近年、地震や台風などの自然災害が日本を含む世界中で頻繁に発生しています。これらの災害は私たちの生活に大きな影響を与えるだけでなく、ペットにも危険が及ぶ可能性があります。私たちは大切な家族の一員であるペットの安全を守るためにどう備えるべきか、NPO法人ペット防災サポート協会理事長の三浦律子さんにお話をうかがいました。
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NPO法人ペット防災サポート協会理事長の三浦律子さん
ペット防災はペットと飼い主を守るだけではない。地域社会全体での取り組みが大切
――ペット防災サポート協会立ち上げのきっかけについて教えてください。
私は現在ドッグトリミングサロンを経営しているのですが、お店をオープンした年に東日本大震災が起きました。知識も経験もない状態では災害時のボランティアはできないと感じ、お客様とペットのために自分ができることを考えました。当時は、ペット防災に関する情報や啓発活動もまだまだ不足していたので、ペット防災という考え方を伝える必要性を感じていました。この時からペット防災について学び、被災地でトリマーとして、ペットのケア方法やペット防災を伝えるボランティア活動に取り組み始めました。活動を通して、ペット防災はペットと飼い主さんを守るためだけのものではなく、地域社会全体で重要性を認識して取り組むことが大切だと感じるようになりました。そうした活動を継続していく中で、同じ思いの仲間が集まりペット防災サポート協会が立ち上がりました。
ペットと家族の避難計画と適切な備えを
――災害時の対応において最も重要なポイントは何ですか?
やはり備えをしている人と、していない人では大きく違いが出てきます。備えをしていないと、人もペットも命に関わります。「モノ」の準備だけではなく、ペット連れは避難場所をいくつか具体的に考えておくことが重要なポイントになるかと思います。具体的には、飼い主も一緒に避難する場合は知人宅や少し離れた親戚宅など。ペットだけで短期間の場合はペットホテルやサロン、長期の場合は動物団体に相談しましょう。特に大規模な災害の際には、ペットを受け入れる施設や場所が限られていることがあるので、ペットと家族の避難計画を事前に立て、適切な備えをすることが重要です。住んでいる地域の防災計画や自治体の広報誌、ウェブサイトなどで災害時の避難所の所在地や避難ルートを確認し、避難所にペットを連れて行く際の注意事項も、あらかじめ管轄の自治体に確認しておきましょう。
適切な温度管理には電力が必要不可欠。それぞれのペットに合った対策を
――災害時にペットの安全を守り、ストレスを軽減させるにはどのような対策が必要ですか?
ペットの種類や性格にもそれぞれ違いがあるので、その子に合わせた対策が必要ですが、全てのペットに共通することは適切な温度管理です。犬や猫はもちろん、エキゾチックアニマル(トカゲやヘビ、ハリネズミなど)を飼っている方は特に重要になってきますし、鳥などは他の鳥からの感染症にも注意しなければなりません。ペットの性格や年齢、体調なども考慮して、避難後の過ごし方まで考えておく必要があります。季節や天候に応じた準備が必要なので、エアコンを利用できることが望ましいですが、電力の供給が制限されることもあるため、ペットの温度管理に役立つ保温マットや冷却マットなどを用意するなど、ペットの体温調整を常に意識するようにしましょう。ポータブルバッテリーなどの予備電源を準備しておくと安心です。電力はペットの快適な生活環境を整える上でも必要不可欠です。
特に新しい環境や外部からの刺激が多い場合、ペットにストレスを与えることがあります。リラックスできるように、ペットが過ごすケージに目隠しになるタオルを被せたり、好きなおやつなどの嗜好品の準備をしたり、適度な運動ができる環境を整えることも必要です。ストレスから病気になるペットもいるので、普段からペットの性格や健康状態、生活スタイルなどを防災ノートに記しておきましょう。防災ノートを見れば、飼い主以外の方もお世話ができます。
ペット防災サポート協会が作成した「人とペットの防災ノート」
――ペットの避難時に必要な備品や物資について教えてください。
避難するときに、持ち出し品(すぐに持ち出すもの)と、備蓄品(家に置いておくもの)とを分けて考えておく必要があります。ペットの種類によっても必要なものにそれぞれ違いがあるので、実際にリュックなどに入れて持ってみることで、重すぎるものは備蓄品にしておくなど、必要なものがどれなのか事前に把握しておきましょう。
例)犬、猫の場合
〇持ち出し品(すぐに持ち出すもの)
療法食、薬、ごはん3日分くらい、キャリーバック、ケージ等、首輪やリード(伸びないもの、係留するのに便利なもの)、ペットシーツ、排泄物の処理用具、猫砂(猫の場合)、食器、暑さ・寒さ対策グッズ、目隠しになる大きなタオル等、除菌シートやスプレー等(避難先を汚した際に使用)、ゴミ袋、ワクチン証明(携帯電話や防災ノートに保存)
〇備蓄品(家に予備で置いておくもの)
ごはん、水、ペットシーツ、猫砂、ガムテープ、ペットの写真、おやつ、グルーミンググッズ、予備の首輪やリード(周りへの安全性を考えて伸びないものが良い)、充電済のポータブルバッテリー
持ち出し品の一例
「人とペットの防災ノート」のチェック項目
学ぶことは、自分を守ること
――ペット防災に関する教育や啓発活動について、現状どのような課題がありますか?
私がペット防災を学び始めた頃は、「まずは人の防災からでしょう?」と言われることが多くありました。時代は変わり、今は15歳未満の子供よりペットのほうが数が多いと言われています。少しずつ関心は高まってきているとは思いますが、まだまだペット防災はペットだけを守ることと思われている傾向があるように感じます。
ペットの存在が人とペットの綿密な避難計画を立てることにつながり、社会全体の防災にも大きく関わってくるので、全ての人にペット防災を学んでほしいと思います。人と動物の命の大切さがわかり、自分を守ることにもなると思います。
愛媛県立伊予農業高等学校で実施したペット防災教育の様子
――最後に読者の方へメッセージをいただけますでしょうか?
防災というと何だか堅い感じがして、「何とかなるでしょう?」とか、「特に何も用意していません」という声もまだまだ聞きます。ペット防災はペットを飼っている、飼っていないに関係なく皆さんに関わってきます。地域でのペットを含めた普段の生活が災害時にも関係してきます。
避難所でペットと一緒に生活するということは大変な部分もあり、過去の災害においてトラブルなどもありましたが、避難所でのペットの存在は悪いことばかりではなかったということも被災地で見聞きしてきました。人が抱えた災害時の不安やストレスを、ふれあった動物たちが癒やしてくれて、生きる希望を与える存在になったということもありました。このように、人と動物の共生がもたらす良い側面は多くあります。私共の団体は、ペットの存在が人々にもたらす良い影響や、ペット防災について様々な視点で学ぶことの重要性を伝えています。今後ペット防災についての取り組みが社会全体の備えとなり、日本の防災意識を変えることにつながるかもしれません。ぜひ、ペット防災に関心を持っていただければと思います。
三浦 律子(みうら りつこ)
愛媛県松山市出身 大阪府東大阪市在住。
NPO法人ペット防災サポート協会 理事長(大阪市住之江区防災パートナー登録)
特定非営利活動法人 全国動物避難所協会 理事
ペット防災の日 制定 (2021年9月7日)
静岡県避難所 HUG (使用許諾060号)
たすかるノート with PET 製作(宮崎県動物愛護管理センター・大阪府河内長野市等)
DogSalon OHANA オーナートリマー(大阪府アニマルパートナーシップ保管第3号)