愛媛県・伊方町(いかたちょう)で、四国電力グループの一つ「伊方サービス」が始めたのは、ミカンの栽培。さらに、収穫したミカンを使ってジュースやパウダーなどの加工品も製造販売し、地域を支えるために活動しています。さらなる新商品の開発も進める中で育んでいる“地域愛”の形とは?
ミカン栽培のきっかけは高齢化?
四国最西端に位置する愛媛県・伊方町は、北は瀬戸内海、南は宇和海の2つの海に囲まれた、日本で一番細長い半島にあります。
アジやサバ、タイ、サザエ、アワビ、伊勢エビなどさまざまな海の幸が水揚げされる地域であるとともに、愛媛県の特産品であるミカンの生産も盛ん。温州みかんや伊予柑、清見タンゴールといった柑橘類の産地として有名です。
佐田岬にある佐田岬半島ミュージアムから望む瀬戸内海
そんな自然豊かな伊方町の農業に、ある危機が訪れています。それは「高齢化」。伊方町の人口は約8,400人(2020年)。農業従事者は1,350人で、うち約800人が65歳以上となっているのが現状です。
ミカンは、山の斜面の段々畑で栽培されているため、畑への往復や重たいコンテナの運搬など、栽培はかなりの重労働。伊方町では高齢化によって、そうした作業ができなくなり、離農する農家が増えています。
このままでは伊方町の特産品が危ない――。そこで立ち上がったのが、四国電力グループの「伊方サービス」です。町内で生産されるおいしいミカンを守りたいと、離農する農家から畑を借り受け、ミカン栽培を始めたのです。
伊方サービスが栽培した温州みかんは「媛(ひめ)の輝き」というブランドで販売されている
伊方サービスは1995年に、地域振興への貢献と、放射線測定や水質検査、伊方ビジターズハウスの運営など、伊方発電所の業務支援を目的に、四国電力グループと地元団体によって共同で設立されました。広大な土地を必要とする発電所は地域あってのもの。地元を支え、盛り上げることも仕事の一つです。ミカン栽培も、そうした地域を守っていきたいという想いから始められました。
栽培をスタートしたのは2020年。初年度は0.9ヘクタールだった畑も、2023年には3.5ヘクタールへと拡大。しかし、ミカン栽培を始めたものの、痛感したのはミカン栽培の難しさでした。ミカン栽培を担当する伊方サービス 地域事業部の細谷真也さんは話します。
「勤務時間内で作業を行うことは、ものすごく難しいとわかりました。元々手掛けていた農家さんに教えてもらわないと、わからないことも多かったです。当初はデータ分析などをして科学的にも効率的にもおいしいミカンを作ろうと考えていましたが、ミカン栽培は理屈ではない、まずは『農家さんのおいしいミカンに近付けよう』というところから始めました」(細谷さん)
ミカン栽培を担当する細谷さん
四国電力グループならではの技術も取り入れています。四国総合研究所が開発した「iRフレッシュ」という近赤外線照射装置を用いることで、鮮度とおいしさを保てるように。また今後は、水分や日照時間などを測れるセンサーを畑に設置し、栽培に関するデータを集めてよりおいしいミカンを追求していくことも目指しています。
2023年は豊作の年で、これまで約50トンが収穫されました。夏場に雨が降らなかったため小ぶりの玉が多かったのですが、逆に味が凝縮され、甘味が際立ったミカンに育っているそうです。
伊方サービスが栽培したミカン。2023年は豊作だった
特産品で伊方町の魅力を全国に発信
伊方サービスが地域のために手掛けているのは、ミカンの栽培だけではありません。ジュースやパウダー(調味料)など、ミカンを使った伊方町の特産品も生み出しています。
「木なり「熟」みかん(720ml/2本)」(3,000円)。パッケージには佐田岬をデザイン
「みかんパウダー」(756円)。サラダやヨーグルトに振りかけても
最初の一歩は、地域にあるものを新たに商品化して情報発信していくことでした。まず始めたのは「お酒」です。八幡浜市にある川亀酒造と協力し、日本酒「八西(はっせい)」が誕生。ブランド化を進めました。
日本酒「八西(はっせい)」(1,760円~)
新たな日本酒の誕生と共に、商品を販売するためのサイト「四国のしっぽ」もスタートさせました。サイトには伊方サービスが開発したものだけでなく、地域で作られている柑橘ゼリーや鯛めしといった約50もの商品をラインアップ。ここから地域のおいしい逸品を全国に届けています。
「四国のしっぽ」で販売されている地域の特産品。ゼリーから日本酒までバラエティ豊か
また、「四国のしっぽ」では高校生が携わった商品も販売しています。伊方町唯一の高校である三崎高校から「生徒が発案・開発した、校庭のだいだいを活用したマーマレードを商品化したい」と相談を受けたことがきっかけで、試作をはじめ、商品名の考案、ラベル作り、販売ルートの検討などをお手伝い。「みさこぅ!のさぁいこー!なマーマレード」と名付けられた商品は、だいだいのほのかな渋みとレモンの酸味がアクセントになる、人気商品の一つです。
「みさこう!のさぁいこー!なマーマレード」(1,296円)
三崎高校の生徒が作った「みさこぅ!のさぁいこー!なマーマレード」はマーマレードの品評会での金賞受賞をきっかけに商品化
「四国のしっぽ」には、マーマレードの購入者からこんな心温まるメッセージも。
<主人が愛媛県出身で私も愛媛愛が強く、すぐに飛びつきました。甘さもちょうど良くておいしいです。高校生の発案で商品化されたと知り、“希望に満ちたマーマレード”だなと感じて、胸が熱くなりました>
商品づくりに携わった伊方サービス 地域事業部の井上晃子さんは、「本当にうれしいコメントでした。このマーマレードの商品化にはとても長い時間が掛かりましたが、世に出すことができてよかったです。開発に関わったすべての人たちで喜びを分かち合いました」と振り返ります。
マーマレードの商品開発を担当した井上さん(左)。「四国のしっぽ」で販売できる地域の特産品を常に探しているそう
そして今、進めているのが、認知機能の一つである記憶力の改善効果が期待できる成分「オーラプテン」が含まれる、河内晩柑という柑橘を使った飲料の商品化。機能性表示食品として開発中です。
商品開発を担当する伊方サービス 地域事業部の門田歩さんは、「2023年度内にも発売を目指しています。楽しみにしていてください!」と、力を込めます。
新商品の開発を担当する門田さん。ミカンの栽培も担う
地域の農業を守る地元愛
伊方サービスがミカン栽培や特産品開発をする一番の理由、それは地域を支えるためにほかなりません。
商品開発などのほか、地域の農業を守るために、2022年からスタートした伊方町主催の「伊方町柑橘サミット」に協力。愛媛県立農業大学校の学生を受け入れ、収穫体験の場などを提供しています。若い就農希望者が町を訪れるきっかけを作ることで、将来的に伊方町で農家を営む人を増やしていきたいという想いが込められています。
また、伊方サービスを含めた10軒の農家で雇用促進のための協議会も作りました。各地で行われる新規就農フェアなどに共同出展し、伊方町の名前を全国に広めています。
「伊方サービスの従業員は、大半がこの地域で生まれた人間です。ですので、最後まで伊方町を守れるよう、困りごとがあれば解決したい。そうした思いは強いです。この地域は2060年になると、人口が2,000~3,000人になり、社会インフラが崩壊してしまう恐れがあります。そうした人口減少からも地域を守っていけるような企業でありたいですね」(細谷さん)
伊方町の町おこしを盛り上げるためにも、ミカンがおいしいこの時期に、「四国のしっぽ」で愛媛の特産品を購入してみるのはいかがでしょうか。
■DATA
伊方サービス
http://www.ikata-s.co.jp/
四国のしっぽ
https://shikokunoshippo.com/