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【近藤教授が解説!】電気ってなに?~雷は電気が見えてるわけじゃない!~

2019.04.22

普段の生活で「言われてみれば…たしかに何で?」と感じる疑問を、その道のプロに解決してもらおう! 今回は、スマホにモバイルPC、生活家電と何かとお世話になっている「電気のエネルギー」の疑問を、早稲田大学の近藤圭一郎教授に聞きました。日常の疑問に、答えて先生!


雷の光は電気じゃない!?

もはや手放せないスマートフォンに、生活するのになくてはならない家電製品、通勤で毎日使っている電車--。「電気」と聞けば、きっと身の回りにあるさまざまな道具などがたくさん思い浮かぶでしょう。

でも、これらを動かしている「電気」がどんなものかと問われたら、説明するのはなかなか難しいですよね。何となくイメージできるのは、「雷」ではないでしょうか。ですが、実はあのギザギザに見える稲光は、厳密には「電気」ではないんです。

近藤「落ちてくる雷を見れば、あれが電気だと思うかもしれませんが、まず電気は肉眼で見えません。雷とは、雲(積乱雲)の中に電気の種のようなものである『電荷(でんか)』がたまることで発生する自然現象です。雲に電荷が大量に蓄えられると、雲と地上の間に通り道ができて、電荷がビューっと落ちてきます。そのとき、酸素や窒素など周りの空気が通常とは異なる状態になり、光を見せていると言われています」

雷の光は、電気が流れることで周囲の空気が反応して、光って見えているだけ。つまり、あの光自体は電気が通った足跡のようなものなんです。

近藤「もちろん電気は流れていますが、電気が持つエネルギーが空気の状態を変えて、それが光や音といった違うエネルギーに変換され、私たちでも見聞きできる雷になっています。つまり、あの稲光は、『電気』自体が見えているわけではないんですよ」

「電気」って、具体的にはどういうもの?

それなら「電気って何だ?」と、きっと思うことでしょう。

近藤「私の捉え方で言うと、『目に見えないエネルギーの流れ』です。流れているものなので、動き続けていないとダメ。だから、ためることはできないし、せき止められるものでもありません」

電気がどんなものかを分かるためには、もっと身近なところに目を向ける必要があります。家電製品を買うときや電気料金を支払うときに目にする、「電流(A,アンペア)」「電圧(V,ボルト)」「電力(W,ワット)」。小・中学生時代に習ったなぁ、と記憶にあると思いますが、どんなものか覚えていますか?

近藤「『電流』は電気の流れる速さ、『電圧』は電気を押し出す力のようなもの、『電力』はある時間内にどれだけの仕事ができるかを表したものです。また、実際に使った電気の量は、『電力量』(Wh,ワットアワー)と呼ばれていて、それは電力を時間で積み重ねたもの。100Wの電気を1時間使ったら100Wh、2時間なら200Wh、これが使った電気の量です。電力量は、電気がした仕事の総量と考えてみてください」

電気は“目に見えない”からなかなかイメージしにくいですが、水に例えると分かりやすくなるそうです。

近藤「電流は水が流れる速さ、電圧は水圧、電力は水がある時間でどれだけの仕事ができるか、と考えるといいですね。『電流(A)×電圧(V)=電力(W)』という式がありますが、電気を“電力”、つまり利用できるエネルギーにするためには、電流があるだけではダメ。電圧がかかっていないと、“いい仕事”をしないんです。電圧がかかっていないところに電流を流しても、簡単に流れてしまう。頑張って流すからこそ、使えるエネルギーになるんです」

エネルギーとは、簡単に言うと「ポテンシャル」

ここまでに「エネルギー」という言葉がたくさん出てきました。普通に生活していると、「エネルギー=電気」と捉えがちですが、実は電気だけに限定されるものではありません。

近藤「例えば、一番分かりやすいのが、熱。お風呂の水を40℃に温めたとき、水の中には『熱エネルギー』がたまっていると言えます。あるいは運動。1トンの自動車が時速10キロ、50キロ、100キロで走った場合は、それぞれ『運動エネルギー』が異なると表現されます」

つまり、電気、熱、運動と、エネルギーは物質や物体の中にさまざまな形で存在しているんです。では、「エネルギー」は「力」みたいなものなのでしょうか。

近藤「エネルギーとは、『仕事をすることができる能力』であり、簡単に言うと『ポテンシャル』です。潜在的に“何かをしてくれる”ものなのですが、それだけでは“何もしない”。職場で『あいつポテンシャル高いんだけどなぁ…』なんて愚痴を耳にすることもあると思います。たとえエネルギーをたくさん持っていたとしても、実際に仕事をしてくれなきゃダメですよね」

例えば、水力発電所の中には、川の水をダムにためて別の水路に流し、その水の流れによって回転する水車で発電するものがあります。ダムから水を流せば水車は回りますが、水路を閉じて水をせき止めたら水車は回りません。

近藤「どちらの状況でもダムの水には『水車を回す』という仕事をすることができる能力(エネルギー)はあります。ですが、水路を閉じたときは何もせず、水が流れているときは仕事をする。つまり、後者は備わっているポテンシャルを発揮しているということなんです」

エネルギー=潜在能力。どのような形であれ全て同じとも思えますが、その形によっていろいろな問題も出てくるようです。

近藤「それぞれ長所と短所があります。一番、質が低いとされているのが『熱エネルギー』です。ほおっておくと熱が散らばって、なくなってしまいます。また、ガソリンが燃焼することで熱に変わるように、物質の変化によって取り出せる『化学エネルギー』は、ためておくことができるために割と質が高いとされています。その反面、熱や電気など他のエネルギーに変換することが少し大変なのがデメリットです。

その中で『電気エネルギー』は、ためておくことができないものの、さまざまなエネルギーに双方向で変えやすいという大きなメリットがあります。トースターで熱エネルギーに、モーターで運動エネルギーに、照明で光エネルギーにと、比較的簡単に変換することができるんです」

私たちの生活の中で使われているエネルギー。私たちの周りに、電気がどうしてこれほどまでに浸透しているかといえば、圧倒的な「扱いやすさ」が理由なのではないでしょうか。さまざまなエネルギーと比較すると、電気の便利さによって、今の社会が築かれたと感じられます。

次回は【 電池 】のお話です。


取材協力・監修

近藤圭一郎

1968年、東京都出身。早稲田大学理工学術院教授。同大電動モビリティシステム研究室にて、電気鉄道や電気自動車を用いた電気エネルギーの有効利用技術を研究。編著書『鉄道車両技術入門』(オーム社)、監修書『ドラえもん化学ワールド 電気の不思議』(小学館)など。