2024年3月16日、日本大学文理学部次世代社会研究センター「RINGS」と日本大学櫻丘高等学校の共同企画「探究学習成果発表会」が開催されました。発表会は、高校生、大学生、社会人が1つのグループとなってテーマごとに探究を進めるRINGSの「高大連携事業」が企画したもので、電気事業連合会もプロボノ(職務上の専門知識・技術を生かして行うボランティア)として参加しています。そこで今回は、探究学習成果発表会に潜入取材!発表会のレポートとRINGSの「高大連携事業」について詳しくお届けします。
RINGSの「高大連携事業」とは?
RINGSは、2020 年12 月に日本大学文理学部に設立された研究センターです。日本大学の学生や教員に限らず、他大学、自治体、企業、団体等、多種多様な立場の人々が参画し、コミュニティーベースで社会課題解決に向けた基盤の整備を目指しています。
RINGSは「名目だけの産官学連携」からの脱却を目指し、社会課題を解決していくためのコミュニティーベースの研究センター
そのRINGSで2021 年11月から実施しているのが、「高大連携事業」です。「高校生に素敵な学びを届け、かけがえのない思い出を作ってもらう」、「様々な人と出会い、自分の可能性を広げ深める」という理念のもと、高校生、大学生、プロボノとして参加する社会人、を交えたグループをつくり、探究学習を行っています。
今年度は2023年11月から、3グループが各グループのテーマに沿って探究を進めました。その学習の締めくくりの場となるのが、日本大学文理学部センターホールで開催された「探究学習成果発表会」です。
探究学習発表のテーマは「高校生が伝えるカーボンニュートラル」
「高校生が伝えるカーボンニュートラル」をテーマに、壇上で探究の成果を発表する高校生たち
「高校生が伝えるカーボンニュートラル」をテーマとするグループには、電気事業連合会がプロボノとして参加しており、高校生6名、大学生メンターの佐藤大悟さん、古賀日南乃さん、プロボノの電気事業連合会の佐竹智也さんというメンバー構成です。高校生たちは、大学生メンターから研究の進め方についてアドバイスをもらいながら、佐竹さんから適宜レクチャーを受け、カーボンニュートラルについての見識を深めていったそうです。
檀上では、学校で実施したカーボンニュートラルについてのアンケート結果や、日本における部門別のCO2排出量のグラフ、企業による様々なカーボンニュートラルへの取り組みをスライドで表示しながら、カーボンニュートラルに関する調査結果を発表。今回のプレゼンテーションのテーマである「カーボンニュートラル」を目指す重要性を訴えました。
そして、自分たちが今すぐに実践できる行動として、高校生の1日のスケジュールに沿って、「朝起きたらカーテンを開けて、電気ではなく自然光を使うことで節電する」「昼食は使い捨て容器ではなく、洗って使えるお弁当を使うことでゴミの排出を抑える」など、二酸化炭素の排出削減につながる行動の具体例を提案しました。
投影するスライドも高校生たちが手掛けたもの。アンケートやグラフを効果的に用いて、カーボンニュートラルを目指す重要性を説明した
地球温暖化の現状、そしてなぜカーボンニュートラルを目指すべきなのかが再確認できた今回の発表。他グループの高校生たちも熱心に聞き入り、カーボンニュートラルについて考えるきっかけとなったようです。
発表を終えた高校生たちの感想を聞いてみた!
発表会終了後、参加した高校生の皆さんに感想を伺うと、「他人ごとのように感じていたカーボンニュートラルが身近なことに感じられました」「普段接する機会のない社会人や大学生の方と一緒に取り組めて楽しかったです」と、充実感と達成感にあふれた表情で話してくれました。
初めはカーボンニュートラルというテーマに難しさを感じていた高校生たちでしたが、探究を進めるうちに楽しさややりがいを感じていったそう
メンターとして関わった大学生の佐藤さんにも話を伺うと、「発表に使うスライドの構成やデザインは、高校生たちにほぼ任せていたのですが、僕たちも使ったことがないアプリを駆使して、見事なスライドをつくり上げていました。彼らのポテンシャルの高さを感じました!」と驚きの様子。同じくメンターの古賀さんは、「高校生のみんながどうしたらやりやすいかを1番に考えて進めていきました。研究の進捗とともにみんなの仲が深まっていったことが、今日のすばらしい発表につながったのだと思います」と高校生のメンバーたちをねぎらっていました。
発表会の最後には高校生全員に修了証を授与。右から、プロボノとして参加した電気事業連合会の佐竹智也さん、大学生メンターの佐藤大悟さん、古賀日南乃さん、発表を行った高校生メンバーたち
RINGS「高大連携事業」のキーマンにインタビュー
普段の生活では接点を持つことの少ない高校生、大学生、社会人が関わり、探究を深めるRINGSの「高大連携事業」。さまざまな世代・立場の人がともに社会課題を考えるきっかけとなる、画期的な本プロジェクトについて、日本大学文理学部 情報科学科准教授/RINGSセンター長の大澤正彦先生と日本大学文学研究科教育学専攻博士前期課程2年/RINGS生・高大連携事業プロジェクトリーダーの谷本晃輝さんにお話を伺いました。
日本大学文理学部 情報科学科准教授/RINGSセンター長の大澤正彦先生(右)、日本大学文学研究科教育学専攻博士前期課程2年/RINGS生・高大連携事業プロジェクトリーダーの谷本晃輝さん(左)
――初めに、日本大学文理学部次世代社会研究センター「RINGS」を立ち上げたきっかけについて教えてください。
大澤先生:学校は、先生に言われた通りのことを上手にできる生徒が評価される傾向にあります。そうした現状は、学生を偏差値という指標で括って、一人ひとりの良さを理解することをおざなりにしている気がしたんです。産官学の壁を超えてさまざまな立場の人が連携するRINGSのような組織ができれば、学生が研究したいことや実現したいことをフォローアップし、新たな価値を創出できると考えました。
ちなみに、僕の夢はドラえもんをつくることですが、一人ひとりの良さを理解しようとしない世界では荒唐無稽に思われるでしょう。僕の場合はたまたま仲間に恵まれ、夢を認めてもらい、研究として夢を追いかけることができていますが、学生のみんなも言われたことをするだけではなく、自分がやりたいことを追いかけて生きていけるようになってほしいんです。誰かが決めた価値軸に従うのではなく、自分の価値軸を見つけ、それを応援してもらえるようなプラットフォームになればと、2020年12月にRINGSを立ち上げました。
――現在、RINGSには何名のメンバーが参加されていますか?
大澤先生:今は学生が約60名、外部のメンバーも含めると300名くらいです。RINGS立ち上げの際、大学側とかけあって内規を変更し、外部の人も参加できるようにしました。最初の時点で間口を広げたことが功を奏し、学生のみならず、自治体の方や研究者・技術者、企業に勤める方など、いろいろな方が入ってくれるようになったんです。結果として産官学の広い連携が実現し、オープンイノベーションが促進されています。学生でいえば、卒業後もRINGSのメンバーとして関わり続けてくれる人たちも多く、その輪は年々広がっています。
「僕はRINGSを立ち上げるために日大に来たようなもの」と話す大澤先生
1人の大学生の発案から始まった「高大連携事業」
――高大連携事業はどのようにスタートしたのでしょう。
谷本さん:高大連携は自分の提案から始まりました。自分自身、高校生のときに大人と一緒になってイベントを開催した経験があって、それによって視野が広がったことを実感したんです。その経験から、高校生が学校の外にも目を向ける機会を提供したいと考えていました。RINGSに加わってすぐの頃、大澤先生に自分の想いを話すと「じゃあ高大連携プロジェクトをやろう!」とその場で決定し、プロジェクトがスタートしました。
大澤先生:谷本くんと出会ったとき、彼の第一声は、「僕の夢は日本一の高校教師になることです」でした。1つのテーマを掘り下げる探究教育に情熱を注いでいることや、高校生のときの体験を熱く語ってもらう中で、彼の想いが叶う場所ができたらRINGSをつくった価値があると思いましたね。高大連携事業は谷本くんにリーダーを務めてもらい、今年で3年目に突入しています。僕自身も、谷本くんに探究について教わりながら学びを深めている所です。
――お話を伺っていると、先生と生徒の立場が逆転しているようですね。
大澤先生:冗談ではなく、僕の探究の師匠は谷本くんですから。当初、RINGSの構想に探究教育が入ってくることは全く想像していませんでした。彼から「探究」という言葉を教わって、これこそが自分が求めていたものだと気づくことができたんです。
RINGSは上も下もない、無重力型の組織です。誰が上、誰が下と固定する必要はなく、1つの目的に向かって進むときに、リーダーシップを取るのは誰か、リーダーを支えるのは誰か、ということが自然と決まっていけば良い。高大連携を例に挙げれば、僕よりも探究教育に熱量のある谷本くんがリーダーシップを取った方が取り組みは充実するはずですし、実際にそうなっています。立場や上下関係にとらわれていたら、良いものはできない。RINGSのメンバーとそんな関係性を築けていることが、僕はうれしいですね。
――高大連携事業に関わる高校生たちには、どういったことを期待していますか?
谷本さん:自分が理想とする探究活動は、たくさんの人やモノと関わり、夢や人生をつくっていくこと。学校という括りがあると、生徒にとっての身近な大人は先生くらいで、どうしてもコミュニティが内々になってしまいます。もちろん先生から学ぶこともたくさんありますが、「もっと外を見てみよう」と伝えたいんです。外に目を向ければ刺激をくれる人がいるし、人生を変えるきっかけを持っている人だっているかもしれません。そういった人たちに出会うきっかけを、高校生たちに届けるような活動でありたいです。もちろん高校生だけでなく、大学生も社会人の方も、高大連携を通していろんな人がたくさんの学びや思い出をつくっていけると良いですね。
「自分がたくさんの人と関わることのすばらしさを知ったからこそ、高校生たちに高大連携事業で探究に取り組んでほしい」と、谷本さんは熱い想いを語っていた
――「探究学習成果発表会」の講評では、高校生たちの発表内容のレベルが年々上がっているという話もありました。
谷本さん:僕自身も講評を聞いてうれしくなりました。高大連携に毎年参加している大学生もいますし、電気事業連合会さんをはじめ3年間ずっと関わってくださっているプロボノの方々もいらっしゃるので、経験から年々ブラッシュアップされているのだと思います。
大澤先生:先輩たちの経験が伝播することで、発表内容に厚みも出ていますよね。僕たちは「ノウハウ(know-how)」を貯めているのではなく、「ノウフー(know-who)」を行う組織なんです。困ったときには、ネットワーク上で誰に聞けば良いのか分かる。それがチームとしてのRINGSの強みにもつながっています。
――高大連携事業の今後の展望を教えてください。
谷本さん:「探究活動といったら高大連携だよね」と、学内外で言われるようなプロジェクトに成長させたいです。日大は付属高校が複数あることも特徴なので、そのスケールメリットを生かした探究活動を展開していきたいです。自分も付属高校出身なのですが、付属高校がこんなにたくさんあるのに、交流は部活くらいしかなかったんですよ。学校によって特色も異なるので、ミックスさせていけば何か面白いことが起きるかもしれない。高大の縦のつながりだけでなく、高校同士の横のつながりも広げて、いずれ大きなチームをつくりたいですね。
――大澤先生は今後RINGSをどのように展開していきたいですか?
大澤先生:僕が目指したいことをみんなで目指すことになると、結局、僕が引っ張っていく従来型の組織体制になってしまいます。僕の役目は、学生のみんなが思いっきり活動できる枠組みを広げること、そして崩れないように固めること。活動のキャパシティをいかに広げられるかが、僕の個人ワークだと思っています。まずは日大文理学部から、日大全体に広げるための足掛かりを探っています。ある程度満足するところまでRINGSが成長したら、僕は身を引いてドラえもんをつくることに集中します(笑)。
探究学習成果発表会では、発表する高校生たちがいきいきとした表情をしており、「高大連携事業」に懸ける谷本さんの想いがしっかり形になっている様子が伺えました。日本大学文理学部を起点に、自由な発想で活動の輪を広げるRINGSの活動にこれからも目が離せません。
記事中に出てくる「学校で実施したカーボンニュートラルについてのアンケート」。その調査結果によると、カーボンニュートラルという言葉を知っている人は多いものの、説明できるのは、高校生の1割程度で、教職員でも4割程度。メディアなどでは日ごろから、当たり前のようにカーボンニュートラルという言葉が使われていますが、思ったよりも世の中には伝わっていないことがわかり、ハッとさせられました。
企画・編集=Concent 編集委員会