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高レベル放射性廃棄物の処分はこれからどうなっていくの?専門家の若杉圭一郎さんに聞いてみた(後編)

2025.01.27

Conちゃん最終処分

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第38回のテーマは「高レベル放射性廃棄物の処分」。前編で、高レベル放射性廃棄物がどういうものなのか、そしてどのように処分するのか教わったConちゃん。「これから、どうやって処分場を造っていくんだろう?」まだまだ気になるConちゃんが、引き続き、エネルギーの専門家に聞いてきました!

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Conちゃん、高レベル放射性廃棄物を処分する場所が気になる!

原子力発電所で電気を作ることで発生する使用済燃料。日本では、使用済燃料から使える資源を取り出して、燃料として再利用する「再処理」が行われることになっている。その過程で生じる高レベル放射性廃棄物は、複数の人工のバリアで囲った上で、地下深くの安定した岩盤(天然のバリア)の中に埋める、「地層処分」が行われることが決まっているそう。「処分をしないといけないことは分かったけど、今はどういう状況なんだろう? これからどうしていくのかな?」と思ったConちゃん。ということで、前回に引き続き、専門家の若杉先生に話を聞きました。

>前編はこちら『原子力発電所の燃料って使い終わったらどうするの?専門家の若杉圭一郎さんに聞いてみた(前編)

Conちゃん最終処分

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若杉「前編で話した地層処分を行うためには、まず地質環境が安定していることが重要なんだ。火山活動や断層活動の影響がないか、隆起・侵食による著しい影響がないかといった多くの条件を満たす必要があるんだよ。高レベル放射性廃棄物の地層処分のことを『最終処分』とも呼ぶんだけど、『最終処分場』を建設する場所は、こうした条件をきちんと満たしているか、丁寧に調査したうえで慎重に決めないといけないんだ。この最終処分を行うために、原子力発電環境整備機構(NUMO:ニューモ)という組織が設立され、必要な対応を行っているんだよ。地層処分を行う場所を選ぶには、現地調査などで詳しく確認することが必要だけれど、地層処分の場所を選ぶ際にどのような科学的特性を考慮する必要があるのか、またそれらの科学的特性を有する地域は日本全国にどのように分布しているのかといったことが大まかに分かる『科学的特性マップ』が2017年に国から公表されたんだ。このマップは、断層や火山といった避けるべき自然現象の影響や地下の地盤の特性などに基づき、地域ごとの特徴を4つの色で示しているよ。ただ、この地図は処分を行う場所を直接決めるものではなく、地層処分について議論を深めるための資料として活用されているんだ」

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科学的特性マップについて詳しくはこちら

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若杉「処分場建設の候補地になる場所では、丁寧な調査が行われるよ。調査は公募制で、市町村の応募に基づいて行われるんだ。もしくは、国からの申入れを自治体に受け入れてもらった後に実施することもあるよ。『文献調査』『概要調査』『精密調査』の段階的な調査で、それぞれの調査の結果を踏まえながら、計約20年にわたる調査が行われるんだ。まず第1段階の『文献調査』では、候補地で過去に実施された地質の調査資料や、自然事象や地下環境に関する文献などを調べて地下の状況を把握し、地層処分にとって明らかに不適切な場所を除外するんだ。次の『概要調査』では、地層処分を行おうとする地層に対して、地表面の調査や実際に地面に穴を掘るボーリング調査、電磁波等を利用する物理探査を行うなどして、地質の状態や地下水の動きを詳しく調査し、地層処分に必要な条件を満たしているかを確認する。このようにして、より詳細な調査を行うエリアを絞り込んでいくよ」

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出典:NUMO「高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する対話型全国説明会 説明資料」

若杉「そして最後は『精密調査』。概要調査で実施したような調査を、さらに緻密に行った上で、実際にその場所で地下トンネルを建設して、岩盤や地下水の特性に関する試験や調査を行い、処分場の建設に適した場所を選定するんだ。なお、それぞれの調査を終えて次の段階に進もうとするときには、都道府県知事と市町村長の意見を十分尊重することになっているよ。そのためにも、地域の方々に調査の内容や進捗状況を丁寧に説明し、ご意見を伺いながら進めることがとても重要なんだ。地元の理解と協力がなければ、地層処分を進めることはできないからね。こうしたプロセスを経て、最終的な地層処分を行う場所を選ぶんだ。そして、処分地が選定されたら、処分施設の建設、放射性廃棄物の搬入や埋戻しなどが順に行われ、最終的にはすべての坑道を埋め戻して処分場は閉鎖されるんだよ」

Con「一つ一つ進められていくんだね」

 

Conちゃん、候補地選定の現状について聞く!

Conちゃん最終処分

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若杉「北海道の寿都町と神恵内村では、2020年11月から日本初の『文献調査』が開始され、2024年11月に調査結果に関する報告書がそれぞれの町村と北海道に提出されたよ。どちらの自治体も、次の『概要調査』に進むことができると報告されていて、NUMOが町村や北海道の皆さんに対して、報告書の内容について説明会を開催しているんだ。今後、『概要調査』に進む場合には、町村長に加え、北海道知事から意見を聴くことになっていて、その意見に反して先へ進めることはできない仕組みになっているんだ。また、佐賀県の玄海町では、2024年6月に国からの申し入れが受諾され、日本で3カ所目となる『文献調査』が現在進められているよ」

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若杉「地層処分は国内で長年検討されてきたし、NUMOもさまざまな広報活動を行っているけど、知っている人が多いという状況ではないんだ。これは調査が行われる場所でも同じで、地層処分について初めて聞くという人は多いんだよ。だから、NUMOが調査活動と同時に、地元の方々との対話の場を通じ、『高レベル放射性廃棄物とは何か』『地層処分事業はどう進めていくのか』『安全性に問題はないのか』など、皆さんが気になることを丁寧に説明して、地層処分のことを知ってもらうための活動も行っているんだ」

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若杉「現在、候補地の地元の方々との間でさまざまな活動が行われているけど、そもそも、電気は国民が日々利用しているものだよね。日本全国で原子力発電による電力の恩恵を受けてきた結果として、高レベル放射性廃棄物が生じている現状を、共有することが大切だと思うんだ。この問題は、候補地やその周辺地域だけが向き合うものではなく、国全体で責任を持って考え、議論し、解決策を探っていくべき課題なんだよ。もちろん、地層処分に対して異なる意見や懸念を持っている方もたくさんいる。でも、だからこそ、それぞれの意見や価値観を尊重しつつ、事実に基づいた説明を重ね、少しずつ理解を広げていくことが解決に向けた第一歩だと思っているんだ」

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若杉「例えばアメリカでは、1987年にネバダ州のユッカマウンテンという場所を放射性廃棄物の処分場とすることが政治的に決められたんだ。でも、その過程で住民の反対は十分に考慮されないまま、何十年という時間と膨大なお金を使って調査が進められたんだよね。そしていよいよこれから処分場の建設が始まるという段階まで来たところで、住民の強い反対や大統領選挙の影響を受けて、2009年に計画を進められない状態になってしまったんだよ」

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若杉「そういった他国と同じ失敗をしないために、日本では、住民の方々が納得した上で、地元の自主性を尊重しながら場所を選定していく、現在の公募方式が採用されたんだよ。ただ、この方式にもいくつか課題があって、例えば自主性に任せることで、候補地として手を挙げる地域が限られたり、十分な情報や知識がないままでは応募の判断が難しかったりといった問題があるんだ。こうした課題を克服するには、まず国民が正しい情報を得られる環境を整えることが重要なんだ。特定の地域だけに押し付けるのではなく、国全体で支え合う仕組みを作り、候補地となる地域が孤立しないようにすることも大切なんだよ」

 

Conちゃん、高レベル放射性廃棄物の処分の未来を考える!

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若杉「地層処分の話題に触れる機会自体がこれまであまりなかったかもしれないね。私は大学で工学系の学生たちと話をすることが多いけれど、彼らの中にも、この問題の存在自体を知らなかったという学生が少なくないんだ。でも、地層処分の必要性や安全性について丁寧に説明すると、『地層処分が、最も安全で実現性が高い方法だとわかった』『次世代への理解の橋渡しが重要だと思うので、小中学生にもこの課題を伝えるべきだ』といった前向きな意見をくれる学生も多いんだ。こうした反応を見ると、まずは知ることが本当に大切なんだと実感するよ。中にはどうすればこの問題を自分ごととして受け止めてもらえるのかをテーマに研究している学生もいて、次世代の可能性を感じさせてくれるね」

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若杉「現在、寿都町、神恵内村、玄海町が文献調査地点として注目を集めているけれど、この関心を一過性で終わらせてはいけないと思う。地層処分は、社会的な合意形成が求められる難しい課題であると同時に、技術的には、地質学や土木工学、環境科学などのさまざまな分野で多くの人が連携して取り組む、将来を見据えて挑戦する価値のある研究テーマでもあるんだ。実現には長い時間がかかるけれど、電気を使って生活しているみんなが地層処分の課題に向き合い、解決につなげていくことは、未来の世代に安全と安心を届けるという大きな意義を持っていると思うんだよね。だからこそ、私たちがどんな社会を未来に残したいのか、一人一人がこの課題に向き合い、その答えを考えることが求められているんじゃないかな」

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資源の乏しい日本で、原子力発電は大きな役割を果たしているけど、発電のために使われた燃料の処分のことはこれまであまり考えてこなかったのかもしれない。日本は高レベル放射性廃棄物の地層処分をどこでどのように行うのだろうか?国民一人ひとりが思いを馳せて、少しでも関心を持つこと、そして話し合うことが、日本が抱える問題の解決に少しでも近づく一歩なんじゃないかなと思ったConちゃんでした。


取材協力:若杉圭一郎

東海大学工学部応用化学科教授。研究分野は、エネルギー、原子力工学、放射性廃棄物処分。1996年に動力炉・核燃料開発事業団(現 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)に入社し、高レベル放射性廃棄物地層処分に関する研究に従事。原子力発電環境整備機構、経済協力開発機構原子力局(OECD/NEA)を経て2018年より現職。2019年より世界各地で開催されているIAEA原子力安全国際スクールにファシリテーターとして参画し、人材育成にも取り組んでいる。

★さらに「地層処分」について知りたい方はこちら!
高レベル放射性廃棄物の地層処分って? | 電気事業連合会
NUMO - ニューモ - 原子力発電環境整備機構