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【電気博士セレクト!】現代と似てるかも? 明治から昭和にあった「電気なムーブメント」

2020.04.15


©Pexels/Pixabay

家電やスマートフォン、ウェアラブルデバイスなど、身の回りのものがどんどん「AI化」されていく現在。同じように家の中のほとんどのものが「電化=電気で動く」ようになった時代がありました。それは、令和の前の前の前の前の「明治」末期から。「電気」によって私たちの暮らしが変わった瞬間を、国立科学博物館の前島正裕さんがセレクト。時代を変化させた「電気なムーブメント」をお届けします!


昭和初期までにほとんどの家電は登場していた!

最近ではAIが搭載されるものが出てくるなど、どんどん進化している家電。こういった家電が、そもそも日本に初めて登場したのは、戦後以降の高度経済成長期というイメージがありますが、実はそのほとんどが昭和初期までに発売されていました。

例えば、「クーラー(空気調整機)」は1935(昭和10)年に、「電気掃除機」は1931(昭和6)年に、「電気洗濯機」(写真)と「冷蔵庫」は1930(昭和5)年に、それぞれ国産第1号の生産が始まっています。

さらにさかのぼれば、「炊飯電熱器(電気炊飯器の前身)」は1921(大正10)年、「電気アイロン」や「トースター」は1915(大正4)年ごろ、「扇風機」に至っては1894(明治27)年と、今身の回りにあるだいたいの家電は、昭和初期までに出そろっていたと言えます。


画像出典:Wikimedia Commons

なぜ、家電に戦後のイメージがあるかといえば、1950年代後半に白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫という新時代の生活必需品と呼ばれた「三種の神器」という言葉が強くインプットされているからではないでしょうか。昭和の初めごろは、電気が届いていない家庭もまだ多く、家電は高価だったため都市部の一部で使われていただけだったのです。

ちなみに、家電があれば、「家事時間の短縮になる」ように思えますが、一概にそうでもないことも。例えば、洗濯は手洗いから洗濯機になったことで、「汚れたときに洗う」から「毎日洗う」ように生活が変化しました。結果的に昔に比べると洗濯回数が増えて、家事にかける時間は変わらないという研究結果も発表されています。

それはいわば人の意識や社会のあり方の変化とも言えます。きれいで清潔な暮らしが営める恩恵は、暮らしやすさや衛生面を考えても、多大なもの。特に現代日本の猛暑を考えると、感謝せざるを得ません。

昔の電気は半日契約!?

家電の発売以前、それらを動かす「電気」が一般家庭に広まったのも、明治末期から昭和初期にかけて。今から100年ほど前です。

当時、電気と言えば「照明」でした。最初のころ、発電所も「電灯局」と呼ばれていたくらいです。日本全国の電灯普及率は、地域差はあるものの1909(明治42)年の4%から、1935(昭和10)年には89%に。およそ25年で全国に広がるほど、電気で家に明かりをつけることはライフスタイルのトレンドだったようです。


©cheetah / 写真AC(※画像はイメージ)

電気を使うと気になるのが「電気代」。今では電力メーター(電力量計)で使用した電力量を測り、使った分に応じて電気代を払っています。当時の家庭ももちろん払っていましたが、普及し始めたころは、現在とルールが少し違いました。

初めのころの主な電気の契約は、「半夜燈」か「終夜燈」という定額制。日暮れから一晩中電気が届く終夜燈は街灯などに、一般家庭には日暮れから深夜までしか電気が届かない半夜燈が一般的でした。

しかも、普通は電灯用のソケットが家の中に1つか2つある程度。家中にこうこうと明かりがともるのは、当時の人たちにとって夢だったのです。

ど、どこにつなげば…コンセントがない時代の電気の使い方

照明から電気が普及し、さまざまな家電も誕生した大正から昭和初期。家の中に電球用のソケットはあるものの、今なら探せばすぐに見つかる壁のコンセントは、当時の一般家庭にはありません。家電はどのようにつないでいたのでしょうか。

正式には別に契約して、照明用とは別の太い線が配線されていました。しかし、家の中には、天井からぶら下がるソケットが…。そこで、ソケットにつなげられるよう、電球のおしりと同じ金具の付いた扇風機やアイロンが登場したのです。

ただ、これは定額契約のころは契約違反。アイロンは電球よりたくさん電気を使うし、危険です。それに想像すればすぐにわかりますが、家電を使えば、真っ暗になるという問題も…。

その後、同時に使えない問題だけは「二股ソケット」という発明品が解決します。天井にあるソケットにつなげることで、差し込み口が2つになり、電球を使いながら、家電も使えるという優れものです。


画像出典:Wikimedia Commons

当時発売された松下電気器具製作所(現、パナソニック)の製品は大ヒット商品になり、大正時代の三大発明品とも呼ばれています。時代が進み、家電がさらに普及していくと、家の中に複数の電気の供給元が必要となって、現在のコンセントが広まることになります。

明治末期から大正、昭和にかけて、なんでも電気で便利にできないかと、いろいろな家電製品が登場しました。それは、AI家電やスマートフォン、さまざまなウェアラブルデバイスなどによってライフスタイルが変わろうとしている現在と似ています。

暮らしの中の“電化の始まり”をもっと知れば、これからどんな時代が訪れるのかを知るヒントになるかもしれません。


取材協力・監修:前島正裕

独立行政法人国立博物館 理工学研究部科学技術史グループ長。未来技術と人との関係を見据え、博物館では主に電気技術の歴史研究や資料の収集・保存を行う。特別展「日本を変えた千の技術博」や企画展「日本を明るくした男達」などを担当。