エネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第36回のテーマは「ドイツのエネルギー政策」。前編で、ドイツのエネルギー政策や日本との違いを知ったConちゃんが、ドイツのエネルギー事情をさらに深掘りしてきました!
Conちゃん、世界情勢がエネルギーに与える影響を知る!
EU全体が掲げる「2050年カーボンニュートラル」の目標を、それより5年早い2045年に達成しようとしているドイツ。再生可能エネルギー(以下、再エネ)導入を中心に、脱原子力、脱褐炭・石炭、水素の活用といった取り組みを進めてきている。
「ドイツのエネルギーのことをもっと知りたい!」と思ったConちゃん。前編に続き、ヨーロッパのエネルギー事情に詳しい在独ジャーナリスト・熊谷徹さんに話を聞きました。
>前編はこちら『ドイツのエネルギー政策ってどうなってるの?在独ジャーナリストの熊谷徹さんに聞いてみた(前編)』
熊谷「まずは、ドイツの原子力政策について説明するね。過去には原子力発電をたくさん使っていたドイツが、『脱原子力』に舵を切った大きな転機は、2011年の東日本大震災による福島第一原子力発電所事故だったんだ。私自身、当時はミュンヘンにいたんだけど、ドイツのメディアは当時、非常にセンセーショナルな報道を行っていて、人々の不安を煽るかのようだったよ。背景には、1986年に当時のソ連で起きたチェルノブイリ発電所事故の記憶があったからなんだ。ドイツではチェルノブイリ事故の影響で、一部の地域が放射性物質で汚染されたこともあって、多くの市民が原子力に対して批判的な態度を取るようになっていたんだ。そんな中でのセンセーショナルな報道だったこともあって、国内の不安が高まってしまった。このため、ドイツ政府は2022年末までに全ての原子力発電所を廃止することを決め、当時は全ての政党がこの決定に賛成したんだよ」
熊谷「東日本大震災から時間が経ち、原子力へのドイツ国民の不安感が大幅に薄らいでいた中で、2022年に起きたロシアによるウクライナ侵攻により、エネルギーをめぐってまったく別の不安が高まったんだ。ロシアが海底パイプラインを通じてドイツなどの西欧諸国に輸出していた天然ガスの供給を止めたことで、資源価格、特に天然ガスの値段が大幅に上がったんだよ。2022年8月には、一時、天然ガスの卸売価格がウクライナ侵攻前の7倍にまで上昇したんだ。ヨーロッパでは、天然ガスと電力の卸売価格が連動していて、資源価格の高騰に伴って電気料金も大きく上がったんだよ。2022年の夏には、一部の電力会社から消費者に対して、電気とガスの料金を2倍にするという通告が出されるほどの事態になったんだ。実際には、政府が日本と同じように激変緩和措置を取ったために2倍にはならなかったけど、多くの国民がエネルギー供給に強い不安を抱いたんだよ。電力や天然ガスの価格が高くなったことで、生産を縮小したりやめたりした工場もあったんだ」
熊谷「ドイツは2022年末で全ての原子力発電所を廃止することを2011年に決めたけど、前編で話したとおり、最終的に全てが廃止されたのはそれより少し先の2023年4月15日だったんだ。ウクライナ侵攻の影響でエネルギーを巡る不安が高まったことで、2022年の終わりごろに『電力供給が不安定になることを避けるために、原子力発電所の運転を当面継続するべきだ』という意見が野党や国民からたくさん出され、こうした世論を受けてドイツ政府は運転期間を3カ月半伸ばすことにしたんだよ。延期には、他の理由もあるんだ。通常ドイツは、電力が足りなくなりそうなときには、お隣のフランスなどから電力を輸入しているけど、当時はたまたまフランスの原子力発電所のほぼ半分が修理・点検のために運転を停止していたから、ドイツで電力が不足したときにフランスから電力を送ってもらえない可能性が強まったことも、理由の一つだよ。国民意識の傾向の変化は、世論調査を見ても明らかなんだ。2011年の東日本大震災直後は回答者の7~8割が早期の脱原子力に賛成していたけど、2022年のウクライナ侵攻後の世論調査では、回答者の82%が最後の3つの原子炉を2023年1月1日以降も運転し続けるべきだと回答したんだ。エネルギー不足や電気料金の高騰に対する不安で、世論が大きく変わったんだね」
熊谷「そういう主張をする政治家もいるけど、2011年に議会で決めた政策に基づいて法律を変更して脱原子力を実行したから、簡単には覆らないと思うよ。ただ、ある保守政党は、『特定のエネルギーを禁止せず、原子力発電を含めた多種多様なエネルギーの選択肢を持つべきだ。今のところ原子力発電を諦めるべきではなく、核融合発電も実用化するべきだ』と主張しているよ。この政党は今は野党だけど、世論調査ではドイツ国民の支持率がトップで、2025年9月の総選挙で政権に加わる可能性が高い。だけど、2023年に止めた3基の原子炉の再稼働を求める意見はまだ少数派だよ」
Conちゃん、気候変動の影響を知る!
熊谷「ドイツには『再生可能エネルギー促進法』という法律があるんだけど、2023年に『カーボンニュートラルを達成するまでは、再エネ設備の建設と送電線などの建設運営を社会で最も重要な公共的利益として、他のあらゆる事柄よりも優先する』といった内容をこの法律に盛り込んで、再エネ拡大を進めていくことにしたんだ。すごく強力な、厳しい内容だよね。再エネは、発電するときにCO2を出さないというメリットがあるけど、陸上風力発電所の開発で野鳥の棲み処(生息地域)が奪われることを批判したり、自分の家の近くに風力発電所が建設されることに反対したりする人もいる。それでも、再エネ拡大をCO2削減のためにいま一番重要な課題として進めるという基本ルールを政府が法律に明記して、発電事業のグリーン化を最優先で推し進めることにしたんだ」
熊谷「ドイツは、外国から輸入する資源への依存度を下げ、エネルギー自給率を向上させるために、再エネを拡大しようとしているんだ。エネルギー自給率を重視するようになったきっかけの一つは、さっき話した、ロシアによるウクライナ侵攻。2022年夏にロシアが、海底パイプラインによる西ヨーロッパへの天然ガスの供給を止めたことで、ドイツ、そしてヨーロッパのエネルギー市場は大混乱に陥ったんだ。これを受けてドイツは、ロシアへのエネルギー依存度が高くなっていたことを反省して、エネルギー自給率を上げるために、再エネ拡大を進めることにしたんだ」
熊谷「ドイツが再エネを強く推し進めるもう一つの理由は、やっぱりカーボンニュートラル実現への強い決意。ドイツの人たちには、将来の世代のためにも気候変動に歯止めをかけなければならないという強い思いがあるんだ。ヨーロッパ各地では実際に、地球温暖化による影響が感じられるようになっているよ。ドイツのミュンヘンでは、2024年4月に28℃の気温を記録した。以前は、4月と言えばまだ冬のような寒さだった時期だから、こんなに気温が高くなるなんて大変なことだよね。2024年の春から夏には、毎月のように過去最高の平均気温が観測されたし、夏場の暑い時期には、熱中症で亡くなる人も増えているんだ。ヨーロッパ各地で大規模な洪水被害が増えているし、ヨーロッパ南部では、深刻な水不足や森林火災も起きているよ。ヨーロッパ、特に環境保護を重視するドイツでは、気候変動への危機感が強く、脱炭素化を進めなければならないという機運が高まっているんだよ」
Conちゃん、日本がドイツから学べることを考える!
熊谷「お話ししたとおり、ドイツ政府は、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、国のエネルギー自給率を高めようとしている。エネルギーは国民の暮らしや経済活動を支える大事なものだから、国際情勢に影響されて供給が不安定にならないように、外国への依存は最小限にした方がいいよね。ドイツは、外国への依存度を下げるために、太陽光や風力を中心とする再エネ発電を最も重視しているんだ。外国への依存度を下げるには、太陽光や風力、水力などの再エネや、『準国産エネルギー』である原子力を活用するやり方があるよ。日本はドイツと同じように天然資源の少ない国だから、他国から輸入される資源にできるだけ頼らず、エネルギー自給率を引き上げていく方法を考えないといけないね」
熊谷「ヨーロッパでは、英国、フランス、ポーランド、チェコなど多くの国々が、原子力発電の比率を今後増やすことで、カーボンニュートラルを達成しようとしているよ。太陽光や風力による発電が少ない時には、原子力からの電力で補おうと考えているんだ。合わせて、ヨーロッパ全体の動きについても説明するね。前編でも説明したとおり、ヨーロッパ大陸の国々は地続きで、電力の周波数も同じだから、各国の間では毎日電気の輸出入が行われているよ。EUは、単一の電力市場を作ることを理想としていて、加盟国間の電気の輸出入を、これからさらに推進しようとしているんだ。ヨーロッパを、一枚の銅板のように電力が自由に行き来する地域にすることで、電力不足や価格高騰などの事態を防ごうとしているんだよ」
熊谷「ドイツは周りの国と送電線が繋がっているから電力を直接輸入することができるけど、日本は島国だからそれは難しい。だから、安定的に電力を使えて、そしてエネルギー自給率を向上させるためにはどうしたらいいのか、日本の状況に最も適した方法をきちんと考えて取り組まないといけないよね。政治的・地理的条件の違う日本がドイツをそのままマネしてもうまくはいかないんだ。日本でいま提案されているように、国土や政治・経済の状況などを考えて、あらゆる選択肢を排除せずに、再エネ、原子力、火力をうまく組み合わせて活用していく『エネルギーミックス』を追求することも一つの可能性かもしれないね。安定的なエネルギー供給体制を作り上げるためのコストを誰が負担するのか、透明性の高い議論を行っていくことも重要だね。そして、より良い日本のエネルギーのあり方を考えるためには視野を広げて、多くの国が再エネと原子力を使って安定供給を図ろうとしているヨーロッパの状況も注意深く見ていく必要があるんじゃないかな。1万キロメートル離れた遠い場所のことだと考えるのではなく、『ヨーロッパから学べることもある』と考えるべきだと思うよ」
夏の暑さが年々キツくなる……くらいにしか感じていなかった地球温暖化や気候変動のこと。でも、世界に目を向けてみると深刻な事態が起きていた。ドイツの現状を学んだことで、カーボンニュートラルをどのように達成するか、そしてどのようにエネルギーを上手く使っていくか、日本にとって一番いい方法を自分たちで考えていかないといけないんだなと思ったConちゃんでした。
取材協力:熊谷 徹
在独ジャーナリスト。1982年、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中にベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材する。ドイツが統一された1990年からフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住し、取材・執筆を続けている。2007年、『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』で年度平和・協同ジャーナリズム奨励賞受賞。2024年8月、新著として『ドイツはなぜ日本を抜き「世界3位」になれたのか – “GDP逆転”納得の理由 – 』(ワニブックス)を刊行。2024年10月現在、29冊目の本を執筆中。
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