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エネルギーも投資と同じ!? 今知っておくべき日本のエネルギー事情(後編)

2018.08.10

※前編の記事はこちら

今、日本のエネルギー事情がどうなっているのか、最前線で活躍する先生が分かりやすくレクチャーする「エネスタ!」(Energy Study!)。後編も引き続き、日本エネルギー経済研究所の小川順子先生に、エネルギー問題について教えてもらいました。「エネルギーは投資に近い」という小川先生。理系女子大生の大野南香さん、読者モデルの高橋晴香さん、働く女子の多田恵さんの女子代表3人が疑問をぶつけます!

先生「前回は、日本のエネルギー自給率の問題から原子力発電所の必要性などについてお話ししました」

多田「それで、原子力も必要だってお話しでしたが、再生可能エネルギー(以下、再エネ)でエネルギー自給率の問題をある程度解決できるなら、全て再エネにすればいいと思うのですが……」

先生「やっぱりそう思いますよね。確かに再エネは、自然の力なので燃料費はかからないし、100%国産のエネルギーで、地球温暖化対策としても申し分ありません」

高橋「じゃあ、再エネをどんどん増やしていけば、原子力の再稼働はしなくて済む?」

先生「そう簡単にはいかないのです。例えば、原子力と、太陽光、風力といった各発電所の敷地面積に対する発電量を比べると……」

出典:経済産業省資源エネルギー庁「原発のコストを考える」

大野「原子力と太陽光で約100倍も違うのですか!?」

先生「原子力発電所の年間発電量を太陽光発電でまかなおうとすると、山手線の面積ほどのパネルが必要になります。風力発電にいたっては山手線の3.4倍。それを設置する敷地やコストなどを考えると非現実的ですよね。再エネと火力発電を比べても同様で、全てを再エネにすることは難しいのです」

大野「でも、エネルギー自給率などを考えると、再エネの比重はもっと増やしてもいい気がします」

先生「そういう考え方もありますね。では、これまでは日本全体の話でしたが、家庭の電気料金の話もしましょうか」

多田「それは、かなり気になります!」

先生「『再生可能エネルギー発電促進賦課金(以下、再エネ賦課金)』というものを知っていますか?」

高橋「聞いたことないです。それと電気料金に何の関係が?」

先生「再エネ賦課金は、再エネの導入拡大を図ることを目的に国が定めた、『FIT(固定価格買取制度)』という制度に基づいて設定されている費用のことです。『FIT』によって、電力会社は再エネで発電された電気を固定価格で一定期間、買い取ることが義務付けられていて、その費用を賦課金として、企業や家庭といった電気の使用者が、使用量に応じて負担しているのです」

大野「えっ! 知らなかった。ちなみに、どれくらいの負担なのですか?」

先生「2018年度の賦課金単価は2.90円/kWh(キロワットアワー:1時間当たりの消費電力量)なので、2012年度に比べると約13倍に増加しています。一般的な家庭での支払額は、月間電力使用量を260kWhとして計算すると、年間では約9,000円。電気料金のおよそ1割を占めているのですよ」

多田「えっ、そんなに!? 消費税だと敏感になるけれど……そんなに負担しているなんて気が付かなかった」

先生「ちなみに、電気料金の検針票を見ると、再エネ賦課金の負担額が分かりますよ」

多田「これまでは使った量と、電気料金の総額くらいしか見ていませんでしたが、来月は絶対に見ます」

先生「また、他にも電気料金を上昇させる理由はあります。最初に話したエネルギー資源の問題。ほとんど輸入に頼っていると言いましたが、それに伴って出ていくものは?」

大野「お金ですね」

先生「そう。2011年以降、原子力発電所が停止したことで、発電量の不足分を石炭や液化天然ガスなどを燃料とする火力発電で補ってきました。そのため、燃料費が増加して、2011~2016年度の燃料費増加額(実績値)を合計すると約15.5兆円になっています」

◆原子力発電所の停止による燃料費の増加額

高橋「15.5兆円!!!」

大野「本当だ、毎年1兆円以上も……」

先生「安定的に発電でき、燃料コストは安い方の火力発電であっても、それだけに頼り切ってしまうと、こうした状況を招いてしまうのですね」

高橋「でも、原子力というと、何となく怖いイメージがあって……、やっぱり止めたままではダメなのですか?」

先生「それも大事な意見だと思います。ちなみに、株式投資の経験はありますか?」

高橋「株ですか?全然」

先生「株式の場合、1つの会社に集中して投資すると、大きなリターンを期待できる可能性もありますが、ヨミが外れたときのリスクも大きいですよね。だから、いろいろな会社に分散投資して、リスクを軽減することがセオリーです」

大野「確かに。リスクの分散は重要ですよね」

先生「分散投資という意味では、発電方法の組み合わせ(電源構成)も考え方は同じで、再エネだけでも、火力だけでも、原子力だけでも、1つに集中してしまうと、何かしらのリスクが発生した時の影響が大きくなる。株式投資以上に、エネルギーは安定供給の確保が非常に大事ですから、バランスを取ることが重要なのです。ちなみに、『S+3E』という言葉を聞いたことは?」

多田「いいえ、初めて聞きました」

先生「資源の少ない日本では、これまで話してきたように、安全性(Safety)、エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済性(Economic efficiency)、環境保全(Environment)という『S+3E』の観点から、エネルギーについて考えることが基本となっています。そして、全ての面で優れたエネルギー源は存在しないため、電源ごとの特性を踏まえ、現実的かつバランスのとれた組み合わせとする必要があるのです」

大野「電気を使わないというのは現実的にできないし……渋谷や六本木のきらびやかさや楽しさは、やっぱりなくしたくないです」

先生「そうですよね。一番守らなければならないのは私たちの豊かな生活です。もし日常で停電が頻発したら、不満続出ですよね。そうならないために、エネルギーの問題についても、今後どうするべきか議論されています」

高橋「正直、原子力発電所は廃止した方がいいと考えていました。でも、さまざまな面から考えると、単純になくせるものではないと思いました」

多田「エネルギーの問題って、断片的には聞いたことがあったけれど、全てがつながっていたのですね。日本の状況を少し理解できた気がします」

先生「そう言ってもらえると本当に嬉しいです。日本のエネルギーについて、誰もが普通に考えられる社会になって欲しいと願っています」

<<Profile>>

小川順子(おがわ・じゅんこ)

財団法人日本エネルギー経済研究所・地球環境ユニット地球温暖化政策グループ研究主幹。専門は地球温暖化政策分析や省エネルギー政策分析。1997年に入所以来、国際エネルギー経済学会やエネルギー資源学会、セミナーなどを通じてエネルギー問題の理解促進に尽力する。

大野南香(おおの・みなか)

1999年3月生まれ、愛知県出身。東京大学教養学部理科二類2年。東京大学2017年準ミスグランプリ。趣味は弾丸旅行や料理。今回は理系女子の視点からエネルギー問題に斬り込む。

高橋晴香(たかはし・はるか)

1989年1月生まれ、東京都出身。読者モデル、インスタグラマーとして活動。特技は卓球やジャズダンス。電気料金や節約術などエネルギーのあれこれを今どきの女子目線で問う。

多田恵(ただ・めぐみ)

1986年生まれ、千葉県出身。雑誌編集者。趣味は旅行や最新グルメ巡り。今回は働く女子代表として参加し、気になっていたエネルギー関連のニュースなどへの疑問をぶつける。