【今月の密着人】中部電力 総務・広報・地域共生本部 広報推進グループ 大谷亜弓さん(33歳)
日々、何気なく使っている電気は、コンセントの向こう側で働く人たちによって、“いつでも普通に使える”ように支えられている。そうした電力関連の仕事や、電気にまつわるさまざまなことを楽しく学んでもらおうという施設が、愛知県名古屋市にある「でんきの科学館」だ。2020年10月に展示スペースの大規模リニューアルを終えたばかり。オープンに向けて奮闘した中部電力 広報推進グループの大谷亜弓さんが込めた想いとは?
コロナ禍で休館…すぐに始めたYouTube配信
中部電力の広報部門に所属し、会社の顔として社内外とのコミュニケーションを担当している大谷亜弓さん。彼女が「でんきの科学館」に関わるようになったのは、2019年7月のことだった。
同館は1986年に火力発電所跡地に建てられた電気文化会館内にオープンした施設で、大谷さんの着任当時は数年続く大規模リニューアルの真っ最中。目玉の展示エリア「電気の旅」の改装作業中で、大きな仕事に腕がなった。
大谷さん「それ以前は法人営業や社内報の制作など、比較的“堅い仕事”を担当していたので、小学生以下の子どもをメインターゲットとしたでんきの科学館のリニューアル作業には戸惑うこともたくさんありました。ですが、大学時代には博物館学を学び、学芸員の資格も持っているので、その知識を生かせる部分もあり、やりがいは大きかったです」
少しずつ仕事にも慣れてきてこれからと思った矢先、新型コロナウイルスという大きな壁が立ちはだかった。緊急事態宣言の発出によって休館を余儀なくされたのだ。
普段は明るい子どもたちの声が響いていたでんきの科学館にとって、それはあまりにもつらい状況だった。
大谷さん「そこで、すぐに始めたのがYouTubeの動画配信です。自宅ででんきの科学館の雰囲気を楽しんでもらおうと、手軽にできる工作やサイエンスショーなどを多いときには毎日配信していました。動画の撮影や編集は科学館のスタッフが手分けして行い、私は出来上がった動画をチェックする役割。回数を重ねるごとに、目に見えてクオリティが上っていくので毎回ワクワクしましたね」
早速、緊急事態宣言の発出から2週間後には、1本目の動画を投稿した。通常、イベントなどを開催する際には、企画を提案してGOサインが出るまでに相当な時間がかかるもの。ましてや動画投稿という過去に例のない企画となればなおさらだ。
それを可能にしたのが大谷さんをはじめ、でんきの科学館スタッフの多くが、この状況をポジティブに転換させようと考えていたからだ。
大谷さん「新しいことにチャレンジできるチャンスだと思ったんです。特にYouTubeやSNSを活用した企画は、今まではやりたくても通りにくいところがありました。でもコロナ禍の今だったら、その必要性も理解してもらえるんじゃないかって。実際にYouTubeで動画配信を始めたことで、社内の認識も変わったように思います。最近はInstagramでサイエンスショーのライブ配信も始めていて、遠方の方にもでんきの科学館の面白さを届けられるようになりました」
大人でも難しい電気の話を子どもでも分かる言葉で
コロナ禍ならではの新しい仕事と並行して進めていた展示エリア「電気の旅」のリニューアル。「電気が家庭に届くまでの道のり」を紹介する従来の展示に加え、さらに「電力の安定供給を支える現場の人たちにスポットライトを当てる」ことに力を入れようというものだ。
大谷さん「街中にある電柱や電線の工事・管理を担う配電部門の社員は何となく見たことがあるという方も多いと思いますが、もっと元をたどれば送電線や鉄塔の保守を行う者もいますし、発電所の指令室で発電量をコントロールする人など、さまざまな現場の人間がいます。普段使っている電気の裏側にそういった人たちがいるということを楽しく学んでもらい、電気に少しでも興味を持ってもらえたらと思っているんです」
一つのフロアにあった展示物や内装を全面的に作り変えた今回のリニューアルで、一番の見どころとなるのが全長約16メートルの巨大なジオラマだ。発電に必要となる燃料の調達から家庭に届くまでの“電気の旅”を表現しており、「AR(拡張現実)モニター」をかざすと動画や画像が表示される最新の仕掛けも導入されている。
さらに、鉄塔の高さを体感できる「地上100m電気の旅~鉄塔の上から見てみた!~」や、高所作業車のゴンドラに乗って写真が撮影できる「高所作業車(疑似乗車体験)」など盛りだくさん。これらの展示物を作り込んでいく上で大谷さんが特に悩んだのは、各展示に添える解説文だった。
大谷さん「例えば、『送電ロス』のような技術的な話をどう伝えるか。そもそも解説するのが難しい内容なんですが、子どもでも理解できるようにくだけた表現にしなければならない反面、簡単にしすぎて事実と異なってもいけない。その絶妙なニュアンスにはかなり苦労しました。でも、どういうことなのか分からないようでは何の意味もありませんから、とにかく何度も何度も考えて、専門知識を持つそれぞれの部門の皆さんに助けてもらいながら期限ギリギリまで修正を重ねました」
また、館内全体で意識されたのがインスタ映えだ。写真が趣味だという大谷さんは、でんきの科学館内の“映えるフォトスポット”も熟知している。
大谷さん「1つ目は、『電気の旅』の展示エリア内にある、電柱に登った姿を撮影できるブースです。本物と同じ中部電力の作業服が着れますし、ここだけのために特注で作った子ども用もあるので親子で楽しめますよ。2つ目は、ウェルカムゲートにある『プラズマボール』。鏡の壁にいくつものプラズマボールが埋め込まれていて、まるで万華鏡の中にいるような幻想的な空間です。最後はマニアックですが、2階の展示室『電気の発見』。エジソンやボルトの発明品などを展示しているフロアなんですが、レトロな内装と赤い絨毯、いい感じの壁画がマッチした重厚感のある空間が写真映えします。たまに『#でんきの科学館』でエゴサーチしていて、特に若い世代の方々が写真をSNSに投稿してくれているのを見ると、本当にうれしくなります」
目指すは人をむすび、未来をひらく科学館
2020年10月、「電気の旅」はついにリニューアルを終えた。感染対策に万全を期してのオープンとなったが、それでも子ども連れの親子を中心に大盛況に。しかも、うれしい誤算もあった。
大谷さん「以前よりも友人同士やカップルなど大人だけのグループで来館される方が増えたんです。試行錯誤を重ねて作りましたが、実際にお客様の反応を見るまでは、やはり不安でした。でも、ふたを開けてみると、大人にも評判が良かったんです。中には、電気関係の資格を取るために勉強中だという男性もいたりして。その方は分電盤などの実物展示を目当てに来館されたそうで、数十分かけて熱心に見学されていました。リニューアル前には見ることのなかった光景です」
1人でも多くの人に、電力会社で働く人を知ってもらいたい。そんな純粋な思いで作り上げた「電気の旅」。実は展示の最後に、心温まる仕掛けが用意されている。
大谷さん「展示内で紹介した現場の人たちと来館していただいた方々の思いをつなぐようなことができないか、と考えて生まれたのが、電力会社社員へのメッセージコーナーです。まだ始めたばかりですが、『今まで当たり前のように使っていた電気がどれだけ大切かを知りました』『いつもお仕事ありがとうございます。とてもかっこいい職業だなと思いました!』『電気を当たり前のように使えるのも、電気を支えてくださっている皆さんのおかげです。これからも頑張ってください』など、多くの温かいお言葉をいただいています」
今後、集まったメッセージは、定期的に現場で働く社員へと直接届けるという。
大谷さん「以前、中央給電司令所(電力の需給バランスをコントロールする電力安定供給の要)で勤務する担当者から、『自分たちの仕事を知ってもらう機会がないから、かっこよく紹介してほしい』ということを言われたんです。そういった思いを最大限くみ取っていくことも、電気や電力事業の魅力を伝える私の仕事だと考えています」
中部電力のコーポレートスローガンには、「むすぶ、ひらく」という言葉がある。人と人、人と社会を“むすび”、地域を支えることで未来を“ひらいて”いく。今後は、でんきの科学館をそんな拠点にしていきたいと教えてくれた。
大谷さん「今はコロナ禍で来館していただくことが難しい状況ですが、やはり実際にこの場所を訪れていただき、直接見て、触れて、感じてもらうことが、科学館としてのあるべき姿だと思うんです。なので、いつか新型コロナウイルスが収束したときには、いろいろな人が集える賑やかな場所でありたい。そのためにも、もっとでんきの科学館に訪れたくなるような新しい企画にも力を入れていきたいと思っています」
■DATA
でんきの科学館
住所:愛知県名古屋市中区栄2-2-5
時間:9:30~17:00 ※開館時間は変更になる可能性があります
休み:月曜(祝日・振替休日の場合は翌日)、第3金曜(8月は除く)、年末年始(12月29日~1月3日) ※悪天候などにより臨時休館の可能性があります
入館料:無料
URL:https://www.chuden.co.jp/e-museum/
※詳細はでんきの科学館HPでご確認下さい。
■でんきの科学館チャンネル
URL:https://www.youtube.com/channel/UCDU4CTPk380VmY6fD_ddxmQ
■電気事業連合会ホームページ「地域共生への取り組み」
URL:https://www.fepc.or.jp/sp/social/