそ分けする」というコンセプトのもと、あるテーマに合った逸品を四国4県から1つずつセレクトしたセットになっています。
実はこの商品、四国電力をはじめ、四国に根差した企業が協同で販売しているもの。
2020年10月の第1弾発売以来、
「四国が一つに詰まっていて良い。また買いたいです!」
「自分では買わないようなものも試せて良かった」
「コロナ禍で旅行ができないので、今後のシリーズも期待しています!」
「ぽんちゃんに惹かれました!」
といった反響が寄せられ、およそ半年で第5弾まで発売。第4弾までは既に完売するほどの人気ぶりです。
2021年4月に発売された第5弾セット。オリジナル巾着袋入りで価格は2052円(税込)
2021年4月に発売された第5弾のテーマは、家呑みに最適な「お酒のお供」。各県から下の4商品がセレクトされました。
【徳島県】
「国産 寒さば 木頭ゆず味噌煮」(黄金の村)/木頭ゆずと寒サバを味噌でじっくり煮込んだ缶詰
【香川県】
「香川県産しょうゆ豆」(黒川加工食品)/そら豆と香川本鷹唐辛子を秘伝の甘辛タレに漬け込んだ豆
【愛媛県】
「ポリポーリ(鯛)」(別子飴本舗)/ブランド里芋・伊予美人と宇和海産の真鯛を練りこんだ甘くないかりんとう
【高知県】
「室戸のこだわりおでん」(山本かまぼこ店)/地産野菜で作った昭和風の懐かしい味わいおでん
四国各県の空港や駅などの売店のほか、オンラインショップでも買うことができるので、たとえ現地に行けなくても四国グルメをまとめて楽しむことができます。
そんな四国の“おいしい”をまとめたお取り寄せが、もう一つ。それは2021年3月に発売された、日本酒の家呑みセット「四国銘酒88 おへんろ絵巻」です。
全国的に有名な銘柄から、めったにお目にかかれない銘柄まで、四国の地酒88種類がなんと一つのセットに!
お遍路をイメージした特製イラストラベルは、眺めるだけでも楽しい。1000セット限定。1本300ml×88本で価格は8万8000円(※販売受付終了)
四国4県の50の酒蔵からこれだけの銘柄が一つの商品として集まるのは初めてで、毎月8本ずつを11カ月にわたって届けてくれるという、お酒好きには垂涎ものの地酒セットになっています。
参加した酒蔵の一つ、西野金陵 多度津工場 工場長 前田良平さんは、「こうした取り組みを四国の酒蔵が一緒にするのは初めてではないでしょうか。コラボすることで新しい客層を広げていけるのでは」と、同商品に期待しています。
また、「四国銘酒88 おへんろ絵巻」の売り上げの一部は、お遍路で巡る四国八十八ヶ所霊場の世界遺産登録に役立ててもらうために寄付されます。
「外出が制限されることが多い中、心の余裕を持つひとときの一品としてお求めいただければうれしいです。少しでも四国の酒に興味を持っていただき、さらには四国遍路世界遺産登録に関心を持っていただきたいです」と、本家松浦酒造場 蔵元 松浦素子さん。
日本酒とお酒のお供で“家呑みお遍路”なんて、この機会にしかできない楽しみ方かもしれません。
四国4県が一つの家族になります
前述のお土産セットの名前にある「四国家」とは、四国4県を一つの家族と思い、“家族みんなで家を盛り上げていこうよ”というメッセージが込められています。
四国家の誕生は、長年地域を支えてきた3つの会社が手を取り合ったのがきっかけでした。
2017年に四国旅客鉄道株式会社(以下、JR四国)と日本郵便株式会社 四国支社(以下、日本郵便四国支社)が、翌年に四国電力株式会社(以下、四国電力)が加わり、地域の活性化を目指して3社連携協定を締結。
「四国家 故郷のものがたり」も、そんな3社が試行錯誤しながら地域と共に作り上げたプロジェクトの一つです。
連携プロジェクトを担当する四国電力の篠川吉宏さんは、「セットに入れる商品は公募しているので、たくさんのおいしいものが四国中から集まります。一つ一つ試食しながら、『これとこれを組み合わせたらおいしい』『こんなシチュエーションで食べるといいんじゃない』というふうに、作り手と購入される方々の顔を思いながら考えています。私は愛媛県出身ですが、まったく知らなかった地元のグルメに出合うことも。毎回、驚きの連続です」と、四国家によって地元の魅力を再発見しているといいます。
商品選定には、「四国ツーリズム創造機構さんや四国経済連合会さんなどにも試食してもらってます」と四国電力の篠川さん
四国全域を盛り上げるという壮大な連携協定ですが、実際にプロジェクトを動かしている事務局では、篠川さんを含め20代の若い世代が活躍しています。
数年前まで県外で学生時代を過ごしていた若い世代のアイデアを取り入れることで、良い意味で“四国っぽさがない”のも魅力の一つに。
「『故郷のものがたり』はとても好評なので、今後は販売数や販売店を増やしていきたいです!」と篠川さん。今後も楽しみです。
ちなみに、お土産セットの巾着袋に描かれているのは、四国家のマスコットキャラクター「しこくたぬきのぽんちゃん」。全国的にはあまり馴染みがないかもしれませんが、タヌキは四国に縁の深い動物だそうです。
「故郷のものがたり」公式キャラクターのぽんちゃん。目指すは四国の顔!
四国家の家族を全力サポート!
3社連携で進めているプロジェクトは、地元の子どもたちの郷土愛を育むための親子体験ツアーなど、他にもまだまだあります。
中でも「お弁当マルシェ」は、コロナ禍で厳しい状況に追い込まれた飲食店の大きな助けとなりました。
JR四国と日本郵便四国支社が弁当の運搬を担い、四国電力が仕分け場所や机など販売に必要な備品を提供。日中の人通りが少ない街にある飲食店が、費用負担を軽くしながらビジネス街である高松市内で弁当販売をできるようにしました。
坂出市から4店舗、さぬき市から10店舗が参加した「お弁当マルシェ」
また、コロナへの対応に長らく尽力している医療従事者のために親子イベントも開催。わずかでも子どもとすごせる時間を、と竹食器作りやボルダリングの体験ツアーを行っています。
こうしたプロジェクトを積極的に行っているのは、3社ともが地域と深いかかわりを持つ会社だからです。
これまでの3社連携プロジェクトについて、日本郵便四国支社で担当する田處(たどころ)正直さんは、「各社がそれぞれの強みを生かし、協力して地域活性につながる事業を実現することができました。一緒に進めてきたチームには、3社のメンバーで構成されているとは思えないほどの一体感を感じています」と、前進している喜びを実感しているといいます。
親子体験ツアーで実施した「分水第一発電所」(高知県)の見学。「普段は入れない場所に入れた」と好評だった
そして、この規模をさらに大きく広げていこうと、2021年3月に24の企業・団体によって「四国家サポーターズクラブ」が設立されました。
もともと個々のプロジェクトには3社以外に地域の会社も参加していましたが、これからは四国4県が一つの看板を掲げて邁進していこうとなったのです。
前述した日本酒セットは、四国家サポーターズクラブ設立後に初めて支援して販売された商品。各社が広報面などで協力しています。
“四国家”が四国全域へと広がっていく今後について、JR四国の竹安華穂さんは、「仲間(家族)を増やしながら、地域色を生かしたもの、子どもや若者に郷土愛を感じてもらえるものなど、地元に小さくとも希望の光を感じていただけるような取り組みをコンスタントに実現していきたいです」と、近い将来を見据えた目標を教えてくれました。
会社の新事業といえば、普通は収益性を問われるもの。でも、このプロジェクトでは、まずは地域との共生が念頭にあるといいます。
「各社の利益ばかりが頭にあっては、地域共生の活動はできません。弊社を含め、JR四国さんも日本郵便四国支社さんも、元気な四国あっての会社。なので、まずは地域共生なんです」と、四国電力の篠川さんは力強く言います。
今後、四国家サポーターズクラブは、新たな家族を交え、まずはこれまでのプロジェクトをブラッシュアップしていきます。さらに、地域の小さなお祭りを観光資源化するといった新プロジェクトにも取り組んでいく予定です。
“家族”には知られざる魅力の再発見を、“お客さま”にはおいしさや面白さの発見を。その先には、移住やワーケーションで四国家の住人をどんどん増やしていくといった大きな夢も描いています。
お土産や地酒を楽しみながら、四国のこれからを一緒に応援してみるものいいかもしれませんね。
■DATA
四国家サポーターズクラブ
問い合わせ:四国電力株式会社
URL:https://www.yonden.co.jp/cnt_shikokuke/index.html
■四国家 故郷のものがたり
URL:https://459satomono.thebase.in/
■四国銘酒88 おへんろ絵巻(四国遍路世界遺産登録祈願プロジェクト)
URL:https://www.shikoku88knot.net/
■しこくたぬきのぽんちゃんSNS
Twitter:@sper_ponchan
Instagram:@sper_ponchan
■電気事業連合会ホームページ「地域共生への取り組み」
URL:https://www.fepc.or.jp/sp/social/
日常生活の中にあって、あまり意識したことのない電気。
でも実は、暮らしを成り立たせているのは全て“あかり“の存在なのです。
街、家、ホテル、イベントなど広く「光の設計」を手がける村角千亜希さんによる、“暮らしのあかり”を最高に満喫する方法をお届けします。
******
コロナ禍で、リモートワークや外出の自粛があり、自宅で過ごす時間が大きく増え、
ますます家のあかりが大切と感じるようになりました。
丁寧に “あかりをデザイン”し、暮らしをもっと豊かにしたいと、興味を持った方も多いのではないでしょうか?
また、地球環境、災害、エネルギー問題も心配な世の中です。
使いたいだけエネルギーを使う時代はもう終わりました。
真に美しいあかりとは。
エネルギーのつくり方から考え、自然光もいっしょに考えられたらいいですね。
今こそ、心が満たされる暮らしのあかりをゆっくり考えてみませんか?
撮影:水谷綾子
リモートワークの照明のポイント
いざ家で仕事をしようと思ったら、、、
ダイニングテーブルのあかりが電球色でオレンジっぽくてぼんわりしてしまう。
子供の家庭学習の時間が増え少し暗いかも?
など家のあかりで思い悩んでいる方の意見を耳にするようになりました。
昼の作業に合う照明は次の2つのあかりをプラスするのがポイントです。
・色温度が高い4000K程度の白っぽい光をプラスする(調光機能付がおすすめ)
・間接照明、手元スタンド、など照度をプラスする
色温度が高い4000K程度の白っぽい光をプラスすると日中の太陽の光の色に揃うので、違和感なく過ごす事ができます。
窓があり自然光が入る間取りなら、テーブルを窓に寄せてみるだけでも、作業性は格段にアップするはずです。
ちなみに我が家は、この自然光を取り入れるスタイルで大変快適に昼の作業もこなしています。
また、今の照明に部屋全体を明るくしてくれる間接照明、または手元スタンドなどを補助的に加えるのも効果的です。
ダイニングテーブルを窓に寄せると、自然光のおかげで明るく爽やかに過ごせる。/撮影:水谷綾子
LOLA(LUCEPLAN)/天井をアッパー照明で照らしてくれるので、部屋全体が明るくなる。/撮影:水谷綾子
太陽光LEDデスクライト(BALMUDA)/離れた場所から広く手元を照らし影を作らない光を実現。白色(Ra97)6段階調光。
暮らしを楽しむ照明の選び方
日常生活の中にプラスすると、より快適により楽しむことができる照明アイテムがあります。
それが、スタンド照明です。
スタンド照明は工事の必要なく、どこにでも置ける手軽さがいい。
スタンドのバリエーションとその効果を知ると、暮らしのあかりにより奥行きがうまれるでしょう。
スタンド照明はデザインも豊富で見ているだけで楽しくなります。
インテリアの1アイテムとして長く楽しめるので、もし気に入ったものが見つかったら少し高くても揃えていくのもまた楽しみですね。
スタンド照明には、実に様々な種類があるのをご存知ですか?
・フロアスタンド high(床置きスタンド、背の高いタイプ):部屋全体を照らしてくれる。
・フロアスタンド low (床置きスタンド、背の低いタイプ):ソファやひとり掛けの椅子に添えて置くと読書灯として最適。
・テーブルスタンド(テーブルに置くスタンド):棚やコンソールに置くタイプで、一緒に飾る小物なども楽しめる。
・小型スタンド(小さなスペースに置くスタンド):本棚の中など狭い場所に置けて機能的でディスプレイとしても重宝。
上:ROSY ANGELIS(FLOS)下:TAB F LED(FLOS)/フロアスタンドはhighとlowで部屋の印象が違ってくる。高さが違うことで活きてくるあかり。/撮影:水谷綾子
あかりを飾る
あなたの家のリビングルームには、いくつの照明がありますか?
広さにもよりますが、天井に明るいシーリングが1つだけです、と答える方もいるでしょう。明るいし不便を感じないのでそれでいいと思う方もいると思います。
“あかり”には私たちの暮らしをより豊かに、素晴らしい時間を過ごすための大切な役割があると思っています。
私の家のリビングルームには、照明が5つあります。しかも全てスタンドや小さな間接照明です。天井には何もついていません。
大切なことは、自分のいる空間に、自分の好きな物が丁寧に照らされた “お気に入りの景色” が浮かび上がることです。
居心地の良さは“あかり”で決まるのです。
長い家時間が好きになるあかりのイメージを、ぜひ広げてみてください。
あかりを飾る、4つのポイント
・かくれんぼライト(植木、飾り小物の後ろに小型ライトを隠して、小さな間接照明をつくる。無印良品やIKEAのシンプルな器具も活躍できそう)
・クリップライト(椅子の背、棚板などに挟んで簡単に設置して、好きなアイテムを照らす)
・小型スタンド(ディスプレイコーナーを作り、ふんわり照らす)
・低いあかり(床置きなど低いあかりは、夜、落ち着いたリラックスする雰囲気になるのでおすすめ)
かくれんぼライト2点/撮影:水谷綾子
上:TOLOMEO MICRO PINZA(Artemide)/クリップライト 下:TAB T(FLOS)/小型スタンド/撮影:水谷綾子
季節を楽しむあかり
“季節を楽しむあかり“もいろいろあります。
あかりと言うと、秋から冬にかけて、夜の時間が長くなる季節をイメージする人が多いと思います。
12月には、クリスマスツリーのイルミネーションが、部屋のメインの照明に早変わりします。
キャンドルの演出も欠かせない季節です。
実は私、「春キャンドル」もとても楽しみにしています。
春キャンドルは、まだ明るい早めの夕方から楽しむのがおすすめです。
蜜蝋キャンドルや、菜の花ろうそくなど、見た目も黄色で、香りもふんわり優しい空気が流れて来ます。
クリスマスツリー/撮影:水谷綾子
「春キャンドル」菜の花ろうそく
長い冬が終わり、春を待ち遠しく思う季節にとてもぴったりです。
ぜひ、灯してみて下さい。
パーティーなあかり
カラーLEDランプを使うと、カラフルな色のあかりを家で楽しめます。
スマートフォンやタブレット端末にアプリケーションをインストールし、簡単にコントロールも可能です。
一般的なE26口金の電球にそのまま設置できるカラーLEDランプは、スタンドやペンダントの中に入れて、器具ごとのカラーに染めることもできます。
間接照明として使えるテープライト型の照明は、両面テープが付いているので好きな場所に簡単に設置でき、長さはハサミでカットできる手軽さが魅力。
家具の後ろに設置して間接照明を楽しんだり、足元に入れてフットライトにしても寛げます。
充電式ポータブルライトもあるので、コンセントがない場所でも手軽に置くこともできます。
カラーLEDランプを使うことで、色のあかりを家で楽しめる。/撮影:水谷綾子
Hue フルカラースタータセット(Philips)/アプリで操作できるカラーLEDランプ。
左:Hue Go ポータブルライト(Philips)右:Hue ライトリボン(Philips)
環境を意識する“エコロジカルなあかり”
私たちは電気を使ってばかりではなくて、これからはどんなエネルギーを選択し、どの様にその電気を消費したいのか?
よく考えたい時代に入って来たと感じています。
当たり前のように与えられた電力をただ使用するのではなく、なるべく地球環境に負荷をかけないように意識していきたいものです。
・消費電力の小さい、LED、ELランプ(軽くて薄く、面・板状に発光させることが可能なため、ディスプレイなどに利用されている)、などを使用する。
・携帯型のソーラー充電器を日頃から活用する。
このくらいなら、意識的に取り組んでいる人もいるのではないでしょうか?
自然エネルギーを少しずつでいいので、自分の生活の中に取り入れていきたいし、いざと言う時は、小さなポータブルライト、スマートフォンくらいはソーラー充電器で稼働できたら安心ですよね。
でも、私はもう一歩先まで踏み込んで、エネルギーの意識を広げていきたいと思っています。
震災が起こった後、一部地域で計画停電がありました。また、駅や街中のあかりも部分的にであったり、電球を外したり、間引きして点けている期間がありました。
その時、「意外とこれくらいの照度で丁度いいね。」など根本的に元々明る過ぎたよね? と議論されていた事、ほとんどの方が今はもう忘れてしまっていませんか? 私たちは、省エネをしたいと思っている割に、また明るすぎる日本の照明に残念ながら戻ってしまっているのです。
実際、欧米の街並みやホテルなどは、もっと暗いと感じませんか?
もっと “暗さの美しさ” に気づくべきなのです。
僅かだから美しいあかりの世界がたくさんあります。
日本人には、もともとDNAに陰影礼讃を愛でる文化があるのです。
究極は、縄文時代。
日の出とともに起き、日中は自然光で過ごし、夜は松明の火で暖をとり、星や月夜を
楽しんだら眠りにつく。
なんてプリミティブなんだろう。
私はそんな暮らしに、日々憧れを抱いている。
とはいえ、現代の生活でこれが無理なのは分かっています。
ならばせめて、生活の中のあかりについて、大事に考えながら過ごしたい。
たった一つのキャンドルで過ごす週末があってもいいと思うのです。
太陽にリスペクト
小さな火種から火を起こす
焚き火
充電式ポータブルライト
「Little Sun Solar Light」を充電中!
村角 千亜希
照明デザイナー/国際照明デザイナーズ協会会員
1972年、東京生まれ。女子美術短期大学造形科卒業。2002年、照明デザイン事務所「スパンコール」設立。
ホテル、サロン、SPA、レストラン、神社、ファサード、外構、住宅、Exhibition、など幅広い分野の「光の設計」を手がける。 「人・場・時間」をつなぐあかりをデザインをする。人の気持ちや所作を大切に、空間の魅力を光で最大限に引き出し、美しい時間、上質な光を導く。
真に美しいあかりとは。エネルギーのつくり方、使い方から考えられるべきである。省エネルギー、自然エネルギーを取り入れた持続可能な社会を一緒に考え提案している。
代表作
「愛知万博・ヨルダン王国パビリオン」
「銀座レカン」
「ホテルカンラ京都」
「中川政七商店・遊中川」
「横山展望カフェテラス」
「SHAKOBA」
【スパンコールのホームページ】https://www.spangle.jp
【今月の密着人】北陸電力 富山支店 営業部 青木 楓さん(26歳)
SDGs(持続可能な開発目標)に取り組む企業が増える中、特に「脱炭素化」や「カーボンニュートラル」をテーマに掲げているところは多い。そうした事業者に対し、使用する電気のムダを減らしたり、今の時代に合った電化の方法や電気の使い方などを提案したりして助けになるのも、電力会社に求められる新しい役割の一つだ。会社を代表して対面し、事業者と直接タッグを組むのが「法人営業」の担当者たち。日々、地元のためにと奔走する北陸電力の青木 楓さんが目指す、地域に寄り添った営業スタイルとは?
世間話からCO2の排出量削減をサポート
SDGs達成のため、世界的に脱炭素社会への移行が進む昨今、北陸電力もまた、地域のためにさまざまな取り組みを行っている。特に力を入れているのが、CO2(二酸化炭素)の排出量削減に取り組む事業者をサポートするというもの。富山県出身で、法人営業を担当して3年目となる北陸電力の青木 楓さんは、その反響の多さを実感しているという。
青木さん「SDGsが採択されてから、CO2の排出量削減についてご相談をいただくことは、確かに増えています。お話しを伺った際には、ときには社内のコンサルティング部門と連携しながら、多方面からサポートをさせていただく提案をしています」
とはいえ、事業者の中には電気とCO2の排出量削減が直接結びつかず、声を掛けられることはそれほど多くはない。また、北陸電力がそうしたサポートをしていること自体も、まだまだ広く知られていないのが現状だ。
青木さん「ですので、まだまだこちらからご提案することも少なくありません。ヒントになるのが、商談の前後に交わす世間話。その中に潜在的なニーズが隠れていることが多いんです。だから、特に何もご用件がないときでもコミュニケーションは欠かせません」
ここで重要なのは、こうした地道なサポートが、地域全体、そして日本全体のCO2の排出量削減に大きく貢献するということ。例えば、ある店舗の電気料金を効率よく下げられれば、使う電力が減ることで発電する電力も減ることになる。発電量の減少によって、それに伴うCO2の排出量も下がる。もちろん、これが1、2店舗なら効果も小さいが、青木さんのような法人営業の担当者は全国にいる。積みあげれば大きな山となることだろう。
青木さん「ある医薬品の製造会社さんで、3~5年後までにCO2の排出量を一定値まで下げることが決まったんです。でも、担当になった方がどう実現すればよいかと悩んでいらしたので、私たちが協力できる方法をご提案したところ『そんな方法があるの!?』と。やはり、電力会社は『電気を売っているだけ』と思われているお客様も多いですから、これからも地道にお伝えしていくことが必要だと痛感しています」
一方で、そこに営業職らしいやりがいも見いだしている。
青木さん「北陸電力に相談をすれば、『いろいろなアイデアを出してくれる』とか『親身になって考えてくれそう』と思っていただけるといいなと、いつも思っています。電気を売るだけじゃない、それ以外の部分でもお力になりたい。会社の顔として信頼を得られるよう、これからも丁寧なコミュニケーションを心掛けていきます」
「すぐ行きます!」の営業スタイルがコロナ禍で大ピンチ!
そもそも電力会社における法人営業とは、一般家庭や個人事業者ではなく、自治体などを含む団体や企業に向けた営業活動のこと。青木さんの担当は、製造工場やスーパー、病院やホテルといった多種多様な業種があり、規模も小さな商店から大型工場までさまざま。普段の業務は、そうした事業者に毎月の電気料金を計算してお知らせをすることに加え、個別の問い合わせや相談に応じた対応を行っている。その中で多いのが、家庭の悩みごとと同じく、「どうしたら電気料金を下げられるか」という相談だ。
青木さん「例えばスーパーマーケットですと、24時間365日動いている冷蔵・冷凍のショーケースがたくさんありますから、小規模の店舗でも毎月の電気料金は100万円を超えます。夏や冬になれば店内の冷暖房費も嵩みます。お客様としては、なるべく電気代は低く抑えたい。そこで私たちの出番になるんです」
まずチェックするのが、建物内の各所に電気を分配している分電盤だ。一般家庭にあるブレーカーが付いた機器と同じようなもので、電気がどの部屋にどれくらい流れているのかを細かく知ることができるようになっている。
青木さん「専用機器を用いることで、『この部屋だけ消費電力が大きい』とか『この時間帯の使用量が多い』ということが可視化できます。そうしたデータをもとに電気を上手に使う方法をご提案して、電気料金を効率よく下げられるようにしていくんです」
会って、話す。細やかなコミュニケーションを図ることで悩める事業者たちの機微を捉えていた青木さんだが、2020年は受難の年となった。新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言の発出によって、普通のことが普通にできなくなってしまった。
青木さん「直接対面することが一切できなくなってしまったんです。何かご相談があれば、すぐに駆けつけて真摯に対応するのが北陸電力の強み。それができなくなってしまったので、本当にもどかしかったです。それに、何より心配だったのは、担当しているお客様のことでした」
「さみしくなるね」と言われる営業になりたい
青木さんが、担当する事業者を気に掛けていた理由。それは、休業状態に追い込まれたホテルや百貨店など、緊急事態宣言によって甚大な影響を被った業種が多かったからだった。
青木さん「一般家庭と同じで、法人の電気契約も契約電力によって基本料金などが決まります。つまり、それ以前の契約のままでいると、休業状態で電気を使わないのに無駄な料金が発生してしまうかもしれないんです。会社として、すぐに動き出しました。まず業種を絞って状況をお伺いしながら、適切な契約電力に下げるという手続きを急いだんです」
緊急事態宣言が明けてからも、電話やメールで、そして可能な場合は訪問し、これまで以上に細かくコミュニケーションを取るようになった。その中で、つらい状況にある事業者の本音を聞き取れるようにと、以前よりも大切にしていった。
青木さん「対面なら自然とする世間話の中から、そのとき抱えている悩みなどを拾い上げることができますが、電話やメールだとなかなか同じようにはいきません。ですので、特に用件がなくても、『状況はいかがですか? 何かお困りごとがあればご連絡ください』とお伝えするだけの電話を掛けていました。『日本全国が大変な時期にも関わらず、わざわざ連絡をくれてありがとう』と言ってくださったお客様もいて、とてもうれしかったですね」
現在は少しずつ、従来のように直接訪問できるような状況が戻ってきているという青木さん。改めて、法人営業のやりがいや楽しさをかみしめているという。
青木さん「以前、愛用していた目薬が、自分の担当しているお客様の工場で作られていた、なんて偶然があったんです。いろいろな会社を訪ねると、知らなかった地域の姿をたくさん発見できます。そうしたことを知っていくと、地元にどんどん愛着がわいていくんです。だからこそ、地域のためになる脱炭素化を推進する仕事にもやりがいを感じています」
法人営業を担当してもうすぐ3年。青木さんの目標を聞いてみると、なんとも彼女らしい答えが返ってきた。
青木さん「弊社は3年から5年で部署を異動することが多いんです。つまり、私はもう少しで法人営業から離れる可能性があります。仕方がないことですが、そのときには担当しているお客様にさみしがってもらえるような営業になりたいと常々思っています。そうなれるように、今後も自分に出来ることを精一杯頑張ります」
■電気事業連合会ホームページ「地域共生への取り組み」
URL:https://www.fepc.or.jp/sp/social/
【今月の密着人】中部電力 総務・広報・地域共生本部 広報推進グループ 大谷亜弓さん(33歳)
日々、何気なく使っている電気は、コンセントの向こう側で働く人たちによって、“いつでも普通に使える”ように支えられている。そうした電力関連の仕事や、電気にまつわるさまざまなことを楽しく学んでもらおうという施設が、愛知県名古屋市にある「でんきの科学館」だ。2020年10月に展示スペースの大規模リニューアルを終えたばかり。オープンに向けて奮闘した中部電力 広報推進グループの大谷亜弓さんが込めた想いとは?
コロナ禍で休館…すぐに始めたYouTube配信
中部電力の広報部門に所属し、会社の顔として社内外とのコミュニケーションを担当している大谷亜弓さん。彼女が「でんきの科学館」に関わるようになったのは、2019年7月のことだった。
同館は1986年に火力発電所跡地に建てられた電気文化会館内にオープンした施設で、大谷さんの着任当時は数年続く大規模リニューアルの真っ最中。目玉の展示エリア「電気の旅」の改装作業中で、大きな仕事に腕がなった。
大谷さん「それ以前は法人営業や社内報の制作など、比較的“堅い仕事”を担当していたので、小学生以下の子どもをメインターゲットとしたでんきの科学館のリニューアル作業には戸惑うこともたくさんありました。ですが、大学時代には博物館学を学び、学芸員の資格も持っているので、その知識を生かせる部分もあり、やりがいは大きかったです」
少しずつ仕事にも慣れてきてこれからと思った矢先、新型コロナウイルスという大きな壁が立ちはだかった。緊急事態宣言の発出によって休館を余儀なくされたのだ。
普段は明るい子どもたちの声が響いていたでんきの科学館にとって、それはあまりにもつらい状況だった。
大谷さん「そこで、すぐに始めたのがYouTubeの動画配信です。自宅ででんきの科学館の雰囲気を楽しんでもらおうと、手軽にできる工作やサイエンスショーなどを多いときには毎日配信していました。動画の撮影や編集は科学館のスタッフが手分けして行い、私は出来上がった動画をチェックする役割。回数を重ねるごとに、目に見えてクオリティが上っていくので毎回ワクワクしましたね」
早速、緊急事態宣言の発出から2週間後には、1本目の動画を投稿した。通常、イベントなどを開催する際には、企画を提案してGOサインが出るまでに相当な時間がかかるもの。ましてや動画投稿という過去に例のない企画となればなおさらだ。
それを可能にしたのが大谷さんをはじめ、でんきの科学館スタッフの多くが、この状況をポジティブに転換させようと考えていたからだ。
大谷さん「新しいことにチャレンジできるチャンスだと思ったんです。特にYouTubeやSNSを活用した企画は、今まではやりたくても通りにくいところがありました。でもコロナ禍の今だったら、その必要性も理解してもらえるんじゃないかって。実際にYouTubeで動画配信を始めたことで、社内の認識も変わったように思います。最近はInstagramでサイエンスショーのライブ配信も始めていて、遠方の方にもでんきの科学館の面白さを届けられるようになりました」
大人でも難しい電気の話を子どもでも分かる言葉で
コロナ禍ならではの新しい仕事と並行して進めていた展示エリア「電気の旅」のリニューアル。「電気が家庭に届くまでの道のり」を紹介する従来の展示に加え、さらに「電力の安定供給を支える現場の人たちにスポットライトを当てる」ことに力を入れようというものだ。
大谷さん「街中にある電柱や電線の工事・管理を担う配電部門の社員は何となく見たことがあるという方も多いと思いますが、もっと元をたどれば送電線や鉄塔の保守を行う者もいますし、発電所の指令室で発電量をコントロールする人など、さまざまな現場の人間がいます。普段使っている電気の裏側にそういった人たちがいるということを楽しく学んでもらい、電気に少しでも興味を持ってもらえたらと思っているんです」
一つのフロアにあった展示物や内装を全面的に作り変えた今回のリニューアルで、一番の見どころとなるのが全長約16メートルの巨大なジオラマだ。発電に必要となる燃料の調達から家庭に届くまでの“電気の旅”を表現しており、「AR(拡張現実)モニター」をかざすと動画や画像が表示される最新の仕掛けも導入されている。
さらに、鉄塔の高さを体感できる「地上100m電気の旅~鉄塔の上から見てみた!~」や、高所作業車のゴンドラに乗って写真が撮影できる「高所作業車(疑似乗車体験)」など盛りだくさん。これらの展示物を作り込んでいく上で大谷さんが特に悩んだのは、各展示に添える解説文だった。
大谷さん「例えば、『送電ロス』のような技術的な話をどう伝えるか。そもそも解説するのが難しい内容なんですが、子どもでも理解できるようにくだけた表現にしなければならない反面、簡単にしすぎて事実と異なってもいけない。その絶妙なニュアンスにはかなり苦労しました。でも、どういうことなのか分からないようでは何の意味もありませんから、とにかく何度も何度も考えて、専門知識を持つそれぞれの部門の皆さんに助けてもらいながら期限ギリギリまで修正を重ねました」
また、館内全体で意識されたのがインスタ映えだ。写真が趣味だという大谷さんは、でんきの科学館内の“映えるフォトスポット”も熟知している。
大谷さん「1つ目は、『電気の旅』の展示エリア内にある、電柱に登った姿を撮影できるブースです。本物と同じ中部電力の作業服が着れますし、ここだけのために特注で作った子ども用もあるので親子で楽しめますよ。2つ目は、ウェルカムゲートにある『プラズマボール』。鏡の壁にいくつものプラズマボールが埋め込まれていて、まるで万華鏡の中にいるような幻想的な空間です。最後はマニアックですが、2階の展示室『電気の発見』。エジソンやボルトの発明品などを展示しているフロアなんですが、レトロな内装と赤い絨毯、いい感じの壁画がマッチした重厚感のある空間が写真映えします。たまに『#でんきの科学館』でエゴサーチしていて、特に若い世代の方々が写真をSNSに投稿してくれているのを見ると、本当にうれしくなります」
目指すは人をむすび、未来をひらく科学館
2020年10月、「電気の旅」はついにリニューアルを終えた。感染対策に万全を期してのオープンとなったが、それでも子ども連れの親子を中心に大盛況に。しかも、うれしい誤算もあった。
大谷さん「以前よりも友人同士やカップルなど大人だけのグループで来館される方が増えたんです。試行錯誤を重ねて作りましたが、実際にお客様の反応を見るまでは、やはり不安でした。でも、ふたを開けてみると、大人にも評判が良かったんです。中には、電気関係の資格を取るために勉強中だという男性もいたりして。その方は分電盤などの実物展示を目当てに来館されたそうで、数十分かけて熱心に見学されていました。リニューアル前には見ることのなかった光景です」
1人でも多くの人に、電力会社で働く人を知ってもらいたい。そんな純粋な思いで作り上げた「電気の旅」。実は展示の最後に、心温まる仕掛けが用意されている。
大谷さん「展示内で紹介した現場の人たちと来館していただいた方々の思いをつなぐようなことができないか、と考えて生まれたのが、電力会社社員へのメッセージコーナーです。まだ始めたばかりですが、『今まで当たり前のように使っていた電気がどれだけ大切かを知りました』『いつもお仕事ありがとうございます。とてもかっこいい職業だなと思いました!』『電気を当たり前のように使えるのも、電気を支えてくださっている皆さんのおかげです。これからも頑張ってください』など、多くの温かいお言葉をいただいています」
今後、集まったメッセージは、定期的に現場で働く社員へと直接届けるという。
大谷さん「以前、中央給電司令所(電力の需給バランスをコントロールする電力安定供給の要)で勤務する担当者から、『自分たちの仕事を知ってもらう機会がないから、かっこよく紹介してほしい』ということを言われたんです。そういった思いを最大限くみ取っていくことも、電気や電力事業の魅力を伝える私の仕事だと考えています」
中部電力のコーポレートスローガンには、「むすぶ、ひらく」という言葉がある。人と人、人と社会を“むすび”、地域を支えることで未来を“ひらいて”いく。今後は、でんきの科学館をそんな拠点にしていきたいと教えてくれた。
大谷さん「今はコロナ禍で来館していただくことが難しい状況ですが、やはり実際にこの場所を訪れていただき、直接見て、触れて、感じてもらうことが、科学館としてのあるべき姿だと思うんです。なので、いつか新型コロナウイルスが収束したときには、いろいろな人が集える賑やかな場所でありたい。そのためにも、もっとでんきの科学館に訪れたくなるような新しい企画にも力を入れていきたいと思っています」
■DATA
でんきの科学館
住所:愛知県名古屋市中区栄2-2-5
時間:9:30~17:00 ※開館時間は変更になる可能性があります
休み:月曜(祝日・振替休日の場合は翌日)、第3金曜(8月は除く)、年末年始(12月29日~1月3日) ※悪天候などにより臨時休館の可能性があります
入館料:無料
URL:https://www.chuden.co.jp/e-museum/
※詳細はでんきの科学館HPでご確認下さい。
■でんきの科学館チャンネル
URL:https://www.youtube.com/channel/UCDU4CTPk380VmY6fD_ddxmQ
■電気事業連合会ホームページ「地域共生への取り組み」
URL:https://www.fepc.or.jp/sp/social/
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の役に立つため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしているのをご存じでしょうか。今回取り上げるのは、東北電力が地元の中学生を対象に行っている「東北電力 中学生作文コンクール」。なんと46年間も続いているコンクールです。長く続けてきた裏には、地域の未来を想う気持ちがありました。
1975年から続く東北随一の作文コンクール
子どものころ、誰もが書いたことがあるであろう「作文」。単純に書く能力や伝える能力を高めるだけでなく、自らの考えを深める機会にもなるため、広く教育に役立てられています。
そんな作文といえば読書感想文が定番ですが、学校が生徒に出題するもののほかにも、さまざまな企業や団体が主催する作文コンクールというものがあります。
東北電力が東北6県と新潟県の中学生を対象に開催する「東北電力 中学生作文コンクール」(以下、中学生作文コンクール)もその一つで、第1回が行われたのは1975年。それから毎年欠かさず開催され続け、今や東北の中学校では恒例のコンクールとなっています。
募集対象は東北6県と新潟県の中学校。各校から寄せられた作品は、各審査を経て最優秀賞1編、優秀賞6編、秀賞14編、佳作56編が選ばれる
数年ごとにテーマは変わりますが、第46回となる2020年度の募集テーマは「私の挑戦」・「私の成長」。審査員泣かせの力作ぞろいだったという2020年度の中学生作文コンクールですが、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、一時は中止も考えられました。
それでも開催に踏み切ったのは、「ぜひ今年もやってほしい」という学校関係者からの声が多かったことが大きな理由です。
主催する東北電力も、「自分自身を見つめ直し、将来に向き合うための良い機会としてほしい」という想いがあり、何とか開催できるよう調整を重ねました。
ただでさえ2020年は文化祭や部活動の大会などが軒並み中止や延期になっています。こうした学びの機会は、中学生たちにとって貴重なもの。結果、約400校から計1万6903編もの作品が集まりました。
2020年度に応募された実際の原稿。その筆跡や書き直し跡から生徒たちのエネルギーが伝わってくる
“学校賞”で東北の先生たちをバックアップ
コロナ禍という厳しい状況下、現場の教職員も対応に追われている中で、それでも開催が望まれた中学生作文コンクール。それほどまでに求められているのは、なぜなのでしょうか。同コンクールの運営を担当する東北電力 ソーシャルコミュニケーション部門の武蔵博子さんに尋ねました。
「東北・新潟に根差したコンクールという部分が大きいようです。全国規模の作文コンクールはたくさんありますが、そこで入賞するのは大変です。対して、東北6県と新潟県を対象にした中学生作文コンクールは、ある程度の規模がありながら、頑張れば入賞のチャンスが誰にでもあり、中学生の皆さんにとっても先生方にとっても非常にモチベーションになっていると聞いています」(武蔵さん)
過去の作品は東北電力のホームページから読むことができる
学校が熱心に取り組む理由がもう一つ。中学生作文コンクールの特徴でもある「学校賞」です。これは、次世代教育を支援する一環として、入賞者を出した中学校に対して教育備品を贈呈するというもの。
「学校側の希望に沿った教育備品を贈呈しています。これまでにはプロジェクターなどの情報機器や学校図書、珍しいところでは電子ピアノや和太鼓など、さまざまなものをお贈りしてきました。それを教育の現場で生かしていただくことで、東北電力として少しでも地域のお役に立てればと思っています」(武蔵さん)
入賞者だけでなく、学校にも賞を設けることで先生のモチベーションも上がり、同時に学校とのつながりも一層深くなる。地域の教育をバックアップすることを第一に考えた取り組みだからこそ、中学生作文コンクールは東北・新潟に浸透しているのです。
「数年前、表彰式で受賞された生徒さんのお母様が、自分も中学生のときにこのコンクールで賞をいただいたと話してくれたことがありました。『このコンクール、今も続いていたんですね』と感慨深いご様子で、こちらもうれしくなりましたね。これもひとえに、46年間途切れずに続けてきたからこそ。あらためて地域との結びつきの大切さを実感した出来事でした」(武蔵さん)
入賞者が初めて顔を合わせる表彰式(写真は2019年度)。2020年度は、感染拡大の防止に努めながら学校訪問による表彰式が行われた
東北の未来のために。震災直後も開催した想い
「作文を通じて自分の将来や地域の未来について考えていただくことで、未来を見つめる新鮮な目と感動する心を失わず、心豊かに成長していただきたい」
これが、第1回から変わらない中学生作文コンクールのコンセプトです。もっとシンプルにいうなら、「自分や地域の未来についてもっと考えてもらいたい」ということ。
なぜなら、その未来を担えるのは、その時々の中学生たちだからです。主催する東北電力は地域のインフラを支える企業として、そこに並々ならぬ想いを持っています。
記念すべき第1回目の作品集。この時のテーマは「わたしのまちの未来」。応募総数は6273編だった
だからこそ、東日本大震災が起こった2011年度も、中学生作文コンクールは開催されました。もちろん、議論がなかったわけではありません。それでも、「こういうときこそ想いを言葉に記す機会を失くしてはならない」と考えたのです。
長年審査員を務める作家の高橋克彦さんは、当時の総評にこうつづっています。
「結果を眺め、いまさらながらにこのコンクールの凄さを実感した。激動の中にあって子供たちは決して自己を失わず、目線を据えて前に進もうとしている。(中略)今だからこそ子供たちの輝いている心が際立つ。荒野に咲く美しい花々だ。こういう子供たちがいる限り東北は再生する」(原文ママ)。
中学生作文コンクールは、コロナ禍においても、その役割を果たしました。2020年度の最優秀賞・文部科学大臣賞に輝いたのは、山形県南陽市立赤湯中学校3年の佐藤充朗さんの作文『命と向き合う』でした。
大人たちとの害鳥駆除の体験を通じて感じた葛藤や動物との共存について、中学生のリアルな視点でつづられています。表彰式で、佐藤さんは今の気持ちをこう話します。
「このような素晴らしい賞をいただいて驚いています。今回の作文を書くにあたり、自分の経験や思いがきちんと伝わるか不安でしたが、多くの人に自分の考えを受け入れていただけたことを、とてもうれしく思います。作文にも書いたように、これからはもっと人間と動物の共存について考えを深めていきたいです」
リアリティあふれる文章で、自身の思いを真っ直ぐに表現した佐藤充朗さん(写真右から3番目)
東北電力では中学生作文コンクールをきっかけに、次世代支援プロジェクト「放課後ひろば」を約20年前にスタートしました。「東北電力旗 東北ミニバスケットボール大会」や「東北電力スクールコンサート」など、さまざまな文化・スポーツへの支援活動を広げています。
もちろん東北電力は電力会社ですから、これらが直接利益につながることはありません。そこにあるのは、社是に「東北の繁栄なくして当社の発展なし」と記されているとおり、地域の発展を願い、未来の子どもたちを支援したいという純粋な想い。
それを40年以上も前から形にし続けてきたのが中学生作文コンクールというわけなのです。
過去の受賞作品は東北電力のホームページで公開されているので、一度のぞいてみてください。東北・新潟の中学生たちが今何を考え、どう行動しようとしているのか、そのリアルな想いに触れれば、東北・新潟の明るい未来を垣間見ることができますよ。
■DATA
東北電力 中学生作文コンクール
問い合わせ:東北電力株式会社
電話:022-799-6061
URL:https://sakukon.tohoku-epco.co.jp/
■電気事業連合会ホームページ「地域共生への取り組み」
URL:https://www.fepc.or.jp/sp/social/
【今月の密着人】関西電力 ナムニアップ1パワーカンパニー出向(取材当時※)川田達也さん(33歳)
※現在は関西電力 水力事業本部に勤務
1963年に日本最大級の「黒部川第四発電所」(通称くろよん)を完成させた関西電力。世紀の難工事を成し遂げた挑戦心、使命感、情熱は、「くろよんスピリット」として今も同社に脈々と受け継がれているという。くろよんから43年後の2006年、同社はラオスに同規模の「ナムニアップ1水力発電所」を建設するプロジェクトをスタートさせ、2019年9月に商業運転を開始した。「第二のくろよん」と呼ばれるようになったこの大プロジェクトで、いったいどのようなドラマが生まれたのか。関西電力から出向し、建設段階からプロジェクトに参画した川田達也さんに話を聞いた。
関西電力の悲願ふたたび。ラオスに巨大ダムが完成!
2019年9月、ラオスの首都ビエンチャンの北東約150キロメートルに位置する山間部、タイとの国境を流れるメコン川支流にて、大型水力発電所が商業運転を開始した。その名は「ナムニアップ1水力発電所」だ。
水資源が豊富なラオスは、水力発電に適した国。外国の支援を受けてダムを造り、電気の輸出を主力産業に位置付けている。一方、関西電力は、日本最大級の黒部ダムおよび「黒部川第四発電所」を開発するなど、水力発電のパイオニア。そこで同社は国内で培った高度な技術力やノウハウを生かすべく、2006年4月にラオス政府から独占開発権を取得し、「第二のくろよん」に着手したのだ。
完成した主ダムは高さ167メートル、幅530メートルで、黒部ダムに匹敵する規模。22億立方メートルを誇る貯水量は、黒部ダムの11倍。年間発電量は、なんと約15億キロワット時(kWh)で、「黒部川第四発電所」の1.5倍にもなる。日本の電力会社が中心となって海外でこれほど大規模の水力発電所を自主開発し、とてつもない巨大ダムを建設することは初めての挑戦であり、快挙といえる。
関西電力は、タイの電力需要の増加に対応し、ラオスの経済発展に貢献するべく、現地ラオスや隣国タイの企業とともに、本プロジェクトの現地事業会社として、2013年4月に「ナムニアップ1パワーカンパニー」を設立。2016年4月には主ダムのコンクリート打設工事に着手した。関西電力の川田達也さんは、このコンクリート打設開始時からプロジェクトに従事していた。
川田「2013年に入社し、福井県にある高浜発電所の土木建築課を経て、土木建築エンジニアリングセンター(大阪市)に所属しました。そこで、当社の海外事業の技術担当として、設計や現地に赴任した社員の施工管理に関するバックアップなどを行っていました。そして2016年5月、私自身も『ナムニアップ1パワーカンパニー』に出向となり、現地へ乗り込むこととなったんです」
入社当初から、海外で活躍することを希望していたという川田さん。4年目にしてそのチャンスをつかんだのだ。しかし、現地では苦労の連続。特にダム建設後、2018年5月に開始した主ダムの湛水(たんすい:ダムに水をためること)では、最後までやり遂げるとの熱い想いで、安全対策に万全を期すための試行錯誤を重ねた。
川田「私はダムにかかる水圧などの計測・管理を担当したのですが、実際に水をため始めると、予想とは異なる事象も起こるもので。やはりこれほど大型のダムとなると、必ずしも想定通りにはいかないことを痛感しました。とにかくダムが水圧に耐えながら、同時になるべく多くの水をためて発電量を増やせるよう、そのベストの調整に約1年半を費やしました。例えば、雨季にはダム貯水池の水位が急上昇し、ダムに想定外の挙動が見られました。そこで、いったん水位を下げた後、調査とモニタリングを行い、原因究明と対策を実施。しかし、再び水位を上げるとまた想定外の挙動が発生。ダムの水位をまた下げて、調査と原因究明と対策の後に再度水位を上げる、そんなことを何度も繰り返したのです」
あらゆる対策を講じ、ダムの安全性を確保しながら満水にすることができたのは、2019年8月のことだった。
川田「ダム建設では着工当初から、ラオス政府が設置した第三者機関『ダム安全評価委員会』が専門家の立場からチェックしてくれており、3カ月ごとに工事の進捗と安全性についての報告を求められて…。毎回レポート提出とプレゼンを行い、現地視察に対応するということを、十数回も積み重ねていたのです。そのため、満水になってもダムが安全であることを対策結果と計測データを基に示し、『このダムは安全です』との言葉とともに委員会から認めてもらえた時には、思わず『あぁ、よかった!』と。仲間と喜び合い、大きな達成感を得ることができました」
これぞ関西電力社員。村民との交流も全力で
「ナムニアップ1水力発電所」建設においては、現地に住む少数民族・モン族の約3500人の住民移転が必要となった。移住先の村には住居はもちろん、道路、学校、公民館、病院、灌漑地設備の整った水田や畑地、牧草地など、必要な社会インフラを整備。環境調査の本格的な開始から約10年かけて移転を完了させ、その後も支援を続けている。
住民移転に関わる業務は川田さんの守備範囲外。しかし、川田さんは、赴任当初から地域住民との交流を大切にしたという。
川田「工事中は近隣村の周辺を大型車両が行き交うなど、近隣の方々にはご迷惑をおかけしましたし、現場の作業員や建設キャンプの従業員として働いてくださるローカルスタッフの方も村には多く居住しています。こうしたプロジェクトは地域の方の協力・支援なしでは成り立ちませんから、地元の人々との関係づくりは大事にしましたね。普段から積極的に交流し、現地の行事にも参加させてもらいました。現地の言葉が十分には理解できませんが、一緒にビアラオ(ラオスのビール)やラオラオ(米でできたアルコール度数の高い地酒)を飲めば、ナムニアップ1に関わる苦労や辛抱、達成感を共有できるように感じます」
そう言って川田さんは笑うが、これは誰もができるようなことではない。しっかりと地域に溶け込もうと、業務時間外でもスポーツを含めて地元の人々と共に時間を過ごし、距離を近づける努力をいとわないのは、「関西電力の社風」とも言う。
川田「先輩や上司の方々全員が地元との交流を大切にしており、私もそういった方々の姿勢から、電力会社社員として地域に根差すことの大切さを学びました。これは日本でも海外でも変わらず関西電力の社風として根付き、受け継がれてきたものだと思います」
村の伝統である「水かけ祭り」では全身ずぶ濡れになるまで水をかけあってはしゃいだり、「ボートレース祭り」ではボートの漕ぎ手の一人を務めた。また、近隣村の祭りでは、村から現場に働きに来てくれているナムニアップ1パワーカンパニー社員の家を一軒一軒まわり日ごろの感謝を伝え、訪問先ではラオスの伝統料理とビアラオでもてなされた。
一方、「ナムニアップ1パワーカンパニー」が行事を主催し、村の人々を招待することも。サッカーが好きなローカルスタッフのために「ナムニアップ1フットボールクラブ」を設立し、地元住民などとフレンドシップマッチを開催して親睦を深める。正月には首都ビエンチャンのラオス日本センターで杵と臼を借り、村の人々と餅つき大会をするのが恒例となっている。
川田「少しずつ地元に馴染んでいって、周辺村の村長さんから『カワタさん!』と名前で呼ばれるようになった時は認められたような気がしてうれしかったですね。実は、村長さんは関電社員の名前を覚えようと、紙に書いて努力されていました。名前で呼んでいただけるということは、村との交流が進展した一つの証だとも言えます。今では、仕事の帰り道で村のそばを通ると、そこに住むローカルスタッフから、『一緒に飲もう!』と気さくに声をかけられます」
これからも世界各地で。大規模水力発電所建設への挑戦は続く
ナムニアップ1水力発電所の商業運転が開始して以降、川田さんは1年以上現地に残り、ダム運用の一役を担ってきた。
川田「ダムの水位の変動と、それによるダムの挙動をモニタリングし、その評価および対策検討を実施します。ダムの基礎にかかる揚圧力(ようあつりょく:ダムの基礎に浸透した水により、ダム堤体を浮き上がらせようとする力)や漏水が増えるようだとダムの安定性に影響しますので、注意深くモニタリングを続けていきます。ダム安全評価委員会とのやり取りも、商業運用開始から5年間は継続することになっていますので、レポート作成やプレゼンも引き続き行われます」
発電した電気は、隣国のタイ向けに年間15億キロワット時を27年にわたって販売し、安定的な収入の確保につなげる。そうして契約期間が終了した後は、発電所をラオス国に無償で譲渡することになっている。
川田「『第二のくろよん』との意気込みで取り組んだ本プロジェクト。まだ完了したわけではないですが、水力プロジェクトにかける挑戦心、使命感、情熱が、振り返ってみるとまさにこれが『くろよん』だったのかなと。私自身、世代的にいわゆる『くろよんスピリット』を完全に理解しているわけではないのですが、大規模なダム式発電所を造る苦労や責任感、徹底した安全対策については、きっと通じるものがあったのではないかと思います」
水力発電は、低炭素化の実現に貢献でき、地球に優しく持続可能な電源。海外では、そのポテンシャルはまだまだ多く残されている。そこで関西電力は海外に活路を見い出し、現在は、ラオス以外にもフィリピン、台湾、インドネシアで水力発電事業を手掛けている。風力など再生可能エネルギーについては、欧米などで近年さらに海外展開を加速させている。
川田「私個人としても、関西電力が今後また、海外で大型の水力発電事業へ参画することになれば、ぜひ現地で活躍したいです。調査・設計業務から建設・運用業務までトータルで関わりたいですね。ナムニアップ1の建設中に苦労したことを、今度は調査・設計段階で反映させて、より一層完成度の高いダムや発電所を目指したいです」
【今月の密着人】e-Mobility Power 企画部 アシスタントマネージャー 伏見允秀さん(35歳)
脱炭素化に向けた世界的な動きを背景に、自動車においては電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド自動車(PHV・PHEV)へのシフトが進んでいる。それに伴い、EV・PHV用充電器の整備が急務となっており、全国への普及を担う「株式会社e-Mobility Power」(以下、イーモビリティパワー)の社員は今、多忙を極めているという。同社企画部の伏見允秀(ふしみ・みつひで)さんがこの一年進めてきた仕事は、そんな未来のための土台作り。今後、“普通の景色”になる自動車用充電器、その裏方のお仕事とは?
始まりは新会社への出向。一人、静岡から上京
世界はいま、脱炭素化に向けた転換期。日本も例外ではなく、2020年10月には、政府は2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュ—トラル」を宣言。その要として期待されているのが、次世代モビリティである電気自動車(以下、EV)やプラグインハイブリッド自動車(以下、PHV)だ。
東京電力ホールディングスと中部電力が共同出資するイーモビリティパワーは、EV・PHV普及の鍵を握る「充電インフラ」を整えるために2019年に設立された新会社。立ち上げにあたり、両社から約20人が出向した。その内の一人が、当時、中部電力の配電部門に勤めていた伏見允秀さんだった。
伏見「もともと地元・静岡県で約10年間、配電設備の設計やご家庭の電気供給の検討などを担当していました。確かに電気を扱うことは変わりませんが、電力会社とEV・PHV関連の会社とでは仕事がまったく違います。正直、出向が決まったときは驚きました。ずっと作業服しか着たことがなかったので、今スーツで出勤していることが、とても新鮮です」
イーモビリティパワーで伏見さんに任された主な仕事は、“充電器の設置ルールを確立する”こと。しかし、立ち上げ直後の会社だけに、「充電インフラを整える」という目的以外、その方法は特に決まっていなかった。例えるなら、公務員から立ち上げられたばかりのベンチャーに転職したようなもので、伏見さんにとって環境変化はすさまじかった。
伏見「これまでの仕事は、規定に則って粛々と行っていくもの。それが、いきなり規定そのものを作る側に回ることになったわけですから、戸惑いしかありませんでした。人数も少ないので、企画部所属と言いながらも、既存の充電器のリサーチなどの業務に加えて営業や総務の範囲まで、とにかくどんな仕事でもやりました」
実は、伏見さんは当初、EV・PHVに一度も乗ったことがなかったという。同様の社員も少なくなく、「まずは乗ってみる」ところからが事業のスタートだったとか。実際に街中を走り、充電してみると、EV・PHVの現在地と、ユーザーが直面している課題点が浮き彫りになってきた。
膨大な調査データから充電器の最適配置の基準を導き出せ!
現在、日本の道路を走っている乗用のEV・PHVは30万台弱。全乗用車の数が約6000万台ということを考えると、200台に1台という割合だ。EV・PHVを街中で見掛けることはそう多くはないかもしれないが、一方で充電器を見たことがあるという人は少なくないだろう。
それもそのはずで、高速道路のSA・PA、ショッピングモールの駐車場などに、全国で約2万5000基が設置されており、人口カバー率(※)は既に93%を超えている。伏見さんも実際にEVで走行したときには、充電できる場所が思いのほかたくさんあることに驚いたという。それでは、一体、何が問題だというのだろうか。
※日本全国の可住地域において、10キロメートル四方で急速充電器が整備されている地域の割合
伏見「問題はとても複合的で、まずは必ずしも最適な場所に充電器が設置されているわけではないことでしょう。2014年~2015年にかけて国から大きな助成もあり、一気に充電器が設置されました。それにより、高速道路、道の駅、コンビニなど、移動の自由を確保する上で重要度が高い場所にインフラが整備されました。一方で、そのときは、限られた期間内で設置しなければならなかったため、設置場所が十分に確保できず、ユーザー目線の『ここにあったらいいのに…』という場所をカバーできていないケースも散見されます。これでは、道によって目的地にたどり着けない場合も出てしまいます。そうした、まだ課題がある充電インフラを整えていくことが私たちの使命であり、急務なんです」
そしてもう一つの大きな問題が、充電器の耐用年数だ。充電器の寿命は8~10年程度とされ、2014年ごろをスタートとすると、何もしなければ1~3年以内に日本にあるほとんどの充電器が寿命を迎えることになる。
伏見「もちろん、寿命だからといってすぐに使えなくなるわけではなく、使用頻度や設置環境によっても変わります。しかし、初期に設置された充電器は、今となっては出力が小さいので、最近のEV・PHVの電池性能を考えるとスペックを高める必要があります。それらを適切なタイミングかつ適切な場所にリプレースしていくことが必要なんです」
また、どんな充電器を設置するのが将来的に適切なのかというのも重要な要素になる。というのは、一口に充電器といっても設置場所によって求められる充電スピードが異なるからだ。
高速道路のSA・PAであれば行列を作らない時間で充電できる急速充電器がいいだろうし、宿泊施設などであれば夜の間にゆっくり充電できるものでサービスとしては十分足りる。
伏見「こうした課題やニーズは、机上だけでは見えない部分も多く、現地に行って分かったことも少なくありません。設置場所を実際に見たり、細かなデータをひたすら打ち込んだりと、地道にコツコツデータを積み重ねていきました。とにかく一歩ずつでも前に進まないといけないことは分かっていましたし、ゴールはあるので、つらくはありませんでしたね」
こうして集めた調査データは、利用実績や周辺の人口・世帯数、移動時間、移動距離など多岐にわたる。さまざまなデータを掛け合わせ、精査することで、伏見さんはチームでの検討を重ね、ようやく充電器の設置場所の目安となる“基準を創る”ことに成功した。
設置基準に基づいてイーモビリティパワー充電器第1号が始動
会社設立から約1年。伏見さんが形にした最適配置の基準に沿って、充電器を設置してくれるパートナー企業を見つけるべく営業活動が進められた。目標として掲げたのは、7000口ある既存の急速充電器を、2025年までに倍の1万4000口にすること。今後EV・PHVの普及率も伸びていくことを考えると、それだけの数が必要だという判断だ。
やっとの思いで創った基準が会社に採用されたという喜びも束の間、伏見さん自身も営業の外回りに同行するなど、相変わらず忙しい日々を送っているという。
伏見「まだ一人で営業に回れているわけではありませんが、自分のできることは何でもしていきたいです」
そしてついに、イーモビリティパワーとして第1基目となる充電器の設置が完了した。
伏見「ホームセンターの株式会社カインズ様と包括的な契約を結ぶことができ、2020年11月にカインズ朝霞店で当社として1台目が稼働し始めました。設置したのは、1基で2口の充電ポートを持つ海外メーカーの充電器。日本では初導入の機器となるので、今後はどのように使われているのか、お客さまのニーズに合っているのか、トラブルが起こらないかなどさまざまな観点を見ながら、サポートしていきたいと思っています」
これを皮切りに全国の店舗で導入が進められるほか、他パートナー企業の店舗などでの設置も決定しており、2025年までに1万4000口という目標に向かって邁進していく予定だ。
伏見「営業活動で難しいのは、まだEV・PHVの普及が誰もが実感できるほど進んでいるわけではないため、共感が得られにくい点です。充電器の設置はお店の集客にもつながるといった魅力もあるのですが、現在のようなコロナ禍では、それもなかなか響きにくい。また、たとえパートナー企業様が見つかっても、その企業様が希望する設置店舗と、私たちの設置方針とがマッチしないこともあります。私たちは必要な場所に必要な数を設置することが目標。丁寧に理由を説明して、調整しています」
それでも、大きな視点で見れば、今は追い風が吹いているという。
伏見「環境保全や災害対策への社会的意義があると捉えてくださる企業様が増えており、協業したいと声を上げてくださる方々が増えてきています。充電器は、EV・PHVの普及のためには欠かせないインフラです。その使命には、やりがいをとても感じますし、共感してくださる方たちからはエネルギーをもらっています」
新会社への合流、そして充電器の設置基準や計画をまとめた2020年。年が明けた今年は、これまでEV・PHV普及をけん引してきた合同会社日本充電サービスの事業を引き継ぎ、さらなる事業拡大を見込み、実際に充電器を設置し、ネットワークをつなげていくことがメインとなる。
営業範囲が全国なだけに、北海道から沖縄まで日本中の設置工事事業者とのパイプ作りもこれから必要だ。ただ、充電器の設置は電気工事。配電で培ってきた知識と経験を生かせる場面も増えてくるのではと、伏見さんはやる気に満ちあふれている。
伏見「正直、自分の性格的には配電の仕事の方が合っていると未だに思う部分はあるのですが、反面、とてもいい勉強をさせてもらっているなとも思っています。特に今はお話させていただく企業様がどういう状態にあるのかを把握しなければならないので、経済ニュースをチェックするなど、昔と比べて視野が広がりました。一人前のビジネスマンとしてスキルを高めて、もっと成長していきたいです」
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、陰ながら地域の役に立つため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしていることをご存じでしょうか。九州全域の電力を支える九州電力が行っているのは、子どもたちに“森の大切さ”を伝えるプロジェクト。予約も難しい人気イベントとなった「きゅうでんプレイフォレスト」の魅力とその裏側に迫りました。
予約困難!? 募集定員オーバーの人気イベント
大分県のくじゅう連山、熊本県の阿蘇山など豊かな自然が広がる九州。そんな自然の大切さを、子どもたちに遊びの中から学んでもらおうという体験型の環境学習イベントが、九州電力(※)が開催する「きゅうでんプレイフォレスト」です。
※九州電力株式会社と九州電力送配電株式会社との共催
2016年度から始まった「きゅうでんプレイフォレスト」。参加は原則抽選制で入場は無料(一部ワークショップは有料)
森で遊んだり、自然の素材を使ってモノづくりをしたりと、さまざまなワークショップを自由に体験できるイベントで、九州全域をフィールドに、これまで5年間で51回が開催されました。
参加した小学生やその親たちから「気軽に自然体験ができる」と人気が高まり、現在では募集定員を上回る応募があることも珍しくないそうです。
「電力会社が森で遊ぶイベントを主催するのはなぜ?」と思うかもしれませんが、実は発電所と森には密接な関係があるんです。
森には、雨水を蓄える機能があります。蓄えられた水は土から川へ流れ、そしてそれをエネルギーとして利用するのが水力発電所。水力発電のための水を安定的に確保するため、九州電力では100年以上も前から社有林を管理し、森を育ててきました。
そうした森との長い付き合いの中から、きゅうでんプレイフォレストは誕生し、森の役割から地球環境の現状までを伝えているんです。
森の役割や地球温暖化などわかりやすく教えてくれるオリエンテーション
2019年度には春と秋に合計15回開催されたきゅうでんプレイフォレストですが、2020年度は残念ながら新型コロナウイルス感染症の影響で、春の開催が中止となりました。
各地域で楽しみにされていた同イベント。どうにか開催できないかと運営チームが試行錯誤した結果、コロナ対策を十分に行った上で、10月に長崎で実施できることになりました。
「ながさき県民の森」で開催されたイベントでは、体験ブースを自由に回る従来のスタイルを一新し、森の中に全長約2~3キロメートルのコースを設定。道中で体験ブースやクイズを楽しめるウォークラリー形式で実施しました。
参加者同士の接触がなるべく避けられる工夫を盛り込みながらも、森を存分に楽しめるイベントとなり、参加した親子からは「とても楽しかった。来年も参加したい」「自然を感じることができた」「人気の理由がわかった。また参加したいです」といった声が届いているといいます。
2020年10月にながさき県民の森で開催されたきゅうでんプレイフォレストのウォークラリー
「マイ箸づくり」に「木登り体験」森遊びがたくさん
2020年度は内容が少し変わりましたが、きゅうでんプレイフォレストの魅力は、なんと言っても多彩な“体験”にあります。
ただ楽しいだけではなく学びにこだわっているというブースには、九州電力のほか、開催地の自治体や九州で活動するNPO団体などのさまざまな森のワークショップが並びます。
九州電力が出展しているのは、「マイ箸づくり」のワークショップです。社有林の間伐材をカンナで削り、完成するのは世界に一つだけのオリジナル箸。工作を通じて、間伐材とは何かということを知る機会にもなります。
マイ箸づくり
また、子どもたちに大人気の「木登り体験」は、イベントの目玉。木登り専用のロープとハーネスで、子どもでも無理なく安全に登ることができ、木の上で非日常感が楽しめます。森に親しみ、大切に思う心を養えるという魅力的なアクティビティでしょう。
木登り体験
これまでのイベントで実施されたアクティビティは30種類以上。他にも、挿し木苗作りや廃材や竹、土を使った工作体験、自然の中で楽しめる実験、さらにはピザやパン作りまで、活動ごとに内容は異なりますが、森の中だからこそできる体験が盛りだくさんとなっています。
挿し木苗作り体験
竹のくるくるパン作り体験
イベントを通じて環境問題を自分事に
そもそも、なぜ電力会社がこうしたイベントを開催しているのか、九州電力の担当者である地域共生本部の大塚明香(おおつか・はるか)さんに聞きました。
「電気を作るために、電力会社はどうしても二酸化炭素(CO2)を排出します。そこに対する責任として、地球環境問題は最優先で取り組んでいかなければなりません。九州電力では、電源の低炭素化や育林事業、環境保全活動といったさまざまな取り組みを行っていますが、残念ながら私たちが直接できることには限りがあります。環境問題は誰もが自分事として考えなければならないこと。地域全体で取り組んでいくために、こうしたイベントがきっかけになればと思っています」
「これまで各地で開催できたのは、それぞれの地元の方々、それに奔走してくれた各支店の担当者あってこそです」と大塚さん
未来を担う今の子どもたちに森の大切さを広めていくことは、電力会社としての責任ということ。そして、きゅうでんプレイフォレストは、九州電力が各地域と共に生きていくために大事な役割を果たしているともいいます。
「だからこそ、きゅうでんプレイフォレストは、継続していくことに意味があると思っています。1回だけ、1年間だけというものでは、地域の方々との信頼関係を築くことはできません。自治体やNPO団体の方々と足並みをそろえ、長く関わっていくことで、ニーズや課題に一緒にアプローチしていく。そういったことができればいいなと思います」
2020年10月のイベントを共催した長崎県森林ボランティア支援センター センター長の佐藤祐樹さんは、きゅうでんプレイフォレストへの期待を次のように話します。
「子どもたちが森に入る機会がだんだんと減っている中で、遊び方と共に学びを得られるイベントはとても貴重だと思っています。森は成長するのに何十年、何百年もかかります。参加した子どもたちが親となり、自分の子どもたちを連れて再び参加してくれる。それを繰り返していけば、森の未来にもつながっていくのではないでしょうか。森と人をつなぐイベントを、今後も長く続けていっていただきたいと思っています」
森林散策の様子。森と触れ合い、自然の大切さを学ぶ。きゅうでんプレイフォレストの役割は大きい
コロナ禍で、これまでとは違う形で開催したことに、当初は不安を覚えていたという大塚さん。実際に蓋を開けてみれば予想以上の反響に安堵したそうです。
「お客さまに安心して楽しんでいただけるだろうかという不安もありましたが、実施してみて、こうした状況下でもやり方はたくさんあるんだと感じました。フィールドは九州全土。今後も新しいことを考えていきたいと思っています。ぜひご期待ください」
豊かな自然が広がる九州で、森の遊び方、そして自然の尊さを学ぶ。きゅうでんプレイフォレストには、子どもはもちろん、大人も気づくことがたくさんありそうです!
■DATA
きゅうでんプレイフォレスト
問い合わせ:九州電力株式会社 地域共生本部 地域共生グループ
電話:092-726-2208
>開催告知や参加申し込みは【九州電力HP「きゅうでんプレイフォレスト」】へ!
■電気事業連合会ホームページ「地域共生への取り組み」
URL:https://www.fepc.or.jp/sp/social/
【今月の密着人】九州電力 地域共生本部 地域振興グループ 副長 照山太一さん(41歳)
電力会社は地域に根ざす企業。電気を安定して届け、快適な暮らしを守ることが使命だが、電気には一見関わりがないような業務もあり、一般的に知られていない仕事も多い。その一つが「地域振興」だ。九州全域の電力を支える九州電力には、この地域振興を専門とする珍しい部署がある。2019年から同部署で始動した「Qでん にぎわい創業プロジェクト」。人口減少に悩む町を盛り上げるために、日々奮闘する地域振興グループ 副長 照山太一さんの仕事に迫った。
舞台は人口約7700人の小さな町……どうやって盛り上げる!?
地域の人々と協働し、持続可能なビジネスモデルを構築することで、地域の課題解決を目指す「Qでん にぎわい創業プロジェクト」。その舞台となるのが、大村湾に接する長崎県・東彼杵町(ひがしそのぎちょう)だ。かつては長崎街道と平戸街道が交わる宿場町であり、江戸時代はくじらの水揚げと鯨肉取引の中心地として栄えた。
大村湾をバックに青々とした茶畑が広がる風光明媚な東彼杵町だが、近年は著しい人口減少と高齢化が問題になっている。そこで、町に住む数少ない若者たちが一念発起し、2013年から古い米倉庫を地域住民の力でリノベーション。2015年に交流拠点「ソリッソ リッソ」をオープンした。ここを中心にした観光客の呼び込みに成功したことをきっかけに、町のにぎわいを取り戻そうという動きが活発化している。
照山さん「私が初めてこの町を訪れたのは2019年10月でした。高速道路を降りると大村湾が目の前に広がる田舎町というのが第一印象でしたが、中心部まで行くとコーヒースタンドやアンティークショップ(当時)が入居する『ソリッソ リッソ』という交流拠点があり、おしゃれな若者が県内外から訪れていたんです。また、最も海に近い駅として有名な千綿駅の駅舎の中にカレー屋さんがあったりと、若者に人気が出そうなコンテンツが育くまれていたことに、良い意味での衝撃を感じたのを今でも覚えています」
観光地としてじわじわと人気を高めてきた東彼杵町に、照山さんは「生まれ育った糸島市に似ている」と感じたという。東彼杵町と同じく、昔は何もない田舎町だったいう福岡県の糸島市だが、現在ではおしゃれなカフェやショップが建ち並び、一度は行きたいリゾート地や移住先として全国的にも有名になっている。そうした変化を身近に知る照山さんは、直感的に東彼杵町に糸島と同じような可能性を感じたのだそうだ。
「Qでん にぎわい創業プロジェクト」のミッションは、町に新しい仕事を作り、移住しやすい環境を整えることで、東彼杵町に移住者を増やすこと。照山さんが最初に取り組んだのは、とにかく町の人に会って話をすることだった。
照山さん「東彼杵町の現状を知らずして、地域活性化なんてできるはずがありません。まずは地元の方たちと交流することが一番だと思ったんです。初めは月に3回くらいでしたが、後半になれば、週に2~3日くらい東彼杵町に滞在して、何かあればお手伝いしたり、プライベートでも家族で町を訪れたり。すると仲良くなった方がまた別の方を紹介してくれるなど、どんどんつながりが広がっていったんです。そんなことばかりしていたからか、地元の方からは『こっちに住んでるの?』なんて言われたこともありましたね(笑)」
“まずは何でもやってみる”精神が開眼
バイタリティがあふれ、積極的に地域に関わる照山さんだが、そのモチベーションや仕事観はどこから来ているのだろうか。それをひも解くカギは、これまでに仕事で携わってきた子ども向けの環境意識の啓発イベントにあった。
照山さん「もともと九州電力では、創立50周年記念事業として、子どもたちを招いて植林活動を行っていました。10年間で100万本植樹の目標を達成したこともあり、新しい活動を検討したところ、『日々の暮らしの中で森との接点がなくなっている。もっと森を身近に感じてもらうことで、子どもたちに森を大切にする心を伝えられないか』と、考えたのが、アウトドア・アクティビティを通じて森を楽しみながら学ぶイベント『きゅうでんプレイフォレスト』でした」
2016年から始めたこのイベントでは、マイ箸づくりや火起こし、ネイチャーゲームなど、さまざまなアクティビティを準備した。地元のアウトドアイベントを実施するNPO団体などを訪ね、出展をお願いして回ったという。さらに、自らも休日を使い、プライベートでアクティビティに関する講座をいくつも受講し、資格を取っていったというから感心させられる。
照山さん「ツリーイングにブッシュクラフト、プレイパークのプレイリーダーなど、いろいろな講座を受講して資格を取ったり、団体さんのイベントのお手伝いに行ったりもしました。仕事でも楽しくないと面白くないですよね。全力でやるから仕事でも遊びでも楽しくなるんです。これは多分、体育会系な父に育てられ、学生時代も体育会系で鍛えられたことで、つらい練習でも全力で乗り越えた先にこそ良い結果が生まれるというのが分かっているからかもしれません(笑)。結果的に各団体さんとも良い関係を築くことができ、『きゅうでんプレイフォレスト』は第1回から、いろいろな団体さんにご協力をいただき、来場されたご家族連れに喜んでいただける立派なイベントになりました」
>「きゅうでんプレイフォレスト」詳しくはこちら『電力会社が“森の遊び方”を教えてくれる? 子どもをとりこにする「きゅうでんプレイフォレスト」が面白い!』
その後、九州電力 佐賀支店に転勤になったことをきっかけに、照山さんの“まずは何でもやってみる”精神は加速していく。
照山さん「それまでは九州電力本店の所属だったので、基本的にプランを作ることが多い仕事でした。しかし、支店では自分たちが主体となってイベントを運営していくことができるので、何でもやってみたい自分としては、とても楽しかったです。地域の方々を訪ねては新しいイベントを考えたり、逆にイベントがあるよと誘われれば二つ返事で参加したり。そこで染みついた感覚は、今の東彼杵町でも良い方向に発揮されていると思います」
意識したのは地元目線。町ににぎわいを創る「くじら」と「観光交流拠点」
「Qでん にぎわい創業プロジェクト」の発足から約1年間、地域の方々とワークショップや事業検討ミーティングを行ってきたが、現在の照山さんは「くじら焼」作りに精を出している。というのも、ついに事業内容が決定したのだ。2020年11月、その実現に向けて「一般社団法人 九電にぎわい創業カンパニー」を設立。照山さんは東彼杵プロジェクトのリーダーとして、日々、東彼杵町のために汗を流している。
照山さん「ビジネスプランは2つに決まりました。一つは、『くじら焼』と『くじら最中』の販売を2021年2月ごろからスタートすること。実は東彼杵町の基幹産業であるお茶は『そのぎ茶』と呼ばれ、全国のお茶品評会で4年連続日本一になっているほどのおいしさ。そのお茶と一緒に訴求できるお茶うけ菓子として開発中です。地域の皆さんとのワークショップを重ね、町を訪れた方へのヒアリング調査なども行いました。家でも何度も試作をし、妻や子どもたちからも意見をもらったりもしました」
「くじら」をモチーフにしたのは、東彼杵は昔から「お茶とくじらの町」としてインナーブランディングができているから。過去に捕鯨で栄え、今なお鯨肉取引が行われている「くじら」の歴史や文化と、特産品である「お茶」に、協業パートナーも焦点を当ててブランディングしていたこともあり、この「くじら」と「お茶」がテーマとなったそうだ。
照山さん「もう一つは、地元の人と移住者、そして観光客が集うことができる観光交流拠点兼コワーキングスペースを作ることです。現在、町外からの若い観光客はソリッソ リッソに集まり、一方で地元の方たちは道の駅に集うことが多い。この両者が交わることで面白い化学変化がおきるのではないかと感じています。なので、そのちょうど中間になるような、地域内外、老若男女問わず、誰もが気軽に訪れられる交流拠点を作りたいんです。この事業は数年先の実現をと考えていましたが、コロナ禍によって地方移住が注目される今、この追い風に乗るために2021年秋ごろのオープンを目指しています」
現在、これらの事業に携わる人を募集するなど、プロジェクトはより具体的に進んでいる。こうした事業を検討する中で、照山さんにとって協業パートナーはなくてはならない存在だった。ソリッソ リッソを運営する東彼杵ひとこともの公社の代表理事、森 一峻(もり・かずたか)さんだ。
東彼杵町出身で町の活性化の中心的存在である森さんは、「新事業を立ち上げようと思っても、私たち東彼杵ひとこともの公社の力だけでは資金面などでなかなか難しい部分があります。そうした中で、今回のプロジェクトには非常に感謝しています。照山さんは常に地元目線で、親身にいろいろなところでご尽力いただいています。会社との間で板挟みになることもあったのでしょうが、照山さんが私たちのことを考えて間を取り持ってくれたからこそ、ここまでたどり着けたのだと思います。このプロジェクトで仕組みを作り、今後も継続できる事業にしていきたいです」と、感謝の気持ちを言葉にしてくれた。
時には意見を戦わせながらも、町のために何ができるか、自分には何ができるのかを、地域の皆さんと一緒になって真剣に考える。そうして地域と一丸となり、事業を形にしてきたのだ。
照山さん「九州電力が支援者という形に見えるので勘違いされることもありますが、あくまで地域の方々とは対等な立場であると思っています。だからこそ意見をぶつけ合えるし、信頼関係を築くことができる。結局、お互いの根っこにあるのは、この町が好きだから大切にしたいという純粋な気持ち。その気持ちがないと、地域活性化なんでてきません」
そしてもう一つ、照山さんが大切にしているのは、九州電力に根付いている「九州の発展なくして、九電グループの発展なし」という思いだ。
照山さん「会社組織に属していると、どうしても上司を見て仕事をしてしまいがちです。もちろんそれは大事ですが、あくまでも私の仕事は地域の協業パートナーがあっての事業ですし、その先には地域の方々のリアルな暮らしがある。だから、本当に大切なのは、地域の目線に立つことなんです。それを徹底するようにしているので、社内からは『お前は東彼杵の人やろう』なんて言われることも(笑)。でも、それは誉め言葉だと思っていて、胸を張って取り組んでいます。今後も地域目線でいることを忘れずに、このプロジェクトに一層邁進していきます」
■九電にぎわい創業プロジェクトについてはこちら
URL:http://www.kyuden.co.jp/company_local-social_nigiwai_index.html
■電気事業連合会ホームページ「地域共生への取り組み」
URL:https://www.fepc.or.jp/sp/social/
全国各地にある発電所、その数はなんと5000カ所以上。一口に発電所といっても、実は一つ一つ違った個性があるんです。いつもはそんな発電所の見学レポートをお届けしていますが、今回は“発電所の中身”を作る「三菱パワー 日立工場」を見学しました。90年以上にわたり、火力、水力、原子力とさまざまな発電所の重要設備が作られてきたこの場所。普段は一般公開されていない工場の中を覗いてみませんか?
オーダーメイドの超大型機械! 三菱パワー 日立工場をレポート
茨城県の北東部に位置する日立市。
春になれば桜並木が迎えてくれるJR常磐線日立駅からは、一直線に水平線が伸びる太平洋が臨めます。
JR日立駅のすぐ裏手には、目の前に太平洋が広がっている
そんな日立駅からほど近いところにあるのが、今回訪れた「三菱パワー 日立工場」です。
この場所に工場ができたのは、約90年も前の1930年のこと。
前身となる日立製作所の工場から始まり、統合、社名変更などを経て、現在の三菱パワー 日立工場になりました。
2020年に社名を変更し、現在の三菱パワー 日立工場に
電力関連の設備を作る三菱パワーが、国内に持つ主な製造拠点は4つあります。
大型ボイラーなどを製造する長崎工場、大型ガスタービンなどを作る高砂工場、環境プラントなどを製造する呉工場。その中で日立工場は蒸気タービンと中小型のガスタービン、発電機を製造しています。
長く伸びる工場の建屋群。43万4000平米の敷地内に20棟ほど並んでいる
そんな日立工場で、まず見学したのが「タービンの翼(ブレード)」を作る工場です。
発電所で使われる発電機は、主に回転するタービン(回転式の原動機)と、電気を生み出す発電機、それをつなぐシャフト(車軸)でできています。
蒸気を動力にする蒸気タービンの場合、ボイラーから出てくる高圧高温の蒸気をタービンの翼が受けると回転エネルギーが生まれ、くるくると高速で回ります。同時にタービンとシャフトでつながっている発電機も回り、電気が作り出される仕組みになっています。
つまり、発電のキーパーツとなるのが、ここで製造されている翼なんです。
タービンの組み立て風景。周囲に取り付けられている一枚一枚が翼(写真:三菱パワー 日立工場)
一口に翼といっても種類はいろいろ。基本的な役割は同じですが、長さや形が違うことで、生み出す回転エネルギーに差が出てきます。
また、サイズの違いで作り方も変わります。大きなものは鍛造翼(たんぞうよく)といって、最初からほぼ完成に近い形に成形されますが、小さいものは削り出し翼といって四角い金属の棒を機械に入れるだけで、ほぼ完成するという作り方。
機械の中にある回転する刃物で、まるでリンゴの皮むきのように、シュルシュルっと金属の棒を削っていきます。
高速タービンブレード加工ラインで翼を削り出す。1枚作るのに2時間程度かかる(写真:三菱パワー 日立工場)
タービンを組み上げるために必要な部品は、工程ごとにそれぞれ専用の機械があるため、工場内のあらゆるスペースに大型機械が並んでいます。
機械はたくさん並んでいるものの、人はまばら。昔はもっと細かい工程に分かれていて人手が必要だったそうですが、今では機械1台で大半の作業ができるようになり、人もスペースもだいぶコンパクトになったとか。
翼作りの最後は、研磨機や人の手で磨き上げる作業です。細かい部分などまで丁寧に削り、ピカピカに仕上げていきます。
翼の次は、タービンの組み立て工場に。
建屋の中では、大型クレーンで吊り上げられたタービンが、人の手でどんどんとパーツが組み上げられ、その姿をあらわにしていました。
あまりに大型だと、組み立てたとしてもそのまま出荷できないため、いったん調整をした後、もう一度バラバラにして発送するそう。
1基を組み立てるのにかかる期間はだいたい2カ月。損傷の原因となってしまうため、ごみ一つ、異物一つ入らないよう神経を使います。
さらに、タービン外側の固定された部分と、中にある回転する部分の隙間を測り、調整する作業にものすごく時間がかかるのだとか。
最も狭いところで1ミリメートル以下の隙間というから、高い精度と粘り強い根気が必要となる、まさに職人の世界なんです。
効率の良いタービンを作るため、ギリギリの狭さに調整するのがタービンメーカーの技術の見せどころ(写真:三菱パワー 日立工場)
同じ建屋の中には、水力発電用の水車を組み立てるエリアもあります。発電の歴史からすると、水車が最も古く、次に火力タービン、その後に原子力タービンが登場しました。
「水車」と聞くと昔ながらのイメージがあるかもしれませんが、現在は“スクラップ・アンド・ビルト”が盛んで、水力発電所で使われている古い水車を新しいものに入れ替える施設が増えているため、今はけっこう忙しいそうです。
水力発電所で使われるポンプ水車ライナー(写真:三菱パワー 日立工場)
次は、大型の部品を加工する工場へ。
タービンの軸となる部分を作るスペースでは、10メートルほどある粗く形どられた巨大な金属の塊を、大型の旋盤で削っていました。
横溝など細かい部分も、専用機械で加工します。さまざまな工程を経て、次第に細かな溝やラインが入った巨大なパーツができていく光景は、圧巻の一言です。
大型タービンの軸となる部分を旋盤で削り、形を作っていく(写真:三菱パワー 日立工場)
ちなみに、冒頭で「一般公開されていない工場」とお伝えしましたが、実は工場の中を見学できるチャンスもあります。不定期ですが数年に一度、工場敷地内を開放する日があり、この日だけは普段見ることのできない工場内の見学もあるとか。
そして、最後に訪れたのは、発電機を組み立てる工場です。
高さは約30メートル、長さは約240メートルもある大きな建屋で、先ほどのタービンとセットになる火力発電用、水力発電用、原子力発電用の「発電機」を作っています。
発電機を組み立てていく様子(写真:三菱パワー 日立工場)
発電機の原理を簡単にいうと、筒状に巻いたコイルの内側で磁石を回転させ電気を発生させています。
筒状に巻いたコイルを「固定子」、磁石(電磁石)を「回転子」といい、回転子は発電機にとって非常に重要な部品です。
回転子の製作現場で行われる大事な工程が、ローターシャフトという回転する部分にコイルを組み込んでいく作業です。1台につきおよそ1カ月かかり、異物が入り込まないよう、クリーンルームの中で行われます。
それぞれの部品が完成したら組み立て、発電機が問題なく動くか性能試験で確認。合格できれば現地へと発送されていきます。
この発電機、総重量450トンを超えるものもあり、組み立てた完成品をそのまま発送する場合もありますが、多くは一度各部品に解体されて、現地に送られていきます。
輸送の玄関口となる日立港までの距離は約12キロメートル。この道のりを、タービンや発電機は大型トレーラーに乗せられて深夜に運ばれます。超大型機械が一般道を通るため、道の途中にある歩道橋が“せり上がる”という日立市ならではの珍しい光景を見ることも。
現地で実際に組み立てられ、完成した火力発電用の発電機(写真:三菱パワー 日立工場)
こうした“発電プラント”を製造し続けてきた三菱パワーですが、「カーボンニュートラル」や「脱炭素化」という世の中の流れから、近年、新しい動きも見せています。
他工場で、世界最高レベルの高い効率を誇る大型ガスタービンをはじめ、バイオマス用のボイラー、大型の燃料電池などを開発。さらには、火力発電所を低炭素化できるようにする改造工事を推進したり、二酸化炭素を排出しない水素ガスタービンを用いた発電技術を開発するなど、さまざま方向から“次世代の発電プラント”を形にし始めました。
現在アメリカで進められている、水素を貯蔵し、大型ガスタービンで発電するというプロジェクトにも参画している
今後、“メインの電源”となることが期待される太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、どうしても気候の変化に影響されます。電力の安定供給のため、それをバックアップする調整力として、火力発電をはじめとした従来の電源はまだまだ重要な役割を担っていくことでしょう。同時に、カーボンニュートラルの実現に向けて、新たな発電方法にも期待がかかります。
三菱パワーが製造してきた火力発電用、水力発電用、原子力発電用のタービンや発電機などは、日本国内だけでなく、世界数十カ国で今現在、活躍しています。それは人々の生活はもちろん、世界中の産業を支える電力の安定供給に欠かせない存在です。
下支えとなるこうした発電所や次世代のエネルギー源開発を、さらに裏側から支えるのが、三菱パワー 日立工場をはじめとした発電設備の製造現場が担っていること。
安定して電気を作り、使う。その前提を生み出してくれている製造工場のこれからに注目です!
■スポットDATA
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、陰ながら地元のため、環境のためなど、他にもアレコレいろいろな活動をしているのをご存じでしょうか。首都圏エリアなどへ電気を送る送配電事業を担う東京電力パワーグリッドが作ったのは、なんとマウンテンバイクのコース。静岡県富士市に誕生した「Fujiyama Power-line Trail」の魅力を探ります。
送電線の巡視路をMTBコースに!?
発電所で作った電気を私たちの元へ運んでくれる送電線。普段意識していないとなかなか見る機会がないかもしれませんが、日本全国にある鉄塔は約24万基、長さにして約9万キロメートル。注意してみると、いろいろなところで見つけることができるんです。
富士山の裾野に小さく連なって見える白い棒のようなものが鉄塔。世界遺産のふもとにも送電線は延びている
2020年7月、東京電力パワーグリッドが地元の協力のもと静岡県富士市にオープンした「Fujiyama Power-line Trail」(以下FPT)は、そんな送電線に沿って作られたマウンテンバイク(以下MTB)専用の常設トレイル(未舗装路)です。
といっても、一から作り上げたものではありません。もともと送電線の下には鉄塔の点検・整備のために歩く巡視路が通っていて、そこをMTBで走りやすいようにリニューアルさせた、というわけなんです。
送電線の下は木が伐採されていて開けている。深い森の中を走れるというのは特別なシチュエーションだ
そもそもFPTが誕生した背景は、静岡県がサイクルスポーツの聖地として名乗りを上げるほど、自転車に積極的なエリアだから。県内には未舗装路の林道がいくつもあり、MTBとの相性も良好。ここ以外にも少しずつMTB用のコースが増えているのだとか。
もちろん、東京五輪で自転車競技のほとんどが静岡県内で行われることも、こうした動きを加速させる要因になっていることは間違いありません。
オープン時には、地元の自転車ショップなどに声を掛け、イベントを開催。120人ほどが参加した
ちなみに、巡視路をMTBコースにしてしまったら、「点検整備はどうするの?」という疑問が浮かぶことでしょう。確かに昔は人が実際に歩いて送電線などをチェックしていましたが、現在はヘリコプターやドローンを使った空からの巡視が主流となっています。
巡視路をあまり使わなくなったことで、逆に除草などの管理に手間が掛かっていたそうで、MTBコースにして人が頻繁に通れば、そうした心配などがなくなるというメリットもあるのだとか。
スケールがすごい! 山麓を生かした本格派コース
FPTにあって既存のMTBコースにないもの。それは、スケールの大きさです。日本にあるMTB用トレイルは、オフシーズンのスキー場に設置されているものが主流で、数本の短めのコースを楽しめるものがほとんど。
しかし、FPTは送電線の下という特性上、長いトレイルが1本のみ。その分、山道を一気に駆け下りるような爽快感が特徴です。
コースは19基の鉄塔をつなぐ約7キロメートルで、高低差は約200メートル。途中には絶景を楽しめるポイントも
海外では送電線の下をトレイルとして利用するのは珍しくなく、特に北米などの雄大な自然の中にあるトレイルはMTB好きなら一度は走ってみたいと憧れるもの。そういう意味でもFPTはこれまで日本になかったタイプのコースなのです。
岩にタイヤを取られる急な下り坂は、難しいポイントの一つ
鉄塔をこんなに間近に見られるというのも、実は珍しい。コース上で一番古いのは昭和2年に建てられたもので、まだまだ現役だそう
そして、最大の魅力となるのが「自然のままの地形を楽しめる」という点。
日本のMTB向けのトレイルは、走りやすく管理された人工的なコースであることがほとんど。コーナーにはバンク(傾斜)が付いていたり、ジャンプ台があったり。一方でFPTは、あえて手を掛け過ぎず、自然そのままの路面をクリアする楽しさを優先しています。
そのため、コースの表情はとても多彩で、草地に砂地、極めつけは溶岩石の岩場まで。富士山の裾野ならではの路面が次々と現れます。
難易度は高いものの、長い直線の下りは爽快
ただ、その分難易度が高いという一面も。プロ選手や地元のMTBを扱うプロショップの協力のもとにコースは作られているため、中級者~上級者向けの完成度の高いコースになっています。
一番の難所となるのが、急なアップダウン。もともと人が歩くための巡視路だっただけに、上り下りが必要な箇所には階段がありました。階段をスロープ化し、登りやすいようつづら折りなどにしたものの、上級者でないと走破するのはなかなか難しいようです。
森の中を走れる贅沢な空間。送電線がコースの目印に
それでも、実際に走った利用者からは、「自然のままのトレイルを走れるのは貴重」「登りがキツいけど、それがまた面白い」「送電線をたどればいいから、道に迷わないのがいい」といった声が多く届いているそうです。
難易度が高いため、プロ選手が練習コースとして使うこともあるそうだ
秋には陽に照らされ輝くすすき畑の景色も広がる。自然の中ならではの風景を見られるのもFPTのいいところ
MTBトレイルからつなげる地域への貢献
そんなFPTですが、どんな経緯で生まれたのでしょうか。プロジェクト初期から関わっている東京電力パワーグリッド 静岡総支社 しずおか地域活性プロジェクト MTBチームの武田和也さんと廣岡一典さんに伺いました。
「きっかけは2年前に社内で立ち上がった地域活性プロジェクトです。20~30代の若手中心で作った20名ほどのチームで、地域を盛り上げるためのさまざまな事業を検討しました。地域に活かせそうな会社の資源や技術を洗い出していく中で白羽の矢が立ったのが、自社所有しているこの送電線の土地でした」(武田さん)
そこで、MTB好きの一人の社員から「MTB専用のトレイルにしてはどうか」という案が持ち上がり、実現に至ったといいます。
プロジェクトに携わる以前からトレイルランニングが趣味だったというアクティブ派の武田さん
「実は、送電線下の土地を電力会社が保有していること自体が珍しく、通常は地権者の方々からお借りするという形が一般的。今回のFPTは自社所有の土地だったからこそ実現できたものなんです」(廣岡さん)
FPTをきっかけに自転車の楽しさに目覚めたという廣岡さん
今後はFPTをきっかけに自転車の裾野を広げていきながら、利用者にはエリア内の宿泊施設や飲食店なども一緒に楽しんでもらえるような流れを作ることで、地元に貢献していきたい。そんな目的もあるそうです。
2020年11月には、市内で大きな動きも。「富士市」と、FPTの受付・スタート地点となる有料公園「静岡県富士山こどもの国」、地元の社会福祉法人「誠信会」、そして「東京電力パワーグリッド 静岡総支社」とで4者協定を締結。自転車を通じた地域づくりを協力して推進していくことが決まりました。
東京電力パワーグリッド 静岡総支社長の渋井慶次郎さんは、「静岡は自転車県。サイクリストを満足させられる環境が整ってきており、今後はそれらを絡めた『サイクルツーリズム』を推進していくことが静岡の明るい未来につながっていくと考えています」と、展望を教えてくれました。
また、富士市 市民部 スポーツ振興課 主幹の石井俊勝さんは、「このFPTをきっかけに、市内外から富士市を訪れてくれる方々が増え、街の活性化にもつながっていくことを大いに期待しています。富士市は自転車文化を促進するために、これまでも多方面と連携を結んできました。今回協定を結んだ4者が協力することで、市全体でスポーツサイクルの魅力を発信できるエリアに成長していきたい。今後にぜひ期待してください」と前向きです。
御殿場などでも自転車イベントは開催されており、今後、県内全域に連携が広がっていくのが楽しみだ
FPTは、まだ動き出したばかり。実はコースとして使っていない送電線下の土地はたくさんあるそうで、「軌道に乗ればトレイルの全長を伸ばしたり、家族でも楽しめる初心者向けの走りやすいコースを作ったりできたらいいですね」と、武田さん。
富士山のふもとをMTBで走れる魅力満点のスポット。静岡のサイクルツーリズムを広げる一大拠点になる日も、そう遠くなさそうです。今はまだ知る人ぞ知る場所なので、アウトドア好き、自転車好きなら、一足先に訪れてみてはいかがですか?
写真・資料協力:東京電力パワーグリッド 静岡総支社、静岡県東部地域スポーツ産業振興協議会 一部写真撮影:編集部
■DATA
Fujiyama Power-line Trail
住所:静岡県富士市桑崎1015(静岡県富士山こどもの国内)
アクセス:新東名高速道路新富士ICより約15km他
問い合わせ:fujiyamapowerline@tepco.co.jp
予約方法:メールもしくはサポート契約店から申し込み
料金:1日4000円/1名(事前振込)
URL:https://www.tepco.co.jp/pg/company/summary/office/shizuoka/MTB/index-j.html
■電気事業連合会ホームページ「地域共生への取り組み」
URL:https://www.fepc.or.jp/sp/social/
全国各地にある発電所、その数はなんと5000カ所以上。一口に発電所といっても、実は一つ一つ違った個性があるんです。いつもはそんな発電所の見学レポートをお届けしていますが、今回は発電所から町に電気を届ける送電線の新しい点検方法をレポートします。広島県府中市の山中で行われたのは、空飛ぶドローンを使った送電線点検。国内初だという、その画期的な試みとは?
広島から全国に発進!? 空飛ぶドローンの新しい使い方
広島県の南東部に位置する府中市。
市内には400~700メートル級の山々が起伏し、その合間を瀬戸内海に注ぐいくつもの河川が流れています。
八尾山といった雄大な山々に囲まれた広島県府中市
また、高級婚礼家具や非鉄金属ダイカスト製品、ラバータイルといった工業製品の製造工場も多数あり、これまで家具・機械金属・繊維の街として発展してきました。
しかし、近年は他の地方と同じく少子高齢化が進み、地域を支えてきた産業も徐々に衰退してきているのです。
そこで最近、市として新たに力を入れているのが、今後世界的な成長が期待される「ドローン産業」。2017年から、人材育成、環境設計、社会への理解促進を3本柱に、官民でさまざまな施策や活動を展開しています。
例えば、世界初となる寺でのドローンレースや、全国ドローンレース選手権2019(広島会場)など積極的にレースを開催し、レーサーの育成も推進。道の駅にはドローンに特化したワークスペース「DDD.Labo(スリーディーラボ)」を作りました。
既に市内には、産業用ドローンメーカーやドローン空撮業者なども増えていて、さまざまな実証試験が盛んに行われています。
そんな府中市で2020年11月下旬、発電所から電気を送るための送電線の上空をドローンが飛びました。
広島県府中市諸毛町の山間に設けられた試験会場
主催したのは、グリッドスカイウェイ有限責任事業組合(以下、グリッドスカイウェイ)。ドローンによる設備点検を高度化し、新しいドローン事業を生み出すことを目的とした組織です。
2020年3月に東京電力パワーグリッド株式会社、株式会社NTTデータ、株式会社日立製作所によって設立され、6月には中国電力ネットワーク株式会社も参画。7月から実際のフィールドで“ドローンのための航路”の検証を始めました。
今回は、府中市諸毛町内に立つ7つの鉄塔の間、約2.6キロメートルにわたって続く送電線上空にドローンを飛ばし、設備点検の実証試験を行うこととなったのです。
実証試験は、現地で送電事業などを手掛ける中国電力ネットワーク株式会社の社員や府中市、経済産業省の職員らおよそ30人が見守る中で行われた
東京から遠隔監視&制御も! 国内初のドローン実証試験が成功
実は、電力設備の点検にドローンを使うことは珍しくなく、全国の発電所やダムなどでは既に行われています。しかし、あくまでも操縦者や補助者の目が届く、そう広くない範囲でのこと。今回はそうしたものとは大きく異なり、国内初の試みとして注目された点がありました。
それは、地表から150メートル以上の空域において、操縦者の目の届かない範囲までドローンを飛行させること。このような飛行を安全に行うため、送電線から一定の距離をとった飛行ルートを事前に設定し、ドローンはこのルートに沿って自動で飛行しました。
現状、日本でのドローンの飛行レベルは、次の4段階に定められています。
レベル1=目視内での操縦飛行
レベル2=目視内での自動・自律飛行
レベル3=無人地帯での目視外飛行(補助者の配置なし)
レベル4=有人地帯(第三者上空)での目視外飛行(補助者の配置なし)
加えて、空港周辺、150メートル以上の上空、人家の密集地帯は、原則飛行禁止区域となっています。
今回は地表から150メートル以上でのレベル3飛行について国内で初めての許可を国土交通省から取得。府中市では、地表から最大220メートルの空域で飛行を行いました。さらに、自動飛行だけでなく、将来の事業化を見据えて現場から600キロメートル離れた東京からの遠隔監視と遠隔制御も実施しました。
試験開始に向けてスタンバイ中のドローン
遠隔でドローンを監視する東京・虎ノ門のグリッドスカイウェイの本社内(画像提供:グリッドスカイウェイ有限責任事業組合)
システムから飛行開始を指示(画像提供:グリッドスカイウェイ有限責任事業組合)
試験開始。ドローンがゆっくりと浮上していく
無事離陸すると、見学者からは思わず歓声が
この後、あっという間に目の届かないほど空高くへ
試験は順調に進み、自動で約10分間飛行しました。
ドローンが撮影するリアルタイム映像を通し、送電線や鉄塔の様子、電線の近くでクレーンを使った工事が行われていないか、鉄塔の周辺で土砂崩れがないかといった送電設備の点検で実際に行われていることが確認できたのです。
鉄塔の上の小さな黒い物体が、飛行中のドローン
ドローンが撮影している映像。送電線の上空からの景色は、なかなか見ることはできない
ドローンのカメラが撮影した上空からの映像(画像提供:グリッドスカイウェイ有限責任事業組合)
送電設備の点検は現状、ヘリコプターもしくは人力で行われています。しかし、ヘリコプターの台数には限りがある上、費用も小さくなく、また、作業員が鉄塔に登って点検する人力作業では、時間がかかることに加え、今後の労働力不足の心配も尽きません。それに、何かあったときにはすぐに確認できると、災害時にも大きなメリットになるでしょう。
ドローン点検が実用化できれば、これまでよりも迅速で小回りが利く点検ができ、コストも大幅に抑えられるようになります。しかも、点検のコストが下がるということは、回り回って電気料金の安定にもつながると見込まれています。
試験に使用されたドローンは、重さ約10キログラム、直径1メートル程。時速40キロメートルで最大50分間飛行することができる高性能マシン
ドローンで全国をつなぐ新しい空の道
今回の試験は無事に成功しました。こうした試験を繰り返して実績を積んでいき、グリッドスカイウェイは、まず送電線設備点検の自動飛行プログラムを確立することを目指しています。
そして、これが常に運用できるようになれば、同じ航路を他の目的で利用する道も広がっていきます。
例えば、物流であれば新しい運搬ルートの開拓、行政なら過疎地域に医薬品や生活必需品を運ぶといった用途で、各業界から関心が高まっているようです。また、災害で道路が寸断され、山奥で孤立してしまった村があったとしても、ドローンが物資を届け、命をつなぐ希望になるかもしれません。
「ドローンは、少子高齢化社会に伴う労働力不足の問題や、頻発する自然災害において活躍が期待されていますが、発展途上で制約も多く、まだまだ思うように活用されていません。いち早くドローンが安全に飛び交える世界を実現するために、電力設備の上空などを通り道として活用した全国共通の『航路プラットフォーム』を構築し、さまざまな企業や団体が、安全で手軽に利用できる空のインフラを提供することを目指しています」と、グリッドスカイウェイのディレクター・黛知也(まゆずみ・ともや)さんは話します。
「そのためにも、電力会社をはじめとしたインフラ事業者さま、今後ドローンの活用が期待されるさまざまな事業者さまと共に、実フィールドを活用した実証試験を通して、その有用性を確立していきたいと考えています。まずは、電力を中心としたインフラ設備の目視外飛行による巡視・点検を実現するためのシステム構築と実証を行い、早期の実用化を目指します」
実証試験会場でプロジェクトのこれからを教えてくれたグリッドスカイウェイのディレクター・黛知也さん
今回の実証試験の成功を受け、府中市 総務部 政策企画課 主査の槙本直揮(まきもと・なおき)さんは次のように話します。
「ドローンは、生活の中に溶け込むにはまだまだ多くのハードルがありますが、同時に多くの可能性も秘めています。この可能性を十分生かすためには地道な取り組みが必要で、そうした取り組みを積極的に支援していくことがわれわれ行政にできることだと考えています。府中市では現在、そのための環境づくりや仕組みづくりを進める『ドローン推進戦略』を描こうとしています。そうした中で、今回、グリッドスカイウェイが実証試験の場に当市を選んでいただいたことに感謝していますし、今後も協力を惜しまないつもりです。将来、『ドローンで何かチャレンジするなら府中市が一番』と多くの方々から言われるようになりたいですね」
家具や機械を作り続けてきたものづくりの街からドローンが全国へ。広島県府中市が次世代の産業基地になる日も、そう遠くないかもしれません。
■DATA
グリッドスカイウェイ有限責任事業組合
住所:東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー4階
https://www.gridskyway.com/
■動画【地表150m以上におけるドローン自動飛行(レベル3)の実証試験】を見る
12月といえばイルミネーション! 壮大な夜景はもちろんのこと、光が生み出す美しい光景は、実は家の近場にも広がっているのです。夜景評論家の丸々もとおさんに、身近で楽しむ夜の光の鑑賞ポイントや美しい夜景の見つけ方、そしてワクワクしてしまうような最新夜景事情についてお話を聞きました。
******
「江ノ島 湘南の宝石」
美しさに魅せられ、自転車で夜景を探し求めた少年時代
原始の夜景と言えば「月」や「焚き火の炎」「星空」ですが、現代の夜景と言えば、それら自然の夜景と共に、照明による人工的な夜景と言えるでしょう。人が生活したり、行動したり、働いたりする場合に電気を使いますが、それが外側に零れて見える光景と言えるかもしれません。かくいう私は、小学校六年生の時、ボーイスカウト活動で訪れた山梨の大菩薩峠から甲府盆地の大パノラマを見て興奮。埼玉県在住だった私の夜景と言えば、見上げる家々の灯や街灯ばかりでしたから、光の大海原を見下ろす壮大な大パノラマはとても信じられないものでした。
山梨の甲府盆地を見下ろす「牛奥みはらしの丘」
その後、母親に自転車を買ってもらい、美しい夜景を求めて走り回るようになりました。それも、1週間に3回ほど。夜の10時から明け方まで夜景を探し回ったものでした。
しかし、自転車で行ける場所は2000メートル級の山上であるはずもなく、荒川土手から眺めるような河川敷の景色が多かった。なんとも地味なものばかりでしたが、今でも思い出せるくらい心に残っています。なぜ地味な夜景にも関わらず、深い記憶に残ったのでしょうか?その答えはそれから25年後のこと。読売新聞の連載「東海道夜景五十三次」で東海道の宿場を踏破した時。なるほど、光量の多い夜景ばかりが夜景ではなく、深い闇が主役になるような夜景もあると気づいたのです。
東海道夜景五十三次の夜景「関宿」
ひとつひとつの光の意味に気付いて見えてきたもの
10代、20代の時はパワフルで艶やかな夜景ばかりを求めていましたから、闇深い宿場の中に灯る小さな光や深い闇に底知れぬ情緒性を感じたのは驚きでした。情緒という言葉で片付けるには曖昧ですが、光の裏側にある闇と対峙することで、どんどん自分の過去に引きずり込まれたり、まだ見ぬ未来へと誘われたり。それはもう、イマジネーション豊かな不思議な体験の連続。畑や水田の中のたった一灯や道路に数灯の明かりにも関わらず、力強く、心に何かを訴えかけてくる感じ。ひとつひとつの光の意味に気付くことで、ひとつひとつの光が個性的な生き物のように私に迫り、私の心を鷲掴みにしたのです。
そして、今では光量の多い少ないではなく、侘び寂びを感じるような夜景と向き合って楽しんでいます。例えば、新潟の弥彦山スカイラインから眺める漁り火(いさりび)。数えるほどの光の中で漁師さんたちが大海原で戦う生命力溢れる夜景など、沢山あります。光量から解き放たれて、少しずつ達人の領域に向かっているような気がします(笑)。
「新潟の弥彦山スカイライン」
LEDと日本独自に発展を遂げたイルミネーション文化
一方、2000年以降はLEDが安価に、それも大量に入手可能になったことで、日本ではイルミネーション文化が独自に華開いていきます。私も「東京ドイツ村」(千葉)、「ハウステンボス」(長崎)等、全国の様々なイルミネーションを手がけていますが、色彩も自由自在、演出も自由自在、かつ環境にも優しいLEDを絵の具のように使用して、様々なLEDの絵を描きました。その中でギネス世界記録を取ったのが「アパリゾート上越妙高」(新潟)のイルミネーション。世界最大の光の地上絵は物凄い迫力で、エンタテインメントの領域でLEDの可能性を極めた作品になりました。もちろん、「あしかがフラワーパーク」(栃木)「なばなの里」(三重)「江ノ島 湘南の宝石」(神奈川)、昨今では「伊豆ぐらんぱる公園 グランイルミ」(伊豆)など国内のイルミネーションも見事で、各施設はその演出力を競い合うような戦国時代へ突入。これらエンタテインメントの光を通して、私たちの審美眼もどんどん肥えていくようになりました。
「あしかがフラワーパーク」
「伊豆ぐらんぱる公園」
光の魅力と「魔法の力」
しかし、イルミネーションの魅力とは一体何なのでしょうか? この質問には様々な答えがあると思いますが、私なら「笑顔になる明かり」と即答するでしょう。華やかなイルミネーションを見て怒っている人は皆無です。むしろその逆で、「きれい!」とか「美しい!」とか叫んだりつぶやいたりしながら写真を撮影する人がほとんどです。その皆さんの笑顔、なんと素晴らしいことでしょう。イルミネーションの光が瞳に入ることで瞳孔が開き、人の顔が最も魅力的になると言われていますが、口角も上がり笑顔もいつもよりも自然です。まさに“素敵な笑顔”の典型で、そんな他人の笑顔を見ているだけで、周囲もどんどん笑顔に包まれていくのです。そんな姿を見ていると、私もイルミネーションの仕事をして良かったと、どんな苦労も忘れてしまうのです。
「ハウステンボス」
癒やしや生命力、時空を超える力、イマジネーション、人々を笑顔にする力…。光には数え切れないほどの魅力があります。そう考えていくと、電気は姿や形を変えながら、私たちを魅了してやまない「魔法の力」を持っていると言えるでしょう。そしてこの先、電気はどのような光に形を変え、どのような魅惑的な魔法を見せてくれるのか楽しみでなりません。
そして最後にひとつ。日本新三大夜景のひとつである、長崎・稲佐山からの夜景にはハートマークや星座が浮かび上がるようになりました。ハートは平和や希望の象徴と言えますが、今や夜景そのものが具体的なメッセージを発信するようになったのですから驚きです。これもまた、電気が生み出す、最新の魔法と言えるでしょう。
長崎の「星物語」
丸々もとお
夜景評論家/夜景プロデューサー/イルミネーションプロデューサー/(一社)夜景観光コンベンション・ビューロー代表理事
1965年生まれ。立教大学社会学部観光学科卒。1992年『東京夜景』上梓。日本でも唯一無比の夜景評論家として本格的活動を始める。「夜景」の美しさを景観学、色彩心理学などをベースに評論する等、夜景の本質を浮き彫りにする独自の「夜景学」の構築に取り組んでいる。夜景に関する著書は50冊以上。地方自治体など各地で夜景観光アドバイザーを歴任。イルミネーションのプロデュースに「ジオイルミネーション」(福井)、「TOKYO MEGA ILLUMINATION」(東京・大井競馬場)、「ハウステンボス」(長崎)、等、年間数十カ所を手掛ける。ライトアップに「出島」「国宝・大浦天主堂」、中町教会、北九州アイアンツリー等多数。
【丸々もとおのスーパー夜景サイト】http://www.superyakei.com
【一般社団法人 夜景観光コンベンション・ビューロー】http://www.yakei-cvb.or.jp/
電気を運ぶインフラとしての電線。普段は何気ない街中の風景に溶け込んでいるこの電線も、視点を変えてみると実はワクワクと楽しさが詰まっていた…! 電線愛好家・文筆家・俳優の石山蓮華さんによる、街中で冒険できる“レア電線探し”のススメをお届けします。
******
私の名刺の一番上には「電線愛好家」と書いてある。
日ごろから電線を見上げるのが好きで、電線のいいところを人に話すのも好きだ。
電線に詳しいのですか? と聞かれることはあるけれど、私が電線について知っているのはあくまでも自分の興味の手が届く範囲のことなので、なにも知らないわけではないけれど、詳しいと胸を張って言えるほど物知りなわけではない。
自分で作ったこの肩書きはマニアでもなく、専門家でもなく、ただ「電線が好き」という気持ちさえあれば名乗ることのできるものなので気に入っている。
年始にタイで川沿いの電線を撮影する著者
電線鑑賞のいいところはいくつもあるけれど、遠征の必要な登山や、茶道や社交ダンスなど道具の必要な趣味と比べてみると格段に敷居が低く、お金もかからない。
無電柱化のあおりを受けて電柱が地中化している道もあるけれど、国内では年間7万本のペースで電柱の数は増えているので、近所を一周するだけでもきっといい電線に出会えるはずだ。
敷居の高さでいえば無に近い電線鑑賞を細く長く、マイペースに続けていくためには電線をたのしむ目こと「電線アイ」をインストールするのがなにより手っ取り早い。
今回は電線愛好家として、電線アイのインストール方法をご紹介する。
1 電線アイのインストール方法
まず外に出て、車や歩行者に気をつけながらご近所をゆっくりと散歩する。
同時に頭上の電線に注目し、頭の上にたくさんの線が浮き、今まさにその一本一本が通電し、都市の血液として電気が流れているというスペクタルに思いを馳せる。
歩いているうちに、電柱ごとに設置された線の曲がり方や丸められ方が少しずつ異なっているのに気づけるはず。真下から見上げると複雑に絡み合う線の様子が生き物や、体のなかにある血管や神経のようにも見えないだろうか。
実際に、電線は都市の血管であり神経なのだ。かっこいい。
ここで開眼してしまえば、インストールはすでに80パーセント完了している。
気になる電線が見つかるまで電線を眺めながら歩を進め、電線への解像度をゆっくりと上げていく。好きな電線が見つかればインストールは120パーセント完了。
記念に写真を撮影して、友人にLINEスタンプ代わりに送ってもいいだろう。
相手に「なにこれ?」と聞かれたら、電線愛好家の仲間として、自分が気づいた電線の良さを存分に語ってほしい。オタク界隈の言葉でいう、布教だ。
ここまでの工程が一度に済んでしまう可能性もあるけれど、ピンと来なくともまったく心配はいらない。なんとなく電線が気になるようになれば、今週中か今年中か、3年後くらいにはいい電線と出会えるはずだ。電線鑑賞はマイペースにやっていくのがいい。
2 電線アイによって発見されるレア電線のご紹介
九九を覚えるのにも1週間で全部言えるようになる人もいるし、私のように中学校へ上がる直前まで8の段に自信の持てない人もいる。
九九を習ってもう20年以上経つが、最近7の段と8の段が怪しくなってきた。
電線アイのインストールにかかる時間も人によって差がある。
九九の練習や仕事、登山の準備などでゆっくり電線を見上げる時間のない忙しい人に向けて、普段の通勤・通学路や買い出しの途中などで見つかるいい電線、レア電線の実例をご紹介したい。
「ツタ系」
書いて字の通り、ツタ植物などが電線と一体化した状態。
季節の移り変わりによって咲いたり枯れたりする電線を愛でる。
諸行無常と植物の強さ、そして電線の丈夫さを一気に楽しめるいい電線。
「南国系」
南国に実る果物のように、電線に実った大きな丸が特徴的。
このような空中で丸められた電線を、「余長」「巻き溜め」などと呼び、一度電線を敷設した後に伸ばす必要があった場合に備えている。
きっちりだったり、ざっくりだったり、工事をされた方の性格も想像できて楽しい。 まれに、リボン型のものも発見される。
「光学迷彩系」
アニメ『攻殻機動隊』に登場する光学迷彩のように、電線が周囲の色と一体化した状態。
建物や家の外壁にある電線の引き込み部分で見られることが多い。
特にエイジングされたものは“令和のもののけ”的な妖気を発し、一見電線であることに気付かない場合もある。電線アイの解像度を上げ、経験値を積み重ねることが大切。
電線鑑賞は九九と違っていつ始めても遅くないし、九九と違って完璧な形もない。
今回ご紹介したのが仮に一の段、二の段、三の段だとすれば、四の段や七の段、まだ想像もできないAの段やBの段も見つけることができるかもしれない。
ぜひ、あなたも電線アイを磨いて自分なりのいい電線との出会いを楽しんでほしい。
石山蓮華
いしやま・れんげ/電線愛好家・文筆家・俳優。電線愛好家としてテレビ番組や、ラジオ、イベントなどに出演するほか、日本電線工業会「電線の日」スペシャルコンテンツの監修、オリジナルDVD『電線礼讃』のプロデュース・出演を務める。 主な出演作に映画『思い出のマーニー』、舞台『五反田怪団』、『遠野物語-奇ッ怪 其ノ参-』、『独特な人』、NTV「ZIP!」「有吉反省会」など。 文筆家として「Rolling StoneJapan」「月刊電設資材」「電気新聞」に連載のほか、雑誌「母の友」「週刊朝日」、ウェブ「She is」などに寄稿。
Twitter: @rengege
石山さんも審査員として参加する電線&鉄柱写真が見られるフォトコンテストはこちら♪
Instagramフォトコンテスト「日常の風景にある電力」
【今月の密着人】四国電力送配電(※) 高松支社 丸亀事業所 サービスセンター(配電部門) 高橋明宏さん(27歳)
※四国電力の送配電部門が2020年4月に四国電力送配電として分社
私たちが電気を当たり前のように使えるのは、送配電業務に携わる人たちが、電線や電柱などを日々管理してくれているから。自然災害などにより停電になってしまったときも彼らがいち早く現場に駆けつけ、復旧をしてくれている。2019年9月、千葉県を直撃した台風15号によって発生した大規模停電の際には、全国の電力会社からスペシャリストたちが集結し、事態の収拾に当たった。当時、実際に復旧作業を行った四国電力送配電の高橋明宏さんが見た現場とは?
昼休みに呼び出され千葉に急行。暗闇に包まれた被災現場へ
2019年9月9日未明から早朝にかけて、千葉県を襲った台風15号。関東地方に上陸した台風としては観測史上最強クラスといわれ、ライフラインである電気も甚大な被害を受けた。無数の倒木により各所で電線が断線、また送電線を支える鉄塔2基が倒壊。大規模な停電が発生し、その復旧にはかなりの時間が掛かると予測された。
県内に電力を供給する東京電力だけでは対応が追いつかず、北海道から沖縄まで、全国の電力会社に応援要請が出された。駆けつけたのは1万人以上。2020年で入社9年目となる高橋明宏さんもその内の一人だった。
高橋「確かお昼ご飯を食べているときだったと思います。突然上司に呼ばれ、今から急いで千葉に向かってくれと伝えられました。私は過去にも何度か災害復旧の応援に行かせてもらったことがありますが、こればかりは馴れないもので、『1分1秒でも早く停電から復旧させなくては』と、いつも焦燥感に駆られます。数日分の着替えをバッグに詰め込んで、1時間後には出発しました」
段取りはこうだ。先輩社員と2人で、まず事業所のある丸亀市から高松市の支社へ向かい、他の部隊と合流。機材や食料、車を整えてから千葉へ向かう。高松支社から千葉県までの距離は700キロメートル以上。休憩なしで走り続けても9時間以上はかかる計算だ。
高橋「台風の被害が甚大で他の電力会社からの応援規模も過去最大級でしたから、どの被害地域に向かえばよいのかはギリギリまでわかりませんでした。どこへでも行けるように、車の中で現地の被害状況をチェックしながら向かったんです」
車内でできるのは、日頃培った技術を現地でフルに発揮できるよう、情報収集することだけ。そんな中、高橋さんが派遣されたのは、千葉市内にある総合病院だった。
高橋「移動と待機を経て、現地に到着したのは四国を出発してから2日後でした。停電しているので当然どこも真っ暗で、被害のすさまじさに驚いたのを覚えています。一番被害が大きなエリアではなかったのですが、雨風が相当強かったのでしょう。道中には所々で倒木の影響によって電柱が折れたり電線が切れたりしている場所がありました。それらを横目に持ち場へ向かわなければならないのは、正直歯がゆさもありましたね」
使命感を胸に臨んだ復旧作業が難航。新人時代を思い出す
高橋さんに与えられたミッションは、停電している総合病院に高圧発電機車で電気を届けるというもの。高圧発電機車とは、簡単に言えば移動式の小さな発電所だ。“小さな”と言っても1台でおよそ100世帯が使う電気を作ることができる特殊車両で、一般家庭で使用する電圧が100〜200ボルトなのに対し、この車では6600ボルトと高い電圧で発電することができる。
高橋「今回の場合は、高圧発電機車と電線を直接ケーブルでつないで電気を送るというのがミッションでした。しかし、ケーブルの接続作業を東京電力にしていただく中で、電力会社によって使っている資材や機材が異なるため、思うように接続作業が進まない状況がありました」
実は発電機車の接続だけでなく、電線・電柱等の復旧資材・工法の違いなどによる同様の課題は他の場所でも発生していた。そうした課題を解決するべく、「エネルギー供給強靭化法」が2020年6月に成立した。
相次ぐ自然災害を受け、電力システムのレジリエンス(強靭性)向上を図るために、災害時対応の連携強化に向け、送配電事業者が共同で作成する「災害時連携計画」によって復旧方式等の統一化が図られるなど、現在では滞りなく作業が行えるように改善されている。
高橋「そんな状況の中でミスしてはいけないと思いつつも、これまでに経験したことのない規模の停電ということもあり、どうしても焦ってしまう部分はありました」
頭をよぎったのは、新人時代に経験した徳島での停電対応の記憶。
高橋「当時も台風が原因の停電でした。先輩とペアを組んで夜中に復旧作業に当たったのですが、普段は優しい先輩も、この時ばかりはピリついていて。独特の緊張感がありました。私は緊張から思うように作業ができず足を引っ張るばかりで……」
一方でテキパキと作業をこなす先輩。それを見て高橋さんは「こんな風になりたい」と思ったという。
高橋「当時、なんとか復旧させることができ、暗い街に明かりが広がっていくのを目の当たりにしたら、『配電という仕事は、何て大切な使命を担っているんだろう』と実感しました。このときはまだ入社したばかりで、“配電のいろは”もわかっていないようなころでしたが、自分の仕事へのやりがいを感じた瞬間でしたね。だから今回の千葉でもやり遂げたかったんです」
復旧現場で地元出身者とバッタリ。緑の作業服は信頼の証
発電機車による安定的な電力供給に尽力した高橋さん。結果的に4泊5日の長丁場となった。思うように作業が進まない中、それでも気持ちを切らさずに作業できたのは、地元住民とのコミュニケーションがモチベーションになっていたからだった。
高橋「病院に到着したとき、『四国電力から来ました』と院長先生に挨拶をしたら、実は院長先生も四国出身で。しかも香川県が地元だとわかり、私の緊張が一気にほぐれました。しかも、その後、病院の一室をご厚意で私たちの休憩室として貸していただけることになったんです。基本的に、被災地へ応援に行く際は現地の物資を圧迫しないよう、食料は自分たちで持ち込み、睡眠なども車内でとるのですが、それも長く続くと体に堪えます。しっかりと体力を回復することができたので、本当にありがたかったですね」
つらいときだからこそ助け合う。そんな精神に触れて、力が湧いた。同様のエピソードは他にもあった。
高橋「当時は6時間交代で作業をしていたのですが、私たちが休憩をしているときに、近くに住んでいる方が『遠いところからありがとうございます』と、食べ物などを差し入れしてくれて。食料は持ち込んでいるものの、とてもありがたく感じました」
温かな交流が励みとなり、連日のハードな作業をこなすことができた高橋さん。助け合いの素晴らしさにあらためて気付くこともでき、それ以降、自分でも強く意識するようになったという。こうした経験を経て高橋さんが思うのは、「もっとお客さまから信頼されるスペシャリストにならなければ」という使命感だった。
高橋「私は普段の仕事ではお客さまの元を訪ね、面と向かってお話しする機会が多いのですが、そこで感じるのは、私たちが着ている“緑の作業服”の認知度の高さです。初めて訪問した際には、最初に不審感を抱かれるお客さまもいます。ですが、この緑の作業服を見るとすぐに四国電力送配電だと気付いて、一気に緊張した空気がなくなるんです」
緑の作業服が信頼の証のようになっているのは、先輩たちが地元との関係を大切に積み上げてきたからこそだと実感しているという。
高橋「私は入社9年目ですが、知識も技術もまだまだ未熟なところが多いと感じています。今後も積極的に足りない部分を補い、これからの仕事に生かしていきたい。そして、いつか先輩のように緑の作業服に恥じないプロフェッショナルとして、配電部門を引っ張っていける存在になりたいです」
©kouta/PIXTA(ピクスタ)
今年も長く続いた猛暑。「エアコンを使いすぎて電気代が…」という声も聞こえそうです。
でも実は、エアコンがとてもコストパフォーマンスのいい家電ということをご存知でしょうか。
それには、省エネにもつながる「ヒートポンプ」という仕組みが大きな役割を果たしています。
電気代が数倍お得に感じる! エアコンで涼しくなる仕組み
普段、何気なく利用しているエアコンですが、実は不思議なことがたくさんあります。
どうして部屋の空気より涼しい風が出せるのか? また、中に電熱器などが入っていないのに、なんで暖かくできるのか?
この秘密を解くために知らなければならないのが、エアコンの仕組みです。
すごい技術を使っていそうですが、この原理はいたって簡単。
実は、氷を手に乗せると冷たく感じるのと似たようなものなんです。
©er00/photoAC
熱は、温度の高いところから低いところに移動する原理があります。
氷を持つと冷たく感じるのは、手のひらから熱が氷に移動しているからです。
加えて、物質は圧力をかけると温度が上がり(圧縮)、逆にゆるめると温度が下がる(膨張)という性質があります。
エアコンは、この圧縮を電気の力で行うことで、熱の移動を操っているんです。
この熱の移動がエアコンを理解する上での最大のポイント。
では、実際にエアコンが部屋を冷やす仕組みを見てみましょう。
エアコンは、主に「圧縮機」と2つの「熱交換器」からできていて、その間をつなぐチューブの中を熱を運ぶことができる「冷媒」が行き来します。
エアコンの冷房をつけると、次のような熱の移動が行われます。
①室内機が部屋の暖かい空気を取り込み、熱交換器を通る冷たい液体の冷媒に熱が移動する
②冷やされた空気は涼しい風となって部屋に送り出される
③熱を奪った冷媒は気体になり、チューブを通って室外機へ
④電気で動く圧縮機によって圧力がかけられ、冷媒が外の空気より高温になる
⑤室外機の熱交換器でより温度の低い外の空気へと熱が移動し、冷媒は液体に戻る
⑥冷媒の圧力がゆるめられ、圧力をかけられる前よりも冷たい状態になり室内へ
これを繰り返して部屋の熱をどんどん外に出していくのが冷房の仕組みです。
注目してほしいのは、電気を使うのが冷媒に圧力をかけて室内の熱を室外に運ぶことがメインだということ。
エアコンのカタログをよく読むと、「1キロワット(kW)の電気代で5キロワットの冷暖房ができる」といったことが書かれています。
これは小さな消費電力で、大きな冷暖房効果が生み出せるという意味。その理由がこの“熱を運ぶだけ”だからです。
熱を運ぶために圧縮するだけなら、空気を直接冷やしたり温めたりするより、使う電気が少なくて済みます。
こうしてエアコンは、消費電力以上の能力で部屋の涼しくしてくれています。
なんだかお得感がありますよね。
暖房は、冷媒の動きが冷房と逆回りになります。
①室外機が外の空気から熱を取り込み、熱交換器を通る冷たい冷媒に熱が移動する
②圧縮機によって圧力がかけられ、冷媒が室内の空気より高温になる
③室内機の熱交換器でより温度の低い部屋の空気へと熱が移動し、部屋が暖まる
つまり暖房が部屋を暖かくできるのは、外の空気が持つ熱を電気の力でさらに高めて、室内に取り込んでいるからです。
こうした仕組みから、エアコンには電熱器など空気を暖める器具が必要なく、冷房と同様に消費電力以上の暖房効果が得られます。
このように、電気で動いている圧縮機は冷媒の圧力をコントロールして室内から室外へ、また室外から室内へと熱を運ぶ役割を担っています。
水槽の水をポンプで循環させるのに似ているため、この仕組みは「ヒートポンプ」と呼ばれています。
電気と熱の特性を上手に利用したヒートポンプのおかげで、エアコンはたいへん効率のいい省エネ空調機として、私たちの暮らしを支えてくれているのです。
参考・出典『雑学科学読本 身のまわりのすごい技術大百科』
(涌井貞美・涌井良幸/KADOKAWA)
私たちは今、すごい技術とともに生きている! 何気なく使っている文具から、便利すぎるハイテク機器まで、実は身の回りにあるアレもコレも全て「科学技術」の結晶なんです。身近なモノの知られざる仕組みや技術が、図解で丸わかり! 読んだそばから“身近なモノ”に感謝したくなる一冊です。
全国各地にある発電所、その数はなんと5000カ所以上。一口に発電所といっても、実は一つ一つ違った個性があるんです。今回は、2020年3月に開所した「福島水素エネルギー研究フィールド」へ。と言っても、ここは電気をつくる発電所ではなく、電気をつくるために使う水素を生みだすところ。他にも新しくできた道の駅など、浪江町(なみえまち)の新たな名物&名所を巡る旅をお届けします!
浪江町の新名物! 次世代のエネルギー「水素」の研究所
海、山、川に囲まれ、豊かな自然に恵まれた福島県・浪江町。
“浜通り”と呼ばれる県東部の沿岸に位置し、町内にはなんとも懐かしくなるのどかな景色が広がっています。
広い空と地平線まで伸びる田園風景を見ることができる浪江町
浪江町は2011年の東日本大震災で大きな被害を受けた地域の一つです。
2017年に一部エリアで避難指示が解除され、およそ2万1500人だった人口のうち、現在1500人ほどが町に戻ってきています。まだまだ県内外で避難生活を続けている人は多いものの、少しずつ帰郷が進んでいるところです。
あれから約10年。一歩ずつ活気を取り戻してきた浪江町は今、復興に向けて大きく前進しました。
2020年3月に浪江駅から富岡駅間で運転を見合わせていたJR常磐線が全線で運転を再開。7月にはビジネスホテル「ホテル双葉の杜」が、続く8月には復興のシンボルとして「道の駅なみえ」がそれぞれオープンし、町は大きな喜びに包まれました。
ホテル双葉の杜は、野菜や鮮魚など地場産品を使った料理で観光客やビジネス客をもてなしてくれる
地元の農業や漁業を発信する道の駅なみえ。ここでしか食べられない魅力的なグルメが盛りだくさん(写真:道の駅なみえ)
中でも大きな話題となったのが道の駅なみえ。
産地直売所やレストランがあり、ご当地グルメとしても全国的に知られる「なみえ焼そば」をはじめ、9年ぶりにセリが再開された請戸漁港(うけどぎょこう)直送の海産物など、さまざまな地元グルメが集結しています。
浪江産のタマネギ「浜の輝(はまのかがやき)」をはじめ、地元産の野菜などがそろう産地直売所(写真:道の駅なみえ)
ももを使ったスイーツや、タマネギで作ったスムージーなど、地元の特産品をすぐに味わうことも(写真:道の駅なみえ)
レストランでは請戸漁港で水揚げされた新鮮な海の幸が味わえる(写真:道の駅なみえ)
レストランで食べられるご当地グルメ「なみえ焼そば」は外せない(写真:道の駅なみえ)
この2つの施設は、町の中心を走る国道114号と国道6号の交差点にできました。この通りを中心に、今後新たな賑わいが生まれることでしょう。
道の駅とホテルを抜けて沿岸に向かって進むと、広大な田園風景が見えてきます。
田園のさらに先にあるのが、今回の目的地「福島水素エネルギー研究フィールド」、通称「FH2R(Fukushima Hydrogen Energy Research Field)」です。
FH2Rの広さは約22ヘクタール。太平洋を望む、浪江町の東部沿岸に建っている
開所したのは今年の3月。その名の通り「水素」の研究施設です。
地球温暖化の原因になるとされるCO2(二酸化炭素)。世界中でCO2の排出を減らしていこうという動きがありますが、水素はエネルギーとして使う際に、このCO2を排出しないクリーンなエネルギーとして期待されています。
最近よく聞く燃料電池自動車(FCV)の燃料がまさにこの水素。水素と酸素を化学反応させて電気を発生させる装置がいわゆる“燃料電池”で、排出されるのはほとんど水だけです。
さらに、この施設では水素を製造する途中でもCO2をはじめとした地球温暖化につながる物質が発生しません。つまり、作るときもCO2フリー。地球にとても優しい研究所なんです。
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)、東芝エネルギーシステムズ、東北電力、岩谷産業が共同で研究している
さてこの水素、どうやって作っているのでしょうか。
それは「水」を電気で分解して作っているんです。
小・中学生のころ、学校で水に電気を流して水素と酸素に分ける化学の実験をやったことがあると思いますが、まさにそれの超大型版。
水素を製造する「水電解装置」。この中に溶液が入っており、電気分解している(写真:旭化成株式会社)
この施設の水素を製造する装置は、1日に、一般家庭約150世帯が1カ月に使う電気を供給できるほど能力があり、その大きさは“世界最大”とされています。
装置のタンクの中には、電気分解をしやすくするためにアルカリ溶液を入れているものの、そのほとんどが水。機械を使ってきれいにしますが、この水は元をたどれば浪江町の一般家庭でも使われている水道水です。つまり、地元の材料を使った“福島産の水素”なんです。
そして、水素作りのもう一つの要が「電気」です。材料となる電気もクリーンなものにしようと、FH2RではCO2を出さない電気である「太陽光発電」を使っています。
敷地全体の約8割に敷き詰められた太陽光発電のパネル
そもそも太陽光発電などの再生可能エネルギーは、天候に左右されるため発電量のコントロールが難しく、作った電気が100%利用されないケースもあります。
製造装置でできた水素は不純物が取り除かれ、配管を通ってタンクへ
でも、せっかく電気を作ったのなら、できるだけ使おうとなるのは当然。そこで、蓄電池にためること以外に考えられたのが、長期間保存ができて長距離輸送もできる水素に作り変えて、ためるという方法です。
つまり、FH2Rが目指しているのは、水素を効率よく作ることはもちろんですが、その先に再生可能エネルギーをもっとたくさん、無駄なく使えるようにできる仕組みを生み出すことなんです。
水素を貯蔵しておく巨大なガスホルダー。1つの大きさは山手線の1車両ほどになる
そんなたくさんの期待を背負っている“福島産の水素”。実はあの東京五輪で使われることが決まっています。
聖火台やトーチ、大会関係者向けの燃料電池自動車に積まれて晴れの舞台に立つ予定でしたが、開催が延期されたため、現在は2021年に向けて、再度準備を進めています。
運搬用のタンク。複数の細長いタンク(写真の丸い部分)にそれぞれ水素が充塡される
東京五輪はもう少し先になりましたが、既に福島産の水素を使っている場所はあります。それは、地元である福島市の「あづま総合運動公園」と楢葉町・広野町の「ナショナルトレーニングセンター Jヴィレッジ」です。
トレーラーなどで水素を運び、それぞれに設置された燃料電池に注入。そうして電気と熱を生み出しているのです。
Jヴィレッジに運ばれている水素タンクの小型ユニット。これ一つで、一般家庭約20日分の電力に
さらに、先ほどの道の駅なみえにも燃料電池が設置されていて、今年の秋頃から水素を届ける計画も。
「『ゼロカーボンシティ』(二酸化炭素などの排出量を実質ゼロにした街)と『水素社会』の実現を目指して、道の駅なみえをきっかけに町内で幅広く活用していきたいです。浪江町産の低炭素水素には期待しています」と、道の駅なみえの広報担当者さん。
浪江町は今後、燃料電池自動車を町の公用車として導入したり、一般家庭に水素を配送する実証事業を行ったりと、水素のさまざまな利用方法を考えています。
水素の“地産地消”がもっともっと広がっていけば、町を盛り上げる後押しになりそうです。
タンクを積んだトレーラーがあづま総合運動公園へ水素を運んで行く
タンクのデザインは地元の子どもたちが描いたもの
定期的な一般見学を実施していなかったFH2Rですが、2020年秋のスタートを目指して準備中。広大な太陽光発電のパネルや巨大ガスホルダーを目にできる日は、もうすぐです。
ここで生まれた水素が身近なところで使われる日がきっと訪れる(写真:NEDO)
これからの時代に注目される水素を作る浪江町。新たな施設や名物も生まれて活気にあふれる町へ、近い未来に訪れる“水素で暮らすライフスタイル”を見に行ってみませんか?
■スポットDATA
福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)
住所:福島県双葉郡浪江町大字棚塩字大原
https://www.town.namie.fukushima.jp/uploaded/attachment/9142.pdf
■取材協力
やすらぎの宿 ホテル双葉の杜
住所:福島県双葉郡浪江町幾世橋田中前8
電話:0240-23-7099
https://hotelfutabanomori.com/
道の駅なみえ
住所:福島県双葉郡浪江町大字幾世橋字知命寺60
電話:0240-23-7121
時間:10:00~19:00(※各店舗により異なる)
休み:水曜
https://michinoeki-namie.jp/
©EKAKI/PIXTA(ピクスタ)
ここ数年、全国的に豪雨や台風の影響で「停電」が起きています。
急に電気が使えなくなっても慌てないように、備えておきたいのは知識と準備。
最低限知っておきたい、「停電の備えと対応ポイント」をご紹介します。
停電が発生したら! まずチェックすべきことは?
©☆Ken☆/photoAC
停電が発生したら、まずは「停電がどこで起きているか」をチェック!
自宅だけなのか、付近一帯なのか。自分の家だけが停電していた場合は、安全ブレーカーが作動しただけかもしれません。
夜なら「近くの街灯」や「隣の家の明かり」を、昼でも「信号機」がついているかを見ることで、付近の停電をすぐにチェックできます。
ただし、地震や台風など災害が発生していたら、確認するときには身の安全の確保を。
もし、スマートフォンなどがインターネットにつながるのなら、地域の電力会社のホームページで停電状況を確認すると、正確な停電情報にアクセスできます。
まずは、避難した方がいいのかなど停電後の動きを決めるために、正しい情報を集めることが第一歩になります。
なんで起こるの? 停電の主な原因
©Boboshow/Pixabay
停電の原因は、実は災害や事故以外にもいろいろなものがあります
自然や動物、人間など原因はさまざまですが、その多くは、電線や変圧器といった電気を届けるための機器が壊れてしまい、電気が届かない状況になって起こります。
夏から秋にかけては、特に台風や雷雨が多いので注意が必要です。
電気の使い過ぎやブレーカーの寿命など、災害以外の原因も頭に入れておくと停電しても慌てないための備えになります。
《停電の主な原因》
①自然が引き起こす停電
雷…落雷によって、電線・変圧器などの設備が壊れて起こる
地震…地面の液状化や家屋の倒壊で、電柱や電線、地中のケーブルなどが損傷して起こる
台風・風雨…土砂崩れや強風で飛ばされたものによって電気設備が損壊して起こる
大雪…雪の重みで木が倒れて電線を切断して起こる
鳥の巣…鳥が巣作りに針金ハンガーなど使い、電線に触れて起こる
②人が引き起こす停電
事故…電柱などの設備への車の衝突事故や掘削工事による地中ケーブルの破損で起こる
火災…火災によって電線が燃えてしまって起こる
設備トラブル…たくさんの電気を使用する工場やビルなどの電気設備が危険な状態になり、それを変電所が検知すると停電することがある
使い過ぎ…家庭などで契約電気量を超えた電気を使うと安全ブレーカーが作動して起こる
③その他の停電
保守点検…電力会社が行う保守点検作業によって、計画的かつ一時的に停電する
ブレーカーの寿命…安全ブレーカーや漏電遮断器の故障や経年劣化による誤作動で、ブレーカーが落ちて停電が発生する
④ちなみに
電気料金の未払い…万が一、心当たりがある場合は、払込用紙を準備してカスタマーセンターに問い合わせを
停電が起きたら…注意するポイント
©bouquetjaune/photoAC
もし夜間に停電が起きてしまったら、すぐに確保したいのは懐中電灯など明かりになるものです。
停電したら暗い中でむやみに動き回るのはNG。とにかく危険なのでやめましょう。
そして、先に挙げたように原因を確認後、早めに対処しておきたいのが、家電などのスイッチを切り、プラグをコンセントから抜くこと。
停電が解消されて家に電気が届くと、家電などが急に動き出すことがあります。
特に、アイロン、ドライヤーなどの電熱機器や、ハンドミキサー、電気ドリルなどの回転機器が、知らないうちに突然動き出したら、火災や事故につながる可能性も。(※機器によって安全装置などが作動する場合もあります)
避難で家の外に出る場合は、プラグを抜くだけでなく、安全ブレーカーを切っておくのがベターです。
意外に見落としがちですが、停電が長時間続くと冷蔵庫や冷凍庫の中身は冷やされていないので、電気が元通りになったとしても食べるのにはご注意。また、マンションのエレベーターやオートロック、立体駐車場、ガス給湯器なども電気で動いているので、停電中は使えないことも。
身の回りで何が電気で動いているのか知っておくことも、停電の備えになります。
停電に備えておくべき5つのアイテム
©phon-ta/photoAC
停電や防災の知識はもちろんのこと、いざというときのために、「防災グッズ」は準備しておきましょう。
災害原因の長期的な停電にも備えて「水」や「食料」はもちろん、安全性を高めるために、「明かり」と「電源」を確保することも重要になります。
それに、グッズの準備と日ごろの心構えがあれば、避難が必要なのか、家で待機した方がいいのかなど、臨機応変な対応もできるように。
たとえ停電が起こったとしても、慌てないことが何より大切です。
《停電時にあると助かるアイテム&豆知識》
①懐中電灯
・「あるはずなのに…」予防のため、すぐ手に取れる場所に置いておく
・発光部分に白いポリ袋を被せると簡易ランタンに
②保安灯
・停電時に自動で点灯し、懐中電灯にもなる
・日常からコンセントに差しておけば非常時の心構えに
③発光テープ
・ドアノブなど停電時に見つけたい場所に貼っておく
④電池式ラジオ
・停電が長引いた場合の情報源として持っておいた方がいい
・使わなくても電池が消耗するため、電池残量は定期的に確認を
⑤電池・発電機
・長時間の停電に対応できるよう予備の電池も準備を
・手巻き式の簡易発電機があれば、スマートフォンの充電も可能
新型コロナウイルスによって、大きく日常が変わったこの数カ月。医療の現場では、今日も懸命に戦っている人たちがいます。
そんな医療従事者への感謝と応援の気持ちを表そうと、2020年4月ごろから「ブルーライトアップ」という動きが全国各地へと広がりました。
ブルーライトアップとは、建物や施設などを青くライトアップして、医療や介護の現場で働く全ての関係者に感謝を込めたメッセージを贈るプロジェクトのこと。
「青色」は、英国の国営医療サービス事業(NHS)のテーマカラー。「Clap for Carers(医療・介護従事者のために、拍手を)」という医療従事者サポートプロジェクトの中で、首都ロンドンにある観覧車や高層ビル、スタジアムなどを青くライトアップしたことが始まりとされています。
この動きは、「#LightItBlue」(ライトイットブルー)のハッシュタグと共に世界へと波及。日本では各地の電波塔、東京都庁、大阪城、明石海峡大橋といったランドマークのほか、電力会社の鉄塔や火力発電所の煙突なども青く染められました。
今も戦う医療の現場を応援するために、世界各地を鮮やかに照らした青色の光。もしこれが30年ほど前だったら、これほど鮮やかに青く照らし出すことはできなかったかもしれません。
それは、現在では当たり前にある「青色LED」が存在しなかったから。
©seven11nash/Pixabay(※画像はイメージ)
電気を効率的に使って光るLED。そもそもLEDの開発は意外と古く、20世紀半ばに始まっています。
1962年には赤色のLEDが、1968年には緑色のLEDが開発されましたが、フルカラーをつくり出す光の3原色「赤・緑・青」のうち、青色の開発だけが遅れていました。
光源として用いる光は白色が適しています。しかし、青色がないことにはLEDで白色をつくり出すことが難しく、照明としての明るさも足りなくなります。そのため、せっかく消費電力が少なく長寿命なのに、LEDを広範囲で使うことができなかったのです。
長いこと青色LEDの誕生が期待されていましたが、その技術はとても難しく、20世紀中の開発は不可能だと考えられていました。
そんな中、1989年に物理学者の赤崎勇さんと天野浩さんが青色LEDに必要な技術の開発に成功。1993年には、現在のLEDにつながる高輝度青色LEDを物理学者の中村修二さんが開発しました。世界が待っていた青色LEDが完成したことで、LEDは急激に社会に広がっていくことになります。
©Juanatey/Pixabay(※画像はイメージ)
この青色LEDの誕生は、照明だけでなく、多くの分野に影響を及ぼしました。
素子そのものが光る小さなLEDを部品として使えることになり、電子機器の小型化・軽量化が可能に。また、青色の光はデジタルデータの書き込みにも能力を発揮し、青色LEDの技術が応用されてブルーレイディスクが誕生しました。
さらに、LEDは電力消費量が少ないので、家庭では省エネの、地球規模では温暖化防止の大きな力となっています。
このように、青色LEDが生まれたことで、できるようになったことが数多くあったのです。
©musiccrue/Pixabay(※画像はイメージ)
開発成功から20年余り。青色LED(青色発光ダイオード)を開発した3人には、2014年にノーベル物理学賞が与えられました。生活の中で知らぬ間に利用していた多くの人たちが、青色LEDの存在にはっきりと気付き、そのすごさを知ったのも、このタイミングではないでしょうか。
青色LEDは、電気をムダなく光に変えるとても画期的な発明でした。ただそれ以上に、青色LEDが生まれたことで実現可能となった技術の広さや、人類にもたらされる利益の多さ、つまり電気というエネルギーを効率よく光に変えて、さまざまな形に利用できる応用力こそが、ノーベル賞クラスのものすごく画期的なことだったのです。
電気とLEDが生み出す青い光。世界各地に広がった鮮やかな青色の光景も、この発明が生んだ奇跡の一つなのかもしれませんね。
※青色LED開発に関しての記述を修正いたしました。 2020年7月17日
参考・出典『人類なら知っておきたい 地球の雑学』
(雑学総研/KADOKAWA)
眠れないほど面白い理系ウンチク212!思わず誰かに話したくなる「理系のウンチク」を集めました。職場で家庭で、日々の「雑談」に役立つ、動植物・天体(太陽系)・人体・天気・元素・科学史など、「理系ジャンルネタ」が存分に楽しめる必読の一冊です!
©Pexels/Pixabay
家電やスマートフォン、ウェアラブルデバイスなど、身の回りのものがどんどん「AI化」されていく現在。同じように家の中のほとんどのものが「電化=電気で動く」ようになった時代がありました。それは、令和の前の前の前の前の「明治」末期から。「電気」によって私たちの暮らしが変わった瞬間を、国立科学博物館の前島正裕さんがセレクト。時代を変化させた「電気なムーブメント」をお届けします!
昭和初期までにほとんどの家電は登場していた!
最近ではAIが搭載されるものが出てくるなど、どんどん進化している家電。こういった家電が、そもそも日本に初めて登場したのは、戦後以降の高度経済成長期というイメージがありますが、実はそのほとんどが昭和初期までに発売されていました。
例えば、「クーラー(空気調整機)」は1935(昭和10)年に、「電気掃除機」は1931(昭和6)年に、「電気洗濯機」(写真)と「冷蔵庫」は1930(昭和5)年に、それぞれ国産第1号の生産が始まっています。
さらにさかのぼれば、「炊飯電熱器(電気炊飯器の前身)」は1921(大正10)年、「電気アイロン」や「トースター」は1915(大正4)年ごろ、「扇風機」に至っては1894(明治27)年と、今身の回りにあるだいたいの家電は、昭和初期までに出そろっていたと言えます。
画像出典:Wikimedia Commons
なぜ、家電に戦後のイメージがあるかといえば、1950年代後半に白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫という新時代の生活必需品と呼ばれた「三種の神器」という言葉が強くインプットされているからではないでしょうか。昭和の初めごろは、電気が届いていない家庭もまだ多く、家電は高価だったため都市部の一部で使われていただけだったのです。
ちなみに、家電があれば、「家事時間の短縮になる」ように思えますが、一概にそうでもないことも。例えば、洗濯は手洗いから洗濯機になったことで、「汚れたときに洗う」から「毎日洗う」ように生活が変化しました。結果的に昔に比べると洗濯回数が増えて、家事にかける時間は変わらないという研究結果も発表されています。
それはいわば人の意識や社会のあり方の変化とも言えます。きれいで清潔な暮らしが営める恩恵は、暮らしやすさや衛生面を考えても、多大なもの。特に現代日本の猛暑を考えると、感謝せざるを得ません。
昔の電気は半日契約!?
家電の発売以前、それらを動かす「電気」が一般家庭に広まったのも、明治末期から昭和初期にかけて。今から100年ほど前です。
当時、電気と言えば「照明」でした。最初のころ、発電所も「電灯局」と呼ばれていたくらいです。日本全国の電灯普及率は、地域差はあるものの1909(明治42)年の4%から、1935(昭和10)年には89%に。およそ25年で全国に広がるほど、電気で家に明かりをつけることはライフスタイルのトレンドだったようです。
©cheetah / 写真AC(※画像はイメージ)
電気を使うと気になるのが「電気代」。今では電力メーター(電力量計)で使用した電力量を測り、使った分に応じて電気代を払っています。当時の家庭ももちろん払っていましたが、普及し始めたころは、現在とルールが少し違いました。
初めのころの主な電気の契約は、「半夜燈」か「終夜燈」という定額制。日暮れから一晩中電気が届く終夜燈は街灯などに、一般家庭には日暮れから深夜までしか電気が届かない半夜燈が一般的でした。
しかも、普通は電灯用のソケットが家の中に1つか2つある程度。家中にこうこうと明かりがともるのは、当時の人たちにとって夢だったのです。
ど、どこにつなげば…コンセントがない時代の電気の使い方
照明から電気が普及し、さまざまな家電も誕生した大正から昭和初期。家の中に電球用のソケットはあるものの、今なら探せばすぐに見つかる壁のコンセントは、当時の一般家庭にはありません。家電はどのようにつないでいたのでしょうか。
正式には別に契約して、照明用とは別の太い線が配線されていました。しかし、家の中には、天井からぶら下がるソケットが…。そこで、ソケットにつなげられるよう、電球のおしりと同じ金具の付いた扇風機やアイロンが登場したのです。
ただ、これは定額契約のころは契約違反。アイロンは電球よりたくさん電気を使うし、危険です。それに想像すればすぐにわかりますが、家電を使えば、真っ暗になるという問題も…。
その後、同時に使えない問題だけは「二股ソケット」という発明品が解決します。天井にあるソケットにつなげることで、差し込み口が2つになり、電球を使いながら、家電も使えるという優れものです。
画像出典:Wikimedia Commons
当時発売された松下電気器具製作所(現、パナソニック)の製品は大ヒット商品になり、大正時代の三大発明品とも呼ばれています。時代が進み、家電がさらに普及していくと、家の中に複数の電気の供給元が必要となって、現在のコンセントが広まることになります。
明治末期から大正、昭和にかけて、なんでも電気で便利にできないかと、いろいろな家電製品が登場しました。それは、AI家電やスマートフォン、さまざまなウェアラブルデバイスなどによってライフスタイルが変わろうとしている現在と似ています。
暮らしの中の“電化の始まり”をもっと知れば、これからどんな時代が訪れるのかを知るヒントになるかもしれません。
取材協力・監修:前島正裕
独立行政法人国立博物館 理工学研究部科学技術史グループ長。未来技術と人との関係を見据え、博物館では主に電気技術の歴史研究や資料の収集・保存を行う。特別展「日本を変えた千の技術博」や企画展「日本を明るくした男達」などを担当。
全国各地にある発電所、その数はなんと4000カ所以上。一口に発電所といっても、実は一つ一つ違った個性があるんです。今回は、2019年2月に営業運転を開始したばかりの「石狩湾新港発電所」へ。北海道の電力を支えながら、プロジェクションマッピングやAR(拡張現実)を取り入れた斬新な見学ができるという“今どきの発電所”は、見どころが満載です!
食とエネルギーで世界をむすぶ!“工場萌え”も必見の北海道を支える新たな火力発電所
季節を問わず旅行先として人気が高い北海道。中でも小樽市といえば、道内有数の観光スポットだ。
日本夜景遺産にも数えられる「小樽運河」や、函館・札幌と並ぶ北海道三大夜景を見下ろす「小樽天狗山ロープウェイ」など、見どころは尽きない。
ロマンチックな雰囲気に浸れる小樽運河。石造りの倉庫街をガス灯が照らし始める夕暮れ時に訪れたい(※写真はイメージ)
また、その隣の石狩市は、北海道らしい豊かな自然と海の幸が楽しめる街。全国的に知られる「石狩鍋」の発祥地でもある。
みそ仕立ての石狩鍋は、北海道で古くから愛される郷土料理。石狩市では、元祖の店とされる老舗の料亭をはじめ、市内各所で食べられる(※写真はイメージ)
そんな有名な2つの街の市境に位置する石狩湾新港は、「~食とエネルギーで世界と結ぶ石狩湾新港~」というキャッチフレーズのもと、長期的な視点で港湾や土地の活用策として、大型の食料備蓄拠点やエネルギー拠点等を計画し、開発を進めている。その役割の一端を担うのが、2019年2月に営業運転を始めた「石狩湾新港発電所」だ。
札幌市内から車で走ること40分ほど。広大な港に白い建物群が見えてくる。
厳冬の中でも電気を作り続ける石狩湾新港発電所1号機。2030年までを目途に2号機、3号機も建てられ、全機運転を始めると道内最大級の発電所になる予定だ
発電所全体が大きな壁に覆われて“巨大な箱”のようにも見えるが、実はそれが北海道の発電所らしいところ。
雪から設備を守るため、一般的な発電所では露出しているような部分もすべて建物の中に収められている。早速、中に入ってみよう。
発電所内部に設置された発電機。中央にある発電機を挟むようにガスタービン(左)と蒸気タービン(右)が配置されている
石狩湾新港発電所の要となるのが、この巨大な箱の中に収められているガスタービンだ。
もちろん、常に動いているため、通常は“中身”がどんなふうになっているのかを見ることはできない。だが、ここ石狩湾新港発電所は、きっと“工場愛好家”や“ガスタービンマニア”が抱いているであろう“願い”をかなえてくれる。
それが、運転中のガスタービンの様子等を箱に映して見せる「プロジェクションマッピング」だ。
ガスタービンが収められている箱にプロジェクションマッピングの映像が映し出される。リアルな映像で迫力満点
まず、格納されているガスタービンの姿。そこから外部パーツが分解されていき、ガスタービンの中の構造までもが丸見えに。
次第に機械の奥へ奥へと進んでいく様は、ワクワク感を刺激してくれる。
燃料を燃やして得たガスを膨張させて回転させるガスタービン。ジェットエンジンと同じような構造になっている
ガスタービンの姿があらわになると、火が点き、回転! 燃え盛る炎の映像は、まさか発電所で見られるとは思えないほど迫力満点だ。
それだけではない。プロジェクションマッピングの中では、燃料のLNG(液化天然ガス)の燃焼、タービンや発電機の動きなども分かりやすく紹介される。写真映え&学びにもなる、子どもから大人まで見応え十分の見学必至ポイントになっている。
ガスタービンの運転中の様子を再現した映像はド迫力! 映像の所要時間は3~4分
新しい発電所の“魅せ方”を工夫している石狩湾新港発電所だが、もちろん発電設備も最新鋭。発電効率は世界最高クラスを誇っている。
石狩湾新港発電所は、道内にある火力発電設備の経年化への対応や電源の分散化などを目的として建設された。北海道内の電力を、より確実に安定させる役割を担う発電所として、大きな期待が集まっている。
燃料となるLNGをためる大型の貯蔵タンク(右)。左側に同様のタンクを建設中だ
この、LNGを燃料にする火力発電所は、北海道電力では初めてのこと。
国内最大級の貯蔵量を誇るLNG用のタンクは、天気が良ければ、一般見学で発電所の屋上に上がって見ることができるので、北海道らしいスケールの大きさを感じて欲しい。
新しい発電所らしさは、発電所の“頭脳”である中央操作室にも。
操作室と聞けば、たくさんのスイッチがある巨大パネルが並ぶ部屋を想像するかもしれないが、実際にはとてもシンプルな造りになっている。操作はすべてマウスで行い、スイッチらしいスイッチは緊急時のものだけなのだそう。
中央操作室では、24時間体制で発電所の運転管理を行っている
他にも、発電所の仕組みなどをAR(拡張現実)動画でわかりやすく紹介するPR室など、見学者が楽しんで学べるコンテンツがふんだんに用意されている。
こうした工夫も、広く電気のことを知ってもらいたいという北海道電力の思いの表れなのだ。
PR室の立体パネル。手前の液晶パネルを動かしてパネル上のQRコードに合わせると解説動画が流れる
ちなみに、石狩湾新港発電所で働く所員は、普段から小樽市や石狩市の市民と交流したり、お祭りなどの街のイベントに参加したりと、積極的に地元を一緒に盛り上げていこうとしているそうだ。
施設見学に訪れた地元の小学生たちからの贈られたメッセージ。働く人たちの日々の励みになっているそう
雪が溶け、北海道の大地が緑を取り戻す5月から、2020年の一般見学が始まる。北海道に観光で訪れた際には、ぜひ石狩湾新港発電所に寄り道してみてはいかがだろうか。
石狩湾新港発電所から遠くまでつながる送電線。生活に欠かせない電気を北海道内に送っている
※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、現在は石狩湾新港発電所の見学の受付を休止しています。再開時期は公式サイトなどで発表される予定です
■スポットDATA
石狩湾新港発電所
住所:北海道小樽市銭函5-192-1
電話:0133-76-2046(見学受付係)
時間:5~11月の10:00~11:30、13:30~15:00※事前に電話確認、2週間前までに申込書を送付して要予約
休み:土曜・日曜・祝日、年末年始、GW、お盆、降積雪期(12~4月)
受入可能人数:5名~最大60名
https://www.hepco.co.jp/corporate/nextgeneration/ishikari_ps/index.html
【今月の密着人】北海道電力株式会社 送配電カンパニー 倶知安ネットワークセンター 配電課 室谷司(むろやつかさ)さん(24歳)
道を歩けば当たり前のようにある電柱。私たちのもとへ確実に電気が届くよう、その一本一本が人の手によって管理されている。冬には一面が雪に覆われる北海道も例外ではない。電柱に積もった雪で設備が故障しないよう、「冠雪(かんせつ)落とし」という作業が人知れず行われているのだ。今年からその作業を担う北海道電力の室谷司さんに密着しながら、“配電”という仕事に対する思いを聞いた。
町に電気を届けるため電柱に積もった雪と格闘
2020年1月、世界有数のスキーリゾート・ニセコ町のお隣、倶知安(くっちゃん)町には、暖冬にもかかわらずきれいな雪景色が広がっていた。
北海道の中でも指折りの豪雪地帯にある北海道電力 倶知安ネットワークセンターの室谷司さんを訪ねると、ちょうど作業車に荷物を積み込んでいるところだった。今日は倶知安ネットワークセンターの冬の恒例となっている作業、「冠雪落とし」の日だ。
車両に荷物を積み込む室谷さん。冠雪落としとは、電柱上部に積もった雪を落とす設備保全作業。放っておくと停電などのトラブルにつながるため、雪深い地域では欠かせない
室谷さんは現在入社3年目。2019年に前任地の夕張郡栗山町から倶知安町に転勤になったばかりで、普段は新しく建つ家やビルに電気を引き込むための工事設計などを担当している。初めて迎える倶知安町での冬、冠雪落としは今回が初めてだという。
そんな室谷さんが電力業界に興味を持ったのは、電気に関わる仕事をしていた父親の影響だった。
室谷「父は『電材』といって、いわゆる電線や制御盤などの電気材料を扱う店を経営していました。幼いころから電気の資材や機材が身近にあったので、いつからか北海道の電力を支える仕事に就きたいと思うようになったんです。大学では電気科で、主に発電機のことを学んでいました」
大学の専攻の関係から入社するときには、発電所勤務を希望していたそうだが、実際に配属されたのは配電課だった。
室谷さんは北海道出身。「道産子として、地元に貢献したい」と、さわやかな笑顔の中にも熱意を感じさせる
室谷「正直なところ、配電課は第3希望ぐらいでした(笑)。もちろん今ではこの仕事が大好きですよ! 配電課は、技術系の中では最もお客さまと接する機会の多い部署ですから」
配電課の仕事は、電力供給の最前線でライフラインを支えることにつきる。実際に利用者のもとへ足を運び、顔を合わせながら仕事を進めていく。「一番お客さまの目につくのが配電課。お客さまにとっては北海道電力=僕たちなんです」と誇らしげに付け加える。
室谷「お客さまのお宅などで何かトラブルが起きたときや、ご要望があった際には真っ先に駆けつけます。なので、そんなときでも失礼にならないように、常にワイシャツにネクタイを締めて仕事をしているんです。これは、新入社員だったときに仕事を叩き込んでくれた、上司の教えなんですよ」
冠雪落としでは、普段人が入らないような山道を歩く。雪が1メートル以上積もっているため、体が沈まないようスキー板を履いてクロスカントリーのように進む
足跡など全くない真っ白な雪の中を電線に沿って山の中へ
復旧作業に奔走した北海道胆振東部地震で成長
職場の上司や先輩の教えを守りながら、日々の職務に当たっている室谷さん。配電業務を担う社員として大きく成長させたのが、2018年9月に発生した北海道胆振(いぶり)東部地震だった。
室谷「実は台風21号が北海道に接近していたので、地震が起きる前日から職場に待機していたんです。だからすぐに動き出すことはできました。配電設備の修理ばかりか、電線に引っかかった倒木の処理など、設備の復旧に向けて何でもやりました。とにかくいち早く復旧できるようにと必死でしたね」
「先頭を歩くと、新雪をかき分けて進まないといけないので、かなり大変でした」
台風と地震のダブルパンチの被害状況の中でなんとか進めた復旧作業。関係者が総力を挙げて尽力した結果、2日間という早さで約99%の停電が解消した。しかし、それはあくまで仮の復旧だったという。
室谷「停電の解消を最優先する仮復旧という段階があって、まずは応急処置で電気を使えるようにするんです。その後に本復旧を進めていくのですが、結果的には地震があった9月から12月ごろまで復旧工事を続けていたんですよ」
雪山を歩きながら、電柱を一本一本確認していく。10キログラム弱の装備を身に着けているため、かなりの重労働だ
地震が起きたときは、まだ入社してから1年半ほど。思うようにいかず、悔しい思いもした。
室谷「一番心に残っているのは、お客さまから掛けていただいた言葉でしょうか。復旧が少しずつ進んできたときの『ありがとう』という言葉や、反対に『あっちは電気がついているのに、なんでこっちはダメなのか』とお叱りの言葉をいただく中で、嬉しさとか悔しさとかが入り混じり、正直、精神的に厳しい状況でした……。でも、なんとか乗り越えられたことで、一回り成長できたような気がします」
配電課としては3年目なので、電柱を登るのは慣れたもの。様々な装備を身に着けていても、スイスイと登れる
自分の強みを見つけて一人前になりたい
真面目で誠実。そんな言葉が似合う室谷さん。配電業務を担う社員として一人前になるため、日々の勉強は欠かさない。
というのも最近、急速に発展しているスキーリゾート・ニセコ町の工事設計を手掛けているのが理由の一つだという。
室谷「ニセコ町は外国人が急速に増えていて、別荘やホテルなども次々に建っています。このエリアは電線が地中化されているため、これまでとは勝手が全然違うんですよ。未経験な部分が多いので、今は徹底的に勉強しているところです」
積極的に学ぼうとする姿勢に、先輩たちも室谷さんに好感を抱いているそう
そして、忘れてはならない冠雪落としも、室谷さんの新しい仕事の一つだ。初めての作業日は、暖冬の影響からか電柱に雪が積もっていなかったが、実際に雪山に分け入り、電柱に登って設備の点検を行った。
室谷「スキー板を履いて歩くこと自体が初めてだったので、終わった後は、もう足がパンパンです(笑)。でも、これも電気を届けるための大切な作業。なんとかモノにしたいと思います」
住宅街の電柱と違い、山肌に建っている電柱は比較するものがないため、より高さを感じる
その後の2月中旬。ひと月前の冬晴れがうそのように、倶知安町は深い雪に覆われた。室谷さんは、初めての冠雪落としの作業を行った。
室谷「電柱に登ってみると遠目で見るよりも冠雪が大きく、雪質も想像以上に硬くなっていたため、絶縁スコップが入りづらく苦戦しました。また、落とした雪が自分の方に落ちてきて、顔が雪まみれになることもありましたが、慣れてくるにつれコツもわかってきて、安全作業と設備に損傷を与えないことを第一に、雪を細かく分けて、無事に落としきることができました」
2020年2月に行われた冠雪落とし。電柱の上にたくさん積もった雪を落としていく
この3年間は、十二分に濃い時間を過ごしてきたことは間違いない。それでも、室谷さんは貪欲だ。もっと経験を積んでいきたいと熱い思いを語る。
室谷「未体験の業務は、まだまだたくさんあるんです。電線の地中化もその一つですし、緊急事態に対応する仕事もあります。まずは、その全てを経験してみたい。そこから自分の得意なことを見つけて伸ばしていきたいと思っています」
最近、必要性を感じているのが英語。ニセコ町に増えている外国人は、電柱の存在自体を知らないことも少なくなく、利用者とコミュニケーション取らなければならない業務では苦労しているとか
これまでに出会ってきた先輩は、特定の業務でスペシャリストとして活躍している人が多かったという。
室谷「そういった頼りがいのある存在になりたい。それが、結果として当社に対するお客さまからの信頼につながっていくと信じています。『北海道電力なら安心・安全だね』と思ってもらえるように、これからも精進していきたいです」
全国各地にある発電所、その数はなんと4000カ所以上。一口に発電所といっても、実は一つ一つ違った個性があるんです。今回は、宮城県仙台市にある「日本の水力発電発祥の地」へ。なんと明治時代から今なお現役で動いている発電所の“中身”まで見れちゃう場所なんです。杜の都・仙台で「電気100年の歴史」に触れてみませんか?
杜を潤わせるのは水。100年休まずに動く「三居沢発電所」
明治時代――今から約130年前となる1888年7月。現在の宮城県仙台市にある三居沢(さんきょざわ)という地域で電気による明かりがともった。
ある紡績会社が、工場内に引いていた水を利用して、出力5キロワットの発電機を回し、工場内に50灯、隣接する山に1灯のアーク灯(照明の一種)を点灯させたのだ。
「日本の水力発電発祥の地」とされるこの場所に建つのが、今回訪れた「三居沢発電所」。なんと、その初点灯の瞬間から今に至るまで、現役で電気をつくり続けている。
現在も運転を続ける三居沢発電所。施設としては3代目となる発電所で、補強・修繕をしながら約110年もの間動いている
三居沢はJR仙台駅から少し西に位置し、「るーぷる仙台」というバスに乗れば、市内を周遊しながら40分ほどで訪れることができる。
るーぷる仙台とは、JR仙台駅前から「瑞鳳殿」や「仙台城跡」といった市内の主要観光スポットを巡ることができる観光バス。市民や観光客からの人気が高まり、2010年から国宝「大崎八幡宮」などとともに「三居沢発電所」も周遊ルートに加えられた。利用者数は右肩上がりで、仙台市によると年間58万人以上(平成30年度)が利用しているという。
三居沢発電所は現役の発電所ではあるものの、施設内で青葉山や広瀬川といった市内の自然についても学べる上、遊歩道を歩く広瀬川散策コースのスタート地点にもなっている。仙台の自然を味わうにもうってつけな、市内中心部の貴重な観光スポットの一つとなっている。
市内をぐるりと周回する「るーぷる仙台」は観光に最適。料金は1回乗車260円(大人)、るーぷる仙台一日乗車券630円(大人)ほか
「仙台城跡」は、伊達政宗公騎馬像や市内を一望できる観光のマストスポット(写真:仙台観光国際協会)
杜の都・仙台の総鎮守として名高い「大崎八幡宮」。社殿は国宝に指定されている(写真:仙台観光国際協会)
るーぷる仙台に乗って「交通公園・三居沢水力発電所前」というバス停で降り、少し歩くと建物の姿が見えてくる。ただ、発電所といってもパッと頭に浮かぶような巨大施設ではなく、レトロモダンなかわいい建物が目に入る。
それもそのはず。現存するこの建物自体がものすごく古く、建てられたのは今から100年以上前の1910年。発電所建屋は1999年に国登録有形文化財、内部にある発電所関係機器などは2008年に機械遺産(日本機械学会)、2009年に近代化産業遺産(経済産業省)にそれぞれ認定された歴史的価値が高いものなのだ。
壁の色などは修復しているものの、扉や外壁、内部の梁などは全て当時のものが維持されている
紡績会社で1888年に初めて電気が使われて以降、仙台市の“明かり”は次第に電気へと代わっていった。レトロモダンな建物が建てられたときに出力1000キロワットの発電機に入れ替わり、これが今も動いている。もちろん設備の修繕などは行っているが、今年で110年も働き続けているということになる。
そして、ここに来れば、この“100年越えの発電機”を、実際に見ることができる。その見学場所は、隣接する「三居沢電気百年館」(以下、百年館)。
東北に電気が誕生してから100年という節目、1988年に建てられた記念館。電気の歴史に関する資料がずらり
三居沢発電所の建物内にある発電機は、百年館からガラス越しで見学できる
発電機を回す水車は、この中に(写真奥)。メンテナンスを施されながら、100年以上動いている
発電機の他にも、百年館には電気の歴史を学ぶことができるさまざまな展示物がずらり。
東北に電気の明かりをともした最初の発電機(レプリカ)、100年間の電気の歴史年表、家電など電気器具の歩み、三居沢発電所の上棟式に使われた棟札などが所狭しと並ぶ。
普段から学生が多く訪れるというほど、学びの場としての価値も高い。
発電機のレプリカ(写真手前)は、当時、製造に協力していた東京大学に残っていた資料を基に復元。実機は国内初の完全な“メイド・イン・ジャパン発電機”とされている
三居沢発電所の上棟式で当時使われた棟札。こういった実物が数多く残されているため歴史的価値が高い
また、百年館の2階には「水と森のアトリエ」という子ども向けスペースも。電気や環境のことを遊びながら学べるのだが、大人に見てほしいのは階段の途中にある壁面。
1937年にパリ万国博覧会の光の館(電気館)で展示された大壁画のリトグラフ(石版画)で、世界で限定350部制作された内の1点。日本で常設展示されているのは、早稲田大学理工学部と金沢21世紀美術館と百年館の3カ所だけなのだそう。
電気をテーマにしたアートを鑑賞できるのも、三居沢発電所ならではの魅力だろう。
フランスの画家ラウル・デュフィ作「La Fée Eléctricité(電気の精)」のリトグラフ。原画は横60×縦10メートルもの巨大壁画で、パリ市立近代美術館に展示されている
百年館に入るとすぐに目にする三居沢発電所のリトグラフ。1900年代後半に活躍した画家ベルナール・ビュッフェが描いた
100年もの歴史を誇るこの発電所が今も動き続けられるのは、仙台を東西に流れる広瀬川の豊かな水量によるところが大きい。
三居沢発電所が水を引く場所から上流へいくと、広瀬川には2つの流域がある。一方はNHK連続ドラマ小説『マッサン』で話題となったニッカウヰ(イ)スキーの仙台工場宮城峡蒸溜所で利用され、もう一方は縁結びの聖地としても知られる「定義さん」(極楽山 西方寺)近くの貯水池で農業用などに使われている。
発電、酒造、農業と、広瀬川の水は100年以上前から、東北、さらには全国に、その恵みを与えてくれているのだ。
2階のテラスからは三居沢発電所が一望できる。目の前に見えるのは上にある水槽(貯水設備)から発電所内に水を流す水圧鉄管。この鉄管も1969年10月製と相当に古いが、いまだ現役
東北自動車道・仙台宮城ICの下に流れる広瀬川の水を、青葉山を貫通させた導水路を通して引いている。使われた水は、この放水路から再び広瀬川へと流れていく(2016年4月撮影)
三居沢発電所の発電する能力は、最大で1000キロワット。家庭で使われる電力のおよそ300軒分で、発電所の目の前にあるマンションのいくつかを支えられる程度だ。
現在は、隣接する変電設備にその他の火力発電所などから大量の電気が送られてきているため、三居沢発電所で生まれた電気もその一部となって町へと送られている。
1世紀にわたって杜の都を支えてきた発電所は、今では確かに街の発展を飛躍させるほどの能力はないかもしれない。それでも、この土地の文化の礎になってきたことは間違いない。100年休まずに仙台と一緒に動いてきた三居沢発電所を訪れて、その歴史に触れてみてはいかがだろうか。
※2020年2月29日から、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため三居沢電気百年館は臨時休館しています。再開時期は公式サイトなどで発表される予定です
■スポットDATA
三居沢発電所・三居沢電気百年館
住所:宮城県仙台市青葉区荒巻字三居沢16
電話:022-261-5935
時間:10:00~16:00
休み:月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始
料金:入館無料
https://www.tohoku-epco.co.jp/pr/miyagi/sankyozawa.html
取材協力:仙台市観光シティループバス「るーぷる仙台」
全国各地にある発電所、その数はなんと4000カ所以上。一口に発電所といっても、実は一つひとつ違った個性があるんです。今回は、群馬県・上野村にある、まるで秘密基地のような地下水力発電所へ。心も体も癒される森林セラピーや地元グルメと一緒に、大自然の楽しみ方を教えちゃいます!
地元グルメとテラスBBQを満喫できる「道の駅 上野」
関東一のきれいな川とも言われる「神流川(かんながわ)」。その流れに沿って山あいに広がるのが、今回訪れた群馬県・上野村だ。
東京から車で2~3時間、電車なら上信電鉄・下仁田駅や西武鉄道・西武秩父駅からタクシーで30~60分ほどの場所にある。
上野村までの道中に通る山村。何よりも心を癒してくれるのは、各地で見られるこういった日本の原風景だ
そんな上野村で、まず立ち寄りたいのは、2019年7月にグランドオープンした「道の駅 上野」。
「おかえりなさい」をコンセプトに造られた黒屋根と板張りの建物は、誰もがどこか懐かしさを感じて、くつろげる
もともとは群馬県内で道の駅第1号として誕生。それ以来、村のさまざまな特産品が集まっていた場所だったが、2019年に完全リニューアルした。
地元の特産品である猪豚(いのぶた)の料理が味わえる「レストラン」や、手作りお菓子工房を併設した「おみやげショップ」、上野村の木工作品が並ぶ「ウッディー上野村 銘木工芸館」までそろう上野村観光の玄関口。
何も調べてこなくても、ここに来ればまずは上野村に来た醍醐味が味わえるはず。
地元特産の猪豚のカツを贅沢に乗せた「猪豚ソースカツ丼」(1050円)。平日5食、土日祝日は10食の数量限定なのでお早めに!
入口横の売店で買える「十石みそソフト」(350円)。特産の麦みそをミックスすることで、濃厚なチーズのような味わいに
入口から入り真っ直ぐ進むと、道の駅 上野の目玉「うえのテラス」に出ることができる。
神流川を目の前にした広いテラスにベンチが置かれ、川のせせらぎを聞きながら、ゆっくりとした時間を過ごせる
今後、テラス奥の席で猪豚を使ったバーベキューがスタートする予定で、さらに、うえのテラスから川に降りられるようにもなるそう。シーズンに合わせた川遊びを自由に楽しめるはず。
おみやげショップでは、生シイタケなど地産品や農協ブランド「天空キッチン」の食品、麦みその「十石みそ(粒・練)」(500g、370円~)などが買える
ちなみに、おみやげショップには、食べた人はもれなくハマるという超ローカルフード「とちもち(トチの実でつくったお菓子)」が年に数回だけ置かれることがあるので、もし見かけたら必ずゲットを!
地下秘密基地に入れる「神流川発電所」見学ツアー
上野村には、関東最大級の鍾乳洞として有名な「不二洞」がある。延長2.2キロメートルという地下に入っていく洞窟だが、実はもう一つ、涼しい“地下観光”が楽しめる場所がある。
それは山奥深くにある揚水式水力発電所「神流川発電所」だ。
地下深くに進んだ先にある発電所の入口。中に入ると驚きの大空間が広がる!
施設見学ツアーは、地下深くトンネルを進んでいったり、地中にある巨大空間に入ったりと、気分はまさにアドベンチャー。
このツアー、ダムがある上野村と発電所を持つ東京電力ホールディングスが共同で運営しているというもの。山間の村と電力会社が密に協力し、いい形でタッグを組んだことで、年間3000人が訪れるほどの人気観光スポットに。しかも、見学ツアーは「無料」というからありがたい限りだ。
上野村にある上野ダムは、高さ120メートル、幅350メートル、ダム頂上部の標高は846.5メートル
今年、発電所を運営する東京電力ホールディングスは、再生可能エネルギー発電事業領域におけるリーディングカンパニーに向け、再生可能エネルギー発電事業を「東京電力リニューアブルパワー株式会社」として2020年4月に分社化する方針を決定している。その中で、この神流川発電所は水力発電事業のかなめともいえる発電所の一つなのだ。
バスに乗って進むと、トンネルとトンネルの間にある上野ダム駐車場で一度停車。ここでは、神流川発電所の“燃料”ともいえる膨大な水を蓄える「上野ダム」を見ることができる。
上野ダムから見た奥神流湖(おくかんなこ)。神流川発電所では上部、下部の調整池を合わせて最大1267万トンもの水をためることができる
この駐車場は車で普通に来ることも可能(開放時間9:30~16:30、12月上旬~3月末は閉所)。歩いてダムの真上まで行けば、秋には山々が黄色く染まるダムの景色を一望できるので、この季節にのんびりするのにはうってつけ。(※見学ツアーでは降車しません)
駐車場からバスはさらに先に進み、途中から深く長いトンネルに入る。
まるで秘密基地のような入口の先には、傾斜9%、約1.8キロの長いトンネルが待っている
神流川発電所は「揚水式」と呼ばれる水力発電所。
需要がピークの時などに上流の南相木(みなみあいき)ダムから水を流して発電し、電気の供給に余裕があるときに下流の上野ダムにたまった水をモーターで上流に戻している。簡単に言うと、「電気の需給に合わせて同じ燃料を上げ下げして、繰り返し発電できる」というのが揚水式の特徴だ。
現在、1、2号機が稼働しているが、今後設置される予定の3~6号機すべてが稼働すると、最大出力282万キロワット(kW)という“世界最大級”の揚水式水力発電所になるとも言われている。
トンネル内の気温は年中15~16℃と涼しい。夏でも涼しいため、入口で野生のシカが涼をとっていることもあるそう
南相木ダムと上野ダムの距離は6キロ超。その間に、これから向かう発電所があるのだ。
標高850メートルのトンネル入口から、160メートルほど地下に。数分、地下へ地下へと進んでいくと発電所の入口が現れる。
中に入ると…
目の前に広がる「大空洞」という巨大空間。3、4号機の発電機を設置する場所として造られた
高さ52メートルもある大空洞で、なんと有名なテーマパークにあるお城がすぽっと収まるほど広いらしい。
壁面にぽつぽつと見える突起は、「PSアンカー」と呼ばれる崩落防止用の補強材。その数3700本。表に出ている部分は1メートルに満たないが、地中の先に10~20メートルも伸びている。
大空洞を背にすると見えるのは、発電所の心臓である「発電機」と「変圧器」だ。
赤く飛び出している部分の下に発電機が埋まっている
ツアー後半で上る展望台から施設内を一望すれば、直径8メートルもの“赤丸”発電機がすぐに目に飛び込むはず。
この発電機1台で最大47万キロワットの発電能力があり、群馬県高崎市とほぼ同規模のおよそ15万世帯分をまかなうことができるそう。
見学のタイミングがよければ、発電機の稼働音を聞くことも。
「ゴオォォォォ…」という音とともに水が流れ始めると、「ゴンゴンゴンゴン…」と発電機の回転が毎分500回転になるように徐々に水量が調整されていく。
そして、「ゴンッ」と大きな音が響き渡ると、発電機の上部にあるランプが赤く点灯。発電を開始したというサインだ。
ここまでかかった時間は約3分。遠隔操作室でスイッチオンすれば、およそ5分で最大出力まで出せるそう。
そして、この瞬間から、電気は街に送られている。ただ、すべて地下でのことなので、楽しめるのは音だけだ。
作りたての電気は「電気管路」(写真正面)という空洞の管を通り、真横にある「変圧器」(写真右)に。50万ボルト(V)という超高電圧の電気に変えられ、各地へと送られていく
運転開始から最大出力までわずか数分という速さで急激な電力消費量の変化に対応できる揚水式水力発電所は、水を上げ下げすればエネルギーを作ったりためたりすることができるため、さまざまな発電方法の中で「調整役」を担っているのだ。また、出力が不安定な再生可能エネルギーが増えてきたなか、揚水発電所での需要と供給の調整が不可欠となってきている。
森の中でお昼寝!最高に癒される森林セラピー
もし“お泊り旅”ができるなら、必ず体感してほしいのが、上野村に広がる「森」だ。
なんといっても上野村は敷地の約95%が山林という山の中にある。人口は1200人弱とされていて、もしかすると人間よりも動物の数の方が多いかもしれないと言われるほど、自然に包まれた場所だ。
そんな環境で、森林ガイド同行でないと入ることができない深い森の中を散歩することができるツアーがある。
見える場所はほぼすべてが国有林だそう。スギやヒノキが多い日本の山々と比べて、カエデ、カツラ、トチノキ、ホウノキなどさまざまな樹木を見ることができる
10:00に上野村の「森の体験館」に集合したら、車を乗り換えて移動。山の奥へ奥へと入っていく。
山の入口は、標高1000メートルに位置し、スマホの電波はもちろん届かない。
でも、そんなことが全く気にならなくなるほどの景色が広がっている。紅葉シーズンには、周囲の木々がカラフルに色づき、華やぐそうだ。
車で1時間ほど移動すると到着するのが、「中之沢源流域」と呼ばれる森の中。中之沢の水は、神流川、そして利根川へと流れていく。
道路から沢に降りるために下っていく階段は、整備はされているもののかなりの急斜面
森の中とはいえ、道や階段はある程度整備されている。でも、自然に配慮した最低限のものだけなので、軽い山歩きの覚悟は必要だ。
腐葉土が被さってできたふかふかの急な階段を10分ほど降りていくと、見えてくるのが「オボロカヤの滝」だ。
「オボロカヤ」はアイヌ語で「水のたまり場」。なぜアイヌ語で名づけられたのかは分からないのだそう。滝つぼで水に触ることも
およそ15メートルの高さから川の水が一気に滝つぼへ。時間によっては、木々の隙間から光が差す“天使のはしご”を見ることも。
滝に圧倒された後は、すぐ近くにあるウッドデッキの上で、森のお昼寝。
シートはガイドさんが持ってきてくれる。寝転がると上には大木の葉が広がり天然のシェードに
シートを敷いて、30分ほどごろり。森の静けさの中に響くのは滝の音だけ。ここで一休みすれば、たまったストレスもすっきりなくなるはずだ。
ちなみに、「森の中で寝る」と聞いたら不安になるのが「虫」。でも、ご安心を。
ここは標高1000メートルの地。高すぎて蚊やブヨ、アブといった虫は生息できず、ほとんど見ることはない。虫嫌いでも来られる森というのは、かなりポイントが高い。
森の昼寝を楽しんだら、もう一度、階段を上る。少しハードだが、ここでの足取りは少し軽くなっているはず。
再び車に乗って移動すること10分。山小屋でツアー特製のお弁当を食べたら、午後からは第2の散策ポイントへ。
見どころは何といっても、いま人気急上昇中の「苔」だ。
中之沢源流域の上流ポイント。苔むした岩と川の流れを見ると、癒される
まさに「苔の森」と言える光景は、青森県にある有名な景勝地・奥入瀬渓流にも引けをとらない。
ツアーでは、苔の森を眺めながら、さらに奥に進んで、木の橋を渡ったり、広場から川を見下ろしたりと、森の中を散策していく。
昼にお弁当を食べる山小屋。体験した人たちの間では「森のレストラン」とも呼ばれているそう
数カ所の散策スポットを車で移動しながら回っていき、森林セラピーツアーは終了。
森に入るため、注意事項はいろいろあるが、覚えておきたいのは、「水」と「歩き方」。
動物の糞などが含まれている可能性があり川の水は飲むことができないため、出発前に必ず飲料水は買っておこう。
また、森林歩きなので服装には気をつけつつ、それ以外にツアー中絶対に守らなければならないのは、「ガイドさんの前を歩かない」「ガイドさんが歩いた場所以外は歩かない」こと。
中之沢源流域はほとんど人が手をつけていない森の中。穴が、ヘビが、クマが!?と、どこにどんな危険が潜んでいるか、何が出てくるかは分からない。癒し効果抜群の景色に見とれてぼんやり歩くと危ない!でも、ガイドさんについて行けば大丈夫だ。
森林セラピストの中村成孝(なかむらしげたか)さん。優しく森の知識を教えてくれる
今後はここで、「森ヨガ」なども予定しているので、上野村の公式サイトなどでイベントチェックもしておきたい。
車に乗って下山した後は、地元住民も愛する温泉施設「しおじの湯」へ。露天風呂でひと汗流せる。入浴料もツアー料金に含まれているのも、うれしいポイントだ。
水のせせらぎと森の空気にいろいろな悩みごともスッキリ
森林セラピーのガイド・中村さんは、「例えば砂漠の国から見れば、水が地面から湧き出ること自体かなり特殊なこと。植物の多様性と豊富な水資源は、日本を説明するときにかなり重要な話です」という。
グルメや観光、エネルギーまで、自然とともに生きる上野村。いつもの生活にちょっと疲れたときは、山と川の恵みを大切にする上野村の空気に触れて、日本の豊かさをあらためて感じてみるのも面白いはず!
※台風の影響により、「神流川発電所見学ツアー」「上野村森林セラピー」は2019年度の開催を中止しています。詳しくは、上野村産業情報センター(0274-20-7070)までお問い合せください
※2019年9月取材時点の情報です。再開時には内容が変更になる場合があります
※表示価格は全て税込(10%)です
■スポットDATA
道の駅 上野
住所:群馬県多野郡上野村大字勝山127
電話:0274-59-2665
時間:売店9:00~18:30、レストラン11:00~15:00
休み:レストラン木曜
http://www.uenomura.jp/tourism/buy/michinoeki.html
神流川発電所
住所:群馬県多野郡上野村大字楢原310—1(集合場所:森の体験館)
電話:0274-20-7070(上野村産業情報センター)
時間:毎週月・水・金曜13:00~15:00(要予約、所要時間120分)※夏休み期間中は土曜も開催。詳細は予約時にお問い合わせください。予約は公式サイトから
料金:無料
http://user.uenomura.ne.jp/kankou/view/hatsudensyo.htm
上野村森林セラピー
住所:群馬県多野郡上野村大字楢原310—1(一般社団法人 上野村産業情報センター)
電話:0274-20-7070(同上野村産業情報センター)
開催日:~11月9日の日曜※3人以上で開催、その他の日程は人数次第で相談可※天候や現場の状況次第で中止になる場合があります
時間:上信電鉄下仁田駅集合9:30~16:30、森の体験館集合10:00~16:00
料金:1人5500円
http://www.uenomura.jp/tourism/play/morinotaikenkan/therapy.html
全国各地のダム付近で続々と誕生し、盛り上がりを見せている「ダムカレー」。ダムがあるからこその地元グルメであり、町おこしの起爆剤としても期待されている。そんなダムカレーの中で特に有名なのが「黒部ダムカレー」だ。前編では、黒部ダムカレー推進協議会の会長・柏原清さんに黒部ダムカレー誕生の歴史についてうかがった。後編では、黒部ダムを眺めながら食べられるカレーメニューと、自宅で楽しめる盛り付け方を聞いた。
>>柏原さんが黒部ダムカレーの誕生秘話を語る!インタビュー前編はこちら
いま食べられる黒部ダムカレー
富山県にある全国的に有名なインフラ観光地「黒部ダム」。その中にダムカレーを食べられる「黒部ダムレストハウス」はある。
「黒部ダムカレー」という名前でひとくくりにされているものの、実はルーの味で、「黒部ダムカレー」(1100円)、「アーチダムカレー」(900円)、「お子様ダムカレー」(900円)という3種類のメニューに大きく分けられている。それぞれの特徴を誕生から今までを見てきた黒部ダムカレー推進協議会の会長・柏原清さんが教えてくれた。
「アーチダムカレーは、トッピングを追加しましたが、見た目は昭和40年代当時に生まれたアーチカレー、ほぼそのままです(※アーチカレー誕生の歴史が分かる前編はこちら)。とはいえ、味はその当時よりも各段に美味しくなっていると思います。昔、私が初めて食べたときに、『よくあるカレーの味っぽい』と感じてしまいまして…それから少しずつ味を改良してきました」
中辛のビーフカレー「アーチダムカレー」(900円)。一口食べれば、どこか懐かしさを感じる
鮮やかな緑色が目に飛び込む「黒部ダムカレー」が誕生したのは、2007~08年ごろ。今では最寄り駅の扇沢駅でも食べられるが、最初にこの黒部ダムレストハウスで提供が開始されたそうだ。
「全てのメニューの中で圧倒的に売れていますね。黒部ダムカレーも、本格的な味を追求するために、これまで随分と味を変えてきました。辛みをマイルドにするためにタマネギソテーの量を増やしたり、きつ過ぎたニンニクを減らしたり、万人受けするために辛さをマイルドにしたり。本当にいろいろやったので、味はかなり熟成していると思います」
これぞ看板メニュー!辛口グリーンカレーの「黒部ダムカレー」(1100円)は本格的な味わい。緑色のルーはホウレン草ペーストで色付けされている
ここ2~3年は黒部ダムカレーの味に改良は施されておらず、現在の味はもう完成形とも言えるようだ。3つ目の「お子様ダムカレー」は、小ぶりで甘口、家族連れに人気を博しているという。
「ピーク時には1日にだいたい700食、最高で1000食出たという記録も残っています。黒部ダムレストハウス以外でも、大町市内の飲食店では常時食べられますし、最近では、富士急ハイランドで開催されたグルメイベントや、大阪府にある関西電力本店の食堂、兵庫県のゴルフ場など、期間限定でさまざまな場所で食べることもできます」
ちなみに、長野自動車道の安曇野インターチェンジにあるカレーハウスCoCo壱番屋でも食べられるそうだ。
黒部ダムレストハウスがあるのは、ダムのすぐそば。1階はお土産店、2階はレストランになっている
「いろいろな場所の黒部ダムカレーを探すのも楽しいと思いますが、できればここに来ていただき、黒部ダムを見ながら食べてもらえるとうれしいですね!」
黒部ダムカレーに受け継がれる昭和の遊び心
ここで、遠い、時間がないなど、どうしても黒部ダムに行けない人のために、黒部ダムカレーの盛り付け方を教えてもらった。
「まず重要なのはダムの形。金型なしで作るのはなかなか難しいですが、もし自宅で作りたいのであれば、ご飯にラップを巻いて、手で成形していけばできると思います。ただ、黒部ダムは『アーチ式』と『重力式』のハイブリッドダムなんです。中央部がアーチ式で、ウイング(両サイド)が重力式。ウイングはご飯の重さを生かして厚めに、中央はアーチを描くようにする。中央から作り始めればやりやすいと思います」
黒部ダムレストハウスでは、オリジナルの金型でご飯を成形。ご飯には、硬すぎず柔らかすぎないよう、絶妙な圧力をかけるそう
前編でお伝えした通り、本場の黒部ダムカレーには、カレールーの作り方にルールはない。つまり味はお好みでOKだ。ただ、少しシャバシャバにした方が、ご飯に穴を開けてカレールーを流す『放流』もしやすくなるという。
「もう一つ重要なのが、カレールーを入れる場所。たまに個人で作られた方の盛り付けを見るのですが、間違われていることが多いんです。本来はダム堰堤(えんてい)のアーチの外側にカレーを入れなければいけません」
ダムカレーのご飯を成形すると、ついつい内巻きになっているアーチの内側にカレーをよそいたくなる人が多いそう。これは、アーチ式のダムカレー作りで一番やってはいけないポイントなのだ。
カレーのルーはダム堰堤のアーチの外側に。よそうときは“水あふれ”にも要注意
ダムの“施工”が済んだら、次は黒部ダムの景観を再現していく。ポテトサラダは放水を、キャベツは水しぶきを、パセリは黒部峡谷の森を、カツは遊覧船を、それぞれイメージしているという。
下からキャベツ、ポテトサラダ、横にパセリを添えていく。カレーらしくラッキョウも忘れずに
黒部ダムレストハウス特製「黒部ダムカレー」にはカツが2個。遊覧船をイメージしている
「ちょうど黒部ダムの大階段から見た景色がお皿の上に広がる感じですね。一度、現地を見てもらえれば、すぐにイメージできると思います。黒部ダムカレーと名前を変えてからは私がずっと責任者として担当してきましたが、これまで7~8人が歴代このカレーを引き継いできました。これから引き継いでくれる後輩にも、黒部ダムカレーをさらに進化させてもらえたらいいなと思っています」
変化し続けることが大事と言う柏原さんだったが、唯一変えてはいけない部分もあるという。
お話を聞かせてくれた、黒部ダムカレー推進協議会の会長・柏原清さん。黒部ダムにあるお土産も多数考えたアイデアマンでもある
「盛り付けの形状など、基本の形だけは変えちゃいけない。これからも、昭和に生まれて今に残る、先輩たちのこだわりや遊び心を大切に引き継いでいきたいです」
黒部ダムレストハウス
住所:富山県中新川郡立山町芦峅寺ブナ坂11 国有林内
電話:080-2105-4886
時間:レストラン9:00~15:00※11月5日から10:00~14:30
売店7:30~17:00※11月5日から8:30~16:00
定休日:なし
古くから、日本のエネルギーの一翼を担う水力発電。一般的には「ダム」のイメージが強いが、近年、その傍らによくあるのが「ダムカレー」だ。その数は全国で100を超え、形も味も千差万別。全国的にブームとなり数が激増したのは平成に入ってのことだが、その数十数年前にダムを模したカレーを生み出していた地があった!
実は昭和40年代生まれ?黒部ダムカレーの原点とは
「『ダムカレー』と呼ばれて全国さまざまな場所で食べられるようになる数十年前、黒部ダム近くのある場所で『アーチカレー』というメニューが生まれました」
最初にそう教えてくれたのは、黒部ダムカレー推進協議会の会長・柏原清さん。「黒部ダムカレー」誕生から現在までを知る、数少ない一人だ。
2016年まで黒部ダムレストハウスを担当し、現在は観光部門の事業改革担当を務める柏原清さん。現在、黒部ダムカレーに最も詳しい
「現在では、ご飯をダムの形に、ルーをダム湖に見立てたカレーが『ダムカレー』という名前で日本中に浸透していますが、黒部ダムカレーは、それ以前に別の誕生経緯があるんです。そもそもの歴史をたどると、黒部ダム建設当時にまでさかのぼります」
1956~1963年、観光地としても有名な黒部ダムは富山県東部を流れる黒部川上流域に建設された。日本最大級の“インフラ観光スポット”として知られるが、今なお関西圏の電力を支える現役の水力発電用ダムでもある。
年間約100万人の観光客が訪れる黒部ダム
「当時、黒部ダム建設工事の作業員の方々のために飯場(はんば)があり、そこで『ライスカレー』が提供されていたんです。昭和30年代はカレー自体が非常に珍しい料理で、飯場に出ると作業員の方々は大喜び。『次のカレーの日はいつ?』『昨日のカレーは残ってない?』と、飯場の方たちはよく聞かれていたそうです。その当時はもちろんダムカレーの形状ではなくいわゆる普通のカレーでしたが、ここが原点になります」
当時の飯場は、長野県大町市内から黒部ダムまでの間に点在していたそう。工事に関わった作業員は延べ1000万人。黒部ダムカレーの源流は、昭和の歴史を築き上げた数多くの人々の活力となっていたようだ。
「現在の大町市・日向山高原に建設基地がありました。そこの飯場では間違いなく提供されていたと聞いています。そして、黒部ダムが完成した後(1960年代初頭)、私の大先輩に当たる飯島さんという方が大町クラブハウス(後の、くろよんロイヤルホテル)に勤めていたときに、このカレーを発展させて黒部ダムカレーの原型を考えられたんです」
カレーで町おこしを!アーチカレーが黒部ダムカレーに変わった日
「最近あまり見ませんが、オムライスのチキンライスを入れて盛り付ける“金型”ってありますよね。飯島さんはご飯をダムのように造形するために、それを利用できないかと考えました。それで、昭和40年代初頭に、専用の金型を地元・長野県大町市内にあった鉄工所に作ってもらったそうです」
現役で使われている黒部ダムカレーの金型。形は今でも昭和40年代当時に作られたものほとんど変わらないという
ダムの堰堤(えんてい)の形にご飯を盛り付けて、ダム湖に見立ててカレーをよそう。現在のダムカレーと、ほぼ同じ構造を“施工”していたという。完成したカレーは、『アーチカレー』という名前で提供され始めた。
「つまり、このときが黒部ダムカレー誕生の日と言えるでしょう。飯島さんはもともとコックさん。創意工夫がある人だったようで、他にもいろいろな創作メニューを考案されていたと聞いています」
ダムカレーの元祖の一つとも言われる黒部ダムの「アーチカレー」は、当時、扇沢駅2階にある扇沢駅大食堂(現、扇沢レストハウス)で販売された。
アーチカレーが初めて販売された旧・扇沢駅大食堂は、名前を変えて、現在も扇沢駅の2階にある
「このアーチカレー、実はその時からずーっと続いているメニューなんです。昭和40年代から、平成、令和と。全国的にブレイクしたのは、2009年です。それまでは扇沢駅大食堂だけで出していたのですが、大町市内の飲食店さんに、このカレーで町おこしをしないかと声を掛けたんです」
町ぐるみで盛り上げるため、名称を「黒部ダムカレー」と統一。7店舗で始まった試みは、現在18店舗に広がった。このときに黒部ダムを目の前に望むレストラン「黒部ダムレストハウス」でも販売が開始された。
「最初は、雑誌社の営業さんと市の職員さんと私の3人で動き始めたことなんです。当時、既に富士宮焼きそばといったいわゆる“B級”のグルメが盛り上がっていたのですが、カレーなのでそこにしかない料理というわけでもない。それに、せっかくやるなら満足のいかないものにはしたくなかったので、価格を700円以上にするなどのルールを作りました」
黒部ダムカレーには絶対に守らなくてはならない掟がある。
1.お米をダムの堰堤の形にする
2.カレーのルーは必ず堰堤の内側に流し込む
3.カレーのルーの上に遊覧船に見立てたトッピングを乗せる
4.料金は700円以上
5.必ず水を付ける
という5つだ。
黒部ダムカレー(1100円)の味は本格的なグリーンカレー。スプーンは、お土産店で販売されているオリジナルのスコップスプーン(※レストランでは付きません)
「長野県大町市の美味しい水を必ず付けるというのは、地元ならではのものでしょう。掟はありますが、実のところカレーの味にはルールがありません。黒部ダムレストハウスの黒部ダムカレーも、見た目こそ2009年当時からほとんど変わりませんが、細かく何度も味をリニューアルしてきました。そうやって味と文化を育ててきたんです」
>>後編では、「黒部ダムレストハウス」で提供されている、“今食べられる”ダムカレーと、お家でできるダムカレーの盛り付け方をご紹介します!
黒部ダムレストハウス
住所:富山県中新川郡立山町芦峅寺ブナ坂11 国有林内
電話:080-2105-4886
時間:レストラン9:00~15:00※11月5日から10:00~14:30
売店7:30~17:00※11月5日から8:30~16:00
定休日:なし
【今月の密着人】東北電力株式会社 発電・販売カンパニー 火力部(火力建設) 石田竜也(いしだたつや)さん(32歳)
自動車や食品など多くの製造工場の現場では、ロボットやAI(人工知能)技術を活用して、完全自動化に向けた動きが盛んだ。そんな時代に、発電所内の点検を自動化できないかと試行錯誤する男がいる。東北電力の石田竜也さんは、「きっと地元の発展にもつながる。実現に向けて、日々考え続けたい」と語る。未来のために「今を変える仕事」、その思いに迫った。
火力発電所に新しい技術を搭載する仕事
東北エリアを中心に、電気やエネルギーの供給を担う東北電力。同社の火力発電所を管轄する部署には、「デジタルイノベーション」を進めるメンバーがいる。今回の主役は、その一人である石田竜也さんだ。
発電所にデジタルイノベーション――そのメンバーは、発電所などの設備内に、ロボットやAIといった新しいテクノロジーを取り入れ、より安全性を高めたり、発電の安定性を高めたりして、火力発電所をより良くするためのプロジェクトを進めている。
その中で石田さんが担っているのが、火力発電所で行われる設備点検の「自動化」だ。
新潟県出身の石田さんは、地元の高等専門学校を卒業して、東北電力に入社。「電気は、生活になくてはならないもの。当時その最前線で働きたいと思い、地元の新潟に電気を送っている東北電力を志望しました」
石田「火力をはじめとした発電所では、毎日、所員が設備の状態を巡視点検して、機器に異常がないかチェックしています。検査機器を使い、時には耳などの人間の感覚も頼りにしながら、アクシデントが起こらないように、随所を見て回る必要があるのです」
しかし、発電所内に設置されているのは、膨大な数のさまざまな機器。一つ一つ細かくチェックするには、多くの時間と労力がかかる。
石田「メーターやバルブなど、発電所内のあらゆる箇所を見て回るため、最低でも2時間ほどかかります。これを一日に2~3回行っています。もちろん、安全と安定した発電のために不可欠な作業ですが、もっと効率化できないかと考え、ドローンによる巡視点検の自動化を目指しているのです」
東北電力の秋田火力発電所。2019年9月に運転を終えた3号機で、石田さんはドローンの実証試験を行っている
発電所でドローンを飛ばす! 難題だけどやりがいはある
石田さんが目指す「設備点検の自動化」とは、簡単に言えば“発電所内に自動で動くドローンを飛ばし、各種機器を点検させてデータを集める”というもの。
言葉にすると簡単だが、実現するにはかなり繊細で多彩な技術を組み合わせる必要がある。
石田「ドローンを発電所内に飛ばすだけでは、機器の点検はできません。自動的に決められたコースを飛行することに加えて、異常を検出できる機能を搭載する必要があるんです。その中核を担う技術がAI。飛行コースや機器の正常な状態を覚えさせることにより、異常が発生したときに検出して知らせてくれるというシステムです」
点検の自動化を目指し、協力する会社と実証試験・改善を進めているドローン
発電所内を“巡視点検”するためには、人がやっていたことと同じことができなければならない。視覚、聴覚、触覚、嗅覚といった人間の感覚に変わるカメラやセンサーなどをドローンに搭載し、さらにそこから得られるデータを判断する能力が必要となるのだ。
石田「視覚の役割は、ドローンに搭載するカメラやサーモグラフィカメラなどの画像をAIに解析させることで実現します。そのように、ドローン1機に人間並みの機能を載せていくのです。嗅覚についても既に有効性は確認していますが、センサーで臭いを数値化する検証を進めているところです」
実証試験を始める前に、協力会社のメンバーと工程や飛行場所などを入念に打ち合わせる。停止しているとはいえ、実証試験場所は実際の火力発電所内。最善の準備をして取り組んでいる
2019年12月に実証試験を行ったのは、実際の発電所の中。
石田「これまで、弊社の火力技術訓練センターや解体前の新潟火力発電所4号機といった施設内でも実証試験をしましたが、実現の可能性は感じています。そして今回、2019年9月に運転を終えた秋田火力発電所3号機の建物の内部で本格的な実証試験を始めました」
秋田火力発電所内は、さまざまな機械や配管が入り組んでいる。ただでさえ飛ばすのが難しいドローンを、この建物の中で自動運転させるのは難題だ
停止しているとはいえ、実際の火力発電所内で検証するのは簡単なことではない。実現できたのは、職場のバックアップのおかげだと石田さんは言う。
石田「以前、仙台火力発電所4号機のガスタービンに新しい回路を導入するという、メーカーでもやったことがない新しい試みに取り組んだことがあります。結果的には、発電機の出力と熱効率を最適化できて燃料費も削減、社内で「社長表彰 秀賞」も受賞しました。このときも、前例がないアイデアでしたが、上司の賛同と協力で実現できたんです。今回の秋田火力発電所での本格的な実証試験も、上司の協力があってのこと。私は上司に恵まれています。やりたいと思ったことに同意してくれて、協力してくれる。本当にありがたいです」
発電所内を歩き回り、ドローンを飛行させるルートを綿密に検討する
実証試験を進める中で、いい結果は出てきた。とはいえ、実用化にはもうしばらく時間がかかるという。
石田「動き始めてから3年。今は、自動点検を確立し、2023年6月に運転開始を予定している上越火力発電所の1号機に導入することが目標です。これがうまくいったら、東北電力の全ての火力発電所での採用を目指したいと思っています」
現時点でのドローンの自動運転は、一度、人がコントローラーで操作して飛行経路を作成し、ドローン単独で同様のフライトができるようにセットアップしていく
地域社会と共に。地元に役立てるシステムにしたい
新しいテクノロジーによってイノベーションを起こすチームに所属する石田さんだが、もともとは新潟に新たにできる上越火力発電所1号機の設計にかかわる業務を担当していた。
石田「当初は今の仕事と設計業務を掛け持ちでやっていて。こちらがサブの仕事になっていたのが正直なところです(笑)。ですが今は専任となり、とてもやりがいを感じています。それは、点検の自動化システムが実現できれば、火力発電所だけでなく、工場などさまざまな場所にも利用できる可能性があると思っているからです」
当時、本心では、上越火力発電所の業務に最後まで携わりたいと思っていたそう。今は数年後に完成するその場所に、ドローンを飛ばすことが目標だという
そう考えたのは、東北電力独自の部門編成によるところが大きい。東北電力は2018年4月から、電気を作る「発電」部門と、利用者の窓口となる「販売」部門が一つになった。
石田「この2部門が一緒になっていると、1つ、とても大きなメリットがあることに気が付きました。販売部門は、実際に電気を利用される方と会うことができます。統合をきっかけに、電気を利用される地元の事業者の方々と面会して、どんなニーズがあるのかをヒアリングする機会ができたんです」
電気を使う事業者の多くは、自家発電機を持っているくらい電気に詳しいプロが多い。一方で、そこに対面する販売部門は、ある程度の知識はあるものの技術者ではない。石田さんが気付いたのは、これまで汲み取れていなかった技術的なニーズがあったということだ。
石田「私たち発電部門の人間も電気のプロ。なので、お会いすると、かなりマニアックな話でとても盛り上がるんですよ。これまで事業者の方々に対面することがなかったので気付きませんでしたが、具体的な要望がたくさん出てきたんです。運転や保守点検、運用技術といった、弊社がこれまで培った高い技術力をうまく利用すれば、そういった要望にも応えられる。東北電力には、『東北の繁栄なくして当社の発展なし』という基本的な考え方があります。電力の技術を担う私たちが、直接電気を利用される方々とつながれば、地元をもっと盛り上げることができるのではないかと感じました」
「地元に貢献できるよう、5年後には汎用性の高いシステムの構築を目指しています」と石田さん
さまざまな場所で活用できるシステムを作り上げるまでには、さらに別のテクノロジーも組み込んでいかなければならない。石田さんは実証試験を進める以外にも、新しいテクノロジーが発表される展示会に足しげく通っている。
石田「工業製品などに限らず、全く違う業界の技術も見に行きます。例えば医療分野。センサーやカメラなどは高性能のものが多いので、うまく使えば発電所でも使えるのではないかと。同じ業界の技術だとだいたい想像がつきますし、多くは既に使っているものの改善版。それでは、発見はありません。新しいテクノロジーに対して常にアンテナを高くし、情報収集に努めていきたいと思っています」
好きな言葉は、「ひらめきは考え続ける者だけにやってくる」(レオナルド・ダ・ヴィンチ)。「目標の実現に向けて日々、考え続けたいと思います」
搭載する全ての技術が決まったわけではないが、「いつかは地元のメーカーだけでまとめられたら」と、郷土愛も強い石田さん。地元の事業者と会話した中では、自分が勤める東北電力に対する信頼と期待を強く感じたという。
石田「これまで60年以上にわたり、弊社の火力発電所は東北の発展のお役に立ててきたのではないかと思います。そして、私たちの持つ技術力は、別の形にすることで、今後も地元のお役に立つことができるはずです。そのためにも、ドローンの取り組みは必ず実現させたい。個人的には、今度は最上位の『社長表彰 社長賞』を目指します!」
今回は、発電所や電力関連施設をよりよくするためにさまざまな研究開発を手掛ける東広島市の研究所へ。地元に根付く匠の文化に触れられるスポットと一緒に、新しい“発見”ができる広島の楽しみ方を教えちゃいます!
電気を作り、届けるための技術を生み出す研究所~特許件数は業界でも日本一!~
広島市から、少し東。JR広島駅から電車で40分ほど移動すると東広島市にたどり着く。
兵庫の「灘」、京都の「伏見」と共に日本三大銘醸地と称される広島の「西条」がある地域で、毎年10月には「酒まつり」が開催され、2日間で20万人を超える来場者が訪れる。
JR西条駅から徒歩圏内に、7つの日本酒の蔵元が点在。土蔵などに用いられる盛り上がった格子状の継ぎ目が特徴の「なまこ壁」など古き良き街並みが広がる
そんな「酒の街」には、また別の顔もある。西条駅から南に進んだ市中央部には、「広島中央サイエンスパーク」と呼ばれる研究団地があり、国際協力機構(JICA)や産業技術総合研究所、酒類総合研究所といったさまざまな研究開発施設が集まっている。
今回訪れた中国電力の「エネルギア総合研究所」も、その中の一つだ。
敷地内に実験用の太陽光発電パネルなどが設置されているエネルギア総合研究所
エネルギア総合研究所は、主に電気を効率的に作り、届けるために、さまざまな技術を研究開発している施設。
研究所内には、「高電圧実験棟」や「機械材料実験棟」といった施設があり、館内を巡ることができる一般見学では、それらの実験棟の内部や、敷地内にある「太陽光発電パネル」などを見ることができる。
一般見学可能な「高電圧実験棟」にある、高さ9.4mの雷インパルス電圧発生装置
「高電圧実験棟」では、毎年8月の一般公開で、実際に雷を発生させる実験を見ることができる(※通常の一般見学では実施されません)
中国電力でこれまで研究開発され、特許取得した技術はなんと約4800件(2018年12月時点)。その数は、エネルギー業界の中では1位だそう。その技術の多くは、ここエネルギア総合研究所から生まれている。
例えば、「焼酎かすからバイオガスを取り出す技術」や、屋根や壁面を植物で覆い、室温上昇を防いで省エネにつなげる「緑化システム」、火力発電所の海水取込み口に付着し発電効率の低下を招く貝を、目に見えないくらい小さい赤ちゃんの段階で検出する「幼生検出キット」といった発明の数々は、普通に生活する私たちが目にすることはなかなかない。
研究成果の一部はパネルや模型が展示されており、一般見学も可能(写真上:緑化システムのイメージ模型、写真下:貝幼生の検出キット(白いスティック状のもの))
そして、電気を作り、届ける現場を裏から支える重要な役割を果たす発明も多いという。中でも、近年で一番注力したのが「停電対策」の技術だ。
台風などの災害によって発生する停電の時間を少しでも短くするための研究が行われている。
その一つが、全国に先駆けて開発された「配電用可搬型故障点標定システム」と呼ばれる技術で、高圧配電線に故障が生じた場合、その位置をいち早く発見できるというもの。
「配電用可搬型故障点標定システム」は、あらかじめ配電線にセンサーを設置し、故障発生時はセンサーからの情報をもとに故障地点を特定する
これまでは、設備の不良や樹木の接触で配電線に故障が発生したら、数キロにわたって実際に目で見ながら故障地点を探していた。このシステムを使えば誤差100メートル以内で位置を特定できるという。
他にも、近年話題の再生可能エネルギー関連の研究も、以前から行われている。
敷地内に20年以上も前から設置されている太陽光発電パネルの実験設備。紺色の部分は「セル」と呼ばれ、太陽光エネルギーを吸収する部分。最近のパネルは四角に近い形に切り取るが、こちらは丸に近い形のまま並べているので水玉模様に見える
エネルギア総合研究所が開発した電気自動車用の急速充電器も展示されている
まるで人の顔のような急速充電器の充電プラグ
使い終わった電気自動車のバッテリーを蓄電池として再利用し、バーチャルパワープラントの実証試験も行われる予定だ。これは、太陽光などの再生可能エネルギーと電気自動車、蓄電池を束ねて一つの発電所のように機能させる技術で、資源のリサイクルや再生可能エネルギーの利用拡大につながることが期待されている。
このように研究に取り組む一方で、エネルギア総合研究所では、環境エネルギー教育やキャリア教育の支援のための学習プログラムで、数多くの近隣の学生を受け入れており、地域に根差した研究所と言える。
小学生などの見学の場合は、手回し発電機を使った発電体験も
普段の生活ではなかなか目にすることがない、“お客さまに電気を安全に届けるまで”を支える技術。エネルギア総合研究所に行けば、電気を使う時、その陰に多くの研究の積み重ねがあることを発見できるはずだ。
見学室直売所が移転オープン! 酒の街を代表する「賀茂鶴酒造」
1873年創業の「賀茂鶴酒造」といえば、日本三大銘醸地・西条を代表する蔵元の一つ。代表銘柄である「大吟醸 特製ゴールド賀茂鶴」は、あの米国・オバマ元大統領も味わったという逸品だ。
2019年10月に、創業当時から受け継がれる匠の技術を広く伝えるため、見学室直売所を移転リニューアルオープンした。
JR西条駅から歩いて4分ほどにある賀茂鶴酒造。西条は、2018年公開の川栄李奈さん主演映画「恋のしずく」の撮影場所としても知られる
見学室直売所があるのは、創業当時に建設された酒蔵・一号蔵。有形文化財に登録された明治初期の建物はそのままに内装を一新し、酒造りの文化と歴史を体感しながら、買い物まで楽しめる。
販売コーナーでは、ここでしか買えない「特別本醸造 蔵出し原酒」(720ml/1600円)の無料試飲もできる
一番人気の「大吟醸 特製ゴールド賀茂鶴」(720ml/2750円)。小さいサイズの丸瓶と角瓶(各180ml/600円)はお土産に持ち帰りやすい
中には、酒造りの工程を学べる展示コーナーや、ここでしか買えない限定酒も購入できるうえ、バーカウンターではプレミアムな酒を手頃な価格で飲むことができる。
実際に使われていた、酒造り用のさまざまな木製の道具が展示されている
米を蒸すために使われる日本最大級の「甑(こしき)」。古いものと思いきや、展示品と同じものが、今も現役で使われている
数ある酒のラインアップの中でも、とりわけ女性から好まれるのが梅酒だ。
厳選された紀州の南高梅から抽出した旨味が味わえる「純米酒仕込 梅酒」(720ml/1650円)は、全国梅酒品評会で3回の金賞を獲得しており、お土産として人気が高い。さらに、ここに来れば、無料試飲までできるというからうれしい限り。
バーカウンターでは、「大吟醸 特製ゴールド賀茂鶴」(30ml/100円)や「大吟醸 天凛」(30ml/500円)といったプレミアムな日本酒が、蔵元ならではの手頃な価格で試飲できる
広島の人気ベーカリーANDERSENとコラボレーションした「日本酒ケーキ」(1782円)も販売。純米酒のシロップを使っている
ちなみに、賀茂鶴酒造の加盟する西条酒造協会とエネルギア総合研究所は、ともに「西条・山と水の環境機構」に加盟しており、「山づくり、水づくり、美しいふるさとづくり運動」に取り組んでいるという。会社という枠を超えて、西条の環境の保全・育成に取り組む活動を展開しているのだ。
西条にある他の蔵元も、それぞれ一般見学や無料試飲などを行っている。酒の街に訪れたなら、新しい“好き”を発見できる酒蔵巡りを楽しんでみてほしい。
広島に来たら1本は買いたい匠の技! 熊野町発の化粧筆
東広島市からは少し離れてしまうが、車で30分ほどの距離の熊野町にあるのが、町で作られた筆とその文化を紹介するミュージアム「筆の里工房」だ。
東広島市から車で30分ほどにある「筆の里工房」
熊野町で江戸時代末期から作り始められたとされる「熊野筆」は、180年もの歴史がある伝統的工芸品。熊野町内には100社を超える筆メーカーがあり、現在、国内の生産量は全国一と言われている。
館内地下フロアに降りると出迎えてくれる世界一とされる大筆。長さは3.7メートル、重さは約400キログラム
筆の里工房の館内には、さまざまな熊野筆や書家の作品などが展示されており、熊野町で実際に筆を作っている伝統工芸士の“技”も見学することができる。
「筆司の家」というブースで筆作りを見学させてくれた熊野筆伝統工芸士の赤翼剛(雅号:洞水)さん
「選毛」や「練り混ぜ」といった毛筆を作るための12の工程を目の前で見学できる
書筆や画筆とさまざまな種類がある中で、近年、女性から特に支持を得ているのが熊野町発の「化粧筆」。肌触りや毛質の良さなどが好評で、プレゼントとしての好感度は抜群だ。
“筆の里”の玄関口である筆の里工房は、そんな熊野町の化粧筆も豊富にそろえている。展示品を見る以外に、必ず立ち寄ってほしいのが熊野町のメーカーが手掛けた筆を購入できる「熊野筆セレクトショップ本店」。ここでは、書筆から画筆、化粧筆まで、なんと約1500種類もの筆の中から、試筆しながら購入することができるのだ。
熊野筆セレクトショップがあるのは、全国で本店とJR広島駅前(2020年3月に同駅北口のホテルグランヴィア広島内に移転予定)、東京・銀座の3カ所のみ
セレクトショップが扱う化粧筆は、7メーカーのアイテム。リップブラシ(2000円~)など買い求めやすいものも
熊野筆セレクトショップオリジナルブランドの化粧筆「SSシリーズ」(1680円~)。パウダーブラシからシャドウブラシまで約20種がラインアップ
書筆の中には、ダチョウやクジャクの羽製、竹やカシワといった植物製など珍しいものもあり、書や絵画に興味はなくても、眺めるだけで楽しめる。
自分磨きのための1本や、新しい趣味のための1本との出合いがきっとあるはず。
筆の里工房にある「Cafe 照(カフェテラス)」で、熊野町の風景を眺めながらひと息
古くから日本酒や筆といった職人たちが支え、今は新たなテクノロジーを研究する技術者たちが集まる東広島市と熊野町。今も昔も、“何か”を生み出すこのエリアで、新しい発見を探す旅に出てみてはいかが?
※表示価格は全て税込(10%)です
■スポットDATA
エネルギア総合研究所
住所:広島県東広島市鏡山3-9-1
電話:082-493-5513(見学専用電話)
時間:9:00~12:00、13:00~17:00
休み:土曜、日曜、祝日、5/1、年末年始
料金:入館無料
※見学希望日の2週間前までに電話またはメールで要予約
http://www.energia.co.jp/eneso/tech/kengaku/index.html
賀茂鶴酒造 見学室直売所
住所:広島県東広島市西条本町9-7
電話:0120-422-212
時間:9:00~16:30(最終入館16:00)
休み:年末年始、お盆、酒まつり時期※臨時休館あり
料金:入館無料
https://www.kamotsuru.jp/tour/
筆の里工房
住所:広島県安芸郡熊野町中溝5-17-1
電話:082-855-3010
時間:10:00~17:00(最終入館16:30)
休み:月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始
料金:大人600円※展示内容によって変更あり
http://fude.or.jp/jp/
世の中は電気を利用することで生み出された“便利”であふれている。スマホやヘアアイロンなど、昔からしたら魔法のようなアイテムを誰もが持つような社会になった。しかし、そんな時代に逆行するように、あえて“無駄”なものを生み出しているのが、コンテンツクリエイターで発明家の藤原麻里菜さんだ。「目覚ましを止めてくれるマシーン」「イヤホンを絡ませるマシーン」など、「無駄づくり」と冠した作品は200以上。必要のない、むしろあっても困るだけとも思える「無駄」を作り始めた理由や電気との付き合い方について聞いた。
無駄づくりとは、人間の、そして自分の無駄の肯定
2013年にYouTubeチャンネル「無駄づくり」を開始し、翌年には「歩くたびにおっぱいが大きくなるマシーン」という作品がSNSで話題になった藤原麻里菜さん。その後もユニークな作品を生み出し続け、多くのメディアから注目。その勢いは日本に留まらず、海外で展示会を開くなど人気を博している。
「『無駄づくり』を始めたきっかけは、YouTube上で何か面白いことができないかなと思ったからです。もともとものづくりは好きだったので、便利なものはたくさん作っている人がいるから、私くらいは“無駄なもの”を作ってもいいだろうと」(以下コメント、全て藤原さん)
自身は合理的な気質で、「本当は、世の中にあるほとんどのものを無駄だと思っている」と話す。しかし、「無駄=必要ない」と思いがちだが、そうとも限らない。
「エンターテインメントは、厳密に考えれば無駄なものだと思うんです。でも、見る人が楽しいならあった方がいいし、アートとかクリエイティブなものも同じように、作っている人が楽しいならあった方がいい。そういう無駄なものを肯定するという意味でやっています」
感情や欲求など理性的でない部分に人間の面白さがあると語る藤原さん
とはいえ、藤原さん自身は「本当に無駄なものなのか?」ということをあまり重要視していない。
「後から意味付けして価値を付けることって簡単にできて、むしろ無駄なものを無駄なまま愛する方が、かなり難しいんですよ。その辺に転がっている石に感情を向けることはできないけど、『あの人がきれいって言った石』とか、『置物にちょうどいい石』とか 別の価値を与えると興味や感情が湧いてきますよね」
実は「無駄を肯定する」というコンセプトがはっきりしたのは、ここ最近のこと。概念がない状態でも彼女が作品を作り続けられたのは、縛りを設けず、自由に発想してきたからだ。
「『無駄とは何か』を突き詰めると哲学的になってしまうので、考えすぎないようにしています。無駄の定義を考えることこそ無駄かなって。言葉のインパクトが強いからか、明らかにいらないものでも、必ず『これは無駄じゃない』と言ってくる人も出てきますし。だから『無駄を作るぞ!』という気持ちでやっているわけではありません。自分の中の感情とか欲求とか、そういう単純で全く合理性のないところに目を向けて作ることが多いです。他人のことはわからないので、自分のことしか見ていません」
ロボットアームを使った作品「札束で頬をなでられるマシーン」。なでられると、なんとも言えない優しさを感じる
これさえあれば誰でも作れる!? 無駄づくり、命のパーツ
YouTubeに初めて投稿してからおよそ6年がたち、2018年には台湾で個展を開催。全くのアウェーながらも、2万5000人以上が集まるほど、藤原さんの「無駄づくり」は規模が大きくなってきた。それでも比較的、彼女は冷静だ。
「正直、他にやることがなくて毎年やめようと思いながら続けていたら、だんだんと大きなことになってきて。それで、また続けようかなって。誰にも求められなくなったら、今度こそやめるかもしれないですけど……。いや、やめなさそうだな」
無駄づくりに没頭するための作業用デスク。作業室内には、普段使う電子工作用の部品がたくさんそろえられている
そうは言いながら、さまざまな仕事で忙しく過ごす現在でも、最低月に2つは作品を制作する。それどころか、「アイデアはいくらでも出てくるので、時間さえあれば週に1つペースで発表したい」と、やる気は満々のようだ。すぐにやめるつもりだったのに、なぜ今も意欲的に続けられているのか。
「思いついたものをパッと形にして、反応をもらって、次はこれを作ろうって考えることが楽しいんですよ。これまで、何かにハマったことはほとんどなかったので、単純にめちゃくちゃ無駄作りが性に合っているんだと思います」
藤原さんが近年発表した作品の多くは、電子工作で作った電動マシーンだ。
初期のアナログな工作から電子工作へと踏み出したのは、無駄づくりを始めてから2年ほどたったころ、「Arduino(アルドゥイーノ)」という安価に電子工作ができるデバイスに出会ってからだ。これを工作に組み込むと、LEDライトを点灯させたり、モーターを動かせたりと、さまざまな電子工作を作ることができる。
「知識があまりなかったので、最初は何をどうすればいいのか全くわからなかったんです。でもネットで調べたら、すぐ使えるようになりました。一からプログラミングをやらなくてもいいので、作っていくうちにセンサーの組み合わせ方や、どのボタンを押したら何が動くのかといったことを学んで、自分の好きなように動かせるマシーンが作れるようになりました」
藤原さんの電子工作の要となるArduino。小さな基板にCPUやメモリ、モジュールなどが詰まっている
藤原さんが作品のために獲得してきた技術は全て独学。“電子工作”と聞くと専門知識が必要にも思えるが、このArduinoの使い方さえマスターすれば、藤原さんが手掛けたほとんどの作品が作れるようになるそう。
「もちろん、センサーが読み込めないとか、この重さだとモーターが動かないとか、物理的なトラブルはいくらでも発生します。でも、電子工作を趣味でやっている人やエンジニアの人って技術をシェアする文化があるので、自分のトラブル対処法をブログなどに書いてくれているんですよ。だから、何かを作るときには必ず参考にしています。壁にぶつかったら調べて、まねして、解決して、知識を増やしていく。私の作品作りは、その繰り返しですね」
スマートフォンをはめて撮影すると、写真に“指を入り込ませられる”作品「インスタ映え台無しマシーン」
電気はエンタメ、電気そのものを楽しんでみたい
電子工作との出会いは、作品だけでなく彼女の興味も広げた。藤原さんは2019年9月、テクノロジーとお笑いを融合させた「テクノコント」に参加。お笑いコンビのラブレターズや技術開発ユニットのAR三兄弟らが参加するその舞台で、新たな方向を見つけたのだ。
「テクノロジーとお笑いってまだ可能性があるというか、わざわざ『テクノコント』って言わなくてもさらに濃密に融合できるのでは、と思いました。テクノロジーを駆使して作ったものを、芸人がうまく利用すると、そのものがさらに面白くなる。私の作品ももっと活性化させたいですね。もっともっとお笑いとして成立させたいです」
テクノロジーとエンターテインメント。最近、それがうまく使われている場所を意外なところで見つけたという。
「熱海にある『秘宝館』がすごいんですよ。とてもレトロでマニアックですが、よく見ると、いろいろなところで電子工作が使われていたんです。椅子に座るとセンサーが反応して、マジックミラーに女性が現れるとか。こういう技術の使い方、いいなあって思います」
秘宝館は「夢を現実にした素晴らしい場所」だと語る藤原さん
創作意欲をかき立てる電子工作との出会いより以前、神奈川に住んでいた2011年当時に、藤原さんは東日本大震災で停電を経験した。「当たり前にあったものがなくなる恐怖を感じました」と当時を振り返る。現在は、生活面はもちろんのこと、仕事においてもたくさんの電気を使うため、別の不安を抱えているそうだ。
「展示会など、外で作品を動かさなくてはならないときは、電源が届くかとか足りるかどうかとか、いつも不安で。かばんに延長コードをたくさん入れて持っていくこともあるので、電気のことは常に意識します。それに、よく考えれば、作品を作るときはパソコンがないと作れないし、動かすときにはモーターの一つも動かせない。発表するにも動画は撮れなくなるので、電気がなくなると、きっと私の仕事自体が成立しなくなりますね」
作品を作る、動かす、発表するに至るまで、藤原さんの根幹を支えている電気。こうして創作活動ができるのも、彼女の元に電気が安定的に届いているからこそと言えるかもしれない。一方で、クリエイターとして電気を見つめたとき、その着眼点は一味違う。
「電気はエンターテインメントに欠かせないものだと思っています。その昔、江戸時代の話ですが、静電気をためておける『ライデン瓶』という装置を使って、大人数で手をつないで電気ショックを受けるという“遊び”のような実験もあったらしいんです。みんなで手をつないで電気を体感するなんて、楽しそうだから私もやってみたいですね」
電子工作について検索を始めると、表情を輝かせる藤原さん。気になったことをいろいろと調べるのが好きなようだ
もし「電気」自体をテーマとした「無駄づくり」を手掛けるなら、人の感情の動きを“電気”そのもので目に見えるようにしてみたいという。
「装着している人の心拍数が上がったら、外に向けて放電するようなマシーンを作ってみたいですね。“怒り”という心のエネルギーを電気エネルギーで見える形にして表現する。周りの人がちょっとビリビリして、着けている人の感情がわかるなんて、面白そうですよね」
藤原麻里菜
ふじわら・まりな/1993年生まれ。コンテンツクリエイター、発明家、文筆家、映像作家。「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。デイリーポータルZなど、各媒体で連載中。著書に「無駄なことを続けるために」(ヨシモトブックス)がある。
HP:無駄づくり
Twitter: @togenkyoo
【今月の密着人】中国電力株式会社 販売事業本部 販売総括グループ 土`田美佳(つちだみか)さん(25歳)
中国電力本社の販売事業本部で働く土`田美佳さん(※正しくは、土の右上に点)。一方、彼女は卓球選手としての顔も持ち、中国電力女子卓球部の主将を務めている。その活躍は目覚ましく、2019年9月に行われた第53回全日本社会人卓球選手権大会では、女子ダブルスで見事優勝を果たした。まさに二足のわらじをはく、エネルギッシュな彼女の仕事ぶりに迫る。
同僚をサポート! 誰かの役に立つことはうれしい
今回密着したのは、中国電力に入社して8年目となる土`田美佳さん。入社後しばらくは広島営業所で電気料金の請求関係の業務などに従事し、2年半前に現在勤める本社へ異動。電力の販売などを行う販売事業本部に所属している。
土`田さんは業務に関する規程やマニュアル類、および社内ホームページや教育用コンテンツの更新整備を担っている。状況の変化に応じて適宜内容の充実を図り、速やかに社内関係箇所へ周知するのだ。
土`田さん「初めて教育用コンテンツの作成業務を任されたときは、不慣れな中で四苦八苦しながらも一生懸命に対応したところ、終わったら『助かったよ、ありがとう』と、お礼を言ってもらったんです。そのときはとても充実感を得ましたし、誰かの役に立てる大切な仕事なのだと感じました。このことが今のモチベーションになっています」
職場ではデスクワークが中心。販売事業本部の社員が円滑に業務を遂行するための、重要な役割を果たしている
また、販売事業本部が行う社員研修のサポートも重要な業務。新入社員研修をはじめ、リーダー候補となる女性社員を対象とした女性活躍推進研修、副長や課長を対象とした管理職研修、専門知識・スキルの習得を図る業務研修など、さまざまな研修が随時行われている。
土`田さん「私は研修事務局として、教材の準備や当日の司会などの運営を行っています。特に印象的だったのが、販売事業本部社員を対象とした災害時対応の研修。災害時は部門を問わず、誰もがお客さま対応の応援に回らなければならないので、その際に使用するシステムの使い方などを習得する必要があります。2年前からスタートした研修なのですが、その後西日本に大きな被害をもたらした2018年7月豪雨災害の際には、多くの社員が応援でお客さま対応を行い、研修で学んだことを活かすことができました。私は研修の運営をサポートしたのですが、間接的にでも地域のお役に立てて良かったと感じました」
「もっと理解を深め、できることをどんどん増やして、同僚から頼られる存在になりたい」と仕事に意欲をもって取り組んでいる
チーム一丸に! 目指すは日本卓球リーグ年間チャンピオン
冒頭でも紹介した通り、土`田さんは中国電力でもう一つ重要な役割を持っている。女子卓球部の主将としてチームを勝利に導くことだ。
1991年に創部した中国電力女子卓球部。日本卓球リーグ1部に所属し、「2018年度 後期日本卓球リーグ」では悲願の初優勝を果たすとともに、その後の「内閣総理大臣杯 日本卓球リーグプレーオフ JTTLファイナル4」では創部以来初となる年間総合優勝を達成。
2019年は、10月に開催された「2019年全日本卓球選手権大会(団体の部)」で3年ぶり3回目の優勝、10~11月に開催された「2019年度 後期日本卓球リーグ」で全勝優勝を果たすなど、いま躍進する強豪チームである。
中国電力の練習場には創部から今までの歩みがまとめられた年表が。日本卓球リーグ1部優勝やオリンピック選手の輩出など、女子卓球部28年の歴史と華々しい成績が刻まれている
土`田さんは和歌山県出身。父方の祖父母と両親、姉も含めて皆が卓球をしているという卓球一家に生まれ、彼女も当然のように3歳から卓球を始めた。
当初は卓球選手を目指していたわけではなかったそうだが、小学校4年生で初めて全国大会優勝を飾ったことを機に、卓球熱が本格化。中学校から卓球の強豪校である高知県・明徳義塾へ進学し、高校卒業後は中国電力に入社した。
土`田さん「先に姉が入社していたことや、中国電力に入社した高校の先輩がいたことから、ここなら安心して仕事と卓球を両立できると考えて志望しました。会社の業務に携わりながら日本トップレベルの環境で卓球ができる。さらに引退後も社員として働けるというのは、卓球選手として他にはない贅沢な環境だと思います」
小学校4年生のときに火がついて以来、卓球一筋。選手としての最適な環境を考えた結果、中国電力への就職を選んだ
普段は、平日の8時50分から15時までは会社の業務に従事し、その後、一度帰宅してから練習場へと移動。16時から19時まで卓球の練習に励んでいる。そして土曜日は9時から17時まで、一日中練習に明け暮れているという。
土`田さん「ありがたいことに、本当に理解ある職場で常に卓球との兼ね合いを考えて、私の業務量を調整してもらっています。大会の10日前からは強化合宿に入って一日中練習に打ち込ませてもらえますし、試合直後は私のコンディションを見つつ、少しずつ仕事を任せてくれています」
年間では、全日本選手権や、日本卓球リーグなどの8回の大きな大会のほか、その前後にある大会にも出場している。それだけの試合に参戦しながらも、土`田さんを含む女子卓球部部員6名は、その全員が仕事との両立を実現している。
この日の練習は、1対1で70分の打ち込み、20分休憩した後、1対2で70分の打ち込み、とかなりハードに続く
目下、チーム最大の目標は、今年も日本卓球リーグで年間チャンピオンになること。日々とてつもないプレッシャーを背負いながら戦っていることは想像に難くないが、その一方で「楽しむ」ことを大切にしているのだとか。
土`田さん「緊張やプレッシャーは常にあります。でも、『楽しむ』ということも大事だとチーム内で話しています。しんどいときこそ笑顔。私個人のモットーも楽しくプレーすることです」
緊張感に包まれた厳しい練習の合間にも、積極的に声を掛け合い、時には笑顔がこぼれるシーンも
そのせいか、周囲に中国電力女子卓球部のイメージを聞くと、「明るい」「ポジティブ」「仲が良い」といった声が多く寄せられる。
もちろん、チームとして試合に勝つために、対戦相手の試合を分析し、対策を立て、戦術を練ることを怠ることはない。しかしその上で、土`田主将を筆頭に醸し出されるポジティブなエネルギーも、勝利への重要な鍵となっているのだろう。
休憩中や練習後の談笑からチームの雰囲気の良さがうかがえる。つい先日は、全員で四国へ旅行に行ったそう
社員が、地域の人々が、仲間として応援してくれるから頑張れる
仕事と卓球の両立は、決してたやすいことではない。しかしその分、喜びも大きいという。
土`田さん「全国大会でベスト4以上の成績をおさめると、社長と役員に報告に行かせてもらいます。やはり会社のトップの方々に直接労ってもらえるのは、会社員としての大きな喜びですね。タイミングが合わず、なかなか会えなかったときには、『報告に来てくれるのを楽しみに待っていたのに…』と仰ってくださり、うれしいやら申し訳ないやらで(苦笑)」
また、仕事で直接関わり合いのない他の社員から声を掛けられることも珍しくないそうだ。
土`田さん「試合後すぐに『おめでとう』と連絡をくださる方もいますし、翌日の新聞で結果を見て『良かったね』と言ってくださる方も多いです。日常で最も身近な存在である職場の方々が、すぐそばで応援してくださることは大きな励みになりますし、『皆さんに喜んでもらいたい!』という思いは、何よりのエネルギーになっています」
中国電力女子卓球部部員は一人の社員として業務にも深く関わる。普段から職場でも頑張る彼女たちが試合に臨むとなれば、周囲も同じ会社の仲間として熱い声援を送れるというもの。実によい関係が築かれているのだ。
地域に根差す電力会社の社員として、卓球を通じた地域貢献活動にもチームを挙げて取り組んでいる
また、中国電力女子卓球部は、地域貢献にも力を注いでいる。仕事と大会の合間を縫って年に7回ほど開催している卓球教室だ。その際には、選手6名に加え、卓球部OGも協力して、中国地方5県のさまざまな場所を訪ねているという。
土`田さん「小学生から大人まで、初心者も経験者も関係なく参加いただいています。地域の方々に喜んでいただくことが最大の目的ですが、卓球教室で出会った子どもたちが私たちの試合を見に来てくれることもありますし、時には中国地方の大会で対戦することもあります。地域とのつながりができるきっかけになっていますね」
社員はもちろん、地域の人々にも身近な存在として愛され、応援されることが、中国電力女子卓球部のパワーの源となっていることは間違いない。
休日は野球観戦でリフレッシュ。広島への転居を機に、一気にカープ女子へと変貌したのだとか。田中広輔選手の大ファンで、土`田さんが日本リーグの試合で着用する背番号も同じ「2」
これからも、「卓球はやれるまでやりきりたい」と土`田さんは言う。
土`田さん「支えていただいている皆さんには本当に感謝しています。だから今は、卓球で結果を出すことが何よりの恩返しだと思って、まだまだ頑張りたいですね。そして、引退後は一会社員として再スタートしたいです。そこからは、今以上に仕事をしっかりと行うことで、会社に恩返しをしていきたいと考えています」
【今月の密着人】東京電力ホールディングス株式会社 リニューアブルパワー・カンパニー 計画・技術グループ 小島匠(こじまたくみ)さん(27歳)
太陽光や風力、地熱といった自然の力を利用する「再生可能エネルギー」は、電力を生み出す資源の一つとして少しずつ身近になってきている。今、世界中の電力会社が最も注力している事業の一つでもあり、そこに携わる部署にかかる期待も大きい。風力発電所の運転・保守に関わる東京電力ホールディングス(以下、東京電力HD)の小島匠さんは、目を輝かせて「この仕事に携われるのは光栄」と語る。どういった志を胸に、日本の未来を担う仕事と向き合っているのだろうか。
宇宙航空工学からエネルギー分野に転身
関東を中心に、暮らしに不可欠な電気やエネルギーの供給を担う東京電力。2016年4月には3つの事業部門が分社化されてホールディングカンパニー制へと移行。その中で、リニューアブルパワー・カンパニーという組織に所属している小島匠さんが今回の主役だ。
入社4年目となる彼が担うのは、社会的にも注目を集める「再生可能エネルギー」(以下、再エネ)事業。中でも、これから本格的な飛躍が期待される洋上風力発電所の運転にも携わっている。
柔和で親しみやすい小島さん。趣味はスノーボードや野球観戦とアクティブな顔も持つ
発電所の運転といっても、発電自体を管理する業務だけではなく、さらにその裏方。実務を担当する協力企業との契約や施設のトラブル対応、保守、修繕、建設に至るまで、風力発電所に関わるあらゆる業務が担当だ。
小島さん「現場から資材が足りないと言われれば発注したり、問題が発生すれば対応したり、部品の修理が必要になったらメーカーに依頼したり、業務の内容はかなり幅広いですね」
そんな小島さんが電力会社で働くことを決めたのは大学時代のこと。当時大学1年生の2011年3月11日に起きた東日本大震災がきっかけだった。
小島さん「あの日は山梨の実家にいたので、直接大きな影響があったわけではありません。ですが、1カ月後に大学がある仙台に戻ったとき、街の変化を目の当たりにしてショックを受けました。その後、当時住んでいた寮で、ガスと水道はなかなか復旧しなかったのに、いち早く電気は復旧したんです。そういう体験の中で、生活に不可欠な電気の凄さにあらためて気がつきました」
この時に感じたのは電気のありがたみ。航空宇宙工学を専攻していたものの、興味は燃料電池や太陽光発電といった新エネルギーの分野へと移っていった。
小島さん「エネルギー創出の研究を進める中で、『電気を生み出すことで、地域や社会に貢献できるような仕事に就きたい』と思い、今の会社を希望しました」
想像以上に大変!?海の上の風力発電所で働くということ
現在の部署に所属したのは2018年7月と、まだ1年前のこと。それ以前は栃木県北部にある鬼怒川(きぬがわ)事業所にいた。当時は水力発電所の点検作業などをする“現場の仕事”だったが、今は風力発電所の“管理監督の仕事”が中心。
小島さん「仕事の内容はガラリと変わりましたね。以前は実際に手を動かすことが多く、それはそれで大変でしたが、今は別のことで苦労しています。設計上どういうものが必要で、何を発注するのか仕様を決めたり、予算の調整をしたりといった作業が中心。こういった仕事を経験したことがなかったということもあって、一つずつ勉強しながら進めています」
東京電力HD初のウインドファームである「東伊豆風力発電所」。静岡県の東伊豆町と河津町の間に位置する三筋山(みすじやま)の尾根沿いにあり、2015年8月に営業運転を開始した
小島さんの仕事の核となる風力発電は、文字通り“風の力”を利用して風車を回し、発電機を駆動させる発電方法。エネルギー源は無尽蔵とも言える上、発電時に二酸化炭素などを排出しない、とてもクリーンな“電源”だ。
小島さん「私が担当しているのは、山の尾根上にある『東伊豆風力発電所』と海上にある『銚子沖洋上風力発電所』という2つの風力発電所です。発電の仕組みは陸上と海上で変わりませんが、環境の違いによって大きな差があります。それは安定性。山は地形の影響で風が乱れることが多く、風車が止まってしまうこともあるんです。一方、海上の風はほぼ一定しているので、安定して電力を生み出せるというメリットがあります」
東伊豆風力発電所の風車は、中心の高さが60m、風車の直径は74m。地表近くのドアから中に入ることができる
その反面、定期的に行われる点検では、その環境が仇となることも。
小島さん「点検では風力発電施設や付帯設備、周囲の環境に異常がないかなどを実際に見て回るのですが、“海上にある”というのが厄介で…。実際に行かなければならないので、天気や波の状況次第では船が出せなくなり、そもそもたどり着けないこともしばしば。それに、点検のために風車の上にも登るのですが、海の風というのはけっこう強くて…初めて登ったときは、安全帯はしっかり付けていましたが高さと風で想像以上に怖かったです」
風力発電所は、風を受け止める「ブレード」(羽根)と、発電機などを格納する「ナセル」、それを支える「タワー」という大きく3つのパーツからできている。
ナセルの上部には風速を検出してブレードの角度を自動調整する「風速計」や、風向きを読み取って常に風上にナセルを回転させる「風向計」などが備え付けられており、定期的なパトロールではそれらを目視で確認して回る。小島さんが登った“上”とは、60m程の高さにあるナセルの上部のことを指しているのだ。
高さ60m以上になるナセルの上部に登り、点検。東伊豆は2カ月に1度、銚子沖は3カ月に1度ほどの割合で定期的にパトロールしている
小島さん「風力発電所は、見た目からとても優雅なイメージがありますが、実際に運転に携わってみると、管理するのはなかなか大変なんです。修理のためにパーツの取り換えなども多いですし、細かいトラブルもあります。自然を相手にするのは簡単じゃありませんね」
木の枝などが電線に触れることは法律で禁止されているため、山の斜面に張り巡らされた電線の状況を確認するのも重要なポイント
実務を通じて得た知識を次のステップに
小島さんが携わる銚子沖の風力発電設備は、実は2019年1月1日に商用運転を開始したばかりの発電所だ。東京電力HDとして初めてとなる洋上風力発電所で、同社は同時期に世界の洋上風力発電業界を牽引する、デンマークのアーステッド社と提携するなど、国内外の洋上風力事業を発展させるためにスタートを切っている。つまり、銚子沖が日本の再エネ発展を担う重要な拠点の一つになるかもしれないということだ。
小島さん「こういった仕事に関われているのは、とても光栄なことだと感じています。この先も再エネ、特に風力発電の開発に携わっていきたいので、海上と陸上という2つの風力発電所で学ぶことはとても多いですね」
沖合約3キロ地点にある「銚子沖洋上風力発電所」。最大出力(発電容量)は2400キロワット(kW)。海面からブレード先端までの長さは126mにもなる
東京電力HDの洋上風力発電所は今のところ銚子沖の1基のみだが、複数基からなる大規模な“ウインドファーム”を実現させるための検証も進められているそう。さらに今後は、洋上風力発電事業を海外でも展開させ、世界で“稼げる”新しいビジネスモデルを生み出していくという。
小島さん「安定して電気を生み出すことはもちろんですが、それ以上に私たちは今、福島への責任を果たすため、どのように発電して、どう利益を生み出すかということを重要視しています。風力をはじめとした再エネは、日本の貴重な純国産エネルギーですし、発電時に二酸化炭素を出さないという付加価値もあります。それを、これからの日本のエネルギー供給源として成り立つように育てていくことに尽力したいと思います」
銚子沖洋上風力発電所へのアクセス方法は船のみ。荒天で海が荒れると、「関係者のスケジュールをすべて調整し直さなければならないのが大変」だとか
島国である日本にとって、周囲の海を活用した洋上風力発電のポテンシャルは高い。世界的な課題となっている温暖化への対策にもなると考えれば、小島さんが陰で支える洋上風力発電所のこれからや、東京電力HDが目指す将来像を、もっと知りたくなってくるのでは。
「今後は再エネの先進国である欧州諸国の方々とも関わっていきたいと考えているので、まず語学力を身に付けたいと思っています。今は本当に全然ですから、これから頑張ります」
「生まれ育った地元に電気を届けたい」と、今日も海と山にそびえる風力発電所の運転に尽力する小島さん。次の時代を支えるエネルギーの一端は、彼の働きから生まれている
全国各地にある発電所、その数はなんと4000カ所以上。一口に発電所といっても、実は一つ一つ違った個性があるんです。今回は、いま注目を集めている沖縄県東部で見つけた南国情緒あふれる火力発電所へ。地元をよく知る沖縄電力の社員さんがオススメするグルメや観光スポットと共に、東海岸の楽しみ方を教えちゃいます!
360度の絶景!沖縄の世界遺産最古のグスク
沖縄本島中部の東海岸沿いに位置し、金武湾(きんわん)を囲むように延びる勝連半島や8つの島が連なる、沖縄県うるま市。
那覇空港から車で90分というその場所は、「うる=サンゴ」、「ま=島」という方言から「サンゴの島」を意味するなんともロマンティックな町だ。
牛同士を戦わせる「闘牛(ウシオーラセー)」が盛んな地域としても知られるが、近年、美しいビーチや静かな時間を過ごせる環境が観光客に好まれ、ひそかに人気が高まってきている。
そんなうるま市をめぐる旅で、最初に訪れたいのは、2000年に世界文化遺産登録された「琉球王国のグスク及び関連遺産群」の一つ、「勝連城跡(かつれんじょうあと)」。
グスクとは城のこと。勝連城跡は世界文化遺産に登録された5つのグスクの中で最も古いとされ、逸話も数多く残されている
12~13世紀ごろに築城されたといわれ、琉球王国が安定していく15世紀には、国王に最期まで抵抗した阿麻和利(あまわり)という沖縄の英雄が居城としていたことで、地元では広く知られている。
「勝連城跡があるのは、標高98メートルほどの丘陵の上。頂上まで登れば、北に金武湾と離島群、南に知念半島や久高島などが一望できます!」(沖縄電力社員)
頂上から見える金武湾と離島群。うるま市街も一望でき、町を訪れたら最初に見渡したい景色だ
城跡のふもとにある休憩所までは車で入れるが、そこからは徒歩で登らなければならない。15~20分ほどで頂上まで到達できるものの、城跡だけに石階段などはかなりの急斜面。想像以上に険しい道なので、歩きやすい靴を用意しておこう。
途中までは舗装した道路や階段が整備されているが、頂上に近づくと急斜面の石階段に。芝生で朝ヨガをやっていることもあるそう
城跡は、一から四の曲輪(くるわ)と呼ばれる層に分かれている。頂上までの道すがら、縁結びの井戸「ミートゥガー(夫婦ガー)」や、ウミチムン(火の神)といった神様が祀られている御嶽(うたき)が点在。
頂上となる一の曲輪には大きな岩をご神体とする「玉ノミウヂ御嶽」もあるので、神聖な空気を感じられるはず。
四の曲輪にある「ミートゥガー(夫婦ガー)」の前で恋が成就すると、永遠の契りになるという。ただ、失恋してしまうと、男女のいずれかに不幸が起きるという言い伝えもあるとか
「帰る前には、ふもとの休憩所にも立ち寄ってみてください。中にはお土産店がありますし、座敷席もあるので、ひと息つけますよ」(沖縄電力社員)
お土産店「うるま~る」では、「食べるもずくスープ」(175円)や「うないのもずく佃煮」(500円)といった地産品のほか、県内で有名なファストフードレストラン・A&Wの「ルートビア」(130円)も買える
美しいビーチを望む沖縄随一の火力発電所
次に訪れたいのは、沖縄・東海岸で隠れ家ビーチとも呼ばれる宇堅(うけん)ビーチのすぐ横にたたずむ「具志川(ぐしかわ)火力発電所」だ。
高くそびえた煙突がランドマークの具志川火力発電所。海上に伸びるのは、全長780メートルの石炭を運ぶためのベルトコンベア
発電所の隣にある宇堅ビーチ。近年、観光客の間で人気が高まっている
具志川火力発電所が運転を開始したのは1994年と、およそ25年前。発電所前に広がる金武湾沿岸には、具志川、石川、金武という3つの火力発電所が集まっており、まさに沖縄のエネルギーを支えてきたエリアだ。
そんな具志川発電所では、施設内を一周できる見学ツアーが実施されている。蒸気タービンを回して電気を生む「発電機」や運転を管理する「中央制御室」、燃料となる石炭を保管する「貯炭場」などを約90分でめぐることができるのだ。
まず、ツアー序盤に驚かされるのが「発電機」。高さ約25メートル、奥行き約77メートルの広い部屋に2台の大型機器が並べられ、きっとその広さと大きさと轟音に圧倒されるはず。
発電機1機の定格出力は15万6000キロワット(kW)。1、2号機合計で31万2000キロワットの出力があり、沖縄本島の発電の中核を担っている
「ちなみに、発電機の中に入っている電子機器は、砂漠のような熱い地域で使われているものと同じスペックなんです。外から見ても全く分かりませんが、暑さ対策が組み込まれているというのも、沖縄ならではですね」(沖縄電力社員)
見学ブースから見ることができる中央制御室では、燃焼しているボイラ内をモニター監視するほか、2つの発電機の発電量を常時制御している
見学コースの途中で横を通る微粉炭機。大きな石炭を砕いて粉状にする機械だ
発電機のフロアを出ると、次はバスで所内を一周する。全長170メートルを誇る集合煙突や風力発電用の風車、石炭船が横付けするベルトコンベアといった発電所ならでは風景を車内から眺めていると、不意に目に入るのが熱帯植物。景色を緑と南国色で和らげてくれている。
貯炭場前ほか亜熱帯植物の「アダン」は、敷地内各所で見られる。施設本館の屋根が瓦になっているなど、発電所なのに何だかほんわかとした雰囲気
右奥に見えるのは「木質バイオマス供給設備」。具志川火力発電所では、廃材などから作る木質バイオマスを燃料の一部に使っており、二酸化炭素の排出量削減に貢献しているという
そして見学終盤に登場する「貯炭場」。大きな2棟の建物からなり、扉の向こうに広がるのは衝撃の“黒”。その正体は、積みに積まれた石炭の山だ。目の前に広がる迫力のある光景は、ぜひ実際に見て確かめてほしい。
貯炭場の中には、石炭が大量に保管されている。その受入量は、なんと年間約70万トン。石炭は屋根から搬入され、地下から搬出。粉状に粉砕されて、風でボイラまで運ばれる
石炭はだいたい拳くらいの大きさで輸入されるそうで、1個の重さは600グラムほど。1つの棟の中に最大で6万トン収容できるため、この中におよそ1億個もの石炭が貯蔵できることになる。
屋内に石炭を貯蔵する発電所は、全国的にも多くない。これも夏の日差しが強く、台風が多いといった沖縄ならではの気候条件に合わせた工夫なのだ。
素人目には分からないが、貯炭場には2種類の石炭がある。真っ黒なのがオーストラリア産(写真)、少し茶色いのがインドネシア産だそう
また、施設内には県内唯一の電気科学館も併設している。
「2020年3月に展示物を全面リニューアルする予定です。それに先駆けて『4Dシアター』をオープンしたので、360度大画面の立体映像を体感してください!」(沖縄電力社員)
4Dシアターは映像に合わせて地面が揺れ、風が吹く! 沖縄の伝統文化や海、宇宙をテーマにした立体映像が楽しめる
「夜になると、ベルトコンベアの先に停泊している石炭船に明かりがともります。宇堅ビーチなどから見ると、まるでライトアップされているようで、とてもきれいですよ」(沖縄電力社員)
ビーチの横にある発電所というのも沖縄ならでは。ここでしかできない体験を楽しんでほしい。
まるで海上レストラン!マリンレジャーまで楽しめる海の駅
最後に訪れたいのは、海の上。うるま市南端の勝連半島と平安座島(へんざじま)などの離島を結ぶ海中道路上にある「海の駅 あやはし館」だ。
船に見立てた建物の裏には、白い雲、青い空、広い海…沖縄で絶対に見たい景色が大パノラマで待っている
全長4.7キロある海中道路はドライブコースとして人気スポットだが、その途中で車を止めると、まるで“海上レストラン”ともいえるロケーションが広がっている。
お土産ショップなどがある館内でオススメしたいのが、2018年11月にオープンした「沖縄そば処 すぬい」。「すぬい」とは沖縄の方言で「もずく」のことで、地元産のもずくを使ったさまざまな沖縄料理が味わえる。
沖縄名物を全部食べたい人は「すぬいづくし」を。もずくが練り込まれた麺が入る沖縄そばに、ジューシー(炊き込みご飯)、天ぷらなどが付いて1000円は破格!
外はサクっと、中はモチモチな名物・もずくの天ぷらは、1個100円で販売している。体にも財布にも優しいローカルファストフードだ
実は、日本で流通しているほとんどのもずくは沖縄産。そのうちの9割ほどがうるま市で作られているそうで、毎年4月の第3日曜を「もずくの日」としているほど、地元で愛される食材だ。
「もずくの天ぷらは絶品です!浜比嘉島や金武湾を望むオーシャンビューで食べられるなんて、他ではなかなか体験できません!」(沖縄電力社員)
あやはし館の裏には、海に面したテーブル席が。ここでランチを食べれば、料理と共に景色までおいしく味わえるはず
お土産ショップでは、かりゆしウェアやうるま市出身アーティスト「HY」の限定Tシャツのほか、地元を中心に沖縄県各地のお土産品がズラリ。
津堅島(つけんじま)の「津堅ニンジン」や、伊計島(いけいじま)の「黄金芋」など、うるま市離島の特産品なども多く、歩き回ればきっと面白い発見があるはず。
外に出ればピザバーやスイーツ店と、バラエティに富んだコンテナショップも並ぶ。海をバックにオシャレな写真を撮るには最適だ。
夏本番を迎えるころには、野外イベントなども計画中。ドライブで島々をめぐるのも楽しいけれど、道の途中で車から降りて、レジャーを満喫するのもいいかも。
コンテナショップの並びには、バーベキューやマリンレジャーなど、夏にやりたいアクティビティ体験ショップも
グルメやレジャー、自然に学びまで。その全てがそろったうるま市。国際通りや美ら海水族館といった有名どころだけでなく、東海岸エリアにも目を向けると、南国・沖縄の新しい魅力を発見できる。これから迎える夏に向けて、旅の計画を立ててみては。
※表示価格は全て税込です
■スポットDATA
勝連城跡
住所:沖縄県うるま市勝連南風原3908
電話:098-978-7373
時間:9:00~18:00
料金:入場無料
https://www.katsuren-jo.jp/
具志川火力発電所
住所:沖縄県うるま市宇堅657
電話:070-5819-2532(-2533)
時間:9:00~12:00、13:00~17:00(見学時間)
料金:見学無料(予約制)
https://www.okiden.co.jp/livelihood/pr/gushikawa/
海の駅 あやはし館
住所:沖縄県うるま市与那城屋平4
電話:098-978-7900
時間:9:00~17:00
料金:入館無料
https://ayahashikan.co.jp/
普段の生活の中で「言われてみれば…たしかに何で?」と感じる疑問を、その道のプロに解決してもらおう!今回は、日々何かとお世話になっている電気が、世の中でどうしてこんなにも使われているのか。その疑問を、前回に続き、早稲田大学の近藤圭一郎教授に聞きました。日常の疑問に、答えて先生!
“貯電”はできない!お金に例える電気の考え方
電気は、そのままの形でためることはできないものの、さまざまなエネルギーに形を変えやすく、その形でならためることができる。第1回、第2回で教えてもらった電気の特性を考えると、確かに広く使われているのは何となく理解できます。では、いろいろな形に変えられる電気を、一番効率的に使うにはどうしたらいいのでしょうか。
近藤「電気は熱、光、化学、運動といったさまざまなエネルギーに変えやすいのですが、変換する際には必ずコスト(ロス)がかかります。例えば海外旅行に行くとき、日本円を外国の通貨に両替すると、必ず手数料がかかりますよね。エネルギーも同じで、変換すると、必ず無駄なコストがかかるんです」
モータを使って、電気エネルギーを運動(機械)エネルギーに変えるとき、変換効率はおよそ90%とされています。これは、電気エネルギー100%のうち、90%は狙い通りの運動エネルギーになりますが、10%は熱エネルギーといった狙ったものとは違う不要な形に変換されてしまうということです。
近藤「もし、日本円だけが、入手した翌日には無価値になってしまう世界があったとしましょう。そうなればきっと、その日中に使ってしまうか、どうしてもためておきたいときは一番手数料が少ない外貨に変えるのではないでしょうか。電気もそれと同じなんです。毎日つくって、毎日使う。ためる必要がある場合だけ必要最小限だけためる。これが一番効率的なんです」
電気を悩ませる使用量の山と谷
そうなると、「使う分だけつくり続ければいい」と思うのではないでしょうか。答えは、その通り。ですが、実行するのはかなり難しいことのようです。
近藤「電気をつくるとき、多くても、少なくても問題が発生します(→詳しくはこちら)。それに、1日中同じくらい使われるならつくりやすいでしょうが、実際は必ず使用量に山と谷が発生するんです。そのため、一番使われる瞬間でも足りるよう、山となるピーク時に合わせて発電設備などを用意しておかなければなりません。電気が使われない時間帯には無駄なように思えますが、それらがないとピーク時に停電してしまうんです」
出典:一般社団法人 原子力文化財団 エネ百科「【1-2-10】 最大電力発生日における1日の電気の使われ方の推移」より作成
自分の生活を考えても分かるように、電気は深夜から朝にかけてあまり使われず、昼から夕方にかけて使用量が増えていきます。ですが、1日の消費電力を平均すると、ピーク時の使用量よりもずっと少なくなるんです。それなら、余った電気をどこか別の国や地域に送れないのでしょうか。
近藤「確かに他の国に売ったり、融通したりすれば、無駄は少なくなりますね。しかも電気は、地球上で一番速いとされる光と同じスピード。送るのも一瞬です。でも、電気をそのままの形で送るには、日本とその国の間を電線でつなげなければなりません」
世界的に見れば、欧州諸国では電線のネットワークがありますが、島国である日本は、海外の国々と電線がつながっていません。
近藤「余った電気は、ためられないし、送れないとなれば、使う量を予測・計画してつくり、すぐ使うしかないですよね」
電気が時代に選ばれた最大の強み
人類の歴史の中で、古くは、ガスの燃焼で明かりをともすガス灯や、石炭を燃焼させて走る汽車などが徐々に登場してきました。これらも、燃焼により発生するエネルギーを使って生活を便利にしてくれていましたが、時代が進むにつれ、その多くが電気をエネルギーとしたものに代わっています。
近藤「歴史的に考えれば、現代社会と一番相性が良かったということでしょう。電気は、別の形に変えやすく、送りやすい。運動エネルギーに変えて利用する洗濯機や、熱交換によって冷却できる冷蔵庫といった生活家電も、まさに電気があってこその代物です。時代の変化によって生まれてきたこれらの生活必需品が発達していく過程で、エネルギーとして一番扱いやすかったんです。だから電気は広く使われるようになったんでしょうね」
さまざまなエネルギーに変換することができ、扱いやすい電気。でも、よく考えれば電気自体が何かをしてくれるわけではありません。それ自体に価値はないのにいろいろなものに換えられる、そんなところもお金と似ているとも言えるかもしれません。
とはいえ、ためられないので、使う分だけつくり続けなくてはいけないところは、電気の方が手間がかかりますね。
近藤「そういう意味では、とても扱いが難しいところがあるエネルギーかもしれませんね。でも、それらを大きく上回るほどの価値がある。それが電気なんです」
取材協力・監修
近藤圭一郎
1968年、東京都出身。早稲田大学理工学術院教授。同大電動モビリティシステム研究室にて、電気鉄道や電気自動車を用いた電気エネルギーの有効利用技術を研究。編著書『鉄道車両技術入門』(オーム社)、監修書『ドラえもん化学ワールド 電気の不思議』(小学館)など。
【今月の密着人】沖縄電力株式会社 電力流通部 給電指令所 系統システムG 糸数奈里子(いとかずなりこ)さん(24歳)
毎日の暮らしになくてはならない電気。発電所から私たちの手もとまで無事に届くよう、陰では電気の通り道を管理・監視するシステムが常に動いている。沖縄電力に勤める糸数奈里子さんは、そのシステムを守るために日々奮闘する若手社員。知識や経験がほとんどなかった入社当初から、数々の仕事を経験したことで生まれた自信とやりがい。電気がいつも通り届くとき、その裏側には彼女の働きがある。その仕事とは、どのようなものなのだろうか。
日々勉強!生活に欠かせない電力の仕事で地元・沖縄に貢献したい
今回密着したのは、沖縄電力で入社3年目となる糸数奈里子さん。発電所から電気がスムーズにいきわたるよう管理する電力流通部に所属し、給電指令所という電力流通における“脳”ともいえる場所で働いている。
2017年4月に新卒社員として入社して以降、同部署に勤務する彼女。にこやかな表情とやわらかい言葉遣いが人柄をうかがわせる。
社内では普段、作業着を着用。仕事の話を聞くと、いっそう真面目で勤勉な姿勢が伝わってくる
観光地として有名な、那覇市内の国際通り近くで育った。両親共に理系ということにも影響されてか、大学では電気工学を専攻する。
糸数さん「理系の教科が得意だったこともあり、現代の生活に欠かせない電力業界で働けたらかっこいいかも、と思ったのが高校生のころです。もともと、将来は地元の沖縄で働きたいという思いが強かったので、その前に少しぐらいは県外に住んでみようと思い、静岡の大学に進学しました」
4年間を県外で過ごしたことで、地元への愛情は一層強まったという。大学での学びを活かしながら地元に貢献できる方法を考えた結果、高校時代に描いた将来像そのままに、沖縄電力を志望し、入社した。
糸数さん「大学時代に専攻していたのは、電気の中でも、送電線や高電圧などの技術に関わる内容でしたが配属は系統システムG(グループ)という部署です。ここは発電所から変電所、変電所から町中まで電気が送られていく過程を管理・監視するシステムをつくる部署なのですが、正直、システムのことは全く分からない状態で…。配属が決まったときに初めて、サーバーの本を読んだくらい未知でした」
全く知らない領域に飛び込むのは、きっと大きな不安もあったことだろう。それを拭い去るため、実践していることはあるのだろうか。
糸数さん「毎日の勉強ですね。まだ入社3年目なので当然かもしれませんが…。仕事中には、上司や先輩からいただく助言を必ずメモに取ります。業務中に全てを覚えることはできないので、メモに残しては空いている時間に整理して、インプットしています」
大仕事を終えたときに得られた安堵と達成感
糸数さんが勤める系統システムGは、発電所、送電線、変電所など「電力系統」と呼ばれる設備群を統括する自動給電システムのメンテナンスを担っている。私たちの手もとまで電気が届くためになくてはならない電力系統。全ての設備が正常に動き、安定的に電気が届けられるよう、常時、管理・監視している。
糸数さん「使う電気の量は、季節によってはもちろん、一日の中でも大きく変化するので、24時間365日、常に監視して、使う量と同じ量を発電しています。自動給電システムというのは、こうした使う電気の量の変化を常に監視し、変化に合わせて各発電所での発電量を調整するためのシステムです。系統システムGでは、システムの保守点検や現場設備の変更に合わせて、データメンテナンスとシステム改良を行っています」
普段の業務は、デスクワークがメイン。デスク近くの廊下から見える景色がリフレッシュポイント
実際の電力系統の設備を一部変更した場合、それに合わせて必ずシステムも改修しなければならない。糸数さんが所属する系統システムGが、その都度対応しているのだ。
糸数さん「例えば、ある送電線の容量が、10万キロワット(kW)から20万キロワットに変わるとします。その場合、その送電線を監視するシステムも、10万キロワットから20万キロワットに設定を変更するんです。そのままにしておくと、システム上では容量より大きい電流が流れていると認識され、常に異常があるという状態になってしまうんですよ」
給電指令所にあるシミュレータ室で、システムの改修箇所が正しく稼働するのか試験を繰り返す
普段はデスクワークが多く、勤務する給電指令所の事務所から出ることはあまりないそう。その中でも、強く印象に残る仕事があるという。
糸数さん「およそ1週間。システムをチェックするために、シミュレータ室にこもったことがあります。設備の一部で複雑な工事があり、それに伴ってシステムのメンテナンスをしたのですが、普段はあまり実施されないような接続の工事で、システム側の改修も大がかりに。一体どうすればうまくいくのか本当に悩んでしまって…何度も何度も試験を繰り返しました」
現場にある設備との整合を取りながら、他のシステムとの連携も考慮し、さらに実際にこのシステムを扱う運用者が操作しやすい形を考えなければならなかったという。サーバーの勉強から始めた新入社員には、かなりハードルの高い仕事だったのだろう。
糸数さん「自動給電システムだけでなく、連係する他のシステムの仕様も理解しなければならなくて、かなり苦戦しましたね。ですが、難しかったぶん、同時に多くのことを学べたと思います。試験を全て終えて、設備が運転を開始したときは、安堵と共に大きな達成感を味わいました」
試験を終えて運用担当部署に引き渡したときは、「あとはお願いします!」と、達成感でいっぱいになったそう
自動給電システムのメンテナンスが主な仕事だが、時には設備監視用のカメラやセンサを保守点検するために、変電所を訪れることも。
糸数さん「変電所などでは、設備に異常がないか監視するシステムが常時動いているのですが、それを管理するのも私たちの仕事の一つです。反応があったときは、実際に現場を訪れて確認しています。カメラが海水による塩害でサビたり台風の影響で水が入ったり、トラブルの原因は沖縄ならではのものも多いんですよ」
実際に現場を訪れて、監視システムの状態をチェックする
変電所の状態を監視するカメラも実際に見て、不具合がないかを調べる
自動給電システムのことなら任せてほしいと言えるように
まだまだ勉強中という彼女だが、これからの目標があるという。
糸数さん「学生時代に専攻していた送電線や高電圧。それらに関わる部署には、いつか携われればと思っています。でも、今は系統システムGの仕事にやりがいを感じているので、もうしばらくは今の部署でいろいろなことを学んでいきたいですね」
先輩から割り振ってもらうさまざまな仕事から、多くの経験を積ませてもらっているという糸数さん
学生時代から理系一直線で進んできた。一方、プライベートでは古の時代に思いを馳せる。
糸数さん「休みの日は友達と遊ぶことが多いですが、一人で史跡めぐりにも行きます。歴史自体というよりは、その空気を感じるのが好きなんですよ。最近(2019年2月1日~)、首里城公園で『御内原(おうちばら)』という本殿の奥のエリアが新しく公開されたので、さっそく行きました。県内で一番好きな場所は、神の島と呼ばれ、琉球王国時代から島の人々によって神事が行われる『久高島(くだかじま)』です。訪れると、神聖な気分になりますね」
首里城の城壁前にある礼拝所 「首里森御嶽(すいむいうたき)」の前で
仕事の中でさまざまな経験を積み、多くを学んできた。力不足を感じることももちろんあるが、何にでも挑戦することを心掛けているという糸数さん。
糸数さん「『自動給電システムのことなら何でも聞いて!』と言えるようになりたいです。これまでの経験を活かして、今後も日々成長していきたいと思います」
普段の生活の中で「言われてみれば…たしかに何で?」と感じる疑問を、その道のプロに解決してもらおう!今回は、毎日みなさんが使っているスマートフォンの命とも言える「電池」の疑問を、第1回に続き、早稲田大学の近藤圭一郎教授に聞きました。日常の疑問に、答えて先生!
電池の中に電気は入っていない!?
スマートフォンやノートパソコン、デジタルカメラに電動歯ブラシなど、いろいろなところで使う電池。最近の機種では取り外せなくなりましたが、今手に持っているスマートフォンの中にも入っています。使っていると、あの中に「電気」が入っていると思いがちですが、厳密にはそうではないのです。
近藤「前回もお話ししましたが、電気は、潜在的に何かの仕事ができるポテンシャルを持った状態、言い換えると『エネルギー』です。電気エネルギーは、他の熱エネルギーや運動エネルギーなどさまざまなエネルギーに変換して、使いやすいという特徴があるのですが、同時に、ためておくことができないという特徴があります(第1回参照)。では、何で電池につなぐと電気が使えるのかというと、電気エネルギーを一度、化学的なエネルギーに変換して蓄えているからです」
例えば、多くのスマートフォンに使われているリチウムイオン電池。充電して繰り返し使える「蓄電池」の一つですが、この中ではどのようなことが起こっているのでしょうか。
近藤「リチウムイオン電池の中には、『電解液』という液体が入っています。これにプラス極とマイナス極を入れて、プラス極に電流を流し込みます。このとき、プラス極にあるリチウムという物質がイオンの形になってマイナス極に移動します。すると、マイナス極にリチウムイオンが蓄えられる。これこそ電池が『充電』された状態です。電流として流した電気のエネルギーは、プラス極でリチウムをイオンにすることに費やされるので、ここで電気エネルギーが化学エネルギーに変わるのです。この状態で、プラス極から電流を外に取り出すのが『放電』です。このときは前述した充電とは逆のメカニズムで、マイナス極からプラス極にリチウムイオンが移動し、化学エネルギーが電気エネルギーとして外部に取り出されます」
充電すればイオンの状態から元に戻れるのが蓄電池で、一度電気を放出してしまったら再び元には戻れないのが乾電池。電池としての基本的な造りは同じであり、中に入っている物質の種類が違うため、性質が変わってくるのだそうです。電池は、電気エネルギーを中に入れることで化学エネルギー(リチウムイオン電池ならばリチウムイオン等の形)としてため、逆の作用で電気エネルギーを放出できる。つまり、エネルギーの形を変換して蓄えられるものなんです。
ちなみに、冒頭マンガの「液漏れ」。いろいろな原因がありますが、電池内部に異常発生したガスを安全に抜くための動作として、電池の構造として備わっているものです。
超巨大電池を作ったらどうなる?
勝手なイメージですが、1人暮らしくらいであれば、1日の生活で、最低限使う電気は照明とテレビ、スマホ、冷蔵庫くらい。大きな電池を作れば1人が消費する量1日分くらいなら、まかなえそうな気がしませんか?
近藤「普通の電池と同じように、大きな電池にためれば、おぎなうことはできます。実際に、100万円以上するものの、家庭用の大型蓄電池というものが販売されています。蓄電容量がフル充電でだいたい7000ワット(W)を1時間、350ワットなら20時間使い続けられるというようなものです。でも、冷蔵庫は1時間で200~300ワットくらい使われ続けることもあります。そうすると、100万円の電池を買ってきても冷蔵庫が1日ほどしか使えないとなると、現実的ではないですよね。しかも、何らかの方法で毎日充電しなければならない。そう考えると、持ち運ぶ・電源が無い場所で使うといった別の価値がない限り、電気を日常的に電池にためながら使うことは、あまり得策ではないのかもしれません」
電気はやっぱり、ためられない!
電池は、本当に便利です。ですが、電気の特性を理解すると、電池はあらゆる場面で使えるほど万能ではないようです。
近藤「前提として、電池に電気をためるには化学的なエネルギーに変える必要があります。だから電気をためて使うのは、あまり得策ではないと言いました。ですが、今私たちが持っているスマートフォンは、電池にエネルギーをためて使わざるを得ない事例です。出た当初は、電池が全然もちませんでしたが、今では待ち受けだけであれば2~3日は充電しなくても大丈夫ですよね。当時は連続通話時間なんかも重要な訴求ポイントでしたが、今はもうほとんどの機種が十分な性能を備えているため、誰も気にしていないと思います。これは、ひとえに電池の性能が上がったおかげです」
スマートフォンは、電池によって“電気を携帯”できます。電気エネルギーを別の形にしてためることで、全く新しい価値が生まれるのであればためてもいい。これは私たち、電気を使う側の要望とためる側の技術次第ということだそうです。
近藤「スマートフォンやPCなどをコンセントにつないで充電していると、きっと『電気がたまっている』と考えてしまうでしょう。ですが、絶対に『電気はためられない』んです。わざわざ一度、別の形に変換してためて、使う際に再度電気にしている。つまり、スマートフォンは電気エネルギーではなく、化学エネルギーを持ち運んでいるということですね」
次回は【 電気が便利な理由 】のお話です。
取材協力・監修
近藤圭一郎
1968年、東京都出身。早稲田大学理工学術院教授。同大電動モビリティシステム研究室にて、電気鉄道や電気自動車を用いた電気エネルギーの有効利用技術を研究。編著書『鉄道車両技術入門』(オーム社)、監修書『ドラえもん化学ワールド 電気の不思議』(小学館)など。
>>宮島さんがダムカレーの誕生を語る!インタビュー1本目はこちら
純国産エネルギーである水力発電に欠かせないダム。その壮大な景観に惹かれて各地のダムを訪れる「ダム愛好家」たちを中心に、今盛り上がっているのが「ダムカレー」だ。カレーのルーで水を表現し、ライスでダムを造ることで器の中にダム湖を造り出す。ある種盆栽のような、景色を皿の中に表現したカレーだ。テレビや雑誌などのメディアでも取り上げられ、ブームは現在も加速し続けている。いまや日本中に162種類のご当地ダムカレーがあるというから驚きだ。
ダムカレーの生みの親であり名づけ親となったのが、「ダムマニア」という自作ホームページを運営するダム愛好家の宮島咲さん。東京・本所吾妻橋で「ジャパニーズレストラン 三州家」「割烹 三州家」の2店を営んでいる店主でもある。その誕生の経緯は、前回の記事にあるのでぜひ読んでもらいたい。
今回は、宮島さん自身が三州家で提供する4種類のダムカレーの「施工」(調理)についてお話をうかがった。店で出しているのは、「アースダムカレー」「重力式ダムカレー」「アーチ式ダムカレー」「ライスフィルカレー」の4種。それぞれ実際のダムと同じ構造を器の中で造り出している。ゆえに宮島さんは、「これはカレーではなくてダムです」と言い切るのだ。
「アースダムカレー」とは
「アースダムというのは、土を盛って水をせき止めたダムのことを言います。それを表現したのが『アースダムカレー』です。土が15m盛られて水をせき止める構造になっていれば、すべてダムと呼べるんですよ。田舎によくあるため池でも、せき止める土の高さがたまたま15m以上ある場合はダムなんですね。ちなみに、国内のダムの50%はアースダムです。一番原始的な構造なので、大昔からあるんですよ。日本では西暦616年に造られたダムが現存しています(※)。古事記や日本書紀にも記載があるんです。ちなみに、水力発電に使われるこの型式のダムで代表的なものは、山梨県にある大野ダムです」
※大阪府大阪狭山市にある狭山池ダムは616年建造で日本最古のダムと言われる
ライスを積み重ねて造るアースダムカレー650円。正式な名前は「アースフィルダムカレー」。堤の下のほうに実際のダムと同じ「犬走り(斜面に設けられた狭い平場)」もある
「重力式ダムカレー」とは
「コンクリートが誕生することで生まれたのが、重力式ダムです。ダムカレーで言えば、ご飯の重みでカレーの圧力を支えてせき止めるという構造です。単純に言えば、ご飯で蓋をしてカレーの流れを止めているような状態。水力発電用のダムでは、静岡県と愛知県にまたがってある佐久間ダムがこの型式です。日本で重力式ダムが造られるようになったのは1900年頃のことなんですが、当時はコンクリートの値段がとても高額だったので、あまりたくさんの数が造れなかったんです。重力式ダムカレーのライスの量をみていただければわかると思いますが、コンクリートの重さで支える構造なので、水の圧力と闘うためにはかなりのコンクリートの量が必要なんですよ」
大量のライスを使って施工する「重力式ダムカレー」865円。横から見ると三角形の形になっているのが特徴だ
そこで生まれたのが、次の「アーチ式ダムカレー」の基となるアーチ式ダムだという。
「アーチ式ダムカレー」とは
「アーチ式ダムカレーは見ての通り、少ないお米の量でルーを堰き止められるんです。堤体をアーチの形にすることで水圧を両岸や底に分散させて、水を支える構造なんですね。ピンポン玉を半分に切ってドームのように置くと、かなりの力で押しても潰れないのと同じ原理です。水力発電で使われるダムの中でこの型式で有名なのは、富山県にある黒部ダムです。アーチ式ダムカレーを注文する方の中には、アーチの部分を極限まで薄くして、どこまでルーをせき止められるかを試しながら食べる方もいらっしゃいます(笑)」
「アーチ式ダムカレー」760円。湾曲したご飯のダムが大量のルー=水を支える。福神漬で減勢工(げんせいこう)を表現
「ライスフィルカレー」とは
最後は、「ライスフィルカレー」。こちらのダムは、ロックフィルダムの構造をカレーライスで表現しているとか。「ロックフィルダムというのは、一般的には水をせき止めるコアの部分が粘土になっていて、その上下流面を岩で覆っている構造のダムのことです。粘土は水を通しにくい材質ですが、それだけだと崩れてしまうので硬い岩石で覆うことで水圧に耐えうるダムになるんです。ダム=コンクリートというイメージを持つ人が多いので、岩のダムは珍しいと思うかもしれませんがそんなことはないんですよ。日本のダムの約10%は、このロックフィルダムなんです。水力発電用のダムでは、長野県にある南相木(みなみあいき)ダムが知られています。ダムカレーの場合は、堤体が岩=ロックではなく、お米=ライスなので『ライスフィルカレー』という名前にしています」
「ライスフィルカレー」975円。コアとしてルーを堰き止めるご飯があり、そのまわりにロックに見立てたご飯を配置
カレーを食べることで、ダムの基本的な構造が学べるのがダムカレーの面白さ。ダムのことをよく知らない初心者でも、楽しみながらその魅力にふれることができる。
「僕は器の中に小さなダムを建てるつもりで、このダムカレーを造っています。作る時にも『調理』ではなく『施工』と言うんですよ。ただ、あまりにもライスの部分を固くしてしまうと食べられなくなってしまうので、おいしく食べられるギリギリの線で固めていますが(笑)。
ダムカレーを通して、ダムにもいろいろな型式があることを知ってもらい、各地のダムに足を運んでその魅力に触れてもらえたらいいなと思います。香川県にある豊稔池(ほうねんいけ)ダム、沖縄県にある金城ダム、新潟県にある黒又ダムなど、インスタ映えするような美しいダムもたくさんありますからね」
ダム愛好家・宮島咲さんは「ご当地ダムカレーで地域が活性化するのは嬉しいこと」と語る。みなかみ町などダムカレーをフックにした町おこしのために、監修を務めることも
Japanese Restaurant 三州家
住所:東京都墨田区本所4-17-3
電話:03-3624-7019
時間:11:30 〜14:30、 16:30 ~21:00
定休日:不定休
割烹 三州家
住所:東京都墨田区本所4-17-3
電話:03-3622-1230
時間:11:30 〜 22:00
定休日:不定休
「地球温暖化」と聞くと、難しい話に思える人も多いかもしれません。工場や自動車から排出されたガスがなんとかかんとか…。しかし、とっても身近も身近の、私たちや動物が生きている上で吐き出しているガスも、地球の温暖化に影響を与えていると聞いたらどうでしょうか。
ウシやヒツジ、ヤギ、そしてラクダなどは、一度食べた草などをもう一度口の中に戻して咀嚼、つまり反芻(はんすう)する、反芻動物と呼ばれています。反芻動物は、4個ある胃を使って、食べた植物の消化に時間をかけて何度も繰り返すのです。
このとき胃の中では植物が発酵し、大量のメタンガスが発生しているため、ウシたちは絶えずゲップをすることで、ガスを体外に放出しています。ですがやっかいなことに、ゲップに含まれるこのメタンガスは地球温暖化を加速させる温室効果ガスの一つ。しかも、二酸化炭素の25倍以上の温室効果を持っていると言われているのです。
人が活動することで増加した主な温室効果ガスには、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンガスがありますが、温室効果ガスの種類としては、二酸化炭素が76パーセントと圧倒的ですが、次いで多いのがメタンで、約16パーセント。メタンは二酸化炭素に次いで地球温暖化に及ぼす影響が大きな温室効果ガスなのです。
出典)温室効果ガスインベントリオフィス 全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(http://www.jccca.org/)より
しかも世界のメタンガス排出量全体の、なんと37パーセントが動物の体内で発生するガスに由来するとされているとか。
こうして数字で見てみると、ウシのゲップは地球環境に大きなインパクトを与えていますよね。そのため、近年、これを最小限にするためにさまざまな取り組みが行なわれているのです。
その一つが、飼料の改良。「3-ニトロオキシプロパノール(3NOP)」と呼ばれる成分を乳牛の飼料に加えることで、ゲップに含まれるメタンの量を30パーセントまで削減させることに成功したのです。
しかも、産乳量に変化が見られなかったばかりでなく、さらに、牛乳の産出に膨大な体力を使う乳牛には珍しい、体重が増加するという恩恵まで得られたという研究結果が報告されているそうです。ウシのゲップの改善が地球温暖化防止に一役買っているなんて、壮大な話ですよね。
参考・出典『人類なら知っておきたい 地球の雑学』
(雑学総研/KADOKAWA)
眠れないほど面白い理系ウンチク212!思わず誰かに話したくなる「理系のウンチク」を集めました。職場で家庭で、日々の「雑談」に役立つ、動植物・天体(太陽系)・人体・天気・元素・科学史など、「理系ジャンルネタ」が存分に楽しめる必読の一冊です!
【今月の密着人】 九州電力株式会社 ビジネスソリューション統括本部 地域共生本部 エネルギー広報グループ 川島優治(かわしまゆうじ)さん(29歳)
人々の身近にあり過ぎて、逆に強く意識されることが少ないエネルギー。そんなエネルギーに、少しでも関心を持ってもらえればという思いで仕事に励んでいるのが、電力会社の広報パーソンだ。九州電力に勤める川島優治さんは、興味を抱いてもらえる方法を日々模索する中で、「正解がないことが、また面白い」と話す。いったいどんな使命感を持って仕事と向き合っているのだろうか。
山に登って気付かされた電気の大切さ
九州地方7県などに電気を供給する九州電力株式会社。福岡県福岡市の中心部、天神からほど近くに構える本店に勤めているのが、今回お話をうかがったエネルギー広報グループの川島優治さんだ。
入社7年目。最初は五島列島の営業所で営業職を2年、次に長崎支社の用地部で施設用の土地や権利の取得に関わる業務に2年従事。そして現在、広報の仕事に携わって3年目を迎えている。
「会社の顔」である広報担当らしく、話しやすい雰囲気の川島さん。どんな質問にもハキハキと答える様子は、さわやかな印象だ
好物だという豚骨ラーメンの発祥の地としても有名な福岡県久留米市出身で、大学も福岡にある大学に進学した根っからの九州男児。学生時代は登山部に所属し、屋久島にある九州最高峰の宮之浦岳ほか、多くの山に登頂したそうだ。
川島さん「現在はエネルギーに関する情報発信が私の仕事ですが、入社前からエネルギーに関心があったかというと…実はそうでもなくて(苦笑)。おぼろげにですが、将来はインフラ関係の仕事に就きたいと思うくらいでした」
そんな川島さんが九州電力で働くことを志したのは、趣味の登山が深く関係している。
川島さん「何日も山で生活していると分かるんです。普段私たちの生活が、電気というエネルギーにどれだけ支えられ、便利で豊かになっているということが。山登りを通して、それを実感できたのはとても大きかったですね。さまざまな企業の入社試験を受けましたが、幼少期から大学までずっと九州で育ったので、地元に恩返ししたいという思いもあり、最終的に九州電力に入社しました」
山に登っていたことで気付かされたエネルギーの大切さ。学生時代には富士山にも登頂したそう
広報は正解がない!だからこそ生まれるやりがい
九州電力の広報の仕事は多岐にわたる。テレビ取材や新聞広告をはじめ、自社で発行する生活情報誌や九州各県にある発電所のパンフレットといった出版物、ときには講演会のシナリオ制作まで手掛けるという。
川島さん「簡単に言うと、『エネルギーのことを多くの人に知ってもらう』ことです。そのために、さまざまなメディアを活用しますが、中でも2018年度から力を入れ始めたのがインターネットによる情報発信。例えば、当社のホームページでも、再生可能エネルギー(以下、再エネ)に関する情報をコンテンツとして発信しました。今後は、SNSやウェブ動画などを使って、特に若い方々にも興味を持ってもらえるような方法を考えています」
福岡市中央区にある本店に勤務。自身が登山を通して実感したエネルギーの大切さを多くの人に感じてほしいと話す
インターネットを通して、幅広い年齢層に情報を発信していきたいと笑顔を見せる川島さん。その一方で、扱うテーマが、興味を持たれづらいものだということへの問題意識もあるようだ。
川島さん「私自身、大学生になるまでエネルギーに対して強い関心はありませんでした。だからこそ、若い世代の方々に興味を持ってもらうのはとても難しいことだと感じています。ただ、電力の安定供給を支える取り組みを少しでも知ってもらえれば、電気に対する考え方が変わったり、暮らしの豊かさを実感できたりすると思うんです。そのきっかけを作るのが私たちの使命。もちろん方法に正解などありません。これが広報の仕事の難しさであり、面白さでもあります」
1つのプロジェクトを完了させるまでにかかる期間は、およそ2~3カ月ほど。広報に配属されたことで“段取り力”が成長したと感じているそう
九州という地域を取り巻く環境も、エネルギーのことを伝える仕事にとっては重要だ。日照時間が長いため、九州では太陽光発電が広く普及している。加えて、国内の発電所のうち約4割が集まっているというほど地熱発電も盛んで、言うなれば「再エネ先進地域」なのだそう。
川島さん「実は九州の電力の約2割は、太陽光や風力、水力などの再エネで発電されています。これは全国的に見ても多い方。電力は需要と供給のバランスを保つことが大切なのですが、再エネは発電するときに二酸化炭素を出さない一方で、太陽や風など自然のエネルギーを使うので、発電量はお天気次第という面もあります。そのため、火力、原子力など、複数の発電方法をバランス良く組み合わせる必要があるのですが、2018年度は、それを多くの人に伝えるために尽力しました。さまざまな発電方法の特徴を踏まえ、分かりやすく伝えるのは難しいのですが、とてもやりがいはありましたね」
日本最大の地熱発電所である「八丁原(はっちょうばる)発電所」。年間の発電電力量は約8億7000万キロワット時で、およそ20万キロリットルの石油が節約できる
川島さんは、広報に異動してから最初の1年間は社内報や「八丁原発電所展示館」といった展示館の運営を担当していた
ときにはテレビ番組の収録に同行することも。ロケハン、各発電所の担当者との調整も川島さんの大切な仕事だ
分かりやすく伝えて、きっかけにしたい
川島さんの所属部署は、九州電力が発行する生活情報誌「みらいと」のコンテンツ制作も担っている。料理レシピやハンドクラフトなど、暮らしに役立つ情報を紹介する誌面の中で、新たにエネルギー関連コンテンツがスタートする。これを川島さんが担当することになった。
川島さん「まずは、エネルギーに興味を持っていただくことが第一歩。そういった理由から、現在制作中のコンテンツは、親子で楽しみながら電気やエネルギーについて興味を持っていただけるようなテーマにしたいと考えています。親子で読んで、『なるほど!』と発見があるようなページにできたら理想ですが、その点はこれから制作会社の方々と内容を検討していくところです。『エネルギーに興味を持っていただくきっかけ作り』というものが根底にあるので、その点を大事にしています」
広報部門で制作している九州各地の発電所用パンフレットや生活情報誌「みらいと」
制作会社から提案されたコンテンツ案をチェックする川島さん。読者となる親子の目線に立って、分かりやすさを追求しているという
興味を引くためには、意図がすぐに伝わることが重要となる。川島さんはユニバーサル コミュニケーション デザイン協会(UCDA)が認定する資格を取得するなど、誰にでも伝わる分かりやすさを強く意識しているそう。
川島さん「UCDAの資格は本店広報担当者のおよそ半分が取得していて、ここで学んだスキルをしっかり活用し、分かりやすい情報発信に取り組んでいます。広報職に就いてからは、新聞をしっかり読み込んで世の中の動向を把握するようになりましたし、テレビのCMもできる限りその意図を汲み取るようなクセがつきましたね。今後は仕事で使えるよう、デザイン関係のソフトの使い方なども勉強していきたいと考えています」
再エネ導入拡大の取り組みを伝えるために川島さんが2018年度に手掛けた新聞広告
広く“エネルギーの今”を理解してもらうには、きっと多くの課題が立ちはだかることだろう。その実現に向けて、努力し続ける川島さん。日々アンテナを張りながら、時代のニーズに合わせて柔軟に取り組む姿勢に、今後の活躍に期待が膨らむばかりだ。
生まれ育った九州に恩返しがしたいと日々の業務に励む川島さん。時折見せる真剣な眼差しがその想いを物語っている
普段の生活で「言われてみれば…たしかに何で?」と感じる疑問を、その道のプロに解決してもらおう! 今回は、スマホにモバイルPC、生活家電と何かとお世話になっている「電気のエネルギー」の疑問を、早稲田大学の近藤圭一郎教授に聞きました。日常の疑問に、答えて先生!
雷の光は電気じゃない!?
もはや手放せないスマートフォンに、生活するのになくてはならない家電製品、通勤で毎日使っている電車--。「電気」と聞けば、きっと身の回りにあるさまざまな道具などがたくさん思い浮かぶでしょう。
でも、これらを動かしている「電気」がどんなものかと問われたら、説明するのはなかなか難しいですよね。何となくイメージできるのは、「雷」ではないでしょうか。ですが、実はあのギザギザに見える稲光は、厳密には「電気」ではないんです。
近藤「落ちてくる雷を見れば、あれが電気だと思うかもしれませんが、まず電気は肉眼で見えません。雷とは、雲(積乱雲)の中に電気の種のようなものである『電荷(でんか)』がたまることで発生する自然現象です。雲に電荷が大量に蓄えられると、雲と地上の間に通り道ができて、電荷がビューっと落ちてきます。そのとき、酸素や窒素など周りの空気が通常とは異なる状態になり、光を見せていると言われています」
雷の光は、電気が流れることで周囲の空気が反応して、光って見えているだけ。つまり、あの光自体は電気が通った足跡のようなものなんです。
近藤「もちろん電気は流れていますが、電気が持つエネルギーが空気の状態を変えて、それが光や音といった違うエネルギーに変換され、私たちでも見聞きできる雷になっています。つまり、あの稲光は、『電気』自体が見えているわけではないんですよ」
「電気」って、具体的にはどういうもの?
それなら「電気って何だ?」と、きっと思うことでしょう。
近藤「私の捉え方で言うと、『目に見えないエネルギーの流れ』です。流れているものなので、動き続けていないとダメ。だから、ためることはできないし、せき止められるものでもありません」
電気がどんなものかを分かるためには、もっと身近なところに目を向ける必要があります。家電製品を買うときや電気料金を支払うときに目にする、「電流(A,アンペア)」「電圧(V,ボルト)」「電力(W,ワット)」。小・中学生時代に習ったなぁ、と記憶にあると思いますが、どんなものか覚えていますか?
近藤「『電流』は電気の流れる速さ、『電圧』は電気を押し出す力のようなもの、『電力』はある時間内にどれだけの仕事ができるかを表したものです。また、実際に使った電気の量は、『電力量』(Wh,ワットアワー)と呼ばれていて、それは電力を時間で積み重ねたもの。100Wの電気を1時間使ったら100Wh、2時間なら200Wh、これが使った電気の量です。電力量は、電気がした仕事の総量と考えてみてください」
電気は“目に見えない”からなかなかイメージしにくいですが、水に例えると分かりやすくなるそうです。
近藤「電流は水が流れる速さ、電圧は水圧、電力は水がある時間でどれだけの仕事ができるか、と考えるといいですね。『電流(A)×電圧(V)=電力(W)』という式がありますが、電気を“電力”、つまり利用できるエネルギーにするためには、電流があるだけではダメ。電圧がかかっていないと、“いい仕事”をしないんです。電圧がかかっていないところに電流を流しても、簡単に流れてしまう。頑張って流すからこそ、使えるエネルギーになるんです」
エネルギーとは、簡単に言うと「ポテンシャル」
ここまでに「エネルギー」という言葉がたくさん出てきました。普通に生活していると、「エネルギー=電気」と捉えがちですが、実は電気だけに限定されるものではありません。
近藤「例えば、一番分かりやすいのが、熱。お風呂の水を40℃に温めたとき、水の中には『熱エネルギー』がたまっていると言えます。あるいは運動。1トンの自動車が時速10キロ、50キロ、100キロで走った場合は、それぞれ『運動エネルギー』が異なると表現されます」
つまり、電気、熱、運動と、エネルギーは物質や物体の中にさまざまな形で存在しているんです。では、「エネルギー」は「力」みたいなものなのでしょうか。
近藤「エネルギーとは、『仕事をすることができる能力』であり、簡単に言うと『ポテンシャル』です。潜在的に“何かをしてくれる”ものなのですが、それだけでは“何もしない”。職場で『あいつポテンシャル高いんだけどなぁ…』なんて愚痴を耳にすることもあると思います。たとえエネルギーをたくさん持っていたとしても、実際に仕事をしてくれなきゃダメですよね」
例えば、水力発電所の中には、川の水をダムにためて別の水路に流し、その水の流れによって回転する水車で発電するものがあります。ダムから水を流せば水車は回りますが、水路を閉じて水をせき止めたら水車は回りません。
近藤「どちらの状況でもダムの水には『水車を回す』という仕事をすることができる能力(エネルギー)はあります。ですが、水路を閉じたときは何もせず、水が流れているときは仕事をする。つまり、後者は備わっているポテンシャルを発揮しているということなんです」
エネルギー=潜在能力。どのような形であれ全て同じとも思えますが、その形によっていろいろな問題も出てくるようです。
近藤「それぞれ長所と短所があります。一番、質が低いとされているのが『熱エネルギー』です。ほおっておくと熱が散らばって、なくなってしまいます。また、ガソリンが燃焼することで熱に変わるように、物質の変化によって取り出せる『化学エネルギー』は、ためておくことができるために割と質が高いとされています。その反面、熱や電気など他のエネルギーに変換することが少し大変なのがデメリットです。
その中で『電気エネルギー』は、ためておくことができないものの、さまざまなエネルギーに双方向で変えやすいという大きなメリットがあります。トースターで熱エネルギーに、モーターで運動エネルギーに、照明で光エネルギーにと、比較的簡単に変換することができるんです」
私たちの生活の中で使われているエネルギー。私たちの周りに、電気がどうしてこれほどまでに浸透しているかといえば、圧倒的な「扱いやすさ」が理由なのではないでしょうか。さまざまなエネルギーと比較すると、電気の便利さによって、今の社会が築かれたと感じられます。
次回は【 電池 】のお話です。
取材協力・監修
近藤圭一郎
1968年、東京都出身。早稲田大学理工学術院教授。同大電動モビリティシステム研究室にて、電気鉄道や電気自動車を用いた電気エネルギーの有効利用技術を研究。編著書『鉄道車両技術入門』(オーム社)、監修書『ドラえもん化学ワールド 電気の不思議』(小学館)など。
燃料としてのイメージが最初にくる石油。しかし、石油から作られているものは多種多様で、私たちの生活の中に入り込んでいます。例えばプラスチックやタイヤなどに使われている合成ゴム、身近な所では服に使われている合成繊維、ビニールなどの原料にもなっているのです。
過去には1970年代に石油危機(オイルショック)があり、その際は経済の混乱が起き、物価の上昇、物品の買い占め、節電などの社会現象が起きました。そして、エネルギーの8割近くを輸入原油に頼っていた日本は、エネルギー政策の見直しがはかられることとなりました。
では、地球に埋まっている石油は、いつか掘り尽くされてなくなってしまうのでしょうか。時々ニュースで「あと何年」などと言っているのが気になるところ。当時は「あと30年」などと言われたものですが、その30年はとっくに過ぎました。では、なぜ石油はなくならないのでしょうか。
『エネルギー白書2018』によると、世界の石油確認埋蔵量は2016年末時点で1兆7,067億バレル、2016年の可採年数は50.6年とのことでした。あと50年ほどだと聞くと心細い気もしますが、じつは可採年数というのは、現在の技術のもと、経済的に採掘することが可能であると考えられる石油の埋蔵量を、その年の石油生産量で割った値のことをいいます。そのため、技術が進歩したり、原油の価格が上下したりしても変動する試算値であり、石油が後何年で枯渇するという意味合いのものではないのです。
出典:石油連盟(今日の石油産業2018)
2000年代後半には、米国でシェールと呼ばれる種類の岩石の層に含まれている石油や天然ガスの掘削を可能とする新しい技術が開発されるとともに、経済的に見合ったコストで掘削できるようになりました。いわゆる「シェール革命」です。
近年では、米国のシェールオイルや、ベネズエラやカナダにおける超重質油の埋蔵量が確認され、可採年数は増加傾向となっています。とはいえ、限りある資源であることに変わりはないエネルギー、有効利用が大切です。
参考・出典『人類なら知っておきたい 地球の雑学』
(雑学総研/KADOKAWA)
眠れないほど面白い理系ウンチク212!思わず誰かに話したくなる「理系のウンチク」を集めました。職場で家庭で、日々の「雑談」に役立つ、動植物・天体(太陽系)・人体・天気・元素・科学史など、「理系ジャンルネタ」が存分に楽しめる必読の一冊です!
★オイルショックについてもっと知りたい方はこちら!
「石油がとまると何が起こるのか? ~歴史から学ぶ、日本のエネルギー供給のリスク?」(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)
純国産エネルギーとして日本の電力を支える水力発電。その発電に欠かせないのがダムの存在だ。ダムの水を放流し、水が高いところから低いところへ流れる時の力を利用して水車を回し、その回転により発電機を動かして電力を生み出している。治水や貯水の役割だけでなく、国内には発電用のダムも数多く存在している。近年では、その壮大な景観に惹かれた「ダム愛好家」と呼ばれる人々も増え、各地のダムを訪れるようになっている。
有名な黒部ダムも水力発電に使われるダム。ダムの取水口の下流にある黒部川第四発電所で発電する
ダム見学の人気を加速させたのが、「ダムカレー」のブーム。ダムカレーとは、万人に愛されるカレーライスをもとに、ルーを貯水池に見立て、ライス部分でダムの形にかたどったもので、各地で「ご当地ダムカレー」が誕生している。
そのブームの火付け役となったのが、東京・墨田区の本所吾妻橋で「ジャパニーズレストラン 三州家」「割烹 三州家」の2店を経営している店主・宮島咲さん。自身がダムの魅力に取りつかれ、その名も「ダムマニア」という自作ホームページも運営する、筋金入りのダム愛好家だ。店では、要予約で4種類のダムカレーを提供している。今回は宮島さんに、ダムカレーの歩みとその魅力、地域とのつながりについてうかがった。
ダム愛好家としてテレビや雑誌にも登場する宮島咲さん。「ダムカレーがダムを知るきっかけになると嬉しいです」
ダムカレーが生まれたきっかけ
「ある日、昼食にカレーライスが出た時に『これをダムの形にしたら面白いかも』と思いついたんです。それで自分用のまかないで作ってみたんですね。それが2003年のこと。そこから、うちに遊びに来るダム仲間たちに裏メニューとして提供するようになりました。当時は、こんなに各地に広まるとは予想もしていませんでした」
そんな中、2007年に「ダムカレー」にとっての大きな転機が訪れる。
「当時、ダム建設が批判されたりして逆風の時代だったんです。そこで、2007年の4月にダム管理者によるダムのPRのための会議が開かれて、私たちのような愛好家からアイデアを募るという機会があって。ある人はそこで、今や有名なダムカードというものを発案し、私はダムカレーを提案したんです。それをきっかけに、ある新聞がダムカレーを記事にしたことから、新聞、雑誌の各社が一気に取材にやってきて、ダムカレーの名前が一気に広がりました」
※ダムカード=各地のダムで配布するカード式のパンフレットでコレクターズアイテムとなっている。
ダムカレーのメニューには「これはカレーではありません。ダムです」という注意書きが。「カレーではなく、あくまでもダムとして評価してほしい」と宮島さん。
町おこしとなったダムカレー
そこから全国各地で「ご当地ダムカレー」が生まれ、年々その数は増える一方だという。
「町おこしとしてダムカレーが広がったきっかけは、群馬県の『みなかみダムカレー』。私がプロデュースしました。利根川の源流があるみなかみ町には、3種類の型式が異なるダムがあるんです。この地は過疎化に悩んでいて、ダムカレーで町を盛り上げて観光客を呼び込もうということで誕生しました。重力式、アーチ式、ロックフィル式のカレーが提供されています。07年より前には、ご当地カレーとして60年代半ばに黒部ダムの扇沢で『アーチカレー』という名前で提供されていたメニューがあったそうです。いまでは2007年以降のダムカレーでの町おこしと結びつき、『黒部ダムカレー』として黒部ダム周辺のさまざまな店で展開されています。2017年にTV番組『マツコの知らない世界』に私が出演することになり、そこでダムカレーを紹介したことをきっかけに各地のご当地ダムカレーがさらに増加しました。2019年3月現在は、162種類のご当地ダムカレーがあるんですよ」
湾曲した堤防が大量の水を支えるアーチ式ダムを模したアーチ式ダムカレー。「ルーを水に見立ててライスでダムを表現しています」と宮島さん
ダムカレーを食べることで、グルメを楽しむだけでなく、その土地のことを知ることができるというのは、観光客にとっても素敵なプラス要素。ブームの火付け役として、宮島さんは現在のダムカレーの広がりについてはどう思っているのだろう。
「私自身としては、ブームではなく町おこしの一環として盛り上がっているんだと考えています。『過疎化が進んだ町や村にもう一度、観光客を呼んで食べてもらおう』という、現地の方々の熱い想いが根底にあるんです。私達のような愛好家が現地に行って、ご当地ダムカレーがあったら、そりゃあ食べますよね(笑)。現地でお金を使う機会ができたことで、ダムを見学することが地域振興にも多少は役に立つことができる。このお店で出す飲料水も元をたどればはるか遠くのダムがあってこそだし、今ここで輝いている照明の電力にだってダムを使った水力発電が大いに貢献しています。そんなことを少しでも頭の片隅に置いて、ダムカレーを楽しんでもらえれば、ダム愛好家としてはとても嬉しいですね」
「ジャパニーズレストラン 三州家」と「割烹 三州家」が併設。どちらの店でもダムカレーを食べることができる(要予約)。こちらはジャパニーズレストランの店内。和食を中心に定食などが揃う
「割烹 三州家」は明治22年創業の老舗。宴会や会食などに最適な個室の座敷で江戸前懐石料理や鍋料理を提供する
>>次回、宮島さんが生み出す「三州家のダムカレー」の“施工”についてお話を聞く!インタビュー2本目はこちら→
Japanese Restaurant 三州家
住所:東京都墨田区本所4-17-3
電話:03-3624-7019
時間:11:30 〜14:30、 16:30 ~21:00
定休日:不定休
割烹 三州家
住所:東京都墨田区本所4-17-3
電話:03-3622-1230
時間:11:30 〜 22:00
定休日:不定休
毎日の生活に欠かせない電気。それこそ街の灯りや電車といった社会のインフラから、身近なところでは冷蔵庫やエアコン、PCにスマートフォンなど、その恩恵はいたるところにあります。
スマートフォンの普及により、バッテリーも含めた電池を以前に比べ、さらに頻繁に使っている人も多いのではないでしょうか。中でも、「乾電池」を発明したのって実は日本人だって、知っていましたか?
乾電池を発明したのは日本人だった!?
そもそも、乾電池は色々な種類のある電池の一つです。電池自体は、のちに電圧の単位「ボルト」の語源になった、イタリアの物理学者ボルタによって1800年頃に発明されました。
ボルタが発明したボルタ電池は、銅と亜鉛を食塩水や希硫酸などの溶液に浸したものでしたが、その約35年後、イギリス人のダニエルがボルタ電池の欠点を改良したダニエル電池を発明。さらに1867年には、フランス人ルクランシェが、今の乾電池と同じく二酸化マンガンを使った電池を発明しました。
ですが、いずれの電池も溶液がこぼれるなどの難点がありました。そこで1888年、ドイツのガスナーらが、溶液のこぼれない電池、いわゆる乾電池を発明し、その特許を申請。そのため、世界ではガスナーらが電池の発明者とされています。
しかし、それに先立つこと1年、1887年の時点で、日本人の屋井 先蔵(やいさきぞう)の手によって乾電池が発明されていたことは、あまり知られていません。
屋井は、長岡藩(現在の新潟県)の出身で、東京で時計職人として働いていました。そして1885年、「連続電池時計」の開発に成功しましたが、時計に使用していた輸入電池には溶液が染み出して金具が腐食するなどの欠点がありました。そこでみずから発明したのが「屋井乾電池」だったのです。
1892年には、東京帝国大学理学部がシカゴ万博に出品した地震計に屋井乾電池が使用されていたことから、世界的に注目を浴びることとなりました。
ところが、権利関係の知識にうとかった屋井が、みずからの発明した乾電池の特許を出願したのはその翌年のこと。この頃にはすでに、屋井乾電池の模造品がアメリカから逆輸入されていたという点からも、その優れた性能が証明されているといえるのではないでしょうか。
出典『人類なら知っておきたい 地球の雑学』
(雑学総研/KADOKAWA)
眠れないほど面白い理系ウンチク212!思わず誰かに話したくなる「理系のウンチク」を集めました。職場で家庭で、日々の「雑談」に役立つ、動植物・天体(太陽系)・人体・天気・元素・科学史など、「理系ジャンルネタ」が存分に楽しめる必読の一冊です!
全国各地にある発電所、その数なんと4000カ所以上。一口に発電所といっても、実は一つ一つ違った魅力があるんです。今回は長野で見つけた白亜の館をご紹介。雄大な山々を背景に、当時の姿をそのまま残すレトロモダンな水力発電所の魅力をお伝えします!
春夏は高山植物を愛でながらハイキング、秋冬は澄んだ空気の中で満天の星を鑑賞。今の時期ならふもとでスキーやスノーボードも楽しめる中央アルプス・駒ヶ岳。長野県にあるその山系の東側を流れる天竜川沿い、伊那街道を南に進むと、田畑の広がる景色の中に白亜の建物を見ることができる。
白で統一された壁面とシンメトリー感が気持ちいい南向発電所。建物の高さは4階建てビル相当、横幅は30メートルほど
白一色の壁と大きなアーチ窓は、まるでエーゲ海を望むホテルのよう……とは言い過ぎかもしれないが、これが今回訪れた「南向(みなかた)発電所」。1929(昭和4)年に完成してから約90年間、休むことなく働き続ける水力発電所で、建物は建設当時そのままの姿で今に残っている。
大きな窓から光が差し込む建物内部。中央にあるのが発電機で、合計2台設置されており、最大出力2万8800kWを誇る
発電所からおよそ11キロ先、天竜川の上流にある南向(みなかた)ダム(別名・吉瀬(きせ)ダム)から水路を通して毎秒約4万リットルの水を引く。その水が約80メートルの高さから鉄の管を一気に下り、発電所地下にある水車を回転。水車は真上に設置された発電機と軸でつながっているため、発電機も回転し、電気を生み出している。
天竜川にある南向ダム。川の端から端に伸びるのがローリングゲートと呼ばれる水門。昔は生活道としても使われていたという上に架かる橋は、一般の人でも自由に歩くことができる
天竜川から南向発電所に水を送る南向ダムは、“ダム”と言っても小規模なもので、正式には「南向堰堤(みなかたえんてい)」という。これがダムなのに、ちょっとかわいい。小規模だからということではなく、かわいいのはその形。4つの水門を挟むように建つコンクリート製の建物があり、頭の部分がゆるーく丸みを帯びている。建設当時にはかなりの手間がかかったとされるこのデザインは、現在“ダムマニア”垂涎(すいぜん)のものだそう。
南向ダムを横から眺めると、先端の丸窓が印象的な建物の頭の部分がよく見える。それぞれの建物の中には、水門を引き上げるための装置が入っている
南向発電所と南向ダムは、日本で数多くの水力発電所を建造した“電力王”福澤桃介が生涯最後に造ったものとされている。南向発電所の入口前には、福澤桃介の銅像や発電所で使われていた水車の実物などが展示されており、その功績と歴史を目にすることができる。
南向発電所入口前に立つ福澤桃介像。角帽姿で造られており、同様の銅像が中部電力・下村発電所の関連施設などにも設置されている
1972~88年まで南向発電所で使われていた水車の実物。直径2.5メートルほどあり、実際は写真正面の丸い面を水平にして使用される
「電力王・福澤桃介」と言われても、ピンとこないかもしれないが、1万円札の福澤諭吉の娘婿といえば、何となく偉人感が伝わるだろう。福澤桃介は、当時ほかに彼女がいたにもかかわらず福澤諭吉とその妻の誘いを受け福澤家の婿養子となり、20代で大病を患いながらも株式投資で大儲け。その後いくつもの発電所事業にのりだし、米国で50億円以上の資金調達を成し遂げる…といった、今どきのベンチャー社長もビックリするような波乱万丈の人生を送った。
水が通る鉄管の上部には福澤桃介直筆の石碑が。水力発電で電気を作り、日本の産業を盛り上げるという思いを込めた「水然而火(水燃えて火となる)」と書かれている
ちなみに、南向発電所を造った当時、桃介のパートナーはその昔に別離した“彼女”。画家ピカソや彫刻家ロダン、初代総理大臣・伊藤博文までをも魅了したと言われる日本初の女優・川上貞奴(かわかみ・さだやっこ)で、その生涯は1985(昭和60)年にNHKで大河ドラマ化。俳優・風間杜夫さん演じる福澤桃介も全編にわたり登場している。
南向発電所の建物は一見して派手な装飾はないものの、弧を描く天井部の飾り帯など所々に、昭和初期には珍しいモダンな建築様式が取り入れられている
雄大な山々とのどかな田園風景が広がる長野に、破天荒な男が最後に手掛けたレトロモダンな発電所が今も息づいている。雪景色を見に行くついでに、日本の産業の歴史に思いを馳せられる南向発電所に訪れるのも面白いのでは?
発電所から見える中央アルプスの山々。雄大な自然の中で、南向発電所は今日も電気を作り続けている
※南向発電所館内は見学不可。写真は取材用に特別に許可を取って撮影
■発電所見学DATA
南向発電所
住所:長野県上伊那郡中川村葛島933-2
電話:0265-54-6907(中部電力株式会社 飯田水力センター)
アクセス:JR飯田線伊那大島駅から約3km、中央自動車道松川ICから約6km
見学:発電所併設の広場は立ち入り自由(建物内の一般見学は不可)
HP:https://www.chuden.co.jp/energy/ene_energy/water/wat_chuden/wat_list/index.html
南向ダム
住所:長野県駒ヶ根市中沢664
電話:0265-54-6907(中部電力株式会社 飯田水力センター)
アクセス:JR飯田線田切駅から約4km、伊那福岡駅から約5km、中央自動車道駒ヶ岳スマートICから約8km
見学:ダム上部の通路橋は解放(ダム設備内等の一般見学は不可)
【今月の密着人】関西電力株式会社 送配電カンパニー 大阪南電力本部 配電グループ 小崎一歩(おざきかずほ)さん(27歳)
私たちの暮らしに欠かせないエネルギー。便利な暮らしを支えてくれるエネルギー業界の現場では、女性も重要な戦力として活躍しています。彼女たちがどんな仕事をしているのか、どんな思いを持っているのか、その仕事ぶりにスポットを当てます。プライベートとのギャップにも注目!
大阪の電気を守る責任とやりがいで日々、充実
今回密着したのは、関西電力の入社3年目になる小崎一歩さん。発電所で作られた電気を私たちの元に届ける役割を担う送配電カンパニーに所属し、入社後2年間は、現場第一線である南大阪配電営業所で経験を積んだ。
2018年6月からは、大阪南部エリア一円を管轄する大阪南電力本部に所属。周囲を和ませる柔らかな笑顔と朗らかな雰囲気が魅力的な彼女は、テキパキとした仕事ぶりで着実にキャリアアップを図っている。
キュートな佇まいながら、仕事はテキパキ。小崎さんは、男性社員が多い職場でも存分に活躍している
大阪で生まれ、理系女子として育った小崎さん。大学は、工学部の電気情報システム工学科に進学した。
小崎さん「大学で電気を選んだのは直感です(笑)。でも、就職先はしっかり考えました。当初は大学で学んだ事を生かして社会に貢献したいという気持ちがあり、他業種の研究・開発職のインターンシップに参加しました。しかし、インターンシップを通じて、『私はもっとお客さまに近いところで働きたい!』と、自分の思いを明確に認識することができました」
そうして、地域の暮らしや社会を支える、関西電力への入社を果たしたのだ。
小崎さん「電力会社で、お客さまに近い仕事は『配電部門』(変電所から電柱の電線を通じて電気を届ける業務)かなと。その上で、できれば愛着のある地元・大阪で働きたいと思い、関西電力の配電部門を志望しました。また、会社説明会で先輩社員が、『地域の人々の生活を守ることが、私たちの使命です』と語っていたのも印象的でしたね。熱い思いとプライドが伝わってカッコイイ!と感動し、より強くここで働きたいと感じたのを覚えています」
現在小崎さんが所属する大阪南電力本部が入っている関西電力大阪支社ビル
強い意志を持って、希望する道へ。実際に配電の仕事に就いて感じたこととは。
小崎さん「最初に配属された南大阪配電営業所では、電柱の保守・点検業務や、お客さまの家を訪問しての調査や工事を担当しました。また、後半は電柱などの配電設備の設計や運用にも携わりました。お客さまに電気をお届けする最前線で、自分たちがこの町の明かりを守っているんだ!という責任感とやりがいを日々感じていましたね」
仕事で重要なのは丁寧なコミュニケーション
大阪南電力本部に異動して約半年。現在は、大阪南部にある6つの配電営業所が行う、日常業務の進捗管理を担当している。家やビルなどに設置され、電気の使用量を計測している電力量計(メーター)は一定年数ごとに取替えることが定められており、その取替工事を計画通りに進めることが、現在の小崎さんの任務だ。
小崎さん「毎月、難波・東住吉・羽曳野・東大阪・南大阪・岸和田の6つの配電営業所から提出される工事実績を確認し、順調に進んでいなければ担当者と一緒になって原因と対策を考えます。理由はさまざまですが、例えば、台風の被害が大きく復旧作業に時間がかかってしまい、当初予定していた取替工事に遅れが生じてしまうことなどがあります。そういった場合は、他の配電営業所に応援を要請してリカバリーに必要な人員を手配するなどにより工事ペースを上げ、遅れを取り戻すようにしています」
普段はデスクワークが中心。関係各所との電話・メールのやり取りや、資料の確認、作成などに当たる
また、「スマートメーター」にまつわる業務の取りまとめも小崎さんの担当だ。スマートメーターとは通信機能を持った電力量計(メーター)のことで、スマートメーターの導入は、電気料金のメニュー変更の円滑化や、電気使用量の検針作業の効率化など、多くのメリットをもたらしている。関西電力では全国に先駆けて2008年度に導入を開始して以降、導入台数は2018年9月末時点で管轄する全利用者の約8割に相当する1000万台を突破した。
小崎さん「スマートメーターの導入に伴い、現場の環境は今も日々、目まぐるしく変化しています。これまでになかった機器の操作が必要になったり、引き継ぎを受けた業務の運用方法が変わったり……。そういった状況の中で、私は、全社を統括する本店と実際に現場を取り仕切る配電営業所との間に立って、橋渡し役として業務の進捗管理を行っています」
現場からの確認や問い合わせに素早く対応するため、電話が手放せない
入社3年目で6つの配電営業所を管理する立場にある小崎さん。任務を遂行するためにどういったことを心掛けているのだろうか。
小崎さん「さまざまな方との調整が多いので、常に相手の立場に立って考え、行動するよう気をつけています。依頼や報告をする前には、必要な情報が漏れていないかを何度もチェックするようにしています」
つい最近まで彼女自身も配電営業所で勤務していたため、現場の状況は具体的にイメージできる。その強みを生かして、新たな任務と向き合っているようだ。
小崎さん「例えば、業務で少しでも疑問に感じた場合は、一度関係箇所に詳細を問い合わせます。しっかり内容を擦り合わせてから、分かりやすい形に整えて、配電営業所に伝えるようにしています。メールや電話だけだと難しいこともあるので、直接会って説明することもあります。丁寧なコミュニケーションこそ、スムーズな業務進行のカギです」
一緒に仕事をする上司や仲間とは頻繁に集まり、互いの状況を共有することを大切にしている
新たな環境に臆することなく、前向きに取り組む日々。プレッシャーはありつつも、大きなやりがいを感じているという。
小崎さん「各配電営業所と密に連携を取ることで、工事計画の遅れを取り戻せたり、業務の分担や作業の効率化がうまく図れたりすると、ホッとしますし、手応えを感じることができてうれしいです。現場で作業していたころのように、お客さまと直接話す機会は少なくなりましたが、今は違う形で暮らしや社会を支える一翼を担っているのだと実感しています」
仕事の合間には、チームの上司や先輩とラウンジで談笑。いつも温かくサポートしてくれて心強いという
常にお客さまのこと、現場のことを考えながら成長したい
自分なりに工夫して仕事に取り組み、結果にもつながっている。それでもまだまだ、未熟さは感じているそうで……。
小崎さん「知識や経験の不足は日々痛感していて、同じチームの上司や先輩方をはじめ、配電営業所の先輩方に助けていただくことも多いです。だから、もっといろいろな業務を経験して知識と視野を広げ、周囲から頼られるような存在になっていきたいです」
特に、会社としても力を入れている、スマートメーター関連のスキルアップが自身の課題だと話す小崎さん
仕事では、大都市・大阪を舞台に忙しく過ごす。その分、休日は豊かな自然を求めて旅に出ることが多い。
小崎さん「最近は沖縄と屋久島に行きました。旅行先では、ダイビングやトレッキングなどを楽しんでいます。自然にどっぷりつかって、美しい景色を見ること、その土地のおいしいものを食べることが何よりのリフレッシュになっていますね」
屋久島を訪れたときの一枚。有名な屋久杉までの道のりは大変だったものの、雄大な自然に包まれて大感動したそう
これからも、人々に電気を届ける仕事を突き詰めていきたいと小崎さんは言う。
小崎さん「お客さまが安全に、安定した電気をお使いいただけることを第一に。そのために自分にできることは何かを考え、実践していきたいです」
純国産エネルギーとして、No.1の発電実績を誇る水力発電。ダムに貯めた水や川を流れる水が、高い所から低い所へ流れる時のエネルギーを利用して、電気を生み出す。ダムの役割=洪水対策・水不足解消というイメージを持つ人も多いかもしれないが、水力発電でも大活躍しているのだ。
そんなダムの新たな魅力を引き出しているのが、日本人の国民食カレー。その名も「ダムカレー」だ。ごはんを堤防、カレールーを貯水池に見立て、ダムの重厚感・躍動感をカレーで表現している。
全国各地で、ご当地ダムカレーが続々と生まれ、今もなお増え続けている。
今や町が活気を取り戻すほどのパワーを持っている、見て楽しい、食べておいしいダムカレーを紹介しよう!
アーチ型コンクリートダム「矢作ダム」。操作室やダム内のトンネルなどは見学が可能(7日前までに要予約)
のどかな風景に囲まれ、「水の郷百選」に選ばれている愛知県豊田市旭地区。しかし、人口減少に伴い、町の活気を失いつつあった……。そんな中、豊田市旭観光協会が目を付けたのは、愛知県豊田市と岐阜県恵那市にまたがるアーチ式コンクリートダムの「矢作ダム」。
323.1mの堤頂長が全国11位の大きさを誇る「矢作ダム」という観光資源を生かし、2018年2月、誘客と地域活性化を目指して“矢作ダムカレー”を開発した。
矢作ダムカレーは、矢作ダムの認知にー役買った「逆アーチ型」の構造に倣ってご飯の盛り方をアレンジ。旭地区の野菜を使うなど、店舗ごとに違いが生まれている。
矢作ダムを見学したあとにダムカレーを食べれば、お腹も心も満たされること間違いなしだ!
「珈琲 郷地(ごうち)」の「矢作第一ダムカレー」(1200円)は、のりや野菜を使って、ダムを走る自動車や管理所を表現。カレーは季節により替わる
「紫翠閣(しすいかく)とうふや」の「矢作ダムカレー」(880円)。リスがかじったマツボックリはエビフライにそっくり!そこからヒントを得て誕生したという
「カントリーレストラン 渓流荘」の、イノシシのスネ肉を使用した「猪ドッカン!旭の矢作ダムcurry」(1296円)。イノシシのスネ肉を使用。ルーは旭地区のスパイス店と共同開発した。予約がオススメの一品
「旭高原元気村 げんき亭」の「矢作ダムカレー」(950円)。自然薯で作ったエビフライの形をしたコロッケが絶品。地元で採れた野菜もトッピングされている
矢作ダム
住所:愛知県豊田市閑羅瀬町東畑67
電話:0565-68-2321(矢作ダム管理所)
時間:9:30~16:00 休み:土曜・日曜・祝日 料金:見学無料
珈琲 郷地
住所:愛知県豊田市新盛町郷地ケ入1-1
電話:0565-67-2706
紫翠閣とうふや
住所:愛知県豊田市笹戸町畷7
電話:0565-68-2331
カントリーレストラン 渓流荘
住所:愛知県豊田市田津原町静滝17-1
電話:0565-68-3197
旭高原元気村 げんき亭
住所:愛知県豊田市旭八幡町根山68-1
電話:0565-68-2755
【今月の密着人】四国電力株式会社 送配電カンパニー 徳島支社 ネットワークサービス部 配電計画課 植田有希子さん(27歳)
私たちの暮らしに欠かせないエネルギー。便利な暮らしを支えてくれるエネルギー業界の現場では、女性も重要な戦力として活躍しています。彼女たちがどんな仕事をしているのか、どんな思いを持っているのか、その仕事ぶりにスポットを当てます。プライベートとのギャップにも注目!
お客さまに頼られる“よんでん”さんとしての自覚
約400年の歴史を誇る伝統芸能「阿波おどり」で有名な徳島県徳島市。市内中心部に位置する徳島駅から歩いてすぐの場所にあるのが、四国電力徳島支社だ。地域に根差し、電気を安定的に届けることで町の生活を支えてきた存在として、地元では「“よんでん”さん」と呼ばれ親しまれている。
今回密着した植田有希子さんは、そんな四国電力に入社して5年目。徳島に配属後、4年間の教育期間を経て、2018年4月から配電計画課(設備計画)の所属となった。明るくハツラツとして好感が持てる人柄は、初対面でも親しみやすさを感じさせる。
女性でも働きやすい環境が整い、活躍の場があることが四国電力の魅力だと話す植田さん
香川で生まれ育ち、京都の大学に進学した植田さん。工学部で電気を専攻し、知識と技術を培って四国へ戻って来た。
植田さん「元々は家電の開発者を目指していたのですが、徐々に電気そのものに興味が移って。卒業後は大学院で研究を深めるよりも、『学んだことをできるだけ早く社会で生かしたい』と思い、四国電力を志望しました」
電柱や電線など電気を送るために欠かせない設備の運用や保守に携わっている
Uターン就職にこだわりはなかったものの、縁あって地元・四国の企業である同社に入社。入ってからすぐに気付いたことがあるという。
植田さん「お客さまに電気をお届けする電力会社の仕事って、誰かの役に立てる、人に感謝される仕事なんですよね。そう思うと、この仕事に就いて良かったと感じています」
生活に必要不可欠な電気を確実に届ける
発電所で作られた電気は、送電線に送られ、変電所などで段階的に電圧を下げたのち配電線を経由して、各家庭や企業などへ届けられる。植田さんは、その張り巡らされた配電線をはじめとする配電設備の運用や保守といった業務を現在担当している。
植田さん「日々、電気を安定してお届けできるよう努めています。例えば、大量の電気を必要とする工場などの施設ができると、そこへつながる配電線は今まで以上に多くの電気を送れるよう、太い配電線に張り替えるなどの対策が必要になります。そういった状況を先読みし、対応しています」
24時間365日必要とされる電気を送り続けるためには、夜間・休日の当直勤務も行う。
植田さん「普段はデスクワークがメインですが、当直の時は、停電している現場に出向き、その原因や停電箇所を特定して復旧作業を行うこともあります。復旧が完了すると大きな達成感がありますし、『直してくれて助かったよ』と直接感謝の言葉を掛けていただけると、とてもうれしいです」
電線が切れている、何か絡まっているとなると、高所作業車という特殊自動車で出動することもある
感電から身を守る装備と柱上安全帯(ベルト)を身に着け、電柱に昇ることも。工具を使い単独作業でヒューズを取り替える
一方、最近では太陽光などの再生可能エネルギーで発電した電気を既存の配電線に接続するための申し込みが増加しており、現在、植田さんは主に、それらの発電設備を配電線につないでも安定供給に支障がないかなどを検討する業務を受け持っている。
植田さん「近年は太陽光発電設備の接続申し込みが本当に多いです。実際にきちんとつなげられるのか、つなぐことで電気の流れに異常が出ないかなど、あらゆる状況をシミュレーションしながら検討しています」
さらに、台風や豪雨などで停電が発生した際の被害状況の取りまとめや、大規模災害時における復旧のための応援要請に対する派遣準備なども植田さんの仕事の範疇だという。
植田さん「例えば、災害時の対応であれば、素早く的確な段取りを行ってサポートするよう心掛けています。こうした有事の場合、基本的に私自身が現場に赴くことはありませんが、とても大切な役割を担っていると感じています」
現在は当直を除くと、現場作業よりもデスクワークがメイン。コンピュータ上で膨大なデータを管理している
生活する人々に最も近く、電力供給の最前線で活躍する配電部門。一見何の変哲もない町並みも、植田さんの目には特別に映る。
植田さん「電気自体は目には見えないものですが、電柱や電線など、自分が設計や運用面で携わった仕事が、設備という目に見える形となって残っていくところにやりがいを感じています。なので、町中で自分が携わった設備を見るとうれしいです。分譲地を手掛けたときには、何も無かった場所に家が建ち、電柱が建ち……。全てが整って生活の明かりを目にした時、何とも言えない感動を覚えました」
大変な使命を抱えながら、確かな手応えを感じられることがやりがいにつながっていると話す
積極的なチャレンジで技術系女性社員のパイオニアに
現在の業務に就いてからはまだ半年の植田さん。まだまだ分からないことも多いという。
植田さん「今はとにかく知識不足を痛感する日々。先輩や上司に相談すると、もっと良い案がどんどん出てきて……。早く自分一人でも効率的かつ効果的な配電設備を計画・設計できるようになりたいです。でも、単純にマニュアルを覚えれば良いということでもなくて。やはり経験に勝るものはないと感じる部分も多いので、実践しながら学んでいきたいと思っています。そうして配電部門の業務全般に精通し、誰からも頼りにされる存在になりたいですね」
将来は、配電部門のエキスパートを目指すのだろうか。
植田さん「そういう道もあると思いますが、私はいろいろなことをやってみたいタイプなので(笑)。さまざまな部署の仕事を経験して、総合的に何でもできるマルチな人になりたいです」
勉強熱心で好奇心旺盛。男性が多い職場でも臆することなく、生き生きと存在感を放っている
仕事に対し貪欲で、アグレッシブな植田さん。プライベートでも、アクティブ全開だ。
植田さん「初めてのボーナスでカメラを買い、時間ができると美しい風景を求めて旅に出るのが趣味になりました。あと、昨年からスキューバダイビングを始めて、月1~2回は四国の海に潜っています。基本的に体験したことのないものに挑戦するのが好きで、いろいろ経験しています(笑)」
週末にはテニススクールに通い、春と秋には登山、冬にはスノーボードを楽しむそう。自然の中で体を動かし、心身共にリフレッシュしているのだ。
季節を問わずスキューバダイビングを満喫しているそう。オーストラリアでウミガメと泳いだのも良い思い出
社内では数少ない技術系の女性社員として活躍する植田さん。これからも自分の手で未来を切り開いていきたいと、目を輝かせる。
植田さん「女性でも活躍できる場所があることを、身をもって示したいですね。もし本当にやってみたいと思う人がいるなら、諦めないで挑戦してほしい。その背中を押せるような活躍をしていきたいと思っています。大げさかもしれませんが、技術系女性社員のパイオニア的存在になることが目標です」
★植田有希子さんプロフィール
年齢 |
27歳 |
星座・血液型 |
魚座・A型 |
趣味 |
旅行・スキューバダイビング・硬式テニス |
好きな食べ物 |
たこ焼き・水餃子・ぶどう |
好きな飲み物 |
Japanese SAKE |
好きな歌手 |
コブクロ |
好きな芸能人 |
石原さとみ |
今、日本のエネルギー事情がどうなっているのか、最前線で活躍する先生が分かりやすくレクチャーする「エネスタ!」。第2回・前編では、地球温暖化が内戦にまでつながる怖い話も聞きました。後編では、身近なところで私たちに何ができるのか、専門家の先生に詳しく聞いていきます!
※【前編】の記事はこちら
先生「世界が温暖化によってさまざまな問題に直面している中で、日本は頑張っている方だと言いましたが、ちなみに今、国内総生産(GDP)の世界ランキングで日本は何番目か知っていますか?」
大野「上からアメリカ、中国、ロシア、で、日本ですか?」
先生「というイメージもありますよね。でも、アメリカ、中国、日本なんです」
大野「えっ、すごくないですか?」
先生「あれだけ『日本はダメだ』と言われながらも、いまだに世界3位なんです。戦後から現在に至るまで、ものづくりの技術が日本の経済成長を引っ張ってきました。そして、それを支えてきたのが“電力の安定供給”なんです」
多田「普通に生活していると、あまり“安定供給”というのがしっくりこないんですが、どういうことですか?」
先生「例えば、私がインドネシアに住んでいたときは、嵐でなくても普通に急な停電がありました。でも、日本ではほとんど起きませんよね。普段の生活はもちろん、工場などを動かすにも電気は必要ですが、日本で品質の良い電気が安定して送り届けられているのは、電力会社の努力のたまものなんです」
高橋「でも、それって当たり前っていうか。特に心配しなくても、これからもずっと続くんじゃないですか」
先生「実はそうでもないんです。今、日本で必要とされている電力の約8割は火力発電所で発電していますが、その燃料となる天然ガス、石油、石炭といった化石燃料の大半は、海外からの輸入に頼っている状態です。そのうち発電や自動車用燃料として重宝している石油は80%以上を中東地域に依存しています。こうした地域の国際情勢は複雑で、安定的に資源の供給が行われるのかという懸念もあります。それはつまり、“エネルギー安全保障”に関係してくるということです」
●2017年度の日本の電源構成
出典:電力広域的運営推進機関「平成30年度供給計画の取りまとめ」を基に作成※四捨五入の関係で合計が合わない場合があります
多田「“安全保障”って……分かるような、分からないような……」
先生「エネルギー安全保障とは、エネルギーを安定的に、安く供給される状態を達成しようとする取り組みのことです。かつて日本は、オイルショックを経験し、大混乱に陥りました」
高橋「オイルショックは聞いたことあります! 確か、トイレットペーパーがなくなったとか」
先生「オイルショックのときは、紙がなくなるといううわさが広まって、トイレットペーパーの買い占め騒動が起きました。日本はその当時、エネルギーの8割近くを輸入原油に頼っていたので、原油の値上がりが、結果として経済活動へのブレーキになったんです」
大野「8割……。今の火力発電への依存度と一緒ですね」
先生「オイルショックの経験から言えるのは、エネルギーは石油など、どれか一つに過度に依存してはいけないということです。そうならないためには、再生可能エネルギーや原子力発電も含めた電源の多様化が必要。また、技術革新による省エネ推進によって、限りある資源をより効率的に使うことも大切になってきます。これって、何かに似ていませんか?」
大野「先ほど聞いた、温暖化対策と同じですね!」
先生「正解! 実はエネルギー安全保障と地球温暖化の対策は表裏一体。目的は違いますが、実行することは同じなんです」
大野「省エネは普段も気にはしていますが、エネルギー安全保障はもちろん、地球温暖化対策なんて頭にないですよ。ただ光熱費の削減だとか、お金の節約として自分のためにやっていただけでした」
先生「それでいいんです! それってとても重要なこと。光熱費が安くなるのがうれしい。それがモチベーションになれば、ますます省エネは推進されるわけですから」
高橋「この夏に大活躍だったエアコンや、冷蔵庫でも省エネはできますか?」
先生「もちろん! 古いものから省エネ機器に買い替えても電気代の節約につながりますし、エアコンであればフィルター掃除、冷蔵庫であれば温度設定の見直しなどによっても電気代は変わってきます!」
多田「そうなんですね!……でも、洗濯のときはついつい乾燥機を使ってしまうんですよね。干せばその分節約できるんだろうけれど、平日はどうしても時間がなくて……」
先生「働いていると仕方がない部分はありますよね。私はエネルギーって“お手伝いさん”だと思うんですよ。大昔は、人の手で半日かけていた洗濯も、全自動洗濯機ならスイッチ一つで終わる。これもエネルギーがあってこそ。なくてはならないお手伝いさんですよね」
多田「代わりにやってくれるんですもんね。お手伝いさんか……これからもずっと手伝ってもらうためにはどうすればよいのか、ちゃんと考えなければだめですね」
先生「そうですね。自分だけで考えるのではなく、家族や友達にも、エネルギーやその問題に関心を持ってもらえるように話をしてもらえるとうれしいです」
<profile>
小川順子(おがわ・じゅんこ)
財団法人日本エネルギー経済研究所・地球環境ユニット地球温暖化政策グループ研究主幹。専門は地球温暖化政策分析や省エネルギー政策分析。1997年に入所以来、国際エネルギー経済学会やエネルギー資源学会、セミナーなどを通じてエネルギー問題の理解促進に尽力する。
大野南香(おおの・みなか)
1999年3月生まれ、愛知県出身。東京大学教養学部理科二類2年。東京大学2017年準ミスグランプリ。趣味は弾丸旅行や料理。今回は理系女子の視点からエネルギー問題に斬り込む。
高橋晴香(たかはし・はるか)
1989年1月生まれ、東京都出身。読者モデル、インスタグラマーとして活動。特技は卓球やジャズダンス。電気料金や節約術などエネルギーのあれこれを今どきの女子目線で問う。
多田恵(ただ・めぐみ)
1986年生まれ、千葉県出身。雑誌編集者。趣味は旅行や最新グルメ巡り。今回は働く女子代表として参加し、気になっていたエネルギー関連のニュースなどへの疑問をぶつける。
子供のころから身近に感じていた原子力発電所
齋藤さんが勤める美浜原子力緊急事態支援センターは、福井県の美浜町と若狭町にまたがる5つの湖・三方五湖(みかたごこ)近くにある
異動によって東京から地元にUターンした齋藤さん。「地元はやっぱりいいですね!」 物腰の柔らかさがありながら、強い意志を感じられる目力が印象的
支援センターへの異動は自身の新たな挑戦になったという
常に災害発生時を想定して高める向上心と危機意識
上からドローン、無線重機、小型ロボットと、操作できなくてはならない資機材は幅広い
施設内でドローンを操作する齋藤さん。その大きさは幅約2m、高さ90cmというから驚きだ
ドローンの操作は専用のコントローラーで。GPS機能を搭載したものは、「飛行中は比較的安定して操作できる」そう
「原子力事業者要員の方々に、資機材の操作方法などを的確に伝えられるよう、日々勉強をしています」
万が一の災害時には車両内部からドローンやロボット、無線重機を操作し、現場での対応を行う
ドローンなどの機体は入念に定期点検を行い、万が一の事態に備えている
プライドを胸に技術と精神を高め続けたい
「支援センターは発足したばかりなので、今後もしっかりと訓練を重ね、さらに操作技能を高めていきたいです」
飽くなき向上心と安全への高い意識を併せ持つ齋藤さんの今後に期待したい
年齢
|
31歳
|
身長・体重・血液型
|
170cm・62kg・A型
|
趣味
|
航空自衛隊の機体の撮影・関連グッズ集め、子供と遊ぶこと
|
好きな食べ物
|
肉、焼きそば
|
好きな映画
|
となりのトトロ、もののけ姫
|
全国各地のエネルギーにまつわる施設とその周辺スポットへ遊びに行く「エネトリ!」。今回は、瀬戸内の心和む景色が広がる香川県に行ってきました。四国有数の大きさを誇る火力発電所や、瀬戸内海を一望できる絶景スポットをモデルの有坂麗(うらら)さんがナビゲートします!
四国電力最大規模の火力発電所「坂出(さかいで)発電所」をモデルの麗さんがレポート!
瀬戸内海の絶景を上から眺められる公園
まず訪れたのは、香川の玄関口・瀬戸大橋のたもとに広がる「瀬戸大橋記念公園」。2018年に開通30周年を迎えた瀬戸大橋の全景を眺めながら、アミューズメントやスポーツなどが楽しめるレジャースポットだ。
正面に佇むのは「瀬戸大橋記念館」。瀬戸大橋建設の歴史のほか、アートと宇宙をテーマにした作品を展示している。左にそびえるのは「瀬戸大橋タワー」
公園入口から奥へ進むと見えてくるのが「瀬戸大橋記念館」。瀬戸大橋が完成するまでのエピソードを学べたり、屋上展望台で瀬戸内の風を感じられたり、この場所ならではの楽しみ方ができる。
そして、ここに来たのならぜひ訪れてほしいのが、記念館の左手にある「瀬戸大橋タワー」だ。地上から高さ108mまで上昇していく回転式展望台で、晴れた日には対岸の岡山や瀬戸内海の島々を一望する空中散歩が体験できるとあって、週末ともなれば多くの人で賑わっている。
入口から奥へと続くメインプロムナード「水の回廊」。敷石で瀬戸内海に浮かぶ諸島、噴水で瀬戸大橋の吊り橋・斜張橋を表現している
100人まで乗れる「瀬戸大橋タワー」の展望フロア、約100mからの景色。奥に見えるのが本州。所要時間は約10分、大人800円。麗「眼下に広がる瀬戸内海は、水面に太陽の光が反射してとってもキレイ。タワーからのパノラマビューは迫力満点です!」
瀬戸大橋タワーから望む瀬戸大橋。長く伸びる橋と、どこまでも続く青い海に思わずワクワク
景色を楽しんだら、次はアートはいかがだろう。瀬戸大橋記念公園は、散歩しながらアート作品に触れることができるのも魅力の一つ。園内には高松を拠点に活動していた世界的な彫刻家・故 流(ながれ)政之氏の作品「どだま獅子」をはじめ、2016年に開催された「瀬戸内国際芸術祭」に出品されたユニークな作品「八人九脚」や「階層・地層・層」などのアートスポットが点在している。
また、園内展示広場には、瀬戸大橋の架橋工事で実際に使用された巨大な機械や実物大の模型なども展示されているので、アート作品とともに30年の歴史にも思いをはせながら、園内を巡るのも楽しいはず!
架橋の橋脚となった島々の石を集めて制作した、彫刻家・流政之氏のアート作品「どだま獅子」
瀬戸大橋記念館の北側にあるアート作品「八人九脚」に座って瀬戸内海を見渡す贅沢なひと時を。瀬戸内海の島々を会場にして3年に1度開催される「瀬戸内国際芸術祭」は、次回2019年4月26日(金)から11月4日(月)まで春、夏、秋のシーズンに分けて開催される
カラフルな色づかいが気になるつり橋用のメインケーブル模型。瀬戸大橋建設に使われた機材は原寸大で展示されているので、圧巻の見応え!
四国の電気を支える海辺の火力発電所
続いて訪れたのは、瀬戸大橋記念公園から車で5分ほどの瀬戸大橋を挟んだ東側にある四国電力の「坂出発電所」。1970年に運転を開始した火力発電所で、敷地の広さはなんと甲子園球場約9個分! 合計約138万キロワットと、四国電力最大規模の発電量を誇っている。
麗「ここで四国の電気を支えているんですね。予約をすれば一般見学もできるんですって。いったいどんな場所なのか気になります!」
瀬戸大橋の東側に位置する「坂出発電所」。敷地面積は355,577㎡。香川全域の電気をつくることができるそう。一般見学は約10人~(要予約)
坂出発電所では、1~4号機が稼働。「液化天然ガス(LNG)」、「石油」、石炭から発生する「コークス炉ガス」という3種類の燃料を使って発電している。1つの施設でさまざまな燃料を使うのは、全国的にも珍しいことなのだそう。
火力発電の仕組みは、燃料を燃やしたときの熱を利用して蒸気を作り、その蒸気の力でタービンを回し、タービンにつながった発電機を回転させて電気を生み出している。
中央にそびえ立つのが2号機の煙突、その高さは88m。2号機は天然ガスを燃料として新しく造りかえられ、平成28年に運転を開始した
3号機の燃料を保管している石油タンク。麗「迫力満点のサイズですね!」
3、4号機の建屋内部にあるタービンと発電機。奥まで延びる機械群は驚きの景観
先ほど紹介した3種類の燃料の1つ「LNG」。これを使った火力発電は、四国の中では唯一、坂出発電所が行っている。LNGとは、天然ガスを冷却して液化させたもので、燃やしても硫黄酸化物や煤(すす)が発生せず、二酸化炭素の発生が少ないという環境に優しい燃料なのだ。
麗「二酸化炭素って、温暖化の原因になるんですよね。自然に優しいって、大事です!」
さらに、1号機と2号機は、ガスタービンと蒸気タービンを併用したコンバインドサイクル発電という発電効率のいい方式を使っている。つまり坂出発電所は、自然に優しいうえ、効率的にエネルギーを生み出している、素敵な発電所ということだ。
2号機建屋内部にあるタービン&発電機前で環境技術課の塚本さんが発電方法をレクチャー。実際に発電所の見学会に参加すると、発電の仕組みなどを分かりやすく説明してくれる
2号機建屋内。左の円柱状のものが発電機、中央の囲みの中が蒸気タービン、右の箱の中にガスタービンが入っている
発電所の頭脳である中央制御室では、24時間、365日、オペレーターが交代で運転している ※実際の見学会では窓越しからの見学になります
瀬戸内の夕日に包まれる癒しカフェ
瀬戸大橋周辺から車で50分ほど、香川観光では外せない高松へ移動。旅の締めくくりは、港湾にある倉庫をリノベーションしたカフェ「umie(ウミエ)」に。倉庫の2階にあるこちらのカフェは、地元や県外からはもちろん、最近では海外からの観光客も多く訪れている香川屈指の人気スポットだ。
今年で17年目を迎えるカフェ。店は2階にあり、1階には雑貨店やウエディングスペース、2018年にオープンしたチャペルなどがある
広々とした店内に入ると、細部までこだわった数々のインテリアが目に飛び込んでくる。本や雑誌がそばにある席、海を眺められる席など、思い思いに好きな席へ座れるのもこちらの魅力。
平日は11時から23時まで営業しているので、ランチ使いはもちろん夜カフェとしても使えるのが人気のポイント。JR高松駅から徒歩約15分とアクセスもいいので、瀬戸内の島巡り前に立ち寄る観光客も多いのだとか。
麗「写真映え&おいしそうなメニューがたくさん~! どれにしようか迷っちゃいます」
デザイン事務所がプロデュースしているカフェとあって、アンティーク家具が置かれた店内は、落ち着いて心地いい空間
店内のインテリアも乙女心をくすぐるアイテムがたくさん置かれており、SNS映えもバッチリ
umie自慢のビーフシチュープレート 1,200円は、ベーグル、サラダ、ポテトにヨーグルトも付いてボリューム満点!(ドリンクは別)
店内奥には、大人数でもゆっくりとくつろげる広々としたソファー席も完備
umieで一番人気の席は、瀬戸内海を見渡せる窓辺のカウンター。早いもの勝ちの特等席で、雄大に広がる瀬戸内海と島々が織りなす多島美を眺めることができるのだ。広大な海を見ているだけで、自然と癒されてしまうから不思議。
昼の海も格別だが、一番の見どころは瀬戸内海の夕暮れ。夕方前に行って席を確保したら、遅めのおやつを食べながら、美しく変化する夕焼け空を眺めてみてほしい。
オーダー後に焼き上げるプレーンスコーン1個250円は、外はカリッ、中はしっとり柔らかくて絶品
焼き上がりの甘い匂いに、ついついランチ後でも別腹でぺロリと食べてしまう
広大な海を一望できる人気のカウンター席は、umieの特等席となっている
夕刻には、瀬戸内海に沈む夕日の移ろいゆく美しい姿を見ることができる
瀬戸内海に広がる絶景を楽しめる香川。この秋は、エネルギーを充電しに香川に出掛けてみてはいかが?
※表示価格は全て税込です
今回訪問した施設
瀬戸大橋記念公園
住所:香川県坂出市番の州緑町6-13
電話: 0877-45-2344
http://www.setoohhashi.com/
四国電力株式会社 坂出発電所
住所:香川県坂出市番の州町2
電話: 0877-46-3995
https://www.yonden.co.jp/energy/p_station/thermal/index.html#s06
umie
住所:香川県高松市北浜町3-2
電話: 087-811-7455
http://www.umie.info/index2.html
私たちの暮らしに欠かせないエネルギー。便利な暮らしを支えてくれるエネルギー業界の現場では、女性も重要な戦力として活躍しています。彼女たちがどんな仕事をしているのか、どんな思いを持っているのか、その仕事ぶりにスポットを当てます。プライベートとのギャップにも注目!
【今月の密着人】
中国電力株式会社 電源事業本部 石炭灰有効活用グループ 立花美咲さん(23歳)
電源事業本部石炭灰有効活用グループ所属の立花さん。現在の部署に配属されて半年足らずだが、本社でのデスクワークや発電所への出張など、忙しい毎日を送っている
海と山に囲まれ、「水澄みの里」と称される島根県浜田市三隅町(みすみちょう)。白砂青松(はくしゃせいしょう)の日本海沿岸の景観に溶け込む建屋が印象的な中国電力・三隅発電所は、国内最大級の発電設備を持つ石炭火力発電所だ。
中国電力は、「省エネルギー・省資源型の発電所」をコンセプトに、3R(リデュース・リユース・リサイクル)の推進にも積極的に取り組むなど、資源を有効活用する循環型社会の形成に力を入れている。その一環として行っているのが、石炭灰を使った製品の研究開発と製造。この業務を推進するグループに立花さんは所属している。
三隅発電所内、石炭を貯蔵する世界初の大型鋼製角型集合石炭サイロ。これにより炭塵(たんじん)飛散防止対策など、環境保全対策も抜かりなし
中学校を卒業後、地図に残るような仕事がしたいという思いを抱き、地元の高等専門学校の土木建築工学科へ進学。
立花さん「入学当初は建築志望だったんです。でも、いろいろと学ぶうちに土木方面への興味が芽生え、4年次に進級するタイミングで土木を専攻するようになりました」
抱いた思いを胸に就職活動をした結果、縁あって中国電力へ入社した。高専での学びを生かせる土木課へ配属となり、約3年間は水力発電所の運営・管理に励む毎日だった。
学生時代から環境問題や再生可能エネルギーに興味があったという立花さん
2018年2月、立花さんは自身が希望する電源事業本部石炭灰有効活用グループへ配属されることになる。石炭灰とは、火力発電を行う際に発生する灰のこと。中国電力では、大量に発生する石炭灰を使った製品の研究開発に力を入れており、その業務を担っているのが、立花さんが所属している石炭灰有効活用グループだ。
立花さん「業務範囲は結構幅広いんです。石炭灰製品の品質確認はもちろん、製造設備の維持管理や活用状況のモニタリング調査、製品のPRにも携わっています」
石炭火力発電で燃料となる石炭、発生する灰、Hiビーズ(写真中央)。中国電力での火力発電に伴い発生する石炭灰は年間約70万トン(2017年度)。その20%にあたる約14万トンの製品化に成功している
中国電力が手掛ける石炭灰製品のなかでも、環境を修復する資材として脚光を浴びているのが「Hiビーズ(ハイビーズ)」だ。石炭灰にセメントと水を混ぜて造るこの製品は、海や河川における悪臭の原因となる硫化水素や、赤潮を引き起こす窒素やリンの発生を抑える特性がある。
三隅発電所の敷地内にあるHiビーズの製造場所。発電所のボイラーから電気集じん器で集められた石炭灰は、この設備でセメントと水を混ぜられて、Hiビーズに仕上げられている
Hiビーズの主原料は石炭灰のため、目に見えない細かい穴がたくさんある構造で、石よりも軽いのが特徴。また、軽いだけでなく、手では砕けない程に硬い
立花さん「通常は、広島にある中国電力本社でHiビーズの製造に関するレポートをチェックするなど、マネージメント業務が中心ですが、多いときは週に1度、三隅発電所を訪れ、現場担当の方々とのミーティングや設備の修繕時の立会いなどをしています」
三隅発電所への出張の際は、Hiビーズの製造に携わっている部署と綿密にコミュニケーションを図る
Hiビーズは島根県が認定する「しまねグリーン製品」に選ばれるなど、現代の環境問題を解決する一助になる製品として、行政などからの期待値は高い。
島根、鳥取にまたがる汽水湖(きすいこ)、中海(なかうみ)の再生事業で、その効果は大いに発揮された。中海の一部では、もともと生息していた二枚貝がごく限られた区域でしか確認できないほど湖底の水質が悪化していたが、Hiビーズを湖底に投入することで水質の改善に成功。再び二枚貝が生息するようになるなど、着実に成功事例を増やしている。
立花さん「石炭灰製品は、徐々に活用事例が増えてきているものの、認知度はまだまだ。だからこそ、私たちが活用状況のモニタリング調査を行い、その結果を学会などで発表することが石炭灰製品の用途拡大につながると信じています」
土木学会で研究発表する立花さん。現在のHiビーズは、海砂の代替材としての使用が主用途だが、アサリなどの二枚貝の生息基盤として水産分野への展開にも力を入れている
石炭灰有効活用グループに配属されて、わずか半年ほどの立花さん。2018年5月に開催された土木学会中国支部での研究発表が優秀賞に選ばれるなど、携わった仕事が認められる機会に恵まれているという。
立花さん「土木学会で発表した資料は、上司や周りの方々に何度も添削していただき、2カ月ほどかけて完成させた力作です。石炭灰製品を全く知らない方にもしっかりと理解していただけるように、分かりやすい言葉を使ったり、図を入れたり、試行錯誤して作成した資料でした。それが優秀賞受賞という形で評価されたことは、それ以降の業務を進めていくうえで大きなモチベーションになっています」
現在は、より高いレベルの業務に携われるように2級土木施工管理技士の資格取得を目指している。
立花さん「今の部署の仕事をまっとうするのはもちろんですが、いろいろな分野を経験して常に成長し続けていきたいですね」
出張での移動が多いため、仕事ではビジネスカジュアルスタイルが多いそう。後ろにそびえるのは国内最大規模の出力を誇る三隅発電所1号機
立花さんは今年5月に結婚するなど、プライベートも充実。現在は、広島市内で新婚生活を送りながら、1時間ほどかけて中国電力本社に通勤している。
立花さん「休日は、リフレッシュを兼ねて必ず外出しています。買い物が好きなので、町に行くと化粧品などをついつい衝動買いしてしまうのが悩みですね(笑)」
学生時代は陸上部で走り幅跳びを専門に活躍していたこともあり、今でも年に数回ファンランニングに参加する。福岡や愛知のランニングイベントに旅行を兼ねて参加したこともあるそう
公私共に充実している今、最後にこれからどのように働いていきたいか聞いてみた。
立花さん「ワークライフバランスをしっかりと図りながらキャリアを積んでいきたいですね。今、女性の先輩方にいろいろな話を聞いているところです」
電力の供給がメイン業務と思われがちな電力会社だが、発電や送電に直接関わる仕事以外のキャリアもあることを教えてくれた立花さん。今日も石炭灰を使ったHiビーズの伝道者として、地球の環境を守るために奔走している。
★立花美咲さんプロフィール
年齢 |
23歳 |
星座・血液型 |
さそり座・B型 |
趣味 |
ショッピング |
好きな食べ物 |
トマト |
好きな音楽 |
加藤ミリヤ、西野カナ |
好きな芸能人 |
森星 |
元SDN48で、現在は家電製品アドバイザーとして活躍する奈津子さんが、実際に使って試した今イチオシの家電をご紹介。 美容家電やオシャレ家電、調理家電など生活を豊かにしてくれるアイテムの中から、季節やシーンに合わせたカテゴリーをピックアップ。お気に入りを見つけて、家電ライフを満喫しよう!
家電アドバイザーの資格も取得する女優・奈津子さん。今回、試したのはワッフルメーカー。「スイーツは気分が上がります!」(奈津子)
【10月のテーマ:ハロウィンパーティーにもぴったり!かわいくておいしいワッフルを作ろう/ワッフルメーカー】
アツアツのできたてワッフルがおうちで楽しめるワッフルメーカー。生地を流し込んで電源を入れるだけで簡単に焼き上げることができます。おやつタイムはもちろん、いろいろなトッピングを用意してハロウィンなどホームパーティーでも活躍してくれるアイテムです。シンプルにワッフルの焼き上がりを追求したタイプ、プレート(型)を変えられるタイプ、ワッフルをお菓子だけでなく料理にアレンジできるタイプなどさまざまな商品をご紹介します。
試したのは右からビタントニオ「ワッフル&ホットサンドベーカーVWH-200」(カラー/ブラック)、クイジナート「縦型ワッフルメーカーWAF-V100J」、レコルト「ワッフルボウルメーカーRWB-1」。
■プレートを変えてホットサンドやたい焼きも楽しめる!ビタントニオ「ワッフル&ホットサンドベーカーVWH-200」
プレートを変えることでいろいろなスイーツが楽しめる人気のアイテム。900Wのハイパワーで、予熱後、3~4分でワッフルが焼き上がる。外はカリッ、中はフワッとしたワッフルを楽しむことができます。標準でワッフルプレート、スクエアホットサンドプレートの2種のプレートが付属するほか、別売りのものを含めて取り替えて使えるプレートは全13種類。ドーナツ、パンケーキ、パニーニなど1台で様々なスイーツやサンドイッチなどを作れます。
手前がワッフルプレート、奥がスクエアホットサンドプレート。本体カラーはブラックのほかにホワイトがある。
取り替えられる別売りのプレートの一部。右から「ポワソンプレート」「カップケーキプレート」「マドレーヌプレート」「パニーニプレート」。プレートはフッ素加工されていて焦げ付きにくい。
プレートの付け替えは、ロックを押してプレートを引き出し、取り付けるプレートのツメを差し込んでカチッというまでプレート全体を押すだけ。「付け替えがラクなのがうれしいですね」(奈津子)
予熱(約5分)完了のランプが灯ったら、プレートに溶かしバター(または油)を塗って生地を流し込み…
3~4分待ってふたを開けると…「キャーッ! 焼き上がりました?」(奈津子)。
「カリッと焼き上がりました!」(奈津子)。厚みもあり、お店で売られているような焼き上がりに興奮。
奈津子「ワッフルらしい形の深型のプレートで、ボリュームのある1枚が焼けますね。想像していたよりも焼き時間が短いことに驚きました。続けて何枚か焼いてみんなで楽しめますね」
たっぷりの生クリームをのせてチョコレートソースをかけて。おうちカフェ気分で楽しめる。
ポワソンプレートに付け替えてお試し。「形がかわいい! 中にあんを入れて焼いたらミニたい焼きが作れます」(奈津子)
奈津子「ワッフルだけではなく、プレートを付け替えることでいろいろな種類が楽しめるのが、一番の良さだと思います。ホットサンドやパニーニなど食事メニューも作れますね。プレートを外して直接水洗いができるのもお手入れがしやすいです。使用すると熱くなるのでプレートの取り外しや付け替えには注意をしてください」
■縦置きのまま使えるので省スペース!クイジナート「縦型ワッフルメーカー WAF-V100J」
縦型に置くことで省スペースを実現したワッフルメーカー。プレートは焦げ付きにくいノンスティック加工で、均一にむらなく焼き上げられるよう設計。低温から高温まで5段階の焼き加減を選ぶことができ、カリッとした食感、ふんわりした食感など好みに仕上げられる。予熱完了をランプで、焼き上がりはランプとブザーで知らせてくれるのも安心です。
縦型というほかにないコンセプトで省スペースを実現。
ふたはロックを外して手前に開く。お手入れの際はブラシなどでプレートの溝の汚れをかきだし、ペーパータオルなどで拭き取る。
奈津子「本体が省スペースなのは、一人暮らしなどの小さめのキッチンにもうれしいですね。どっしりとした重厚感とデザイン性があり、本格的な雰囲気です」
プレートに油を塗る必要はありません。予熱が終わったら本体上部から、計量カップ(または付属している専用カップ)で生地約200㏄(目安)を流し込む。「プレートの周りに生地が垂れたりしないので、すごく入れやすい!」(奈津子)
覗くと生地が見えるので、ワクワク♪ 焼き上がりに期待が膨らむ。
約3分後、ピーピーピーピーピーと音が鳴り、できあがり!
「丸型のワッフルがムラなくこんがりと焼けました! 中央に十字に切れ目が入っているので切り分けやすいです」(奈津子)
フルーツや生クリームを添えてパクッ。「んん~、おいしい!お店で食べているみたい」(奈津子)
チョコレートチップ、ハムなど具を混ぜたりしても使え、甘いワッフルから食事用ワッフルまでアレンジできます。
奈津子「使い方がシンプルで、生地も入れやすいのでストレスなく調理できました。予熱から焼き上げまでスピーディーに、本格的な一枚を焼き上げてくれるのは、さすがワッフル専用なだけはありますね。できあがりが音でわかるのでうっかり焼きすぎてしまうことが防げるのは、ほかの商品にはない安心感です」
■ワッフルをボウル型に焼き上げてくれてスイーツにもごはんにも使いやすい!レコルト「ワッフルボウルメーカー RWB-1」
ワッフル生地を深さのある器型に焼き上げ、いろいろなトッピングをして楽しめるワッフルボウルメーカー。レシピブック付きで、オーソドックスなワッフルから白玉粉入りの生地、食パンや麺を使った生地もボウルにできるので幅広い調理が楽しめます。スイーツだけでなく、ハムやチーズを入れてブランチにと好みのアレンジを楽しみたい。
ころんとした形がかわいい「ワッフルボウルメーカー」。カラーはレッドのみ。
プレートは焦げ付きにくいノンスティック加工。下のプレートが凹型、上のプレートが凸型になっているので、ワッフルの器を焼くことができる。お手入れにはクッキングブラシや乾いた布で汚れを拭き取って。
ランプが消えたら予熱完了。生地の量でS~Lサイズのボウル型ができる。油を敷いて生地を流し込もう。
オーソドックスなワッフル生地は、2分半~3分半でできあがり! 好みの焼き加減を見つけるのも楽しい。
「深さがあるからいろいろトッピングができますね~」とデコレーションを楽しむ奈津子さん。
できあがり♪ インスタ映えが狙えそう!
「せっかくだからこのまま食べちゃおう♪」と器型ワッフルにかぶりつく奈津子さん。
奈津子「ボウル型という発想がおもしろいですね。生地を何枚か焼いておいて、生クリーム、アイスクリーム、フルーツ、ジャムなどいろいろそろえてトッピングパーティーをしてみたい! お腹のすき具合や作りたいものによって生地の大きさが変えられるのもいいですね。少量の生地はレードル(おたま)よりもスプーンの方が流し込む量を調節しやすいです」
こちらは焼きそば麺を混ぜ込んだ生地に中華あんをトッピング。奈津子さんも「もっちりした生地ですごくおいしい!」と大喜び。
奈津子「ワッフルメーカーらしからぬ丸みのあるフォルムと色で、見た目がかわいくてキッチンのアクセントにもよさそうですね。甘い物だけでなく食事メニューにもアレンジしやすく、コスパがよいです。マンネリしがちな毎日の献立に変化をつけられるので、小さなお子さんもごはんを飽きずに楽しんでくれそうです」
焼き上がりのワッフルの形、焼き加減、アレンジ方法など各社でバラエティに富んだワッフルメーカー。
奈津子「おやつや食事の時間を何倍にも楽しくしてくれる調理家電です。アイデア次第でいろいろアレンジがきくので、女子会でワイワイ楽しみたいですね。結婚祝いや引越し祝いなど、ギフトにもピッタリだと思います」
奈津子
女優・タレントとして活躍する傍らで家電製品総合アドバイザーの資格を取得。独自の視点によるレビューを多くの連載やTVで発信中。毎週火18時頃TOKYO FM「スカイロケットカンパニー」生放送、21時~テレビ東京系列「開運!なんでも鑑定団」にレギュラー出演中。オフシャルインスタグラム@natsuko_kaden。 オフィシャルブログ「ナツアキブログ」
2018年4月に「長崎温泉やすらぎ伊王島」(長崎県長崎市)から、シーカヤックなどのマリンアクティビティや全天候型BBQガーデンといったアクティビティが充実したエンターテインメントリゾートとして生まれ変わった「i+Land nagasaki(アイランドナガサキ)」。長崎市内から車で約40分でアクセスできる同施設のなかでも、新たな目玉として話題を集めているのが“体験型マルチメディア・ナイトウォーク”が楽しめる「ISLAND LUMINA(アイランド ルミナ)」だ。
陽が沈んだ森を舞台に大冒険を繰り広げる「ISLAND LUMINA」を、流行に敏感な松岡みずきさんと柏木美智子さんがレポート。「夜の伊王島は初めて。幻想的な体験ができると聞いてとっても楽しみです」と期待を胸に、伊王島へ!
「ISLAND LUMINA」がスタートする前に、周辺エリアを散策。「海の香りと風が気持ちいい」(左・柏木さん)。「冒険って聞いただけでワクワクするね」(右・松岡さん)
「光と音、映像を使ってこんなにスゴイ体験ができるなんて驚きました。エネルギーの力ってすごいな~と改めて実感!」(松岡さん)「最新の技術と自然が融合しているところが魅力だなと感じました。自然を生かした環境づくりはこれからも重要になってくると思うので、とてもステキな体験ができました」(柏木さん)
最後に今日のワクワク度を電力にかけて評価♪ テンションMAXを100ワットとするとどれくらい?
「100ワットどころか100ギガワットです(笑)」(松岡さん)
「もっとユラちゃんと冒険を続けたいので、あえて90ワット!」(柏木さん)
幻想的な世界とフォトジェニックな演出が散りばめられた「ISLAND LUMINA」。SNS映えはもちろん、「i+Land nagasaki(アイランドナガサキ)」にはホテルやスパ、マリンスポーツ体験など様々なレジャースポットがあるので、ぜひ足を運んでみて!
レポーター
-
柏木美智子
instagram: @michiko_cge
Twitter: @michiko__1223
東北電力株式会社 新潟電力センター 倉石澄人(くらいしきよと)さん(27歳)
失われて気付いた電気の大切さ
東北6県と新潟県の電力を発電し、供給する東北電力株式会社。2018年4月で入社4年目を迎えた倉石澄人さんは、新潟県下越地方を管轄する新潟電力センター制御所で、発電から配電までを統合したシステムである電力系統の監視や制御の任に就いている。
身長185cmのスマートなモデル体型で、物腰は柔らかく、その優しさが笑顔から伝わってくる。学生時代から続けているバドミントンで鍛えられた鋭敏な判断力は、職務にも生きているという。
そんな倉石さんがエネルギー業界に興味を持ったのは、2011年に起きた東日本大震災がきっかけだった。
倉石さん「当時はまだ大学生で、仙台で一人暮らしをしていました。震災直後から電気などのライフラインが全て止まり、いつ復旧するかも分からない状態で、ものすごく不安な時間を過ごしていたことを、今でもはっきりと思い出します」
落ち着かない日々が続く中で、最初に復旧したのが電気だった。
倉石さん「電気がついたときは、本当にうれしくて……。普段何気なく使っているエネルギーが、どれだけありがたいものなのかを実感した瞬間でした」
それ以来、電力に興味を抱くようになった倉石さん。大学では電気工学を学んでいたこともあり、東北電力へと進むことを決めたという。
安全かつ的確・迅速、送配電の要を担う仕事
倉石さんの職場は、24時間365日稼働する新潟電力センターの制御室。4人1組、計5班による交替体制で、地域の電気の流れをチェック、またコントロールしている。日々、発電所から家庭までは送電線・配電線を通して電気が送られているが、その間で、発電所でつくられた高電圧の電気は、家庭用などに向けて低圧に変圧されている。
倉石さんは、6万6000Vから6600Vに変圧される区間を担当し、変電所や送電線、配電線などの状況が表示される系統監視盤に目を光らせながら、担当区間内の全ての設備で、電力の供給に支障がないかを監視している。
倉石さん「制御室にある系統監視盤には、事故で停電している箇所や、点検作業のために停止している箇所がリアルタイムで表示されています。その該当箇所で、何が起きているのか、どんな作業が行われているのかといった正確な情報を集め、電力の復旧、停止を遠隔操作し、またどの部門と連絡を取るべきか、というような多くの判断を下しています」
停電が起きた際には、正確さと緻密さに加え、当然のことながら一秒でも早く復旧させるための迅速性も求められる。
倉石さん「送電線や変電所など、多い日には30件の点検作業が展開されます。複数箇所から多くの情報が集まってきますが、一歩間違えれば重大な事故につながりかねません。最悪の場合は管轄エリアの商業ビルや中規模工場、各家庭などで大規模停電という事態になってしまいます」
不測の事態を起こさないために重要なのは、正確で早い情報のやり取り。社内の連絡手段は、電話が常だという。
倉石さん「大切なのは、一本の電話で正確に情報を把握すること。そして同じように、相手にも的確な情報を分かりやすく説明することです。そのため、社内では必ず時間、場所、事故の原因または作業の目的と内容、回線名の順序で話すように徹底しています」
また、いつどこで起きるか分からない自然災害による事故への対応も、気を抜くことができない。
倉石さん「冬の豪雪や日本海の塩分を含む強風をはじめとした、この地域特有の気候を把握することは不可欠。送電線に積もった雪の影響で上下の線が近づいて短絡事故(ショート)が起こったり、塩分を含んだ雨や雪によって電線が絶縁不良になって地絡事故(アース)になったりすることが多いです。学生時代に住んでいた仙台とは気候が全く違うので、最初は戸惑いましたね」
日本の電力を守るエキスパートになりたい!
倉石さんの仕事に対する熱意や向上心は、この4年間で年を追うごとに高まっているという。休みの日にも気象情報を欠かさずチェックするのは、その表れの一つだそう。
倉石さん「特に意識しているのは、警報や注意報。また、夏場は毎日のように落雷による短絡や地絡事故が起こるので、発雷情報にも常に目を向けています」
社内にも独自の気象予報システムがあり、日々のデータが記録されている。それらの情報を欠かさず得ることで、事故を予測、想定するための勘が養われるという。
倉石さん「情報を集めながら、これまでの経験を反芻することで、実践では焦らず対処できるようになりました。また社内でも事故を想定した訓練やトレーニングを定期的に行って、不測の事態に備えています」
そして、倉石さんがこの仕事に就いて一番印象に残る出来事は、そうした努力や訓練が実を結び、仕事への自信と誇りを手に入れた一日だったと教えてくれた。それは2017年度冬、新潟を豪雪が襲った日だった。
倉石さん「ものすごい強風と大雪でした。一晩で1m以上の雪が積もり、100件ほどの事故が起きたんです。深夜1時から朝7時まで電話は鳴りっぱなし、制御室内は大声が飛び交い、私も必死で対応しました。何とか朝までに全てを復旧させ、停電を最小限にとどめられたときは、思わずチームのみんなで互いに健闘をたたえましたね。『ありがとう』と言い合ったことが、強く心に残っています」
朝までに電力を復旧させた。それは、2011年に倉石さんが経験した不安感から、管轄エリアに住む人々を守ったとも言える。電気はあって当たり前。しかし、その裏には彼らの奮闘があってこそ成り立っていることを忘れてはいけない。
「将来的には新潟県だけでなく、東北全域を管轄する中央給電指令所、ひいては北海道電力や東京電力など他地域の電力会社と連携して日本の電力を守る広域的な運用機関での業務に携わりたいです」と、倉石さんは力強く爽やかな笑顔で今後の目標を語る。
ちなみに休日は、バドミントンで汗を流してリフレッシュする傍ら、カフェで資格試験の勉強と、努力も怠らない。休みの時間も有効活用するとは、まさに非の打ち所がない。
倉石さん「でも、全然そんなことはなくて……お酒を飲み過ぎてしまうこともあります(笑)。新潟の冬は厳しく危ないので、飲み過ぎには注意しています」
自分の失敗を語るときもやわらかな笑顔は絶やさず、かわいらしい一面として魅力に変えてしまう倉石さん。日本のエネルギー業界のさらなる発展に尽力したいという情熱を抱く、彼の今後に期待したい!
年齢 | 27歳 |
趣味 | バドミントン、お酒を飲むこと |
好きな食べ物 | ラーメン、米、甘いもの |
好きな映画 | ジブリ作品 |
好きな音楽 | Bruno Mars、Maroon5 |
好きな芸能人 | マツコ・デラックス |
元SDN48で、現在は家電製品アドバイザーとして活躍する奈津子さんが、実際に使って試した今イチオシの家電をご紹介。 美容家電やオシャレ家電、調理器具など生活を豊かにしてくれるアイテムの中から、季節やシーンに合わせたカテゴリーをピックアップ。お気に入りを見つけて、家電ライフを満喫しよう!
家電アドバイザーの資格も取得する女優・奈津子さん。「もしもの備えにもなるアイテムをチェックしましょう」
【9月のテーマ:普段はアウトドアで活躍!! もしもの時に備える防災/アウトドアグッズ】
奈津子
女優・タレントとして活躍する傍らで家電製品総合アドバイザーの資格を取得。独自の視点によるレビューを多くの連載やTVで発信中。毎週火18時頃TOKYO FM「スカイロケットカンパニー」生放送、21時~テレビ東京系列「開運!なんでも鑑定団」にレギュラー出演中。オフシャルインスタグラム@natsuko_kaden。 オフィシャルブログ「ナツアキブログ」
全国各地のエネルギーにまつわる施設とその周辺スポットへ遊びに行く「エネトリ!」。第3回は古き良き魅力溢れる京都。今回は、石畳の街並みや歴史を感じられる蹴上(けあげ)発電所がある東山エリアを散策しました。
関西で活躍するモデルの野乃花さんがレポート!
四季折々の自然の移ろいも楽しめる蹴上発電所などを野乃花さんがナビゲート!
きな粉専門店のSNS映えする和パフェ
まず訪れたのは、京都にあるきな粉専門店の老舗「吉祥菓寮 祇園本店(きっしょうかりょう ぎおんほんてん)」。こちらは、こだわりの自家製きな粉をかけた本わらび餅や季節限定のパフェなどが楽しめるとあって、スイーツ好き女子の間で話題になっている。
地下鉄東西線東山駅から徒歩5分ほど。東大路通沿いの知恩院前交差点に、古民家をリノベーションしたスタイリッシュな店構えが見えてくる
1階の販売フロアでは、自家製きな粉をはじめ、さまざまスイーツが購入可能。野乃花「見た目もかわいい!おいしそうなお土産がたくさんあって迷っちゃいます」
1階は販売フロアになっており、名物の「本わらび餅」(小、1,080円)や「焦がしきな粉のロールケーキ」(1,404円)など、京都土産にぴったりな和スイーツが並ぶ。スイーツ以外にも、大豆を焙煎して香りを高めた「自家焙煎きな粉」(486円~)も販売、種類も豊富だ。1階で購入して、2階にあるティールームで食べることもできる。
モダンな空間に調和したランプシェードや、デザインの効いた窓など、インテリアも魅力的
2階のティールームは、町家を改装した和モダンな空間。広々としていて席数こそ24席もあるが、平日でも整理券がないと入れないほど人気が高い。毎日、午前10時から整理券が配布されるので、まずは早めに訪問してゲットしよう。
街歩きのひと息にピッタリなのが、一番人気の「焦がしきな粉パフェ」(1,080円)。ふわふわのきな粉の下に焙じ茶ゼリーやきな粉アイスなど、きな粉専門店ならではの中身が。
野乃花「和の味わいがやさしくて、スプーンが止まらない!メレンゲのサクッとした食感もクセになりますよ」
店で人気の「焦がしきな粉パフェ」(数量限定)。オリジナルの黒みつをかけて味の変化を楽しんで
パフェの上には自家焙煎のきな粉がたっぷり。焼いて固めたメレンゲを割ってから食べよう
野乃花「きな粉の香りがふわって広がります!やさしい味でとってもおいしい~」
パフェの次に人気が高い名物の「本わらび餅」(810円)。ドリンクセットなら100円引きのうれしいサービスも
今も現役で稼働する日本初の事業用水力発電所
続いてやってきたのは、京都の閑静なエリア左京区にある「蹴上(けあげ)発電所」。
琵琶湖疏水で得た水力を有効活用するために建設され、1891(明治24)年5月から2機の発電機で運転をスタート。事業用としては日本初となる水力発電所であり、驚きなのは120年以上たった今なお“現役の発電所”として京都の町に電気を送り続けていることだ。
野乃花「普段なかなか見ることができない発電所か~ワクワクします!」
レトロモダンな建築物が見られる蹴上発電所。1912(明治45)年の建設当時からそのままの姿で残っており、歴史を感じることができる
120年以上の歴史を持つ蹴上発電所だが、実は所内を見学できるようになったのは、2018年3月からと最近の話。料金は無料、週1回(毎週金曜10:00~11:00と13:30~14:30)、完全予約制(各回20人)というプレミアム感もあって、すでに10月分まで予約が埋まっているそう。
見学コースは約60分。室内で発電所の歴史や施設の説明を受けたら所内をぐるっと回り、1912(明治45)年に竣工したレンガ造りの第2期蹴上発電所(旧発電所)、現役稼働中の発電機などを見ることができる。
重厚感のある第2期蹴上発電所。中には入れないが、レトロな建屋の写真映えは確実!野乃花「これは最高のロケーションです!」
琵琶湖疏水から発電に使う水を引き込む水圧鉄管。その大きさはなんと直径2.8m!
野乃花「レンガ造りの建物と水圧鉄管、緑の木々がマッチしていて、何だか落ち着きます!」
ちなみに、蹴上発電所はその歴史的価値が認められ、2016年に世界的な電気・電子技術の専門家組織から「IEEEマイルストーン」に認定されている。これは電気・電子などの関連分野で開発完了から25年以上経過し、社会や産業の発展に貢献したイノベーションを表彰するもの。つまり、世界的にその価値と功績を評価されている施設ということだ。
野乃花「IEEEマイルストーンの認定は、日本の電力会社では黒部ダムのある黒部川第四発電所に続いて2つ目、京都の建造物では初めてなんだって。すごいですね!」
認定時に贈呈された「IEEEマイルストーン」の銘板。後ろにあるのは「水力発電事業発祥之地」の石碑
現役で稼働している発電所は、その昔から変わらず琵琶湖疏水を利用して発電している。「取水口(しゅすいこう)」という場所から水が引かれ、「水圧鉄管」という管を通って発電所の内部へ。現発電所である第3期蹴上発電所の水車発電機で発電された後は、水を水路へ再び戻し、次の発電所で再利用されている。
そして、見学コースのメインとなるのが、現発電所内で稼働している水車発電機。その巨大さと轟音は壮観の一言だ!
第3期発電所の内部。野乃花「発電機を間近で見るなんて初めてです!直径4mくらいあるのかな……上から見ると、大きさと音がすごい!」※通常の見学会では安全上、ヘルメットを被ります
現役で稼働する発電機を上部から見学することが可能。円柱状の発電機の地下部分では水車が回っている
現発電所の裏側には、発電に使用した水を放水する放水口がある。モダン建築を思わせるアーチ型が印象的だ
野乃花「見学コースでは、いろいろ見て回りながらスタッフの方が解説してくれるので、蹴上発電所の歴史や水力発電の仕組みがよく分かります。発電所って結構面白いですね!」
浴衣が映えるはんなり東山散歩
涼しくなってきたら浴衣に着替えて東山散策はマスト!東山周辺は、観光地だけにたくさんのレンタル着物ショップが建ち並んでいる。中でもおすすめなのが、写真映えすること間違いないモダンな浴衣や着物をラインナップする「Curun(くるん)」だ。
高台寺公園近く、東大路通沿いにある3つ並んだ丸窓が目印の「Curun」。2,700円~浴衣をレンタルできる
著名人などの衣装を制作してきた着物ディレクターが、どこよりも可愛い着物をリーズナブルに楽しんでもらいたいと2015年にオープン。ブランド着物を低価格でレンタルできることが魅力で、キャリアのある専門スタッフが常駐しているため、着付けは着崩れなし!また隣にフォトスタジオを併設しており、雨天時には無料で使えるといううれしいサービスも。
ズラリと並ぶ鮮やかな浴衣。野乃花「かわいい柄がありすぎて、1つに決められません!」
浴衣に合わせてセレクトできる帯もモダンでオシャレな柄がそろう
早速浴衣に着替えて東山散策へ。着付け代はレンタル料金に含まれており、夏にはうれしい日傘の貸し出しも
「Curun」から5分ほど歩くと、清水寺と八坂神社の中ほどにある「夢見坂」と呼ばれる通りに。オシャレなコーヒーショップやおみやげやさんが軒を連ね、散策には最適な場所だ。
野乃花「落ち着いた石畳の街並みは京都らしい雰囲気が満載。ここから見る八坂の塔のアングルは絶景です!」
夢見坂を上がっていくと目の前には八坂の塔が。京都・東山のシンボル
夢見坂に来たら、必ず立ち寄りたいのが「八坂庚申堂」。入るとすぐに目に入るたくさんのカラフルな丸い物体!その正体は「くくり猿」という願掛けお守りで、願いをかけて欲を1つ我慢すると願いが叶うのだという。くくり猿は、猿が手足をくくられて動けない姿を表しており、心をうまくコントロールできている良い状態を象徴しているのだそう。
野乃花「インスタグラムでよく見る写真はここだったんだ~。私も浴衣でバッチリ決めていいね!を狙いたいな」
最近はSNSブームもあり浴衣や着物を着た若い女性がたくさん!平日でも混雑しているのだとか。色トリドリのカラフルな背景は着物や浴衣との相性抜群だ。
赤、青、緑、橙、黄色など種類は豊富。カラフルなくくり猿に文字を書いて願掛けを。日付の記入は必須
本堂の手前にあるお堂に、たくさんのくくり猿がぶら下がっている。カラフルなお守りがなんともフォトジェニック
野乃花「くくり猿のほかにも、見ざる、言わざる、聞かざるの3匹の猿が境内のいたるところに隠れているらしいですよ。御朱印にもいるとか!?」
浴衣で歩いているだけで絵になる東山の街並み。はんなり京美人を体験して
歴史的建造物も多く、歩いているだけで町に根差したエネルギーを感じられるのは京都ならでは。この夏は京都にプチトリップをしてみてはいかが?
※表示価格は全て税込です
今回訪問した施設
吉祥菓寮 祇園本店
住所:京都市東山区古門前通東大路東入ル石橋町306
電話: 075-708-5608
https://kisshokaryo.jp/
関西電力株式会社 蹴上発電所
住所:京都府京都市左京区粟田口鳥居町2
電話: 075-205-5352(蹴上発電所見学会受付窓口)
https://www.kepco.co.jp/energy_supply/energy/newenergy/water/plant/tour_keage/index.html
京都着物レンタル Curun(くるん)
住所:京都市東山区毘沙門町39-2
電話: 075-531-5525
https://kimono-cucuru.jp/
八坂庚申堂
住所:京都府京都市東山区金園町390
電話: 075-541-2565
※前編の記事はこちら
今、日本のエネルギー事情がどうなっているのか、最前線で活躍する先生が分かりやすくレクチャーする「エネスタ!」(Energy Study!)。後編も引き続き、日本エネルギー経済研究所の小川順子先生に、エネルギー問題について教えてもらいました。「エネルギーは投資に近い」という小川先生。理系女子大生の大野南香さん、読者モデルの高橋晴香さん、働く女子の多田恵さんの女子代表3人が疑問をぶつけます!
先生「前回は、日本のエネルギー自給率の問題から原子力発電所の必要性などについてお話ししました」
多田「それで、原子力も必要だってお話しでしたが、再生可能エネルギー(以下、再エネ)でエネルギー自給率の問題をある程度解決できるなら、全て再エネにすればいいと思うのですが……」
先生「やっぱりそう思いますよね。確かに再エネは、自然の力なので燃料費はかからないし、100%国産のエネルギーで、地球温暖化対策としても申し分ありません」
高橋「じゃあ、再エネをどんどん増やしていけば、原子力の再稼働はしなくて済む?」
先生「そう簡単にはいかないのです。例えば、原子力と、太陽光、風力といった各発電所の敷地面積に対する発電量を比べると……」
出典:経済産業省資源エネルギー庁「原発のコストを考える」
大野「原子力と太陽光で約100倍も違うのですか!?」
先生「原子力発電所の年間発電量を太陽光発電でまかなおうとすると、山手線の面積ほどのパネルが必要になります。風力発電にいたっては山手線の3.4倍。それを設置する敷地やコストなどを考えると非現実的ですよね。再エネと火力発電を比べても同様で、全てを再エネにすることは難しいのです」
大野「でも、エネルギー自給率などを考えると、再エネの比重はもっと増やしてもいい気がします」
先生「そういう考え方もありますね。では、これまでは日本全体の話でしたが、家庭の電気料金の話もしましょうか」
多田「それは、かなり気になります!」
先生「『再生可能エネルギー発電促進賦課金(以下、再エネ賦課金)』というものを知っていますか?」
高橋「聞いたことないです。それと電気料金に何の関係が?」
先生「再エネ賦課金は、再エネの導入拡大を図ることを目的に国が定めた、『FIT(固定価格買取制度)』という制度に基づいて設定されている費用のことです。『FIT』によって、電力会社は再エネで発電された電気を固定価格で一定期間、買い取ることが義務付けられていて、その費用を賦課金として、企業や家庭といった電気の使用者が、使用量に応じて負担しているのです」
大野「えっ! 知らなかった。ちなみに、どれくらいの負担なのですか?」
先生「2018年度の賦課金単価は2.90円/kWh(キロワットアワー:1時間当たりの消費電力量)なので、2012年度に比べると約13倍に増加しています。一般的な家庭での支払額は、月間電力使用量を260kWhとして計算すると、年間では約9,000円。電気料金のおよそ1割を占めているのですよ」
多田「えっ、そんなに!? 消費税だと敏感になるけれど……そんなに負担しているなんて気が付かなかった」
先生「ちなみに、電気料金の検針票を見ると、再エネ賦課金の負担額が分かりますよ」
多田「これまでは使った量と、電気料金の総額くらいしか見ていませんでしたが、来月は絶対に見ます」
先生「また、他にも電気料金を上昇させる理由はあります。最初に話したエネルギー資源の問題。ほとんど輸入に頼っていると言いましたが、それに伴って出ていくものは?」
大野「お金ですね」
先生「そう。2011年以降、原子力発電所が停止したことで、発電量の不足分を石炭や液化天然ガスなどを燃料とする火力発電で補ってきました。そのため、燃料費が増加して、2011~2016年度の燃料費増加額(実績値)を合計すると約15.5兆円になっています」
◆原子力発電所の停止による燃料費の増加額
高橋「15.5兆円!!!」
大野「本当だ、毎年1兆円以上も……」
先生「安定的に発電でき、燃料コストは安い方の火力発電であっても、それだけに頼り切ってしまうと、こうした状況を招いてしまうのですね」
高橋「でも、原子力というと、何となく怖いイメージがあって……、やっぱり止めたままではダメなのですか?」
先生「それも大事な意見だと思います。ちなみに、株式投資の経験はありますか?」
高橋「株ですか?全然」
先生「株式の場合、1つの会社に集中して投資すると、大きなリターンを期待できる可能性もありますが、ヨミが外れたときのリスクも大きいですよね。だから、いろいろな会社に分散投資して、リスクを軽減することがセオリーです」
大野「確かに。リスクの分散は重要ですよね」
先生「分散投資という意味では、発電方法の組み合わせ(電源構成)も考え方は同じで、再エネだけでも、火力だけでも、原子力だけでも、1つに集中してしまうと、何かしらのリスクが発生した時の影響が大きくなる。株式投資以上に、エネルギーは安定供給の確保が非常に大事ですから、バランスを取ることが重要なのです。ちなみに、『S+3E』という言葉を聞いたことは?」
多田「いいえ、初めて聞きました」
先生「資源の少ない日本では、これまで話してきたように、安全性(Safety)、エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済性(Economic efficiency)、環境保全(Environment)という『S+3E』の観点から、エネルギーについて考えることが基本となっています。そして、全ての面で優れたエネルギー源は存在しないため、電源ごとの特性を踏まえ、現実的かつバランスのとれた組み合わせとする必要があるのです」
大野「電気を使わないというのは現実的にできないし……渋谷や六本木のきらびやかさや楽しさは、やっぱりなくしたくないです」
先生「そうですよね。一番守らなければならないのは私たちの豊かな生活です。もし日常で停電が頻発したら、不満続出ですよね。そうならないために、エネルギーの問題についても、今後どうするべきか議論されています」
高橋「正直、原子力発電所は廃止した方がいいと考えていました。でも、さまざまな面から考えると、単純になくせるものではないと思いました」
多田「エネルギーの問題って、断片的には聞いたことがあったけれど、全てがつながっていたのですね。日本の状況を少し理解できた気がします」
先生「そう言ってもらえると本当に嬉しいです。日本のエネルギーについて、誰もが普通に考えられる社会になって欲しいと願っています」
<<Profile>>
小川順子(おがわ・じゅんこ)
財団法人日本エネルギー経済研究所・地球環境ユニット地球温暖化政策グループ研究主幹。専門は地球温暖化政策分析や省エネルギー政策分析。1997年に入所以来、国際エネルギー経済学会やエネルギー資源学会、セミナーなどを通じてエネルギー問題の理解促進に尽力する。
大野南香(おおの・みなか)
1999年3月生まれ、愛知県出身。東京大学教養学部理科二類2年。東京大学2017年準ミスグランプリ。趣味は弾丸旅行や料理。今回は理系女子の視点からエネルギー問題に斬り込む。
高橋晴香(たかはし・はるか)
1989年1月生まれ、東京都出身。読者モデル、インスタグラマーとして活動。特技は卓球やジャズダンス。電気料金や節約術などエネルギーのあれこれを今どきの女子目線で問う。
多田恵(ただ・めぐみ)
1986年生まれ、千葉県出身。雑誌編集者。趣味は旅行や最新グルメ巡り。今回は働く女子代表として参加し、気になっていたエネルギー関連のニュースなどへの疑問をぶつける。
今、日本のエネルギー事情がどうなっているのか、最前線で活躍する先生が分かりやすくレクチャーする「エネスタ!」(Energy Study!)。第1回は、日本エネルギー経済研究所の小川順子先生に、日本が直面しているエネルギー問題について教えてもらいました。生徒には、理系女子大生の大野南香さん、読者モデルの高橋晴香さん、働く女子の多田恵さんの女子代表3人が参加。将来、考えていかなければならないエネルギーについて、一緒に勉強しましょう!
先生「さて、今、日本のエネルギーについて何か知っていることはありますか?」
大野「太陽光発電が流行っていますよね? 家の屋根の上にパネルがあるのを見たことがあります」
高橋「原子力発電所の事故があってから、反対する声が気になっています」
多田「トランプ大統領がパリ協定から脱退して、すごい批判されましたよね。日本にも影響があるんじゃないかって……」
先生「皆さんの言ったことは、それぞれ日本のエネルギーに関係している話ですね。それら全てを含めて、日本は本当にたくさんのエネルギー問題を抱えていて、今、大きな局面を迎えているんです。まずはこの図を見てください」
出典:電気事業連合会
先生「エネルギー自給率とは、暮らしや産業活動に必要なエネルギー資源のうち、自国で確保できる割合のこと。日本を見てみると、先進国35カ国中、ルクセンブルクに次いでワースト2位。約8%しかないのです」
大野「ということは、エネルギー源のほぼ全てが輸入ってことですよね? 資源って、何を輸入しているんですか?」
先生「ほとんどが石油、石炭、天然ガスといった化石燃料です」
大野「ということは、そもそも日本にはそういった化石燃料がないってことなんですか?」
先生「その通り。日本は化石燃料をはじめとするエネルギー資源がほとんどなく、外国から輸入しなければならない状態です。日本の自給率は約8%と極めて低い水準で、数字だけでも厳しさは伝わると思います。もし、今、エネルギー資源を輸入している諸外国の情勢が変わって、輸出をストップすると言ってきたら私たちはどうなると思いますか?」
多田「車や飛行機は使えなくなるし、電気が止まって生活もできなくなっちゃいます」
先生「なので、輸入頼みのままではまずい。そこで日本は、エネルギー自給率の向上を目指しているんです」
多田「そもそも資源がないのに、どうやってエネルギー自給率を上げるんですか?」
先生「自然のエネルギーを活用する太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギー(以下、再エネ)の比率を増やしつつ、同時に原子力発電所を再稼働させることで、エネルギー自給率を向上させる予定になっています」
高橋「えっ!? 原子力って再稼働させるんですか?」
先生「太陽の光や川の水、風を資源とする再エネは、国産のエネルギーとしてイメージできると思いますが、実は、原子力も燃料をリサイクルすることができるため、『準国産』のエネルギーとして自給率に組み込むことができるんです」
多田「そうなんですか。準国産って面白いですね」
先生「また、電力をどれだけ安定して供給できるか、さらに、発電にかかるコスト、環境への影響なども考慮すると、原子力は資源の少ない日本における重要な電源の一つとして必要になってきます」
高橋「でも、原子力を動かすからには安全を最優先にしてほしいです。そうすると、その分、安全対策などでお金がかかりそうな気がするんですが……」
◆各発電方法のコスト比較(2014年モデルプラント試算結果概要)
出典:発電コスト検証ワーキンググループ「長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告」を基に作成
先生「実は、原子力は長期的に大量の電気を生み出すことができるため、安全対策などの費用を含めても、その他の発電方法に比べて遜色ないレベルの発電コストなんですよ」
大野「長く大量に発電できるから、費用と割り算すると、コストの影響も抑えられるんですね」
先生「日本のエネルギー政策の基本的な考え方は、安全性を前提に、どんな時でもエネルギーが安定的に、そしてできるだけ安い価格で使えること。さらに温室効果ガスの排出を減らしていくことです。でも、これは実はとても難しい。なぜなら、安定的な供給・環境問題・エネルギー費用といった側面において、各エネルギーにはさまざまな長所と短所があるからです。それらを踏まえ、日本は2030年度における発電方法の組み合わせ(電源構成)を示しており、その中で原子力の割合は22~20%としているのです」
◆長期エネルギー需給見通し
出典:電気事業連合会
多田「いろいろ考えると原子力も必要だってことか…。でも、先ほど仰っていましたが、再エネで自給率を増やせるなら、全部再エネでいいんじゃないですか?」
先生「そう思いますよね。では、次回は再エネだけにできない理由をお話ししましょう」
⇒後編に続く
<<profile>>
小川順子(おがわ・じゅんこ)
財団法人日本エネルギー経済研究所・地球環境ユニット地球温暖化政策グループ研究主幹。専門は地球温暖化政策分析や省エネルギー政策分析。1997年に入所以来、国際エネルギー経済学会やエネルギー資源学会、セミナーなどを通じてエネルギー問題の理解促進に尽力する。
大野南香(おおの・みなか)
1999年3月生まれ、愛知県出身。東京大学教養学部理科二類2年。東京大学2017年準ミスグランプリ。趣味は弾丸旅行や料理。今回は理系女子の視点からエネルギー問題に斬り込む。
高橋晴香(たかはし・はるか)
1989年1月生まれ、東京都出身。読者モデル、インスタグラマーとして活動。特技は卓球やジャズダンス。電気料金や節約術などエネルギーのあれこれを今どきの女子目線で問う。
多田恵(ただ・めぐみ)
1986年生まれ、千葉県出身。雑誌編集者。趣味は旅行や最新グルメ巡り。今回は働く女子代表として参加し、気になっていたエネルギー関連のニュースなどへの疑問をぶつける。
中部電力株式会社 発電カンパニー 再生可能エネルギー事業部 愛知水力センター 越戸水力制御所 渡部良紗(わたなべ らさ)さん(22歳)
愛知水力センター 越戸水力制御所で、発電所とダムの監視・運転業務を担当する渡部さん。入社3年目だが、テキパキとした仕事ぶりに、周囲の人からの信頼も厚い
直線重力式コンクリートダムの越戸ダム。ダムの水位を調整するためのラジアルゲートが12門装備されている
制御室のデータ表示盤には、主要なダムのデータをリアルタイムで表示。数字の変化を読み取り、ダムのゲートの開閉を操作している
「近所はみんな知り合いで、仲良しだった」と、当時を振り返る渡部さん。明るくハキハキと話す姿は、人を惹きつける魅力も兼ね備えている
ダムの巡視点検では、1つのダムを1日がかりで行うこともある。1日歩きっぱなしのため、スマホの歩数計が24,000歩を超えることも!
安全を第一に、巡視点検を進める渡部さん。指差呼称や「報告・連絡・相談」を徹底することで、チームの意思疎通を図っている
降雨でダムの水量が増えた時は、ゲートを操作して水を放流。失敗の許されない作業のため、指差呼称を徹底し、ヒューマンエラーを防いでいる
先輩や上司からのアドバイス、その日の状況など細かくメモを取っている渡部さん。後日、パソコンにデータとして保存することで、しっかりと復習も行う
いかに多く発電できるかを考え、ダムを運用する渡部さん。この仕事を始めて、天気予報の見方も変わったという
作業監督者の研修を受けると支給される、監督者安全ハンドブック。現場の安全を確保するために必要なチェックポイントが記されている
仕事の制服から、私服に着替えた渡部さん。勤務中のキリッとしたイメージと一転し、ふわりとしたやさしい雰囲気が漂う
競技歴8年の内、2年目から7年連続で岐阜県の強化指定選手に選出。現在は他部署の人とのコミュニケーションにも役立っている
年齢 | 22歳 |
星座・血液型 | てんびん座・O型 |
趣味 | 音楽を聴くこと |
好きな食べ物 | アイスクリーム |
好きな音楽 | 洋楽(Taylor Swift、Carly Rae Jepsen) |
美容家電やオシャレ家電、調理器具など生活を豊かにしてくれるアイテムの中から、季節やシーンに合わせたカテゴリーをピックアップ。お気に入りを見つけて、家電ライフを満喫しよう!
家電アドバイザーの資格も取得する女優・奈津子さん。「この季節にピッタリのスイーツが楽しめる、かき氷器です」
ここ数年、夏にブームを巻き起こしているひんやりスイーツの代表格“かき氷”。オーソドックスなものから果汁ソースがたっぷりかかったもの、韓国や台湾風など、お店のこだわりがつまったかき氷は数時間待ちも当たり前というほどの人気ぶり。でも、暑い中、そんなに長い間待てない、今すぐ食べたい!と思いませんか? そんな夏に活躍するのが、おうちで好みの味を作れるかき氷器。このブームに乗り、かき氷器もバラエティ豊かに! そこで今回は特徴の異なる3機種を、奈津子さんが実際に試してそれぞれの良さを紹介!
できあがったかき氷を食べて、おいしさに笑みがこぼれる奈津子さん。左からドウシシャ「電動ふわふわとろ雪かき氷器 DTY-18」、ラドンナ「Toffy電動かき氷器 K-IS2(カラー/パールアクア)」、ツインバード「LULUNA フローズンスイーツメーカー KI-4685(カラー/スノーホワイト)」
ドウシシャ「電動ふわふわとろ雪かき氷器 DTY-18」
ドウシシャ「電動ふわふわとろ雪かき氷器 DTY-18」。製氷カップとレシピブック付き
本体は分解できてお手入れがしやすいのはうれしいポイント。ジュースなど糖度の高い氷は水の氷に比べて柔らかいが、氷をしっかりと固定できる設計のため軟らかい氷も安定して削れる
付属の製氷カップは普通サイズ(左)のほか、ハーフサイズ(中央、右)が新しい! ハーフサイズを使えば、例えばオレンジ味とミルク味、チョコレート味とイチゴ味など、異なる味の組み合わせが楽しめる。意外なおいしさの発見があるかも!?
「ハーフサイズの製氷カップにパイナップルジュース(左)と、練乳ミルク入りいちごジャムの氷を作ってトライします」(奈津子)
ハーフサイズの2種類の氷を一度に入れて削ります。ボタンをプッシュするだけで削れるので、力がいらずラクラク
受け皿が広いので、一度にたくさんの氷の削り出しが可能。また、氷が出てくるところと受け皿までに高さがあるので、お店のように高く盛ることもできちゃう
パイナップル×いちごミルク氷のできあがり! 「ふわふわにできたよー」と奈津子さん
ひと口食べて、「ん~とろける~!!」と、できあがりに大満足♪
左が“粗い”、右が“細かい”で削った氷です
ツインバード「LULUNA フローズンスイーツメーカー KI-4685(カラー/スノーホワイト)」
ツインバード「LULUNA フローズンスイーツメーカー KI-4685(カラー/スノーホワイト)」。シンプルなデザインで、細身のボディがスタイリッシュな印象。製氷カップとレシピブック付き。カラーはほかに、ナイトブラックがある
グレーの丸い部分が電源スイッチ。氷を入れるケースや氷を押さえる板、カッター刃が付いている部分などは分解できるので洗いやすい。本体に氷ケースを取り付けていない状態で誤って電源を入れないための保護スイッチも付いている
製氷カップは底にくぼみがあることで、氷が取りだしやすい作りに
凍らせたマンゴージュースを削ってみると…振動が抑えめなので、削っている時に腕がぶれる心配もなし。飛び散りにくいので、口径の小さなカクテルグラスにもきれいに削り出せる
フローズンマンゴーをトッピングして、マンゴーかき氷の完成!
奈津子「こんなふうにカクテルグラスに作ったらオシャレですよね」
お次は凍らせたマンゴーでお試し。どんなふうになるかな?
奈津子「きゃ~すごい、きれいに削れますね~!」
例えばこんなふうに、冷製パスタに凍らせたソースをトッピングすることもできる
左が“粗い”、右が“細かい”に調節して削った氷です
ラドンナ「Toffy電動かき氷器 K-IS2(カラー/パールアクア)」
コーヒーポットのような形がかわいい、ラドンナ「Toffy電動かき氷器 K-IS2(カラー/パールアクア)」。上部の取っ手がスイッチになっていて、全体を押すことでかき氷ができる。製氷カップとレシピブック付きで、カラーはほかにリッチブラック、アッシュホワイトもある
シンプルなつくりで、氷のセットやお掃除がラク
2個ついてくる製氷カップはオーソドックスなタイプ
上半分のモーター部分を受け皿に収納してコンパクトにできるので、省スペースで収納可能なのもうれしい
上部のカップに氷を入れ、スイッチオン! ※ジュースなどで作ったスイーツ氷は使用できません
小豆をトッピングし、抹茶シロップをかけて和風かき氷のできあがり!
左が“シャリシャリ”、右が“フワフワ”で削った氷
※バラ氷…自宅の冷蔵庫で、いわゆる製氷皿や自動製氷機能で作った、小さ目の氷のこと。
※スイーツ氷…水ではなく、ジュースやミルク、ジャムなどを加えて作った氷のこと。
新交通ゆりかもめテレコムセンター駅より徒歩4分、船の科学館駅より徒歩5分の場所に位置。「ここでしか体験できない乗り物があるんだって!」「楽しみ♪」と話す高橋晴香さん(右)と、菊原梨華さん(左)
「UNI-CUB(ユニカブ)」に乗って館内ツアー(1人¥700。別途、常設展のチケットが必要)。※1階「UNI-CUBステーション」カウンターにて要予約
2人の背景にある直径6mの地球ディスプレイ「ジオ・コスモス」は、未来館のシンボル展示。1000万画素を超える高解像度で、宇宙空間に輝く地球の姿をリアルに映し出す
通常はスタッフさんを先頭に4名のグループで走行。連なる姿はまるでカルガモ親子のよう?
「わー、曲がれない…(笑)」と菊原さん。高橋さんと向かい合ってしまうハプニングが発生するも、スタッフさんの的確な誘導ですぐに解決!
平日は11:30のみ、土日祝は11:30と14:30の2回、アンドロイド技術を紹介する実演が行われる(各回約10分)
「今からオトナロイドを動かすよ」と菊原さん
オトナロイドの動きに合わせてコミュニケーションを楽しむ高橋さん
オトナロイドの動きを指示するボタンに気づいた菊原さん。「手を振ってみようかな…」とボタンを押すと、「オトナロイドが手を振ってるよ」と高橋さん。「すごい!私が動かしてるんだ!」と菊原さんもにっこり。「初めての体験が多すぎて驚くことばかり。未来ってすごい世界になるんでしょうね」(菊原さん)。
レストラン「Miraikan Kitchen」は、お台場の景色を一望できるテラス席がイチオシ
地球もなかソフトクリーム(バニラ¥380) と、緑の地球あんまん(¥280)
室内を歩いた位置や行動などを情報として視覚化する“空間情報科学”を体験できる“アナグラのうた”の展示。入口で常設展チケットを機械に差し込むと、今展示のストーリーが表示され、約1000年後の世界へと誘う
アナグラに入ると、謎の生命体(?)“ミー”が足元に出現!
それぞれの“ミー”が手を繋いだり、離れたりとユニークな演出が組み込まれている
博士たちが残した実験装置をチェック
アナグラを旅した人へ送るメッセージが壁面に表示され、映像と共に歌となる。音楽と映像とエネルギーによる技術で、アナグラがダンスパーティのような空間に包まれる
作品名:「マリア、人工生命、膜、魚」。マリア像の中には魚などの生き物たちの姿が描かれている。「いろんな科学技術を体験してきたけど、さらにアート作品にも触れられるなんて贅沢な展示ですね」と高橋さん
1階にある「Miraikan Shop」は常設展チケットがなくても入店できる
「ドロップ」(¥410) と「ミドリムシクッキー」(1箱5枚入り・¥463)は、どちらも未来館限定グッズ
オリジナルトートバッグ(¥2160)
日本科学未来館を大満足したと話す菊原さんと、企画展にも参加してみたいという高橋さん
「UNI-CUBにASIMO、アンドロイドに感動しました。人と一緒に暮らすことを考えて作られたロボットはどこか愛らしくて(笑) 優れた技術とそれを支えるエネルギーによって活躍するロボットと、一緒に生活する日が楽しみ♪」と高橋さん
「科学や空間情報というと難しいイメージがあったけど、楽しみながら体感することができました」(菊原さん)
「企画展も参加してみたいので、期待を込めて80W!」(高橋さん)
「私は100W!! 帰りにいろんな場所に立ち寄れるお台場というエリアも◎です!」(菊原さん)
館内には、展示を知り尽くした科学コミュニケーターが複数常駐しているので、わからないことを気軽に質問できるのも好ポイント。日本科学未来館で楽しみながら近未来を体感しよう!
高橋さん………★★★★★★★★
菊原さん………★★★★★★★★★★
レポーター
-
高橋晴香
instagram: @haruka_takahashi0127
Twitter: @haruka0127
-
菊原梨華
instagram: @happyluckyhappy
Twitter: @rico_lucky
大内さんがエネルギー業界に興味を持ったのは、2012年11月に北海道南部に位置する胆振・日高(いぶり・ひだか)地方を襲った暴風雪による大停電がきっかけだったという。
大内さん「当時住んでいた室蘭市のほぼ全域を中心に、周辺の5万6000世帯が停電に見舞われました。交通網も麻痺した猛吹雪の中で、ほくでんの社員が電気の復旧に奮闘する姿を見て、『普段は何気なく使っている電気だけど、それを送り届けるために必死に頑張っている人たちがいるんだ』と意識するように。ちょうど大学で電気工学を専攻していたこともあり『就職するなら、ほくでん』と思うようになりました」
この日の点検作業は3人1組のチームで遂行。リーダーが地上から作業の進捗状況や安全面の確認を担当し、大内さんともう1人の同僚が鉄塔に昇る。双眼鏡を駆使して、目視でチェックしていく。
大内さん「送電設備は地域のお客さまの理解があってこそ存続していける。『ほくでんは対応がしっかりしているね』と言われるように、お客さまとの信頼関係を築いていきたいですね」
大内さん「八雲NWCのすぐ隣にある独身寮に住んでいるので、呼び出しがかかればすぐに出動できるのがいいところ。冬になると、送電線への着氷や着雪による停電も発生します。昼夜を問わず、さらに極寒の中で作業が続くケースもありますが、現場に出向して事故箇所を発見し、復旧作業に当たっているときは『自分たちが送電設備を守っているんだ』という実感が湧く瞬間ですね」
学生時代の大内さんのように、きっかけがなければ、なかなか実感する機会が少ない電気の大切さ。今回の密着取材を通じて、大内さんたちが現場で懸命に守りつないでいる送電設備が、私たちの暮らしを根底から支えていることをあらためて実感した。
★大内一希さんプロフィール
年齢 | 23歳 |
身長・体重・血液型 | 186cm・80kg・A型 |
趣味 | スポーツ全般・ドライブ・釣り・音楽鑑賞 |
好きな食べ物 | 二海(ふたみ)カレー・そば・中華料理・ケーキ |
好きなアーティスト | Superfly・GLAY |
好きな芸能人 | 波瑠 |
全国各地のエネルギーにまつわる施設とその周辺スポットへ遊びに行く「エネトリ!」、第2回は北海道第3の都市・函館を有する渡島半島(おしまはんとう)に。
定番の函館山からの夜景や赤レンガ倉庫のレトロな町並みまで、見どころ満載の函館。また、今回は北海道で最も大きな地熱発電所がある道南エリアの森町(もりまち)まで足を延ばしました。地元・北海道で活躍するモデルの佐藤悦子さんがレポートします!
佐藤悦子さんが北海道南部で今の季節にピッタリの見どころをリポート
初夏の絶景!きじひき高原の大パノラマ
まず訪れたのは、函館エリアを一望できる標高560mの「きじひき高原パノラマ展望台」。
北海道新幹線の終点JR新函館北斗駅から車で約15分
羊蹄山(ようていざん)や北海道駒ヶ岳、大沼国定公園に津軽海峡、函館山などダイナミックな地形が見て取れる屈指のビュースポットだ。
悦子「風がとっても気持ちいい~!写真を撮影するにはもってこいの場所だね」
パノラマ展望台の最上部で。悦子「わーい!スマホでたくさん撮っちゃおう!!」
近隣には、キャンプ場があったり、牛が放牧されている風景を眺めることができる場所があったりと、高原の絶景と共に北海道の大自然を満喫できる。
展望台の営業時間は8:30~20:00(営業期間4月下旬~10月下旬)。それ以外の時間帯は、入口のゲートが封鎖されてしまうのでご注意を。
右奥に見えるのが函館山。悦子「遠くから初めて見た!ポコッとしていて、かわいい形なんですね」
大沼国定公園や噴火湾も一望できる。悦子「メチャクチャきれい。やっぱり北海道って、最高!」
定番のご当地顔出しパネルを発見。北斗市の公式キャラクター・ずーしーほっきーに変身。悦子「見つけるとガマンできないタイプです」
悦子「生まれも育ちも住んでいるのも北海道だから、道南エリアには何度も来たことはあるけれど、ここに来たのは初めて。こんなきれいに道南の有名なスポットが見渡せる場所があったんだ!」
函館エリアの地形や位置関係がひと目で分かるこの展望台は、旅のスタート地点に最適。これから始まる北海道の旅モチベも高まるはずだ。
巨大タービンに超接近!森地熱発電所
続いては、北斗市から国道5号を車で北に向かって約1時間、森町(もりまち)にある北海道電力(以下、ほくでん)・森地熱発電所の見学へ。
小高い山の中腹にある森地熱発電所を訪問。悦子「発電所に入るのは小学生以来!おじゃましまーす!」
森地熱発電所は一般見学可能(無料・要予約)。見学時間は平日9:00~12:00、13:00~16:00で、土・日・祝日や年末年始、発電所点検期間中は見学不可
森地熱発電所は、国内で8番目の地熱発電所として1982(昭和57)年11月に運転を開始。地球の内部にあるマグマが作り出した地熱エネルギーを利用するエコ&クリーンな発電所だ。
まずは、出迎えてくれたほくでん火力部森地熱グループリーダーの佐藤英樹さんから、地熱発電の基本的な仕組みと森地熱発電所の成り立ちをレクチャーしてもらう。
ほくでん火力部森地熱グループリーダーの佐藤さんから、資料や展示物などがある場所で地熱発電のいろはを教わるところから見学はスタート。パネルを使って地熱発電の仕組みを学ぶ
佐藤(英)さん「地下のマグマから発生する熱を活用しているのが大きな特徴です。地下で熱せられた高温の蒸気と熱水のうち、蒸気を発電所へ導き、巨大なタービンを回して発電しています」
悦子「ふむふむ。地球のエネルギーを使って発電しているんですね」
佐藤(英)さん「地下から取り出した蒸気のエネルギーでタービンを回して発電するというのが地熱発電です。タービンを回す力の源が異なるだけで、基本的には火力発電などと同じ仕組みなんですね」
基本的な説明を聞いたところで、いよいよ森地熱発電所の心臓部となる蒸気タービンがある現場へ、GO!
建物の2階へ上がり、扉を開くと…悦子「うわあ、スゴイ!!!」
建屋内の様子。悦子「これが蒸気タービンですか!こんなに大きいんだ。すごいパワーを感じます!」
建屋の中では轟音をたてながら、まさに蒸気タービンが稼働中。その出力は2.5万キロワットで、約5万世帯分の電力を賄うことができるのだ。
悦子「メカ萌え、工場好きなら大興奮間違いないですね!」
悦子「これぞ発電の現場ですね! このサイズ感は興奮しちゃいます」
悦子「パイプのつながりを見て、蒸気の流れをたどっていくと、地熱発電の仕組みがより詳しく分かりますね」
発電に蒸気を使う一方で、熱水は近隣農家のビニールハウスを温める熱源として利用しているのも、森地熱発電所の特徴。まさにエネルギーの地産地消だ。
このシステムで、森町の名産品であるトマトとキュウリの冬季出荷が可能に。実はこのトマト、東京ディズニーランド®やユニバーサル・スタジオ・ジャパン™などにも出荷している森町自慢のブランド野菜だ。
蒸気を取り出した後の残った熱水の一部を地元のビニールハウスに送り、暖房源として有効利用。外気がマイナス20℃まで冷え込む真冬でも、ハウスの中は温かい
森地熱発電所が森町名産のトマトづくりに一役買っている
森地熱発電所内ではほかにも、中央制御盤があるコントロールルームや、温水を冷やす冷却塔という施設も見学できる。計器やレバーが系統別に整然と配置された制御盤は、少しレトロな仕様で、歴史を感じられる。
大きな中央制御盤の前で解説。スイッチや計器などは機能的に配置されている。悦子「このメーターで、蒸気タービンをチェックしているんですね」
冷却塔は別名クーリングタワー。悦子「宇宙船みたいな不思議なデザイン!」
自然の恵みである地熱エネルギーは、地球からの贈り物。安定した発電が可能で、自然環境にやさしいクリーンなエネルギーとして存在感を発揮している。
悦子「マグマの熱からさまざまな段階を経て、電気が作られる過程が分かって、ワクワクしました! 発電所と野菜作りがつながっているっていうことにも、ビックリです」
夜の絶景!いざ、函館山ロープウェイへ
夕暮れ前には函館市内へと移動。やはり道南エリアに来たら、どうしても訪ねておきたい函館山の山頂展望台に向かう。世界的にも名高い夜景スポットだ。
函館山の山麓駅と山頂施設を約3分で結ぶ函館山ロープウェイ。ゴンドラは125人乗りで、往復1280円
ちなみにグルメやショッピングが楽しめる金森赤レンガ倉庫など、散策に適したベイエリアもすぐ近く。早く着いたら、散歩するのにちょうどいい。
港町でもある函館ベイエリアを代表するショッピングエリア
ロープウェイの山麓駅に着いたら、チケットを買って、乗り場へ。ロープウェイのゴンドラは窓が広く、3分間の空の旅の間も函館の街並みを満喫できる。目指すは地上334mの山頂展望台だ。
向かって左に函館湾、右が津軽海峡側。2つの海にウエストのくびれのような地形が景観の特徴
ロープウェイ山頂施設は、屋上にあたる4階部分が最も高い展望エリアになっている。
悦子「天気が良い日は、五稜郭タワーから教会群や赤レンガ倉庫あたりまでを一望できます!野外は夏でも風が冷たいので、要注意。お土産が買えるショップなどもあるから、早くから来ても楽しめるよ」
山頂施設内でラングドシャコーンのプレミアム生クリームソフト500円をオーダー。悦子「噂には聞いていましたが、これはおいしすぎる…味はクレミア ザ ミックスを選びました」
日暮れ、夕焼け、夜景待ち。刻々と暮れる太陽と函館の街並みを眺めながら、ホッとひと息。
3階にあるテラスからも函館の景色が見れる。刻々と表情を変える夕景も美しい
屋上に上がると、さすがに世界でも有数の景勝地だけあって、平日でも夕暮れどきには夜景を眺めようとするライバルが多い。いい場所を取りたいならば、粘ってポジションをキープ。
その努力の甲斐もあって、待ち望んでいた景色は想像以上。
函館湾を見下ろすベストポジションで
ジュエリーのような照明が次々に点灯する様子は圧巻
一つ一つの明かりをともす電気に思いをはせつつ、夜景の美しさに思わず息をのむ。これぞ北海道、道南エリアのエネルギートリップだ。
見どころの多い北海道だが、この夏は道南エリアの旅がおすすめ!
【コラム】北海道の電力の安定供給をより確実なものとするために~北本連系設備を増強工事中~
北斗変換所(交流の電気を直流に変換する設備)の工事の様子
日本では、北海道から九州まで、電力系統は送電線でつながっています。これにより、電力会社の垣根を超えた電力の融通が可能になり、安定供給が支えられるとともに、発電設備の効率的な運用を図ることができます。
また、ある電力会社の管内で電力不足が危惧される場合には、電力会社間でタイムリーに電力を融通しあい、停電などのトラブルを未然に防止することも可能です。こうした電力系統のうち、北海道と本州を結んでいるのが、1979年に完成した「北本連系設備」です。
現在、北海道電力では、この北本連系設備の増強工事(60万キロワット→90万キロワット)を行っています。北本連系設備の増強によって北海道の電力供給がより確実なものになるとともに、再生可能エネルギーの導入や電力取引の拡大に寄与することができます。
2014年7月から現地工事に着手しており、2019年3月の運転開始を目指し、現在、各種工事が着実に進められています。
今回訪問した施設
きじひき高原パノラマ展望台
住所:北海道北斗市村山174
電話:0138-73-3111(北斗市役所・代表)
http://hokutoinfo.com/spot/196/
森地熱発電所
住所:北海道茅部郡森町濁川3-91
電話:01374-7-3377
http://www.hepco.co.jp/energy/recyclable_energy/geothermal_power/mori_ps.html
※地熱発電の仕組みはこちら
函館山ロープウェイ
住所:北海道函館市元町19-7
電話:0138-23-3105(総合案内)
https://334.co.jp
金森赤レンガ倉庫
住所:北海道函館市末広町14-12
電話:0138-27-5530
https://hakodate-kanemori.com/a30th
レポーター
-
佐藤悦子
instagram: @0926etsuko
Twitter: @@ekko0926
BLOG: 佐藤悦子“ekko”さんのブログ
年齢
|
23歳
|
星座・血液型
|
さそり座・A型
|
趣味
|
旅行
|
好きな食べ物
|
からあげ・ラーメン
|
好きな映画
|
「トイ・ストーリー」
|
好きな芸能人
|
山田孝之
|
美容家電やオシャレ家電、調理器具など生活を豊かにしてくれるアイテムの中から、季節やシーンに合わせたカテゴリーをピックアップ。お気に入りを見つけて、家電ライフを満喫しよう!
家電アドバイザーの資格も取得する女優・奈津子さん。「今回は、オトナのエチケットケア、電動歯ブラシをご紹介」(奈津子)
手磨きよりも歯垢が除去できると人気の電動歯ブラシ。近年は価格も手ごろになり自宅用、オフィス用とエチケットとして利用する女子が急増している。でも、何を基準に選んだらいいのかわからない、という人も多いのでは?そこで今回は3つの異なるタイプの電動歯ブラシをご紹介。奈津子さんが実際に試してそれぞれの特徴をわかりやすく解説します!
左から、ブラウンオーラルB「ジーニアス9000 D7015256XC TRG」(ローズゴールド)、フィリップス「ソニッケアー イージークリーン HX6521/01」、パナソニック「音波振動ハブラシ ポケットドルツ EW-DS1C」(ルージュピンク)
ブラウンオーラルB「ジーニアス9000 D7015256XC TRG」(ローズゴールド)
歯科クリーニング器具から発想を得た「丸型ブラシ」が特長の最高峰モデル、ジーニアス9000シリーズ。価格は20,000円代と高額だが、歯の健康にこだわり抜いた高機能を搭載している。
ブラウンオーラルB「ジーニアス9000 D7015256XC TRG」(ローズゴールド)。充電器のほか、マルチアクションブラシ、トラベルケース、ブラシ収納ホルダー、スマートフォンホルダーが付く。女性らしいローズゴールドのデザインが目を引く
「ブラシは、歯の1本1本を包み込むように丸形になっています」(奈津子)
ブラシ圧が強いと「押し付け防止センサー」が作動し、過圧コントローラーがソフトな振動のモードに切り替わる。持ち手の上部が赤く光るのがその合図だ。お試し中の奈津子さん、センサーが作動して、驚いた様子!
「センサーが作動したということは、いつも自分の歯に負担をかけていたんですね…」(奈津子)
歯ぐきのキワを優しく包み込み、歯垢をしっかり取り除いてくれるマルチアクションブラシ
振動をチェックしてみると…、丸形ブラシならではの円形のさざ波が
「ポジション検知機能で磨き残しもチェックできます」(奈津子)
フィリップス「ソニッケアー イージークリーン HX6521/01」
通常より弱いパワーで使い始め、段階的に上げていくという振動に慣れるための機能「イージースタート機能」が搭載されている、ビギナーに優しい電動歯ブラシ。大きめのハブラシを採用し、比較的短時間で効率よくブラッシングできると評判だ。
フィリップス「ソニッケアー イージークリーン HX6521/01」。シンプルなデザインで見た目もスッキリ!
「音波の振動を発生させて歯垢を除去する音波式です」(奈津子)
角度の付いたブラシヘッドネックで、歯の裏側にも届きやすい
毎分約31,000回の超高速振動と、幅広い振幅の組み合わせにより「音波水流(液体流動による洗浄力)」が発生し、汚れを除去する効果がUP
米国の歯科専門家が推奨する歯磨きの時間を推奨する機能も
パナソニック「音波振動ハブラシ ポケットドルツ EW-DS1C」(ルージュピンク)
ポーチに収まるコンパクトサイズ、長い爪でも使いやすい回転式スイッチなど女性にうれしい機能が満載のポケットドルツ。ランチのあとや飲み会のあとのケアにピッタリ。
パナソニック「音波振動ハブラシ ポケットドルツ EW-DS1C」。ルージュピンクのほかにブルーもある
電池カバーの部分をクルッと回転させるだけで電源のオンオフが可能
「歯の隙間がキレイに磨けているのがわかりますね」(奈津子)
ブラシの毛先に3mmの段差をつけることで、デリケートな歯周ポケットに極細毛が入り込みすぎないようになっている
ブラシ背面に舌をケアする舌ブラシが付いている
毎分約16,000回の振動で口内の隅々まで汚れを除去
「小さなポーチにすっきり収納できちゃいます」(奈津子)
奈津子
女優・タレントとして活躍する傍らで家電製品総合アドバイザーの資格を取得。独自の視点によるレビューを多くの連載やTVで発信中。毎週火18時頃TOKYO FM「スカイロケットカンパニー」生放送、21時~テレビ東京系列「開運!なんでも鑑定団」にレギュラー出演中。オフシャルインスタグラム@natsuko_kaden。 オフィシャルブログ「ナツアキブログ」
「みなとみらい駅直結の“マークイズみなとみらい”の中だから、天気の心配なく来られるのもいいね」(左・高橋さん)。「どんな体験ができるか楽しみだね!」(右・岩崎さん)
入口すぐにある「アニマルガーデン」。日常では出会えない動物たちが暮らす不思議な森の世界を散策できる
カピバラにもエサをあげられ、実際に触れ合うことも。「アニマルガーデン」では、動物園などでも大人気のカピバラのほか、ムツオビアルマジロ、グリーンイグアナ、ケヅメリクガメにも触れることが可能だ
黄色のクチバシが特徴のオニオオハシは自由に「アニマルガーデン」内を飛び回る。最初は怖がっていた高橋さんも、「実際に見てみるとカラフル!」と大興奮
熱帯地域に生息する動物には、温度調整のため電気を当てて調整。生き物を安全に飼育するためにも電力は欠かせないツールなのだ
続いて、壁一面に広がる滝のプロジェクションマッピングが楽しめる「ベースキャンプ」へ。「滝の音がする!」と岩崎さんが足早に向かうと、そこには壮大な景色が目の前に!「現地に行かないと見られない景色が、映像とエネルギーの技術を通して横浜で体感できるなんてすごいね」と岩崎さん。
プロジェクションマッピングと音響で大自然が映し出される「ベースキャンプ」
火山バージョン。マグマの音などリアルに表現されている
館内の数箇所に設置されている「アニマルセルフィー」で撮影した画像は、プリントアウトすることも(有料)。「画面に顔を向けると動物に変身しちゃうって、すごい!」(高橋さん)。「自分の携帯のアプリだと小さな画面でしかできないけど、大きい施設でエネルギーを使うと、こんな遊びもできちゃうんだ!」(岩崎さん)
「キャットパラダイス」での滞在時間は、最大20分の入れ替え制。かわいいネコが暮らす「キャットパラダイス」にも、ユニークな仕掛けが
鍵盤の影像の仕掛けが施された棚では、まるでネコが音楽を奏でているかのよう
「ネコは寒いのが苦手。温度管理が徹底されているからこそ、人間とも安心して過ごしているんだね」と岩崎さん
次に2人が向かったのは「シアター23.4」。太陽に対する地球の自転軸の傾き、23.4度にちなんだシアター名で、この傾きが季節や気候の変化をもたらし、多様な地形をつくり出しているという。上映作品は時期により異なるが、現在は「はらぺこペンギン・マックス」「THE MEERKATS」を上映中だ。
「壁一面に広がる画面の大きさに圧倒されるね」(高橋さん)
日本最大級を誇る巨大なスクリーン
赤道直下のアフリカについてスタッフが説明してくれるが、この時点で10℃(冷蔵庫の野菜室くらい)!
次の部屋では0℃を体験。いよいよここから-15℃の世界へ!
突風が吹くことで、体感温度-15℃を体験!! 所要時間は15秒間
「たった15秒でも息ができないし、寒すぎて何が起きているのかわからなかった!(笑)」と高橋さん。
「日本ではない場所に一瞬にして来た感じがして、旅行したくなった?!」と岩崎さんも異世界を満喫!
動物のぬいぐるみはもちろん、文具やインテリアなどもズラリ。「触り心地のいいぬいぐるみを発見」「買って帰りたいけど大きいかな(笑)」と、2人はとおみやげを吟味
「大自然を満喫しました!」(高橋さん) 。「いろんな世界を体験できて感動!」(岩崎さん)
「亜熱帯の動物を実際に見ることができたのは、エネルギーを使った温度調節のおかげなんだと改めて気づかされました。いろんな世界を体験できて感動しました!」と岩崎さん。
「日本にいながらも、これだけ世界の大自然を感じられるのってすごいことですよね!」と高橋さん。
「100W!!」(高橋さん、岩崎さん)
駅直結でアクセスも抜群な「オービィ横浜」で大自然を体感しよう!
鈴木さん………★★★★★★★★★★
斉藤さん………★★★★★★★★★★
レポーター
-
岩崎志保
instagram: @shihoiwazaki
Twitter: @shihonchu319
-
高橋晴香
instagram: @haruka_takahashi0127
Twitter: @haruka0127
美容家電やオシャレ家電、調理器具など生活を豊かにしてくれるアイテムの中から、季節やシーンに合わせたカテゴリーをピックアップ。お気に入りを見つけて、家電ライフを満喫しよう!
家電アドバイザーの資格も取得する女優・奈津子さん。「今回は、梅雨の時期にオススメしたいヘアアイロンをご紹介」(奈津子)
もうすぐ湿気の多い梅雨が到来。湿気により髪がうねってしまったり、広がってしまったりと、ヘアスタイルをキープするのになにかと苦労するシーズンだ。そこで今回は、真っ直ぐなストレートヘアをキープしてくれるヘアアイロンをご紹介!
左から、I-ne「SALONIA ミニ ストレート ヘアアイロン」、パナソニック「ナノケア EH-HS9A」、小泉成器「マジックシャイン超音波ミストアイロン VSS-9700」
■オフィス使用や旅行に◎なコンパクトサイズ
I-ne「SALONIA ミニ ストレート ヘアアイロン」
「持ち歩く、本格派ヘアサロン」をコンセプトに掲げるミニヘアアイロン。従来のサイズより約6㎝短くなり、85g軽量化され、手軽に持ち運ぶことができ、オフィスでの使用や旅行の際にピッタリのアイテムだ。
I-ne「SALONIA ミニ ストレート ヘアアイロン」(ホワイト)。ブラックもある。持ち運び用のケース付き
「持ち手とアイロン部分が約24㎝とコンパクトで、たったの約260g。カバンに入れても邪魔にならないですね」(奈津子)
「バックスタイルも軽々仕上げることができますよ」(奈津子)
温度調節は100℃~210℃、5℃刻みで調節可能
同シリーズの「ミニ セラミック カール ヘアアイロン」。こちらもブラックあり
「向かって左側をストレートで、右側をカールで仕上げてみました」(奈津子)
パナソニック「ナノケア EH-HS9A」
根元から毛先までストレートを実現してくれるヘアアイロン。握りやすいグリップも特徴で持ち手の負担を軽減してくれる優れものだ。
パナソニック「ナノケア EH-HS9A」。ナノメートルサイズの微細なイオン「ナノイー」の通気口を掃除するブラシ付き。カラーは黒のほか、白、ピンクがある
「滑りやすさが約20%アップしたという新グロスコーティングは、カラーリングの色落ちもおさえてくれます」(奈津子)
使用中に誤ってボタン押すことがないように、機能ボタンが内側に配されている
アイロンをかけると同時にナノイーが発生し、キューティクルが引き締まり整った状態にケアしてくれる
向かって左側がアイロン後、右側がアイロン前。「毛先までキレイなストレートに!ナノイー効果で髪がしっとりまとまり潤いも感じます」(奈津子)
奈津子「ナノイー効果によって潤いが増して、しっとりなめらかな仕上がりになりました。プレートの幅も大きすぎないサイズなので、クセが出やすいボブスタイルの女子にもオススメです」
小泉成器「マジックシャイン超音波ミストアイロン VSS-9700」
昨年12月に発売された、超音波ミストと高温プレートで髪をいたわりながらストレートにするヘアアイロン。美しいミラー調プレートのデザインも魅力だ。
小泉成器「マジックシャイン超音波ミストアイロン VSS-9700」。取り外し可能なコーム×2、スポイト、3本指グローブ、やけど防止プロテクター、ポーチ付き
「やけど防止用のグローブは、受け手の指に使用します。熱から手を守ってくれるアイテム付きとは驚きですね!」(奈津子)
「アイロン板の両端にコームが付いているので、よりキレイなストレートに!取り外しも可能です」(奈津子)
ミストが発生し、そのパワーに驚く奈津子さん。サラサラの仕上がりに納得の様子
「前髪のアレンジもしてみようっと…」(奈津子)
「クルンと柔らかなカールも楽しめますよ」(奈津子)
「髪のケアが大変な梅雨の時期でも、今回ご紹介したヘアアイロンでヘアケアを楽しんで!」(奈津子)
奈津子
女優・タレントとして活躍する傍らで家電製品総合アドバイザーの資格を取得。独自の視点によるレビューを多くの連載やTVで発信中。毎週火18時頃TOKYO FM「スカイロケットカンパニー」生放送、21時~テレビ東京系列「開運!なんでも鑑定団」にレギュラー出演中。オフシャルインスタグラム@natsuko_kaden。 オフィシャルブログ「ナツアキブログ」
“焼きたて“を再現するのはもちろん、さまざまな機能を備えたトースター。今回は、ブームの火付け役となったスチームで焼き上げるバルミューダのトースター、冷凍ピザを本格ピザに変身させる象印のトースター、そして「この機能欲しかった!」を叶えるパナソニックのトースター、全3種を用意。早速、家電女優の奈津子さんが実際に体験して、3アイテムの良さを解説!
奈津子「最初に目が行くのはインテリアにもなるこのデザイン。余計な表記を一切省いたシンプルなデザインで、パン好きだけでなく、オシャレ家電好きにも人気ですね。加熱モードは『トースト』『チーズトースト』『フランスパン』『クロワッサン』という4つのトーストモードに加え、グラタンやお餅などスチームを使用しない『クラシック』機能(170℃、200℃、230℃)を搭載しています」
奈津子「何層にも生地が重なるクロワッサンやデニッシュは、バターの量もトーストと異なるので、焼きたてのような状態にするのは難しいのですが、この違いを科学的に研究しているバルミューダは、トーストとは異なる設定でクロワッサンを焼き上げてくれます。パンの種類によって、最高の美味しさを引き出してくれるんですね」
象印マホービン オーブントースター こんがり倶楽部「ET-GM30」
トースト4枚が同時に焼けるほか、グラタン皿を3皿置くことができるワイドな庫内が特徴。「トースト」「サクふわトースト」「冷凍トースト」など全7種の自動モードがあるが、なかでも注目は食感を追求した「サクふわトースト」。
奈津子「ワンタッチで調理してくれる自動モードは全7種。『トースト』『冷凍トースト』『サクふわトースト』に加え、『ピザ』『冷凍ピザ』『フライあたため』『ロールパンあたため』があります。80℃から250℃まで10℃刻みで細かくセットできるので、メニューに合わせた温度調節も可能。庫内上部に遠赤外線ヒーターが2本、下部に電熱ヒーターが3本の合計5本のヒーターでムラを押さえた焼き具合に仕上げてくれるのもうれしいですね」
奈津子「『サクふわ』モードの名前通りの食感!(笑) 焦げ目のつかない温度帯で一定時間じっくりと熱を通し、最後に高温で焼き色をつけることでサクッと感のあるトーストに焼き上げてくれます。焼き色を濃くしたい人は焼き色を調整するキーで濃くすることも可能ですよ」
奈津子「さらにコチラのトースターには、湿気てしまった食品を焦がさず熱で再乾燥できる『ドライ』機能が! なんと、お煎餅やピーナッツ、クッキーなど時間が経ってしまった食品の美味しさを取り戻してくれるんです。ポテトチップスで試してみると、その効果は絶大。シナシナになっていたポテトチップスが、パリッとした食感に蘇りました!」
ひと言でオーブントースターといっても、専門性に富んだモノから多彩な機能を搭載したモノまで多種多様。好みや生活スタイルに合わせて選べば、最高の“トースター”を楽しむことができる。
奈津子「美味しいパンを自宅で味わうひと時は、とっても幸せな時間。トーストにとことんこだわりたい、さまざまな調理を楽しみたい、美味しい総菜パンを楽しみたいなど好みは人それぞれですが、今回紹介した3アイテムは至福のパンライフのパートナーになるはず。ぜひお気に入りを探してみて」
奈津子
女優・タレントとして活躍する傍らで家電製品総合アドバイザーの資格を取得。独自の視点によるレビューを多くの連載やTVで発信中。毎週火18時頃TOKYO FM「スカイロケットカンパニー」生放送、21時~テレビ東京系列「開運!なんでも鑑定団」にレギュラー出演中。オフシャルインスタグラム@natsuko_kaden。 オフィシャルブログ「ナツアキブログ」
全国各地のエネルギーにまつわる施設とその周辺スポットに遊びに行く「Trip! Energy(エネトリ)」、第1回は「東京電力フュエル&パワー株式会社(以下、東電FP)川崎火力発電所」がある川崎に。
川崎といえば、美しい工場夜景スポットとしても有名で、プチリッチなBBQテラスもあるというインスタ映え必至のエリア。さらにリニューアルしたラゾーナ川崎プラザの気になるお店もチェック。
インスタグラマーのGaru chan(ガルちゃん)さんと岩崎志保さんがレポート!
Garu chanさん(左)と岩崎志保さん(右)。JR川崎駅からつながるラゾーナ川崎プラザ2Fのルーファ広場をさんぽ
駅近ビルの屋上でプチリッチBBQ
まず訪れたのは、JR川崎駅から徒歩5分ほどのところにあるビル。一見、何の変哲もないビルなのに、屋上に上ると面白い空間が広がっている。
ロックヒルズガーデン屋上は3時間3000円~/人でレンタル可能。テーブルやイス、洗い場なども自由に使える
ここは、「ロックヒルズガーデン」というレンタルスペース。屋上テラス、室内ラウンジ、和室を時間貸しで借りることができ、女子会などに利用されている知る人ぞ知るスポットだ。
Garu chan「駅近くのビルの屋上にこんなところがあるなんてビックリ!開放感があっていいよね」
志保「テントやテーブルセットもカワイイ!ここで誕生日を祝ってもらえたら、すごくうれしいかも」
Garu chan「気軽にキャンプ気分♪」志保「ココ、絶対写真が撮りたくなるよ」
屋上テラスの周りには高い建物も少なく、視界は良好。春の陽気と青空とくれば、やりたくなるのがバーベキュー。
「シェアスタイル バーベキューコース」は5000円/1人(料理・スペース料金込み、5人~)
ロックヒルズガーデンでは、スペースのレンタルに追加して、バーベキューセットを頼むこともできるのだ。
Garu chan「アウトドアは得意だからまかせて!」志保「おいしそ~!」
メニューは、肉汁あふれる豚肩ステーキやキャベツとベーコンのアンチョビオイル、ローズマリーが香るチキンステーキなど5品。
ローズマリーとオリーブオイルをもみ込んでローストする「野生を感じるチキンマリー」
Garu chan「食材は用意してくれるし、用具は全部備え付け。本当に手ぶらで来ても大丈夫だね」
プリッとしたソーセージを挟んだ「チームビルディングバーガー」
大ぶりの肉を焼いてスライス。みんなでシェアして食べるスタイル
志保「1500円で飲み放題も付けられるって!ランチからビールっていうのもいいよね」
テーブルを囲んでワイワイするのもいいし、テントの中でのんびり食事をしてもOK。使い方は自由だ
ほかにも屋上スペースには、サンラウンジャー(日光浴用チェア)やジャグジーなどもあり、おなかが膨れたらゆっくりひと休みも。気軽に屋上バーベキューをすれば、ちょっとリッチな気分を味わえるはずだ。
韓国発のひんやりスイーツ
ごはんを食べた後は、甘いものが欲しくなるころ。続いて訪れたのは、2018年3月20日に大規模リニューアルした「ラゾーナ川崎プラザ」。
JR川崎駅からつながる「ルーファ広場」。人工芝が敷かれており、座ってのんびり過ごすことも
3月20日から103ものショップがニュー&リニューアルオープンし、川崎の顔が装いを新たにしている。
志保「新しくオープンした『UNITED TOKYO』に行ってみようかな!」
広場にあるテントやソファなどはリニューアルオープン記念の期間限定
Garu chan「この広場、気持ちいいー」
たくさんの気になるお店がある中、2人が目を付けたのは、コリアンデザートカフェ「ソルビン川崎」。韓国の伝統菓子に斬新なアイデアを加えて現代風にアレンジしたスイーツが味わえる。
コンクリート打ちっぱなしの壁とナチュラルなテイストのテーブルなどがやわらかな印象のソルビン店内
本場・韓国には約500店舗があり、かき氷というとソルビンを連想するほどの人気店で、ラゾーナ川崎プラザは日本で5店舗目となる。
人気No.1メニューの「きな粉餅ソルビン」(850円、手前)と、アップルマンゴーとチーズケーキを合わせた「マンゴーチーズソルビン」(1500円、奥)
志保「きな粉とお餅の食感がクセになるかも」
志保「おいしぃ~!かき氷なんだけど、かき氷とはちょっと違う。口の中に入れるとふわっと溶けて…新雪に足を踏み入れたような感じかな」
Garu chan「マンゴー、おいしい!スプーンが止まらなくなる」
Garu chan「ボリュームがあって、インスタ映えは間違いないよね!」
氷粉雪のようなふわふわな氷。写真を撮りながらゆっくりと食べられる
川崎の港湾を彩る夜景
スイーツを食べてのんびりしたあと、最後に訪れたのは、川崎港にある「川崎マリエン」。
JR川崎駅から川崎マリエンへの移動はバスか車。25分ほどで到着する
川崎マリエンは、川崎港振興協会が管理するちょっとお硬めな会館なのだが、高さ51mにある最上階には、実は誰でも入れる入場無料の展望室が。
市内はもちろん、新宿のビル群や東京タワーなどを望むことができる隠れた絶景スポットになっている。
展望室からの眺め。夕日の沈む西側には、川崎の倉庫群などが見える
Garu chan「想像していたより、いいかも!けっこう穴場だよね」
10階の展望室フロアは、1周すれば川崎市街から東京湾まで360度の景色を眺めることができる
志保「この周辺には、発電所をはじめ、製油所や工場があるんだって。こうやって見ると、工場って言ってもいろんな形があるんだね」
Garu chan「あの2つ並んでいる煙突は?」
2本の煙突の下に広がるのが東電FP川崎火力発電所
志保「あれは東電FP川崎火力発電所の煙突だって。あの発電所って、LNG(Liquefied Natural Gas)っていう液化させた天然ガスを燃料に使っていて、環境にやさしいらしいよ」
窓の手前には、東電FP川崎火力発電所など、展望室から見える景色の説明書きも
LNGは、不純物や、酸性雨のもととなる硫黄分などが含まれていない、環境にやさしい燃料。東電FP川崎火力発電所では1984年からLNGを燃料としている。
さらに東電FP川崎火力発電所は、1600℃という高温の燃料ガスによるガスタービン発電と、蒸気による蒸気タービン発電を組み合わせた発電方式の設備も導入しており、その設備の熱効率は約61%と世界最高水準を達成している。
Garu chan「都市部にも発電所ってあるんだ。電気って案外、身近なところでもつくられているんだね」
志保「工場が広がる景色なんて見たことがなかったから、なんだか新鮮」
さらに時間が過ぎると、夕日が工場群の中へ。
3月は18時前に夕焼けの美しい風景が広がる。18時を過ぎると次第に暗闇に
橙から深い藍色へと空の色が変わり、数十分もすれば工場群と都会の光が織りなす夜景が姿を現す。
川崎マリエン西側から見える夜景
Garu chan「夜景もキレイ。写真の撮りがいがあるよね」
志保「動画を撮影して、音楽つけたら、かっこよくなりそう!」
川崎マリエン北側から見える夜景。東京タワーまで望むことができる。手前は首都高湾岸線
さまざまな色の光が港湾を彩る夜景は、まるで電気のアート。展望室のベンチに座ってのんびり眺めれば、光を生み出す電力のありがたみも感じられるかも。
眼下に広がる倉庫群やコンテナのナトリウム灯の光で、港湾の工場地帯がオレンジ色に染まる
春のお出かけは、未体験にたくさん出会える川崎に行ってみては?
※表示価格は全て税込です
今回訪問した施設
ロックヒルズガーデン
住所:神奈川県川崎市幸区3-8-1 7F・屋上
電話: 044-589-4333
http://upbbq.com/
ラゾーナ川崎プラザ
住所:神奈川県川崎市幸区堀川町72-1
電話: 044-874-8000
https://mitsui-shopping-park.com/lazona-kawasaki/
※ラゾーナ川崎プラザのイベントはこちら
川崎マリエン
住所:神奈川県川崎市川崎区東扇島38-1
電話: 044-287-6000
https://www.kawasakiport.or.jp/
レポーター
-
Garu chan
instagram: @garuchan01
Twitter: @garuchan01
-
岩崎志保
instagram: @shihoiwazaki
Twitter: @shihonchu319
東京電力パワーグリッド株式会社 神奈川総支社横浜制御所配電保守グループ 池田欧世(いけだ・おうせい)さん(26歳)
東京電力パワーグリッド株式会社は、発電所でつくられた電気を利用者に届けるための送配電設備について、建設・運用・保守を行っている企業。2018年4月で入社2年目となる池田欧世さんは、神奈川総支社横浜制御所配電保守グループにて、皆さまに安心して電気をご利用いただけるよう、配電設備の保守・メンテナンス、監視等を行っている。
エネルギーに興味を持ったのは、小学4年生から中学生まで住んでいたアメリカで経験した停電がきっかけだったと話す池田さん。
池田さん「アメリカに住んでいた時、ちょっと風が強いだけですぐに停電をし、さらに復旧までに数時間もかかるのを経験しました。高校生から日本で生活していますが、日本では停電などのトラブルも少なく、また復旧も早いですよね。とても驚きました。そして将来のことを考えたとき、電気などのエネルギーは人々が生活していくうえで欠かせないもの、そのことに自分が携われたらという思いが強くなり、大学でエネルギーの勉強をしました」
早速、現場へ向かう池田さんを追跡!今日の任務は電柱に架かる電線の点検・保守。まずは、作業時に欠かせない工具や備品を管理する倉庫へ向かう。ここで作業時に必ず必要となるペンチやスパナ、ドライバーなどの工具のほか、安全帯ロープやセーフティーロープを準備。その総重量は何と10キロ以上!感電から身を守る手袋や靴も車両に積み込んで、いざ出発。
池田さんが所属する配電保守グループでは、通常2名でタッグを組み仕事に取り組む体制となっているが、取材時は池田さんが入社1年目ということもあり、先輩2名に、池田さんが“プラス1”という3人体制の中で仕事を覚えることが任務となっていた。
池田さん「2年目からは“プラス1”ではなく、一人前の作業員として成長しなくてはいけません。さまざまなトラブルへの対処方法を事前に想定した作業手順の組み立てや、それに必要な工具の準備など、一つ一つの仕事に責任が伴います。あらゆる問題に対処できるよう、日々緊張感を持って仕事に邁進しています」
取材時の天候はあいにくの雨。しかし、雨の日も嵐の日も雪の日も屋外で作業をこなさなくてはならないのが、配電設備を守る池田さんの仕事。吹き付ける雨粒をものともせず、雨具を着た池田さんは安全帯ロープを電柱に回し、足場ボルトと呼ばれる箇所に手足を掛けて登っていく。手に触れる箇所すべてで足場ボルト等の設置状況が安全か声を出しながら確認し、慎重に、そして素早く該当箇所を目指す。
電線等の障害物がある箇所では、電柱にまわしがけた安全帯ロープが電線と接触し上部にあがることができないことから、いったん安全帯ロープを外すことが必要となる。まずは安全帯に装着してあるセーフティーロープを足場ボルトに付け安全を確保したあとに、安全帯ロープを外す。電線のある箇所を抜けると、再び安全帯ロープを電柱にまわしがけ安全帯に装着。通称「安全帯昇降柱法」と呼ばれ電柱に登るために必要な基本技術である。この動作を素早く繰り返し行いながら作業位置を目指すのだ。
安全帯ロープとセーフティーロープを巧みに操りながら池田さんが登った位置は、地上から約12mの高所。「約半年間、全寮制で実施される研修で毎日訓練してきたので、恐怖感はまったくないですね」と池田さん。確認項目すべてをチェックし異常がないことを確認したら点検・保守作業は終了。
池田さん「電柱にカラスの巣ができているといったお客さまからのご連絡を受け、撤去に向かうこともあります。特に都心などではカラス被害は多いですね。また、強風の日にビニール袋などの飛来物が電線に引っかかってしまったりすることも少なくありません。しかし、その都度トラブルの元となる原因を取り除いていくことで、皆さまに電気を届けられることに誇りを持っています」
東京電力パワーグリッド株式会社では、24時間365日体制で電気を守っている。当然、池田さんも深夜に出動することも。日々の生活の中で当たり前のように利用している電気。停電などのトラブルが滅多に起こらないのは、池田さんを含むこうした企業で働く人々の努力の結果なのだと、密着取材により改めて実感した。
池田さん「台風や降雪時であっても電柱に登り、作業することは、体力的にも精神的にも苦難を強いられます。しかし、それによってお客さまに電気をお届けすることができ、灯りがつくのを見る瞬間は大きなやりがいを感じます。また、発展途上国では電力インフラは十分でないと聞きます。さらなる夢は、日本の送配電の技術水準で海外の電力インフラを整えたいと思っています。そのためにも、電気を停めないためには何が必要なのか、送るためには何をしなくてはいけないのか日々勉強しています」
最後にリフレッシュ方法を尋ねると、笑顔を見せてこう話してくれた。
池田さん「アウトドアが好きで登山やスキーが趣味なので、大型連休などは山の自然に囲まれて癒されています。また、2年ほど前からボルダリングを始めたので、週末など時間があるときはジムに行っています。最近ではアマゾンプライムで海外ドラマを観ることにはまっています(笑)」
日本の配電技術を身に付け、海外の電力インフラを整備したいという池田さんの今後の活躍に期待!!
★池田欧世さんプロフィール
年齢
|
26歳
|
身長・体重・血液型
|
185cm・80kg・A型
|
趣味
|
登山・スキー・ボルダリング
|
好きな食べ物
|
鯵のなめろう・ハツ
|
好きな映画
|
海外ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」
|
好きな異性のタイプ
|
好き嫌いをせず、楽しくお酒を飲めそうな人
|
好きな芸能人
|
小島瑠璃子
|
おすすめ記事
様々なエネルギーを知ることができる「アトミックステーション ジオ・ラボ」と、普段目にすることのできない電気の性質などを体感できる「デンキファクトリー」がある「科学技術館」(東京都千代田区)。
“子供たちの学び場”と知られている同施設だが、実は五感を刺激するアトラクション的要素も多く、今“大人がハマる”と話題に。
そこで、インフルエンサーとして活躍する鈴木さんと斉藤菜々子さんが「科学技術館」をレポート。
「どんな体験が待っているのか楽しみです!」と興味津々の2人。早速、館内へ入ってみることに!
「ちょっと、お堅いイメージなのかなと思っていたけど、全然違うね」(左・鈴木さん)。
「エントランスがとってもキレイ。ワクワクしてきたね」(右・斉藤さん)
科学技術館の建物は、宇宙に散在する星をイメージしたデザインの外壁が印象的
「科学技術館」は緑に囲まれた「北の丸公園」に位置し、家族連れはもちろん、訪日観光客の人々も訪れる人気のスポット。
建物の外壁には宇宙に散在する星をイメージしたユニークなデザインが施されているのも特徴だ。
まず2人が向かったのは3階にある「アトミックステーション ジオ・ラボ」
2人が向かったのは、地球に存在する様々なエネルギーを学べる実験ステーション「アトミックステーション ジオ・ラボ」。
ココでは原子力エネルギー、自然エネルギー、化石燃料などがもつ特性や、地球環境などを考えたエネルギー利用のあり方を知ることができる。
入口前にはペッパーくんが!液晶画面に映された項目をタッチすると、「アトミックステーション ジオ・ラボ」に関する内容を紹介してくれる
「見てみて!ペッパーくんがいる♪」と斉藤さんが発見したのは、「アトミックステーション ジオ・ラボ」の展示内容を解説してくれるペッパー君。
「タッチパネルを触ってメニューを選ぶと、展示について説明してくれるんだって」と斉藤さん。
展示エリア中央にある「原子力発電のしくみ」。
スタートと記された場所をタッチするとアニメーションがスタート
水を沸かし蒸気の力でタービンを回転させ電気を起こし…
街の灯りが点灯!
「イラストや模型がかわいくて分かりやすいね」(斉藤さん)
「電気が付いたよ!キレイ~」(鈴木さん)
「原子力発電のしくみ」では、核分裂で発生した熱を使って発電していることをアニメーションと模型で紹介。
中央の大きなパネルを見て、「『ここをタッチ』って書いてあるよ」と鈴木さん。
触れてみると、ウランの核分裂で発生した熱を使い、蒸気タービンを回して発電、これが街を照らす電力となるというアニメーションがスタート。
矢印がついている大きな舵を回すと「日本のエネルギー事情」が分かるユニークな展示
そして、石油や石炭などの世界の分布地図や埋蔵量、日本の輸入量などを比較できる「日本のエネルギー事情」へ。
「この大きな舵を回すと、エネルギーの詳細が分かるようになっているんだね」と斉藤さん。
「日本ってエネルギーの多くを海外に依存しているんだ…」と鈴木さん。
「家庭で必要なエネルギーの量も書いてあるから身近に感じられるね」と、エネルギーを学ぶ2人。
スクリーンに登場する小学5年生の創(つくる)くんと望(のぞみ)ちゃんがナビゲーターとなり、地層処分を解説
「映像がすごくリアルだね!」と3Dシアターを楽しむ2人
続いて、原子力発電の燃料をリサイクルしても、どうしても残ってしまう高レベル放射性廃棄物を地下の深いところに埋める地層処分を紹介する3Dアニメーション「地層処分シアター」(約20分)を鑑賞。専用メガネを装着してシアターへ。
「立体的な映像が迫ってきてオモシロイ!」(鈴木さん)。「映像がすごくカワイイしわかりやすいね♪」(斉藤さん)。
「難しい内容を3Dアニメで楽しめるなんて思っていなかったので驚きました」と鈴木さんが話す通り、キッズでも楽しめる内容となっている。
「デンキファクトリー」ではワークショップを含む10種類以上の体験ができる
キッズにも人気の高い「発電サイクリング」にトライ!
「アトミックステーション ジオ・ラボ」を満喫したあとは、同じく3階にある電気の原理を学べる参加体験型の展示と、実験の名人が演示する実験ショーが行われる「デンキファクトリー」へ。
「これ自転車ですよね…?」と斉藤さんが注目したのは、“人の力でどのくらい発電できるか”に挑戦する「発電サイクリング」。
自転車のペダルをこぐと発電機が回り、テレビや電球などを付けることができる。
「意外と難しい~(笑)」と言いつつ楽しそうな斉藤さんと鈴木さん
「思いっきりこがないとテレビが付かない(笑)。もう一回チャレンジだ!」と気合い十分の2人。
頑張った甲斐がありテレビが付くと一気に笑顔に。
発電サイクリングは3台あり、3人で協力すると大きな電気を起こすことができると聞いた2人は、「今度はもう1人連れて来よう(笑)」と、リベンジは次回へ持越しに!
ガラスに触れると触れた部分に光が伸びる「プラズマボール」。
「ちょっと怖いね」と弱腰の斉藤さんに対し「大丈夫だよ~」と興味津々の鈴木さん
ガラスのボールに触れると放電する電子の動きが手に吸収されるように自在に動く「プラズマボール」や放電の不思議な光を体験できる「アーク放電」など様々な体験をした2人は、続いて実験名人によるワークショップへ!
取材時のテーマは、「電気と力と磁石」(約20分)
電磁石を利用したフライパンのスピーカーを体感する2人
取材時は「電気と力と磁石」をテーマとしたワークショップを実施。
様々なアイテムを用いて行われる実験は、普段は気付かない「電気のはたらき」などを感じることができる内容となっている。
「音楽や声は『音波』という振動を通して私たちに届きますよね。では、スピーカーの仕組みはどうなっているかご存知ですか?」
と名人に問いかけられ「?(笑)」とキョトンとした表情の2人。
そんな2人に分かりやすくスピーカーの構造を解説してくれた名人。その後、名人が取り出したのは、なんとフライパン!
CDプレーヤーとフライパン、そして電磁石などを組み合わせると…
「わー、すごい!フライパンから音が聞こえる!」と一気に笑顔になった斉藤さんと鈴木さん。
名人と直接触れ合いながら学ぶことができるワークショップは、「デンキファクトリー」でも大人気なので、ぜひ参加して!
1階「ミュージアムショップ」には科学に関するグッズがズラリ
左からチョコインクッキー(10個入り・税込650円)、しおり(各税込380円)、キーホルダー(税込324円)
※すべて科学技術館限定
最後に1階「ミュージアムショップ」へ。
同館の展示にまつわるアイテムのほか、宇宙に関するグッズまで幅広く取りそろえている。
チョコが入ったクッキーやしおりといった同館オリジナルグッズも。
ちなみに写真中央のしおりは、赤い帯が仕事運・健康運、ブルーは勝負運といったお守り的要素もあるとか、ないとか(?)
「ほかにもいろんな展示があるみたいなので、また来ます!」と鈴木さん
「子供に戻ったように楽しめました♪」と斉藤さん
「科学技術館」で、電気やエネルギーについて体験した2人。
「当たり前に使っている電気には、いろんな工夫や工程があって提供されていることを改めて知ることができたので、今日から大切に使います」と鈴木さん。
「日本のエネルギー事情なんて、普段まったく気にしていなかったので、とても勉強になりました」と斉藤さん。
最後に今日のワクワク度を電力にかけて評価♪ テンションMAXを100ワットとするとどれくらい?
「五感を使って楽しく学べて得した気分なので、私は80Wくらい♪」(鈴木さん)。
「シアターやワークショップがとっても楽しかったので、私も80Wかな!」(斉藤さん)。
「九段下」駅から徒歩10分とアクセスも良い「科学技術館」にぜひ足を運んでみて。
指標:10W=★/最大100W
鈴木さん………★★★★★★★★☆☆
斉藤さん………★★★★★★★★☆☆
レポーター
-
鈴木
instagram: @shiorinsuzuki
-
斉藤菜々子
instagram: @nanacoco.7
女優で元SDN48の奈津子さんが、実際に使って試した今イチオシの家電をご紹介。
美容家電やオシャレ家電、調理器具など生活を豊かにしてくれるアイテムの中から、季節やシーンに合わせたカテゴリーをピックアップ。
お気に入りを見つけて、家電ライフを満喫しよう!
家電アドバイザーの資格も取得する女優・奈津子さん。
「忙しい毎日にHAPPYをくれる、そんな家電をご紹介します!」(奈津子)
※左から東芝「TAS-X3」、パナソニック「NI-FS540」、ティファール「トゥイニー ジェットスチーム DV9000J0」
【3月のテーマ:忙しい朝の味方!衣類スチーマー】
シワになりやすいシャツなどをハンガーに掛けたままケアできる衣類スチーマー。
春風が心地よいこの季節に着たくなる、フレアスカートやスカンツといったトレンドファッションにも対応してくれる優れモノを奈津子さんが実践。
女子ならではの視点から、オススメの3アイテムそれぞれの良さを伝授!
「アイロン面の素材や形、スチーム孔の数や場所もさまざま。特徴を知れば自分に合った商品が見つかりますよ」(奈津子さん)
■一人暮らしにピッタリ!
パナソニック「NI-FS540」(ピンクゴールド調)
2018年4月20日(金)に発売されるパナソニック「NI-FS540」(ピンクゴールド調)は、小回りが利く衣類スチーマー。
「3倍パワフルスチーム」が搭載された最新バージョンは、さらに脱臭効果が強力に。
2018年4月20日(金)に発売されるパナソニック「NI-FS540」(ピンクゴールド調)。
計量カップ付。立ち上がりは約24秒と早く、使い勝手がバツグン
360度、どの角度からでもスムーズにスチームを当てることができる
脱臭効果の高い「3倍パワフルスチーム」は、襟や首元など汗をかきやすい場所に当てると効果絶大
奈津子「まず、ゴージャス感のあるデザインがいいですね。見せる収納をしてもオシャレになりそう。小回りが利くサイズで、360度どの角度からもスチームを当てることができます。脱臭効果の高い『3倍パワフルスチーム』は約3秒間噴射される仕組みになっているので、ピンポイントに臭いを取り除きたい襟部分などに使用するのがオススメです」
パワフルスチームでスカートもボリュームアップ
柔らかなカーブになっているアイロン面の側面を利用すれば、裾もキレイな仕上がりに
奈津子「ボリューム感を演出したいスカートには、少し浮かせてスチームをかけるとふんわり仕上がります。アイロン面が滑りやすいセラミック素材で、側面が柔らかなカーブになっているので、スカートの裾をキレイに仕上げるのにピッタリ!パナソニック『NI-FS540』は、スチーム持続時間約4分と1着分のシワをとるのに丁度良く、収納場所に困らない小型サイズなので一人暮らしの方やオフィス用として使用するのにオススメです。旅行の時などに持ち運びやすいサイズなのもいいですね」
■カップルで使用したい
東芝「TAS-X3」(NW:ゴールドホワイト)
長さ約17㎝と小型ながらアイロン面が広く、男性のスーツなどにも対応できる東芝「TAS-X3」。
持ち手の部分が、持ち替えやすく手のサイズを選ばないオープンハンドルなので、男女問わず利用できる使いやすさも魅力だ。
東芝「TAS-X3」(NW:ゴールドホワイト)。計量カップ付。
「スチーム孔が8個もあるので、スチームパワーも強力!」(奈津子)
アイロン面が広いため、素早くアイロンがけが可能
先細タイプの「楽がけライン」で、ボタンやプリーツなど細かい部分がかけやすい
奈津子「コンパクトサイズなのにアイロン面が長さ約17cm、幅約7cmと広いのでサッとシワをとるのに最適!オリジナルデザインを採用した先端部分は先が細くなっているので繊細なデザイン部分に対応できます。普段は「スチームモード」(最大約11ml/分)、シワが深い時は「シャワーモード」(最大約15ml/分)と2段階のスチーム機能が搭載されているのもうれしいですね」
スチームパワーの強い「シャワーモード」を利用すれば、タックの多いパンツでもお手のモノ!
ワイドに広がる裾部分も、一気にキレイに
奈津子「タックを用いて広がりを出すパンツやスカートなど、“アイロンがけをするのにはちょっと難しいかな”と思ってしまうファッションでも大丈夫。厚みのあるウエスト部分には「シャワーモード」を、裾部分は「スチームモード」と、2段階のスチームを活用すればラクラク仕上げることができます。東芝『TAS-X3』は、多彩なデザインのファッションに対応できる衣類スチーマー。アイロン面が広く男性用のスーツやシャツにも使えるので、同棲しているカップルにオススメですね」
■衣類のほか家中のファブリックにも!
ティファール「トゥイニー ジェットスチーム DV9000J0」
ハンガーにかけたままシワや臭いを取ることができるスチームと、アイロン台を使うことでスチームアイロンとして使用できるティファール「トゥイニー ジェットスチーム DV9000J0」。
ティファール「トゥイニー ジェットスチーム DV9000J0」。
計量カップ、エチケットブラシ、アタッチメントブラシ付き
「ハンドルが細いので握りやすいですね」(奈津子)。
トリガーを引くと、パワフルなジェットスチームを「シュッ」と噴射できる
襟元のシワとりに使いやすい「先細りチップ」と呼ばれるデザイン
奈津子「アイロン面の温度が3段階に調節でき、衣類の素材に合わせて使用できます。アイロン面とハンドルの位置が離れているので、衣類のどの部分を当てているかを目視しやすいのもいいですね。先端部分の角度に合わせてスチーム孔が配されているので、ハンガーに衣類をかけたままでの使用では襟やボタン部分のシワとりに向いていると思います」
深いシワがある衣類やしっかりプレスしたい部分のアイロンがけには、アイロン台を使っての使用がオススメ
奈津子「先端に向かって力をかけやすいデザインになっているので、しっかりプレスを付けたいパンツや深いシワがある衣類にはアイロン台を使っての使用がオススメです」
衣類についた糸くずやほこり、毛髪などを簡単に取り除けるアタッチメントを装着
衣類はもちろん、ホコリなどが付きやすいソファなどの家具にも利用できる
奈津子「さらに付属で付いているアタッチメントを装着すれば、衣類についた糸くずやほこり、毛髪などを簡単に取り除くことができます。アウターはもちろん、ソファなどの家具に使えるのもうれしいですね。ティファール『トゥイニー ジェットスチーム DV9000J0』は、アイロン台を使ってパンツの折り目や襟、袖口などキレイにプレスを付けたい人にピッタリ。エチケットブラシとアタッチメント付というのもお得感があっていいですね」
さまざまな機能を搭載し進化を続ける衣類スチーマー。今回紹介した3アイテムを含めた現在の衣類スチーマーは、ハンガーに掛けたままの使用とアイロン台を使用してプレスをかける2way使用が可能であることに加え、安全性を考慮した自動オフ機能、脱臭や除菌、花粉やハウスダストなどの除去にも対応しているのが主流だ。
奈津子「衣類スチーマーを選ぶ際、スチーム量やスチーム孔の数などで比較をするほか、自分の手のサイズに合ったハンドルかどうか、どんなデザインの衣類に使用したいかなどを考えて選ぶのもポイントです。コンパクトサイズで軽く気軽に持ち運べるタイプも多いので、旅行に持っていくのにも便利。また、オフィス用として活用することで、仕事終わりの食事会にキレイなシルエットの洋服で出かけることができ、気分も上がりますよ」
奈津子
女優・タレントとして活躍する傍らで家電製品総合アドバイザーの資格を取得。独自の視点によるレビューを多くの連載やTVで発信中。毎週火18時頃TOKYO FM「スカイロケットカンパニー」生放送、21時~テレビ東京系列「開運!なんでも鑑定団」にレギュラー出演中。オフシャルインスタグラム@natsuko_kaden。 オフィシャルブログ「ナツアキブログ」