日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第34回のテーマは「エネルギー基本計画」。前編では「エネルギー基本計画」とは何か教えてもらった。今年は、その見直しが行われる年だけど、「どんな見直しがされるの?」と疑問に思ったConちゃんが専門家に聞いてきました!
Conちゃん、エネルギーをめぐる情勢変化に驚く!
日本が必要とする「エネルギー」をどのように確保していくのか。そのエネルギー政策の方向性が示されているのが「エネルギー基本計画」。今は、2021年に策定された「第6次エネルギー基本計画」を基に、日本のエネルギー政策は進められている。しかし、ここ数年でエネルギーをめぐる情勢が激しく変化しているのは誰もが知るところ。日本の「エネルギー基本計画」はこのままでいいのだろうか???
そこで、前編に続き、エネルギーの専門家・竹内純子さんに話を聞きました。
>前編はこちら『「エネルギー基本計画」って何? エネルギーに詳しい竹内純子さんに聞いてみた(前編)』
竹内「ここ数年、もうちょっと前からかな。各国がカーボンニュートラルを目指すことを掲げるようになり、世界的に気候変動対策の機運が高くなっているんだよね。ヨーロッパは以前から気候変動問題に熱心で、太陽光や風力のような発電時にCO2を出さない再生可能エネルギーの普及を進めてきたんだよね。日本やアジア諸国も同じようにできればいいんだけど、季節によって風向きが変わり、雨季と乾季がある気候のアジアは、欧州と比べて再生可能エネルギーの条件が良くないの。再生可能エネルギーは、気象条件によって発電量が大きく変わり不安定だから、急に発電量が少なくなった時には、他の発電方法でカバーしてあげるか、他国から電気を送ってもらうかしないといけないんだ。でも、日本はヨーロッパのように他国と送電線がつながっていないし、アジア諸国においても、それほどしっかりと送電線がつながってはいないケースが多いんだよね。ちなみに、近年、欧州も再生可能エネルギーだけでは厳しいことがわかりつつあるみたいだよ……」
竹内「発電量が不安定な再生可能エネルギーを使うには、発電量の調節がしやすい天然ガスなどの火力発電がバックアップに必要なんだよね。だから、ヨーロッパ諸国は再生可能エネルギーの普及を進める一方で、天然ガスを安定的に調達するために、ガスのパイプラインがつながっているロシアからの輸入を多くしてしまったんだ。これって、ロシアと友好的な関係が続くことを前提としてやってきたことなんだよね。でも、そこにウクライナ侵攻があって、ロシアから調達しなくなったことで、ヨーロッパ諸国は必要なエネルギーの確保に大混乱が生じたんだ」
竹内「ウクライナ侵攻が起きる前からエネルギー価格が徐々に上がっていたんだけど、侵攻以降も高騰が続いて、各国の経済活動にも大きな打撃を与えたよね。この経験から、エネルギーを安定的かつ安価に確保することの重要性を、日本を含む世界の各国が再認識したんだ。世界の平和を維持する努力はし続けるけど、残念ながら世界の平和がずっと続くわけではないということを前提に、国としてのリスクを考えなければいけないよね。次のエネルギー基本計画もそういう観点が必要だね」
Conちゃん、第7次エネルギー基本計画の方向性について知る!
竹内「1点目は、『化石燃料の確保』。長い目で見れば、脱炭素を進めていかないといけないけど、2050年にCO2排出を実質的にゼロにするということは、化石燃料はほとんど使えないということになるよね。でも現状、日本全体の7割くらいの電気をつくっている火力発電をすぐにやめることはできないよね。そうすると、しばらくは、火力発電の燃料を海外から調達しないといけない。確実に調達するためには、例えば産油国や産ガス国と25年や30年といった長期で契約することになるけど、いまから30年契約をしたら2050年を越えちゃうよね。2050年カーボンニュートラルにするんじゃないのか、と言われてしまうので、じゃあ必要な時に市場で買ってくることにした場合、ウクライナ侵攻のような世界情勢の影響で火力発電の燃料が調達できなくなったら、みんなが使うだけの電気がつくれなくなったり、値段が高騰したりするよね。そうならないために、火力発電で使う石炭やLNG(液化天然ガス)などの化石燃料を安く安定的に調達できるように、エネルギー基本計画でしっかりとメッセージを出してもらいたいね。そして2点目は、『脱炭素電源投資の確保』。これはすごく重要なことなの」
竹内「つまり、発電時にCO2を出さない電源のことだよ。脱炭素の実現に向けて、再生可能エネルギーは、今の第6次エネルギー基本計画にも、『最大限活用して、主力電源にしていこう』という方針が書かれているから、この方針は変わらないだろうね。むしろ課題は原子力なの」
Conちゃん、エネルギー基本計画の重要な論点に気づく!
竹内「気象条件に左右される再生可能エネルギーだけでは不十分なので、発電時にCO2を出さず、たくさんの電気が作れる原子力もしっかりと使っていかないといけないんだ。これからデジタル化やAIの活用が進んで、大型のデータセンターがたくさん作られると今よりもっと電気が必要になる。じゃあ、足りなくなりそうになってから発電所を作ればいいと思うかもしれないけど、それでは遅いんだ。原子力発電所を作るには、建設が順調にいっても10年、地元の理解を得るための時間を考えれば20年くらいはかかるだろうからね。東日本大震災以降、原子力を学ぶ人や、関わるメーカーが減ってしまっているけれど、将来、脱炭素を進めながら、電気を安定してつくっていくために、国としても、これから原子力をどう使っていくのか、しっかりと示しておく必要があると思うよ」
竹内「3点目は、『コスト増に伴う費用負担や規制の導入についての国民理解』。気候変動対策には、企業側は技術開発や新しい規制等への対応でコストがたくさんかかり、そしてそれが国民の費用負担になるということを、みんなにも正直に伝えて、理解を得るということ。気候変動対策を進めていくには、どうしてもコストがかかるのよね。そうすると企業が提供する製品の値段が高くなる。例えばCO2を出さないEV車と、普通の車があったとするよね。同じ値段でできればいいけど、そうじゃないとしたら、Conちゃんは高くてもEV車を買えるかな? 難しいと思うかもしれないけれど、気候変動対策のためには国民みんながそうした製品を使うような社会をつくらないといけないのよね。そのために、国が『EV車しか認めない』といった規制を新たに導入することも考えられるんだよ。つまり、気候変動対策を進めていくと費用負担が増えたり、新たな規制が導入されるかもしれないなど、みんなにも何らかの影響があるということをわかってもらうべきだよね。ただ単に『みんなでグリーンにしながら経済成長しましょう』みたいな単純な言い方は、よくないと思うんだ」
これからの未来は、エネルギーをどう確保するかだけの議論では終わらない。気候変動対策をどう進めていくのか、デジタル化がどう進んでいくのか、そうしたあらゆる要素を絡めて、エネルギーのことを考えなくてはならない。エネルギーはあくまで手段。どういった社会を創っていきたいのかを念頭に、エネルギー基本計画は変えていくべきなんだなと思ったConちゃんでした。
取材協力:竹内純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員/U3innovations合同会社共同代表/東北大学特任教授。専門はエネルギー・温暖化政策。東京大学大学院工学系研究科にて博士(工学)取得。慶応義塾大学法学部法律学科卒業後、東京電力株式会社入社。主に環境部門を担務。2011年の福島第一原子力発電所事故を契機に独立し、研究者となる。国連気候変動枠組条約交渉に10年以上参加するほか、内閣府規制改革推進会議やGX実行会議など多数の政府委員を務めつつ、大学・研究機関においてエネルギー・温暖化政策の研究・提言に取り組んでいる。
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