【今月の密着人】 九州電力株式会社 ビジネスソリューション統括本部 地域共生本部 エネルギー広報グループ 川島優治(かわしまゆうじ)さん(29歳)
人々の身近にあり過ぎて、逆に強く意識されることが少ないエネルギー。そんなエネルギーに、少しでも関心を持ってもらえればという思いで仕事に励んでいるのが、電力会社の広報パーソンだ。九州電力に勤める川島優治さんは、興味を抱いてもらえる方法を日々模索する中で、「正解がないことが、また面白い」と話す。いったいどんな使命感を持って仕事と向き合っているのだろうか。
山に登って気付かされた電気の大切さ
九州地方7県などに電気を供給する九州電力株式会社。福岡県福岡市の中心部、天神からほど近くに構える本店に勤めているのが、今回お話をうかがったエネルギー広報グループの川島優治さんだ。
入社7年目。最初は五島列島の営業所で営業職を2年、次に長崎支社の用地部で施設用の土地や権利の取得に関わる業務に2年従事。そして現在、広報の仕事に携わって3年目を迎えている。
「会社の顔」である広報担当らしく、話しやすい雰囲気の川島さん。どんな質問にもハキハキと答える様子は、さわやかな印象だ
好物だという豚骨ラーメンの発祥の地としても有名な福岡県久留米市出身で、大学も福岡にある大学に進学した根っからの九州男児。学生時代は登山部に所属し、屋久島にある九州最高峰の宮之浦岳ほか、多くの山に登頂したそうだ。
川島さん「現在はエネルギーに関する情報発信が私の仕事ですが、入社前からエネルギーに関心があったかというと…実はそうでもなくて(苦笑)。おぼろげにですが、将来はインフラ関係の仕事に就きたいと思うくらいでした」
そんな川島さんが九州電力で働くことを志したのは、趣味の登山が深く関係している。
川島さん「何日も山で生活していると分かるんです。普段私たちの生活が、電気というエネルギーにどれだけ支えられ、便利で豊かになっているということが。山登りを通して、それを実感できたのはとても大きかったですね。さまざまな企業の入社試験を受けましたが、幼少期から大学までずっと九州で育ったので、地元に恩返ししたいという思いもあり、最終的に九州電力に入社しました」
山に登っていたことで気付かされたエネルギーの大切さ。学生時代には富士山にも登頂したそう
広報は正解がない!だからこそ生まれるやりがい
九州電力の広報の仕事は多岐にわたる。テレビ取材や新聞広告をはじめ、自社で発行する生活情報誌や九州各県にある発電所のパンフレットといった出版物、ときには講演会のシナリオ制作まで手掛けるという。
川島さん「簡単に言うと、『エネルギーのことを多くの人に知ってもらう』ことです。そのために、さまざまなメディアを活用しますが、中でも2018年度から力を入れ始めたのがインターネットによる情報発信。例えば、当社のホームページでも、再生可能エネルギー(以下、再エネ)に関する情報をコンテンツとして発信しました。今後は、SNSやウェブ動画などを使って、特に若い方々にも興味を持ってもらえるような方法を考えています」
福岡市中央区にある本店に勤務。自身が登山を通して実感したエネルギーの大切さを多くの人に感じてほしいと話す
インターネットを通して、幅広い年齢層に情報を発信していきたいと笑顔を見せる川島さん。その一方で、扱うテーマが、興味を持たれづらいものだということへの問題意識もあるようだ。
川島さん「私自身、大学生になるまでエネルギーに対して強い関心はありませんでした。だからこそ、若い世代の方々に興味を持ってもらうのはとても難しいことだと感じています。ただ、電力の安定供給を支える取り組みを少しでも知ってもらえれば、電気に対する考え方が変わったり、暮らしの豊かさを実感できたりすると思うんです。そのきっかけを作るのが私たちの使命。もちろん方法に正解などありません。これが広報の仕事の難しさであり、面白さでもあります」
1つのプロジェクトを完了させるまでにかかる期間は、およそ2~3カ月ほど。広報に配属されたことで“段取り力”が成長したと感じているそう
九州という地域を取り巻く環境も、エネルギーのことを伝える仕事にとっては重要だ。日照時間が長いため、九州では太陽光発電が広く普及している。加えて、国内の発電所のうち約4割が集まっているというほど地熱発電も盛んで、言うなれば「再エネ先進地域」なのだそう。
川島さん「実は九州の電力の約2割は、太陽光や風力、水力などの再エネで発電されています。これは全国的に見ても多い方。電力は需要と供給のバランスを保つことが大切なのですが、再エネは発電するときに二酸化炭素を出さない一方で、太陽や風など自然のエネルギーを使うので、発電量はお天気次第という面もあります。そのため、火力、原子力など、複数の発電方法をバランス良く組み合わせる必要があるのですが、2018年度は、それを多くの人に伝えるために尽力しました。さまざまな発電方法の特徴を踏まえ、分かりやすく伝えるのは難しいのですが、とてもやりがいはありましたね」
日本最大の地熱発電所である「八丁原(はっちょうばる)発電所」。年間の発電電力量は約8億7000万キロワット時で、およそ20万キロリットルの石油が節約できる
川島さんは、広報に異動してから最初の1年間は社内報や「八丁原発電所展示館」といった展示館の運営を担当していた
ときにはテレビ番組の収録に同行することも。ロケハン、各発電所の担当者との調整も川島さんの大切な仕事だ
分かりやすく伝えて、きっかけにしたい
川島さんの所属部署は、九州電力が発行する生活情報誌「みらいと」のコンテンツ制作も担っている。料理レシピやハンドクラフトなど、暮らしに役立つ情報を紹介する誌面の中で、新たにエネルギー関連コンテンツがスタートする。これを川島さんが担当することになった。
川島さん「まずは、エネルギーに興味を持っていただくことが第一歩。そういった理由から、現在制作中のコンテンツは、親子で楽しみながら電気やエネルギーについて興味を持っていただけるようなテーマにしたいと考えています。親子で読んで、『なるほど!』と発見があるようなページにできたら理想ですが、その点はこれから制作会社の方々と内容を検討していくところです。『エネルギーに興味を持っていただくきっかけ作り』というものが根底にあるので、その点を大事にしています」
広報部門で制作している九州各地の発電所用パンフレットや生活情報誌「みらいと」
制作会社から提案されたコンテンツ案をチェックする川島さん。読者となる親子の目線に立って、分かりやすさを追求しているという
興味を引くためには、意図がすぐに伝わることが重要となる。川島さんはユニバーサル コミュニケーション デザイン協会(UCDA)が認定する資格を取得するなど、誰にでも伝わる分かりやすさを強く意識しているそう。
川島さん「UCDAの資格は本店広報担当者のおよそ半分が取得していて、ここで学んだスキルをしっかり活用し、分かりやすい情報発信に取り組んでいます。広報職に就いてからは、新聞をしっかり読み込んで世の中の動向を把握するようになりましたし、テレビのCMもできる限りその意図を汲み取るようなクセがつきましたね。今後は仕事で使えるよう、デザイン関係のソフトの使い方なども勉強していきたいと考えています」
再エネ導入拡大の取り組みを伝えるために川島さんが2018年度に手掛けた新聞広告
広く“エネルギーの今”を理解してもらうには、きっと多くの課題が立ちはだかることだろう。その実現に向けて、努力し続ける川島さん。日々アンテナを張りながら、時代のニーズに合わせて柔軟に取り組む姿勢に、今後の活躍に期待が膨らむばかりだ。
生まれ育った九州に恩返しがしたいと日々の業務に励む川島さん。時折見せる真剣な眼差しがその想いを物語っている