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「風力発電で電気を生み出し、社会に貢献したい」東京電力HD・小島匠さん

2019.08.07

【今月の密着人】東京電力ホールディングス株式会社 リニューアブルパワー・カンパニー 計画・技術グループ 小島匠(こじまたくみ)さん(27歳)

太陽光や風力、地熱といった自然の力を利用する「再生可能エネルギー」は、電力を生み出す資源の一つとして少しずつ身近になってきている。今、世界中の電力会社が最も注力している事業の一つでもあり、そこに携わる部署にかかる期待も大きい。風力発電所の運転・保守に関わる東京電力ホールディングス(以下、東京電力HD)の小島匠さんは、目を輝かせて「この仕事に携われるのは光栄」と語る。どういった志を胸に、日本の未来を担う仕事と向き合っているのだろうか。


宇宙航空工学からエネルギー分野に転身

関東を中心に、暮らしに不可欠な電気やエネルギーの供給を担う東京電力。2016年4月には3つの事業部門が分社化されてホールディングカンパニー制へと移行。その中で、リニューアブルパワー・カンパニーという組織に所属している小島匠さんが今回の主役だ。

入社4年目となる彼が担うのは、社会的にも注目を集める「再生可能エネルギー」(以下、再エネ)事業。中でも、これから本格的な飛躍が期待される洋上風力発電所の運転にも携わっている。


柔和で親しみやすい小島さん。趣味はスノーボードや野球観戦とアクティブな顔も持つ

発電所の運転といっても、発電自体を管理する業務だけではなく、さらにその裏方。実務を担当する協力企業との契約や施設のトラブル対応、保守、修繕、建設に至るまで、風力発電所に関わるあらゆる業務が担当だ。

小島さん「現場から資材が足りないと言われれば発注したり、問題が発生すれば対応したり、部品の修理が必要になったらメーカーに依頼したり、業務の内容はかなり幅広いですね」

そんな小島さんが電力会社で働くことを決めたのは大学時代のこと。当時大学1年生の2011年3月11日に起きた東日本大震災がきっかけだった。

小島さん「あの日は山梨の実家にいたので、直接大きな影響があったわけではありません。ですが、1カ月後に大学がある仙台に戻ったとき、街の変化を目の当たりにしてショックを受けました。その後、当時住んでいた寮で、ガスと水道はなかなか復旧しなかったのに、いち早く電気は復旧したんです。そういう体験の中で、生活に不可欠な電気の凄さにあらためて気がつきました」

この時に感じたのは電気のありがたみ。航空宇宙工学を専攻していたものの、興味は燃料電池や太陽光発電といった新エネルギーの分野へと移っていった。

小島さん「エネルギー創出の研究を進める中で、『電気を生み出すことで、地域や社会に貢献できるような仕事に就きたい』と思い、今の会社を希望しました」

想像以上に大変!?海の上の風力発電所で働くということ

現在の部署に所属したのは2018年7月と、まだ1年前のこと。それ以前は栃木県北部にある鬼怒川(きぬがわ)事業所にいた。当時は水力発電所の点検作業などをする“現場の仕事”だったが、今は風力発電所の“管理監督の仕事”が中心。

小島さん「仕事の内容はガラリと変わりましたね。以前は実際に手を動かすことが多く、それはそれで大変でしたが、今は別のことで苦労しています。設計上どういうものが必要で、何を発注するのか仕様を決めたり、予算の調整をしたりといった作業が中心。こういった仕事を経験したことがなかったということもあって、一つずつ勉強しながら進めています」


東京電力HD初のウインドファームである「東伊豆風力発電所」。静岡県の東伊豆町と河津町の間に位置する三筋山(みすじやま)の尾根沿いにあり、2015年8月に営業運転を開始した

小島さんの仕事の核となる風力発電は、文字通り“風の力”を利用して風車を回し、発電機を駆動させる発電方法。エネルギー源は無尽蔵とも言える上、発電時に二酸化炭素などを排出しない、とてもクリーンな“電源”だ。

小島さん「私が担当しているのは、山の尾根上にある『東伊豆風力発電所』と海上にある『銚子沖洋上風力発電所』という2つの風力発電所です。発電の仕組みは陸上と海上で変わりませんが、環境の違いによって大きな差があります。それは安定性。山は地形の影響で風が乱れることが多く、風車が止まってしまうこともあるんです。一方、海上の風はほぼ一定しているので、安定して電力を生み出せるというメリットがあります」


東伊豆風力発電所の風車は、中心の高さが60m、風車の直径は74m。地表近くのドアから中に入ることができる

その反面、定期的に行われる点検では、その環境が仇となることも。

小島さん「点検では風力発電施設や付帯設備、周囲の環境に異常がないかなどを実際に見て回るのですが、“海上にある”というのが厄介で…。実際に行かなければならないので、天気や波の状況次第では船が出せなくなり、そもそもたどり着けないこともしばしば。それに、点検のために風車の上にも登るのですが、海の風というのはけっこう強くて…初めて登ったときは、安全帯はしっかり付けていましたが高さと風で想像以上に怖かったです」

風力発電所は、風を受け止める「ブレード」(羽根)と、発電機などを格納する「ナセル」、それを支える「タワー」という大きく3つのパーツからできている。

ナセルの上部には風速を検出してブレードの角度を自動調整する「風速計」や、風向きを読み取って常に風上にナセルを回転させる「風向計」などが備え付けられており、定期的なパトロールではそれらを目視で確認して回る。小島さんが登った“上”とは、60m程の高さにあるナセルの上部のことを指しているのだ。


高さ60m以上になるナセルの上部に登り、点検。東伊豆は2カ月に1度、銚子沖は3カ月に1度ほどの割合で定期的にパトロールしている

小島さん「風力発電所は、見た目からとても優雅なイメージがありますが、実際に運転に携わってみると、管理するのはなかなか大変なんです。修理のためにパーツの取り換えなども多いですし、細かいトラブルもあります。自然を相手にするのは簡単じゃありませんね」


木の枝などが電線に触れることは法律で禁止されているため、山の斜面に張り巡らされた電線の状況を確認するのも重要なポイント

実務を通じて得た知識を次のステップに

小島さんが携わる銚子沖の風力発電設備は、実は2019年1月1日に商用運転を開始したばかりの発電所だ。東京電力HDとして初めてとなる洋上風力発電所で、同社は同時期に世界の洋上風力発電業界を牽引する、デンマークのアーステッド社と提携するなど、国内外の洋上風力事業を発展させるためにスタートを切っている。つまり、銚子沖が日本の再エネ発展を担う重要な拠点の一つになるかもしれないということだ。

小島さん「こういった仕事に関われているのは、とても光栄なことだと感じています。この先も再エネ、特に風力発電の開発に携わっていきたいので、海上と陸上という2つの風力発電所で学ぶことはとても多いですね」


沖合約3キロ地点にある「銚子沖洋上風力発電所」。最大出力(発電容量)は2400キロワット(kW)。海面からブレード先端までの長さは126mにもなる

東京電力HDの洋上風力発電所は今のところ銚子沖の1基のみだが、複数基からなる大規模な“ウインドファーム”を実現させるための検証も進められているそう。さらに今後は、洋上風力発電事業を海外でも展開させ、世界で“稼げる”新しいビジネスモデルを生み出していくという。

小島さん「安定して電気を生み出すことはもちろんですが、それ以上に私たちは今、福島への責任を果たすため、どのように発電して、どう利益を生み出すかということを重要視しています。風力をはじめとした再エネは、日本の貴重な純国産エネルギーですし、発電時に二酸化炭素を出さないという付加価値もあります。それを、これからの日本のエネルギー供給源として成り立つように育てていくことに尽力したいと思います」


銚子沖洋上風力発電所へのアクセス方法は船のみ。荒天で海が荒れると、「関係者のスケジュールをすべて調整し直さなければならないのが大変」だとか

島国である日本にとって、周囲の海を活用した洋上風力発電のポテンシャルは高い。世界的な課題となっている温暖化への対策にもなると考えれば、小島さんが陰で支える洋上風力発電所のこれからや、東京電力HDが目指す将来像を、もっと知りたくなってくるのでは。

「今後は再エネの先進国である欧州諸国の方々とも関わっていきたいと考えているので、まず語学力を身に付けたいと思っています。今は本当に全然ですから、これから頑張ります」


「生まれ育った地元に電気を届けたい」と、今日も海と山にそびえる風力発電所の運転に尽力する小島さん。次の時代を支えるエネルギーの一端は、彼の働きから生まれている