日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 前回に続き、第8回は「大崎クールジェン」からお届け。瀬戸内の島にある試験場を訪れたら、実は地球温暖化の原因の一つとされる「CO2(二酸化炭素)」が、私たちの暮らしに欠かせないものだったことを知ることに…! 地球を救うプロジェクトのその先を、Conちゃんがお伝えします!
Conちゃん、壮大なプロジェクトの現場を見る!
広島県・大崎上島(おおさきかみじま)にある会社、大崎クールジェンを訪れているConちゃん。
前回、大崎クールジェンの久保田さんに“究極の石炭火力発電”を生み出す計画「大崎クールジェンプロジェクト」の全貌を教えてもらったので、次はその“現場”に連れて行ってもらえることに。
久保田「これが実証試験で使った『石炭ガス化設備』だよ。奥に見えるのが一番重要なガス化炉。あそこに石炭を送ってガスにしているんだ」
久保田「全部ではないけど、ほとんど新しく建設したものだね。今は停まっているけれど、ここはもともと大崎発電所っていう中国電力の石炭火力発電所なんだ。だから煙突や石炭を貯めている場所などは、あったものを使っているんだよ」
久保田「大崎クールジェンプロジェクトは3段階に分けられていて、第1段階はこれらの設備で2017年3月から約2年間実施していたんだ」
久保田「第1段階は、石炭をガス化して効率良く発電できるか。第2段階は、そのガスからCO2を分けて効率良く回収できるか。第3段階は、CO2を分離したときに発生する水素を使って燃料電池で効率良く電気を作れるか。これをそれぞれ実証するんだ。全部できたら“究極“ってことだね」
久保田「発電効率や環境性能、経済性といったすべての面で目標をクリアできたんだ。特に商用機のIGCC(石炭ガス化複合発電)へとスケールアップしても、熱効率が49%(※)まで向上する見通しで、CO2の排出量をこれまでより15%も削減できるんだよ」
※送電端、LHV
久保田「火力発電は、電気が使われる量に合わせて発電量を調整する大切な役割があるんだ。この実証試験で、例えば再生可能エネルギーの発電量が天候によって変わっても、今までより柔軟に対応できることもわかったんだよ。その次に、2019年12月から始めたのが第2段階。CO2を分離して回収する実証試験だね」
久保田「分離回収にはSweetシフト、物理吸収という方式を採用しているんだ。まず、シフト反応器という機器で『CO+H2O → CO2+H2』のシフト反応を起こし、その後、物理吸収液を使って吸収塔とフラッシュドラムを通して分離回収す……」
久保田「簡単に言うと、石炭から作ったガスを機械に入れて蒸気と反応させると、CO2と水素になる。このCO2に特殊な液体を垂らせば、CO2だけ吸収できる仕組みなんだよ。それができる設備がコレなんだ」
久保田「もちろん仕組みはもっと複雑なんだけど、これを使って、ガスの中から90%以上のCO2が回収できるんだ。ちなみに、吸収用の特殊な液体は何度も再利用できるんだよ」
久保田「石炭を燃やした後に出る排煙から回収する方法もあるんだけど、ガスにしてから燃やす前に回収した方が、圧倒的に効率がいいんだ。同じCO2回収量で比較すると、回収元になるガスの体積は50分の1以下」
久保田「小さな設備で、CO2がたくさん取れるってことだね。しかも、石炭ガスから回収した方が簡単で安い。地球にも懐にもエコな技術だと思わない?」
Conちゃん、CO2の知られざる価値を知る!
石炭をガスにして、CO2だけを抜き取る方法があることを知ったConちゃん。
その他のものは、なんだかうまく発電に利用されているようだけど、集めたCO2はどうするんだろう。
久保田「捨てるわけにはいかないよね。大崎クールジェンプロジェクトとは別の話になるんだけど、集めたCO2は液体にして運んで、貯留するか使うかについて考えられているところだよ」
久保田「もちろん、“使う”ためだよ。CO2って地球温暖化を進める温室効果ガスの一つっていうイメージがあるけれど、実は日本で一年間に100万トン程度使われているって知ってた?」
久保田「身近なところでは、ドライアイスや炭酸飲料を作るために使われているね」
久保田「大崎クールジェンでは、トマト栽培やコンクリート製造に利用しようと考えているよ」
久保田「光合成って知ってるよね。植物はCO2を吸収して育つから、トマトにとってCO2は栄養のようなもの。コンクリートは、CO2を固定化できる特別なものなんだよ」
久保田「ただし、日本でCO2は年間12億トンくらい出ているんだ。だから今、排出される大量のCO2を回収して利用しようという動きが進められているんだよ。『カーボンリサイクル』って言うんだけど……」
久保田「カーボンは『炭素資源』、リサイクルは『再利用』。つまり……そのままだね。2019年9月には、経済産業省から大崎上島を『カーボンリサイクルの研究の拠点として整備する』という発表もあったんだよ」
久保田「悪者のイメージが強いけれど、CO2を資源ととらえて再利用するカーボンリサイクルの考えからすれば、CO2の扱いは変わっていくかもしれないね。それに、この実証試験の中でも、石炭のガスから取り除いた硫黄分は石こうとして回収しているし、ガスにするときに出る石炭灰も溶けてスラグ(ガラス状の固化物)として排出され、セメントの原料として有効利用しているんだ。CO2も売るほど回収できるようになれば、この島が担う役割はさらに大きくなるかもしれないね」
Conちゃん、地球を想う!
CO2は生活の中で必要なこと、それに「カーボンリサイクル」という考え方があることを知ったConちゃん。
久保田「最終的に、窒素と酸素は煙突から排出しているし、汚泥は回収して廃棄しているんだけど、第3段階に進んでも、排出されるのはそれだけだね」
久保田「まだ準備期間だから、設備はないんだ。でも、2021年度を目途に実証試験をスタートさせる予定だよ。最新の燃料電池を2台設置して、水素ガスで発電するんだけど、これができれば、つくれる電気の量が単純に増えるから、全体の発電効率が上がるんだ」
久保田「ただ、この試験で使う燃料電池は、かなり値が張るものなんだよ……だから実用化するには、価格が下がるような技術的なブレイクスルーが必要になるかもしれないね」
久保田「まだ、具体的なことは決まっていないけどね。でも、完成すれば、この仕組み自体を輸出できるようになる。そうなると、世界のCO2排出量の削減に、日本は“技術で貢献した”って見方もできるんだよ」
久保田「“2035年時点での石炭火力発電によるCO2排出量の予測”というものがあるんだけど、そこで排出量の70%以上を占めているのが中国・米国・インド。この3カ国の石炭火力発電所に大崎クールジェンプロジェクトの『石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)』を入れられたら、日本が一年間に排出している2倍くらいの量、年間で約29億トンのCO2が削減できるようになるんだ」
久保田「それに、石炭をガスにする技術は、発電所以外にも合成燃料や化学原料の製造現場で幅広く利用できるし、さっき言った通り、発生するもののほとんどは別の形で利用することができる」
久保田「そうなんだけど……そうでもないんだよ。2019年12月にスペインで開催された『COP25』(国連気候変動枠組み条約 第25回締約国会議)って知ってる? 日本がいまだに石炭火力に頼っていることが非難されて……大崎クールジェンの研究も国内のいろいろな人から心配されたんだよね」
久保田「国際エネルギー機関(IEA)から、2040年に世界の発電電力量の約30%は石炭火力が担うと予測されているから、今後も重要な役割を担うことは間違いないんだ。だけど、2040年の世界のCO2排出量を予測すると、その約30%もが石炭火力発電所からのものになる。世界の国々が一つになって、温室効果ガス削減に向けて取り組んでいる今、石炭火力を取り巻く環境はだいぶ厳しいんだよ」
久保田「でも、今の技術では再生可能エネルギーだけで日本の電力をまかなうことはまだ難しいから、安定して手に入る石炭を使いながらほとんどCO2を出さないこの技術は、これからの時代に必要とされると思っているよ」
久保田「大事なのは、みんながこれから何を求めるのかなんだ。クリーンだから再生可能エネルギーだけで発電した方がいいとなれば、家庭で負担する電気代は高くなるかもしれない。逆に、安いから従来の石炭火力発電だけにしようとなれば、環境は大変なことに、なんて極端なことも考えられるよね。大崎クールジェンで進めているプロジェクトは、環境や費用、技術などのさまざまな面を考えてできたアイデア、つまりみんなが選べる手段の一つなんだ」
瀬戸内の小さな島で行われていた壮大なプロジェクト。究極の石炭火力発電、そして排出されるCO2をうまく使うことができれば、地球温暖化対策につながるだろう。
「今は地球環境のことを第一に、必要なエネルギーをどうつくり出すかを考えなければならないとき」と、久保田さんは言っていた。
電気を使うときに、地球のことまで考えたことはない。帰りの船上で、なんだか波のしぶきが目に染みるConちゃんでした。
取材協力:大崎クールジェン
住所:広島県豊田郡大崎上島町中野6208-1
電話:0846-67-5250
https://www.osaki-coolgen.jp/
撮影協力:安芸津フェリー
http://sanyo-shosen.jp/akitsu/index.html
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「【インタビュー】「先進技術で石炭のゼロエミッション化を目指し、次世代のエネルギーに」−北村 雅良氏(後編)」(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)