テレビやネットの「電力のひっ迫」を知らせるニュースや、家の電気代の値上がりに直面して「節電したい」と思いつつも、実際には何から始めたらよいかわからないという人も多いのではないでしょうか。そんな方に向けて、家電製品アドバイザーの資格を持ち「家電女優」として活躍する奈津子さんに、いま家にある家電でできる節電術や、無理なく上手に節電・節約できるコツをうかがいました。
節電のポイントは、難しく考え過ぎないこと
――家庭で使う電気の量や電気代の現状について、奈津子さんはどう感じていますか?
コロナ禍で家庭の消費電力は増えていると言われています。テレワークや在宅時間が増えて家の電気代が目に見える形でアップしているのを、毎月の支払で実感している方も多いのではないでしょうか。2022年の現在では電気代の料金自体も値上がりしていますので、今まで省エネについて考えていなかった人も、節電を意識せざるを得ない状況になっています。私自身、家電女優として今回のように家電の使い方や節電テクニックをお話しする機会が増えていて、節電の情報が広く必要とされていると実感しています。
――家庭での節電を始めるときは、どんなことを意識すればよいでしょうか?
ポイントは、難しく考えすぎないこと。こまめに電気を消す、使っていないプラグを抜く、節電につながるアイテムを導入することなど、できることから始めれば、自然と結果が追いついてくると思いますよ。
エアコンは温度を調整するより「自動モード」に頼るのが正解
――家庭で多く電力を使う家電のひとつがエアコンですが、奈津子さんが実践されているエアコン節電術を教えてください。
消費電力が少なそうだからと微風モードを選ぶ方もいますが、微風モードは設定温度に到達するまでに時間がかかるため、消費電力が上がります。最近のエアコンはセンサー技術が向上していますし、冷房の設定温度を下げるよりも風量を上げるほうが電力使用が少ない傾向があるので、「自動」や「おまかせ」モードがベストです。また、上がった室温を急激に下げると電力を使うので、エアコンをこまめに切ったりつけたりするのは逆効果です。
もちろん冷房の設定温度を上げても節電になります。1度上げて風量を上げることで、年間約1,200円以上の節約ができると言われています。「遮熱にすぐれた厚手のカーテンを床から隙間なくつける」「室外機のまわりにものを置かない」「室外機に日除けカバーをつける」ことも節電に。フィルターのお手入れなどのお掃除も大切です。私はワンシーズンごとにプロにお掃除してもらい、自分でも月に1回掃除しています。理想は2週間に1回と言われていますが、無理なくできる範囲でトライしてみてください。
――気温の上下をできるだけ抑えることが節電につながるんですね。扇風機の節電術はありますか?
エアコンと上手に併用すると節電ができます。エアコンの設定温度を1度上げると電気代は約10%下がると言われていますので、扇風機を使いながらエアコンの設定温度を2度上げれば、月間約519円の節約ができます。また、昔の扇風機はAC(交流)モーターが主流で消費電力は平均35W程度でしたが、ここ数年で切り替わったDC(直流)モーターの消費電力は1.5~20Wと、とても省エネです。DCモーター型の扇風機なら1時間使っても電気代は約0.54円、1ヵ月使ってもわずか約86円です。かなり電気代が変わりますので、扇風機を買うときは型落ちの安いものではなく、DCモーター型を選ぶとよいでしょう。ちなみに、最近の人気モデルや有名メーカーの製品はほぼすべてDCモーター型になっています。
家で150台以上の家電を実際に使用している奈津子さん
キッチンでは家電を上手に使って節電・節水を!
――キッチンでできる節電についてもうかがいたいのですが、冷蔵庫の使い方のポイントは?
冷蔵庫は、放熱しにくくなることを防ぐため、上や周囲に物を置かない、直射日光のあたるところに置かないことが大切です。開閉回数をなるべく減らすのもポイント。食材の置き場所を決めておけば開ける時間を短縮できます。また、冷却運転を減らすため、調理後の料理は粗熱をとってから入れましょう。冷気の流れが悪くならないように、容量は7~8割までを意識する。冷凍庫は、凍ったものがお互いに冷やし合うので、ある程度ギュウギュウに入れてOK。ドアの開閉頻度や外出時間などをAIで予測して省エネ運転をする冷蔵庫もあるので、買い替えの際に検討してみてもよさそうです。
――炊飯器や食洗器を使う上で工夫できることはありますか?
炊飯器の保温機能を活用している方も多いと思いますが、炊飯器でご飯を保温する時間の目安は4時間。それを過ぎると、ご飯を電子レンジで温め直すほうが節電になります。7~8時間以上保温すると、もう一度炊く以上に電気代がかかりますので注意しましょう。1日に7時間保温してプラグをコンセントに差したままの場合と、保温せずにプラグを抜いた場合を比べると、年間で約1,240円の違いがあります。
最近は省エネよりもおいしさを追求するメーカーが増えており、強火力で一気にお米を炊き上げるので、どうしても電力を大量に消費してしまいます。一度の炊飯で多めに炊いて冷凍するのは一見節電になりそうですが、食べる直前に電子レンジで温める電気代がかかります。夕食をとる時間が異なる家族がいる場合は、炊飯から4時間以内であれば炊飯器の保温機能を使ったほうがいいでしょう。家族全員が同じ時間にごはんを食べるなら、1食ごとに食べきるぶんだけ炊くのもオススメ。炊飯器に関しては、メーカーや家族の人数などによって事情が変わるので、「保温の目安は4時間」ということだけ頭において、家族が食べる量によって炊く量を調整したらよいと私は思います。
食洗機はぜいたくな家電と思われがちですが、人間の手では耐えられない60℃以上の湯でしっかり洗浄してくれますし、手洗いするより節水になります。あるメーカーの食洗器は、手洗いと比べて、1回あたり2Lペットボトル約22本分、節水できます。いろいろなものが値上がりして家計を圧迫する中で、この節約は大きいですよね。また、食洗器の節電でぜひ意識してほしいのは、乾燥時間です。乾燥時間が長いほど電気代がかかるので、乾燥時間を短く設定するか、乾燥機能を使わないというのもひとつの手。洗浄が終わったらフタを開けて、自然乾燥させるとよいでしょう。
食洗機は、乾燥の工夫でより節電に
最新モデルのテレビはプラグを抜かないほうが経済的
――リビングで使うテレビや、照明の使い方・選び方のポイントはありますか?
テレビのプラグはこまめに抜くのがよいと思われていますが一概にそれがよいとは言えません。最近のテレビは省エネ化が進んでいて待機電力もごくわずか。待機中に放送波から番組表をダウンロードしたり予約録画したりしているため、主電源を入れ直すたびその通信に電力を使います。家電仲間の間では、長期間の留守でなければ、主電源はつけっぱなしにしておくのが経済的という意見が優勢ですね。
テレビの買い替えを検討しているのなら、節電効果的には、有機ELテレビよりも液晶テレビがオススメ。有機ELテレビはプラズマテレビと同じ自発光方式なので、画質はキレイですが消費電力が高く、液晶テレビは、LEDを使ったバックライト方式なので、消費電力は控えめです。
電球や蛍光灯を買い替えるときは、LED電球を選びましょう。1日5.5時間点灯した場合、白熱電球(60W相当)に比べて年間、約2,410円の節約になります。リモコン付きの照明器具はこまめにオンオフでき調光可能な機種が多くオススメ。最近では専用アプリで操作できる機種もあります。コロナ禍で不眠に悩む人も増えていますが、調光機能を使って寝る数時間前に部屋の明かりを少し暗くしておくだけでも、自律神経が切り替わり、睡眠に良い影響があります。
奈津子さんの家でも、LED電球が活躍中
洗濯は服を入れすぎないことが節電・エコに
――お洗濯やお風呂でできる、節電術はありますか?
洗濯機は、回数を減らすことよりも、洗う洗濯物の量を洗濯槽の7~8割にとどめることを意識しましょう。洗濯槽の上まで洗濯物を入れて洗うと、服どうしが擦れて傷む上に、洗剤も繊維に染み込まずに汚れが落ちません。結局、洗い直すことになり電気代も水道代もかかります。エアコンと同様に、洗濯槽やフィルターの掃除をこまめに行うのも、節電に効果的です。
お風呂の残り湯の活用も、節水できる上に、温かいお湯で洗浄力がアップするのでオススメです。今は残り湯洗い用のホース付きポンプも便利に進化しているので、以前より手間なく取り入れられます。また、マシン代の初期コストはかかってしまいますが、液体式の洗剤・柔軟剤をタンクに投入しておくだけで最適な洗剤を入れてくれる、自動投入機能が最近のトレンドです。手間が省けるだけでなく、惰性で投入していたぶんの洗剤を削減できてエコ。個人的に、近未来感があって好きな機能です(笑)。
シャワーヘッドの付け替えも、節水につながります。シャワーから流れる水の量は1分間で約10~12リットル。15分間流し続けたら浴槽1杯分になると言われています。今は60%以上節水できるモデルもあるので、手軽な節水方法として取り入れてほしいですね。シャワーヘッドを選ぶときには、自宅のシャワーと接続可能か必ずチェックしましょう。私も1回、失敗しました(笑)。
節水モデルのシャワーヘッドに取り替える際は、取り付け金具について確認を
家電の買い替えも節電術。「まだ使えるから」は電気代が上がる原因にも
――では節電から一歩進んで、家電を買い替えるときのポイントは?
今持っている家電と、買い替えを検討している家電の製品情報を打ち込むだけで年間の電気代を比較・表示してくれる環境省のサイト「しんきゅうさん」を活用するのがオススメです。無料で使えますし、パンフレットのスペックを比べてにらめっこしなくていいので、とても楽です。
今、家電の省エネ性能が格段に上がっています。10年前と比較すると、冷蔵庫は約40~50%、電球とLEDを比べると約80%、テレビも、約30~40%の節電ができます。エアコンや温水洗浄便座も同様で、古いモデルより、新しいモデルのほうが省エネ性に優れています。「使えるものをまだ使う」という考えはサスティナブルで大事ですが、実は古い家電が多く電気を消費していたり、環境面を考えても良くなかったりするので、家電を思い切って買い替えるのもひとつの手だと思いますね。
――今、奈津子さんは1歳のお子さんを育てていらっしゃいますが、子育てをする中で、何か強く意識するようになったことはありますか?
ありますね。私は仕事はしていますが主婦なので、値上がりで赤ちゃんの食事のための食材選びが難しいなと感じますし、育児をするようになって節約をより意識するようになりました。家電でいうと、子どもが生まれて変わったのがエアコンの選び方ですね。夫婦ふたりで暮らしていたときは、エアコンはある程度の性能があればいいと思っていましたが、子どもが生まれてからは、寝室用に、センサーの性能がよく、換気もできる優秀なエアコンを買いました。赤ちゃんの睡眠は繊細なので、子どもの睡眠の質を上げるための投資と考えて導入を決めましたね。
――この電力不足や値上げの夏を乗り切りたい読者に向けて、メッセージをお願いいたします。
節電、節電とストイックになったり、大きすぎる目標を定めたりしてしまうと、何から手を出してよいかわからないし、楽しくできないと思います。冷蔵庫のまわりのものをどかすとか、遮熱性のカーテンをかけるとか、簡単にできるテクニックもあるので、ゲームのように無駄なものをカットしていく感覚で、ご自身が楽しめる範囲で節電を始めるのがよいと思います。私自身、家の中で無駄な電気を探しては消して歩くようになって、最近はそれが楽しくなってきました(笑)。楽しんだ結果、出費が抑えられればクオリティオブライフも上げられますので、シビアになりすぎず、ぜひ実践してほしいです。続けているうちに、自身が快適に取り入れられるラインも見えてくると思いますね。
奈津子
女優・家電製品アドバイザー・スマートマスター。
ドラマ「野ブタを。プロデュース」で女優デビュー以降、連ドラにメインキャストで多く出演。小劇場から大劇場まで舞台も多数。秋元康氏プロデュースSDN48メンバーとしてアイドル・歌手活動も経験。在籍時、秋葉原に劇場があったことから電気街や量販店で家電にハマり、グループ卒業後、家電好きが高じてエンジニアや量販店の販売員などが所有する“家電アドバイザー”GOLD等級を独学で勉強して取得。
私生活では150台以上の家電に囲まれて暮らし、1歳の息子の育児中。連載は「たまひよONLINE」「共働きwith」等。
【Instagram】https://www.instagram.com/natsuko_kaden/
【Twitter】https://twitter.com/natsuko_twins
YouTubeチャンネル「奈津子の家電クリニック」https://www.youtube.com/channel/UCupjyzS5FlQypheKl95amUw
▼参考
https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20201007_01
https://www.jprime.jp/articles/-/24040?display=b
https://st.benesse.ne.jp/ikuji/content/?id=135419
https://seihinjyoho.go.jp/frontguide/pdf/catalog/2021/catalog2021.pdf