あなたとエネルギーをつなぐ場所

ドイツのエネルギー政策ってどうなってるの?在独ジャーナリストの熊谷徹さんに聞いてみた(前編)

2024.10.30

Conちゃんドイツのエネルギー

エネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第35回のテーマは「ドイツのエネルギー政策」。発電量に占める再生可能エネルギーの比率が高く、カーボンニュートラルに向けた取り組みを積極的に進めるドイツ。「このような現状になっているのはなぜ!?」と思ったConちゃんが、エネルギーの専門家に聞いてきました!

>Conちゃんの紹介はこちら


Conちゃん、ドイツのエネルギー政策を知る!

世界的な目標であるカーボンニュートラル達成を実現すべく、各国で脱炭素化が進められている現在。そんな中ドイツは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を2030年までに65%削減し(1990年比)、2045年までにカーボンニュートラルを実現することを目標に掲げている。

「ドイツの人たちはエネルギーに対しどのような考えを持って、どのような取り組みを進めているのだろう」と気になったConちゃん。ということで、今回はヨーロッパのエネルギー事情に詳しい方に話を聞きました。

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷さんは、34年前からドイツに住み、エネルギー・環境問題や政治・経済、社会について取材・執筆活動を続けている、ドイツの現状にとっても詳しい方。

Conちゃんドイツのエネルギー

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「ドイツが加盟している欧州連合(EU)には、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標があるんだけど、中でもドイツ政府は、再生可能エネルギー(以下再エネ)による電力が電力消費量に占める比率を2030年までに80%に引き上げること、そして2045年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を打ち出しているよ。ドイツは、EUの中で国内総生産(GDP)が最も多くて、二酸化炭素(CO2)の排出量が最も多いんだけど、EUと比べて、5年も早い目標を掲げているんだ」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「以前は火力発電をたくさん使っていたんだよ。ドイツは日本と同じように、自国で採れるエネルギー資源があまり多くないんだけど、『褐炭(かったん)』という燃料だけはたくさん採れて、しかも採掘するコストが比較的低いこともあって、長年、国の電力、そして産業を支えるエネルギー源として使われていたんだ。2000年時点では、褐炭、石炭、天然ガスを燃やして電気を作る火力発電が発電量全体の約60%を占めていたんだけど、化石燃料を燃やすとCO2が発生するから、ドイツ政府は地球温暖化・気候変動対策の一環として、将来は褐炭や石炭を使わないことに決めたんだ。褐炭と石炭を使う火力発電所を2038年までにすべて廃止すると宣言し、その代替として再エネへの移行を急速に進めているんだよ。今、ドイツでは家庭を中心に太陽光発電ブームが起きている。政府が多額の補助金を出したことで再エネの導入が進んでいて、実際に2023年には再エネで作った電力がドイツ国内の発電量に占める比率が初めて半分を超え、約53%になったんだ。2000年には6.6%だったから、23年間で再エネがおよそ8倍に増えたということだね。2024年1月から9月までのドイツの電力消費量に再エネ電力が占める比率は56%だったんだよ」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「再エネ急拡大の背景には、ドイツ人の環境意識がもともと高いことがあるよ。ドイツは連邦国家だから、人口が各地に分散していて、大都市でも広々とした公園や森があるんだ。子供の頃から、週末は家族と一緒に森に行って自然を楽しむ暮らしが根付いているから、環境を守り、美しい自然を維持することが大事だと思っている人が多いんだよね。メディアでは、エネルギーや環境問題、地球温暖化・気候変動に関するニュースが日本よりもたくさん取り上げられるし、国民の知識と関心は日本よりも深いんだ。だからドイツでは、再エネ拡大の方針は多くの国民の賛同を得られるし、2015年の『パリ協定』で掲げられた、『地球上の平均気温の上昇幅を産業革命以前に比べて2℃未満に抑える』という世界目標の必要性への意識も高いんだ。政界でも、一部の過激政党を除き全ての政党がCO2削減政策と再エネ拡大に賛成しているよ。それに、全ての大手電力会社が政府の脱炭素化政策を支持していて、再エネ発電などグリーン事業を経営戦略の中心に据えているよ。気候変動に歯止めをかけようという国民的な同意があると言えるね。ただ、景気後退が深刻化する中、市民の間で『環境保護ばかりではなく、企業の経済競争力の強化も重視してほしい』との声が高まっているから、ドイツがいつまでに再エネ比率を80%に引き上げられるかは未知数なんだ」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「カーボンニュートラルを達成するためには、発電するときにCO2を出さない原子力を活用するやり方もあるよね。欧州では、多くの国が再エネ拡大とともに原子力の活用を進めているんだ。フランス、英国、スウェーデンなど多くの国が原子力を活用していて、ポーランドのように原子力発電所の新設を計画している国もあるよ。一方で、ドイツは2023年に『脱原子力』を実行したんだ。2023年4月15日に、国内で運転されていた最後の3つの原子力発電所を廃止したんだよ。ドイツは、脱原子力と、脱褐炭・脱石炭を同時に進めている、世界でも数少ない国の一つだと言えるね。再エネも火力も原子力もバランスよく使うことにしている日本とは、かなり違う政策だよね」

 

Conちゃん、ドイツの現状が気になる!

Conちゃんドイツのエネルギー

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「確かに、太陽光発電や風力発電といった再エネは、太陽が照らない日、風が吹かない日には発電量が少なくなるから、他の発電方法も準備することが必要だよね。電力の需要と供給のバランスが崩れると、送電線(系統)が不安定になって、広い地域で停電が発生してしまう可能性があるから、いわゆる“調整力”として使えるバックアップのための発電所が必要になるんだ。多くの国では石炭や天然ガスを燃やして発電する火力発電と原子力発電がその役割を担っているんだけど、ドイツはカーボンニュートラル達成のために、褐炭や石炭を使う火力発電を2038年以降は使わない方針だし、原子力発電所はすでに廃止している。そこで今後は、燃やしてもCO2が出ない水素を活用しようとしているんだ。燃料を100%水素に切り替えられる天然ガス火力発電所を新設したり、初めから水素を使える『スプリンター発電所』と呼ばれる水素火力発電所を新設したりしようとしているよ。既存の天然ガス火力発電所の燃料を水素に切り替えられるようにするための設備改修も一部で始まっているんだ」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「そう。今ある褐炭・石炭の火力発電所を廃止して、将来は再エネで電力消費量の約80%をカバーし、残りの約20%を水素火力発電と周りの国からの電力輸入で補う。これがドイツ政府が進めている政策なんだよ」

 

Conちゃん、日本とドイツの違いを知る!

Conちゃんドイツのエネルギー

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「ドイツはフランスなど9カ国と国境を接していて、送電線がつながっているうえ、各国の電力の周波数も同じだから、周りの国々から電力を融通、つまり直接送ってもらうことができるんだよ。ヨーロッパの国々の間では、電力の輸出入が常に行われているんだ。電気が足りなくなりそうなときに、必要な分を他の国から分けてもらえることは、大きな安心材料になるよね。これは島国の日本ではできないから、大きな違いだね。実際にドイツでは、原子力発電を止めたことで他国からの電力の輸入量が増えているよ。ドイツはもともと電力の輸入量より輸出量の方が多かったけど、原子力発電所の運転を停止した2023年には、他国からの輸入量が増えて、輸出量を上回ったんだよ」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「どの方法でどれだけの量の電気を作るかはそれぞれの国が決めるものだってことは知っておくべきポイントだよ。ある国がどうやって電気を作るかを、EUや他国が指示することはできないんだ。例えば、フランスで作られる電力は約70%が原子力発電によるものなんだけど、ドイツが自国で原子力発電を止めたからといって、電気を送ってくれるフランスや他国に対して『原子力で電気を作らないでほしい』とは要求できないんだよ。そもそも、原子力で作られた電気を取り除いた電気をドイツに送ってもらうことは物理的にできないしね。外国から入ってくる電力はコントロールできないけど、自国で発電する電力をコントロールすることはできるから、ドイツは原子力発電を使わないことに決めたんだ」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「エネルギー政策は国の現状や目指す姿を踏まえて考えるべきものだから、どれが良いと一概に言えるものではないんだよ。どのようにカーボンニュートラルを達成するか、電力をどのような方法で作るのが良いか、全ての国に当てはめられる正解はないんだ。それぞれ異なる特長を持つ、いろんな電源(発電所)を組み合わせて電力を作ることを『エネルギーミックス』というんだけど、どのような組み合わせにするかは、それぞれの国が自国に適した方法をそれぞれきちんと考えて決めないといけないんだよ。エネルギーは、国の安全保障にも関わる大事な問題だからね」

ドイツのエネルギー政策は、カーボンニュートラルの実現を目指しながら、脱原子力・脱褐炭・脱石炭という政府の政策を踏まえて決められていることを知ったConちゃん。日本が参考にできることはあるのか? 次回、後編でリポートしていきます!

>後編に続く


取材協力:熊谷 徹

在独ジャーナリスト。1982年、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中にベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材する。ドイツが統一された1990年からフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住し、取材・執筆を続けている。2007年、『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』で年度平和・協同ジャーナリズム奨励賞受賞。2024年8月、新著として『ドイツはなぜ日本を抜き「世界3位」になれたのか – “GDP逆転”納得の理由 – 』(ワニブックス)を刊行。2024年10月現在、29冊目の本を執筆中。

★さらに「日本のエネルギー」について知りたい方はこちら!
エネルギーの「これまで」と「これから」-エネルギーに関するさまざまな話題を分かりやすく紹介-(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)